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株高と国民の貧困化  「投資立国」から「生活立国」へ(メモ)

暮らしや経済の好転の実感をともなわない「株高」。格差拡大、富と一方に於ける貧困の蓄積は、国内そして地球規模で進行している。その実態、要因、打開の方向について、2月、「赤旗」で続いた「連載」物のメモ。

≪株高の深層 ≫

≪ 資産運用立国の終着点 群馬大学名誉教授 山田博文さん ≫

≪オックスファム報告書を読む 政治経済研究所主任研究員 合田寛さん≫

≪株高の深層 ≫

■ 国民の貧困化 同時進行  2/15

・食品主要195社の価格改定動向調査を続けている帝国データバンク → 2023年はバブル崩壊以降の30年間で例を見ない「記録的な値上げラッシュの1年」。集計対象企業の値上げ品目数は3万2396品目に

 

  • 実質賃金は減少

・23年の消費者物価総合指数 前年比3・2%上昇(「消費者物価指数」)⇔ 現金給与総額(名目賃金)に物価の変動を反映させた実質賃金 前年比2・5%減、2年連続のマイナス(「毎月勤労統計調査速報」従業員5人以上)。➡ 1世帯(2人以上)当たり消費支出は月額平均29万3997円。物価変動の影響を除いた実質で前年比2・6%減。(「家計調査」)

・23年の日経平均株価  7369円(28%)も上昇 ~ 要因は海外勢の買い / 23年に海外投資家は東京・名古屋2市場で日本企業の株式を3兆1215億円買い越し(東証「投資部門別株式売買状況」)

・24年に入っても海外投資家の買い越しと日経平均株価の急上昇は継続

➡背景には (1)円安 (2)日本企業の自社株買いや株主配当金の増額 (3)株価純資産倍率(PBR)改革―など。

 

・異常円安 ~米国が物価抑制のための利上げにかじを切る中、日銀が大規模金融緩和に固執。金利の低い円を売ってドルを買う動きが強まったため。/日銀の植田和男総裁は、仮に今後マイナス金利を解除しても「きわめて緩和的な金融環境が当面続く」(24年1月23日の記者会見)と述べ、金利抑制政策を継続する姿勢を鮮明にした

・円安は海外で稼ぐ多国籍大企業の利益の円換算額を膨張 ~ 円相場が1ドル=100円から1ドル=150円になると、海外で商品を売って得た1ドルは、円換算で100円から150円に50%も増に。

 

  • 円安が上昇要因

・「日経」(23/11/15付)は独自集計に基づき、24年3月期の上場企業の純利益見通しが前期比13%増と9月時点の6%増から上振れし、3年連続で最高益になると報道~「円安の追い風に加え、国内外で値上げが浸透した」ためだと分析。➡ 多国籍大企業は、海外利益を膨らませる円安のメリットを大いに享受しながら、輸入資源価格を押し上げる円安のデメリットを国内商品の値上げで国民に転嫁している

★アベノミクス由来の金融緩和政策に起因する円安は、国民生活を貧困化させると同時に、大企業の利益を膨らませて株価を上昇させる要因に ()

 

■ 強まる株主資本主義  2/16

・株高の背景にある二つ目の事情 ~ 日本企業による「自社株買い」や株主配当金の増額(増配)

・自社株買いとは、企業が過去に発行した自社の株式を市場から買い戻すこと~ SMBC日興証券によると、東証株価指数(TOPIX)を構成する企業が2023年に決議した自社株購入額は計9兆3860億円と、22年の9兆2221億円を上回り、金額ベースで過去最高を更新しました。(グラフ1)

 

・株主還元の強化

・自社株買い 発行済み株式数を減らし、1株当たり利益を増やすので、株主還元の強化策~計画発表後には市場で株式が買われて株価が上昇する傾向にある。このため近年、自社株買いを企業に求める機関投資家が増加がいわれる。

・一方、増配は直接的な株主還元策  「日経」(23/12/24付)の集計によると、上場企業2350社の24年3月期の配当総額は16兆円で、過去最高になる見通しです。23年9月末時点から4000億円上振れ

 

・株高の背景の三つ目 23年3月に東証が上場企業に呼び掛けた経営改革 ~ 東証は上場企業に「資本コストや株価を意識した経営」を求め、株価純資産倍率(PBR)の引き上げを迫った。これが自社株買いや増配の流れを加速。

PBR  「株価÷1株当たり純資産」で算出され、各企業の株式時価総額がその企業の純資産の何倍になっているかを示す指標 ― PBRが1倍を下回る場合、「株価が安すぎて時価総額が企業の純資産より低く、会社を解散して資産を分けた方が株主の取り分が多い」状態とされる。

➡ 東証は上場企業の多くがPBR1倍割れだと指摘し、「株価に対する意識改革」を要請。PBR引き上げのためには株価上昇か資産圧縮が必要です。自社株買いは株価上昇に、株主配当は株価上昇と資産圧縮の双方につながる。東証の要請後、シチズン時計やウシオ電機など、「異例の大規模自社株買い」(「日経」23/6/9付)を打ち出す企業が相次ぎ

 

・従業員を犠牲に

・長期的にみても、株主還元は急激に強化(グラフ2)~ 22年度の大企業(資本金10億円以上、金融・保険を除く全業種)の配当金合計額は1990年度と比べて8・6倍に。当期純利益は5・7倍。他方で従業員1人当たり給与はわずか1・1倍(物価上昇で実質マイナス) 従業員を犠牲にして利益を伸ばした企業が株主への配当金を増やしたという構造

*岸田政権は「資産運用立国実現プラン」(23年12月13日策定)で「中長期的な企業価値向上のため、投資家と企業との実効的なエンゲージメント(対話)を促進する」と表明。企業経営における株主の優位をさらに推し進める姿勢。

→ 「新しい資本主義」ではなく、貧困・格差と金融危機を招いた米国流の「株主資本主義」が強められている

 

 

≪ 資産運用立国の終着点 群馬大学名誉教授 山田博文さん ≫

昨年の「骨太方針」(6月16日)~日本を「資産運用立国」に改革する方針を閣議決定。その内容と意味について、群馬大学名誉教授の山田博文さんによる解説。

 

(1)米財界に至れり尽くせり  2/20

 「貯蓄から投資」をめざしたのがアベノミクス~その行き着く先はアメリカを手本にした「資産運用立国」、昨年の「骨太方針」によってアベノミクスの国づくりの最終章がはじまったといえる。改革により日本は、一体どんな経済社会になるのか。

・日本の経済と社会がアベノミクスによって危機的事態に陥っていることは周知の事実~ 内外の大資本・投資家・富裕層はアベノミクスがもたらした円安と株高によってぬれ手で粟の富を実現/その対極で、消費税増税、社会保障・年金の削減、2000万人の働く貧困層、格差拡大、物価高など、国民生活は破壊されてきた。

 

  • 岸田政権が継承

・岸田政権の「資産運用立国」~アベノミクスをそのまま継承/13年9月、安倍元首相はアメリカ・ニューヨークの証券取引所で内外の投資家に向かって「バイ・マイ・アベノミクス」と日本への投資を呼びかけた。

・23年9月、岸田首相は世界の金融関係者が集まるニューヨーク経済クラブで次のように呼びかけた。「多くの米国を代表する財界人の皆さんにお話しする機会をいただき、感謝申し上げる。資本主義の中心であるここニューヨークを訪れたことをうれしく思う」「日本における資産運用セクターが運用する資金は800兆円で、足元3年間で、1・5倍に急増している。このパフォーマンスの向上を狙い、運用の高度化を進め、新規参入を促進する」「世界の投資家のニーズに沿った改革を進めるため、皆さんも参加いただいて、日米を基軸に、資産運用フォーラムを立ち上げたい」

 

  • 強い影響下暗示

・安倍元首相も岸田首相も政権の「骨太方針」をニューヨークで披露している~日本の経済改革がアメリカ政府と財界の強い影響下にあることを暗示e

→ ニューヨーク講演から2週間後、岸田首相は国内外約30社の機関投資家との意見交換会を首相官邸で開催/世界最大の米資産運用会社ブラックロック社のCEOも参加し、資産運用立国を掲げた日本が「驚異的な経済的変貌の途上にある」(「ブルームバーグ」23/10/6付)との認識を披露 ⇔ 岸田首相のニューヨーク講演は、既存の日本の資産運用会社を尻目に、海外の資産運用会社や投資家に至れり尽くせりのメッセージを送っていた。日本独自のビジネス慣行や参入障壁を取り払い、国内法や規制の圏外で各種の特典や優遇措置を保障する「資産運用特区」を創設するなどの内容

 

2)「格差大国」を追う日本 2/21

・「資産運用立国」とは・・・投資を活発化させ、内外の大資本・投資家・富裕層の持つ資産所得を増やす国づくり。

→ 所得の中でも、勤労者の給与所得でなく、利子所得・配当所得・不動産所得などの資産所得を増やす国づくり

・国民の半数にあたる約6000万人の給与所得者と金融資産を持たない3割の約1600万世帯は切り捨て、恩恵はない。

・「資産運用立国」にかじを切った日本の経済社会 ~ 勤労による給与所得に依存し「資産を持たない者」と、預貯金・株式・投資信託・不動産などの「資産を持つ者」の間で、貧富の格差を拡大 /かつての「1億総中流社会」、「和をもって貴しとなす」といった意識など吹っ飛び、社会的な摩擦が深刻になり、ギスギスした住みにくい世の中になるでしょう

・日本社会は、世界トップクラスの「貧富・格差大国」アメリカの後を追うことになる。

 

  • 逃げ足速い外資

・岸田政権 「資産所得倍増プラン」を掲げ、「我が国の家計に眠る現預金を投資につなげ」ることをめざしている~ 元本保証型の預貯金などの安全な金融資産を、ハイリスク・ハイリターン型の内外の株式・債券・投資信託などの金融資産へ移行させること/資産価格が上がれば棚ぼた式に利益が生まれますが、下がれば虎の子の資産すらなくなるリスクにさらされる(メモ者 意識も、目先のもうけを追求する「資本」に包摂させられる)

・さらに、日本の「資産所得倍増」を中心的に担う資産運用会社は、ニューヨークに本拠地を置くブラックロック社など、逃げ足も速い外国資本~「資産運用特区」を拠点に荒稼ぎをした後、国内法の適用されない海外に拠点を移されると、不正があっても対応できない ➡「資産所得倍増プラン」とは、外資依存のいわば「ばくち立国プラン」といえる。

 

  • 「失われた33年」 

・そもそも「金融立国」「資産運用立国」とは、財・サービスなどの実体経済を豊かにすることではない~ それ自体なんの価値もなく、配当金や利子などへの資金請求権を持つだけの株式や債券(=架空資本)への投資を活発化させ、金融経済を盛り立てようとする国づくり。

・予測不能の事態から発生する価格変動や通貨の相場変動にさらされる国づくりのこと~確実に利益をえるのは、「投資運用業」を担う金融業界と相場の変動をリードできる内外の大口投資家だけ。

・20世紀末のバブル経済の膨張と崩壊を経験した日本の経済社会は、「失われた33年」の長く暗いトンネルに入り込んだ~株価暴落で破綻した企業・金融機関・個人投資家は数知れず。国民は、金融機関や企業の抱えた100兆円を超える不良債権のリスクを転嫁された

・大銀行や大企業に税金が投入され、消費税が導入されて税率が上げられる一方、企業を助けるため法人税の税率は下げられてた。(メモ者 低金利政策などもある)。/円高になると、大企業は海外に生産拠点を移転し、国内産業と雇用は空洞化し、円高不況に。最近のような円安になると、エネルギー・資源・食料品など各種輸入物資の価格が暴騰し、国民生活は物価高に襲われている(メモ者 多国籍業は、海外の売上がのびなくても、円建て利益は増大)。

 

(3)個人が損失リスク負う 2/22

 金融庁のリポートで「老後の生活資金は2000万円不足する」との指摘があって以来、メディアは老後の資金をどう蓄えるかといったキャンペーンを張ってきました。高い利回りを期待して投資を選好する風潮が広がっています。少額投資非課税制度(NISA)に注目が集まり、利用が増大しています。

 

  • 金融資産を誘導

 低金利であっても元本保証の安全な預貯金として蓄えられている国民の金融資産を、ハイリスクハイリターンの投資に誘導する制度がNISAです。安倍政権下の2014年にスタートしました。

 預貯金からの利子所得には20%課税されますが、NISAを利用した株式投資などからの資産所得は非課税に。100万円を利子で受け取ったら20万円を税金で差し引かれますが、株式の配当金や売買益なら非課税という制度。税率に格差をつけるやり方で「貯蓄から投資」に資金を誘導するねらい~ 30~50歳代を中心にNISAの利用者が増大。金融庁によれば、証券会社や銀行など民間金融機関に開設されたNISAの口座数・買付額は、最近の5年間でほぼ倍増し、口座数で2034万・買付額で34兆円(23年9月末)に達した。

・戦後日本の金融は、銀行が個人の預貯金を受け入れ、それを企業への貸し出しや投資に向ける間接金融が中心でした。低利とはいえ個人は銀行から安定的に利子を受け取る一方、貸出金が焦げ付き不良債権になった場合の損失は銀行が引き受けていました。

・NISAは、個人が自己責任で価格変動リスクのある株式や債券などに投資する直接金融。発行体の企業倒産などで株式や債券が無価値になり、投資したお金がなくなっても、すべて個人の損失。NISAの窓口になった証券会社や銀行などは、手数料を受け取るだけで、損失を被ることはない。

 

  • 自社の利益優先

 政府の「資産運用立国」に先立ち、東京都は17年から「国際金融都市・東京」を吹聴~でも東京都の国際金融都市ランキングは下がる一方。近年急成長した上海・ソウル・深セン・北京などにも追い越され、5位(16年9月)から20位(23年9月)に転落(「グローバル金融センターインデックス〈GFCI〉」)

➡その背景の一つ。日本の金融機関の経営が顧客よりも自社利益の優先にある/金融庁は次のような厳しい指摘

 「販売手数料獲得を目的とした顧客本位ではない販売行動が見受けられる」「家計・個人への運用商品の情報開示も十分ではなく、中立的な第三者による運用商品の比較や評価も充実していないため、家計・個人と資産運用業界との情報の非対称性は大きく、牽制が働き難い」(金融庁「資産運用業高度化プログレスレポート2023」)

・NISA利用の個人の投資環境はこのように深刻 ⇔ そこで日本の金融機関に代わって、日本で台頭してきたのが米ウォール街や英シティーの金融機関・資産運用会社。しかも政府が後押し

 

(4) 外資に追従の日本政府  2/25

・2000兆円を超す家計の金融資産・・・内外の金融機関・投資会社・運用会社の争奪戦にさらされてきた。

→とくに米政府と財界は、郵貯や財政投融資などの日本の公的金融体制の解体、金融の自由化・国際化の推進など、日本に「金融開国」の圧力 /90年代、「日本政府に対するアメリカ政府の要望書」をもとに、日本改造の中身を指示。日本政府は、その要望書に沿って日本の体制を改造してきた。

 

  • 「株主資本主義」

・2001年度 米政府・財界主導の金融大改革(日本版ビッグバン)が超過達成され、以降、アメリカ型金融経済システムがフル回転➡ 結果、「株式会社日本」の最大株主は、アメリカ勢を中心とした外国資本に。

・日本の主要な金融機関・企業の最大株主になった外国資本~ 「物言う株主」として株主総会をリードし、日本経済のあり方を「株主資本主義」に改造 。その中身・・・

▽企業経営は従業員の賃金や福利厚生に責任を持たない

▽長期投資・設備投資よりも株主への配当金を優先する

▽生産する財・サービスより、株価や収益率を重視した効率的な経営を行う

➡終身雇用・年功序列型賃金・企業福祉といった、従業員に安定した生活基盤を提供してきた「日本的経営」を破壊

・非正規雇用者が増え、賃金が抑制され、国民生活が貧困化、不安定化する一方、株主への配当金・企業の利益剰余金(内部留保)・富裕層の金融資産などは増大。日本社会は貧富の二極分解し、社会的摩擦が高まった。

・企業や家計の金融資産の運用が活発化~資産運用の担い手は、ノウハウや実績で米系巨大金融機関や運用会社に

 

  • 100兆円資本逃避

・「資産運用立国」の姿をすでに体現しているのが、200兆円の公的年金積立金の運用状況~ その半分の100兆円は、日本から資本逃避(キャピタルフライト)し、外国の株式や債券に投資に

➡国民生活や企業経営にとってマネーは不可欠な血液のような存在。とくに年金積立金のような長期貯蓄性資金が海外へ逃避すると、日本経済は弱体化する。

・世界最大の資産運用会社である米ブラックロック社は、日本の年金積立金の多くを運用~、3年3月末の運用資産時価総額200兆円のうち2割近くとなる37兆円を運用(GPIF業務概況書)/他社を含めると、外国の巨大資産運用会社・金融機関が4割近くを支配し、積立金は、リスクの高い内外の株式・債券市場で運用。

 

(5)国民の望みは「生活立国」  2/24

・「貯蓄から投資」を掲げた2013年度以来のアベノミクス ~大資本・内外の投資家・富裕層は、資産所得を膨張させ、金融資産は歴史的な水準に / 他方で、多数の国民は、超低金利と賃金の抑制で資産と所得を低水準に抑え込まれた。➡日本の貧困率は世界のトップクラス。そのうえ、物価高に直撃され、生活が困窮

 

  • 欧州が取り組む

・国民の多数が望んでいるもの~時々刻々変動する株式や円ドル相場に追い回される投資家の慌ただしい生活ではなく、北欧諸国に見られるような充実した社会保障制度に支えられた安定したライフスタイル/時間に追い立てられず、個人の多様な才能や能力が開花し、個人の成長が社会の豊かさにつながるような「生活立国」

・政府に求められる喫緊の課題 ~

▽物価高の抑制 

▽可処分所得の引き上げ

 ▽社会保障の拡充 

▽労働時間の短縮と自由時間の拡大 

▽個人の能力を開花させるための授業料の無料化 

▽世界トップクラスのジェンダーギャップの解消―など。

さらに、エネルギーや食料の自給率を高め、原発から再生エネルギーに転換し、地球環境に寄り添った持続可能な経済社会を確立すること。 

  • 北欧などEU諸国で取り組まれている事柄。日本にできないはずがない。

 

  • アジアでの共栄

・アジア経済圏 欧米の経済圏を追い抜き、世界最大の経済圏に~ 世界支配の既得権を維持しようとするアメリカは、中国を抑え込み、アジアの経済成長の成果を取り込むことに躍起/「惨事便乗型資本主義」よろしく「台湾有事」をあおって、軍事費を倍増させ、アメリカ製兵器を大量に売りつけ、日本や韓国を巻き込む中国封じ込め戦略を展開

➡が、日本がアメリカの覇権維持に協力すれば、構造転換した世界経済において日本の国益=企業と国民生活の利益を損なうことに/ 最大の貿易相手国である中国を仮想敵国にするなど、常識的には理解不能で、日本自滅の道。

・中国との貿易がたった2カ月停止した場合~ 日本はGDPの1割に当たる53兆円を消失。食料が途絶え、国民は極度の食料危機に/食料自給率の低さからも、「世界で最初に飢えるのは日本」(鈴木宣弘東京大学教授)に

➡ こんな事態をもたらす日中対立は、企業も、国民も、誰一人として望んでいないはず

・ 政府の「骨太方針」に求められるもの~ 中国をはじめ、世界経済をリードするようになったアジア諸国との共存共栄の方針。弱体化する日本経済にとっても、アジアの平和にとっても、21世紀の明るい展望を切り開く道

 

 

≪オックスファム報告書を読む 政治経済研究所主任研究員 合田寛さん≫

 国際NGOオックスファムは1月15日、各国の要人が一堂に会する世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に合わせて、独占的大企業の力の増大が世界的な不平等拡大の原因だとする報告書を発表。政治経済研究所主任研究員の合田寛さんによる報告書のポイントを紹介

 

  •  「分断の10年」の始まり  2/27

・オックスファムはこれまでにも毎年のように、世界に広がる極端な不平等に警告を発してきた。

・今回、2020年代は「分断の10年」の始まりだと見立て~新型コロナウイルス感染症のパンデミックで始まり、ロシアによるウクライナ侵略など世界各地で紛争が激化、気候変動の加速、さらには生計費の高騰という、世界のほとんどの人々にとって前例のない厳しい時代を迎えている。/そのなかで、世界人口の半数以上が貧しくなった一方、世界トップの富豪5人は富を倍増させたと報告書は指摘

 

〇独占が不平等に

・異常な不平等の危機は24年に入り「ニュー・ノーマル(新しい日常)」になりつつあり、不平等を容赦なく生み出すマシンは、大企業とその独占的な力だと断じている ~ たとえば世界最大の富豪の1人であるジェフ・ベゾス氏(アマゾン創業者)の所有する富 20年から327億ドル増え、1674億ドル(約25兆円)に/ベゾス氏を含めた世界で最も裕福な5人の総資産が20年比で2倍超の8690億ドル(約130兆円)に増えた一方、全世界で50億人が以前より貧しくなっている。

・富裕者と並ぶもう1人の勝者はグローバル大企業 ~ 21~22年の世界の大企業の利益は、17~20年の平均と比べて89%増という大幅増を記録。/たとえば石油ガス大企業14社の利益は23年に18~21年平均の278%という急増。製薬大企業11社の利益は22年に32%増、金融大企業22社の利益は32%増

➡ これらの利益増の大部分はコロナショックや、戦争ショックなどによる「棚ぼた利益」。

 

〇「棚ぼた」利益増

・この大企業の利益大幅増の最大の受益者は富裕者~超富裕者の多くは所有する企業のオーナーとして巨額の株式を所有。ウォーレン・バフェット氏(バークシャー・ハサウェイ最高経営責任者〈CEO〉)は、所有する富の99%、ザッカーバーグ氏(メタCEO)は95%を、ジェフ・ベゾス氏は83%を、それぞれ自社の株式で所有

・世界の50社の大企業のうち17社、10大企業のうちでは7社が、CEOまたは主要株主が同時に億万長者。巨大企業の利益増は富裕者をますます富裕にしている。

 

(2)政府上回った独占の力 2/28

・報告書・・・世界の超富裕層は巨大企業の利益を手にする単なる受け身の受益者ではなく、支配的株式を保有する企業のオーナーとして巨大な力を持っている、と指摘/巨大企業は集中・合併を繰り返し、ますます巨大化し、その力を利用して経済と政治に大きな影響を与え、国家の保護を受け、市場を独占する力を持つに至っている。

 

〇価値移転の役割

・独占大企業~ 単に大きいだけでなく、交換条件やルールを設定し、市場を支配する強大な力を振るうに至っている。その力で、低賃金と劣悪な労働条件で労働者を酷使し、中小企業を圧迫するとともに、エネルギーや食品、製薬などの価格を高く設定し消費者から搾り取っている。

・報告書が引用した134カ国の7万社を対象にした長期の調査 ~ コストに対する価格の比率(マークアップ比率*)は1980年の7%から2020年には59%に上昇(1.071.59

「マークアップ率」・・・分母をコスト(限界費用)、分子を販売価格とする分数であり、製造コストの 何倍の価格で販売できているかを見るもの。この値が1のとき、販売価格はちょうど費用を賄う分だけを捻出していることになる(内閣官房)。

・世界中の企業利益に占める多国籍企業の利益の割合は、1975年の4%から2019年の18%へと増加。とりわけ21世紀に入って以降その傾向が顕著に

→ 独占大企業は高い利ザヤで価格をつり上げ、競争者を排除することでますます強大な力を持つに至った/独占力は経済全体を通じて、労働から資本へと価値を移転。可処分所得は配当、株などの売買差益によるキャピタルゲイン、重役報酬などの形で逆進的に再分配

 

〇民主主義脅かす

・今や独占の力は政府を上回るまで肥大 ~ アップル社の株式の時価総額は一時3兆ドル(約450兆円)を突破/これはフランスの国内総生産(GDP)よりも大きな数字。アップルを含む世界の最大企業5社の株式の時価総額は、アフリカ、ラテンアメリカ、カリブ諸国のGDPの合計を上回っている。

・経済力を少数者の手に集中させるうえで、巨大投資ファンドの果たす役割が大きい/なかでもブラックロック、ステート・ストリート、バンガードの3社は合わせて20兆ドル(約3000兆円)以上の資金を管理・運用する巨大ファンド。近い将来、米国の主要企業は12人の人物によって支配されるという識者もいる。

・元米大統領フランクリン・ルーズベルトの警告~企業の力が政府の力を上回れば、民主主義と自由は安全ではない⇔報告書は、「独占は力そのものであり、民主主義の領域から政治的決定を奪い取る力だ」と強調。

 

3) 大企業がつくる不平等  2/29

・ 報告書は、大企業の力の増大、独占力の強化が不平等拡大の最大の原因、と指摘。

 

〇富裕者へ富移転

・第1 労働者から富裕者への富の移転 ~この数十年は世界の多くの労働者にとって過酷な時代

~巨大企業は強大な力と、グローバル・バリュー・チェーンを通じて労働者に低賃金、権利の抑圧、ひどい労働条件を押しつけ/一方、大企業と企業の重役には空前の利益と途方もない報酬を、株主には莫大な富をもたらした。

・さらに強大な力を持った大企業は、潤沢な資金を使った献金やロビー活動で政府に働きかけ、企業に都合のよい労働政策のために影響力を行使~その結果、政府は賃上げや労働条件の改善ではなく、大企業やそのオーナーを豊かにする政策を選んだ /報告書・・ 2022年7月から23年6月までの1年間に大企業が生み出した100ドルの利益につき82ドルが、配当と自社株の買い戻しの形で株主の手に。富裕層を不釣り合いにより豊かにした。

 

〇税制「戦争」に勝利

・第2 税制に対する“戦争”に勝利 ~ 大企業やそのオーナーは豊かな資金力で、活発なロビー活動を展開 

→ 80年代以降の税制改革で、法人税の税率は半減し、配当や株式売却益に対する所得税も大幅に軽減/またタックスヘイブンの悪用によって、大企業は表面税率よりも相当低い実効税率(しばしばゼロ税率)で税逃れを実施。

➡その結果生じた財源不足対策として、各国では付加価値税(消費税)を中心とする逆進性の強い税体系が強化された。

 

〇公共財を民営化

 第3 民営化による公共サービスの収益事業化~強大な企業の力は公的部門を「商品化」し、利益獲得の新たなターゲットに/富裕者は、高価なサービスを利用。一般の人々は、生活に欠かせないサービス利用の制限、排除に。

・民営化の手法~従来型の国有企業売却のほか、近年、官民連携方式(PPPs=パブリック・プライベート・パートナーシップ)、あるいは外部委託方式が多く採用、(メモ者 運用権の売却 コンセッション方式も)。

・対象となる分野~教育、医療、介護、水道、道路など、幅広い公共サービスに 

・多くの民営化は、企業に巨額の利益を保証する一方、財政上のリスクは納税者の負担に(メモ者 「再公有化」の動き)

 

(4)格差と分断の広がり  3/1

・報告書は、大企業と富裕者の力の増大が、労働者の低賃金と厳しい労働、不安定な雇用を生み出し、とりわけ女性や移民など弱い立場の人たちにもっとも重い負担を押し付けていると指摘。

男性と女性の賃金格差 ~報告書が引用した研究では、男性が労働で1ドルの所得を得る間に女性はわずか51セント(2019年)。女性の所得は全世界の総労働所得の35%(22年)というデータも /1600社の大企業を対象にした調査  ジェンダー平等に取り組んでいる企業 24%。男女の賃金比率に関する情報を公開している企業 2・6%。

 

〇無償のケア労働

・大企業の力の増大と高収益の背景 ~女性や少女による低賃金または無償のケア労働の存在 

・20年のオックスファムの調査~女性・少女は世界の無償のケア労働の3/4を担当。女性・少女による無償ケア労働の経済価値は少なくとも年間10・8兆ドル(約1620兆円)に上り、世界のハイテク産業の3倍以上の規模 /特に中東、北アフリカなどの貧困な国では、無償ケア労働の従事時間が週17~34時間。男性の1~5時間と大きな格差。

 

〇ノースとサウスの格差

・ノースの国々~植民地時代の遺産を受け継いで、有利な経済ルールをつくり、サウスの富を移転 /ノースとサウスの間の格差、25年ぶりに拡大~ノースの国々 世界人口の21%。が、民間の富の69%、世界の億万長者の富の74%が集中。

・気候変動の悪化、戦争、コロナ禍はグローバルな富の不平等を一層強化~サウスのいくつかの国の政府は、燃料、食糧、薬品の輸入のためのコストが高騰し、巨額の債務を積み重ねている 

→ 累積債務の元利支払いのため、低・中所得国は29年までに1日5億ドル近くを充当が迫られる~貧困国の57%以上、約24億人の母国は、今後5年間で、2290億ドル(約34兆円)の公共支出の削減に。その額は22年のODAの総額を上回る。公共支出の大幅削減は、女性、片親、移民など差別された人たちに、もっとも厳しく迫ることになることは確実。

 

(5) 目前にオルタナティブ 3/2

・報告書の最後~ すべての人のための経済に向かうにはどうすればいいのか、課題を提起

 

〇企業の力を制限

1 最富裕者とそれ以外の人々の間の格差縮小、世界の平等レベルを根本的に引き上げること、2 企業の力を制限

・企業の力を制御する方策 ~ 三つの課題の提示

  1. 国家の活性化。企業の権力に対する最大の防波堤になる有能で強力な国家つくり

市場の失敗を是正し、共同の目標に向けて経済のかじを取る~経済のどの部分を公的部門が提供すべきかは国ごとに異なるが、/医療・保健、教育、介護、社会的保護など不平等を無くすためのサービスは、公共部門が所有し供給する/公共交通、エネルギー、住宅、その他の公共インフラ、気候変動に対応するための対策などの公共的な分野への投資

  1. 大企業と富裕者の力を制御するため、独占を解体し、企業の力を制限する~ 独占的企業の力を分散化し、行きすぎた集中を規制し、国有化などの措置をとる/また知識の独占を排除し、特許権に関するルールを民主化する

・労働者の状況を改善するため、生活できる賃金と働きがいのある人間らしい仕事を与えること。労働組合結成とストライキの権利を認める/経営トップの報酬額は一般労働者の20倍以内などのルールをつくること。

・富裕者が所有する富に対し、累進課税する恒久的な富裕税の創設、配当・株式譲渡益に、労働所得と同じ税率か、より高い税率を課すこと/大企業に、コロナショックや戦争ショックによる「棚ぼた利益」など超過利益への課税、多国籍企業に対しタックスヘイブンなどへの利益移転を認めず、実際に経済活動があったところで税を支払わせることなど

 

〇ビジネスの変革

  • ビジネスの在り方を変革する課題~現行の企業構造は、少数のエリートの利益を目指して経営→ 主要企業に民主的な所有とガバナンスを注入し、不平等を正すのみならず、社会問題により良く応える企業モデルを構築すること

→ その芽は世界のいたるところで生まれつつあり、オルタナティブは目の前にあると、報告書は締めくくっている。

 

 

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