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経済安保の深層(2)メモ ~ 無視されている食料安全保障

 政府の「経済安保」には、37%まで低下した食料自給率をどう改悪し、「食料安全保障」を確立する国家戦略が欠落している。

「金を出しても買えない」「すでに買い負けている」と警告を発する鈴木宜弘教授の論稿(詳しくは氏の著作「農業消滅」「協同組合と農業経済」を)

農業を支える化学肥料、その原料である尿素、リン、カリとほぼ輸入もの。輸入先は 

尿素 マレーシア45%、中国37% / リン酸 中国87%、アメリカ11% /(カリ  カナダ65%、ベラルーシ12%、ロシア11%)。 ここでも中国依存は大きいが、肥料も不足、輸出規制がはじまっている。

・「経済安全保障」と言いながら、いかに国民の命と暮らしを無視しているか、よくわかる。

 【提言 輸出5兆円とデジタル化を嗤う 農政の柱に危機認識の欠如 鈴木宣弘東京大学大学院教授 202232日】

【提言 輸出5兆円とデジタル化を嗤う 農政の柱に危機認識の欠如 鈴木宣弘東京大学大学院教授 202232日】

・ウクライナ危機も勃発し、農産物価格、生産資材価格の高騰が増幅

・高村光太郎は「食うものだけは自給したい。個人でも、国家でも、これなくして真の独立はない」~ 国家安全保障確立戦略の中心を担う農林水産業政策を再構築すべき

・必要なのは、自分たちの命、環境、地域、国土を守る安全な食料を確保するために、国民それぞれが、どう応分の負担をして支えていくか、というビジョンとそのための包括的な政策体系の構築。

 

◆食料危機が迫るのに「食料安全保障」が欠落

・岸田総理が語る「経済安全保障」には、「食料安全保障」についての言及はな い/農業政策の目玉は、輸出振興とデジタル化

・食料や生産資材の高騰、中国などに対する「買い負け」が顕著になり、国民の食料確保や国内農業生産の継続に不安が高まっている今、前面に出てくるのが輸出振興とデジタル化というのは、政府の危機認識力が欠如

・輸出振興を否定はしない。が、食料自給率が世界的にも極めて低い37%という日本にとって、食料危機が迫っているときに、まずやるべきは輸出振興でなく、国内生産確保に全力を挙げること

⇔ しかも、農産物輸出1兆円は「粉飾」/国産農産物は1千億円もなく。5兆円目標にどれだけの意味があるのか。

/デジタル化も否定しないが、デジタル化ですべてが解決するかのような夢物語にどれだけの意味があるのか。

 

◆お金を出せば買える論理はすでに破綻

・自民党提言 「『経済安全保障戦略』の策定に向けて」(2012)

→「食料安全保障の強化」の項目はあるが、「食料自給率の向上」という言葉は一言もない

・食料をめぐる国際経済の中でどう調達するかを考えるだけ ⇔ お金を出せば買えるのだから、その準備をしておけばよい、それが一番安くて効率的な安全保障だという考え方

・が、それができなくなってきている現状を直視せずして安全保障の議論は成立しない

 

・貿易自由化を進めて食料は輸入に頼るのが「経済安全保障」という議論 ~ 根幹となる長期的・総合的視点が欠落

→ 国内の食料生産を維持することは、短期的には輸入農産物より高コストであっても、「お金をだしても食料が買えない」不測の事態のコストを考慮すれば、実は、国内生産を維持するほうが長期的なコストは低いのである。

→ 狭い視野の経済効率だけで市場競争に任せることは、人の命や健康にかかわる安全性のためのコストが切り詰められてしまうという重大な危険をもたらす/特に、食料自給率がすでに37%まで低下した日本では、食料の量的確保についての安全保障が崩れると、安全性に不安があっても輸入に頼らざるを得なくなる = 量の安全保障と同時に質の安全保障も崩れる

 

◆「買い負け」は現実になっている

・中国などの新興国の食料需要の想定以上の伸びている

~ 例) 中国の大豆輸入 1300万トン/ 日本 大豆消費量の94%輸入。が、わずか300万トン

→ 中国がさらに買うと言えば、輸出国は日本に大豆を売ってくれなくなるかもしれない / 今や、中国などのほうが高い価格で大量に買う力がある。

→ 現に、輸入大豆価格と国産価格とは接近してきている。コンテナ船も日本経由を敬遠しつつあり、日本に運んでもらうための海上運賃が高騰している。
→ 一方、中国の生産は経済発展で農地も減り、数十年に一度の水害が毎年起こりかねないように、「異常」気象が「通常」気象になりつつある。中国でも世界的にも不作は確実に起こる頻度を増している。

・世界的に供給が不安定さを増す一方で、中国の大量輸入などの需要増加傾向は強まり、今後、需給ひっ迫要因が高まって価格が上がりやすくなる。原油高がその代替品となる穀物のバイオ燃料需要も押し上げ、暴騰を増幅する。

 

*今後、農産物の国際価格はジグザグと上下しつつも、ベースになる水準が上がっていく可能性が高い /高くて買えないどころか、日本は「買い負け」る状況が起こりやすくなる

~前々から警鐘を鳴らしてきたが、さらに事態は深刻化し、様々な品目で「買い負け」がもう現実になっている。

 

◆コメを作るな、生乳搾るなと言う危機認識の欠如

・食料危機のリスクが間違いなく高まっている/ が、政府は、コメ、牛乳、砂糖が余っているから減産しろと要請

→、減産で農家の意欲をつぶしている場合ではない。日本にまともに食料が入ってこなくなる可能性が高まっている。

 

・砂糖 ~ 輸入粗糖の減少で国産支援財源が不足してきているから、てん菜などの減産と言う/が、そもそも国内産振興は、大枠の国家戦略で判断されるもの (メモ者 関税収入を支援財源にあてている )

・砂糖~ 国際的にも酪農と並んで最も手厚く保護されている部門

→ その理由はナショナル・セキュリティ / 砂糖の国民1人当たり摂取量が7kgを下回ると暴動などが発生し、社会不安に陥ることが世界的にデータで確認されているという。

日本の砂糖自給率 36% ~ 現在の国産供給は6kg 物流が止まれば「暴動誘発水準」下回る

 

30年近くも日本人の所得だけが減少し続け、食料の消費量は毎年減少が続いていた中、コロナ禍で、さらに大きく減少

→ 食べたくても食べられない人が増えているのであり、余っているのではなく、足りない/ 増産して人道支援、困窮者支援を行い、それで在庫が減り、生産者も救われ、かつ、迫り来る食料危機にも備えることこそが求められている。

*お金で買えることを前提にした経済安全保障は破綻している。食料が入って来なくなるリスクに備えることこそが安全保

 

◆国民全体で食料を守ろう

・食料の国内生産を維持・拡大するために、国民全体が考えよう /生産、流通、小売り、消費、関連産業は「運命共同体」

・小売りは買いたたきをやめよう。農家がつぶれたら小売りも持続できなくなる。

・消費者も「安ければよい」をやめよう。農家がつぶれたら食べるものがなくなる。生産から消費までのネットワークを強化で

「三方よし」の持続的循環経済を公共支援もセットで確立しよう。

 

・世界一過保護な日本農業という誤解が国民に刷り込まれてしまっているが、実態はまったく逆

・米国/コロナ禍による農家の所得減に対して総額3.3兆円の直接給付、3,300億円で農家から食料を買い上げて困窮者に届けた。日本はほぼゼロ

・米国・カナダ・EU/設定された最低限の価格(「融資単価」、「支持価格」、「介入価格」など)で政府が穀物・乳製品を買上げ、国内外の援助に回す仕組みを維持。これも日本にはない / さらに、その上に農家の生産費を償うように直接支払いが二段構えで行われている。これも日本にはない。

 

・本当は、世界でも最も保護なしで踏ん張ってきた日本の農家は「精鋭部隊」 ~ 世界10位の農業生産額を達成していることに日本の農家は誇りと自信と国民を守る決意を新たにしてもらいたい。

 

★命を守り、環境を守り、地域を守り、国土・国境を守っている産業を国全体で支えるのは欧米では常識/それが常識でないのが日本。非常識のままでは危機が乗り切れない(メモ者 農業農村の多面的機能年8兆円)

・国は不測の事態のセーフティネットと出口対策に財政出動しよう~  例)、コメ11.2万円と9000円との差額を主食米700万トンに補填するには3,500億円。 これで国民の命が守れる/ 全国の小中学校の給食無償化は約5,000億円。これで子どもたちの未来を守れる。

★食料こそが国家防衛の要~米国からのF35だけで6.6兆円(147)の武器購入・維持費と比べても、この食料安全保障費が出せない理屈はない。

【政府の諮問にもとづき農業・森林の多面的機能を分析した学術会議の答申 2001.11.1

農水省コーナー https://www.maff.go.jp/j/nousin/noukan/nougyo_kinou/

答申        https://www.maff.go.jp/j/nousin/noukan/nougyo_kinou/pdf/daijinatetoushin.pdf

 

農業・農村  8兆2200億円/年

森林     70兆2600億円/年

 

・22年度予算  2兆2777億円  公共事業費が0・04%増の6981億円、非公共事業費が0・5%減の1兆5796億円/林業関係 1・6%減の2985億円、水産業関係は同額1928億円

 → いかに「安い」農林業予算で、多面的機能にただ乗りしているか、ということ 

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◆欧米は「価格支持→直接支払い」でなく「価格支持+直接支払い」 鈴木宜弘教授

・欧米は価格支持から直接支払いに転換した(「価格支持→直接支払い」と表現される)が、実際には、「価格支持+直接支払い」の方が正確。つまり、価格支持政策と直接支払いとの併用によってそれぞれの利点を活用し、価格支持の水準を引き下げた分を、直接支払いに置き換えている。
・特に、EUは国民に理解されやすいように、環境への配慮や地域振興の「名目」で理由付けを変更して農業補助金総額を可能な限り維持する工夫を続けているが、「介入価格」による価格支持も堅持していることは意外に見落とされている。
・日本は、国境での価格支持にあたる関税も平均的には低く(OECDデータでは日本の農産物の平均関税率は11.7%でEUの19.5%のほぼ半分、)、国内の価格支持政策もWTO協定にのっとり、世界に率先して縮小したから、価格支持的な農業保護額は米国やEUよりも相当に少ない。

・日本は、まず、価格支持をほぼ廃止して、しかし、直接支払いは模索段階という感があり、諸外国に比べて、不安定な市場になっている。日本は、20年前に、コメの政府買入れも備蓄米に限定して政府による価格支持機能はほとんどなくなったし、酪農の価格支持も廃止したWTO加盟国一の「優等生」である。

 

【肥料も中国依存】

・肥料製造のための原料

リン酸肥料~リン鉱石、カリ肥料~カリ鉱石、窒素肥料~アンモニアだが合成には天然ガスが使われるので実質的な原料は天然ガス

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◆日本の肥料原料  国産は尿素4%のみ  214月農水相

・尿素  マレーシア45%、中国37%、

・リン酸、 中国87%、アメリカ11

・カリ   カナダ65%、ベラルーシ12%、ロシア11

 

◆世界の産出量 

・りん鉱石  中国(46)、モロッコ・西サハラ(15)、米国(10)、ロシア(6)で世界の77

塩化加里  カナダ(32)、ロシア(17)、ベラルーシ(17)、中国(12)の4か国で約8

アンモニウム生産量(千トン)  中国38,000 ロシア15,000 米国13,500 インド12,200 (2019)

 

 

 

【世界一の肥料大国・中国で肥料価格が高騰 農家に補助金、輸出を制限 東方新報2021/12/10

https://news.yahoo.co.jp/articles/7476d98ae9d088ef767b1e13d50f3a0f338bde54

 化学肥料の生産量、輸出量がともに世界一の中国で、肥料価格の高騰が続いている。食糧生産に影響が出る恐れがあり、輸出の規制も図って供給確保に努めている。

 肥料の3要素は窒素、リン酸、カリ。

中国は世界のリン酸肥料の35%を生産し、窒素肥料とともに生産量は世界一を誇る。カリもカナダやロシアなどに次ぐ一大生産国だ。

中国国家統計局によると、肥料の原料となる尿素の市場価格は今年に入り64ポイント増の1トン3144元(約55923円)を記録。10年ぶりに最高値を更新した。リン酸アンモニウムも64%の1トン3345元(約59498円)、塩化カリウムは59ポイント増の1トン3178元(約55941円)と軒並み上昇している。

  中国国内では化学肥料の過剰供給を調整するため、生産量を2015年の7432万トンから2020年は26ポイント減の5496万トンに減産していた。このタイミングで化学肥料の製造に必要な原油・天然ガスの価格が国際的に急騰し、肥料の価格も跳ね上がる形となった。

ならば生産量を再び増やせばいいかというと、中国では環境保護政策を進めている一環でリン鉱石の生産量を抑え、リン酸の増産は難しい。肥料製造企業も価格高騰のピークが過ぎた後に過剰在庫を抱えることを警戒し、窒素やカリを含め工場の稼働率を抑える企業がある。

 肥料価格は世界的にも高騰しており、尿素の国際価格は昨年の260ドル(約29520円)から850ドル(約96509円)に上昇している。ただ、中国は安全保障の観点から食糧の安定供給を重視しており、危機感は強い。肥料価格の高騰により、農産物を作っても赤字になりかねない農家が生産を控えることを懸念し、中国政府は200億元(約3562億円)の補助金を国内の農家に交付。さらに10月には尿素、硝酸アンモニウム、リン酸肥料など29品目の輸出前検査を行うと発表し、事実上の輸出削減措置を取った。

 中国は160か国・地域に化学肥料を輸出している。2002年に134万トンだった輸出量は2020年には2917万トンに達し、20年足らずで約21倍に増えた。今年も19月は前年同期比31ポイント増の2611万トンを輸出し、金額ベースでは99.5ポイント増の903300万ドル(約1256億円)に上るが、国内供給を優先し輸出にブレーキをかけた。

 中国政府は最近、二酸化炭素(CO2)の排出量を2030年までに上昇から下降に転じるカーボンピークアウトと、2060年までに排出量を差し引きゼロにするカーボンニュートラルを実現する「双炭政策」に力を入れている。製造の過程で大量のCO2を排出する肥料の増産は避けたい思惑もある。

一方、中国が肥料を輸出する「お得意先」のブラジルからは多くの農産物を輸入し、インドからは米や綿花を輸入している。肥料を輸出して農産物を輸入する「ウインウイン」の関係を保っているだけに、長期的な輸出制限は中国にとってもプラスではない。また、化学肥料を中国に大きく依存する北朝鮮は食糧生産に悪影響が出かねない。経済大国・肥料大国となった中国は、国内事情と国際事情の両方を考慮する必要に迫られている。

 

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