生産性と賃金 ~ 資本によるイデオロギー攻撃(メモ)
「経済」23/3 野中郁江「2023年春闘と賃上げの条件」、藤田宏「求められる金融収益重視経営委の転換」よりメモ
。そこから言えることをまとめると・・
・「賃金が低いのは生産が低いから」との「主張」は、「謬論」というか資本のイデオロギー攻撃である。
~ いわれている生産性は「付加価値生産性」のこと。その生産性は、付加価値の値を労働の投入で割った値。
労働者1人あたりの生産性~「労働者の人数」で割る。時間あたりの生産性~「労働者の人数×労働時間」で割る
・付加価値 = 経常利益(所得税、配当金、内部留保)+人件費+賃借料+金融費用+租税公課+減価償却費
・一国の付加価値の総和は、GDPであらわされる。
*この間の日本経済の状から見えるのは・・
①配当、内部留保は急増 →「生産性」が低いのならこれも低迷してるはず。労働者の搾取をごまかす「ウソ」「攻撃」
②「付加価値の実現条件」の狭隘化 → 商品・サービスの購入は、労働者の賃金(家庭の購買力)の制限を受けている
~ 賃金の低迷=消費の低迷 = 「付加価値の実現」を阻害(GDPの低迷)
★つまり、賃金の低さ~付加価値の分配のひずみ(搾取・収奪)、実現条件の狭隘化による付加価値総量の低迷の結果
「生産性が低いから・・・」は、この状況を「我慢」させるためのイデオロギー攻撃
【「2023年春闘と賃上げの条件」 野中郁江・明治大学名誉教授】
〇テーマ 労働によって生みだされる富~ 労働者への分配が細る一方、内部留保蓄積、貧困と富の蓄積過程を分析
(データは、財務省「法人企業統計年報」)/「富」とは、労働によって生み出される価値、企業では「付加価値」として測定される。⇔ その「付加価値」を分析し、大幅賃上げの正当性と必要性を明らかにする
1 付加価値とは何か
・労働によって生み出される価値/企業が生み出す価値ではない → 仕入れた財・サービスに価値を付与するのは労働。付加価値の大きさを決めるのは労働時間 /仕入れた財・サービスも労働時間が生み出しており、最終商品・サービスの価値は、費やされたすべての労働時間の合計、付加価値の合計
(メモ 先端商品の特別剰余価値、途上国の低賃金を利用した実現過程におれる収奪的な利益については、考慮外)
~ GDP 国内全体の付加価値の合計 近年500~550兆円。民間企業の付加価値250~300兆円
・市場で実現され、他人のための使用価値となった価値 ⇔ 価値の実現のためには、国民の購買力など安定的に市場が確保されることが必要
→ 通貨管理制度の国 政府・中央銀行が、物価、金融・証券市場、為替の管理・誘導し、景況に責任をもっている
⇔ 労働者の責任ではない
・全企業の付加価値合計 ~ 06年度 290.8兆円、09年263.3兆円に減少。17‐18年300兆円超、20年度273.3兆円
(08年 リーマンショック、13年「アベノミクス」、19年10月消費税増税、20年コロナ禍)
2 少なすぎる労働者への分配
・付加価値の分配先 ~従業員、役員、賃貸料(不動産業)、税、支払利息(金融業)、配当(投資家)、内部留保(企業)
〇低下する労働分配率
・労働者への分配(労働分配率)
・景気が悪くなってもすぐには下がらない。01年度(ITバブル崩壊)、09年度も、64%
・好況期に低下(原因は後述) アベノミクス 17、18年度 58% /96年度~ で最低➡トリクルダウンどころか、搾取・収奪の強化
〇大きく低下した支払利息
・役員報酬 08-18年度 11%➡8.5% /が、一人当たりの額は、規模別で全く異なる
⇔ 1億円を超える大企業が増加。多くの中小企業は低下
・賃貸料と税負担への分配率 ~ 明確な変化の傾向なし
・大きく低下した支払利息 96-97年度 6~7% 09-11年度 3~4%。その後、2%前後
➡ 超低金利政策の恩恵 /その果実は、労働分配率に回されず
〇配当金、内部留保の増加
・配当金と内部留保の計 00年度 4%、10年度6.1%、18年度13.2% ⇔ 賃金、役員報酬、支払利息低下の「恩恵」
・企業が本業より投資・出資に注力 ➡ 配当金のかなりの額が、企業に還流 /海外からの配当金・・・「企業統計」には手で来ない。⇔その結果、付加価値の分配では、内部留保は、計算上マイナスでも、企業全体では、毎年増加
3.企業規模別の格差
資本金規模別に3区分し考察 ~ 5000万円未満、275.3万社 97% /5千万~10億円 8,837社 (かなりの大企業も含まれる) /10億円以上 4,959社 (上場企業3857社 20/12/16 なので、上場企業なみの大企業 )
〇収入格差
・従業員・役員一人当たりの収入
大企業役員 11年度 1724万円 ➡ 20年度 2022万円 /1億円以上 663人 10年以降最多 22年3月決算
中堅企業〃 919万円 ➡ 991万円
大企業労働者 679万円 ➡ 698万円 / 分母の労働者数 常用労働者と常用換算した臨時従業員数の計
中堅企業〃 449万円 ➡ 449万円
中小企業役員 448万円 ➡ 435万円
〃 労働者 322万円 ➡ 317万円 /従業員総数の51%
*大企業役員と中小企業労働者の格差 ~ 11年度 5.4倍 ➡ 20年度 6.4倍 に拡大
〇加速する大企業の配当金支払
・11、18、20年度の配当金の付加価値分配率
・平均 11-20 4.3% ➡ 9.6%
・大企業 10.2% ➡ 22.2% /中堅企業 3.3% ➡ 6.0% /中小 0.7% ➡ 1.2%
・20年度 コロナ禍で18年度より付加価値減少 ~中小、中堅は分配率減 /大企業 18.0 ➡ 22.2% と増
4.投資家・出資者としての性格を強める企業
〇受け取った配当・利息、運用益 ~ 営業外収益を増やし、内部留保を増やしている
・付加価値~労働が生み出した富 → そこから分配される配当金、内部留保の合計額は、投資家・企業の取り分
⇔ が、企業は投資家、出資者でもある~ ある企業の払う配当金、利息 ➡ 別の企業に還流
・ 企業から受け取る配当金、利息 ~会計課目 「営業外利益」に加算
⇔ 「営業外利益」・・・法人企業統計の対象外の海外からの配当金、利息、証券市場の運用益も含まれる
・96年度と20年度の損益計算書の比較
付加価値 271兆円→273兆円
売上高 1448兆円→1362兆円 ▲86兆円 ⇔ 付加価値同じなのに売上げ減 /卸売業の取引高の減少
営業利益 34.4兆円→42.6兆円 7.2兆円増
営業外差益 ▲6.6兆円→21.2兆円 27.8兆円増
営業外収益 19.2兆円 → 33.8兆円 14.6兆円増
営業外費用 25.9兆円 → 12.6兆円 ▲13.3兆円 支払い利息の減少など
*当期純利益(税支払後)の増加額 29.7兆円 → ほとんどが営業外差益
・20年度 全企業(保険・金融除く)の当期純利益 38.5兆円 ~ 配当金26兆円の残りが内部留保
⇔ 付加価値からの分配では、配当後の内部留保はマイナス。が、営業外差益の増により、内部留保を積み増し
〇事業会社なのに、金融資産が増加
・全産業(金融・保険除く)の資産面の分析~96-20年度
・営業資産(商売で生じる受取手形、売掛金、棚卸資産の計)387兆円→339兆円 ▲48兆円/売上減よりも多
・有形固定資産 479兆円→490兆円 わずか11兆円増 /設備投資、経済活動の停滞の反映
・無形固定資産 12兆円→27兆円 急増 /特許権、のれん代など情報化、M&Aなど事業活動、環境の変化を反映
* 上記、事業に関わりの深い資産の合計 878兆円→856兆円 ▲22兆円
・増加しているのは、事業活動と関係の薄い金融資産とその他資産
・金融資産(預金現金、有価証券、投資有価証券)~ 配当金、利息、運用益の源泉 255兆円→640兆円 2.5倍化
・その他資産(有価証券の形をとらない出資、貸付を多く含む) 175兆円→384兆円 2.2倍化
・金融資産+その他資産 430兆円→1024兆円 / 資産総額の54%
*事業会社の投資運用会社化~付加価値からの配当、利息の再取得先、事業外収益の増大で、内部留保の積み上げ
〇ため込まれた利益 ~ 従業員人件費の2年10カ月分
・金融資産を増加させた元手~労働が生み出した付加価値からの内部留保
・全産業の利益剰余金 145.3兆円→484.4兆円 3.3倍に
〃 賃金総額 167.5兆円→170.1兆円 微増
・96年 利益剰余金<賃金総額 / 20年 利益剰余金は賃金総額の2.84倍
➡ 産業資本から利子生み資本への転化 /実体経済の停滞、雇用者数、賃金の停滞
4.大義無き内部留保は取り崩されるべき
・企業の状況~ 営業外差益の急増、事業に関係の深い資産の減少・金融資産の膨張、利益剰余金の著しい増加
⇔ 大企業と一部中堅企業にだけあてはまる
・規模拡大・生産性向上のための設備投資を進め、元利償還が負担となっている製造業の企業は多い /小規模企業 経営者家族が労働者とともに働き、役員報酬をとれば利益剰余金がなくなる企業も多い。
⇔ ものづくりや暮らしに密接にかかわる中小企業は、不公平な競争条件を押し付けられている(付加価値の実現条件の制約。本来実現すべき付加価値の大企業への移転や付加価値切り詰め・低価格による輸出の量の確保)。
*社会全体 投資家と企業の取り分の増大・蓄積、労働者の取り分の減少⇔労働者からの搾取・収奪の蓄積として、大企業を中心にした法外に内部留保のつみまし ~ この大義なき内部留保は取り崩し、再配分されるべき
【求められる金融収支重視経営の転換 藤田宏・労働問題研究社】
・利益があがっても、賃金があがらない現状~労働規制の緩和・・・成果主義賃金、非正規雇用の拡大が低賃金構造を再編・強化してきた/が、現状はそれだけでは説明つかない。背景に、金融収益重視の経営戦略ある
・本稿は、大企業の経営指標の分析をとおして、「利益があがっても賃金があ゛からない」仕組みを検証する
- 利益は増えても賃金はあがらない
法人企業統計調査より、81-21年度の大企業(資本金10億円以上、金融除く)の経常利益、賃金の伸び(81年度100)
・2000年度初頭まで 賃金は経常利益の伸びに応じ、それなりに上昇
・04年度以降 経常利益の伸びが賃金の伸びを100ポイント以上も上回るようになる
04年度 賃金209.0 経常利益323.8 /21年度 賃金232.6 経常利益622.0 400ポイント近い差
2.大企業 -- 金融収支重視の経営に
・大企業の平均経常利益 81-03年度 13.9兆円 04-21年度 34.0兆円 ・・・ 2.4倍化
⇔ が、売上高 1.21倍にとどまる
・経常利益・・・本業の営業利益 + 営業外差益(黒字の場合「金融収益」)/04年度以降、その中身に大きな変化
〇経常利益の中で比重を高める金融収益
・大企業の金融収益 04年度 初めて黒字に /21年度 14.7兆円
04-21年度 金融利益 年14.6兆円増 営業利益 9.2兆円増 / 経常利益 23.7兆円増の6割強が金融収益
〇アベノミクス下で「濡れ手で粟」の大儲け
04-12年度=金融収益重視経営第一段階 13-21年度 〃 第二段階 として分析
・金融収益 第一段階 年平均2.9兆円 第二段階 10.3兆円 ➡ アベノミクス下で3.5倍に
・日銀 ETF購入51兆円(21年3月末)、GPIF 196.5兆円(内外の株式市場に投入 21年度末)で株高演出
→日経平均 03年12月1万1488円、13年12月1万6291円、21年12月2万8791円 /03年比2.5倍、13年比1.8倍
・金融収益率 第一段階 1.72% 第二段階 3.84%(21年度4.62%) 2倍以上に急拡大
〇大企業優遇税制と金融収益
・金融投資(有価証券等保有資産)の内訳・・・株式(固定資産)+公社債(固定資産)+その他有価証券(固定資産) + 株式(流動資産)+公社債(流動資産)+その他有価証券(流動資産)
⇔ 流動資産に計上されるもの ・・・売買を目的とし、1年以内で一時的に所有する「有価証券」 /固定資産は、関連会社有価証券など「投資有価証券」として計上
・金融投資で大きな比重=投資有価証券。その大半は、子会社・関連会社などの株式(固定資産)
~ 株式 04年度 95.7兆円→21年度282.2兆円 約3倍化 /金融投資の9割近くが子会社・関連会社等の株式
➡ 「税金を払わない大企業」 富岡幸雄中央大名誉教授 ・・・「受取配当金益不算入制度」の告発
“各企業が株式を保有しあえば、各企業の利益による配当金を、グループ内の企業でほとんど税金を払わずに内部留保にすることが可能」=企業が国内にある他社の株式を保有している場合、その受取配当金を課税益金に算入しなくていい税制。不算入できる割合は、子会社や関係会社の株式等にかかわる配当について、100%の「法人間接税」が認められ、子会社や関係会社以外の株式も50%が不算入になる。
⇔ 大企業の配当金 コロナ禍で経常利益が落ちた時期含め一貫して増加/13年度10.6兆円→21年度22.2兆円
3.金融投資の財源として膨張する内部留保
〇年々増加する大企業の内部留保 ~金融収益重視経営で急増
・91‐03年度 内部 120.8兆円→183.3兆円 年平均4.8兆円の上積み
➡ 第一段階01‐12年度 8.8兆円 /第二段階13‐21年度 12.7兆円 と加速
〇設備投資と内部留保
・内部留保・・設備投資、研究開発など本業発展のためにある程度必要なのは当然/が、本業と関係ない蓄積の増加
・設備投資 81‐90年度 年平均 101.6兆円 91-03年度 211.1兆円 / 内部留保の1.4倍強
第一段階 212.5兆円 /内部留保 91-03年度147.3兆円 →238.9兆円/ 〃 89%
第二段階 217.9兆円 / 内部留保 344.7兆円 / 〃 63%
〇内部留保の“活用術”
・内部留保に占める金融投資の割合~ 91‐03年度 55%前後 /第一段階 66.4% /第二段階 76.8%
~第二段階/第一段階 内部留保増分 105.8兆円 金融投資増分104.4兆円 ➡ほぼ金融投資に活用。
4.内部留保はどうため込まれたか
〇付加価値配分の変化
・付加価値=営業純益(営業利益-支払い利息)+役員給与・賞与+従業員給与・賞与+福利厚生費+支払い利息+動産+不動産賃借料+租税公課
➡配分先 労働者(人件費・福利厚生費)、他人資本(支払い利息、動産、賃貸料)、国家(租税公課)、企業(営業純益)
注)法人企業統計の計算式を元に、以下の計算では人件費は労働者の給与・賞与に限定/統計より分配率が低く出る
*付加価値を「人件費」、「営業純益」、「その他」に区分し、90‐03年度、第一・第二段階と比較し検証
営業純益 12.8% → 22.3% → 29.4% 急増
その他 26.0% → 20.6% → 17.7% 企業減税、設備投資の停滞・支払い利息の減
労働者 61.1% → 57.1% → 52.9% 低下
〇付加価値配分と労働者の賃金
・第一段階
付加価値 90‐03年度 83.4兆円 → 第一段階 87.2兆円 3.4兆円増
一人当たり賃金 585.1万円 → 569.5万円 ▲14.4万円 /賃金総額 41.6兆円→40.8兆円 ▲0.8兆円
営業純益 10.8兆円 → 19.4兆円 8.6兆円増
・第二段階(第一段階比)
付加価値 +10.4兆円 賃金増額 +2兆円のみ/しかも、従業員 28.9万人増
一人当たり賃金 572.7万円 +3.2万円 /が、90‐03年度比 ▲12.4万円
営業純益 28.7兆円 +9.3兆円 /付加価値増加の90%以上が企業に
➡ 付加価値が増えても、賃金に回らず、企業の懐に!
* 企業配分率 12.8% → 22.2% → 29.3% (営業純益/付加価値 * 100)
労働配分率 61.4% → 57.4% → 53.0% / 20年間で、▲8.4ポイント
5.企業利益最優先の経営転換で、大幅賃上げ、経済の再生を
① 毎年、数十兆円規模でため込む内部留保の規制
・21年度 営業純益 31.4兆円 企業配分率 30.4% ➡ 12年度・20.1%に戻すだけで、10兆円の賃上げ財源
➡2778万人 月3万円の賃上げが可能に
- そのために内部留保課税を 日本共産党提案 13年以降の内部留保増分 5年間時限立法 10兆円
- 大企業優遇税制の是正
「受取配当金益金不算入制度」「連結納税制度」「研究費減税」など
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