アジアの緊張高める「経済安全保障」 ~軍事研究に動員させる仕組み「シンクタンク」「協議会」
赤旗3/21付、岸田政権の「経済安全保障」について、井原聰・東北大学名誉教授の(科学史・技術史)に「聞きました」からりメモに、他情報を加筆整理したもの。特に、軍事研究に人も研究成果も金も動員する仕組み~官民技術協力の推進機関として「シンクタンク」と「協議会」を設置する危険性については重要。最後の対抗軸の形成についての言及も重要に
【アジアの緊張高める「経済安全保障」 3/21】
中国と覇権を争う米国のいいなり 研究者と企業を軍事力増強に動員
法案は「経済安全保障」の定義がなく、政省令に委ねられた事項は124カ所。実際の運用はほとんど政府に白紙委任
①「経済安全保障」法案 ~ 4本柱
第1の柱 — 半導体などの「特定重要物資」のサプライチェーン(供給網)を強化/ 事業者に、企業秘密であるはずの供給網について報告させる。また資金支援などを通じて物資の調達ルートを複数つくるなどの対策推進
⇔一方、日本に工場を新設するTSMCに5000億円という破格の補助金/特定企業への巨費投入
第2の柱 —情報通信。電力などの基盤インフラをサイバー攻撃から守る/民間企業の設備投資に対して国が事前審査を行う
→ 基幹インフラを担う企業は、指定を受ければ、設備や業務委託について事前の届け出を義務づけ/場合によっては業務内容の変更を命じら、下請けや取引先まで監視を受けることに/対象となる業種は電気、ガス、金融、放送など14の分野/サイバー攻撃の防止と言うが、法案には何が妨害行為にあたるかは書かれてない。ここでも恣意的運用が可能。
~この二つは「守り」の戦略 / 対立する国家として想定されているのは中国。中国からの特定重要物資の供給が途絶えたり、中国からサイバー攻撃を受けたりしても大丈夫なように、サプライチェーンと基盤インフラを守るというもの
さらに危険なのは「攻め」の戦略 残り二つの柱
第3の柱 — 「官民技術協力」の枠組みを構築して先端的な重要技術の育成
(15年、防衛装備庁が軍民両用技術の研究開発支援制度を発足 年間約100億円の予算が支出。さらに拡大させるもの)
→ 官民技術協力の具体的な中身 ~ 「経済安全保障」法案は99もの条文。が、具体的な内容は何も書かれてない/法律成立後に内閣総理大臣らが作成する指針、政省令で定める /国会審議を軽視する自公政権の特徴的なやり方
第4の柱 — 「特許非公開化」によって機微な発明の海外流出を阻止
→ 日本の研究者や研究機関、民間企業、科学技術が、軍事機密にことよせて政府に囲いこまれ、軍事力増強のために動員される危険がある
★総体として、中国との軍事的な対立を先鋭化させる一方で、日米軍事同盟を強化して軍備を拡張するための枠組み/中国との覇権争いに傾倒する米国のいいなりになってアジアの緊張を高める方向
⇔ 「経済安全保障」は日米安保体制強化の一環/1月7日の日米安全保障協議委員会 中国を念頭に「同盟が技術的優位性を確保するための共同の投資」に合意/ 同月21日・日米首脳会談 経済安全保障での連携を確認し、閣僚レベルでの経済協議体の設置に合意
②「経済安全保障」の内容を具体的に示すのは有識者会議の提言(2月1日)
・「安全保障上の脅威」への対応策 ~ 「先端技術の研究開発・活用を強力に推進」することを官民技術協力の目的に/先端技術を軍事利用する国々への仲間入りをめざし、平和憲法を持つ国の使命を否定する考え方
・重大なのは、官民技術協力の推進機関として「シンクタンク」と「協議会」を設置する点
シンクタンク~「政府の意思決定に寄与する調査分析機能」を担い、「高度な人材の確保・育成」を行う/シンクタンクが「人材」を囲い込んで政府と二人三脚で政策を立案する上、将来的にはシンクタンクに学位授与機能を持たせる案も提示
→ 御用学者で固めたシンクタンクを先端研究分野の中心に位置づける /事実上、日本の学界の中核的組織である日本学術会議や大学などの研究機関がシンクタンクの下位に置かれ、日本の学術研究体制を大きく変容させる危険な方向
・シンクタンクの指導の下で順調に進みそうな研究プロジェクトには、協議会をつくり、内閣府と関係省庁が横断的に関与
→ 「実用化・事業化」を見据えた「一気通貫の研究開発」に対して「関係省庁」が「伴走支援」する/「関係省庁」は防衛省を入れるための文言
★シンクタンクと協議会を使って政府が先端研究の内容と人事を支配し、軍事研究に動員する体制/従来の「産官学連携」の域を超えており、戦時中の国家統制を彷彿とさせるもの
→ ただし戦前と違うのは、官民技術協力の行き着く先が米国との共同開発・共同生産だという点 /日米の軍事力には圧倒的な差。よって日本の技術研究の成果は米国の軍需産業に吸い取られていくことに
★結局、日本の研究機関と民間企業を米国の世界戦略の中に組み込むもの
③ 軍事目的での政府の介入は先端技術の研究をむしろ阻害
・現在、大学、研究機関の研究者の7割が非正規の短期雇用/競争的研究費獲得の目先の成果に追われる研究者が多数
⇔ 政府がシンクタンクの提言に基づいて「社会実装(研究成果の社会への応用)」をめざす研究費を乱発すれば、基礎研究はますます疎かになり、研究基盤が掘り崩される / 日本の基礎科学がしぼんでいくことは目に見えている
・官民技術協力~「特定重要技術」を指定し軍民両用技術の開発を促進/宇宙、海洋、量子、AIなどの先端技術。
・「経済安全保障」法案 政府の委託を受けた研究の中で「知り得た秘密」に関して罰則を伴う守秘義務を規定
⇔ 産学連携の段階でも研究者同士の情報交換が阻害されている/軍事機密がからんで罰則が科されるなら、研究はますます不自由なものに/ 「秘密」と指定された途端に、研究成果の発表が不可に~研究の現場を無視したやり方
・軍事面で重要な技術の発明について特許を非公開にする仕組みを導入することも大問題
→ 秘密特許は憲法9条の精神に反するという理由で第2次世界大戦直後に廃止された経緯がある/特許非公開に伴って研究発表が差し止められ、技術開発が停滞し、重要な特許を多く持つ中小企業が大きな打撃を受ける恐れがある
④「経済安全保障」の考え方に対抗する取り組み
・ロシアのウクライナ侵略 ~ 野蛮な行動をとる核兵器保有国が現れたら、核兵器は抑止力にならないことが明らかに
⇔核兵器の応酬は世界を破滅させるので、力に力で対抗するという論理は意味をなさない
・別の論理を追求しなければ平和は守れない
⇔ 国際協調主義を強め、軍縮と核兵器の廃絶に進むという論理/核兵器を持つロシアや中国、米国を含む世界各国の国民同士が草の根で交流し、敵対関係を解消していくことが重要
・大学の研究室には中国含む様々な国から留学生が多数存在~ 学問は本来、さまざまな国々の研究者と交流しながら創造的な研究を生み出すもの/互いが高め合う、憲法9条を持つ平和国家にふさわしい国際協調のあり方を提起するべき
・科学技術の研究現場が軍事に動員されることがあってはならない~経済・科学技術を軍事目的で統制することは戦前の日本がたどった道。憲法9条に基づいて世界平和の実現に貢献することこそ追求すべき
・研究者の側も、個人的な研究者倫理の問題とだけにせず、自分たちの研究が軍事に吸い上げられない仕組みを構築する工夫が不可欠で、あらゆる面で、研究者の国際的な連帯運動を発展させなければならない。
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