「高齢者優遇」のウソ。元凶は貧困な社会保障~1人あたりの社会支出 日欧米6か国比較
「全ての人に最低生活保障を 唐鎌直義・佐久大学教授 経済2022.4」よりメモ
政府の言う「高齢者優遇型から全世代型の社会保障」・・・ 国民1人当たりの社会保障支出を、スウェーデン、フランス、ドイツ、英国、米国、日本の6ヵ国で比較し、日本の「高齢者」分野も貧困であり、「貧困解消」分野が極端に低く—特に現役世代にとって大きい家族手当、失業給付・就労支援が貧困さが、世代間に「不公平」を抱かせる元凶になっていることを明らかにし、「全ての人に最低生活保障」を行う「貧困解消型社会保障」の確立を主張している。
【全ての人に最低生活保障を 唐鎌直義・佐久大学教授】
■はじめに
・「高齢者優遇型社会保障から全世代型社会保障へ」が、政府の目下の方針
・が、「高齢者優遇型」を達成しているとは到底思えない~ 減り続ける年金への「違憲訴訟」、働く高齢者の増加、
・高齢者分野以外の社会保障があまりに劣弱なため、「優遇されている」かのように見えるだけ
→ 政府の持論「世代間不公平論」に基づき、高齢分野の社会保障削減、新たな「底辺への競争」の持ち込み
・本稿では「高齢者優遇型社会保障」の実態を解明し、社会奉書の発展すべき方向を明らかにするする
⇔スウェーデン、フランス、ドイツ、イギリス、アメリカの水準と比較
・社会保障の拡充要求は、最も高いテーマだが、財政・少子高齢化を「考慮」し諦観が交錯しているティールド/ 先進工業国ではアメリカに次いで世界第二のGDP、GNI(国民総所得)なのに、なぜ仏独で達成している福祉水準を実現できないのか
■1 日本の社会保障の本当のレベル ~ 先進6ヵ国中最下位
・「国民一人当たり社会支出」 ~ 6ヵ国の社会支出(社会保障給付費+施設整備費等)の総額を総人口で除したもの
・社会支出(2015年)の総額 1位 アメリカ5兆7253億ドル、2位 日本1兆4112億ドル・・・6位 スウェーデン 2108億円
・「国民一人当たり」 ①SW 2万1592$ ②米1万7843$ ③仏1万6868$ ④独1万5213$ ⑤英1万3326$
⑥日本 1万1025$
・SWと日本の比較では、差があまりに大きい。日本の目標を捉えるため、「1人当たりの国民所得」が近いフランスと比較
→ フランス 3万7402ドルを100.0 日本3万5614ドル 95.2/ SW 5万2024ドル 139.1
・日本とフランスの差 GDPに占める社会支出率の違い
仏 「1人当たり」 1万6868ドルを 100.0 とすると 日本 1万1026ドル 65.4
■2 「高齢者優遇型」の現実 ~ 6ヵ国中5位
・OECD 社会支出を9分野に区分 / 高齢・遺族・保健を「高齢関連分野」 それ以外6分野「貧困関連分野」として考察
・政府の言う「高齢者優遇」の「理由」 支出の構成~年金・介護46.1%、保健(医療)33.9%、遺族年金5.5% 計85.6%
⇔高齢3分野が高いのは米85.8%のみ/ SW58.6%、英66.6%、独70.1%、仏72.1%
・高齢分野・一人当たり支出 日本9438ドル、5位 最下位・英8881ドルより少し上程度
SW 1万2662ドル、仏 1万2155ドル、独 1万670ドル の方が「高齢者優遇型」
・日本の社会支出 保健(医療)分野の極端な低さ
遺族年金と高齢分野(老齢年金、介護) 3位でそん色ないレベル
保健(医療) 6位・3743ドル/税方式の英より年869ドル(8万5575円)低い、保険方針の仏より869ドル(9万1245円)低い
→日本ではかなり強力な医療費抑制政策が敷かれている/ コロナ禍の医療崩壊の原因
★日本政府の「高齢者優遇型」との主張~ 一人よがりの妄想、削減でなく充実こそ必要
■3.貧困関連分野は圧倒的に最下位 ―‐障害・労災分野、住宅分野のひどさ
・政府が「優遇」という高齢者分野でも6ヵ国中5位。他分野のひどさは、あまりの低さに関心事が向わざるを得ない
・貧困関連分野~障害・労災、家族、失業、積極的労働政策、住宅、生活保護その他
・仏の支出を100.0として、日本最下位33.7と仏の1/3、自己責任大国・米国でも1/2強 /SW 189.5
・日本が最下位の分野 障害・労災、失業、積極的労働政策、住宅 /家族5位、生活保護4位
・障害・労災(障害年金、労災補償) 506ドル/SWの1/7、仏の1/2、独の1/4、英米の1/2
・住宅分野も際立つ低さ 57ドル 仏430ドルの1/8 / 1位は英908ドル
⇔日本 生活保護の住宅扶助のみ/英「住宅給付」 低所得者世帯の家賃8~10割補助、2013年総世帯の27.9%利用~年齢分布 18~34歳25.2%、35~59歳42.9%、60歳以上31.9%、平均月額387ドル(5.8万円)
■4.世代間不公平を生み出す元凶 ~ 家族分野、失業分野、生活保護分野
・日本では、世帯間不公平が問題視される傾向/イデオロギー攻撃だけでない、社会保障給付の現実がある
⇔ 特に、失業時の所得補償と児童手当が薄弱 /これが現役世代の不満の元凶
・家族手当(児童手当)・・・現役世代にとって最も重要度が高い
欧州 子どもの養育は社会の責任/日本 親子心中に象徴される「親の責任」と考える傾向が非常に強い
⇔18歳未満の子どもの養育義務は欧州でも共通/が、社会(国)がより多く負担することで、人生の最も多感な時期を「貧困の世代的連鎖」を極力経験しないようにしている/完全無償制の義務教育もその1つ
・家族分野の1人あたり支出 米日が低い/SW 日本の4.1倍、英3.0倍、仏2.2倍、独1.9倍
→ 欧州では、ひとり親など低所得者に重点的に支給するのでなく、全児童に普遍的に支給しているから/「機会均等」を実現(学卒時に同じスタートラインに立つ)することで、長期的な社会・経済の成長をはかる思想
・失業した人への経済的支援 日本 非常に希薄
1人当たりの支出 1位 仏849ドル、2位 ドイツ500ドル /日本85ドル
・積極的労働政策(職業訓練、就労支援)
1人当たり 1位 SW1020ドル、6位 日本75ドル/SWの1/13、仏の1/7、独の1/5
・失業手当+積極的労働政策の合計
仏1373ドル、SW1285ドル、日本160ドル ⇔ 日本は「失業も自己責任」、現役世代の不満が高まるのも当然
★普遍的な児童手当、教育負担の大幅減、失業手当支給期間の大幅延長などが求められる
・生活保護の支出 6ヵ国中4位、171ドル SWの1/5、仏の1/3 と低い
→ 稼働能力者のいる世帯(ひとり親、長期失業中)の貧困に、生活保護が対応してない(車所有の制限など)/受給者の83.9% 「稼動者が1人もいない世帯」
■5.社会保障の後進性の克服を ~ フランス紙の社会保障の実現に必要な追加費用
・1人当たりの国民所得がほぼ同じフランスを目標として、追加費用を試算
・社会保障全体で 78兆5千億円の追加が必要/経済力の対仏95.2%で試算すると74兆7千億円
→ 現在の社会支出の総額に、その50.4%を上乗せ必要
・仏との比較 どの分野が遅れているか
非常に低い 失業、積極的労働政策、住宅 の3分野/ 現在の給付の9倍、6倍、7倍にする必要
生活保護その他、家族、障害・労災 の3分野 / 約2倍にする必要
遺族、高齢、保健 やや遅れている3分野 /22%~45%の引上げ必要
・率でなく、追加費用の大きさで見ると違った様相に
大きい順~高齢 19.7兆円、保健 11.1兆円、家族 10.7兆円、失業 9.7兆円 4分野で51.3兆円、約7割
・目標国 SW並み97.1兆円、独 47.6兆円、英 25.3兆円、米 55.9兆円
★追加費用の巨額さは、日本の社会保障が、先進国としてどれほど遅れているかを表す数字
→求められているのは「貧困解決型」の社会保障 /経済力に比して貧困な社会保障制度こそ問題視されなければならない
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