賃金デジタル払い 安全性、利便性でおきざり
賃金デジタル払いの導入は、安倍晋三政権が成長戦略でキャッシュレス決済の比率を25年までに40%程度に倍増する目標を掲げたことが発端で、労働者のニーズからはじまったものではない。
デジタル化には、政府への信頼(個人情報保護のための厳格なルールの確立は当然)が欠かせない。 が、法を無視して、紙の保険証廃止、マイナ保健証義務化に暴走する政権に、その資質はない
【資金移動業者の口座への賃金支払いに反対する幹事長声明 労働弁護団10/5】
【賃金デジタル払い 安全性への疑念 残ったままだ 10/17赤旗主張 】
【資金移動業者の口座への賃金支払いに反対する幹事長声明 労働弁護団10/5】
日本労働弁護団幹事長 水野英樹
本年9月13日の労働政策審議会で、資金移動業者の口座への賃金支払い(以下、資金移動業者の口座に支払われるものを単に「デジタルマネー」と称する。)を認める方向でおおむね合意されたという報道がなされている。
しかし、労働基準法24条1項は、通貨での支払いを求めているところ、これは、労働者の生活を保障すべき賃金は、一般的な交換可能性を持つもので支払われなければならない、という趣旨によるものである。
しかし、デジタルマネーは、いまだ普及率が高くなく、2021年のコード決済の割合は決済全体の1.8%にすぎない(経済産業省によるキャッシュレス決済比率)。しかも、平均利用額は月2万6568円(2021年家計消費状況調査。ただし、前払式支払手段を含む)であって、到底生活全般に利用できるものとして普及しているわけではないし、現に使用できない店舗も多くみられる。
現に、労働政策審議会に提出された資料上でも、「給与デジタル払いが可能になったら、制度を利用したい?」との問いに対し、利用したい26.9%に対し、利用したくないが40・7%と上回り、給与全てをデジタルマネーアカウントに入れたいとした回答はわずか7.7%にとどまっており、ニーズがあるとも到底いえない状況である。
さらに、現金化が1ヵ月に1回は手数料なく現金化が可能であることが必要であるとの条件も付けるようであるが、現状、そのような仕組みは整備されていない。
そして、2020年7月17日に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」において「2025 年6月までに、キャッシュレス決済比率を倍増し、4割程度とすることを目指す」とされ、同文書内で「デジタルマネーによる賃金支払い(資金移動業者への支払い)の解禁」が謳われたことを受け、2020年8月27日より労働政策審議会労働条件分科会において議論が開始されることとなった。このように、デジタル化を推進するために未だ十分普及していないデジタルマネーを利用し、この普及を図るという逆転した論理となっていると言わざるを得ない。
また、労働者の同意を要件とするといっても、労使の力の差を考慮に入れれば、労働者の同意が形骸化するおそれは否めず、通用しない場面も多々あるデジタルマネーで、生活の資となる給与の受け取りを強いられる可能性もある。
以上の通り、資金移動業者の口座への賃金支払いは時期尚早であり、デジタルマネーが十分生活用資金として普及していない現状では労働者の利便性を損ない、ひいては労働者の生活の保全を図る労働基準法24条1項の趣旨に反するため、反対する。
【賃金デジタル払い 安全性への疑念 残ったままだ 10/17赤旗主張 】
岸田文雄政権が賃金の「デジタル払い」を解禁しようとしています。残高100万円を限度に「〇〇ペイ」などのキャッシュレス決済口座に賃金を振り込めるよう政省令を改定します。世論調査会社のアンケートでは労働者の多数が反対しています。口座を運営する業者が破綻した場合の賃金の保全など重大な問題が指摘されています。強行すべきではありません。
〇破綻時に全額守れるか
労働基準法は「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と厳格に定めています。銀行振り込みは、あくまで労働者の同意を得た上で可能な例外措置です。厚生労働省はこれを拡大しようとしています。
同省は9月の労働政策審議会の分科会で「大筋了承された」として、2023年度にも導入する方針です。しかし審議会で出された「銀行口座と同等の安全性、確実性が担保されるのか」という肝心な疑問が未解決です。
銀行には最低資本金の額や本業に専念する義務など、業務を維持し、預金を保全するための厳しい要件が法律で定められています。キャッシュレス決済口座を運営する「資金移動業」への新規参入は銀行に比べてはるかに簡単です。専業義務はなく、他の事業で失敗して破綻する恐れもあります。
昨年、厚労省がデジタル払いの解禁を労政審に提起したときは労働者側委員が「安全性に大きな疑問がある」と批判し、了承を得られませんでした。
今回、同省は、破綻時でも銀行と同等の保護が図られるようにするとの方向性を示しましたが、保証機関が確実に残高を保証できるのか、厚労省が資金移動業者を監督できるのかなど労政審で引き続き疑問が提起されました。
個人情報保護も大きな問題です。賃金をデジタル払いにすれば、どの会社から誰にいくら賃金が支払われ、それを何に支出したかの情報が資金移動業者に集中することになります。本人同意のない個人データの利用を許さない仕組みが欠かせません。
キャッシュレス決済口座から不正な出金があった場合、すみやかに補償されるかも不安視されています。
労働者の同意も大きな問題です。企業が銀行への振込手数料を節約するため、デジタル払いを労働者に強制する可能性があります。
厚労省は、労働者の同意なくデジタル払いをした場合、申告があれば、労働基準監督署が対応するとしています。違法な長時間労働の取り締まりさえ不十分なのに、実際に対応できるでしょうか。
〇世論調査でも多数が反対
民間の世論調査会社が労働者を対象に実施した複数のアンケートではいずれも反対が多数でした。賛成は2~3割にすぎません。
銀行振り込みに加えてデジタル払いに対応する必要が生じることを負担とする企業もあります。
賃金デジタル払いの導入は、安倍晋三政権が成長戦略でキャッシュレス決済の比率を25年までに40%程度に倍増する目標を掲げたことに端を発しています。岸田政権もこの方針を引き継いでいます。
キャッシュレス化は国民の利便性と合意を大前提に行うべきです。多くの欠陥、疑問がある制度を性急に押しつけなければならない理由は何もありません。
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