農薬使用による食物のPFA汚染 規制に立ち遅れる日本
農薬に使用されているPFAが急増。土壌を汚染し食物への残留してることが、欧米で問題視され、規制、追放の動きがつよまっている。
欧米では、最新の疫学研究の結果にもとづき規制を強化。ところが日本は、疫学研究を無視、新たな規制の動きがないと警鐘をならしている。
アメリカの機関がまとめた評価案は、日本の食品安全委員会の評価案に比べて670倍も厳しい。EUの規制値も、日本の評価案より60倍厳しい、という。 日本の対応の遅れは、米軍基地を「聖域」にしているからか?
その規制見直しにかかわる食品安全委員会へのパブコメが明日7日まで。
【農薬から「永遠の化学物質」 食品への残留懸念 米国で問題に 猪瀬聖 24/1/19】
【発がん性物質のPFAS、欧米で追放進むも日本は規制強化見送りの可能性 謎の判断、専門家も首傾げる 猪瀬聖 24/2/25】
■農薬に使われるPFASが急増、果実や野菜でPFAS汚染されている実態が明らかに。印鑰 智哉 FB 24/3/6
【農薬から「永遠の化学物質」 食品への残留懸念 米国で問題に 猪瀬聖 24/1/19】
発がん性が強く疑われている化学物質「有機フッ素化合物(PFAS)」の水道水への混入が日本各地で問題となっているが、米国では飲み水への混入に加えて新たに農薬の原料として使われている可能性があることが相次いで報道され、環境や人への影響を心配する声が一段と高まっている。連邦政府や州政府は規制強化に乗り出した。
〇幅広い用途
PFASは水や油をはじく特長を備えていることから、フライパンなどの調理器具や食品の保存容器、衣類、化粧品など様々な日用品に使用されている。また、半導体や、飛行場で使用される泡消火剤の製造にも使われるなど、非常に幅広い用途がある。
だが、何らかの経路で人の体内に入ると長期間、体内にとどまり、がんや免疫機能の低下、脂質異常、胎児の発育不全など人の健康に様々な影響をもたらす恐れがあることが多くの研究者によって指摘されている。
また、その極めて分解しにくい性質のため、工場などから排出されると、地下水や河川、土壌に何十年単位で滞留することが確認されている。こうした特徴から「永遠の化学物質」とも呼ばれている。
〇「人に対して発がん性がある」
PFASは5千種類とも1万種類とも言われているが、世界保健機関(WHO)の専門機関である国際がん研究機関(IARC)は、特に毒性の強いPFOAとPFOSについて発がんの危険性(ハザード)を評価し、昨年12月1日に結果を発表した。
会議は11月7~14日、フランスのリヨンで開かれ、世界11カ国から30人の専門家が集まり議論した。その結果、PFOAは最も危険性が高い「グループ1」(人に対して発がん性がある)に分類、PFOSは3番目に危険性が高い「グループ2B」(人に対して発がん性がある可能性がある)に分類された。
PFOAについては動物実験に基づいた十分な証拠に加え、人が曝露した場合に遺伝子の発現が影響を受けたり免疫力が低下したりする発がんのメカニズムが確認できたと説明。さらに、腎細胞がんや精巣がんとの直接的な関連を示す証拠もあったと述べている。
PFOSに関しては、発がんのメカニズムは明確に確認できたものの、動物実験に基づく証拠は必ずしも十分ではなく、がんとの直接的な関連を示す証拠は不十分だったと説明した。
〇水道水だけではなかった
PFOAとPFOSは日本も加盟する「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)」で、すでに製造や使用が原則禁止となっている。
しかし、その分解しにくい性質ゆえ、今もそれらによる地下水や河川の汚染が人の健康に影響を及ぼし得るレベルで続いている。日本でも汚染地域の住民の血液から高濃度のPFASが検出されている。
PFASが人の体内に入る経路はこれまで、主に井戸水や水道水、PFASを原材料とした調理器具やプラスチック製の食品保存容器などが指摘されてきた。
しかし、実はそれだけでなく、農業に利用される農薬にもPFASが成分として含まれている場合があり、その農薬が残留した野菜や果物を口にすることで体内に入る可能性があることが、米国で最近、報道されるようになってきた。
〇トウモロコシなどから高濃度で検出
例えば、テキサス工科大学の研究チームが農務省の実験圃場(畑)を調べたところ、いずれも平均でトウモロコシから3230ppt、さや豆から4260ppt、落花生から407pptの濃度のPFOSが検出された(1pptは1兆分の1)。
単純比較はできないが、環境保護庁(EPA)が2022年に水道水の安全性の目安として定めた0.02pptの数万倍から数十万倍にあたる。
PFOAもトウモロコシから349ppt、さや豆から176ppt、落花生から162pptの濃度で検出された。これもPFOAの水道水における安全性の目安である0.004pptの数万倍だ。
〇土壌に残留した農薬が原因か?
また、圃場内に保管されていた10種類の希釈前の農薬を調べたら、6種類から検出限界を上回る濃度のPFOSが検出された。濃度は392万~1,920万pptだった。他のPFASは検出限度以下だった。
6種類のうちの1種類は日本でも使用量の多いネオニコチノイド系殺虫剤のイミダクロプリドで、検出濃度は1,330万pptだった。
圃場内の水や化学肥料からはPFASが検出されなかったため、研究チームは過去に散布された農薬が土壌に残留し、それを植物が吸い上げた可能性が高いとみている。実際、最高1,720pptの濃度のPFOSが検出されるなど、何種類ものPFASが土壌に残留していた。
PFASの問題に取り組む市民団体PEERが、メリーランド州政府が蚊を駆除するために使用している殺虫剤を調べたところ、3,500pptの濃度のPFOAが検出された。マサチューセッツ州など他の州で使われている別の種類の殺虫剤からもPFASが検出されている。
〇12種類のPFASをリストから削除
EPAは2022年12月、農薬に使用できる添加物のリストから12種類のPFASを削除すると発表した。
農薬は主に、主成分である有効成分と有効成分の効き目をよくするための添加物からできている。有効成分は表示義務があるが、添加物は原則、表示義務がない。このため、実際にどんな化学物質が使われているかは製造元しかわからない。
12種類以外にも農薬として使用可能なPFASはまだ数多くあるとみられ、市民団体は情報開示を求めている。
農薬からPFASが検出されるのは、農薬の保存容器からPFASが溶け出して農薬に混入するケースもあるとみられている。いずれにしても、農薬を使用することにより農作物がPFASで汚染される点では同じだ。
〇メーン州など全面禁止へ
欧州連合(EU)がPFASの全面禁止を検討していると報じられている一方、米政府は規制強化こそしているものの、全面禁止を検討するまでには至っていない。ただし、州レベルでは大幅な規制強化に動き始めている。
例えば、メーン州ではPFASを原材料に使用したあらゆる製品の販売を2030年から原則禁止する州法が成立。対象の中には農薬も含まれている。
ミネソタ州でも2032年までにPFASを使用した製品を原則禁止する州法が昨年成立した。同法は、PFASが原因の可能性がある繊維層状肝細胞がんを発症し、昨年4月に20歳でこの世を去った女性が亡くなる直前に行った必死の議会証言が成立の決め手となったことから、彼女の名前をとって「アマラ法」と名付けられた。
ニューヨーク州でもPFASを使用した調理器具や化粧品、カーペットなどの販売を禁止する法案が議会に提出されるなど、各州で具体的な規制強化の議論が活発化している。
日本は実態調査も含めた国や自治体の対応が欧米に比べて明らかに遅れており、国民の健康への影響が懸念される。
【発がん性物質のPFAS、欧米で追放進むも日本は規制強化見送りの可能性 謎の判断、専門家も首傾げる 猪瀬聖
24/2/25】
国際機関や多くの専門家が発がん性や胎児への影響などを認めている有機フッ素化合物(PFAS)。欧米では全面使用禁止を含めた大幅な規制強化が進み始めているが、日本では当面、規制強化は見送られる可能性が出てきた。全国各地の汚染地域の住民から懸念の声が上がっているほか、化学物質の毒性に詳しい専門家も首を傾げている。
〇半導体の製造にも使用
PFASは1万種類以上あるとされる有機フッ素化合物の総称。フライパンなどの調理器具や食品の保存容器、衣類、化粧品など様々な日用品に使用されているほか、半導体や泡消火剤、農薬の製造にも使われるなど、非常に幅広い用途がある。
だが、工場から排出されたり食品容器などから溶出したりしたPFASが飲み水や食品などを通じて人の体内に入ると、発がんや免疫機能の低下、脂質異常、胎児の発育不全など様々な影響をもたらす恐れがある。
世界保健機関(WHO)傘下の国際がん研究機関(IARC)は昨年12月、PFASの中でも特に毒性の強いPFOAについて「発がん性がある」とし、PFOSについては「発がん性がある可能性がある」と発表した。
〇欧米で追放の動き
毒性がより明らかになるにつれ、欧米では規制強化の動きが急速に進み始めている。
米政府は昨年3月、飲料水に関し、摂取し続けても健康に問題ないと考えられるPFASの濃度の上限値を、従来のPFOAとPFOSを合わせた1リットルあたり70ナノグラム(ナノは10億分の1)から、各4ナノグラムへと大幅に引き下げる方針を発表した。また、PFASを原材料に使用した製品を原則禁止する州法がミネソタ州やメーン州で相次いで成立するなど、日常生活から追放する動きも活発化している。
ドイツも昨年、飲料水に含まれるPFASの許容濃度を見直した。従来はPFOA、PFOS各1リットルあたり100ナノグラムだったが、それをPFOA、PFOSを含む4種類のPFASの合計が20ナノグラムを超えてはならないと変更。2028年から適用する。デンマークやスウェーデン、ベルギーなどさらに厳しい上限値を設定した国もある。また、欧州連合(EU)は現在、すべてのPFASを原則禁止する方向で議論を進めている。
〇食品安全委員会の評価案に懸念の声
こうした欧米の趨勢とは対照的に、日本では今のところ規制強化に向けた具体的な動きは見られない。
農薬や化学物質などのリスク評価を行う内閣府の食品安全委員会は1月26日、PFASに関する「健康影響評価案」をまとめた。健康影響評価は国が当該物質を規制する際の科学的根拠となる。例えば、健康に重大な影響を及ぼす恐れがあると評価されればその物質は禁止されたり使用が厳しく制限されたりする。逆に、健康への影響は軽微との評価なら、規制は緩くなり使用や利用の促進につながる。
それだけに、初めてとなるPFASの健康影響評価に関係者の注目が集まっていた。ところがふたを開けてみると、評価案が「現状維持」を示唆する内容となったことから、委員会に属していない専門家や汚染地域に住む住民の間から疑問や懸念の声が相次ぐ事態となっている。
〇「最新の科学的知見に基づく評価」
評価作業を担った食品安全委員会のPFAS作業部会は約1年間、発がん性や遺伝毒性、生殖、免疫機能への影響など様々な観点から健康への影響を検討。その結果、ヒトが生涯、毎日摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される「耐容一日摂取量(TDI)」をPFOA、PFOSともに体重1キロ当たり20ナノグラムと設定した。
この20ナノグラムという評価は、実は、2020年に政府が水道水や地下水に含まれるPFASの上限をPFOAとPFOS合わせて1リットルあたり50ナノグラムにするという暫定目標値を設定した際に参考にしたのと同じ研究論文に依拠している。このため、環境省が新たに設定する規制値は現在の暫定目標値から大きく変わらないのではとの見方が強まっている。
実際、伊藤信太郎環境相は1月30日の記者会見で、食品安全委員会の評価案に関し「専門家による現時点での最新の科学的知見に基づく評価と受け止めている」と述べ、規制値を設定する際に重視する考えを示した。
〇日米で670倍の開き
今回の評価案には謎が多い。最大の謎は、なぜ海外の評価とかけ離れているかという点だ。
例えば米環境保護庁(EPA)は昨年まとめた評価案の中で、参照用量(TDIとほぼ同義)をPFOAは最大0.03ナノグラム、PFOSは同0.1ナノグラムまで引き下げた。従来はPFOA、PFASともに今回の食品安全委員会の評価案と同じ20ナノグラムで、一気に最大約670倍も評価を厳しくしたことになる。これは同時に、食品安全委員会の評価案に比べて670倍も厳しいということにもなる。
欧州連合(EU)も同様だ。欧州食品安全機関(EFSA)は、2018年にPFOAは0.8ナノグラム、PFOSは1.8ナノグラムという参照用量を設定したが、2年後の2020年には0.63ナノグラムに引き下げた。しかもこれは4種類のPFASの合算値。やはり日本の60倍以上も厳しい。こうした厳しい評価が大幅な規制強化につながっている。
〇「強い意図を感じる」「それなりの覚悟」
食品安全委員会事務局の紀平哲也・評価第一課長は、1月26日の作業部会後に開いた報道機関向け説明会で、「科学的議論を突き詰めた結果が20ナノグラムという数値になった」と強調し、政治的な配慮があったのではないかとの見方を否定した。
しかし、PFASに詳しい小泉昭夫・京都大学名誉教授は「強い意図を感じる」と述べる。例えば、欧米でPFASの評価が厳しくなったのは最新の疫学研究の成果を取り入れた結果でもあるが、食品安全委員会の評価案では、結果的に動物実験のデータが重視され、疫学研究の成果は「結果に一貫性がない」「証拠不十分」などとしてほとんど採用されなかった。
小泉氏は「作業部会にもPFASの疫学研究を続けてきた専門家が入っていたが、あれだけ疫学は一貫性がない、信用ならんと言われたら、研究者としてはガクッときて会議で何も言えなくなる。疫学の専門家の意見をもっと聞いていたら、評価結果は違っていたのではないか」と話した。
報道機関向け説明会では、評価を決めるにあたり純粋な科学的議論では解決できない問題があったことをうかがわせる発言もあった。部会の座長を務めた姫野誠一郎・昭和大学客員教授は「(欧米並みの厳しい評価を下すには)我々もそれなりの覚悟がいる」「20ナノグラム以外の数字も内々に議論したが、無理だった」などと述べた。
〇牽強付会の印象
環境脳神経科学情報センター副代表で医学博士の木村―黒田純子氏は「評価内容は牽強付会のような印象だ」とやはり疑問を呈する。その上で、「評価書には多様な毒性や発がん性が科学的に明らかになっていないと何度も書いてあるが、科学的立証を待っていたら取り返しのつかないことになる」と述べ、実際に健康被害が起きる前に、EUのように予防原則の立場から先手を打って規制強化すべきと提言する。
先進各国で規制強化が進むなか日本だけが取り残されるような形となる可能性に、汚染地域の住民らは一段と不安を募らせている。東京都多摩地域の住民らでつくる「多摩地域の有機フッ素化合物(PFAS)汚染を明らかにする会」は、評価案の見直しを求め、食品安全委員会が3月7日まで募集しているパブリックコメントに積極的に意見を出すよう呼び掛けている。
★米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。
■農薬に使われるPFASが急増、果実や野菜でPFAS汚染されている実態が明らかに。印鑰 智哉 FB 24/3/6
永遠の化学物質として、長期間に及ぶ健康や生態系に与える影響が懸念されるPFASは農薬の効果を引き上げるための添加剤として農薬にも使われている。農薬におけるPFAS利用は現在EUでも規制されておらず、PFASが含まれる農薬の売り上げはフランスで13年で3.3倍に急増している。
その結果、果物や野菜のPFAS汚染がヨーロッパ中に増えていることが市民団体の調査で判明した。イチゴ(37%)、桃(35%)などでPFASが検出され、その範囲はヨーロッパ中に及んでいる⁽¹⁾。農薬におけるPFAS使用禁止をこの団体は求めている。
現在、日本でも農薬の再評価が進められているが、添加剤としてのPFASに対して、どのような扱いなのだろうか? 農水省が推奨している下水汚泥肥料についてはPFASはノーチェックであることを考えると、農薬についてもノーチェックになっている可能性が高いのではないか。
水道水がPFASに汚染されていても浄水器を使えば、飲み水はなんとかなるかもしれない。でも、浸透性農薬でPFASが使われていたら、もう人体のPFAS汚染は避けようがなくなる(もちろん、自然の命は浄水器では守れない)。
農薬でのPFAS使用禁止、PFASが含まれる農薬の使用禁止を早急に求める必要がある。
明日は内閣府食品安全委員会によるあまりに甘すぎるPFAS規制を提言した健康影響評価に対するパブリックコメント締切最終日!⁽²⁾
(1) European citizens face increasing exposure to PFAS pesticides through fruit and vegetables
https://www.pan-europe.info/.../european-citizens-face...
Toxic Harvest: The rise of forever PFAS pesticides in fruit and vegetables in Europe
https://www.pan-europe.info/.../toxic-harvest-rise...
Europe's Toxic Harvest: Unmasking PFAS Pesticides Authorised in Europe
https://www.pan-europe.info/.../europes-toxic-harvest...
ヨーロッパでの農薬におけるPFASについての調査報告(34ページ)
EUROPE’S TOXIC HARVEST
UNMASKING PFAS PESTICIDES AUTHORISED IN EUROPE
https://www.pan-europe.info/.../PFAS%20Pesticides...
添付した図はフランスでのPFAS農薬の売り上げの推移 [略]
2008年 701トン ➡ 2021年2332トン
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