公立小学校教員「超勤訴訟」 ~ 画期的な前向き判決
埼玉大学准教授(教育法学) 髙橋哲さんに聞く(2021/12/17-18)より
・埼玉県の公立小学校教員、田中まさおさん(仮名)が、県を相手取った訴訟の判決が下る(10月、さいたま地裁)
→ 原告の請求は棄却 / が、今後に生かせる画期的な内容も少なくない、という解説。
また、教員に過酷な実態について報道も相次いでいる
【 労働時間外に及ぶ専門職 常態化は労基法32条違反 】
◇2つの大きな争点
・労働基準法32条…労働時間は週40時間、1日8時間と規定 /裁判で争われた重要な点は、大きくいって二つ
❶ 「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)」のもとで発生した時間外労働が、労基法上の労働時間に該当するかということ
→ これまでは、給特法のもと「超勤4項目」以外の時間外労働は自発的な労働とされ、労働時間ではないとされてきた。
❷ 労働時間に該当するならば労基法32条違反になり、労基法37条の超勤手当の対象になるか、少なくとも、違法な働かせ方なので国家賠償法の対象になる、と追及
*原告側が一番恐れたのは、32条を超える違反があっても給特法のもとで許される、。門前払いにされることだった。
◇2つの点で、画期的な判決
❶ 今まで労働時間として認められてこなかった時間外労働が、労基法上の労働時間にあたり、32条が定めている上限規制に収まっていなければいけない時間だと認められたこと
→ 判決では授業準備について「1コマ5分」しか認められなかった、と落胆する必要はない/ 原告は「時間外で翌日の授業準備をするには最低30分は必要だ」と主張 ⇔ 1日6コマと考える5分×6=30分という「最低限」の時間を認めた判決。
・ さらに、校長の命令がなくても、職員会議を通じて担うことになった労働は労働時間だと認められた
・こういう判決のメッセージは正確に受け取る必要がある。
❷ 労働時間と認められて、それが常態化している場合、労基法32条に違反したものとして国賠法上の違法にもなり得る、とされた点
⇔ その結果、給特法のもとでも、「定額働かせ放題」ではないことが、明確になった。
*これは、文部科学省の「学校の働き方改革」にも釘をさす判示
文科省は教員の時間外労働に上限指針を設けて、原則月45時間、年間360時間、特別な事情があった時は月100時間、年間720時間までは合法としている
→ 今回の判決は、時間外労働が月45~100時間の場合に、損害賠償の対象となり得ることを示した。文科省の上限指針の枠組み自体を否定。これも画期的。
◇正規の時間内で
・今回は、教員の業務が時間外に行われたものとして認めるかどうかがポイン/でも、教材研究も保護者対応も丸付け業務も、教員の専門性に関わる部分で、本来は正規の労働時間に入っていなければいけないもの。教員はこれを重視しているため、時間外でもやらざるを得ない。
~ ニューヨーク市と教員組合との協約/ 正規の労働時間内で教員の研修時間を週75分、専門的活動や保護者対応の時間を85分、さらに週あたり少なくとも5コマの授業準備時間を確保するというもの
・教員にとって不可欠な業務を、時間外にやるのかやらないのか。その選択を教員が迫られる事態の是正が控訴審の焦点)
★給特法が例外的に時間外業務として認めている「超勤4項目」
(1) 生徒の実習に関する業務
(2) 学校行事に関する業務
(3) 教職員会議に関する業務
(4) 非常災害等やむを得ない場合に必要な業務
★田中さんの裁判とは…
田中さんは、教員の時間外労働に残業代が支払われないのは違法だとして2018年9月25日、さいたま地裁に提訴しました。公立学校の教員には給特法のもと、給料月額4%に相当する「教職調整額」が支給される代わりに、超勤手当は支給されていません。田中さんは、月約60時間超が「ただ働き」とされていると主張。労基法37条にもとづく割増賃金の請求を行うとともに、国家賠償請求を行いました。今年10月1日、同地裁は原告の訴えを棄却。田中さんは控訴してたたかっています。
■教育産業の利益確保、主権者として力を削ぐシステム(メモ者)
学校の先生をとりまく状況が深刻で、SNSなどでは長時間労働の大変さを訴える声が尽きない。厳しい労働環境が敬遠され、公立小学校教員の採用倍率が2倍を下回る自治体もうまれている。
教育産業の利益確保と、主権者としての力を削ぎ、従順な「国民」づくりの場にするために、教員の考える力と自主的活動の機会を奪う管理と長時間勤務という構造をつくっている権力の意図がある。
【「子どもたち、ごめんね」 “#教師のバトン”は、いまどこに? NHK21/4/30】
【連載・非正規公務員に明日はあるか②】生徒にとって同じ「先生」 求められる仕事も同じ でも待遇に格差 同一労働同一賃金は幻か 南日本新聞 1/21 】
これ以外にも朝日で「いま先生は」の連載~「過労死と背中合わせの学校 あこがれた教員をあきらめる若者たち」「「時給150円」SNSで噴き出した苦悩、教員が背負う重いバトン」「ブラック部活」をなくせ 当たり前を変えたある中学校長の4年半 」など報道があいついだ。
【「子どもたち、ごめんね」 “#教師のバトン”は、いまどこに? NHK21/4/30】
「子どもがかわいくて裏切れないと思って、残業代が出ない中、みんな長時間勤務をしていますが、『子どもたち、ごめんね』と言いながら辞めていく教員も何人もいます」
いま、うつ病で休職している小学校教員の言葉です。
文部科学省が始めた「#教師のバトン」プロジェクト。
思わぬ展開となり“炎上”とも言われましたが、開始から1か月、投稿を分析していくと、過酷な労働実態だけでなく改善のヒントも見えてきました。
このバトン、どこにつながっていくのでしょうか。(社会部記者 能州さやか)
“#教師のバトン”から1か月~22万投稿の内訳は?
教員の志望者が減る中、文部科学省が3月下旬に始めた「#教師のバトン」プロジェクト。
現場の教員にツイッターなどのSNS上で「#教師のバトン」とつけて、働き方改革の好事例や仕事の魅力などの投稿を呼びかけました。
校長など管理職に許可を得る必要がなく、個人情報などを除けば自由に投稿して良いというもので、霞ヶ関に、そして社会に直接現場の声が届くような異例の企画でした。しかし、実際に寄せられたのは過酷な勤務環境を訴える悲痛な声の数々でした。
開始から1か月、その後、バトンはどうなったのでしょうか?
NHKがこの1か月にツイッターで「#教師のバトン」というハッシュタグを含む投稿を分析したところ、投稿の数はリツイートも含めると22万5000件以上(含めないものは4万1000件余り)で、反響の大きさがうかがえます。どんなキーワードが多くつぶやかれたのか見ていくと、上位はやはり「教員」「学校」「文科省」などが並びます。
そしてリツイートも含めてやはり多かったのは「部活」や「部活動」で、このうち「部活」は4万件以上に。
そして「残業」や「労働」「勤務」も多く、中でも「残業」は3万件以上。
「授業」「準備」「子ども」のほか、「保護者」「管理職」なども。
「改革」という言葉も多く見られました。リツイートを含めた投稿数の推移を見ると、直後の6日ほどは1万件を超え2万件近くに上る日も。
その後は減少するものの1万件を超える日もあり、直近でも8000件以上投稿された日があるなど、関心が続いていることがわかります。実際の投稿をみていくと、「部活」について数多くリツイートされていた中にはこんな声が。
『彼氏も教師ですが、昨日一緒に寝ていると夜中突然バッと起きておかしい様子だったから「どうした?!」って聞いたら「明日の部活行きたくない…」って泣きながらポロッと一言。試合+審判で、審判の講習も自費、審判のための靴や服、小物まで自費。そして無給』
こんな声も。
『まだ中学校教員になって3週間も経ってないけど、正直この1年で辞めようかなって思ってる。理由は部活動。学級経営で頭がいっぱいで教材研究もろくに出来てないのに、放課後休日は部活動って意味わからん』
「残業」に関する投稿はこんな切実な願いも。
『3年勤めて精神疾患になりました。土日休めない。毎日残業。毎月90時間近くの時間外労働。死にたいってずっと思ってた。労働環境の改善こそが、これからの先生たちに届けたい本当のバトンです』
このバトンを、改革につなげたい!
くしくも、厳しい実態が可視化された今回のプロジェクト。
これを一過性のものにせず、実際の働き方改革につなげようと呼びかける人もいます。
教員の働き方の改善に取り組んできた名古屋大学大学院の内田良准教授は、4月18日に、現場の教員たちから話を聞くオンライン報告会を開催。400人近くが傍聴する中、小中学校の教員8人が匿名で参加し、現場の実情を直接語りました。
■小学校で教員を務める女性
「今、うつ病で休職しています。自分は活発で、毎日外で子どもたちと楽しく遊んでいましたが、急にこうなってしまいました。実は周りに同じような状況の教員が3人いて、休まずに服薬しながら仕事を続けている人もいます。コロナがまん延していますが、教育現場もある意味、緊急事態です。『子どものために』という仕事が無限に出てきています。子どもがかわいくて裏切れないと思って、残業代が出ない中、みんな長時間勤務をしていますが、『子どもたち、ごめんね』と言いながら辞めていく教員も何人もいます」子どもが好きで教職に就いたこの女性は、今では転職も考えざるを得ない状況だと、切実な思いを明かしていました。
中学校の男性教員からは、勤務時間をめぐってこんな実態が語られました。
■中学校の男性教員
「月80時間以上の残業をする教員が多く、改善を求められた管理職がお茶を飲む時間まで勤務時間の申請から削るような指示がありました。働き方改革の観点から夜間の電話対応などをやめてはどうかと進言しましたが、『周りの学校がやっていないのに角が立つ』と言われて聞き入れられませんでした」硬直化する現場もある中、投稿だけでなく、リアルな場でも徐々に始まった発信。
実際の改革につなげようという声も相次ぎました。
データも示す“世界一多忙な日本の教員”
日本の教員の過酷な働き方の実態が明らかになった1つのタイミングは、7年前の2014年です。
OECD=経済協力開発機構が5年に1度実施している世界各国の教員の勤務実態などの調査が前年の2013年に行われ、その結果が公表されたのです。
初めて参加した日本は、1週間あたりの教員の勤務時間がおよそ54時間と参加した34の国と地域の中で最も長く、平均の1.4倍に上ったのです。
その後も48の国と地域が参加した2018年の結果でも、1週間あたりの勤務時間は56時間とさらに長くなり、引き続き最長に。
内訳をみると、授業時間に大きな差はない一方、
▼部活動などの課外活動が7.5時間と平均の4倍、
▼書類作成などの事務作業も平均の2倍に上っていたのです。
働き方改革のバトンは現場に届いている?
“教師のバトン”も大事ですが、そもそも“働き方改革のバトン”は、国から各地の教育委員会、そして学校現場へと、渡されているのでしょうか。
例えば「部活動」について、文部科学省は、
▼部活動は必ずしも教員の仕事ではないとしているほか、
▼休日の部活動を地域の活動とすることで、
教員が携わらなくてもよくなる仕組みの整備を進めるとしています。また「残業」に関わる点では、
▼閉庁日を設けることや、
▼タイムカードを導入して正確な勤務管理を徹底することを求めていて、
▼教員の残業時間の上限を月45時間とすることを「指針」で定めました。ではその状況はというと、例えばタイムカードなど客観的に勤務時間を管理する方法については、去年9月時点の導入状況の調査で
▼都道府県の教育委員会では前年の66%が92%に、
▼市町村でも前年の47%が71%に上がっています。数字上は導入が進んでいるように感じますが、「#教師のバトン」で投稿された声をのぞいてみると…。
『無理やり「定時に帰る日」を設定されて「持ち帰り残業」または「隠れ残業」。タイムカードに記載されず』
『仕事を減らすどころか増やし、人員はほぼ変わらず…それでいて早く帰れ!?勤務時間の過少申告と改竄の嵐が吹き荒れ始めた』
タイムカードも、上限45時間も、実際の働き方改革につながっていない現場があるようです。
働き方改革のヒントも…
こうした中、バトンをつなぐために具体的に改善して欲しい点や、現場で進んだ一歩も投稿されています。
すぐに部活の地域活動への移行が進まない中でも、こんな声が。
『部活顧問拒否、失敗しました。でも、休日活動なし、平日2日の活動なし、朝練廃止を管理職に確認しました。ちょっと前進』
残業については文部科学省に対して。
『文科省は教員の働き方のモデルを示してほしい。何時に出勤して、どんな風に授業をして、授業研究をして、残業をしないで帰るイメージなの?』
学校の電話を定時で留守電に切り替えることも有効のようです。
『保護者の理解はこの5、6年でかなり進んでいると思います。夜間の電話も少なくなりました。留守電に切り替えても、全く困らなかった』
教員を応援しようという雰囲気も出てきているようです。
『先生方には健康的な働き方を取り戻して欲しい。変わらなければ何度でも言うつもり。心ある保護者の方、ぜひ働きかけを』
『今日、生徒に「教師って残業代出ないんですよね?Twitterで見ました」と言われました。「お前あんまり先生に迷惑かけんなよ」と言っている生徒もいました』このほかにも、多くの具体的かつ幅広い改善への提言が投稿されていました。
現場から国へ、この“バトン”を改革に
この「バトン」を文部科学省はどう受け止めているのでしょうか。
義本局長 「国としても現場から直接声を受け止める初めての試みで厳しい勤務実態を訴える投稿が多く寄せられた。社会から注目を集めたことを前向きに捉えつつ、教師の声を集積する役割を果たしていると思うのでこの声を推進力に、迅速に具体的に勤務環境の改善を進めたい」
1か月で22万件も集まった「バトン」。
文部科学省には、ぜひ言葉だけで終わることなく、いまこそ改革の成果を形にして可視化してほしいと思います。そして名古屋大学大学院の内田良准教授は現場と国が連携することが改革のカギだと指摘します。
「これまで学校現場は『子どものために』とずっと足し算でやってきた。教員は夜遅くまで頑張ってこそ子ども思いだという文化も根強くあり、『つらい』と言えない。だからこそ匿名でも言えることが大事で、現場の状況が把握できなくては改善もできないが、今回、教員たちは多くの問題点を提示してくれている。同時に『こう改善したら実際に仕事が減ったけど、意外とみんな満足してるよ』といった声も届けていくと、それがハッシュタグによって1か所に集まる。国はその改善事例を全国に広げるなど、この想定外に集まった事実を、教員の長時間労働の解消に建設的に生かしていく必要がある」
過酷な働き方が続けば、教員がつらいだけなく、子どもたちにも確実にしわ寄せがいきます。
それはつまり、未来の社会にも影響することになります。次の投稿にある願いがかなうように、このプロジェクトを引き続き注視していきたいと思います。
『あちこちで欠員が出てる。ごめんね、ごめんねって言い合ってる。子どもにもごめんねって思う。保護者にも申し訳ない気持ち。こんなバトンは引き継ぎたくない。今、教職を志す人たちが現場に立つ頃には、改善していますように』
社会部記者 能州 さやか
【 連載・非正規公務員に明日はあるか②】生徒にとって同じ「先生」 求められる仕事も同じ でも待遇に格差 同一労働同一賃金は幻か 南日本新聞 11/21】
県立高校で美術を教える非常勤講師の男性は、会計年度任用職員になって時給が300円近く下がった。新制度で報酬単価が3区分から一つに統一されたためだ。「事前に通知もなく、ショックだった」。月額で2万円減った仲間もいる。
「ボーナスで補てんされる」と聞いたが、男性は支給されなかった。任期や勤務時間数に条件があり、それを満たせなかったからだ。「教える喜びはあるが、講師の報酬だけでは厳しい」。アルバイトで生活費を補う。
部活動の指導を頼まれる講師もいる。手当を出す市立高もあるが、県立高の場合、講師の報酬は授業と試験作成・採点などに支払う仕組み。学校に独自予算がない場合などは無償ボランティアになるケースもある。ある女性講師は前任者から引き継ぎ書道部を指導する。「生徒が展覧会に出すと言えば放っておけない。教職を目指す若い講師は頼まれたら嫌と言えない。純粋さや善意を利用するようでおかしい」
■同一賃金どこへ
「オリンピックの経済効果を知りたい」「氷河期の地図を探している」。高校の図書館には生徒からさまざまな質問や相談が持ち込まれる。本や資料をそろえ、学びを手助けするレファレンスは司書の仕事の要だ。
このほか、学科・教科の教材準備、読書相談や行事、貸し出しなど、多岐に渡る業務は高いスキルを求められる専門職。だが63の県立高校のうち、34人は任用職員で、主に11学級以下の学校に配置されている。
ある女性司書は大学で資格を取り、勤続10年以上。パートタイムである以外は正規と同じ仕事だ。「どこが同一労働同一賃金なのか」とため息をつく。
ボーナスは出るようになったが、日給制に変わり、月の手取りは15万円に届かない。「奨学金の返済と家賃で半分消える。普通は休みが多いとうれしいはずだが、給料が減るので悲しくなる」
■狭き門
任用職員は事務職にとどまらず、資格や技術が必要な専門職に広がる。正職員の採用は狭き門だ。県内高校で2019~21年度採用の美術・書道・音楽教諭は計10人に満たない。科目によっては採用がない年もある。司書は毎年度1人。
「正規で働きたくても非正規で働かざるをえない」。生徒からみれば同じ「先生」だが、待遇格差は大きい。
非正規教職員を支援する県高教組の水間悦郎書記長(50)は「新制度は非正規を合法化してしまっている。教職員が安心して働ける環境でなければ子どもにも影響が出る」と訴える。
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