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経済安保の深層(1) メモ ~ 米国の対中戦略を軍事・経済で補完、その矛盾

・「経済安保」の規定もなく、米中覇権争いに対し、日米軍事同盟強化の立場で、経済を軍事強化の下請けにし、日本社会全体を米国・米軍に従属させようとする、憲法違反の法案

1982年、当時の通商産業省がまとめた報告書 『経済安全保障の確立を目指して』は、「わが国の場合、専守防衛の平和国家として軍事的な面での対処には制約がある」「技術開発の基本目的として『人類共同の財産構築』という視点を重視する」と指摘していた。この地点と比べ、いかに軍事国家化しているのかが見えてくる。

・一方、日本と中国の経済相互浸透(依存)は極めて大きい。2020年度、中国は日本の貿易相手国として輸出・輸入とも首位。うち日本の現地法人が担う部分が3割程度ある。輸入にしめる中国の比率 ノートパソコンやタブレット端末が99%、携帯電話が86%、コンピューター部品が62

★背景(赤旗 22/2/17~19メモ)・無視できない中国依存・相互浸透の実態 ・法案の問題点、笠井質問(3/17)要旨などから作製

1.「有事」に「経済力」動員 

・出発点・・・20年6月4日に自民党政務調査会の中に設置された政調会長直属の新国際秩序創造戦略本部(本部長は岸田政調会長(当時)、座長 甘利明衆院議員が就任)/同本部は21年12月、「経済安全保障対策本部」に名称変更

 

新たな国際秩序

・「『経済安全保障戦略』の策定に向けて」と題した提言 (党政調会と新国際秩序創造戦略本部 20年12月16日)

~ 提言は冒頭 「経済力は国力の根幹」と強調し、「経済」と「安全保障」を一体的にとらえる考え方の必要性を前面にし、「経済力」を「国家間関係の基盤である」と位置付け

⇔ 「国際関係が安定している状況」では、「意識されにくい」ものの、「国際社会が大きな変動を迎え、既存の秩序が揺らぎを見せ始め」た状況では、「注目を集めることになる」と解説

*米中対立激化の中で日本の「経済力」を軍事・外交分野の「基盤」として動員する意図がうかがえます。

 

・提言では、次のことも指摘

 国連などの場で「経済的手段が『武器』として使われることもあった」ものの、これは、「既存の秩序やルールに違反した主体に対する制裁措置」であり、「平和のための『武器』」だと断定

→が 今日では、「経済的手段をもって自国の意向を他国に押しつけ」「自国に有利な形で既存の国際秩序を作り替えようとする国も現れ」たため、「激動する国際社会の中でわが国の国力を高めると共に、国益にかなう新たな国際秩序の形成」が必要

→ 「平時」だけでなく、「有事においても」国家の運営ができるように「国家としての方針と時間軸を示す」ためのものが、この提言であると強調 

  • 自民党がいう「経済安全保障」は「有事」をも想定した戦略

 

対米関係が基軸

・中国の軍事的経済的台頭によって米国が主導する国際的な安全保障体制が揺らぎ始めている

・提言~中国への対抗を念頭においた米国の経済安全保障戦略の取り組みについて触れ、「(米国の)動向は、わが国にとっても示唆に富むものである。米国はわが国の同盟国であり、対米関係はわが国の外交及び安全保障政策の基軸である」「同盟国である米国との意思疎通と適切な連携を強化し、共に国際的連携を主導していく必要がある」

・提言~ 米国と歩調を合わせて日本の「経済安全保障」体制づくりを進めることを強調し、22年の通常国会において「『経済安全保障一括推進法(仮称)』の制定を目指す」ことを要求

・2月4日 「経済安全保障推進会議」で、岸田首相「経済安全保障は、21世紀型のグローバル・ルールの中核となるものです」

 

2. 米中対立の影響 6割に

提言に先立ち、ルール形成戦略議員連盟(ルール議連=甘利明会長)を17年4月に設立

→ 19年3月「国家経済会議(日本版NEC)創設」に関する提言を公表 / 20年4月1日「国家安全保障会議」を事務局として支える「国家安全保障局」に「経済班」が設置

 

米国と意見交換

・提言に向け、ルール議連は、マイケル・グリーン元大統領補佐官など米国の要人たちとの意見交換

・提言~ 中国を想定した形で「経済覇権と安全保障上の勢力拡大」が狙われていると、次のように指摘

 「世界経済は、異なる政治体制を背景に非対称の企業・組織活動が展開され、安全保障や統治システムを共有する新たな地域、国際秩序が生まれつつある。わが国が主体的に、国際社会の平和・安定・繁栄のため、経済的パートナーシップと経済制裁、知的財産管理とデータ流通、国際標準やルール形成の時間軸を制御しなければ、世界潮流に埋没する」

 

・自民党が「台湾有事」を会議体として最初に議論したのは、このルール議連~ 「台湾有事が起こって台湾に中国が進出した場合、日本にどのような影響が出るのか議論」

 

・台湾問題に関しては、自民党の高市政調会長が雑誌『Hanada』1月号の対談企画で、次のように発言

 「もっとも努力しなくてはいけないのは、台湾のいまの政権、いまの民進党をしっかり支えていくことです。もしこれが親中派の政権になったら、いたるところに影響が出ます」

→ 台湾に「親中派」の政権が生まれないように、日本の政権党が深く関わっていくとなれば、日中関係への影響は必至/ 経済安全保障論を契機にした議論は、日本と中国の関係を険悪にする危険がある

 

日本企業の苦悩

・シンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ」 21年12月に発表した「経済安全保障に関する100社アンケート」。

・企業の75% 経済安全保障上の最大の課題 「米中関係の不透明性」/事業に米中対立の「影響が出ている」60・8%。

12・5% 「米中の板挟み」

・影響 「アメリカの規制強化(関税含む)によるコスト増」59・5%、「サプライヤーの変更」36・5%、「中国の規制強化(関税含む)によるコスト増」(33・8%)、「売上減」(29・7%)

・各企業の声/ 「外交・安全保障政策面では、アメリカと強く連携すべきである一方で、中国との間の経済関係の悪化はできるだけ避けるようバランスを取っていただきたい」、「米中の板挟みにより日本企業が不利益を被らないような国家間調整」、「米中二者択一を迫られるような局面を回避」するなど

 

 

3. 米国、対中で同盟国動員

◆ES 武器使わぬ戦争 

・経済安保論~エコノミック・ステイトクラフト(ES)という考え方/直訳すれば、経済的国政術。経済的な手段を通じて相手に対して何らかの圧力や影響力を行使し、それによって国家の戦略的目標を達成しようとするもの/「武器を使わない戦争」とも

→ 同時に、国内では、「敵の存在」を明らかにし、「他国の脅威」をことさら強く打ち出し、その「脅威」を封じ込めるための手段としてESを正当化 /目標達成のために、ナショナリズムが増幅される危険を有する

 

・国際社会に対しては、ESに参加・協調するかどうかで、「敵か味方か」を峻別することが可能となる ⇔ 軍事同盟を結んでいる国だけでなく、より幅広く共同歩調をとる「有志国」の存在が強調されることに

→ 「成長戦略実行計画」(昨年6月閣議決定)で、「有志国」の概念が登場 /「有志国・パートナーと連携して法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を実現するため」、「わが国の経済成長と安全保障を支える戦略技術・物資を特定」し、「経済安全保障に係る以下の施策を総合的・包括的に進める」と強調

 

・米国 バイデン政権誕生以来、「同盟国」「有志国」の役割を強調 /「暫定国家安全保障戦略ガイダンス」(昨年3月発表)で

 「自らの経済力、外交力、軍事力、技術力を統合させることにより、安定的で開かれた国際システムに対して持続的な挑戦をしかけることが可能な唯一の競争相手である」と位置づけました。その上で「私たちは志を同じくする同盟国やパートナーと共に世界中で民主主義を再興しなければならない」

 「ほかに類を見ない同盟国とパートナーのネットワークを強化し守り、国防へ賢く投資することにより、中国の攻撃性を抑止し、私たちの集団的安全保障、繁栄、民主的な生活への脅威に対抗する」

⇔  「中国の攻撃性を抑止」するために、日本をはじめとした同盟国の力を動員することを強調

 

◆経済2プラス2

・1月21日 岸田首相、バイデン米大統領のテレビ会談/ 閣僚レベルの日米経済政策協議委員会(経済版2プラス2)の立ち上げに合意

・経済版2プラス2~日本側 林芳正外相、萩生田光一経産相、米国側 ブリンケン国務長官、レモンド商務長官が参加する。扱う議題はまだ確定してない/が、米側の説明では、輸出管理、サプライチェーン(供給網)、技術投資、基準設定など、いわゆる経済安全保障の分野の協力が取り上げられる見込み

・また、日本側の軍拡予算をバイデン大統領は高く評価~ 今春の終わり頃、日本で日本・米国・豪・印 4カ国(クアッド)による首脳会談が開催に、バイデン大統領は岸田首相からの訪日要請を歓迎

*「経済安保」の看板の下、米国の対中戦略を日本が補完・補強するための国内体制づくりが加速。

 (おわり)

 

【 日中経済 深まる相互浸透 】

・財務省「貿易統計」~ 2020年度、中国は日本の貿易相手国として輸出・輸入とも首位に。

・日本から中国への輸出額 15・9兆円と過去最大 /日本の輸出総額に占める中国の割合は22・9%、過去最高

・輸入額 18・4兆円で、比較可能な1988年度以降では6番目の多さ。輸入総額に占める比率は27・0%と過去最高

・中国との貿易は2000年代に入って急増/輸出総額に占める割合は2割前後で米国と首位争い/中国からの輸入も同時期から急増し、02年以降、首位を維持

 ◆感染拡大下

・とりわけ20年度は、コロナ禍で世界的に景気悪化、貿易低迷/いち早く景気が回復した中国との貿易が比率を高めた

→ 中国への輸出額が大きかったもの 一般機械(3・6兆円)、電気機器(3・3兆円)、化学製品(2・7兆円)など /輸入額の上位は電気機器(5・5兆円)、一般機械(3・6兆円)、原料別製品(2・4兆円)など

・対中貿易には、中国へ進出した日本企業との輸出入も含まれる~ 経産省「海外事業活動基本調査」18年度集計結果

・海外に現地法人をもつ日本企業2万6233社のうち、中国に現地法人をもつのは7754社と3割近く

・中国(本土)の現地法人の売上高45・8兆円のうち、日本への輸出(日本から見れば輸入)は5・7兆円。逆に中国の現地法人の仕入れ高28・7兆円のうち、日本からの輸入(日本から見れば輸出)は6・4兆円。日本と中国の輸出入のうち日本の現地法人が担う部分が3割程度ある

 ◆軍事同盟の圧力~ 2021/12/3

 半導体は「戦略物資」― 経済産業省の「半導体・デジタル産業戦略」での表現/広辞苑によると「戦略物資」は、「一国の安全保障上その恒常的確保が必要不可欠とされる重要な物質や資源」のこと

・かつて、日本の半導体は隆盛を極めていたが、今日では、巨額の税金を使って外資を呼び込む事態に

(この工場も10年前の技術。しかもウェハーの作成だけで、つくられた半導体を組み合わせて製品化する部分は、中国内の台湾系メーカーがになっており、「経済安全保障」としても完結してない。)

・半導体産業衰退のきっかけ~、1986年から10年間続いた日米半導体協定/事実上、外国製半導体の日本でのシェアを20%以上に引き上げることなどが求められた

(メモ者 → 日本企業は国内シェア争いのため、台湾・韓国などにコピー工場を創り、技術移転を行い、自らの首を絞めた。それを技術者含む大量リストラで対応。技術者も流出し、取り返しのつかない事態と陥った)

・交渉にあたった官僚 「日米通商協議の難しさは、軍事同盟から生ずる政治的プレッシャーに常にさらされるところ」(『目を世界に心を祖国に』)

 自民政権下では、国内産業の自律的発展ができず、必要物資確保に巨額の税金が必要となる

 

【中国からの輸入依存度高く 輸送停滞で大きなリスク 内閣府調査】

・202224 内閣府~ 日本、アメリカ、ドイツの3か国がそれぞれ輸入している品目について、2019年の時点で特定の国からの輸入額が5割以上を占めた品目を調査

・日本は、携帯電話やパソコンなど1133品目で輸入額に占める中国の割合が5割以上を占めている

⇔  ほかの先進国と比べても中国への依存度が高いとして、「輸送の停滞が生じた場合など大きなリスクがある」

・日本 こうした品目は2627あり、このうち中国が5割以上占めた品目は1133に上ることが分かりました。
・輸入額に占める中国の割合が高い品目

ノートパソコンやタブレット端末が99%、携帯電話が86%、コンピューター部品が62%
・アメリカ、ドイツも中国からの輸入額が5割以上を占めた品目数が最も多かったが/アメリカ590品目、ドイツ250品目

 内閣府「世界の潮流」  第2節 中国をめぐる貿易構造の変化

https://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sa21-02/pdf/s2-21-1-2.pdf

 

【点検 経済安保法案】   22/3/10-

 岸田文雄政権は2月25日に、「経済安全保障推進法案」を閣議決定。

・法案は、四つの柱で構成 (1)「供給網強化」 (2)「基幹インフラの事前審査」 (3)「先端技術の官民協力」 (4)「軍事転用可能な機微技術の特許非公開」~政府の調査権や罰則を設けて、経済への政府介入の環境を整える一方、中長期の財政支援策を検討

(1)(2)が「戦略的自律性」といわれる「守り」の分野/(3)(4)が「戦略的不可欠性」といわれる「攻め」の分野とされている

 

■概念の定義なし

・法案に 「経済安全保障」という概念の定義がない

~ 小林鷹之経済安全保障担(当相) 昨年10月5日、閣僚就任直後の記者会見、「経済と安全保障を一体として捉えていく経済安全保障という新しい政策分野というものを、国として進めていかなければならない」と強調しつつ、政府としての「定義」は今後の課題であり、「速やかに検討」する意向を示す/が法案は、定義なし

 

・条文の第1章第1条~ 「安全保障の確保に関する経済施策を総合的かつ効果的に推進することを目的とする」/具体的な分野は上記の4分野 ⇔ 経済政策は、あくまでも「安全保障の確保」のためということ

→ 自民党政権のいう「安全保障」とは日米軍事同盟を基軸としたもの/ 米国の対中戦略に日本の「経済力」を動員するための法案だ、ということが法文から見えてくる

 

権限拡大の危険、

・「経済安全保障」についての定義がないため、政府の各種施策に「経済安全保障」という看板さえつければ、政府の財政・金融支援が可能となる法案 ⇔ 4分野それぞれの箇所で、具体的な施策は政省令で示すこととされており、中央省庁の権限が拡大していく危険性が極めて高い

 

(1)の供給網強化  ~  「政財官癒着強化法案」になりかねない危険性を

政府が特定重要物資を指定/ 特定重要物資とは「国民の生存に必要不可欠」「国民生活もしくは経済活動が依拠している重要な物資」であり、「外部に過度に依存し、または依存するおそれがある場合」、「外部から行われる行為」によって安定供給確保が脅かされるもので「特に必要と認められる物資」だと規定

⇔ 「必要不可欠」「外部に過度に依存」、「おそれ」などの抽象的表現/その「物資」は物理的な有形物だけでなく、「プログラムも含む」とされている

 

政財官癒着を強化

・政府は民間企業が策定した安定供給確保のための計画を認定/計画には、生産基盤の整備や供給源の多様化、備蓄、生産技術開発などが含まれる

~ 経団連は、「安全保障の観点からサプライチェーンの強靭化に向けて政府が施策を講じるにあたっては、規制的な手法ではなく、企業の主体的な取り組みを後押しすることを基本とすべきである」(2月9日の意見)と注文

・特定重要物資を指定することに政治家が介入し、特定企業と官庁の仲をとりもつということになれば、政財官の癒着構造がつくられることになる

 

米の対中戦略が影響

2)基幹インフラの事前審査

・「外部」からのサイバー攻撃を防ぐことが主目的 

・仕組みの概要~ 電気やガスなどの基幹インフラの重要設備が、「わが国の外部からおこなわれる」「役務の安定的な提供を妨害する行為の手段として使用されるおそれがある」場合、政府が対象分野と対象事業者を指定

・対象分野~ 法案で電気、ガス、石油、水道、鉄道、貨物自動車運送、外航貨物、航空、空港、電気通信、放送、郵便、金融、クレジットカードの14分野が大枠として示されています。具体的に対象となる事業者は、さらに絞り込むことになっている

・指定された事業者が事前の届出 ~ 重要設備の導入、維持管理など委託に関する計画書/そこには、重要設備の概要、内容・時期、供給者、重要設備の部品、維持管理などの委託の場合は、委託の相手や再委託についても記載が求められる

⇔ 事業所管大臣は、計画書を基に、サイバー攻撃などの恐れについて審査

・所管大臣が審査の結果、妨害行為の手段として使われる恐れが大きいと判断したときは、その設備の導入や維持管理などの内容の変更や中止などを勧告/ 勧告に応じない場合には命令に切り替えることになる

・命令という強い権限を背景に、政府が企業活動に介入すれば、効率性の低下や設備投資の遅れ、ひいては、経済戦略のゆがみという事態が発生することも想定される

 

審査能力に不安、基準が不透明

・経団連 「事前審査により設備の導入や業務委託が滞ることは事業活動への影響が大きい」(2月9日の「経済安全保障法制に関する意見」)と指摘

・経済同友会 「社会活動に欠かせない基幹インフラは、新たに設備を導入する際に国の事前審査を受けることとされた。これは事業者にとって新たな規制となるため、対象の明確化とともに予見可能性を高めることが欠かせない」(意見書、2月16日)

・そもそも、中央官庁にどれほどの審査能力があるのか、関係者からは不安の声 

 

・戦略のモデルである米国 ~貿易上の取引制限リストであるエンティティー・リストを発表/エンティティーとは、特定の外国人、事業体または政府の総称です。米国は、軍事・外交戦略に基づいてリストを公表しています。中国国有通信機器大手、中興通訊(ZTE)や、華為技術(ファーウェイ)などがその対象に

⇔ 日本政府による事前審査は、どのような基準でおこなわれるのか不透明/ 米国政府のリストを横滑りさせただけの事前審査になる可能性がある

・設備投資、調達先など、企業戦略の根幹にかかわる問題が、米国の対中軍事・外交戦略に左右されることになりかねない

 

■米軍事研究の下請けも

3) 軍事技術を含む先端開発支援

・支援措置をおこなう特定重要技術~ 第61条で、将来の国民生活および経済活動の維持にとって重要なものとなり得る先端的な技術のうち「外部に不当に利用された場合または当該技術を用いた物資もしくは役務を外部に依存することで外部からおこなわれる行為によってこれらを安定的に利用できなくなった場合において、国家および国民の安全を損なう事態を生ずるおそれがあるもの」と規定

⇔ 軍事技術への支援ということは用語として含まれてないが、/第1章第1条、「安全保障の確保に関する経済施策を総合的かつ効果的に推進することを目的とする」としており、「安全保障」のための技術開発支援であることは明白

 

・政府作成の法案概要の資料~ 「民間部門のみならず、政府インフラ、テロ・サイバー攻撃対策、安全保障等のさまざまな分野で今後利用可能性がある先端的な重要技術の研究開発の促進とその成果の適切な活用は、中長期的にわが国が国際社会における確固たる地位を確保し続ける上で不可欠」であるとし、支援措置を講じるとしている

→ 想定されている分野 宇宙・海洋・量子・人工知能(AI)など

 

・国はまず特定重要技術研究開発基本指針を策定 /指針に基づいて特定重要技術の研究開発に対して、必要な情報提供、資金の確保、人材の育成・資質の向上のための措置を実施 / 「特定重要技術の研究開発の促進」「成果の適切な活用」のため基金を指定する

⇔基金は「経済安全保障重要技術育成プログラム」が想定され、同基金には、21年度補正予算で2500億円を計上

・軍民両用技術研究への支援措置 ~ すでに防衛省の「安全保障技術研究推進制度」が存在/ この制度は、あくまで「基礎研究」への支援 ⇔ 軍事研究にくみしない研究者の強い意思を反映して、その実績は年間100億円程度にとどまっている

 

警戒心薄れさせ

・同法案では、防衛省は前面には出てない⇔ 軍事研究への研究者の警戒心を薄れさせ、支援金額も拡大し、より実戦的な先端技術開発をすることに狙いがある

・同法案では、プロジェクトごとに協議会を設置 ~ 協議会は、情報の収集や研究成果の活用などを協議 /外国籍の研究者もメンバーになることができる

⇔ 米軍関係者や米軍需産業の関係者がメンバーになることも可能/ 日本の税金で米軍が必要とする軍事技術の開発さえ可能になる仕組み 米国との力の差から、日本が米軍事戦略を支える下請け的役割を担わされることにもなりかねない。

 

4) 特許の非公開制度の導入

・専門家からは、「恣意的で不透明な特許の非公開制度の存在は、学術や技術の体系全体にゆがみをもたらし、市民生活を公平で豊かなものとする本来のイノベーションを妨げる」との批判の声が上がってる。

 

【 かつての「経済安保論議」 技術開発は、人類共同の財産構築 】

・法案の4つの柱のうち、「先端技術」での官民協力~軍民両用技術の育成・強化のために財政支援策も講じることに。

⇔ かつての政府の「経済安全保障論」を振り返ると、現在の「経済安全保障推進法案」のゆがみがいっそ鮮明に

1982年、当時の通商産業省がまとめた 『経済安全保障の確立を目指して』と題した報告書。

・報告書の背景~ 米国の地位の低下を日本がいかに支えるのか、という問題意識/が、そうであっても報告書は「わが国の場合、専守防衛の平和国家として軍事的な面での対処には制約がある」「技術開発の基本目的として『人類共同の財産構築』という視点を重視する」と指摘

・ 「技術は、人類共同の財産」と報告書が述べていることについて、東北大学名誉教授・井原聰(さとし)氏、「安保関連法制を強行採決し、集団的自衛権を容認した好戦的スタンスの現自公政権では、こうした見地を取りえないであろう」(雑誌「世界」3月号)

 

 【経済安保法案に対する笠井議員の質問(要旨) 衆院本会議】

 

経済安全保障」とは何か、「外部から行われる行為により」「国家及び国民の安全を害する行為」とは具体的にどのような状況か、法案には何の定義もありません。政省令への委任は124カ所。政府に白紙委任せよというのですか。「経済安全保障」とは、経済を安全保障のもとに置き、軍事に組み込むことではありませんか。

 経済、産業、科学技術、知的財産まで国の管理下に置くことは、戦前の国家統制そのもので、憲法に反するのではありませんか。

 軍事・経済をめぐる米中の覇権争いは先鋭化しています。総理はバイデン米大統領との会談で、強固な日米同盟のもと経済安全保障での連携を確認し、「経済版2プラス2」立ち上げに合意しました。経済安全保障とは、日本を軍事・経済の両面で米国の戦略に組み込むものではありませんか。「同志国・同盟国」の枠組みの下、敵国を想定して経済の力で脅すことは、歴史の教訓を顧みないものであり、緊張関係を高めるだけではありませんか。

 経済と国民生活への影響を伺います。

 第一に、企業活動への制約の問題です。

 サプライチェーンの政府への報告、基幹インフラの安全性・信頼性の確保や特許出願の非公開化が与える企業活動への影響について、経済界から懸念の声が上がっています。法案は、民間企業の経済活動に制約をもたらすものではありませんか。

 法案では、「基幹インフラの安定的提供の確保」のため、納品業者や委託業者まで届け出させ、「審査」対象としています。政府が妨害行為の恐れがあると判断すれば審査が通りません。下請け・取引先企業の選別・監視になるのではありませんか。

 政府指定の「特定重要物資」への特別支援は、半導体大手TSMC熊本工場への5千億円ともされる国費投入のような特定事業者への巨額支援の横行につながりかねません。

 第二に、科学技術と人権への制約です。

 総理は「デュアルユース(軍事転用可能な民生技術)での製造等に5千億円規模の支援を措置した」と答弁しています。巨額な「官民伴走支援」で、軍事技術の研究を行わせるのではありませんか。

 「特許出願の非公開」・秘密特許制度が、特許法を改正せずに持ち込まれます。戦前の秘密特許制度は、9条に抵触すると廃止されました。民主化された特許制度の公開原則は、軍産一体で戦争遂行の技術開発にまい進した歴史の教訓と反省にたったものです。ところが法案は、「保全指定」を行う発明を選別し、特許手続きを「留保」し、非公開にするもので、秘密特許制度の復活ではありませんか。

 法案では、「特定重要技術」の研究開発のため機微情報の管理と守秘義務を規定しています。学術分野における管理強化や非公開が研究活動や科学技術、産業活動を制約することになりませんか。

 家族や交友関係、精神疾患などの調査、セキュリティークリアランス(適性評価制度)導入を検討課題としたことも看過できません。

 ユネスコは、2017年11月の「勧告」で、科学技術は人類の利益、平和の保持及び国際的緊張の緩和に発展の見通しを開くと同時に、戦争や搾取等で人間の尊厳への脅威となるという危険性を指摘し、人類の尊厳を損なう場合や軍民両用に当たる場合に「良心に従って当該事業から身を引く権利」を科学研究者に認めています。法案はこの国際標準を否定するものです。

 憲法は、戦前、政治権力によって人権を抑圧し、学術研究が制約・動員された反省にたち、平和原則、基本的人権の尊重、学問の自由を打ち立てました。この原則を貫き、真の経済発展と人類の進歩に貢献することこそ、わが国が進む道です。

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