「新しい資本主義」を考える (メモ)
◇政治経済研究所理事 合田寛さん寄稿 9/6- からのメモ
(1)株主偏重の思想を温存
(2) 分配を見直す米政権
(3) 腐敗の中心地がモデル
(4)「金融の災い」で国衰退
(5) 永久不変のシステムか
【参考 米国民71% 労組を支持 労働省も団結権支援 】
(1)株主偏重の思想を温存
岸田 8/10内閣改造後の記者会見~「新しい資本主義」の実現を新内閣の最重要課題とすることを改めて表明
・今年6月に「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(以下「グランドデザイン」)として閣議決定
・「新しい資本主義」の当初プラン~ 曲がりなりにも「新自由主義からの転換」を掲げ、「所得倍増」や、「金融所得課税見直し」などを打ち出し / が「グランドデザイン」は新自由主義を温存、「資本主義のバージョンアップ」を図るの結論し
〇広がる不平等~ 新自由主義が生み出したさまざまな弊害のなかでも、不平等の拡大は深刻。
『世界不平等レポート2018』(世界不平等研究所)~ 1980年から2016年までの世界の所得増加分のうち、57%は上位10%の富裕者に / 下位50%が受け取った分はわずか12%
・日本 同レポート ~ 上位10%の所得割合 1980年代までの30~35%から2021年には45%に/ 一方、下位50%が占める割合は減り続け、わずか17%。
(2) 分配を見直す米政権
・コロナ、気候危機、格差~ 世界は危機に直面。 共同しこの困難な課題に立ち向かう時代。
・岸田 「新しい資本主義」 ~「日本のみならず、欧米でも同じ発想で新しい経済モデルが模索されている」(5月26日、衆議院予算委員会)と強調 が、米国の例と比べると・・・
〇大企業に課税
8/16「インフレ抑制法」成立 ~ 「日経」の評価 「大企業への課税強化を柱とした新たな歳出・歳入法がバイデン大統領の署名を経て成立した。1980年代から続いてきた大企業偏重の分配を見直すことで、社会の分断を広げた資本主義の修正に半歩踏み出した」(8/18電子版)
・同法 ⇔ 10年間で総額4370億ドル(約59兆円)の歳出 ~ 気候変動対策や医療保険への補助など
歳入 歳出を大きく上回る7370億ドル(約98兆円) ~財政赤字を削減し、インフレ抑制につなげる狙い
*注目されるのは財源 ~ 法人税に15%の最低税率を設定 /大企業に対して、税負担率が15%に達するまで、その差額の税の支払いを義務付け
・ワシントン・ポスト(8/12電子版) 10億ドル以上の利益を上げる米国の大企業250社のうち、83社が税制上の各種控除などによって15%以下の税負担率に / アマゾン、インテル、バンク・オブ・アメリカ、AT&T、GMなど
⇔ 15%の最低税率設定で 10年間で2200億ドルの増収見込み / 歳出増の相当部分を支える
★もちろん「インフレ抑制法」は 当初掲げた「ビルド・バック・ベター」(より良い再建)プランから見れば、ささやかなもの
〇劣勢乗り越え
・バイデン政権発足後、「米国救済計画」(総額1・9兆ドル)、「米国雇用計画」(2兆ドル)、「米国家族計画」(1・8兆ドル)
~ コロナ対策、雇用、子育て支援、教育、インフラ整備、気候変動対策を含む大型の長期予算を提案
⇔ 財源は大企業や富裕者への課税強化/が、共和党や民主党の一部議員の抵抗で、実現は難航
・が、あきらめず追求~
- 今年3月末の予算教書 で提案
→ 法人税率を21%から28%に引き上げるという税制改革案
→、個人所得税の改革案( 1億ドル超の資産を保有する上位0・01%の富裕者に対して、未実現のキャピタルゲイン(資産売却益)を含めた全所得を対象に、20%の最低税率を設定 /年間所得40万ドル(約5400万円)以下の人には増税しないことを約束 )
- 8月に成立した「インフレ抑制法」~ 議会での劣勢を乗り越えて、大企業への増税計画の一部がようやく実現
・ひるがえって日本 ~ 大企業への増税、金融所得課税による富裕者増税 提案する気配もなし/姿勢の違いは歴然
(3) 腐敗の中心地がモデル
・ 「新しい資本主義」 岸田首相の当初プラン~ 「新自由主義からの転換」 / 「令和版所得倍増」、「金融所得課税の見直し」など 分配面を重視する政策をもりこむ
→ が、今年6月に閣議決定 「新しい資本主義グランドデザイン」 ~ 「新自由主義からの転換」の言葉はなくなり、/代わりに、第一の柱に「資本主義のバージョンアップ」/ 新自由主義も「成長の原動力の役割を果たした」と肯定的評価
・岸田プラン 変質する転換点 ~ 5月5日 英国ロンドンのシティーでの講演 /、「日本経済はこれからも力強く成長を続ける」「安心して日本に投資してほしい」というもの。 分配ではなく企業利益に力点
〇貯蓄から投資
岸田シティー演説の強調点 ~ シティーをモデルにして日本を金融で繁栄する国にする / その戦略の一つが、、2000兆円にのぼる個人の金融資産を投資に結び付け、成長戦略の柱とすること
→ 巨額の金融資産を「大胆・抜本的に」貯蓄から投資に振り向けることを提唱/ 「資産所得倍増計画」と位置づけ、
⇔ その本質~ 巨額の株式や債券を保有する一部の富裕者の利益増大 / 日本を国際金融センターとする戦略
シティー講演 「新しい資本主義を実現するためには、国際金融センターとしての日本の復活が必要です」
〇汚い資金流入
シティーの実像 ~ 国際的な金融の中心であると同時に / ダーティーマネー(違法な活動で得た汚い資金)が流入するオフショア(無規制・非課税の金融地域)の中心
⇔ ケイマン諸島などの英国海外領土やジャージーなどの英国王室属領とともに、オフショアのネットワークを形成
・ロシアのウクライナ侵攻 ~ 浮かび上がったロシアのオリガルがシティーに持ち込んだ巨額の不法資金 / 英国政府は、ゴールデンビザ(投資家限定の在住許可)を与え、積極的に呼びこんできた
・オリガルヒに対するオフショアサービス ~ 英国における「法の支配」を弱め、民主主義の基礎を揺るがすとの深刻な懸念が指摘 / 世界有数のシンクタンク 王立国際問題研究所 21年末発表の報告書 : 「英国のクレプトクラシー(横領で私腹を肥やす権力者の泥棒政治)問題」 での批判の主旨
→ “ ソ連崩壊とともに旧ソ連のエリート(オリガルヒ)が巨額の利益を得る機会が生まれた。その過程において英国の銀行、法律事務所、資産管理会社など職業的金融サービス業者は大きなビジネス機会を得た。
彼らは不法資金と正当な資金をまぜ合わせ、合法的資金に見せかけるマネーロンダリング(資金洗浄)を助けた。そうすることによって、彼らは英国の法制度に抜け穴をつくり、腐敗に対する取り組みを弱め、「法の下の平等」、ひいては「法の支配」を損なわせた―。”
(4)「金融の災い」で国衰退
・世界の金融センターを目指してきた英国の政策 → 金融産業を肥大化させた/半面、製造業を衰退に追い込み、英国経済に負の効果と深刻なゆがみをもたらした
⇔ 大きすぎる金融は国を貧しくするという逆説 = 「金融の災い」とも言われる現象/ 次のような形で表れる
(1)過大な金融部門を持つ国では、金融部門が高給で人材を集め、他産業から優秀な人材や資源を奪う結果、製造業など他産業を枯渇させる。
(2)過剰な金融部門を持つ国では、実体経済を上回る余剰資金は投機活動や企業買収などのマネーゲームに費やされ、長期的な視野に立った経済活動が行われなくなる。
(3)過大な金融資産の蓄積は、所得と富の不平等を増幅し、格差をますます拡大する。
(4)過剰な金融資産が蓄積する経済は、金融の膨張とその破裂を繰り返し、グローバルな金融危機と経済破綻の原因となる。
(5)過大な金融部門を持つ政府は、市民を犠牲にして金融資本を優遇する政策をとる。資本は移動しやすく、優遇措置を与えなければ、他の金融センターに逃避するからである。
*金融の発展は実体経済を支える限り経済に好ましい影響を与えるが/ ある限度を超えると甚大な社会コストをもたらし、成長を阻害する
〇 GDP1年分
発生した社会的コストの研究 = マサチューセッツ大学 ジェラルド・エプスタイン教授ら
(1)金融セクターが得た独占利潤
(2)資源の誤った配分によるビジネスや家計からの収奪
(3)金融機関救済など金融危機がもたらしたコスト
―の三つをあげ、過剰な金融によるコストを試算
・米国の金融システム 1990~2023年で 米経済に13兆~23兆ドルも余分なコスト負担/GDPのほぼ1年分
・英国 社会的コスト推計 1995~2015年で 4・5兆ポンド/ 英国の平均GDPの約2・5年分
〇底辺への競争
日本政府の思惑~ シンガポールや香港に代わってアジアにおける国際金融のハブになること
・が、シンガポールや香港は低税率と緩い金融規制で知られるタックスヘイブン/日本も類似の税制・金融措置をとることが求められる
~ 金融庁は財務省主税局に対して、法人税・所得税・相続税の軽減措置を求め、海外の資産管理会社や金融の専門家に対する優遇措置を強めようとしている
* 日本をオフショア(無規制・非課税の金融地域)化の道に導き、ダーティーマネーの流入や腐敗を招くことに
⇔ 国際金融センターをめぐる競争は、オフショア性を競う競争 = 規制と税の国際的な切り下げ競争、「底辺への競争」 / 犠牲となるのは、公共支出に必要な税収を失い、「金融の災い」を被る一般市民
(5) 永久不変のシステムか
・岸田内閣が掲げる「資本主義のバージョンアップ」 ~ 「新しい資本主義のグランドデザイン」
→ 「自由と民主主義は、権威主義的国家資本主義からの挑戦にさらされている」/ 冷戦型の思考で、中ロと対峙
・が、自由と民主主義への脅威は、ロシアや中国などの権威主義国家だけか/欧米資本主義国による脅威も深刻
〇税逃れの温床
・世界では一部の者に富が集中~ 富裕者が政治権力と結びついたとき、金権政治と腐敗が進行
→ 富裕者と巨大企業の税逃れやマネーゲームの温床となっているのはタックスヘイブン、オフショア/その中心はロンドン、ニューヨーク~そこのメガバンク、巨大会計事務所、法律事務所などの金融サービス産業
⇔ ダーティーマネーを受け入れ、税逃れやマネーゲームを指南し、マネーロンダリングに手を貸している
・ダーティーマネーを動かしている勢力~ はロシアのオリガルヒだけではない/タックスヘイブンやオフショアを最も広範かつ大胆に利用しているのは欧米の富裕者と多国籍企業 ⇔ その仕組みが不平等を一層拡大
〇終着点は同じ
・不平等の傑出した研究者: ブランコ・ミラノヴィッチ・ニューヨーク市立大学客員教授 ~ 現代の世界を、米国が代表する「リベラル能力資本主義」と、中国が代表する「政治的資本主義」との対立と見立てている(『資本主義だけ残った』)。/が、不平等と腐敗を招いている点ではどちらも共通だと指摘
⇔ 能力主義的な資本主義の下で経済的な力と政治的な力が結びつけば、ますます金権腐敗と不平等が進み、官僚が支配する政治的資本主義と似通ったものになる―。終着点は同じだ
⇔ ミラノヴィッチ~ 資本主義に代わる社会体制はないと考える一方、誰もが資本所得と労働所得をほぼ等しい割合で得る「民衆資本主義」に進化する可能性に希望を託している。
・フランスの経済学者トマ・ピケティ ~ 所得と富に対する累進課税によって富の集中を是正するとともに、それを財源として若者に等しく分配する普遍的な資本贈与によって、財産と富の恒久的な循環をつくり出す「新しい社会的所有」の形成を主張(『資本とイデオロギー』〈未邦訳〉)
・これらの主張には、資本主義の枠内では実現が困難な内容も含まれているが/ 岸田内閣の「新しい資本主義のグランドデザイン」~「資本主義を超える制度は資本主義でしかあり得ない。新しい資本主義は、もちろん資本主義である」と、資本主義が永遠に続くものと一方的に断定
◎今後の展望にかかわって
1世界を「自由主義陣営」と「権威主義陣営」に二分し、一方が善で他方が悪だと決めつけ~冷戦型思考の遺物/現実には、どちらの陣営も自由と民主主義にとって脅威になる可能性をはらんでいる
2 また、現行の資本主義を永久不変のシステムと考えるべきではない~ バイデン政権のビルド・バック・ベター(より良い再建)政策にみられる新自由主義を超える政策をとることも可能/ さらに、資本主義の枠内では実現が困難なさまざまな改革が、従来の社会主義者以外からも提案される状況が生まれている (メモ者「脱成長」など)
【 米国民71% 労組を支持 労働省も団結権支援 労働運動の高まり背景に 民間調査 】
・米世論調査会社ギャラップの調査 8月1~23日実施~ 昨年調査68%、すでに65年以降で最高/今年はさらに増
⇔ 一方、米労働省は、労組や団体交渉に関心のある人の助けとなる特設サイトを開いている。
・最高水準を更新した背景の指摘 ~ スターバックスやアマゾンといった米有名企業で労組結成を勝ち取るなど全米での労働運動の高まりにある
・独立行政機関「全米労働関係委員会」発表~ 2022年米会計年度の上半期(21年9月~22年3月)で労組結成のための投票実施の請願が、前年度の上半期と比較して57%増加
・ギャラップの1936年以降の毎年の調査 ⇔ 労働組合に対する支持率 最高 53年の75%、最低2009年の48 %/16年の56%から今年まで、支持率は連続して増
・米労働省HP~ 今年の「レーバーデー」である9月5日を前に、特設サイト「ワークセンター」を開設。
→ サイトは、労組の意義や結成の方法、労組が賃金や福利厚生、生活をどのように改善し、経済と民主主義を強く保つために役割を果たしてきたかなどの情報や、労働者の声を掲載
・ウォルシュ労働長官の動画メッセージ 「労組に加入した労働者は安心して自分たちの権利をはっきりと言える。政権・労働省は労働者の団結権を支援することを約束する」
・8月29日付の労働省のブログ 「労働組合員数を増やすことは経済をより強くし、労働者とその家族の生活をより良くすることを意味する」と強調
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