保有を容認された自動車の利用制限を撤回する厚労省通知 「生活保護」改善
厚労省は、2024年12月25日付け事務連絡「『生活保護問答集について』の一部 改正について」を発出。
生活保護手帳別冊問答集に「問3-20-2 保有が認められた自動車の他用途への利用」を新設し
・「障害 (児)者の通勤や通院等のために保有が認められた自動車の場合」・・・「日常生活に 不可欠な買い物等に行く場合についても、社会通念上やむを得ないものとして、原則として自動車の利用を認めて差し支えない」
・公共交通機関の 利用が著しく困難な地域に居住する者の通勤や通院等のために保有が認められた自動車の場合・・・「地域の交通事情や世帯の状況等を勘案して、低所得世帯との均衡 を失しないと保護の実施機関が認める場合には、自動車の利用を認めて差し支えない」とし、一定の留保を設けつつも利用目的の制限をしないとしている。
として、
生活保護問題対策全国会議は「このような・方針転換は、令和4年事務連絡を事実上撤回したもので、様々な主体に よる運動の成果として評価できますが、事業用自動車の日常生活利用をなお禁じている点については、さらなる緩和が必要です」とのべ、実際の運用で「狭く解釈される恐れ」などに触れ取組の方向性を示している
2025年1月9日「保有を容認された自動車の利用を制限してきた厚労省事務連絡の撤回を評価するとともに、さらなる通知の改正を求める声明」
下線はメモ者
保有を容認された自動車の利用を制限してきた厚労省事務連絡の撤 回を評価するとともに、さらなる通知の改正を求める声明 生活保護問題対策全国会議 25/1/9
厚生労働省は、2022(令和4)年5月10日付けで「生活保護制度上の自動車保有 の取扱いについて(注意喚起)」と題する事務連絡(以下「令和4年事務連絡」といい ます。)を発出し、全国の自治体に対し、「今般、ある自治体において、障害等を理由 に通院のために自動車の保有を容認された者について、通院以外に日常生活に用い ることが認められるような考えを示した事例が確認されたことから、改めて実施要領 における自動車の保有の取扱いについてご留意いただき、自動車の保有について適 切な指導をお願いいたします」と通知しました。これは、北海道生活と健康を守る会 連合会からの要望を受けて札幌市長が「障害等を理由に自動車の保有を認められた 場合は、保有する自動車を日常生活で利用することは、被保護者の自立助長、保有 する資産の活用の観点から認められるものと考えております」と回答したことを念頭 としてこれを否定し、保有が認められた自動車の利用を通院等の保有容認目的に限るとしたものです。
令和4年事務連絡に対しては、当会を含む6団体が2022年6月9日付けで「保有 を容認された自動車の利用を制限する事務連絡の撤回を求める申入書」を出したほか、様々な個人・団体がこれを撤回するよう求める声を挙げてきました。
また、三重県鈴鹿市が、母も高齢かつ病気を患い歩行が困難であるにもかかわら ず、自動車の利用を同居する障害のある二男の通院用に限定し、日々の走行距離や 行き先を報告する運転記録票の提出の求めに応じなかったことを理由として生活保 護を停止した事件について、津地方裁判所が、2024年3月21日、停止処分を取り 消したうえで市に慰謝料等の損害賠償を命じる判決を言い渡し、名古屋高等裁判所も、同年10月30日、地裁の判断を維持し市側の控訴を棄却する判決を言い渡しまし た。
こうした事件や判決が報道されたり国会で取り上げられたりした結果、厚生労働省 は、2024(令和6)年12月25日付け事務連絡「『生活保護問答集について』の一部 改正について」を出しました。この事務連絡では、生活保護手帳別冊問答集に「問3-20-2 保有が認められた自動車の他用途への利用」を新設し、その中で、「障害 (児)者の通勤や通院等のために保有が認められた自動車の場合」には「日常生活に 不可欠な買い物等に行く場合についても、社会通念上やむを得ないものとして、原則 として自動車の利用を認めて差し支えない」としています。その他、公共交通機関の 利用が著しく困難な地域に居住する者の通勤や通院等のために保有が認められた 自動車の場合は「地域の交通事情や世帯の状況等を勘案して、低所得世帯との均衡 を失しないと保護の実施機関が認める場合には、自動車の利用を認めて差し支えな い」とし、一定の留保を設けつつも利用目的の制限をしないとしています。
このような方針転換は、令和4年事務連絡を事実上撤回したもので、様々な主体に よる運動の成果として評価できます。 保有を容認された自動車の利用を制限する令和4年事務連絡をきっかけとして、鈴鹿市だけではなく全国各地で生活保護利用者と福祉事務所との間の紛争が発生していましたが、今回の2024(令和6)年12月25日付け事務連絡によってこのような紛争の多くは解決することになります。また、保有容認目的に限らず利用できる以上、運転記録票の提出を求めることは不必要な個人情報の提出を求めるプライバシー侵害にほかならず、各地の福祉事務所はその提出を求めることを直ちにやめるべきで す。
一方で、公共交通機関の利用が著しく困難な地域での自動車の利用については、 「地域の交通事情や世帯の状況等を勘案して、低所得世帯との均衡を失しない」とする場合を制限的に考えて運用する自治体が出てくることも懸念されます。しかし、公共交通機関の利用が著しく困難な地域では、一般の低所得世帯も日常生活のために自動車が不可欠です。そういった実情を踏まえれば、公共交通機関の利用が著しく困難であることを理由として保有が認められた場合は、ほとんどの事例で利用の制限をすべきではないことになるはずです。
そもそも、保有容認目的に限定して自動車の利用を認めてきたこれまでの運用は、生活保護利用者が他の低所得世帯よりも劣位にあるべきだとする考え方(劣等処遇 論)に基づき、生活保護法3条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の内容 をやみくもに制限的に解釈する前近代的な思想に依拠するものです。
この点については、枚方事件判決(大阪地判平成25年4月19日・賃社1591=15 92号64頁)が、「生活保護を利用する身体障害者がその保有する自動車を通院等以外の日常生活上の目的のために利用することは、被保護者の自立助長及びその 保有する資産の活用という観点から、むしろ当然に認められる」と述べていました。上記の鈴鹿市生活保護停止事件に対する津地判2024(令和6)年3月21日(裁判所ホ ームページ掲載)でも、「補足性の観点からしても、原告らの日常生活に不可欠な買物等の必要な範囲において利用することは、むしろ原告らが自立した生活を送ることに資するものであり、本件車両をその範囲で利用することは非難されるべきものでは ない」としていましたし、その控訴審である名古屋高判同6年10月30日も、「被控訴人らの日常生活に不可欠な買物等の必要な範囲において本件車両を利用すること は、むしろ、被控訴人らが自立した生活を送ることに資する面があったというべきで あり、補足性の観点からみても、被控訴人らが本件車両を上記範囲で利用すること を厳格に制限する指導を行う必要性は低かった」としています。
これらの判決に見られるように、保有を認められた自動車を日常生活に利用することは、生活保護利用者の「自立の助長」に資するものとして法の目的(生活保護法1条) に沿うだけでなく、それを使わずにタクシーなどを利用する場合に比べて費用の節約となり、利用できる資産の活用を求める補足性の原理(生活保護法4条1項)にも合 致するものです。
以上のことから、事業用を含めて、保有を容認された自動車については利用方法の制限をしないこととするよう、さらに通達を改正すべきです。
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