生活保護 「障害者加算」遡って支給へ 「申請の壁」崩す重要な判決 名古屋高裁
25年1月24日、名古屋高裁は「申請主義」という役所の常識を覆す判決が下された(市は上告をせず判決が確定)
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〈支給されなかった障害者加算〉一つの判決が覆した生活保護に関する“役所の常識”、「申請なければ支給しない」がまかり通る世界を変える Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン) 5/15
障害手帳の取得のための医療費の請求していたが、そのあと福祉事務所が取得できたかどうかを調べず、「申請がない」として「加算」をつけなかったことを「調査義務違反」として市に約50万円の支払いを命じたもの。
これは極めて大きいのでは・・・・様々なケースが考えられる、と記事は指摘している
遠隔地の医療機関への通院していることわ知っているが、交通費の請求がないケース
中学生のいる受給世帯で、子どもがクラブ活動をしているか、を訪問時に訪ねていないケースなどなど・・・。
これらは、「調査義務」を怠ったことになり、未請求分を全額支払わせることにつながる。というもの。
「調査義務違反」の実態がないのか・・・地方議会の大きなテーマとなる。あわせて、丁寧な対応のためにもケースワーカーの増員も求めていきたい。
記事中の下線はメモ者
〈支給されなかった障害者加算〉一つの判決が覆した生活保護に関する“役所の常識”、「申請なければ支給しない」がまかり通る世界を変える Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン) 5/15
厚生労働省は、2025年度の生活保護制度の監査方針の第一に「権利侵害の防止」を掲げた。これは、不正受給対策一辺倒のこれまでの姿勢からの大きな転換である。前編「厚生労働省による生活保護監査の大転換、きっかけとなった2つの事件-福祉事務所による“人権侵害”」では、非人道的な行為を繰り返した桐生市事件を取り上げた。後編では、「申請主義の壁」という役所の常識を覆す判決について解説する。
申請がなければ対応しない「申請の壁」
25年1月24日、名古屋高等裁判所は「申請主義」という役所の常識を覆す判決を出した。NHKや朝日新聞、中日新聞などが報じているものの、前回の記事で取り上げた桐生市事件に比べると報道はずっと少ない。
しかし筆者は、生活保護行政に与えるインパクトは、少なくとも桐生市事件と同程度、場合によってより大きな影響を与えるものと考えている。
事件の概要をごく簡単に紹介しよう。
名古屋市の精神障害のある40代男性が、生活保護を利用していた。男性は13年に統合失調症を発症し、16年に生活保護を開始。同年11月に精神障害者保健福祉手帳2級(以下、「手帳」)を取得したにもかかわらず、19年7月に自身が問い合わせるまでの間、およそ2年8カ月間、障害者加算が支給されていなかった。
本来、手帳2級を取得すれば障害者加算として月額1万7870円が上乗せになる(名古屋市の場合で、金額は地域により異なる)。市は問い合わせ後、3カ月分のみを遡って支給した。19年7月に「申請」があったので、その時点から生活保護のルールで認められる範囲までさかのぼって支給したことになる。
本人からの申請がなければ対応しない。俗に「申請の壁」と呼ばれる、役所の典型的な対応である。
崩れた「申請主義の壁」
この対応に男性は納得せず、未払い分の補填を求めて国家賠償請求訴訟を起こした。
原告側となる男性の主張はこうである。福祉事務所は、手帳を取得するために必要な診断書の費用を支払っていた。支払った以上は、その後、手帳が取得できたかどうかを確認すべきところ、その調査を怠っていた。調査義務違反があったのだから、手帳取得当時にさかのぼって障害者加算の認定を行うべきである、と。
名古屋高等裁判所は25年1月24日、男性の請求を認め、市に約50万円の支払いを命じる判決を下した。名古屋市は上告せず、判決は確定した。
この判決によって何が変わるのか。
市は「障害者加算を求める申請がなかったので、加算は認定しなかった。申請を受け付けたあとは、ルールに則って加算を認定している」と主張した。この主張に対して、司法が『ノー』を突きつけたのである。
これは、完全ではないにしろ、「申請の壁」が壊れたことを意味する。
申請主義と調査義務違反はどちらが重いか
なぜ、行政側の主張は認められなかったのか。少し長くなるが、判決の根幹となる部分を引用しよう。
障害者加算制度は、加算によって初めて最低限度の生活ができるものであり、加算の要件があるにもかかわらず加算がなされなかった場合の被侵害利益の種類・性質は被保護者の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利であり、被保護者の受ける損害の程度等は軽微とは言い難いことなどを総合考慮すれば、被保護者から障害者加算の申請や精神障害者手帳の交付を受けた事実の届け出がない場合であっても、保護の実施機関において、被保護者が障害者手帳の交付を受けた事実を認識し又は認識することができたなどの特段の事情がある場合、公務員として職務上通常尽くすべき注意義務として被保護者の要件該当性について調査する義務があり、これを怠った場合には、国賠法1条1項の違法性があると解するのが相当である。 出所:名古屋高等裁判所・令和6年(ネ)63号 国家賠償請求控訴事件(原審・名古屋地方裁判所・令和4年(ワ)第2706号)、傍線は筆者。
今回の事例では、市は男性が手帳を取得しようとしていることを知りうる立場にいた。手帳の取得には、医師の診断書が必要となる。その診断書作成費用を、生活保護費として病院に支払っていたのである。
市側は「診断書料を出しても、障害者手帳が取得できない場合もある」という苦しい言い訳をしていた。しかし、「それを確認するのが役所の仕事だろう」という指摘に対して、裁判官が納得する反論ができなかった。 結果として、「公務員として職務上通常尽くすべき注意義務として被保護者の要件該当性について調査する義務があり、これを怠った場合には、国賠法1条1項の違法性がある」という判決が下された。その後、市は上告せず、判決は確定した。
簡潔に言えば、「調査義務違反>申請主義」という原則が、判例となったのである。
全国に広がる「支給漏れ」
判決の影響は、名古屋市だけに留まらない。
佐賀市では、名古屋の判決を受けて市議会議員が追及したところ、60代の男性が身体障害者手帳を持っていたにもかかわらず、障害者加算の支給漏れがあったことが発覚した。市は支給漏れの部分を追及することを決めたが、他にも15件ほど加算漏れの可能性のあるケースが見つかった(佐賀新聞「支給漏れ分、全期間さかのぼって支給へ 佐賀市の生活保護費・障害者加算漏れ問題 他にも15件ほど漏れの可能性」)。
堺市では、重度の障害者がいる場合の加算認定について、17年にわたって本来の額よりも少なく支給していた。その総額はおよそ625万円にのぼる。堺市で独自調査を行ったところ、他にも52世帯に同様の加算漏れがあることが判明した(NHK「生活保護費を17年過少に支給で謝罪 大阪堺市」)。
堺市の事例では、代理人の行政書士がついて、行政不服申し立てをしている。今後の動向次第では、弁護団が結成され、取消訴訟や国家賠償請求に発展するだろう。
これらは名古屋市、佐賀市、堺市に特有のものとは考えにくい。問題が発覚したのは氷山の一角で、厚労省がいう「職員による事務け怠等の不祥事」は、今後、全国に波及していく可能性がある。
役所に厳しい「調査義務違反>申請主義」
「調査義務違反>申請主義」という原則は、役所には厳しいものがある。とりわけ生活保護制度においては、「担当者が調べれば簡単にわかる」が、申請主義をいいことに生活保護費を支給していないものが無数にある。
たとえば、病院に通うための公共交通機関を利用した場合、交通費は別途支給となる。いつ、どの病院に通ったのかは、当然役所は把握している。
70代の女性が10キロメートル離れた病院に定期通院している事例を想定してみよう。「公共交通機関を使用している」と考えるのが普通だろう。しかし、現状は女性から通院交通費の申請がなければ、役所は交通費を支給していない。 中学生になれば、サッカー部や野球部、吹奏楽部など、お金がかかる部活動に入部する子どもも少なくないだろう。生活保護では、サッカーボール、グローブやバット、クラリネットやフルートの購入費は、クラブ活動費として別途支給される。生活保護利用者には定期的な家庭訪問が行われているから、「ところで、中学生の息子さんはクラブ活動をしていますか」と聞くことは難しくない。というよりも、訪問調査の“基本中の基本”である。
裁判で争われた「加算」と呼ばれる保護費(最低生活費の一部)、「一時扶助」と呼ばれる臨時的費用の支出項目は、生活保護制度では多岐にわたる。今までは、「本人が申請しないから」という説明ですんでいたものが、調査義務違反という言葉で通用しなくなった。
これまでは、「生活保護の利用は権利なのだから、きちんと調べて支給するのが当たり前」と考える福祉事務所がある一方で、「言われるまでは黙っておこう」という姿勢の福祉事務所も少なからずあった。厚労省はこうした実態を把握していたにもかかわらず、これまでは積極的な働きかけはしてこなかった。
「権利侵害の防止」を第一に掲げ、都道府県や指定都市の責任を強調するのは、今までの事なかれ主義では、国の姿勢が問われかねないという危機感の表れでもある。
「素朴な感覚で、おかしいと思った」
厚生省の方針転換にまで影響を与えた画期的な判決。その立役者となったのが、名古屋第一法律事務所の久野由詠さん(40歳)である。
久野さんは、「素朴な感覚でおかしいと思った」のが、依頼を受けたきっかけだという。当時、久野さんは生活保護制度にそれほど詳しい訳ではなかった。ごく単純に、「役所のミスでお金が支払われないのはおかしい」と感じたという。 「『原則通りの対応をした』と福祉事務所側は主張しました。しかし、最近、生活保護のルールが変更されて、役所側の不手際があれば5年間までさかのぼれるようになったことを知っていました。男性の一件は、ルール改正前のことです。しかし、『これは弁護士として動かなければならない』と決意しました」
裁判を起こすような生活保護の利用者は、時にクレーマーという印象を与えることが多い。久野さんはどのような印象をもっていたのだろうか。
「40代の男性で、穏やかでどこにでもいるような方でした。精神疾患をお持ちですが、話をしていてもすぐにはわからないほど落ち着いていらっしゃいました。生活のルールをしっかり守る、丁寧な方です」
同じような被害を受ける人がいなくなってほしい
久野さんは、訴訟に取り組むなかで、印象的だったことがあるという。
「原告の方は非常にまじめで、真摯な姿勢で訴訟に向き合っておられました。最初のケースワーカー(CW)との関係は悪くなく、よく話を聞いてくれる、寄り添ってくれていると信頼していたそうです。ところが、開示したケース記録を確認して、そのCWの時から加算漏れがあったと分かり、ショックを受けていました。
裁判が始まってからも、『本来受け取れるべきだった障害者加算が支払われていないのはおかしい』とはっきりおっしゃっる一方、『同じような被害を受ける人がいなくなってほしい』との思いも強く、社会的な意義を感じてこの訴訟に踏み切ったことが伝わってきました」
裁判を起こすのは特別な人、日本にはまだまだそう考える人は少なくない。生活保護を利用しながら裁判を起こすとなれば、風当たりの強さは一般の比ではないだろう。仮に裁判に勝ったとしても、受け取れる金額自体は労力に見合わないことも多い。
今回の判決で支払われた賠償金も50万円。弁護士に依頼し、何度も裁判所に足を運び、不安な日々を過ごす。「割に合わない」と考える人も多いだろう。
それでも裁判を起こす人がいる。その背景には共通して、「このような嫌な思いをするのは、自分で最後にしたい」という思いがある。
市民の自己責任ではなく、支援体制の充実を
久野さんに、判決の受け止めを聞いた。
「判決は、原告の訴えの核心に触れるような内容が認められた点で、非常に意義があったと感じています。特に、『加算は憲法25条に規定する健康で文化的な最低限度の生活に含まれる』と判断された点、そして福祉事務所の『申請待ち』の姿勢を許さず『注意義務違反』が明確に認められた点は、今後の実務にも大きく影響する可能性があると考えています。
本人の思いや、この裁判で明らかになった制度の問題点が社会に示されたという意味で、非常に価値のある訴訟だったと受け止めています。 今回のように、加算の支給要件を満たしていたのに、支給がされていなかったというのは、本来あってはならないことです。市民が制度を使いこなすことを前提にするのではなく、支援する側が責任を果たす体制を整えるべきです」
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