「原発」固執は、脱炭素の障害 再エネ普及の足かせに
「災害級の暑さ」と言いながら、その原因である気候危機を報じないニュース。最善のシナリオでも、これから30年間は気温が上場しつづける。「決定的な10年」である2030年まで、あと数年。本格的な議論と対策は待ったなし。
ということで、原発は気候危機対策にならず、最も効率的な再エネ普及の足かせになるという、同趣旨の2つの記事(大島堅一教授のインタビュー、ISEPなどの共同声明)。なお記事中の下線はメモ者。
【 原発は脱炭素に貢献せず:気候変動対策の停滞に オルタナ 24/8/8 】
【 共同声明 新規原子力発電の未来(プレスリリース) ISEP 2024/8/7 】
7月25日、事業に使う電気を100%再エネでまかなうことを目指す国際的な企業連合「RE100」に賛同するキリン、ソニー、花王、リコー、LINEヤフーなど大手企業87社が、政府に再エネ容量を2035年度までに22年度比で3倍に増やす求める提言を発表している。提言は、「エネルギー安全保障を大幅に改善し、国際競争力を堅持する」ためとしている。再エネの遅れは、国際的なサプライチェーンから排除されかねない危機に直面しているからである。財界も一枚岩ではない。
【 原発は脱炭素に貢献せず:気候変動対策の停滞に オルタナ 24/8/8 】
〇記事のポイント
- 政府は原発を「脱炭素電源」と位置付け、再稼働や新増設を進める方針だ
- しかし、原発を推進しても温室効果ガスは減らないことが明らかに
- 原発問題を研究する大島堅一・龍谷大学教授に、その理由や問題点を聞いた
政府はGX(グリーントランスフォーメーション)において原子力発電を「脱炭素電源」と位置付け、再稼働・新増設・新型炉の開発を進めようとしている。しかし、最近の研究では「原発を推進しても温室効果ガスは減らない」ことが明らかになった。原発の社会的費用などを研究する大島堅一・龍谷大学教授は、原発は脱炭素にまったく貢献せず、かえって気候変動対策を停滞させると言い切る。(聞き手:オルタナ副編集長・長濱慎)
〇2030年までのGHG削減にまったく貢献できず
原発は運転時にCO2などの温室効果ガス(GHG)を出さない。しかしこれだけで「脱炭素電源」というのは短絡的だ。2050年ネット・ゼロの実現には、中間点の2030年までにどれだけ多くのGHG排出量を削減できるかがカギを握る。
国内の原発の大部分は老朽化しており、新増設や建て替えが前提になる。しかし、原発の建設は時間がかかる。環境アセスメントや地域の合意形成を含めれば、20年は必要だろう。今すぐ建設するとしても稼働は2040年代になり、2030年には到底間に合わない。
〇次世代革新炉には軍事転用のリスクが
政府は革新軽水炉やSMR(小型炉)を次世代革新炉として推進する方針だが、実現性に疑問符が付く。最大の課題は燃料の調達だ。これらの新型炉の多くは既存の燃料(ウラン濃縮度5%程度)でなく、濃縮度を20%に高めた特殊な燃料を使う。
現在これを製造できるのはロシアしかなく、日本同様に新型炉を進めようとする米国でも課題になっている。濃縮度を高めた燃料は軍事転用もでき、世界的な核軍縮の努力に水を差しかねない。倫理的にも実現は不可能だろう。
〇原発と再エネは「負」の相関関係
2030年に間に合わないなら2040年代からでも良いという考え方もあるかもしれない。しかしそもそも、原発は脱炭素に貢献するのか。
英サセックス大学でエネルギー政策や気候変動対策を研究するベンジャミン・ソヴァクール教授らは2020年、論文を発表した。これは世界123ヵ国25年間の原発発電量とGHG排出量を統計的に分析したもので、原発を推進してもGHGが減らないことを明らかにした(※)。
最大の理由は、原発と再生可能エネルギーの「負の相関」にある。つまり、原発を増やすと再エネの普及が抑制されGHGを削減できない。逆に、再エネの発電量が増えた国では削減が進んでいた。
原発と再エネはトレードオフの関係にあるという指摘は重要だ。政府は両者とも普及させる方針を掲げるが、二兎を追うのは絵に描いたモチでしかない。原発という選択肢を捨てて、再エネに注力すべきだ。
※Differences in carbon emissions reduction between countries pursuing renewable electricity versus nuclear power(nature energy)
〇太陽光が原発のコストを下回った
資源エネルギー庁による試算(2021年)では、太陽光のコストが初めて原発を下回った。2030年時点の1キロワット時あたりの発電コストを想定したもので、原発11円台に対して太陽光は8円台だった。世界的にも、太陽光と風力を中心とした再エネのコストは下がり続けている。
一方の原発は、事故が起きた場合の賠償や廃棄物処分、使用済み燃料の再処理、廃炉費用を十分に考慮しておらず、11円台で収まるかも怪しい。中には「推計不能」という項目もあり、これらを含めれば天文学的な金額に膨れ上がるだろう。ひとたび事故になれば取り返しの付かない被害をもたらす原発を推進する理由は、もはや存在しない。
〇破たん必至の「原発版・総括原価方式」
原発に経済性はなく、国の支援なくして成り立たない。政府は脱炭素電源オークションや容量市場といった仕組みを導入して、原発の維持に必死になっている。そのツケを払わされるのは国民だ。
7月には一部のメディアが、経産省が原発の建設資金を電気料金に上乗せする新たな制度を検討中と報じた。これは「原発版・総括原価方式」と呼べるもので、英国のRAB(規制資産ベース)モデルを参考にした。しかし英国では建設費用が2倍に高騰し、国民の批判にさらされている。
こうした電気料金への上乗せは、全国民の費用負担を意味する。そこには、原発と無関係の再エネ事業者から電力を購入する人々も含まれる。果たして原発に、そこまでして維持しなければならない「公共性」があるのか。(談)
*大島堅一(おおしま・けんいち) 龍谷大学政策学部教授、原子力市民委員会座長、日本環境会議代表理事。エネルギー利用にかかわる環境問題に関する政策課題をテーマに、気候変動、原子力の社会的費用、再エネ普及政策を研究。主な著書に『原発のコスト』(岩波書店)、『原発はやっぱり割に合わない』(東洋経済新報社)など。YouTubeでは『環境哲学ちゃんねる』を配信。
【 共同声明 新規原子力発電の未来(プレスリリース) ISEP 2024/8/7 】
当研究所は、広島・長崎への原爆投下から79年目を迎えるにあたり、世界のエネルギー政策研究者たちとの共同声明「新規原子力発電の未来」を発出いたします。
≪共同声明 新規原子力発電の未来≫
世界中の多くの政府が、気候変動目標の達成に原子力発電が重要な役割を果たす、あるいは果たさなければならないという主張とともに、原子力発電への資金援助を拡大する圧力を受けている。ところが現実には、原子力は衰退の一途をたどっており、それには正当な理由がある。
世界の電力生産に占める原子力の割合は、1996年の17.5%から2023年には9.2%に減少しているが、その主な理由は、原子炉の建設と運転にかかるコストの高さとその遅れである。
政府は、この衰退しつつある技術に資金を提供するという原子力産業からの圧力に抵抗しなければならない。そうした資金やその他の資源は、再生可能エネルギー、電力貯蔵、エネルギー管理などに使われるべきである。そうすれば、気候変動目標をより充分に、より確実に、より早く、より費用対効果の高い形で実現できる。
原子力を推進しようとする新しい圧力は、小型モジュール炉(SMR)の開発資金、新型大型原子炉への融資、設計寿命に達した既存原子炉の延命費用という3つの分野で見られる。政府に対するこうした圧力は、主要な原子力発電国である米国、フランス、カナダ、日本、英国の5カ国で見られる。
〇小型モジュール炉(SMR)
原子力産業が厳しい状況に陥ると、いつも既存の設計の問題を解決すると主張して、新しい技術に注意を向けようとする。最新の「魔法の弾」はSMRである。SMRは、商業的な発注がまだされていないにもかかわらず、迅速で安価、安全で建設中であるかのように主張されている。しかし現実には、SMRの商業運転は何年も先であり、大型原子炉と同じくらい高価で、安全性、セキュリティ、廃棄物の問題も同じように存在する。
実際、SMRの主張の背後にある動機は金銭的なものである。近年、原子力産業は、製品の製造・販売から、SMR「開発」のための補助金獲得へとビジネスモデルを密かに変化させている。カナダでは、さまざまな公営電力会社が公的資金を使って新しいSMRを開発しようとしている。英国政府は200億ポンド(約3兆8千億円)の税金を投入してSMRの設計コンペを実施している。しかし、昨年の米国のニュースケール社のSMR設計の破綻や、フランスEDF社の最近のSMR開発断念など証明しているように、最終的には根本的な問題は明らかになる。
〇大型原子力発電
大型原子力発電の建設実績は、遅延とコスト上昇という過去最悪の記録が出ており、改善どころか縮小の一途をたどっている。原子力産業の処方箋はいつも同じだ。自分たちは学習しており大量発注すればコストは削減できると主張し、計画や安全規制を「合理化」しようとする。それが過去に成功したためしはなく、今後も成功しないだろう。
一方、コストと建設期間の超過が常態化しているにもかかわらず、英国政府は、脆弱なEPR設計を用いた原子炉をあと2基建設しようと努力している。フランスでは、国有化されたフランスの原子力発電事業者EDFが、EPRの設計を改良した新しい大型原子炉の開発を計画している。
〇原子力の老朽化
世界の既設原子力発電は老朽化している。アメリカでは、稼働中の原子炉の約半数が40年の設計耐用年数を超えている。建設費はすでに償却されているにもかかわらず、高い電力を供給している。
アメリカでは、原子力発電所が競争力のある電力市場で生き残れるのは、多額の公的補助金に支えられているからだ。日本では、福島原発事故以来23基の原子炉が閉鎖されたままだ。これらの原子炉は13年以上稼働していないにもかかわらず、電力会社はいまだに再稼働させようとしている。フランスでは、EDFが老朽化した原子炉の安全性向上のために最大1000億ユーロの請求に直面している。世界的に見ても、これらの古い原子炉は、新しい原子炉に要求される安全性と保安基準にはるかに及ばない。
〇再生可能エネルギーとエネルギー転換
原子力発電は決して経済的ではなく、その歴史を通じて実質コストは上昇し続けてきた。かつて原子力発電が存続できたのは、電力が独占的で、電力会社がどんなに高くてもコストを転嫁できたからだ。競争力のある電力が導入されたことで、この選択肢は失われた。
60年以上にわたる商業の歴史を経て、原子力は巨額の公的補助金なしには存続できないどころか、ますます遠ざかりつつある。これは、この20世紀半ばの典型的な技術が末期的な衰退を遂げ、放棄されるべきであることを明確に示している。
原子力の1キロワット時のコストは少なくとも再生可能エネルギーの1キロワット時の数倍もするため、原子力発電の廃止は気候保全につながる。原子力発電は1ドルあたりの発電電力量は再生可能エネルギーよりもはるかに少ないため、原子力が化石燃料を置き換える量は、1ドルあたり再生可能エネルギーよりもはるかに少なく、建設に時間がかかるため、いっそう少なくなる。英国政府の世界的な数字によれば、新規原子力発電所の計画、規制、建設には、たった1基の発電所建設に17年もかかる。したがって、気候変動を懸念している人ほど、高価で遅くて投機的な原子力よりも、費用対効果が高く、迅速で確実な、再生可能エネルギーを採用することが肝要なのである。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)も、再生可能エネルギーは新規原子力発電の10倍のCO2 削減効果があると報告しているとおり、2023年には再生可能エネルギーによる新規電力供給量は507ギガワット(GW)となり、世界の発電容量増加の86%を占め、再生可能エネルギーによる総発電容量は3,870GWとなった。総発電容量に占める再生可能エネルギーの割合は43.2%に上昇した。この驚異的な急増は、再生可能エネルギーがエネルギー転換を急速に拡大できる唯一の技術であることを示している。
原子力発電はせいぜい、1年間に再生可能エネルギーが数日ごとに追加するのと同程度の電力しか追加しない。中国でも、現在、毎週5基の新しい原子炉に相当する風力発電と太陽光発電を導入している。
新規原子力発電が停滞し、再生可能エネルギーが急増している今、冷静な現実は、気候変動とエネルギー危機に対して原子力発電はあまりにもコストが高く、遅すぎるということだ。そして、変動する太陽光発電や風力発電をバックアップするために必要とされるどころか、原発はより大きく、より長く、より突発的で、はるかに予測不可能な故障を起こすため、より多くの、よりコストのかかるサポートを必要としている。2022年には、フランスの原子炉の半分が安全上の欠陥で停止した。原子力発電は時間がかかり、コストが高いだけでなく、電力需要の変動に合わせて上下し続けるには柔軟性に欠ける。それとは対照的に、風力発電や太陽光発電の変動性は、変動する需要に合わせて出力を調整し、常に安定した電力を供給することができる、進化する柔軟な電力網に、より簡単に統合することができる。
新規原子力発電には、運用上の必要性もビジネスケースもない。実際、電力網の急成長と近代化、相互接続の充実と迅速化、スマートなエネルギー管理、そして今日の費用対効果の高い蓄電技術の迅速な導入とともに、電力をはるかに効率的に使用し、あらゆる分野で多様な再生可能エネルギー供給を拡大することによって、信頼できる電力システムを維持することは十分に可能である。
私たちは、産業、輸送、家庭、企業に電力を供給するために、手頃な価格で持続可能な低炭素エネルギーを確保する必要がある。主要なエネルギー国際機関や研究機関のすべてが、ネットゼロのためには再生可能エネルギーが重要な役割を果たすという点で一致している。
将来の世界の電力供給の基幹は、クリーンで、環境に優しく、安全で、費用対効果の高い再生可能エネルギーになるだろう。原子力はそのどれにも該当しない。
スティーブ・トーマス教授(『Energy Policy』編集委員、グリニッジ大学エネルギー政策名誉教授、英国)
飯田哲也(環境エネルギー政策研究所 所長、日本)
ベルナール・ラポンシュ博士(工学博士、核反応科学博士、エネルギー経済学博士、フランス)
エイモリー・ロビンス教授(スタンフォード大学土木環境工学非常勤教授、米国)
MVラマナ教授(ブリティッシュコロンビア大学公共政策グローバル問題学部軍縮グローバル人間安全保障サイモンズ講座教授、カナダ)
ポール・ドーフマン博士(サセックス大学サセックス・エネルギー・グループ科学政策研究ユニット客員研究員、原子力コンサルティング・グループ議長、英国)
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