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国連「ビジネスと人権」部会・訪日調査・声明  11分野で、政府・企業に国際水準の行動求める

12日付け東京新聞(電子版)は “ジャニーズ事務所を巡る性加害問題を取り上げたことで、にわかに注目を集めた国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会。ただ、調査の目的は、ジャニーズ問題だけではなかった。12日間の調査をまとめた訪日ミッション終了ステートメント(声明)を読むと、人権侵害の観点から、日本国内のさまざまな分野に重い課題を突きつけていた。”と報じた。

項目の立っている分野だけでも「1 女性 男女賃金格差、2 LGBTQI+ 、3 障がい者 、4 先住民族 、5 部落 、6 労働組合、7 健康、気候変動、自然環境 、8 福島第一原発事故、9 PFAS 、10 技能実習制度と移民労働者、11 メディアとエンターテインメント業界」。

司法が、国際人権の水準を理解していなく、救済制度としてい十分機能していない、など本質的な提起がされている。

これまで、日本政府は、子どもの権利委員会、女性差別撤廃委員会、「報道の自由」特別報告者などの勧告・報告を、ことごとく無視に近い扱い傲慢な対応をしてきた。

「世界第二の経済大国」「国連分担金を多く出している」などが思いあがり、また日本会議・統一教会などの「家族観」にも後押しされたものだろう。が、経済力、科学技術力などの国際的地位の低下は著しい。もはやかつてのような振る舞いは国際舞台でも通用ないし、許されないだろう。国内の様々運動、たたかいにとり、力となる報告である。以下は、声明全文とそれをうけてのヒューマンライツナウの声明

 ≪ジャニーズ以外にもこんなにも…日本の問題 国連人権理事会作業部会の指摘 女性も、障害者も、労働者も…東京8/12

 https://www.tokyo-np.co.jp/article/269482

≪国連ビジネスと人権の作業部会 訪日調査、2023 7 24 日~8 4 日 ミッション終了ステートメント 8/4

230804 WG BHR End of Mission Statement Japan(EJ)final-2 (ohchr.org)

≪国連ビジネスと人権の作業部会訪日調査を踏まえて、 日本政府及び企業に対して 国連ビジネスと人権指導原則にもとづく責任ある行動を求める  2023年8月7日、ヒューマンライツ・ナウ ≫

https://hrn.or.jp/

ジャニーズ以外にもこんなにも…日本の問題 国連人権理事会作業部会の指摘 女性も、障害者も、労働者も…

東京8/12

ジャニーズ事務所を巡る性加害問題を取り上げたことで、にわかに注目を集めた国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会。ただ、調査の目的は、ジャニーズ問題だけではなかった。12日間の調査をまとめた訪日ミッション終了ステートメント(声明)を読むと、人権侵害の観点から、日本国内のさまざまな分野に重い課題を突きつけていた。

声明には何が書かれているのか。そして、「ビジネスと人権」作業部会とは、いったいどんな組織なのか。(デジタル編集部・福岡範行)

◆「リスクにさらされている」人たちとは

国連作業部会の声明の日本語訳版は、A49ページにびっしりと書かれている。およそ半分は、テーマ別の具体的な問題点と求められる対策の記述に割かれている。それは、一部の前向きな動きを評価しつつも、日本に根強く残る問題を浮き彫りにする形になっていた。

声明では、「リスクにさらされている」人たちとして、「女性」、「LGBTQI+」(性的少数者)、「障害者」、「先住民族」、「部落」、「労働組合」の6つを取り上げていた。

1つずつ、ポイントを抜粋してみよう。

まず「女性」。

「日本で男女賃金格差がなかなか縮まらず、女性の正社員の所得が男性正社員の75.7%にすぎないことは、憂慮すべき事実」などと給与面での課題を取り上げ、「ジェンダーや性的指向に関係なく、すべての労働者が平等な賃金と機会を得られるようにするための包括的対策の確保が欠かせません」とした。

企業幹部の女性の割合が小さいことも、対策が必要だとした。

次に「LGBTQI」。

同性カップルのためのパートナーシップ制度を導入する自治体の増加などを評価しつつも、調査全体を通じて「何度も、LGBTQI+の人々に対する差別の事例を耳にしました」と言及。「権利を実効的に保護する包括的差別禁止法の必要性」を強調した。

障害者」を巡っては、障害者の雇用率が、総人口に占める障害者の割合よりも小さいことから「さらに改善の余地がある」と指摘した。「障害者が職場での差別や低賃金、支援システムを通じた適切なサポートへのアクセス困難にさらされているという、懸念すべき事例を耳にしました」とも書いた。

先住民族」では、アイヌの人々の権利を守ることを促した。「アイヌの人口調査は行われていないため、その差別が可視化されたり、語られたりすることはなく、アイヌの人々は今でも、教育や職場で差別を受けています」と指摘した。

「同和」とも呼ばれる被差別「部落」の問題では、「ヘイトスピーチ(特にオンラインと出版業界)や職場差別(一次面接の質問などを通じ)のパターンがあることも判明しました」と言及。差別解消に向けた取り組み事例も併記した。

労働組合」については、「組合結成に際する困難、さまざまな部門でのストの実施を含む集会の自由に対する障壁、さらには労働組合員の逮捕や訴追の事例などについて、懸念を抱いています」と述べた。

このほかに、テーマ別に課題をまとめた記載もあった。特に「技能実習制度と移民労働者」は、他のテーマに比べて多かった。

「私たちは訪日中、職場で事故に遭った外国人労働者が解雇された(よって、治療を受けられなくなった)ケースや、その劣悪な生活状況、出身国の仲介業者への法外な手数料の支払い、また、同じ仕事をしながら日本人労働者よりも賃金が低いケースなどを耳にしました」と紹介。政府が対策を検討する際に「明示的な人権保護規定を盛り込むことを期待します」とした。

国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会が公表した「ミッション終了ステートメント」。幅広い関係者と話したことが分かる(スクリーンショット)略

しこのほか、気候変動対策や環境問題への取り組み、福島第1原発の事故収束作業を巡る強制労働などの課題、PFAS(有機フッ素化合物)も「ビジネスと人権」の問題として言及。ジャニーズ問題を取り上げた「メディアとエンターテインメント業界」の項目では、女性ジャーナリストの性的な被害への救済措置不足や、アニメ業界での極度の長時間労働、クリエイターの知的財産権が十分に守られない契約にも懸念を示した。

これらの問題点を踏まえて、国連作業部会の専門家たちは、人権侵害を生む構造的な問題が日本に残っていると捉え、「リスクにさらされた集団に対する不平等と差別の構造を完全に解体することが緊急に必要です」などと指摘。被害者救済の仕組みの不備も解消するように訴えた。

◆「ビジネスと人権」作業部会とは

ここまで厳しく日本の課題を指摘した国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会とは、どんな組織なのか。

始まりは2011年。この年、世界各地の人権侵害を防止に取り組む国連の主要機関「人権理事会」が、「ビジネスと人権に関する指導原則」を決議した。指導原則を普及促進しようと設立されたのが、「ビジネスと人権」作業部会だった。

今回の訪日調査は、国連人権理事会の「特別手続き」と呼ばれる仕組みの一つ。女性差別や移民の権利などのテーマ別や、北朝鮮やミャンマーなど人権状況が懸念される国ごとに、人権問題の専門家の特別報告者や作業部会が独立した個人の資格で調査して人権理事会に報告し、各国に状況改善を促している。

調査は、724日~84日に実施。日本政府や日本企業などが人権にどう取り組んでいるかを調べるため、国連から任命された専門家2人が、政府はじめ、省庁や地方自治体の関係者、企業経営者、労働組合などとから幅広く聞き取りを行った。84日に公表した声明は暫定的なもので、20246月に最終報告書を国連人権理事会に提出し、日本政府に問題点の改善を促す方針だ。

日本も国連人権理事会の加盟国。報告書には法的拘束力はないが、加盟国として適切な対応が求められる。

 

 

国連ビジネスと人権の作業部会 訪日調査、2023 7 24 日~8 4 日 ミッション終了ステートメント

東京、2023 8 4

はじめに

国連ビジネスと人権の作業部会はきょう、12 日間にわたる訪日を終えました。訪日調査 にお招き いただき、また、国内でも、在ジュネーブ政府代表部でも素晴らしい協力をいただいた日本政府に 感謝いたします。特に、政府の担当者やビジネス界、市民社会、業界団体、労働組合、労働者、 学識者、弁護士その他ステークホルダーの方々とは、日本における国連ビジネスと人権に関する 指導原則(UNGPs)の履行に係る進捗状況や機会、課題について、オープンかつ建設的な議論 を行うことができました。深く感謝申し上げます。

私たちは訪日中、国際人権問題担当内閣総理大臣補佐官および人権担当兼国際平和貢献担当 特命全権大使とお会いしました。また、外務省(MOFA)、経済産業省(METI)、法務省、ジェトロ・ アジア経済研究所(IDE-JETRO)、厚生労働省(MHLW)、内閣府、消費者庁、連絡窓口(NCP)、 農林水産省、金融庁、独立行政法人国際協力機構(JICA)、国際協力銀行(JBIC)、財務省、環 境省(MoE)など、各政府省庁・機関の代表とも会談しました。さらに、大阪府や公益社団法人 2025 年日本国際博覧会協会、東京都、札幌市を含む地方自治体の方々ともお会いしました。作 業部会は加えて、国会議員の方々とも会談を行いました。

東京、大阪、愛知、北海道、福島での会合では、味の素、アサヒグループホールディングス、 ファーストリテイリング/ユニクロ、不二製油グループ、富士通、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ ジャパン、ジャニーズ事務所、経団連(経済団体連合会)、キリングループ、マクドナルド、三菱商 事、三菱 UFJ ファイナンシャル・グループ、中小企業家同友会全国協議会、株式会社赤尾撚糸、 楽天、ソニー株式会社、株式会社高瀬金型、東京電力(TEPCO)、ザ・コンシューマー・グッズ ・フ ォーラム(CGF)などの企業や民間団体 とお会いしました。また、人権活動家やジャーナリスト、学 識者、労働者、労働組合を含む市民社会の代表ともお会いしました。作業部会は国際労働機関 (ILO)など、日本に拠点を置く国際機関とも会談しました。 訪日調査を終えるにあたり、とりあえずの所見を共有できることを嬉しく思います。作業部会は 2024 6 月、国連人権理事会に訪日調査の最終報告書を提出する予定です。

日本におけるビジネスと人権の概況

 日本は 2020 年、アジア太平洋地域の国としては 2 番目に、ビジネスと人権に関する行動計画 (NAP)を策定するとともに、2022 年には「責任あるサプライチェーン等における人権尊重の ため のガイドライン」を発表しています。こうした背景から、作業部会の訪日調査は政府にとって、国家、 地域、そしてグローバルなレベルで、責任ある企業行動の促進に係る継続的な取り組み とリーダ ーシップを実証する機会となりました。

人権を保護する国家の義務

私たちは、NAP 策定に向けた政府の取り組みを歓迎します。また、NAP の策定に先立ち、その実 施を指導する諮問委員会と作業部会を設置することにより、政府がマルチステークホルダー型の 2 プロセスを確保したことも多とします。しかし、特に東京以外の地方では、UNGPs NAP に対する認識が全体として欠けている現状が見られました。政府は UNGPs NAP に関する研修と啓発 の実施で、主導的な役割を担うべきです。

47の全都道府県で、企業や企業団体のほか、労働組合、市民社会、地域社会の代表、人権活動 家など、あらゆる関係者に、UNGPs NAP に基づくその人権上の義務と権利を十分に理解させる必要があります。これまでのところ、こうした関係者が NAP の策定に十分に関与した形跡はなく、地方では、NAP の存在それ自体を知らないとするステークホルダーも多くいます。また、NAP のステータスについての透明性が欠けていることもあり、UNGPs の実践はおろか、日本における 人権保護にギャップが生じているとの意見も、さまざまなステークホルダーから聞かれました。

このような中で、NAP の中間見直しプロセスは、政府が関連のあらゆるステークホルダーを巻き込む機会となります。中間見直しでは、移民労働者など、社会から隔絶されたコミュニティに対する人権侵害に特に注意を払うとともに、NAP 改訂に関する作業部会によるこれまでのガイダ ンス に沿い、救済へのアクセスと企業のアカウンタビリティを強化すべきです1。改訂版 NAP では、ビ ジネスと人権の政策に関するギャップ分析を取り入れ、優先課題を洗い出すとともに、あらゆる関 係者の明確な責任や時間軸、成否を監視、評価するための主要実績指標(KPI)を含む実施形態 を明らかにすべきです。

政府はまた、JBIC や東京電力などの政府系企業(SOE)が範を垂れることができるよう、取り組 みを継続し、さらに強化すべきです。具体的には、人権指標を含む環境・社会・ガバナンス(ESG) 要素に関する組織的かつ有意義な報告を要求したり、とりわけ企業の司法および司法外苦情処 理メカニズムとの全面的協力の義務づけや、人権侵害に対する実効的な救済の提供を通じ、被 害者の救済へのアクセスを確保したりといった措置が含まれる可能性があります。作業部会は SOE と開発金融機関について、さらなる指針となる報告書を提出しています2。 作業部会は、農林水産省が食品業界のサプライチェーンにつき、人権デュー・ディリジェンス (HRDD)ガイドラインの策定を予定していること、政府が G7 広島サミットのコミュニケへの適切な 文言挿入や、G7 諸国以外との間で UNGPs に関する話し合いを深める取り組みなどを通じ、海 外でビジネスと人権に関する啓発を図っていることなど、積極的な取り組みについて知ることがで き、嬉しく思います。

人権を尊重する企業の責任

作業部会はその協議全体を通じ、ビジネス界から、UNGPs の履行に係る進捗状況と課題 につき、 率直な見解をお聞きしました。企業のステークホルダーからは、従業員に継続的な人権教育 を施 す取り組みや、通報ホットラインをはじめとする職場レベルの苦情処理メカニズムの策定な ど、積 極的な実践の報告がありました。その一方で、移民労働者や技能実習生の取り扱い、過労死 を 生む残業文化、そしてバリューチェーンの上流と下流で人権リスクを監視、削減する能力を含め、 さまざまな問題で大きなギャップが残っていることも認めました。

この関連で、作業部会は 3 つの根本的問題を確認しました。第 1 に、各種の企業間で、UNGPs の理解と履行の間に大きなギャップがあります。この意味で、大企業、特に HRDD プロセスに関 するものを含め、UNGPs によって企業に要求されることをかなり詳しく理解している多国籍企業と、 家族企業を含め、数にして日本の企業の 99.7%を数える中小企業との間に、大きな認識の隔りがあるため、多くのステークホルダーは、政府が中小企業に合ったガイダンスと能力構築支援を 提供する必要性を重視しています。企業を含むステークホルダーから、市民社会の一般的な強化 の必要性を指摘する声も出ていることから、作業部会は、札幌市と LGBTQI+の市民団体が地元の中小企業を巻き込み、「札幌レインボー・プライド」イベントなどを通じ、インクルーシブな社会 を 作るうえでの中小企業の重要性に関する啓発を図っていることを歓迎しました。

さらに、民間セクターの代表からは、小売業者や商社など、企業への情報提供や調達の確保で重 心的な役割を演じる他の企業による UNGPs の取り入れを促すため、さらに取り組みが必要だと 指摘する声も上がりました。こうした企業の影響力を活用すれば、そのバリューチェーンを構成する国内のブランドやサプライヤーに UNGPs の適用を働きかけることができます。

2 に、ビジネス界の様々なステークホルダーは作業部会に対し、政府が UNGPs のピラー1 に 基づく義務をもっと積極的に果たす必要性を指摘しました。全体として、ビジネスと人権の分野で は、経産省や外務省、厚労省などを筆頭に、政府が期待の持てる前進を遂げているという雰囲気 は感じられました。それでも作業部会は、日本の大企業の中には政府の UNGPs 関連ガイドライ ンの先を行き、NAPの発表前から人権に関する方針や苦情処理メカニズムを導入しているものが あることを確認しました。政府はこうした企業をさらに巻き込み、積極的な実践や残る課題につい て、共通の理解の構築を図るべきです。

さらに、企業の代表からは、強化型 HRDD と責任ある撤退の実施方法から、バリューチェーンの 規制に至るまで、喫緊の課題に関するさらに実践的なガイダンスの提供を政府にはっきりと求める声も上がりました。作業部会がお会いしたほとんどの企業の方々は、HRDD を義務づけること が望ましいことを示唆しました。これによって企業間に「公正な競争条件」が生まれ、政府の政策 や基準との整合性も高まるからです。HRDD 要件を厳格化しない限り、中小企業に UNDPs を採 用する動機は生まれないというのが、ビジネス界の意見でした。また、金融部門についても、 HRDD の実践を前進させる法的基礎が必要であり、政府はその方向でも対策を取るべきだという 意見が聞かれました。

最後に、ビジネス界からの中心的メッセージとしては、タイムリーでそれぞれの企業に合わせた、 ニーズへの対応を基本とする能力構築が必要だという声も、作業部会に伝えられました。上述の とおり、こうした意見は、取引先での UNGPs 関連の啓発と研修を進めてゆくうえで、大企業や市 民社会が果たす重要な役割とともに、政府がこの分野に関与することの重要性も認識して います。 例えば、人権関連の監査を行う人材の育成のほか、中小企業によるステークホルダー・エンゲー ジメントを改善するための方法に関するガイダンスに対する需要も高まっていることを指摘し たス テークホルダーもいます。この関連で、作業部会は能力育成に関する報告書も提出しています3

救済へのアクセス

国家司法メカニズム 作業部会は訪日調査中、日本での裁判所へのアクセスに対する障壁を含め、司法と実効的救済 へのアクセスに関し、特に懸念される分野を特定しました。私たちが確認した重大問題の一つに、 UNGPs や、LGBTQ+の人々に関するものなど、事業活動の関連で生じるさらに幅広い人権問題 に対する裁判官の認識が低いことが挙げられます。これに対処するため、私たちは、裁判官や弁 護士を対象に、UNGPs に関する研修を含む人権研修の実施を義務づけることを強く推奨します。 また、裁判手続きが長く続くことで、救済へのアクセスが妨げられているとするステークホルダーも いました。また、刑が軽かったり、判決が履行されなかったりすることで、金銭その他の補償が十 分に得られないという証言も聞かれました。

私たちは、政府の資金拠出により 2006 年に設置された日本司法支援センターが、外国人と十分 な資金を持たない日本人に無償で法律サービスを提供していることを歓迎します。政府は特に、 社会的に隔絶された集団に対するこのプログラムの視認性を高め、司法へのアクセス改善を図る べきです。また、法務省からは、人権に対する認識を高めるための人権推進・保護活動や、民事訴訟手続きのデジタル化など、救済へのアクセスに便宜を図る取り組みを行っていること もお聞きしました。

国家非司法メカニズム

国家人権機関(NHRI)は、ビジネス関連の人権侵害事例における救済プロセスの強化と、企業関 係者や監査人、裁判官、国選弁護人のビジネスと人権に関する研修の促進に欠かせない役割を演じます4。作業部会は、日本に専門の NHRI がないことを深く憂慮しています。多くのステークホ ルダーも指摘しているとおり、これによって、企業の人権尊重と説明責任を促進しようとする政府 の取り組みに、大きな穴が開いているからです。

作業部会は政府に対し、「国家人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」に沿い、本格的な独立 した NHRI を設置するよう強く促します。NHRI には、ビジネス関連の人権侵害を取り扱う明示的 な任務と、民事救済を提供し、認識を高め、ビジネスと人権に関する能力を構築し、人権活動家 を 保護するなどのために十分な資源と権限を付与すべきです。NHRI はまた、他国の NHRI や、経 済協力開発機構(OECD)の連絡窓口(NCP)との密接な関係も構築すべきです。

日本は「責任ある企業行動に関する OECD 多国籍企業ガイドライン(OECD ガイドライン) 」に基 づき、2000年にNCP を設置し、ビジネスと人権のほか、より一般的に、責任ある企業行動に関す る紛争を取り扱う明確な権限を与えました。しかし、NCP が視認性にもインパクトにも欠けること を 指摘するステークホルダーが多くいました。設置から 23 年で、取り上げられた事案がわずか 14 件であるという事実からも、NCP が救済面で実効的な成果を上げるためには、その視認性や制 度的能力、専門性を高めるための施策がさらに必要です。また、あらゆるステークホルダーか ら、 NCP が独立かつ信頼に足る存在として認識される必要もあります。NCP は、OECD ガイドライン だけでなく、自身の権限に対する認識を高めるためのツール開発を検討すべきであり、 その中に は、移民労働者や海外の法域で影響を受けるステークホルダーが話す言語で使えるツールも含めるべきです。

非国家苦情処理メカニズム

日本におけるビジネスと人権関連の重要課題に取り組むうえで、作業部会は国家以外が運営す る実効的苦情処理メカニズムの重要性を強調します。作業部会がお会いした大企業のほとんどは、苦情処理メカニズムを設置、運営しているものの、ステークホルダーの中には、職場での不祥 事を通報することで、報復(職を失うなど)を受けるおそれを口にする向きもありました。内部公益 通報開示制度の設置を企業に義務づける「公益通報者保護法」は、正しい方向への大きな一歩と 言えます。

作業部会は、企業が UNGPs(原則 31)に従い、権利保有者向けに実効的な苦情処理メカニズム を提供すべきことを改めて強調します。この点で私たちが確認したグッドプラクティスとしては、あ らゆるステークホルダーに開かれた苦情処理メカニズムの設置や、バリューチェーン専用の苦情 処理メカニズムの立ち上げなどが挙げられます。一般社団法人ビジネスと人権対話救済機構 (JaCER)による「対話救済プラットフォーム」は「ノウハウ」の蓄積を促し、そのメンバーが UNGPs に基づく苦情処理を受けられる非司法的プラットフォームを提供しているという点で、顕著な事例 と言えます。

作業部会は、いくつかの政府機関が苦情通報ホットラインを設けていることを知り、嬉しく思うと同 時に、すべての人が利用できる苦情処理メカニズムを含む「責任ある外国人労働者受入れ プラッ トフォーム(JP Mirai)」が設けられていることを称賛します。9 つの言語に対応するこのメカニズム では、専門家による相談サービスが受けられます。私たちは JP Mirai に対し、日本の移民労働者 コミュニティに対する視認性を高め、信頼性を構築するよう促します。

ステークホルダー集団と関心のある課題領域

 作業部会はさまざまなステークホルダーから、その深刻度や認知度の点で多種多様なビジネス関 連の人権問題に関する情報提供を受けました。作業委員会はこのステートメントで、協議中にも 長く議論された次のテーマ別課題分野に関する暫定的評価を行います。その分野とは、ダ イバー シティとインクルージョン、差別とハラスメント(ヘイトスピーチを含む)、労働関係の人権侵害、先住民族の権利、バリューチェーンの規制のほか、健康に対する権利、きれいで健康的かつ持続可 能な環境を得る権利および気候変動に対するインパクトです。

特に、女性や LGBTQI+、障害者、部落、先住民族と少数民族、技能実習生と移民労働者、労働 者と労働組合のほか、子どもと若者については、特に明らかな課題が浮かび上がりました。しかし、これだけで全部ではないことは強調しておくべきです。作業部会は、セックスワーカーの搾取やホームレスに対する差別などの問題についても、情報を得ています。

リスクにさらされているステークホルダー集団

 女性

日本で男女賃金格差がなかなか縮まらず、女性の正社員の所得が男性正社員の 75.7%にすぎ ないことは、憂慮すべき事実です。日本のジェンダーギャップ指数のランキングが 2023 年の時点 で 146か国中 125 位と低いことを考えれば、政府と企業が協力し、この格差解消に努めることが 欠かせません。女性はパートの労働契約を結んでいることが多く、非正規労働者全体の 68.2%と 高い割合を占めている一方で5、男性の非正規労働者の 80.4%の賃金しか稼いでおらず、日本の 労働構成におけるジェンダーの不平等をよく物語っています。政府が最近、大企業を対象に、格 差を開示するよう義務づけたことは称賛できますが6、この取り組みをさらに拡大することで、ジ ェ ンダーや性的指向に関係なく、すべての労働者が平等な賃金と機会を得られるようにするための 包括的対策みの確保が欠かせません。

さらに、2018 年には「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」が採択され、 「第 5 次男女共同参画基本計画」も承認されてはいるものの、企業幹部に女性が占める割合は 15.5% にすぎないことを考えれば、女性の社会進出の遅れは依然として、官民がさらに懸念すべき動向 となっています。女性が昇進を阻まれたり、セクシュアル・ハラスメントを受けたりする懸念すべき 事例が報告されていることは、リーダーシップと決裁権者のレベルでジェンダーの多様性 を促進する必要性を物語っています。性差別と闘い、安全で各人が尊重される職場を作るためには、政府 が厳格な措置を導入するとともに、企業がこれを実施に移さねばなりません。

LGBTQI+

私たちは、政府が最近になって、LGBTQI+の人々に対する理解を促進するための法律を制定したことを多とします。トランスジェンダーのトイレへのアクセスに関する最近の最高裁判決や、同性 カップルのためのパートナーシップ制度導入に踏み切る地方自治体の増加など、他にも心強い動 きが見られてはいるものの、まだ大きな課題が残っています。私たちは訪日調査期間全体 を通じ て何度も、LGBTQI+の人々に対する差別の事例を耳にしました。トランスジェンダーの人々に本 名の開示や、履歴書への性転換前の写真貼付 を求めるな どの憂慮すべき職場慣行 は 、 LGBTQI+の人々の権利を実効的に保護する包括的差別禁止法の必要性をさらに際立たせています。 私たちが札幌市を訪問した際に目にした望ましい実践として、LGBT フレンドリー指標制度が挙げ られます。これは、LGBT フレンドリーな取り組みを促進している企業を、具体的な指標に基づき 評価、登録する制度です。この制度の一般市民による認知度はまだ限られてはいるものの、イン クルージョンをさらに進めてゆくうえで重要なステップとなるものであり、作業部会は日本の他都市に対しても、同様な施策を採用し、LGBTQI+の人々を支援し、その権利を尊重する企業の取り組 みを奨励するよう促します。

障害者

日本で喫緊の課題の一つに、労働市場と労働力への障害者のインクルージョンが挙げられます。 「障害者の雇用の促進等に関する法律」により、民間セクターに法的な障害者雇用枠が設けられ ており、民間企業について 2.3%、政府機関について 2.6%と定められています。国家統計による と、障害者の実際の雇用率はそれぞれ 2.25% 2.85%7となっています。総人口に占める障害者 の割合は 7%であることから、この数字にはさらに改善の余地があることが分かります。作業部会 は、障害者が職場での差別や低賃金、支援システムを通じた適切なサポートへのアクセス困難に さらされているという、懸念すべき事例を耳にしました。

私たちは政府に対して、アクセス可能な職場の確保と、個別の支援や合理的な適応の尊重と実 施に関する包括的研修の実施につき、国連障害者の権利委員会の提言に従うよう促しま す。すべての人の機会均等を確保し、「誰一人取り残さない」ためには、政府と企業がジェンダーや人種、 性的指向および障害の重なり合いを認識し、これに取り組むことが欠かせません。日本政府も行 動計画などの正式文書で、障害者のアクセス可能性を確保し、社会へのインクルージョンと参加 を促進せねばなりません。

先住民族

アイヌの人々を先住民族として認識し、2019 年にはその文化と遺産を守り、再活性化するねらい で「アイヌ施策推進法」が成立したことで、その権利の認識に向けたプラスの動きが生まれました。 しかし、アイヌの人口調査は行われていないため、その差別が可視化されたり、語られたり するこ とはなく、アイヌの人々は今でも、教育や職場で差別を受けています。よって、差別のない権利と 機会均等を確保するための措置が必要です。

例えば、政府は観光を通じ、アイヌの人々に関する文化的教育を促進するための取り組み を行っ ていますが、作業部会は、民族共生象徴空間(ウポポイ)でアイヌ労働者が人種的ハラスメントや 心理的ストレスを受けているとの報告を懸念しています。さらに私たちは「水産資源保護法」第 28 条により、アイヌの人々が先住民としての漁業権を正当に考慮されることなく、他の日本人と同様、ごく一部の例外を除き、内水面でのサケの漁獲を禁じられているとお聞きしました。私たちはまた、 再生可能エネルギー部門のものを含むさまざまな開発プロジェクトで、アイヌの人々の自由意思 による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)が取り付けられていないという情報も得 ている ため、こうしたプロジェクトがアイヌの人々とその権利に悪影響を及ぼすのではないかとの懸念 を 抱いています。

 「先住民族の権利に関する国連宣言」に定めるとおり、アイヌの人々の権利を守るうえで、政府と 企業が FPIC を確保することは不可欠です。私たちは政府に対し、土地と天然資源に対するもの を含め、アイヌの集団的権利を認めるよう強く促します。

部落

 作業部会は「同和」とも呼ばれる被差別部落民にまつわる人権問題があることも知りました。日本では「部落差別の解消の推進に関する法律(平成 28 年法第 109 号)が成立しているものの、ヘイトスピーチ(特にオンラインと出版業界)や職場差別(一次面接の質問などを通じ)のパターンがあることも判明しました。差別訴訟で勝訴する例も見られるものの、作業部会は、日本の裁判手続き が長期に及ぶため、救済にアクセスすることは難しくなっているという話も聞きました。作業部会は さらに、影響を受けているステークホルダーと協力し、従業員に対する研修プログラム提供などを 通じ、差別の削減に取り組む企業からなる調整委員会など、積極的な実践が行われていることも 耳にしました。その他、地方自治体が啓発と差別対策に取り組んでいる例や、法務省の協議経路、 厚労省が従業員 80 以上の企業につき、人権フォーカル・ポイントを設けるよう指示している事例もあります。公正採用選考人権啓発推進員制度によると、職員は「同和問題などの人権問題について正しい理解と認識のもとに、公正な採用選考を」確保するよう要求されています8

労働組合

作業部会は日本で、外国人技術労働者を支援する労働組合の間で、積極的な実践が行われて いるのを目の当たりにしました。しかし私たちは引き続き、労働組合結成に際する困難、さま ざま な部門でのストの実施を含む集会の自由に対する障壁、さらには労働組合員の逮捕や訴追の事 例などについて、懸念を抱いています。

テーマ別分野

健康、気候変動、自然環境

作業部会は訪日調査中、健康に対する権利をはじめとする人権に事業活動が及ぼす影響と、ク リーンで健康的かつ持続可能な環境との間に関連性があることに対する認識が、多くのステ ーク ホルダーの間で依然として弱いことを確認しました。私たちはまた、政府と企業がゼロカーボン経 済への移行を確保するために、十分な努力を払っていないことも懸念しています。私たちは これら のステークホルダーに対し、気候変動対策への取り組みを加速するとともに、特に移行鉱物の調 達において、公正な移行に向けた人権上の考慮点に配慮するよう呼びかけます。

作業部会は、UNGPs と人権にも言及する「バリューチェーンにおける環境デュー・ディリジ ェンス 入門」など、環境省による環境デュー・ディリジェンスの取り組みを歓迎します。企業の中にも、人 権・環境デュー・ディリジェンスへの配慮を盛り込んだサプライヤー規範を設けるなどして、期待で きる措置を講じているものがあります。しかし、こうした動きにもかかわらず、特に先住民族に関し、 環境問題に対するステークホルダーの懸念に取り組む政府のメカニズムは依然としてありません。

作業部会は、福島第一原子力発電所の事故によって被災したいくつかのステークホルダー集団のお話も伺いました。そして、東京電力が最近、人権方針と人権デュー・ディリジェンス、苦情処理 メカニズムを確立したことを知りました。しかし、被災ステークホルダーからは、清掃と汚染除去の 取り組みと同発電所の廃炉につき、憂慮すべき労働慣行の報告もありました。作業部会は、強制 労働や搾取的な下請慣行、安全性を欠く労働条件の事例を、深い憂慮をもってお聞きしまし た。 また、災害直後に病院労働者や学校教職員が直面した課題についてもお聞きし、被災したあらゆるステークホルダーを救済する必要があることも明らかにしました。

強制労働に関し、作業部会は、東京電力の下請業者の中に、債務返済のために原子力発電所の 汚染除去、廃炉作業を強制された者がいるという話を聞きました。また、規則上は複数の下請業 者を使うことが禁じられているにもかかわらず、東京電力の下請構造は実際、5 層にも及んで おり、下層の下請業者は同じ業務をこなしながら、極めて低い賃金しか支払われていませんでした。そ の他、一定額の賃金と危険手当の支払を約束された労働者もいましたが、実際に仕事に就いて みると、報酬ははるかに少ない額だと知らされていました。また、熱中症その他の労災で同僚を亡 くした労働者にも話を伺いました。さらに、懸念を口にすると解雇されるという理由で、東京電力が 苦情処理メカニズムを設けているにもかかわらず、安心して話せない労働者もいると聞きました。 作業部会は、清掃・汚染除去作業後にがん関連の病気にかかりながらも、雇用記録に放射線への曝露が記されていないために、東京電力の下請業者から金銭的補償も医療補助も受けられな い労働者がいると聞き、憂慮しています。

政府と東京電力は、福島第一原子力発電所の事故を受けて清掃活動に携わった人々全員の英雄的努力を認識し、多層下請構造を減らすための具体的な策を講じ、労働者の適切かつ遡及的 な補償を確保するとともに、労働者の健康上の懸念を労災として認めるべきです。

原子力事故関連の労働安全衛生面の問題に加え、私たちは福島第一原子力発電所か らの処理 水排出に関する懸念を何度となく耳にしました。私たちは政府に対し、特に水中の核物質の絶対 量をはじめ、汚水処理関連のデータをすべて公表することにより、知る権利を充足するよ う呼びか けます。

作業部会はまた、東京や大阪、沖縄、愛知でパーフルオロアルキル化合物およびポリフルオ ロア ルキル化合物(PFAS)による水質汚染の事例をいくつかお聞きしました。これについて 不安 を感 じるステークホルダーは、地方自治体も政府も、水道水中のこれら「永遠に残る化学物質」の存在 について、十分な対策を講じていないとして、水と土壌のサンプリング調査や、健康に対する権利 への影響に関するモニタリングを求めています。私たちとしては、UNGPs と「汚染者負担」原則に したがい、この問題に取り組む責任が関係した事業者にあることを明らかにしておきたいと思いま す。

技能実習制度と移民労働者

作業部会は技能実習制度(TITP)のもとで働く外国人労働者とその雇用主、さらにバリューチェー ンで技能実習生が使われている大企業とお話ししました。技能実習生は 2022 年、在日外国人と しては 2 番目に大きいカテゴリーになっています。そのほとんどはベトナムや中国、フィリピン、ミャ ンマーなどのアジア諸国出身です。TITP の目的は本来、人材育成にありますが、こうした労働者 は日本の人手不足を補ううえで、重要な役割も果たしています。

にもかかわらず、日本の外国人労働者は、リスクの高い状況に置かれ、情報が共有される言語や 媒体によって、情報へのアクセスに困難を覚えているだけでなく、煩雑な申請プロセスに も苦労しています。私たちは訪日中、職場で事故に遭った外国人労働者が解雇された(よって、治療 を受 けられなくなった)ケースや、その劣悪な生活状況、出身国の仲介業者への法外な手数料の支払 い、また、同じ仕事をしながら日本人労働者よりも賃金が低いケースなどを耳にしました。その一 方で、作業部会は、受け入れ側の労働組合が、労働者がその権利を知るための手助けをすると 同時に、苦情処理メカニズムとしても機能するという事例など、好ましい実践についても知りました。 また、作業部会は、中小企業の団体が責任ある採用慣行と経営を奨励するために行って いる活 動や、数社の大企業がサプライヤー行動規範を設け、外国人技術労働者に関する仲介手数料の 徴収を禁じ、その手数料を従業員に返還するよう求めている事例についてもお聞きしました。

作業部会は、政府が TITP にまつわる人権問題を多く把握しており、現在は専門家パネルがこれ について検討を加えているところだと承知しています。私たちは政府に対し、この検討に合わせて、 出身国政府との連携で仲介手数料を廃止したり、申請制度を簡素化したり、実習生の転職に柔 軟性を認めたり、日本の法律により要求される同一労働同一賃金の執行を確保したりといった形 で、明示的な人権保護規定を盛り込むことを期待します。

最後に、私たちは雇用主がヘイトスピーチを繰り返すなど、韓国人、中国人労働者に対する差別 の事例について聞き取りを行いました。一部の被害者がヘイトスピーチについて行っている訴訟 は、日本の司法制度で審理に何年もの時間を要しているだけでなく、得られた証言によると、原告 が勝訴した場合でも金銭的補償はなく、救済への道は閉ざされています。

メディアとエンターテインメント業界

 作業部会は、メディアとエンターテインメント業界の心の痛む問題についても調査を行いました。こ の業界の搾取的な労働条件は、労働者で対する労働法による保護や、ハラスメントの明確な法的 定義の欠如と相まって、性的な暴力やハラスメントを不問に付す文化を作り出しています。例えば、 私たちは女性ジャーナリストが性的なハラスメントや虐待を受けても、放送局が一切の救済措置 を講じないという事例を聞きました。また、アニメ業界での極度の長時間労働や、不正な下請関係 に関連する問題ゆえに、クリエイターがその知的財産権を十分に守られない契約を結ばされる例 が多いという情報も得ました。

ジャニーズ事務所のタレントが絡むセクシュアル・ハラスメント被害者との面談では、同社のタレン ト数百人が性的搾取と虐待に巻き込まれるという、深く憂慮すべき疑惑が明らかになったほか、日 本のメディア企業は数十年にもわたり、この不祥事のもみ消しに加担したと伝えられていま す。私 たちは、政府がこれまで 20 年にわたり、子どもの性的虐待防止につき、いくつかの措置を講じて きたことに留意します。しかし、政府や、この件について私たちがお会いした被害者たち と関係し た企業が、これについて対策を講じる気配がなかったことは、政府が主な義務を担う主体として、 実行犯に対する透明な捜査を確保し、謝罪であれ金銭的な補償であれ、被害者の実効的救済 を 確保する必要性を物語っています。証言によると、ジャニーズ事務所の特別チーム(ま たは独立 チーム)による調査については、その透明性と正当性に疑念が残っています。ジャニーズ事務所 のメンタルケア相談室による精神衛生相談を希望する被害者への対応は不十分だとする報告も あります。UNGPs のコンプライアンスを図るためには、あらゆるメディア・エンターテインメント企業 が救済へのアクセスに便宜を図り、正当かつ透明な苦情処理メカニズムを確保するとともに、調 査について明快かつ予測可能な時間軸を設けなければなりません。私たちはこの業界の企業を はじめとして、日本の全企業に対し、積極的に HRDD を実施し、虐待に対処するよう強く促します。

結語

日本で UNGPs の履行を進めることは、地域的、世界的に、ビジネスと人権分野におけるリーダー としての日本の評判を固めるだけでなく、国内・国外で日本企業の人権に関するプラス の影響力 と競争力を高めるためにも重要です。作業部会は政府、企業および市民社会が、UNGPs NAP に関する能力と認識を高めるため、日々取り組んでいることを高く評価します。

とはいえ、作業部会は、日本がビジネスと人権分野での官民イニシアチブで十分に取り組めていないシステミックな人権課題について、引き続き懸念を抱いています。女性や障害者、先住民族、 部落、技能実習生、移民労働者、LGBTQI+の人々など、リスクにさらされた集団に対する不平等 差別の構造を完全に解体することが緊急に必要です。ハラスメントを永続化させている問題の 多い社会規範とジェンダー差別には、全面的に取り組むべきです。政府はあらゆる業界で、ビジネス関連の人権侵害の被害者に、透明な調査と実効的な救済を確保すべきです。私たちは、実効的な救済と企業のアカウンタビリティへのアクセスをよりよく促進するため、日本に独立の NHRI 設置を求めます。

日本には、ビジネスと人権のアジェンダをさらに推進するため、より具体的には UNGPs を全面的 に履行する明らかな必要性があります。作業部会は改めて、今回の訪日調査にお招きいただいた日本政府のほか、私たちの協議を通じてその知見を共有しようという東京都、大阪府、札幌市 の各自治体を含むあらゆるステークホルダーの強い意志にも感謝します。作業部会はさ らに数か 月、情報収集に努めて最終報告書を作成し、これを 2024 6 月の人権理事会に提出する予定 です。最終報告書には、日本における事業活動の関連で、政府や企業その他のステークホルダ ーが、人権の保護と尊重を強化するための取り組みを支援するための具体的な提言が盛り 込ま れます。 /

1 https://www.ohchr.org/en/documents/tools-and-resources/guidance-national-action-plans

2 A/HRC/32/45; A/HRC/53/24/Add.4

3 A/HRC/53/24

4 A/HRC/47/39/Add.3

5 https://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/keikaku_kanshi/siryo/pdf/ka22-1.pdf

6 「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」に係る省令の 2022 年改訂により

7 https://www.mhlw.go.jp/content/001027403.pdf

8 https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/system.htm

 

 

国連ビジネスと人権の作業部会訪日調査を踏まえて、 日本政府及び企業に対して 国連ビジネスと人権指導原則にもとづく責任ある行動を求める  2023年8月7日、ヒューマンライツ・ナウ

2023年7月24日~8月4日、国連ビジネスと人権作業部会(The UN Working Group o n Business and Human Rights。以下、「国連WG」という。)は、12日間の訪日調査を実 施し、東京・大阪・愛知・北海道・福島において、政府関係者、ビジネスセクター、市民社会、業界 団体、労働組合、労働者、研究者、弁護士その他ステークホルダーからのヒアリング・実地調査を 実施した。国連WGは、調査最終日に「ミッション終了ステートメント」(以下、「本件ステートメン ト」という。)を公表し12、その暫定的所見を明らかにした。 東京を拠点とする国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、日本各地の現場を訪れ、 熱心に調査を行った国連WGに対して敬意を表する。 本件ステートメントにおいては、現状の日本におけるビジネスと人権に関する状況が、国際基 準の観点から大いに問題があるということが包括的に明らかとされ、国連ビジネスと人権指導 原則(The UN Guiding Principles。以下「UNGPs」という。)の観点から、取り組むべき重 大な多数の課題の指摘があった。

UNGPsにおいて義務ないし責任を負う日本政府および企業は、本件ステートメントを真摯 に受け止め、そこで改めて明らかとされた課題に直ちに取り組む必要がある。

第1 国家の人権保護義務について

 1 東京とそれ以外の地方都市との間での認識のギャップ

 まず、国連指導原則の「第1の柱」である「国家の人権保護義務」に関して、「特に東京以外の地方では、UNGPsとNAP(※HRN注:National Action Plan。「国別行動計画」のこと。)に対 する認識が全体として欠けている現状が見られました。」との指摘がなされている。また、「47 の全都道府県で、企業や企業団体のほか、労働組合、市民社会、地域社会の代表、人権活動家な ど、あらゆる関係者に、UNGPsNAPに基づくその人権上の義務と権利を十分に理解させる 必要があります。これまでのところ、こうした関係者がNAPの策定に十分に関与した形跡はな く、地方では、NAPの存在それ自体を知らないとするステークホルダーも多くいます。」との指 摘もなされた。東京とそれ以外の地方都市との間での認識のギャップについては、従前のビジ ネスと人権にかかる国内の議論では十分に検討されていなかった点であり、日本政府は課題認 識をすべきであり、その地方におけるギャップを克服するための具体的な政策を策定・実行す べきである。

2 NAPの策定・見直しプロセス及びその実効性評価の問題点

次に、NAPの策定・見直しプロセス及びその実効性評価についても、重大な勧告があった。すなわち、「中間見直しでは、移民労働者など、社会から隔絶されたコミュニティに対する人権侵 害に特に注意を払うとともに、NAP改訂に関する作業部会によるこれまでのガイダンスに沿 い、救済へのアクセスと企業のアカウンタビリティを強化すべき」という点と、「改訂版NAPで は、ビジネスと人権の政策に関するギャップ分析を取り入れ、優先課題を洗い出すとともに、あらゆる関係者の明確な責任や時間軸、成否を監視、評価するための主要実績指標(KPI)を含む 実施形態を明らかにすべき」という点である。いずれも重要な勧告であり、日本政府は、NAPの 中間見直し・改訂においては、これら勧告に従う必要がある。とりわけ、ギャップ分析の必要性 については、NAP策定過程においても散々指摘されたにもかかわらず、政府は実施してこなか ったことは、NAPの実効性自体に影響を及ぼしているものであり、今後の改訂に向けて、直ちに着手すべきである。

3 政府系企業においてこそUNGPsが徹底的に履行されるべき

更に国連WGは、国際協力銀行(JBIC)や東京電力など実質的な政府系企業(SOE)につい て、日本政府に対して、「人権指標を含む環境・社会・ガバナンス(ESG)要素に関する組織的か つ有意義な報告を要求したり、とりわけ企業の司法および司法外苦情処理メカニズムとの全面 的協力の義務づけや、人権侵害に対する実効的な救済の提供を通じ、被害者の救済へのアクセ スを確保したりといった措置」を執ることを求めている。JBICについては海外開発事業におけ る人権侵害事例が指摘されるところであり、また、東京電力についても福島第一原発事故の対 応において人権・労働権侵害が指摘されていることから、これらの勧告は極めて重要である。日 本政府は、企業に対してUNGPsの履行を求めると同時に、あるいは先んじて、まず自らの関与 する事業活動(公共調達を含む)において、法的な義務付けを含め、UNGPsの徹底的な履行が 求められる。

第2 企業の人権尊重責任について

 1 総論的な3つの課題

 UNGPsの第2の柱である「企業の人権尊重責任」については、総論として、3つの課題が指摘 されている。1つ目の課題は、各種の企業間(特に大企業・多国籍企業と中小企業・家族経営企 業との間)で、UNGPsの理解と履行の間に大きなギャップを解消すること。2つ目は、UNGPs の実践に先進的な大企業を日本政府がさらに巻き込み、積極的な実践や残る課題について共 通の理解の構築を図るべきこと。3つ目は、政府・大企業・市民社会による中小企業等における UNGPsを実践するための能力構築の必要性である。

2 人権DD(HRDD)の義務化・法制化が求められている

ここで国連WGが、「作業部会がお会いしたほとんどの企業の方々は、HRDDHRN注:Hu man Rights Due Dilligence。「人権デュー・ディリジェンス」のこと。)を義務づけることが 望ましいことを示唆しました。これによって企業間に『公正な競争条件』が生まれ、政府の政策や 基準との整合性も高まるからです。HRDD要件を厳格化しない限り、中小企業にUNGPsを採 用する動機は生まれないというのが、ビジネス界の意見でした。また、金融部門についても、HR DDの実践を前進させる法的基礎が必要であり、政府はその方向でも対策を取るべきだという 意見が聞かれました。」と報告している点は注目に値する。

この点、日本政府や経営者団体は昨年9月に人権DD(HRDD)に関するガイドラインを策定したばかりであるため人権DDを義務化する立法を行うには時期尚早であるとの立場を取っているものと思われるが、そのような立場には、取り組みを進める企業との間に認識のギャップがあることが明らかとなった。欧米など世界を見渡せば人権DDを義務付ける法制化の流れはその実効性の担保と救済の実現に向けて不可避であるところ、世界市場で戦う企業において、む しろ「公正な競争条件」の観点から人権DD義務化を求がめる声上がることは何ら不思議ではない。

 HRNは、ガイドラインなど自主的基準では人権DDを行わない企業が出てくることは必然であり、そうした企業のバリューチェーン上でこそ人権侵害が起きていることから、人権侵害を予防 し、適時に適切な救済・是正を実現するという観点から、人権DDを義務付ける法制化を求めて いる。HRNで作成した法律案も公表しているため参考にされたい3。 加えて、ミャンマーやウクライナといった紛争地域及び責任ある撤退に関する人権デュー・ディ リジェンスの強化も含め、指摘されたように企業に対する能力育成についても、更なる取り組み が求められる。

今後、1日も早い人権DD法制化に向けて、市民社会と先進的な民間セクターとが協同して、日本政府に対して声を上げていくことも積極的に検討されるべきである。

第3 救済へのアクセス

1 幅広い人権問題に対する裁判官の認識の低さ

国連WGは、「UNGPsや、LGBTQ+の人々に関するものなど、事業活動の関連で生じるさら に幅広い人権問題に対する裁判官の認識が低いこと」を指摘し、「裁判官や弁護士を対象に、UNGPsに関する研修を含む人権研修の実施を義務づけることを強く推奨します」との勧告を行った。UNGPsに限らず、日本の裁判所においては国際人権基準(国内的にも法的拘束力を有 する国際人権条約を含む)に基づく法的主張が軽視される傾向が存在し、これまでも国連の諸機関から繰り返し同様の勧告を受けてきた。これは法曹教育・養成制度自体に関わる構造的な問題である。日本政府においては必要な予算等を確保し、最高裁判所が裁判官に対して、また、日本弁護士連合会が弁護士に対して、国際人権基準に関する義務的・定期的研修を実施し、国連等の主催する人権に関する国際会議・研修に積極的に参加できるよう必要な協力・支援を行 うことを強く求める。

2 国家人権機関(NHRI)の不存在

 国連WGは、国際的には人権保障に必要な枠組みとしてスタンダードとなっている「国家人権 機関(NHRI)」が日本においては不存在であることについて「深く憂慮」し、「これによって、企業 の人権尊重と説明責任を促進しようとする政府の取り組みに、大きな穴が開いている」と指摘 する。そして、「国家人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」に沿い、本格的な独立したNHRI を設置するよう強く促します」と勧告をしている。この政府から独立した国家人権機関が不存在 であるという問題も、日本政府は、これまで長年にわたり国連諸機関から繰り返し勧告を受け てきたにもかかわらず、積極的に取り組んでいない構造的な問題である。UNGPsの履行にお いて、救済メカニズムの設置を企業に対して求めるだけではなく、まず日本政府こそが範を示し て国家人権機関を設置するべきである。この点においても、市民社会と先進的な民間セクター との協働の取り組みが可能と思われる。

3 NCP(ナショナルコンタクトポイント)が機能していない

国連WGは、日本政府がOECDガイドラインに基づき2000年に設置したNCPについて、「設 置から23年で、取り上げられた事案がわずか14件であるという事実からも、NCPが救済面で 実効的な成果を上げるためには、その視認性や制度的能力、専門性を高めるための施策がさら に必要です。また、あらゆるステークホルダーから、NCPが独立かつ信頼に足る存在として認識 される必要もあります。」と国家基盤型の救済メカニズムとしての問題点を指摘している。事実、 NCPにおける救済の実効性にかかる市民社会からの評価は極めて低く、現状では、「利用して もほぼ意味がない」と認識されている。視認性はもちろんであるが、具体的ケースにおいて専門 的で公正な判断を示し、実効的救済を図ることで、ステークホルダーからの信頼を勝ち取らなければならない。

4 企業の苦情処理メカニズムにおいて通報者が保護されていない

国連WGは、企業が設置するグリーバンスメカニズム(苦情処理メカニズム)について、「作業部 会がお会いした大企業のほとんどは、苦情処理メカニズムを設置、運営しているものの、ステー クホルダーの中には、職場での不祥事を通報することで、報復(職を失うなど)を受けるおそれを口にする向きもありました。」と実情における深刻な問題点を指摘する。実際にステークホルダーに利用されなければ苦情処理メカニズムを設置する意味が無く、人権侵害の実効的救済に 繋がらないばかりか、企業にとっても報道や裁判等でのレピュテーションリスクに曝されること なる。この点、国連WGは、技能実習制度の項目において、「受け入れ側の労働組合が、労働者が その権利を知るための手助けをすると同時に、苦情処理メカニズムとしても機能するという事 例など、好ましい実践についても知りました。」と言及しており、労働組合が苦情処理メカニズム に関与することで状況が改善される可能性がある。また、企業横断の苦情処理メカニズムのプ ラットフォームを整備することで通報者の匿名性および通報対応の公平性を確保し、通報者の 保護を図ることも考えられるが、当該プラットフォームの運営にあたっては指導原則31に沿っ て透明性・独立性を確保することが必須である。

第4 個別の人権課題

国連WGは、特に国内のバリューチェーン上における人権課題を以下のとおり列挙し、UNGP sに基づき、その具体的な対応を日本政府及び企業に対して求めている。UNGPsが射程とする のは海外のバリューチェーン上の人権リスク・人権侵害だけでなく、自社を含む国内のバリュー チェーン上の人権リスク・人権侵害であることが改めて確認された。

1 女性 男女賃金格差、

非正規労働、企業幹部の女性割合、昇進差別、セクシュアル・ハラスメント

2 LGBTQI+

職場での差別、差別的な職場慣行(本名の開示要求、履歴書への性転換前の写真貼付など)、 包括的差別禁止法の欠如

3 障がい者

障がい者雇用の少なさ、職場での差別、賃金差別、支援システム・適切なサポート欠如によるア クセス困難、ジェンダー・人種・性的指向・障がいなどの複合差別

4 先住民族

人口調査の不実施、教育や職場での差別、ウポポイでの人種的ハラスメント、先住民としての 権利の不尊重、開発プロジェクトにおけるFPIC(自由意思による事前の十分な情報に基づく同 意)の欠如、土地と天然資源に対する集団的権利の不承認

5 部落

ヘイトスピーチ(特にオンラインと出版業界)、職場差別、採用差別、司法的救済の遅さ

6 労働組合

労働組合の結成の困難さ、ストの実施を含む集会の自由における障壁、労働運動を理由とする労働組合員の逮捕や訴追

7 健康、気候変動、自然環境

健康に対する権利をはじめとする人権に事業活動が及ぼす影響とクリーンで健康的かつ持続 可能な環境との間に関連性があることに対する認識の低さ、政府と企業がゼロカーボン経済への移行を確保するために十分な努力を払っていないこと、特に先住民族に関する環境問題に対 するステークホルダーの懸念に取り組む政府のメカニズムの欠如

8 福島第一原発事故

 強制労働、搾取的な下請慣行、安全性を欠く労働条件、災害直後の病院労働者・学校教職員が 直面した課題、債務返済のための原発の汚染除去・廃炉作業の強制、賃金・危険手当の中間搾 取、熱中症その他の労災による死亡事故、東電の苦情処理メカニズムにおける報復懸念、清掃・ 汚染除去作業によるがん関連の病気に対する救済がなされていないこと、汚染水排出

9 パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS

 東京や大阪、沖縄、愛知における水質汚染、水・土壌の調査の不実施、健康モニタリングの不実施

10 技能実習制度と移民労働者

 言語・媒体による情報アクセス障害、煩雑な申請プロセス、職場で事故に遭った者の解雇、労災でも治療を受けられない、劣悪な生活環境、出身国の仲介業者への法外な手数料、賃金差 別、韓国人・中国人労働者に対する雇用主のヘイトスピーチ・差別

11 メディアとエンターテインメント業界

 業界の搾取的な労働条件、労働法による保護の欠如、ハラスメントの明確な法的定義の不存 在、性的な暴力やハラスメントを不問に付す文化、女性ジャーナリストに対する性的ハラスメント や虐待に対する放送局の不対応、アニメ業界での極度の長時間労働、不正な下請け関係、クリエ イターの知的財産権が保護されない契約、ジャニーズ事務所のタレント数百人が性的搾取と虐 待に巻き込まれるという深く憂慮すべき疑惑、日本のメディア企業は数十年にもわたりこの不 祥事のもみ消しに加担した疑惑、ジャニーズ事務所の特別チームによる調査の透明性と正当性 への疑念

12 小括

日本国内の人権課題が上記に留まるものではないことは論を俟たないが、上記の人権課題 は、国連WGが専門的視点から特に重大な人権リスクであると特定したものであるから、日本政 府及び企業は、当該人権課題について、当事者を含むステークホルダーとのエンゲージメントを 実施しつつ、自社及び自社のバリューチェーン上における人権リスクの有無及び程度を特定し、 UNGPsを始めとする国際人権基準に基づいて必要な対応を行わなければならない。また、個 別の人権課題は、本声明「第1」から「第3」までに取り上げた日本における人権にかかる構造的 課題を解決しない限り、その実効的救済を果たすことは困難である。 このことは国連WGが、「作業部会は、日本がビジネスと人権分野での官民イニシアチブで十 分に取り組めていないシステミックな人権課題について、引き続き懸念を抱いています。女性や 障害者、先住民族、部落、技能実習生、移民労働者、LGBTQI+の人々など、リスクにさらされた集団に対する不平等と差別の構造を完全に解体することが緊急に必要です。」と結論付けて いるとおりである。

 したがって、「不平等と差別の構造を完全に解体すること」を目指し、日本政府は個別人権課 題に取り組むと同時に構造的課題に取り組む義務がある。また、企業も、各社のバリューチェー ン上での人権課題として取り組み「企業の人権尊重責任」を果たすだけでなく、同時に、構造的課題についても「国家の人権保護義務」の履行として、その解決に向けた政策実施を日本政府に対して市民社会と共に声を上げることが求められている。

第5 結語

 HRNは、本件ステートメントを踏まえ、日本政府および企業に対して、UNGPsの遵守という 観点から、国連WGからの指摘・勧告を真摯に受け止め、直ちにその履行に向けた取り組みを開始することを求める。

特に日本政府においては、NAPにおけるギャップ分析・評価指標の取り入れ、人権DDの義務 化・法制化、独立した国内人権機関の設立は急務であり、1日も早い実現に向けて真剣に取り組むことが要請される。

また、企業においては、国連WGが指摘した個別の重大な人権課題全てについて自身のバリューチェーン上における人権リスクを精査すると共に、その人権侵害に関与していることが明らか である場合には被害の実効的救済に向けて直ちに取り組むべきである。これまでの傾向では、 日本企業は海外のサプライチェーン上の人権リスクにのみ目を向け、足元の国内のバリューチェーンや自社内の人権リスク・人権課題に対する取り組みが不十分であったことから、本件ステートメントを踏まえて、自社およびバリューチェーン上の人権リスクを洗い出すべきであり、その際 には当事者を含むステークホルダーとのエンゲージメントが必要不可欠である。特にメディアと エンターテインメント業界については、国連WGが指摘したとおり、特定の企業のみの問題とし て矮小化することなく、業界における構造的問題として捉え、メディア企業等のバリューチェー ン上の人権リスク・人権侵害として取り組むことを求める。

以上

1 日本語版 https://www.ohchr.org/sites/default/files/documents/issues/development/wg/statement/2023 0804-eom-japan-wg-development-japanese.pdf

2 英語版 https://www.ohchr.org/sites/default/files/documents/issues/development/wg/statement/202308 04-eom-japan-wg-development-en.pdf

3 https://hrn.or.jp/news/23643/

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