「汚染水」放出の愚挙 ~合意無視、コスト高、廃炉・核廃棄物処理の見通しなし
約束を破っておいて「責任をもって対処する」つて、社会の規範を破壊する行為である。
そして科学がない。海洋放出しない方法のまともな検討なし。その海洋放出のコストも当初の34億円から1300億円超に。
核燃料にふれた汚染水であることのごまかし。地下水流入による汚染水増加がとまらず、廃炉も見通しもなく、何万年も流し続ける懸念も。また、処理によって発生した核廃棄物もたまりつづけている。それら見通しもない。
「衰退途上国」の横暴なふるまい-- 力の低下とともに、しっぺ返しにあうことになるだろう。
様々な声明と報道より
≪緊急声明「 関係者との合意を無視した海洋放出決定は最悪の選択である 」 原子力市民委員会 8/22≫
http://www.ccnejapan.com/?p=14185
≪声明:ALPS処理汚染水の海洋放出に抗議するー「関係者の理解」は得られていない FoEJAPAN8/22≫
https://foejapan.org/issue/20230822/14073/
≪ALPS処理水の海洋放出は「正当化」されていないという主張|石田雅彦Yahooニュース8/23≫
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/e1bef97a341e7f781db5a47e344968b851eafbd9
≪“汚染水”処理の裏で もう1つの大問題 「汚泥廃棄物」の保管場所も満杯に…どうする? 日テレ8/23≫
https://news.yahoo.co.jp/articles/a43d1c74529ea33a6aafcf07740605669dd18c2a
≪風評被害対策費に、輸出への悪影響…ALPS処理水の海洋放出はもはや“コスト高”でメリットなし 8/15女性自身≫
https://jisin.jp/domestic/2232310/
緊急声明「 関係者との合意を無視した海洋放出決定は最悪の選択である 」 原子力市民委員会 8/22
http://www.ccnejapan.com/?p=14185
1.関係者の理解が得られたとは到底いえない。
本日、日本政府は、福島第一原発から発生するALPS(多核種除去設備)処理汚染水の海洋放出を早ければ8月24日から開始することを関係閣僚会議で決定した。今回の決定は、「漁業関係者を含む関係者への丁寧な説明等必要な取組を行うこととしており、こうしたプロセスや関係者の理解なしには、いかなる処分も行いません」とした福島県漁連に対する政府回答(2015年8月24日)での約束に明らかに反する。約束を平然と蔑ろにするような今回の海洋放出決定は、福島原発事故で被害を受けつづけてきた人々の苦しみをさらに増幅させるものである。2.海洋放出は、環境汚染を拡大させるばかりか、問題の根本的な解決にならない。
放出する「ALPS処理水」は、トリチウム以外の放射性核種を排出基準値以下まで取り除いたものであるとされている。しかし、現在、未処理の汚染水(政府のいう「処理途上水」)が大量に存在し、その汚染状況の把握・分析すら、まったく不十分である。政府の見込み通りに、「処理途上水」を二次処理して放射性核種を確実に取り除くことができるか、明らかではない。
さらに、ALPSによる処理・二次処理により汚泥、吸着材等の高濃度の放射性廃棄物が大量に発生している。これらの処分は今のところ見通しがたっていない。このような問題を放置したまま「ALPS処理水」の海洋放出を開始したとしても、福島原発事故で発生した膨大な汚染物質の解決にはならない。3.海洋放出は、福島第一原発事故における汚染水問題の最適な解決策ではない。
海洋放出には長い年数を要する。東京電力の資料によれば、30年以上の期間を要する。汚染水の発生が止められていない以上、放出期間がこれよりさらに長くなる恐れも大きい。その結果、汚染水のタンク保管が長期化する。
加えて海洋放出には莫大な費用がかかる。海洋放出の処理費用は、2016年の経産省のトリチウム水タスクフォースで34億円と見積もられていた。ところが実際には、現時点で海底トンネル等の工事費約430億円、風評対策費約300億円、漁業者支援基金500億円がすでに計上され、合計で1200億円を超える。今後30年以上の経費をあわせたコストの全貌は明らかにされていない。4.原子力市民委員会は、ALPS処理汚染水の海洋放出に反対し、代替策の実施を求める。
政府・東京電力は、海洋放出ありきの姿勢をとり続け、汚染水の発生を抑制する対策に真剣に取り組んでこなかった。関係者との約束を反故にし、長い期間と巨額の費用を要する海洋放出は有害無益である。
原子力市民委員会は、汚染水対策として、陸上の大型タンクでの保管、またはモルタル固化による処分を選択するべきであると主張してきた。また、汚染水発生を抑止するためにデブリの空冷化が有効であるとも提言してきた。原子力市民委員会は、政府に対して海洋放出決定の撤回と代替策の実施を強く求めるものである。以 上
なお、原子力市民委員会が7月18日に発表した「見解:IAEA 包括報告書はALPS 処理汚染水の海洋放出の「科学的根拠」とはならない 海洋放出を中止し、代替案の実施を検討するべきである」も参照されたい。
声明:ALPS処理汚染水の海洋放出に抗議するー「関係者の理解」は得られていない FoEJAPAN8/22
https://foejapan.org/issue/20230822/14073/
日、日本政府は関係閣僚会議にて、福島第一原発でタンクに保管されているALPS処理汚染水(注1)の海洋放出を、早ければ8月24日にも開始することを決定した。モルタル固化処分などの代替案について公の場で議論がなされることはなく、「海洋放出ありき」のプロセスが強引に進められた。政府・東電は「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と約束していたが、その約束は反故にされた。2018年8月以降、公開の場での公聴会は一切行われなかった。私たちは、漁業関係者をはじめ国内外での反対や懸念の声を無視した今回の決定に強く抗議する。
1.方針を決めてから「理解」を押し付け
2015年、東電および日本政府は福島県漁業協同組合連合会(以下県漁連)に対してALPS処理汚染水に関して、「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と約束した(注2)。その後も「約束を遵守する」と繰り返してきた。
「関係者」が誰を指すのかは明らかではないが、影響を受ける漁業関係者、福島の人々をはじめ、本件に関心を有する日本国内外の市民はすべて関係者に含まれるだろう。
県漁連の野崎会長は、岸田首相が今月7日、「漁業関係者との信頼関係は少しずつ深まっている」との認識を示したことについて「何を捉えているのか分からない」と述べている。(注3)
岸田首相は、20日、福島第一原発を視察し、東京電力幹部と意見交換を行ったが、福島県漁連関係者には会わなかった。21日、岸田首相は全国漁業協同連合会(以下全漁連)と面会ののち、「関係者の理解が一定程度進みつつある」と述べた。
地元の漁業者には会わない上での決めつけは許されるものではない。
県漁連、全漁連は、放出に対して繰り返し反対の意思表明をしており、4年連続で放出反対の特別決議を採択している(注4)。また、相馬双葉漁業協同組合は、2023年7月、「断固反対」の考えを国に伝えた(注5)。
福島県内の市町村のうち、7割以上の自治体が処理汚染水の放出に関して、反対や慎重な対応を求める内容の意見書を可決している。
2018年8月、福島で2箇所、東京で1箇所、「説明・公聴会」が開催されたが、意見を述べた44人のうち、42人が明確に海洋放出に反対した。その後、公聴会は開催されていない。
このように、関係者の理解は得られていない状況である。
今回の決定プロセスは、先に方針を決めてから、関係者に対して理解を強要することにほかならない。
2. 「海洋放出ありき」で進められた検討
政府の審議会における一連の検討プロセスをふりかえると、代替案の検討は極めて表面的にしか行われず、結論を「海洋放出」に誘導するものであった。2018年当時、海洋放出を含む5つの案が示されたが、その際、海洋放出の費用は17~34億円、期間は52~88か月とされ(注6)、5案の中ではもっとも安く、かつ短期間の案として示された。しかし、その後、海洋放出の費用は膨れ上がり、現在わかっているだけで1200億円以上(注7)、すなわち35倍以上となっている。放出期間は東電のシミュレーションでは30年以上とみられている。
また、技術者や研究者も参加する「原子力市民委員会」が提案した、「大型タンク貯留案」「モルタル固化処分案」(注8)は、十分現実的な案であるのにもかかわらず、公の場ではまったく検討されなかった。
3.放出される放射性物質の総量が不明
タンク貯留水には、トリチウムのみならず、セシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素129などの放射性物質が残留し、タンク貯留水の約7割で告示濃度比総和1(注9)を上回っている。(注10)
東京電力は当初、ALPSによりトリチウム以外の放射性物質は除去し、基準を下回っていると説明してきた。トリチウム以外の核種が残留していることが明らかになったのは2018年の共同通信(注11)などによる報道によってである。
東電は、トリチウム以外の放射性物質が基準を超えている水については、「二次処理して、基準以下にする」としているが、どのような放射性物質がどの程度残留するか、その総量は未だに示されていない。それどころか、東電が詳細な放射能測定を行っているのは、全体の水の3%弱に相当する3つのタンク群にすぎない(注12)。
東電は、「放出前に順次測定し、測定後、準備が整い次第放出する」(注13)としているが、これでは放出する直前にしか何をどのくらい放出するのかがわからないことになる。また、放出される放射性物質の総量は、すべてのタンク水を放出し終わるまではわからない。
東電は最大年間22兆ベクレルのトリチウムを海洋中に放出する計画だ。これは原発事故前の放出管理値に相当する量であるが、福島第一原発からの海洋中へのトリチウムの放出量は実際には年間1.5~2.5兆ベクレルであった(注14)。すなわちその約10倍の量のトリチウムを、数十年にわたり海洋に放出することとなる。
4.「風評加害」という口封じ
政府は、ALPS処理汚染水の海洋放出の影響を「風評被害」に矮小化している。そして、メディアも政府見解を繰り返し報じている。代替案やトリチウム以外の放射性物質についてはほとんど報じられていない。
本来、原発事故は人災であり、その加害者は国及び東電である。「風評被害」のみを強調する政府の手法は、メディアの報道ともあいまって、放射性物質の海洋放出の影響やリスクについて指摘することを、「風評加害」とレッテル貼りし、健全な議論を封じることにつながる。
5.意図的かつ追加的な放射性物質の放出は許されない
2011年3月11日の原発事故以降、すでに大量の放射性物質が環境中に放出されてしまった。今回の放出は、それに上積みをする形で、意図的な放出を行うものである。
放射性物質は、集中管理し、環境への放出を行わないことが原則である。
私たちは改めて海洋放出に反対し、決定の撤回を求める。
注1)ALPSで処理されているが、まだトリチウムやその他の放射性物質が残留していることから、正しくは「処理されているが放射性物質を含む水」とすべきであるが、ここでは短く「処理汚染水」と呼ぶ。
注2)東京電力(株)「福島第一原子力発電所のサブドレン水等の排水に対する要望書に対する回答について」(2015年8月25日)
注3)NHK 福島Web News「県漁連会長 “首相の認識 何を捉えているのか分からない”」2023年8月8日)
注4)NHK NEWS WEB「“処理水の放出反対”県漁連 が4年連続で特別決議採択」(2023年6月23日)
朝日新聞「全漁連、原発処理水の海洋放出に「反対」決議 東電は夏に放出予定」(2023年6月22日)
注5)朝日新聞「相双漁協「断固反対」 迫る処理水放出」2023年7月19日
注6)経済産業省「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する 小委員会 説明・公聴会 説明資料」p.32
注7)2023年7月31日付のFoE Japan質問に対する経済産業省の回答では、同省が把握している範囲で、需要対策基⾦として300 億円、事業継続基⾦として500 億円。2022年4月13日付毎日新聞「処理水海洋放出の本体工事350億円 福島第1原発、東電が見通し」によれば、本体工事および測定費用は合計約400億円。
注8)「大型タンク貯留案」は、石油備蓄などに実績のある、ドーム型屋根、水封ベント付きで10万立方メートルの大型タンクを建設する案。「モルタル固化処分案」は、アメリカのサバンナリバー核施設の汚染水処分でも用いられた手法で、汚染水をセメントと砂でモルタル化し、半地下の状態で保管するという案。詳しくは原子力市民委員会 「ALPS 処理水取扱いへの見解」参照。
注9)それぞれの放射性物質の実際の濃度を告示濃度限度で除し、それを合計したもの。排出するときは1を下回らなければならない。
注10)東京電力処理水ポータルサイト「ALPS処理水の現状」(2023年8月21日閲覧)
注11)共同通信「基準値超の放射性物質検出/トリチウム以外、長寿命も」2018年8月19日
注12)FoE Japan質問に対する東京電力からの回答(2022年2月8日)。東電は放射線影響評価のソースタームとして、64核種の全データがそろっているという理由で、K4、J1-C、J1-Gタンク群を選んだ。K4タンク群は約3.4万立方メートルで、J1-C、J1-Gについては、それぞれ約1,000立方メートルを二次処理した結果の濃度を用いたとしている。
注13)2023年7月31日付のFoE Japan質問に対する東電の回答1.(1)(2)参照。
注14)原子力規制庁「原子力施設に係る平成27年度放射線管理等報告について」によれば、福島第一原発からのトリチウム放出量(ベクレル/年)は以下の通り。ちなみに、原発事故以前の福島第一原発からのトリチウム以外の放射性物質に関しては、検出限界以下であった。
【Q&A】ALPS処理汚染水、押さえておきたい14のポイント | 国際環境NGO FoE Japan
≪ALPS処理水の海洋放出は「正当化」されていないという主張|石田雅彦Yahooニュース8/23≫
2023年8月22日、日本政府が東京電力福島第一原子力発電所の多核種除去設備(ALPS)処理水の海洋放出を8月24日に開始すると決定し、実施主体の東京電力に要請した。この「水」の海洋放出については長く議論が続き、地元では漁業関係者をはじめ反対の声が大きい。今回の決定に反対する団体が、8月22日、放射線防護の基本原則の観点などからオンラインで会見を開いた。その主張を紹介する。
■放射線防護の基本原則「正当化」とは何か
会見を開いたのは放射線被ばくを学習する会という団体で、すでに「汚染水海洋放出は益が害を上回る(「正当化」)と証明していないので海洋放出を中止する」ように求める158団体連名の申し入れ書を岸田文雄首相に送り、同趣旨の公開質問状を原子力規制委員長、経産大臣にも送ったという。
会見では同会の温品淳一氏、黒川眞一氏(高エネルギー加速器研究機構名誉教授)の2人が発言した。温品氏は、放射線防護の基本原則には三つあるとし、その一つが「放射線防護の正当化」(残りの二つは「防護の最適化」「線量限度の適用」)であり、今回のALPS処理水の海洋放出は「正当化」されていないと主張した。
この「正当化」という言葉は、放射線を扱う行為では、それによってもたらされる利益(ベネフィット、メリット)が、それによってもたらされる害(デメリット、リスク)を上回らなければならないという意味だ。例えば、医療で用いられるCT検査による放射線被ばくの害(リスク)は、検査で得られる病気の発見という利益(メリット)よりも低いと見積もられるので、検査回数なども医師の判断を前提にして許容されている。
「正当化」は英語では「Justification」だが、IAEA(国際原子力機関)も今回のALPS処理水の海洋放出についての包括報告書(IAEA Comprehensive Report, page19、2023年7月4日)で「正当化は放射線防護の国際基準の基本原則」とし、報告書の中では「The responsibility for justifying the decision to discharge the ALPS treated water falls to the Government of Japan」(ALPS処理水を放出する決定を正当化する責任は日本政府にある)と指摘している。
会見で温品氏は、ALPS処理水の海洋放出における「正当化」、つまり利益と害を比べ、害は国内外の海産物の需要の減退、1000億円以上という処分予算、数十年という長い期間など甚大であるのに比べ、得られる利益についてはほとんど説得力のある説明はない、と言う。利益について政府と東京電力の説明では、福島第一原発の廃炉作業の進捗に支障があり、陸上でのタンクの保存にリスクがあるなどというが、海洋放出の便益と害では圧倒的に害のほうが大きい、と述べた。
また、太平洋諸島フォーラム(PIF、オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニア、フィジーなど16か国・2地域が加盟する国際会議)の専門家パネル(※)が訪日してALPS処理水の海洋放出の問題について述べているが、同専門家パネルは「正当化は、行為全体に適用されるもので、放出のような行為の、個々の側面には適用されない」とし、「ALPS処理水の海洋放出に関して日本政府は、福島第一原発の廃炉プロセス全体(ALPS処理水の海洋放出を含む)について正当化されるべき」という見解を出したと説明した。
温品氏は「政府と東京電力は、東日本大震災からの復興や廃炉という全体の利益を、ALPS処理水の海洋放出による害、特に海洋放出の被ばく被害という限定された個々の行為のみと比較し、漁業関係者・水産物関係者などの生業被害を無視し、海洋放出で得られる利益のほうが害よりも大きいと説明できず、『正当化』することを放棄している」と主張し、これは廃炉が正当化されれば海洋放出も正当化されるという論理であり放射線防護の基本原則からみても破綻している、とした。
■G7環境大臣会合のコミュニケはなぜ誤訳されたのか
続いて発言した黒川氏は、2023年4月に北海道札幌市で開催されたG7気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケで発表された英文原文と日本政府による日本語訳の矛盾を指摘し、関係代名詞が意図的に解釈されたのではないかと批判した。英語原文では、福島の復興と廃炉に不可欠であるのは、ALPS処理水の海洋放出がIAEAの安全基準および国際法に整合的に実施され、人体や環境にいかなる害も及ぼさないことを意味するのに、日本語訳ではALPS処理水の海洋放出が福島の復興と廃炉に不可欠であると訳されている、と述べた。
なぜ、このような日本語訳が出てくるのかと言えば、政府と東京電力はALPS処理水の海洋放出が福島の復興と廃炉に不可欠と主張するしかないからだと言う。また、こうした日本語訳は、G7大臣会合でで共有された参加各国間のコンセンサスを守っていないということになり、国際的な約束に従っていない、と主張した。さらに、廃炉は全体的な行為として正当化されているわけではないと述べた。
以上を要約すると、ALPS処理水の海洋放出は放射線防護の基本原則の一つである「正当化」のプロセスを経ていないので容認できない、ということになる。実際、なぜ海洋放出しなければ廃炉作業を進めることができないのか、政府と東京電力から説得力のある説明はない。
同会では、ALPS処理水の海洋放出が始まっても途中で止めることができるので、諦めずにこれからも反対と主張し続けたいと言った。
筆者は過去に2回、福島第一原発の事故処理現場の取材に行っているが、最初に行ったのは2014年のことだ。すでにALPSが稼働し始め、地下水が原発サイトに入り込むことを防ぐための凍土壁の工事が始まろうとしていた。
当時、取材を受けた福島第一廃炉推進カンパニーの担当者は、すでに汚染水の処理がコストの大部分を占めると述べた。そして、そのときも「汚染水は飲んでも大丈夫」と説明していたのを覚えている。
溜まり続ける汚染水を将来的にどうするのか。その時に受けた印象では「海に放出したい」という願望が、口にはしないがにじみ出ていたように感じた。その頃から「海洋放出ありき」で進めてきたと思われる今回の決定だが、そこに果たして「正当性」があるのか、「正当化」という言葉の意味を含めて考え続けていきたい。
※:太平洋諸島フォーラムの技術ミッションは、ALPS処理水の海洋放出の問題に関して太平洋諸国と日本との協議を支援している原子力問題の世界的な専門家パネル5人(ウッズホール海洋研究所の上級科学者兼海洋学者ケン・ブッセラー博士、エネルギー・環境研究所代表アージャン・マキジャニ博士、アデレード大学放射線研究・教育・イノベーションセンター准教授兼所長アントニー・フッカー博士、モントレー・ミドルベリー国際問題研究所ジェームズ・マーティン不拡散研究センター研究員兼非常勤教授フェレンク・ダルノキヴェレス博士、ハワイ大学マノア校ケワロ海洋研究所教授・所長ロバート・H・リッチモンド博士)のうち3人で構成されている。
石田雅彦
いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。
“汚染水”処理の裏で もう1つの大問題 「汚泥廃棄物」の保管場所も満杯に…どうする? 日テレ8/23
https://news.yahoo.co.jp/articles/a43d1c74529ea33a6aafcf07740605669dd18c2a
政府が放出を決めた東京電力 福島第一原発の処理水は、高濃度の放射性物質を含んだ「汚染水」を浄化処理したものです。今、関心は処理水に集まっていますが、じつは浄化処理の過程で、放射性物質を含んだ「汚泥廃棄物」が大量に発生し、この保管場所も満杯に近づいているのです。 溜まり続ける処理水とともに関係者の頭を悩ませる「汚泥廃棄物」の問題。解決することはできるのでしょうか?(報道局 調査報道DIV 川崎正明)
〇巨大なコンクリートの箱の中身は?
敷地内に立ち並ぶ処理水タンクと「汚泥廃棄物」の一時保管施設(赤枠内)
福島第一原発の敷地南側の一角、処理水タンクが立ち並ぶ中に高さ約10メートル、奥行き約200メートルの巨大なコンクリートの箱のようなものがそびえ立っています。放射性物質を含んだ泥状の「汚泥廃棄物」は、この施設に保管されています。
「汚泥廃棄物」は原発から出る汚染水を浄化設備「ALPS(アルプス)」で処理する際に発生するもので、2種類あります。1つは汚染水に薬剤を注入した結果生じる沈殿物が水と混ざった泥状の液体「スラリー」。もうひとつは放射性物質をこし取るために使われた「使用済吸着材」です。
「汚泥廃棄物」が入れられたポリエチレン製の容器 提供:資源エネルギー庁
これらの「汚泥廃棄物」は直径1.5メートル、高さ約1.9メートル、厚さ約1センチのポリエチレン製の容器に入れられ、さらに放射線を遮へいするためコンクリートの箱で保管されています。この廃棄物には非常に高い線量のストロンチウムといわれる放射性物質が多く含まれています。 施設では4384基の保管が可能ですが、2023年8月9日現在で4219基が埋まっています。「汚泥廃棄物」は平均すると約2日に1基のペースで増え、24年夏には満杯になる見通しです。東京電力は新たに192基の増設を計画していますが、これもすぐに満杯になる見通しで「いたちごっこ」の状態が続いているのです。
抜本的な対策は?
左…液体状のスラリー 右…固体化したスラリー 提供:資源エネルギー庁
汚染水を浄化処理すればするほど増え続ける「汚泥廃棄物」。減らしたり、なくしたりする抜本的な対策はないのでしょうか?
東京電力は、ドロドロの液体状の「汚泥廃棄物」から水分を取り除く脱水作業を行った上で乾燥させ、「固体」に変えて量を減らして保管する計画を立てました。ところが、固体にする設備の稼働自体が予定より大幅に遅れ、3年後の26年度末にずれ込む見通しです。その上、原子力規制委員会からは安全対策が不十分と指摘され、現時点で設備の詳細な設計さえも固まっていません。
さらに、「汚泥廃棄物」をいれるポリエチレン製の容器の一部は耐用年数を超え、破損する恐れがあることもわかりました。これを新しい容器に移し替える作業も行わなければならないのです。 原子力規制庁の幹部は日本テレビの取材に対し、 「容器の耐久性の問題は当初から言っていたことで、東京電力の対応は後手後手に回っている。また、汚泥廃棄物を固体化すると、放射性物質が乾いた粉末やちり状化するために、作業員の被ばく防止の観点からも、取り扱うのは非常に大変なことだ」 と話し、手法自体に疑問を呈しました。
処理水の約7割は国の基準を満たしていない
今、福島第一原発には汚染水を浄化した処理水が約1000基のタンクに保管されていますが、実はこの処理水の約7割(79万3400立方メートル 2023年3月現在)が国の安全に関する規制基準を満たしておらず、トリチウム以外の放射性物質が基準となるレベルを超えて含まれています。つまり、そのまま海水で薄めて海に放出することはできず、もう一度「ALPS」で浄化処理を行わなければなりません。
処理水の多くはもう一度浄化作業を行わなければならず、「汚泥廃棄物」はさらに増えると考えられるのです。 東京電力は 「保管中の表面線量の低い『汚泥廃棄物』約400基を対象に、上にたまった水を抜いて空き容量分を再利用し、保管容器が満杯にならないような対策を講じる」 としていますが、根本的な解決策にはなりません。 海洋放出が始まる処理水の陰で増え続ける「汚泥廃棄物」。処分の見通しが立っていないのが実情です。
風評被害対策費に、輸出への悪影響…ALPS処理水の海洋放出はもはや“コスト高”でメリットなし 8/15女性自身
https://jisin.jp/domestic/2232310/
国内のみならず、海外でも反対や戸惑いの声が広がっているALPS処理水の海洋放出。実行する根拠の一つとされてきた“経済的”という前提が崩れつつある。
現在も毎日約100トンもの放射性物質を含む“水”が発生している福島第一原発。政府や東電は、多核種除去設備 (ALPS)によって、この“水”から“トリチウム”以外の放射性物質を除去した水を「ALPS処理水」と呼び、約134万トンもタンクに保管。今夏中に福島沖への放出を目指している。 「当初、海洋放出に関する諸費用は、34億円とほか4つの処分方法に比べて最も安価で、かつ放出にかかる期間も約7年と短いと言われていました。しかしフタを開けてみれば、当初試算より費用は10倍以上に。放出終了までの期間も、30年に延びています」 そう指摘するのは、福島在住のジャーナリストで原発問題に詳しい牧内昇平さんだ。 「政府は2013年末から有識者委員会を開いて、トリチウムを含む処理水の処分方法を検討してきました。前述の34億円は、資源エネルギー庁が2016年にまとめた委員会の報告書に記されています。 あくまでも試算だとか、風評被害対策は別途必要などのただし書きはあるものの、海洋放出のメリットを強調した内容で、世論誘導の意図が見えたものでした」
■当初の見積もりから大幅に増えた費用
実際に、この報告書に基づいてメディアが報じたことで、「一気に世論が“海洋放出やむなし”に傾いた」と牧内さんは言う。 しかし、この34億円という試算は何だったと感じるほどに、海洋放出にかかる費用が膨らんでいるのだ。原子力市民委員会のメンバーでプラント技術者の川井康郎さんは、次のように指摘する。 「処理水の量が当初より増えていることも関係しているでしょう。しかし、それとは別に、当初考えられていた海洋放出のスキームが、あまりにもお粗末すぎたんです」 それは「報告書を見れば一目瞭然だ」と、川井さんは続ける。 「報告書に示されたイメージ図には、海水を引き込むための建屋とポンプが設置されているのみ。費用を安く見積もるために、意図的に簡略化したかのような図でした」 不安は的中した。東電は政府が海洋放出を決定した2021年4月から4カ月後の8月に、“海底トンネル”を掘って1キロメートル沖合の海底に放出するという大がかりな計画を発表。報道によると、設備工事に約350億円。モニタリング費用などを合わせ、2021?2024年度だけで費用は約430億円以上になるという。 「海底トンネルは“風評被害”対策でしょう。港湾内に放出するより、沖に放出するほうが、放射性物質は拡散されやすい。しかし、いくら薄めても、放出するトリチウムの総量(約860兆ベクレル)は変わりません」(川井さん) 政府は〈トリチウム濃度を国の排出基準の40分の1である、1リットルあたり1千500ベクレル未満に薄めて、30年超かけて排出する〉としているが……。
「政府や東電が“処理水”と呼んでタンク保管している貯留量の約66%には、トリチウム以外の放射性物質が基準となるレベルを超えて含まれています。東電は、海洋放出前に再度ALPSでトリチウム以外の放射性物質は除去すると言っていますが、どこまで浄化できるのか疑わしい」(川井さん) 一方で、「政府は、海洋放出の安全性をアピールするために多額の税金をつぎ込んでいる」と前出の牧内さんは指摘する。 「“風評被害”の対策のための基金や漁業関係者への対策のための基金をあわせると、約800億円もの公金が投入されます」 こうした基金とその他の“風評被害”対策費に、海洋トンネル設備にかかる約430億円を足すと1千300億円以上に。当初予算34億円の38倍にも上る計算だ。 「現在も発生し続けている“汚染水”を止めなければ永遠に海洋放出は続きます。費用は青天井です」(前出の川井さん)
■もはや海洋放出は経済的に悪手
予算をつけても、国民の不信は拭えていない。福島県新地町の漁師の小野さんはこう憤る。 「政府は、〈水産物の価格が下落したら買い上げて冷凍保存する〉と言って基金を作ったけど、俺ら漁師はそんなこと望んでない。消費者が“おいしい”と喜ぶ顔が見たいから魚を捕るんだ。税金をドブに捨てるような使い方はやめてもらいたい!」 小野さんが言うように、海洋放出にかかる資金の多くは税金だ。 「廃炉費用などは、東電を破綻させないためにつくった“廃炉等支援機構”が必要な資金を肩代わりしています。つまり原資は“税金”。東電が返済義務を果たすかどうかは曖昧なままです。東電やほかの電力会社は“負担金”という形で機構に資金を納付しますが、一部は電気料金に上乗せしていいので、結局、国民が負担しているにすぎません」(川井さん) 東京電力や、管轄する経産省は、海洋放出に関連する費用について、どう考えているのか。東電からは、次のような趣旨の回答がきた。 「国が設置した委員会で6年以上にわたり5つの処分方法について議論した結果、技術的・社会的な側面も含めて海洋放出がより確実に実施できると結論づけられた。なお、東京電力においてコストで海洋放出が有利だと判断したことはない。また、委員会は国が設置したものなので、詳細は国に問い合わせていただきたい」 経産省にも問い合わせたが、期日までに回答はなかった。 海外でも処理水の海洋放出に反対の動きが広がっている。放出計画に反発した中国は7月から日本の水産物の検査を“厳格化”。実質的な禁輸措置をとったため、多くの国内企業が打撃を受けている。少なくとも、海洋放出が“経済的”という前提は崩れ去りつつある。
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