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社会保障と新自由主義 ~コロナ禍が炙り出したもの(メモ)

 神戸大学名誉教授 二宮厚美さんのインタビュー 「赤旗」2021/12/15-18のメモ

“・コロナ禍であきらかになった新自由主義の破綻。岸田首相は「転換」を唱えているが、実態はその維持・強化でしかない。新自由主義がもたらした税制・社会保障の変質。それがコロナ禍のもとで、その変質した制度に、世界的な怒りを広がり、応能原則の税制への是正の動き、エッセンシャル・ワーカーの役割への認識の深まりと労働条件改善声の広がりと、新しい時代をつくるうねりが若者を中心に広がりを見せている。 --- そうした一連の動きを描き出した連載”。

なお、連載4回の見出しは以下のとおり・・・

(1)ゾンビのようなしぶとさ  

(2)「必要充足」から逸脱  

3)呪文のように「自助共助」

(4)「新規まき直し」の好機

【 社会保障と新自由主義 21.12 】

(1)ゾンビのようなしぶとさ  

 ❶ 岸田首相の唱える、「新自由主義からの転換」をどうみるか

・国民生活からみれば、新自由主義の破綻は明らか

・1990年代後半以降、新自由主義思想に沿って労働法制緩和の結果、低賃金の非正規労働者が増え、貧困と格差が拡大した。/大企業や富裕層の得た利益が庶民にしたたり落ちる「トリクルダウン効果」は起きなかった。

→ 下から上へ富を吸い上げる「ストロー効果」を強めたのだから、起きるはずがない。

 ・新自由主義思想に沿って社会保障費を圧縮し続けた結果、新型コロナ感染症が広がった途端に保健・医療体制が崩壊。入院できずに自宅待機とされる感染者が続出。/大阪では自宅待機中の感染者が毎日毎日、命を落とした。

→ 安倍元首相、菅前首相は立て続けに「コロナ敗戦」に見舞われ、首相の座を放り出した。

 圧力に押されて

 ・新自由主義の破綻が明かになり、岸田首相は総選挙での野党共闘勢力との政策的対決を意識せざるを得まえかった/著書『岸田ビジョン』で「残念ながら、『トリクルダウン』の現象はまだ観察されていない」と書いたのは、新自由主義の破綻を認めたもの。保育、介護、医療従事者の給与水準の見直しを言い出したのも、野党共闘の圧力に押された結果。

⇔ が、岸田政権発足後の政策をみれば、部分的手直しすら不十分/ 雇用や社会保障の分野で新自由主義の枠組みを根本から転換する発想はない /国民生活との関係で破綻しても、新自由主義は簡単にはつぶれない。

 

❷ なぜ新自由主義はしぶといのか

・3つの視点から把握すればわかる

1.市場原理主義の教義という性格

すべての財貨やサービスを市場取引に委ねることが国民生活と経済に最良の結果をもたらすと説/この考え方が貫徹すると、市場競争の勝者が利益を総取りし、敗者は生存権すら保障されない、弱肉強食のジャングルの法則が現れる。

⇔ 等価交換の市場取引ではサービスを受けるために同等の対価を支払う /社会保障分野にこの「応益負担」原則が持ち込まれた結果、患者負担、介護利用料の引き上げ/生存に必要な医療・介護を受けられない事態に。

2. 規制緩和と民営化・営利化の推進力という性格

現代社会では市場原理はむき出しの形では通用しない。人権原理があるから

→人権原理は、市場部門外に公共部門をつくり、営利企業を排除。教育・福祉・医療・雇用・環境・文化・研究等をを守ってきた→ この「聖域」に規制緩和、民営化で風穴を開ける新自由主義的改革が席巻した結果、公共部門は空洞化した。

3.福祉国家解体戦略のために体制側が動員するイデオロギーという性格

多国籍企業に変貌した現代の大企業にとって福祉国家を邪魔者/ グローバル市場を相手に競争する大企業は、国内需要の不足を大きな問題とせず、総人件費と税負担の削減に明け暮れるから

→ 生存権・労働権・環境権・教育権などの人権を保障する財源を大企業に求める福祉国家を妨害物とみなし、縮小・解体に突き進む~ 「市場原理主義・規制緩和・民営化」はそのための戦略

・他方、福祉国家への諸国民のニーズは繰り返し生まれ、封じ込めることができない

→ コロナ危機と地球環境危機が大企業への課税や規制を焦点に押し上げたのは典型的事例!

 ★ 新自由主義は繰り返し破綻しながら、多国籍型大企業の要求に応じて、新たな福祉国家の芽をつぶす戦略として繰り返しよみがえる。(資本の魂)。= これが、新自由主義がゾンビのように生き延びる理由す。

 

(2)「必要充足」から逸脱  

❸新自由主義の政策は、社会保障制度をどのように変質させてきたか

◆社会保障 本来の原則・・・憲法25条で生存権を保障する国の責任が規定/「必要充足・応能負担原則」

→ 給付は生存のための必要に応じて保障し、負担は支払い能力に応じて課すという原則 

⇔ この原則を、新自由主義は「私的欲求充足・応益負担原則」に変質

) 日本の公的医療制度・・・ 患者は自己の私的欲求に基づいて医療サービスを選ぶのでなく/ 医師が病気を診断し、健康のために必要と判断した治療を、患者の合意に基づいて提供。給付は、現金ではなく、医療行為の現物で支給~医師が必要と認め、保険診療に含まれる治療法であれば、費用がいくらかかっても施せるし、施さなければならない

*{必要充足原則}では、必要なサービスは、現物の形で保障する/重要なのは、金額の上限を設けない現物給付原則

 ) 保育、教育、福祉も原則は同じ ~ 生活保護の生活扶助費は、現金支給だが、金額は日常生活に必要な食費・被服費・光熱費などを綿密に計算して決定

◆新自由主義=現金給付方式/「必要充足原則」から逸脱

) 典型が介護保険制度 ~ 保険給付に金額で上限/要介護度5=月額約36万円まで保険サービスの使用可能。自己負担額を除いた費用が保険から給付/保障されるのは、一定額の現金。36万円を超えるサービスは全額自己負担。介護保険にないサービスも、自己負担で自由に併用できる

→ これでは、必要な介護が保障されない/重度の要介護者の場合、人間的な生活保障には月々60万~80万円程度の介護給付が必要。が、36万円で打ち切り。それ以上のサービスについては、対価を支払える人だけが、専門家の判断によらず、私的欲求を満たす形で使えう仕組み = 「私的欲求充足・応益負担原則」と呼ぶ理由

 ★利益に応じて負担する「応益負担」は、市場取引の原則 ~ この原則に基づき、公的医療・介護の自己負担割合を2~3割に引き上げ → 新自由主義的な社会保障改革 = 必要充足原則を壊し、医療・介護難民を生み出している。

 絶望郷を夢見る

❹ 究極の現金給付方式= ベーシック・インカム

・新自由主義の元祖ミルトン・フリードマンが提唱=「負の所得税」 

→ ベーシック・インカムの原型。新自由主義派が夢見る制度/ 国民に一定額の最低所得を保障するかわりに、あらゆる社会サービスを現金給付に一本化し、各人は、必要なサービスは市場で買うとうもの

→ 生存に必要な現物給付を国家が保障する必要がなくなり、給付額の上限が確定する社会保障費の圧縮をめざす新自由主義のユートピア ~ (メモ者 「公的サービス」を解体し、すべて「民間サービス」として利潤追求の場の拡大) 

*フリードマン “老齢扶助、社会保障給付の支払い、扶養児童手当、一般援助、農産物価格支持制度、公営住宅」などを現金給付に一本化すれば、現状の「半分以下の費用ですむ」”(『資本主義と自由』)/多くの国民にはディストピア(絶望郷)

⇔ 日本維新の会などが唱える「ベーシック・インカム」はこの流れ

★理論的には、新自由主義的ではないベーシック・インカムも考えられる/例えば、高齢者向けの最低保障年金はその一種で、実現すべき課題 (メモ者 現物支給の公的サービスの基盤の上に、+αとしての制度として検討すべきもの/この原則をあいまいだと、「新自由主義」にからめとられる危険を持つ。要注意!)

 

3)呪文のように「自助共助」

❺ 社会保障を支える財源の面でも新自由主義的な「改革」が進められてきた。

・公共財源についても憲法の原則は明確 = 支払い能力に応じて負担を課す応能負担/すべての所得を合算し、総所得に応じて税率を上げる総合累進課税が本来の姿。

 ・新自由主義的なグローバル化の中で、応能負担原則が崩されてきた

→ 高利潤の大企業や高所得の富裕層は、高い税率を課す国を逃れて、低税率の地域に資金を移す自由を手に入れた

・この問題は、2010年代前半の欧州債務危機の時期に顕在化 /フランスの政権が所得税の最高税率を上げようとしたら、高所得者らの「国外脱出」が相次いだ。大企業も「高い税金をとるなら海外に逃げるぞ」と、法人税率の軽減を迫った

→ 過去20~30年の間、所得税の最高税率と法人税率が全世界的に引き下げる「底辺へま競争」で、税制が空洞化

 ヨコ型の基幹税

・新自由主義派~富裕層、大企業に逃げられないため別の財源を提案 = 消費税の基幹税化

・日本 1989年の消費税導入以来、個人・法人所得税の減税と消費税の増税を基本とする税制改革が繰り返された

~ 安倍政権/法人実効税率 37%から29・74%へ下げ、消費税率を5%から10%に上げた

⇔ 基幹税としての所得税を骨抜きにし、消費税を基幹税にすえるのが、新自由主義の税制改革戦略

★この戦略は、税・財政の所得再分配構造を変質 … 貧困と格差の重大要因に

→ 憲法の応能負担原則に基づく税・財政構造 = 基幹税としての所得・資産税を財源とし、社会保障給付などを通じて、垂直的な所得再分配を行うもの/ 所得の上層から下層へと、タテ型の再分配を行うもの

→が、消費税 = 所得の低い人ほど負担率が高い逆進的な大衆課税 / 消費税を財源にした所得再分配は垂直的でない ~ 大衆内部で右からとって左に流す、ヨコ型の水平的所得再分配。

 

❻ 現在、日本の新自由主義派が掲げている社会保障の理念とは・・・

・「権利としての社会保障」 を 「共助・連帯としての社会保障」に転換

⇔ それの定式化が「全世代型社会保障」 ~ 2013年8月の社会保障国民会議「最終報告」に最初に現れ、安倍政権が定式化 /  「自助・共助・公助」の3層構造を社会保障の指導理念と定め、菅前首相は呪文のように繰り返し、岸田首相に継続

 給付抑える圧力

・本音は自助だが、憲法があるから迂回 ⇔ 「共助、連帯、相互扶助」という権利性が不明確な理念への転換を図った。

⇔ 具体的化 / 「『自助の共同化』としての社会保険制度を基本」にし、保険主義を強化

・保険料が足りない場合~人権保障型の社会保障なら税金により給付を保障/が、助け合いの保険主義は別対応

→ 保険原理で言う財政の収支均等原則を重視 / 顧客からとる保険料の総額と、払う保険金の総額を均等にする原則

*介護保険・・・保険給付の一定割合(約5割)だけ税金を、残りを保険料で支える / 給付増なら保険料が自動的に上がる

→ 給付を抑える強い圧力として働く / 看護師や介護職員の処遇改善の声は、保険料アップの壁に阻まれている

  • 保険原理によって権利性を後退させ、給付を圧縮するのが新自由主義版の社会保障!

 

(4) 「新規まき直し」の好機

❼ 岸田政権の社会保障政策は、新自由主義の枠内

・コロナ禍で明らかになった新自由主義の破綻、野党共闘勢力の政策転換を求めての攻勢

→ 総選挙に向け「新自由主義の転換」というポーズをとらざるを得なかった ⇔  野党の攻勢をかわす狙い

・が、岸田政権は「応益負担」「水平的所得再分配」「共助・連帯としての社会保障」といった新自由主義の枠組みを維持 /その強化を押し進めているのか、自民党、公明党、日本維新の会、そして、国民民主党も軸足を移している

・新自由主義からの転換は、野党共闘による政権交代を実現するほかない / 一方、自民・公明・維新などの野望は参院選で3分の2の議席獲得を狙い、挫折しかけた改憲・新自由主義路線を立て直すこと / せめぎ合いが強まることに!

 民衆の怒り爆発

❽ 新自由主義の転換をめざす世界的な動き

・新自由主義的な税制「改革」・・・ この身勝手な対応に対して民衆の怒りが爆発

→ 「1%対99%」の運動、緊縮財政の転換求める運動、「富裕層、大企業の租税回避は不公正」と告発する運動が沸き起った

・ 富裕層・大企業減税を進めてきた先進諸国は軒並み、財政が火の車に/コロナ禍に対応できない状況に陥る国も。

→ 民衆の運動に押され、法人課税や累進課税を見直す動きが強まり、世界共通の最低法人税率のルール化、バイデン米政権が法人課税や金融所得課税を強化へ 

★新自由主義的なグローバル化=財政危機を呼び起こし、支配階級の中からも見直しの動きが出る時代にさしかかった

⇔ 富裕層と大企業に公平な負担を求める草の根運動を強め、新自由主義的な社会保障改革を転換させていくチャンス!

 

❾ コロナ禍の下、医療や介護や保育の現場で働く人々に集まった注目

・全世界的に起こった新たな声 = 「看護師、保健師、介護職員、保育士はエッセンシャル・ワーク(人間の生活に必要不可欠な労働)に従事しているのだから、もっと大切にしなければいけない」という声

→ 医療・介護・保育の現場で働く人たちの頑張りによって、社会崩壊に至らなかった= 新しい国民的合意/ 「エッセンシャル・ワーク・ニューディール」と呼ぶにふさわしい出来事! 新時代の始まりにはニューディール政治が求められている。

 運動広げる若者

・コロナ禍の中で生活物資を運んだ非正規の労働者たちを含め、エッセンシャル・ワーカーは低賃金で働き、正当に評価されてこなかった ~ これらの人々の要求を束ねて処遇改善の運動を広げていくチャンスの時期が来ている!

★コロナ禍の下では同時に、自然環境の重要性を気候変動危機と結びつけて認識し、人間と自然の関係を見直そうという「グリーン・ニューディール」運動が若者を中心にうねりのように広っている ⇔ エッセンシャル・ワーク・ニューディールとグリーン・ニューディールの連合は、新自由主義への現代的な対抗路線になっていく!

 

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