2024国際女性デー 差別・格差の根っ子に、非正規、奨学金ローン
【2024国際女性デー 働く女性の法的保護 日本は男性の7割 主要国で最低 世銀報告書 赤旗3/8】
【新データが示す予想以上に広範な世界のジェンダーギャップ 世界銀行24/3/4】
【女性の働きやすさ順位 日本はOECD29カ国中27位 時事3/9】
その要因に、迫る記事。特に、「奨学金」の問題は、新たな気付きだった。
【日本女性が子育て後に正規雇用に復帰するチャンスは依然として閉ざされている NEWSWEEK 3/13】
【奨学金受給が与える、高等教育卒業後「結婚人生の落差」 女性だけが負の影響が大きいナゾ...慶応大学が驚きの研究 J-CAST 3/11】
これらは、男性も含めて、雇用や教育の政策が貧しいことの矛盾が女性に集中している、というこで、女性問題だが、普遍的な課題である。
【2024国際女性デー 働く女性の法的保護 日本は男性の7割 主要国で最低 世銀報告書 赤旗3/8】
国際女性デーを前に世界銀行は、女性の就労や起業におけるジェンダー格差が世界で拡大しているとする報告書を公表しました。法制度が男性に与える権利を100とした場合、日本の女性は72.5%しか法的な保護を受けておらず、法制度上の男女格差は主要先進国で最低になりました。
年次報告書「女性・ビジネス・法律」(4日)は、190カ国・地域で、女性を保護するための法律の状況を調査。「職場」「賃金」「育児」など従来の8指標に加え、「暴力からの安全」「保育へのアクセス」の二つを追加して評価した結果、世界全体の数値は前年比で約13ポイント低い64.2%に後退しました。
女性が男性の7割しか法的保護を受けていない日本の数値は、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均(84.9%)を大きく下回っています。「暴力からの安全」で低い評価となっています。
男女間の賃金格差も低評価で、同一価値労働同一賃金を義務づける法がない、と指摘されています。
世界銀行は、日本政府に対し、「安全」指標の改善のために、家庭内暴力(DV)や、女性を標的にした殺人に対する法整備、セクシュアルハラスメントに関する包括的な立法措置を促しています。
報告書は「公の場でのセクハラを禁止する法律を制定している国が39カ国しかない」と警告。育児に関しても「女性が男性より1日平均2.4時間も無報酬のケアワークに費やしており、その多くが子どもの世話」に時間を割かれていると指摘しています。
【新データが示す予想以上に広範な世界のジェンダーギャップ 世界銀行24/3/4】
女性は男性の3分の2しか法的権利を享受できていない
ワシントンDC、2024年3月4日—世界銀行グループは本日、職場におけるジェンダーギャップが世界的に従来の想定よりはるかに広範にわたっていることを示す先駆的な報告書を公表した。暴力と育児に関する法的差異を考慮すると、女性は男性の法的権利の3分の2以下しか享受していない。女性の機会平等を提供する国は皆無で、最富裕国でさえも付与していない。
最新版の「女性・ビジネス・法律」 報告書は、女性が世界の労働力に参入し、自分自身や家族、地域社会のさらなる繁栄に貢献する際に直面する障害の全体像を提供している。分析の範囲を拡大し、女性の選択肢を広げるか制限する上で重要となり得る2つの指標、暴力からの安全と育児サービスへのアクセスを追加した。これらの指標を含めると、女性が享受する法的保護は平均して男性の64% に過ぎず、前回の推定値 77% よりもはるかに低かった。
実態上で見ると男女間の格差はさらに広がる。「女性・ビジネス・法律」では、190カ国・地域の関連法改正と女性への実際の成果とのギャップを初めて分析した。そのギャップはショッキングなほど大きかった。法律上は、女性は男性の約3分の2の権利を享受することが示唆されているが、その完全な行使に必要な制度の確立は各国で平均して40%未満だった。たとえば、98カ国・地域が、女性の同一価値労働に対する同一賃金を義務付ける法律を制定している。しかし、賃金格差に対処するために賃金の透明性措置や強制メカニズムを導入しているのは、全体の5分の1にも満たない35カ国だけだ。
機会均等法の効果的な実施は、強力な執行メカニズム、男女間の賃金格差を追跡するシステム、暴力被害にあった女性に対する医療サービスの利用の簡便性など、適切な支援枠組みにかかっている。
「女性には低迷する世界経済を大躍進させる力がある」とインダーミット・ギル世界銀行グループ首席エコノミスト兼開発経済担当上級副総裁は述べた。「しかし、世界中で、差別的な法律や慣行により、女性が男性と同等の立場で働いたり、起業したりすることが妨げられている。この差を縮めれば世界の国内総生産は20%以上増加し、今後10年間で世界の成長率は実質的に2倍になる可能性があるが、改革は行き詰まっている。今回の報告書は、ビジネスと法律における男女平等に向けた進歩を加速するために政府ができることを特定している」
この実施ギャップは、機会均等法を制定している国でさえも、いかに多くの難しい作業が待ち受けているかを浮き彫りにする。例えばトーゴは、男性が持つ権利の約77%を女性に与える法律を制定、これはアフリカ大陸の他のどの国よりも多くサハラ以南諸国の中でも際立っている。しかし、トーゴはこれまでのところ、完全な実施に必要なシステムのわずか27%しか確立しておらず、この率はサハラ以南の経済では一般的だ。
2023年、各国政府は賃金、親の権利、職場の保護という3分野の法的機会均等改革を積極的に推進した。それでも、ほぼすべての国で、初めて調査した2分野、つまり育児サービスへのアクセスと女性の安全での評価が低かった。
最も低かったのが女性の安全で、世界の平均スコアがわずか36だった。この数字は女性が家庭内暴力、セクシャルハラスメント、未成年結婚、女性嫌悪殺人からの防護に必要な法律の3分の1しか整備されていないことを意味する。151の国・地域で職場でのセクシャルハラスメントを禁ずる法律があるものの、公共の場で禁ずる法律があるのは39にとどまる。これはしばしば女性が公共交通手段を使って職場へ行くのを妨げている。
大半の国で、育児関連の法律のスコアも低かった。女性は男性よりも無給の介護労働に 1日平均2.4時間多く費やしており、その多くは子供の世話に充てられている。育児サービスへのアクセスを拡大すると、当初は女性の労働力参加が約1パーセントポイント増加する傾向があり、その効果は5年以内に2倍以上になる。現在、幼い子供を持つ親に何らかの財政または税制上の支援を提供しているのは、全体の半分にも満たない78カ国・地域だけとなっている。保育サービスを管理する質の基準を設けているのは3分の1未満の62カ国・地域だけであり、この基準がなければ女性は子どもを預けながら仕事に行くことを躊躇する可能性がある。
女性は他の分野でも非常に大きな障害に直面している。例えば起業の分野では、性別格差がないように配慮した公共調達プロセスを整備しているのは全体の5分の1にとどまり、これは女性が1年で10兆ドルに上る経済機会からおおむね締め出されていることを意味する。賃金の面では、女性は男性が受け取る1ドルの仕事で77セントしか支払われない。この権利格差は退職にも広がっている。62カ国・地域で定年退職年齢が異なっている。女性は概して男性より長生きするが、給与が男性より低く、育児の際には仕事を離れ、男性より若く退職するため、老年期の年金給付が少なく、経済的不安が大きくなっている。
「法制改革と女性が働きビジネスを起こし成長させる公共政策を制定する取り組みを加速することが従来にも増して緊急の課題となっている」と同報告書のティー・トランビック主筆者は述べた。「今日、女性の半数しか世界の労働力へ参加していないが、男性はほぼ4分の3が参加している。これは不公平であるだけでなく、不経済だ。女性の経済参加を拡大することが女性の声を高め、自らに直接影響を及ぼす諸決定を自分でできるようにする鍵である。各国は人口の半分を占める女性を単に傍観者のままに留める余裕はない」
【女性の働きやすさ順位 日本はOECD29カ国中27位 時事3/9】
英経済誌
【ロンドン=時事】8日の「国際女性デー」を前に、英経済誌「エコノミスト」が発表した女性の働きやすさランキングによると、日本は経済協力開発機構(OECD)に加盟する主要29カ国中27位でした。
男女の労働参加率や給与の差、育児休暇の取りやすさなど10の指標に基づき分析しました。日本は企業の管理職に占める女性の割合が14.6%(OECD平均は34.2%)と低かったほか、国会議員(衆院)の女性比率も10.3%(同33.9%)にとどまりました。
一方、父親の育児休暇制度について同誌は「日本と韓国はOECDで最も寛大な制度を設けている」と評価。ただ、「家にいることを選ぶ父親はほとんどいない」と指摘しました。
首位は2年連続でアイスランド。スウェーデン、ノルウェー、フィンランドが続き、北欧諸国が上位を占めました。日本はトルコを抜いて前年より順位を一つ上げました。最下位は韓国。
女性の働きやすさランキング
1(1)アイスランド
2(2)スウェーデン
3(4)ノルウェー
4(3)フィンランド
5(6)フランス
14(14)カナダ
16(16)イタリア
19(17)英国
21(22)ドイツ
22(19)米国
27(28)日本
28(27)トルコ
29(29)韓国
(注)カッコ内は前年度の順位
【日本女性が子育て後に正規雇用に復帰するチャンスは依然として閉ざされている NEWSWEEK 3/13】
<子育て後の女性の働き方を見てみると、仕事への復帰チャンスは主に非正規雇用だ>
イギリスの経済誌「エコノミスト」が、29カ国の「女子の働きやすさ」を指標化しランキングにしたところ、日本は下から3番目だったという。賃金の性差が大きく、女性の場合、年齢が上がった正社員でも年収の中央値は400万円を超えない(ガラスの天井)。こういう現実があることを思うと頷ける結果だ。
そもそも日本は、働く女性の割合も先進国の中では低い。性別役割分業が強く、家事や育児等の負担が女性に偏るためだ。女性の就業率の年齢カーブを描くと、結婚・出産期に谷がある「M字」になるのはよく知られている。 政府の白書をみると「M字の底は過去と比べて浅くなっており、様々な施策の結果、女性の社会進出が進んだ結果だ」などと(誇らしげに)書かれている。確かにそうだろうが、働き方の中身も気になる。
フルタイム就業、パート就業、無業という3カテゴリーの内訳をグラフにすると<図1>のようになる。
<図1> 左は1985(昭和60)年のグラフだが、働いている者(青色+オレンジ色)の割合を見ると、20代後半に谷がある明瞭な「M字」型になっている。
男女雇用機会均等法が施行される前の年で、性役割分業が強かった当時の状況が出ている。
現在では様相はかなり変わり、働く女性の割合は上がり、M字の底も浅くなっている。フルタイム就業者の割合も増えている。
だがこれは、未婚で働き続ける女性が増えたためでもあるだろう。よく見ると2020年では、就業率の盛り返しはもっぱらパート就業の増加による。フルタイム就業は結婚・出産期に下がった後、盛り返しを見せていない。「M」ならぬ「L」になっている。 同一世代を追跡したデータではないが、フルタイム就業への復帰のチャンスが閉ざされている、ということだろう。
1985年では「主に仕事」の割合の再上昇がややあるが、自営業がまだ多かったためかもしれない。しかし雇用労働化が進んだ今では、女性のフルタイム就業率のカーブは「L字」型になってしまっている。
政府の白書では、M字の底が浅くなったことをもって、女性の社会進出の進展などと書かれているものの、働き方の中身を透視すると、子育て後の女性の復帰チャンスは主に非正規雇用だ。
他国も同じかというと、そうではない。<図2>は、フルタイム就業者の割合を年代ごとに出し、線でつないだグラフにしたものだ。日本を含む主要6カ国のカーブが描かれている。
<図2> 日本だけが明瞭な右下がりになっている。年齢を上がるにつれ女性はフルタイム就業(正規雇用)から退き、復帰のチャンスもない。サンプルが少ない標本調査なのであくまで参考だが、日本の特異性が注目される。
未婚女性が希望するライフコースで最も多いのは、家のことと仕事を両立する「両立型」だが、現実の予想としては「非婚就業継続型」が最多だ(「子どもは欲しいがワンオペはきつい...非婚就業に傾く日本の女性の理想と現実」2024年2月7日、本サイト掲載)。
言い方はよくないが、結婚による損失を意識してのことだろう。 女性の高学歴化が進んでいることもあり、キャリアの断絶や減収といった「損失」は、昔に比べてより強く意識されるようになっている。これを回避するには、男性の家事・育児分担率を高めなければならない。未婚化・少子化に歯止めをかけるには、ジェンダー平等の視点が求められる所以だ。 <資料:総務省『国勢調査』、 「ISSP 2020 - Environment IV」>
【奨学金受給が与える、高等教育卒業後「結婚人生の落差」 女性だけが負の影響が大きいナゾ...慶応大学が驚きの研究 J-CAST 3/11】
2024.03.11 福田 和郎
*図は略、もとのウェブ記事をみてください
貸与型奨学金を受給した女性が、結婚のタイミングが遅くなり、出産する子どもが少なくなる傾向にあることが、慶應義塾大学などのグループの研究でわかった。
男性のライフステージには特に影響がみられないため、研究グループでは、奨学金の負債返済が女性の結婚や子持ちに負の影響を与えている要因として、女性の低賃金や既婚女性の家事負担集中などの可能性を推測している。 最近、大学生の奨学金受給率が高まっており、少子化が深刻化するなか、家族形成への影響にも配慮した奨学金制度のあり方が問われそうだ。
同じ女性でも、大卒より専門学校や短大卒に負の影響が大きい
独立行政法人・日本学生支援機構などから奨学金を受ける学生は、1990年代は10%台だったが、近年は40%台にはね上がっている。40代半ばまでの成人のうち、4人に1人が奨学金を利用した計算になる。
奨学金には「貸与奨学金」と「給付奨学金」がある。とくに、前者の「貸与奨学金」は学費や生活費を「借りる」奨学金。在学中は返済の必要はないが、卒業後は働いて返済していかなくてはならない。
一方、後者の「給付奨学金」は返済の必要がないが、受給できる基準が厳しい。住民税非課税世帯か、それに準ずる世帯に限られるため、利用できる学生は少ない。
2020年以降、給付奨学金は大幅に拡充されているが、我が国の奨学金は依然、大半が貸与奨学金だ。その結果、毎年30万人前後の若者が奨学金の負債を抱えたまま、社会に巣立ち、暮らしや家族形成への影響を心配する声が出ている。
奨学金は大学進学の下支えになる一方、負債が若年世代に与える影響の懸念は各国で広がっている。
たとえば米国では、奨学金負債が若者の就職、転職、結婚、出産、車・住宅の購入などに及ぼす影響の実証研究が数多く発表されている。しかし、日本では若者の結婚、出産に与える影響を検証した実証研究がほとんどなかった。
そこで、2024年2月26日に「奨学金の負債が若者の家族形成に与える影響-『JHPS第二世代付帯調査』に基づく研究」を発表したのが、慶應義塾大学経済学部附属経済研究所の王杰(ワン・ジェ)特任講師や同学部の赤林英夫教授らの研究グループだ。
研究グループは同研究所の「パネルデータ設計・解析センター」と「こどもの機会均等研究センター」が2017年に収集した社会人データのうち、20~49歳の高等教育を受けていた対象者568人を分析した。このデータには、在学時点での詳細な成績、奨学金情報や、卒業後の婚姻、出産などのライフイベントに関する情報が含まれている。
奨学金の負債返済が専門学校・短大・大学等を卒業した後のライフイベント(結婚確率)にどんな影響を与えるか。
「奨学金を利用したグループ」(Loan)と、「利用しなかったグループ」(No Loan)と比べた結果を表わしたのが、【図表1】(男性)と【図表2】(女性)のグラフだ。
(図表1)奨学金受給グループ(Loan)と、受給しないグループ(No Loan)の男性の結婚確率(慶応義塾大学作成)
(図表2)奨学金受給グループ(Loan)と、受給しないグループ(No Loan)の女性の結婚確率(慶応義塾大学作成)これを見ると、男性は両者の間では、その後の結婚確率にほとんど差がない。しかし、女性は、受給した人のほうが結婚確率は明らかに低くなり、有意な影響(統計学的に偶然起こった差ではなく、意味がある差)を受け、結婚に負の影響を受けていることがわかった。
出産に関しても、男性が持つ子どもの数に奨学金受給の影響は見られなかったが、女性が持つ子どもの数に負の影響が示されている。また、結婚確率と出産の負の影響は、同じ女性でも大卒以上より、とりわけ専門学校・短大卒(2年制)のほうが大きかった。ただし、受給した額自体は、男女ともその後のライフステージに統計的に有意な差があるほどの影響を与えない結果になっている。
こうした結果から研究グループは、
「奨学金負債が、男性ではなく、女性の家族形成への負の影響がより明確に示された。女性の低賃金、大卒女性と短大卒女性の賃金差、既婚女性への家事育児負担の集中の影響を推測する」
として、
「少子化と非婚化が日本社会の最大の課題になりつつあるなか、その解決のためには、奨学金制度の改善も必要である」
と訴えている。
※【原論文情報】Wang,Jie, Hideo Akabayashi, Masayuki Kobayashi, and Shinpei Sano. 2024."Student loan debt and family formation of youth in Japan". Studies in Higher Education. (06 February 2024) DOI: 10.1080/03075079.2024.2307972.
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/03075079.2024.2307972
女性対象者の子ども数平均値は0.5人、もらわなかった人では0.8人
J-CASTニュースBiz編集部は、研究発表を行なった慶応義塾大学の王杰(ワン・ジェ)特任講師に話を聞いた。
――貸与奨学金の受給が、男性のその後の人生には影響が与えないが、女性の結婚率や子どもの数といったライフステージは負の影響を与えている結果が、衝撃的です。
やはりズバリ、現在の働く女性が抱えている問題、女性の低賃金、大卒女性と短大卒女性との賃金格差、家事育児の負担などが影響しているのですか。王さん 今回の研究では、奨学金負債が家族形成(結婚のタイミング、子どもの数)に与える影響を検証しました。とりわけ2年制高等教育(短大等)を受けた女性では、奨学金を受給したグループは受給していないグループに比べ、結婚のタイミングが遅く、子どもの数が少ない結果がはっきり出ています。
ただし、男性ではなく、女性の家族形成に負の影響を与える理由に関しては、関連情報のデータ欠如のため、検証できていません。女性の低賃金、大卒女性と短大卒女性との賃金差、既婚女性への家事育児負担の集中などは、日本社会の実態を考慮した推測に留まります。
――分析データで、具体的に女性の子どもの少なさ、結婚のタイミングの遅さでは、どのくらいの差がローン返済者と非ローン返済者との間で生じているのですか。
王さん 対象者の年齢は20~49歳です。貸与奨学金を受給した女性のもつ子ども数の平均値は0.52人で、受給しなかった女性のもつ子ども数の平均値は0.82人です。未婚確率(結婚のタイミング)の差は時期によって異なりますが、35歳前後では、奨学金を受給した女性の未婚率は受給しなかった女性と比べ、約13%高いです。
もちろん、平均値はデータの偏りに影響される可能性があります。しかし、今回の研究では「多変量回帰分析モデル」という、ビジネス分野における将来の売上予想や、医療分野における治療効果予想などで利用され、他国でも奨学金の研究で用いられている標準的分析方法を使いました。
その分析で、貸与奨学金の受給の有無が統計学的に有意な差をもたらしているという結果が出たことが、もっと重要だと理解しています。
米国では男女別、人種別の影響の違いの研究が盛ん
――つまり、貸与奨学金が女性のその後の人生に負の影響を与えていることが観察されたということですね。
ところで、米国では奨学金負債者の急増に関連して、多くの実証研究を発表されているとありますが、米国では、今回のように男子学生と女子学生の人生に明確な影響の差が出た研究はありますか。それとも、日本独特の結果といえるのでしょうか。王さん 米国では奨学金負債の影響に関し、多くの先行研究が蓄積されてきました。結婚と出産への影響でも男女の違いが検証されていますが、結論はさまざまで、一致するとは限りません。たとえば、結婚に関しては、こんな研究結果が示されています。
「学生ローン負債は結婚確率に負の影響を与える」(Stone&Horn 2012;Gicheva 2013&2016; Bozick&Estacion 2014; Addo 2014)。「結婚確率には関連しない」(Zhang、2013)。「結婚の満足度に影響を与える」(Dew、2008)。このうち、「Gicheva 2013&2016」、「Bozick & Estacion2014」 、「Addo2014」の研究では、奨学金負債はとりわけ女性の結婚を遅らせると結論づけています。
一方、出生に関連してもこんな研究があります。
「子ども数を下げ、出生率を下げる」(Nau&Dwyer&Hodson、2015)。「出生への影響は、親の性別人種別によって異なる」(Min&Taylor、2018)。米国では、性別だけでなく、人種別の影響調査も行われているのです。
検証待ったなし、政府は貸与型奨学金の影響を知るべき
――なるほど、米国でもそうなのですか。奨学金受給の負債の影響力は、けっこう大きいのですね。
ところで、研究リポートで、「奨学金制度の設計では、家族形成への影響を配慮する必要がある」と訴えていますが、具体的に奨学金制度をどう改革したらよいと考えていますか。王
さん 本研究の分析結果から、ただちに男女別に奨学金受給の選考基準をつくる検討にはつながらないと考えています。奨学金返済の改善策について、各国でも工夫が進み、米国では学生ローンの一部返済免除や、ハンガリーでは高学歴女性の出産を促すための学生ローン返済減免が知られています。
なによりも政府は、貸与型奨学金は受給者のその後の人生にさまざまな影響を与えうるという認識を共有すべきです。そしてそれを前提に、政府の責任で、貸与奨学金受給者と非受給者を比較できる、十分なサンプル数と多くの情報を確保したナショナルデータを収集し、貸与奨学金が若者のライフスタイル全般に与える影響を検証する研究をオープンに推進する必要があります。
少子化に苦しむ日本社会では、奨学金負債が若い世代の結婚、出産に与える影響の検証は待ったなしです。
――今回の研究リポートのことで、特に強調しておきたいことがありますか。
王さん 私たちの研究はナショナルデータを用いたものの、サンプルサイズが大きくありません。また、奨学金と家族形成の間の因果関係を厳格に立証するには情報が不足しています。さらに検証する必要があります。
男女差の原因を究明するには、貸与奨学金の受給の有無や返済状況、学生時代の成績、アルバイト経験、卒業後の就業状況のほか、年収、初婚年齢、子どもの数、家事に費やす時間などを数年ごとに把握し、若い世代のライフスタイルを動態的に捉え、男女別に比較研究を行う必要があります。
研究グループでは、これからも調査を続け、奨学金政策がもたらす効果や長期的な影響の究明に貢献することを目指します。(J-CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
王 杰(ワン・ジェ) 通称名:王 傑(おう・けつ)
慶應義塾大学経済学部経済研究所特任講師
お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士後期課程修了。専門は教育社会学。中国・清華大学外国語学部助教・専任講師、お茶の水女子大学リサーチフェロー・特任講師、学術振興会特別研究員(RPD)、東京大学特任研究員などを経て現職。
主な著書に『中国高等教育の拡大と教育機会の変容』(東信堂、2008年)。共著に『教育機会均等への挑戦―授業料と奨学金の8か国比較』(東信堂、2012年)、『平等の教育社会学―現代教育の診断と処方箋』(勁草書房、2019年)など。
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