子どもの貧困~連鎖のリスク明確に 初の全国調査・内閣府
「赤旗」記事に読み、元の報告書が公表されてないか、調べたせあった。報告書はかなりの量があるので、ブログでは、座長の「総括・メッセージ」を下段に添付している。
赤旗記事ではわからなかったが、まず、初の全国調査であったこと。相対的貧困の観点で接近していること。子どもの貧困は親の貧困の問題との視点を持っていること。分析は、貧困線以下の「貧困層」と、貧困線以上・中央値までの「準貧困層」、中央値以上の「その他層」で分析し、「準貧困層」も貧困の連鎖のリスクは無視できないと、より広い層への支援が必要であること、など極めてまともな分析になっており、公的な調査とその総括という点で、地方議会でも使えることが多い。
ちなみに、12月高知市議会では、「子ども食堂」が、居場所やSSWとの連携など学校・行政などとのネットワークの起点として役割を発揮していることを確認する論戦を行えた。
【「食料買えず」4割 低収入世帯で深刻さ増す 子ども生活状況 内閣府調査報告 赤旗12/25のメモ】
・内閣府は24日、子どもの生活状況についての調査報告書を発表(メモ者 初の全国調査!)
・調査は今年2~3月に全国の中学2年生とその保護者5000組を対象に実施。2715組から回答
・「食料が買えなかった経験」があったとする世帯~ 全体11・3%、収入水準が中央値の2分の1未満の低収入世帯(全体の12・9%)37・7%、ひとり親世帯では30・3%、そのうち母子世帯では32・1%。
・現在の暮らしが「苦しい」または「大変苦しい」と回答した世帯~ 全体では25・3%、低収入世帯57・1%、ひとり親世帯51・8%、母子世帯は53・3%といずれも2倍以上
・新型コロナウイルス感染症の拡大で世帯の収入が減ったと回答した割合~全体32.5%、低収入世帯47・4%。
・報告書はコロナの影響でこうした世帯の生活状況が厳しくなっている可能性があると指摘している。
【総括 子供の貧困の実情と求められる支援: 令和2年度 子供の生活状況調査からのメッセージ】
子供の生活状況調査の分析に関する検討会 座長 小林盾(成蹊大学)
1 この報告書の位置づけと意義
(1)位置づけ
子供の貧困はなくすべきである――この主張に、反対する人はいないだろう。では、現在の日本社会で、子供の貧困がどのような状況になっているのだろうか。
じつは、これまで県や市など自治体レベルでの調査は実施されてきたが、全国調査はなかった。そのため、地域ごとの知見こそ集積されてきたものの、日本社会についての全体像が分からない状況が続いてきた。
そこで、内閣府にて「令和元年度 子供の貧困実態調査に関する研究」が組織され、各自治体が実態調査を実施するときのモデルとなる「共通調査項目案」が作成された。さらに、この項目案を用いて、「令和2年度子供の生活状況調査」として試行的に全国調査が実施された。
調査では、子供の貧困についての基礎情報を収集する必要があることから、子供本人に学習の状況、進学希望、部活動等への参加状況、食事や就寝時間など日常的な生活状況、生活満足度など心理的状態、家族からの虐待などの逆境体験を詳細に質問した。また、子供の貧困が家庭の状況と不可分なことから、保護者(典型的には親)にも調査を実施し、経済状況、就労状況、就学までの保育状況、テレビのルールなど子供との関わり方、学校行事への参加など学校との関わり、子供の進学への期待、頼れる人の有無、そして心理的状態を質問した。
調査は令和 3 年 2 月から 3 月に実施された。全国から地域や都市度に配慮して 5,000 組(保護者と子供のセット)がランダムサンプリングされ、調査票が郵送された。回答は返送するか、オンライン回答を選べる。
有効回収数は 2,715 組で、有効回収率は 54.3%だった。回収率が 50%を超えていることから、十分に信頼できるデータであるといえるだろう。
(2)意義
では、この調査にはどのような意義があるのか。それは、子供の貧困にかんする、我が国で最初の全国データとなることにある。いわば、これまで自治体単位の断片的な地図しかなかったところに、ようやく全国地図が登場したようなものである。
この調査データによってはじめて、子供の貧困の実態が全国規模で明らかになる。多岐にわたる質問によって包括的な情報を集めつつ、保護者と子供を対象とすることで豊かで立体的な解釈を可能とする。その結果、子供の貧困対策を進めるための基礎資料として、どのような人にどのような支援が必要なのかのエビデンスを提供し、今後に向けた道しるべとなることが期待される。
そもそも、子供の貧困が、保護者の状況と無関係に起こることはない。保護者が豊かなのに子供だけが貧しかったり、保護者が貧しいのに子供が豊かだったりということはありえない。したがって、子供の貧困問題は、保護者の(より広くは世帯の)貧困問題でもある。そのため、この調査データは子供の貧困だけでなく、いわば「大人の貧困」についても多くの知見をもたらすはずである。
2 理論的背景
(1)貧困とは
貧困とは、どのように定義できるだろうか。貧困と聞くと、人によっては飢餓や児童労働やギャングといった、遠い国の出来事をイメージするかもしれない。それも誤りではない。しかし、それではともすれば日本社会における貧困が、見のがされてしまいかねない。
そこで、ここでは貧困を「社会の中のどのような人も、それ以下であるべきではない生活水準、そのことを社会として許すべきではない、という基準」という「阿部の定義」によって捉えたい(阿部彩、『子供の貧困』、岩波書店、2008 年)。こう考えることで、貧困は社会ごとの相対的なものとして、どれほど豊かな社会であっても存在しうるものとなる(相対的貧困とよばれる)。
(2)経済資本、人的資本、文化資本、社会関係資本
では、貧困はどのように生まれるのだろうか。そのための理論的なフレームワーク(枠組み)として、ここでは人びとがさまざまな資源を「資本」として獲得し蓄積することで活用し、仕事や家庭や収入といった「地位」を達成していくと想定してみよう(詳しくは筆者の『ライフスタイルの社会学:データからみる日本社会の多様な格差』を参照、東京大学出版会、2017 年)。そうした資本には、お金や不動産といった「経済資本」だけでなく、学校教育や健康といった個人の能力を表す「人的資本」がある。経済学では、ながらくこれらの役割が分析されてきた。
ところが、学校のような正規の教育課程では、勉強は教わっても、家での学習や食事や早寝早起きといった「生活習慣」、言葉づかいのような「品のよさ」、美術館好きといった「趣味のよさ」、海外旅行や登山といった「多様な経験」が、身につくわけではない。こうした広い意味での文化活動が、しかし、学校での成績やその後の社会生活を左右するだろうことは想像にかたくない。そうであるなら、資本として捉えるべきであり、これは「文化資本」とよばれる。
また、人びとはけっして 1 人で生きているわけではなく、家族、コミュニティ、職場などで他人とつながりながら生活しているはずである。これらの人間関係も、居場所や人脈、ときには苦言を呈してくれる人といった形で、資本として地位達成に役立つかもしれない。これは「社会関係資本」(ソーシャルキャピタル)とよばれる。文化資本と社会関係資本の役割は、社会学から提案された。
人びとは、経済資本、人的資本、文化資本、そして社会関係資本を活用して、地位を達成していく。このとき、もし機会が平等で、だれでも最初に同じだけの資本をもち、「ヨーイドン」でいっせいにスタートして競争すると仮定したら、どうだろうか。このとき、たとえ(進学したい学校に進学できなかったり、就職したかった企業に就職できなかったり、結婚したかった人とできなかったりといった)結果に不平等が生まれたとしても、それは努力の差のためだといえるだろう。
(3)貧困の連鎖
しかし、この仮定が現実的でないことを、私たちはだれでも知っている。子供の場合、自分で稼げるわけではないので、保護者の経済資本の違いに影響されざるをえない。このとき、もしかしたら保護者の経済資本の違いが、子供の(人的資本、文化資本、社会関係資本といった)資本獲得に差をもたらし、その結果子供が成人したときの地位達成を左右して経済資本に違いを生む可能性がある。とりわけ、保護者の経済資本が多い(豊かな家の出身である)ほど、子供が多くの資本を獲得でき、その結果多くの経済資本を獲得できる(子供も豊かになる)かもしれない。
豊かな家の子は豊かになり、貧しい家の子は貧しいまま――これは「貧困の連鎖」や「不平等の再生産」とよばれる。豊かな家の子はますます豊かになり、貧しい家の子はますます貧しくなる――これは貧困の連鎖がさらに強化されるような状況であり、「不平等の拡大再生産」とよばれる。
日本社会では、はたして貧困の連鎖が生じているのだろうか。
3 子供の貧困の実情:この調査で明らかにされたこと
(1)貧困層、準貧困層、その他層
そこで、以下ではこの調査データで、保護者の貧困が子供の資本獲得を通して、子供の貧困へと連鎖しているのかどうかを確認しよう。本調査では、上記の相対的貧困の概念を具体化し、便宜上、等価可処分収入の中央値の半分である貧困線以下しか収入がない世帯を相対的貧困の世帯と捉え、これを基準として三つの層に分類して分析を行った。すなわち、保護者の経済資本の違いを、世帯の収入水準で測定して、全体の 12.9%いた「もっとも低い収入水準の世帯」、その次に低い 36.9%の「中低位の収入水準の世帯」、それ以上で 50.2%を占める「中央値以上の収入水準の世帯」に分けて、子供の資本獲得に違いがあるかを比較する(世帯の収入水準について詳しくは 2.1.1.経済的な状況、暮らしの状況を参照)。ここでは、もっとも低いグループを「貧困層」、その次に低いグループを「準貧困層」、それ以上のグループを「その他層」とよぶ(準貧困という表現は、この検討会構成員である渡辺由美子氏のご教示による)。以下はすべて統計的に有意な差があった。
また、将来に向けた資本獲得だけでなく、現時点での子供たちの状況を評価するために、子供のウェルビーイングへの影響も検討しよう。ウェルビーイングとは「善き生」を意味し、幸福感、生活満足度、ストレス、健康などが含まれる。この調査では主観的ウェルビーイングとして生活満足度が測定されている。
なお、筆者は渡辺由美子氏の協力を得て、氏が理事長をつとめる特定非営利活動法人キッズドアにて、複数の事業所で参与観察を実施した。経済的な困窮家庭の中学生、高校生に無料の学習支援会をする、その保護者たちに無料で食品を配布する、ひとり親に就労支援をするといった活動に参加する機会を得た。これらを事例として、以下であわせて紹介したい。
(2)人的資本への影響
まず、子供の人的資本に、保護者の貧困がどう影響しているのか。クラスの中での成績が「やや下のほう」と「下のほう」を足し合わせた割合が、その他層で 26.0%なのにたいし、準貧困層 36.3%、貧困層 52.0%へと 2.0 倍に増加した。授業の理解レベルで「ほとんどわからない」と「わからないことが多い」を合わせた割合は、その他層で 7.3%であるが、準貧困層で 12.4%、貧困層で 24.0%へと 3.3 倍に増えた。
保護者の貧困は、子供の現在の成績や理解度だけでなく、進学希望にも影響するかもしれない。データによれば、「大学またはそれ以上」を希望する子供はその他層で 64.3%なのが、準貧困層で 38.1%、貧困層で28.0%へと 0.44 倍に半減する。その他層では大学進学がなかば当然と考えられているのにたいし、準貧困層や貧困層ではそうではない。このように、準貧困層、貧困層ほど成績が低く、授業の理解が浅くて、大学への進学希望者が少なかった。
保護者の貧困によって、子供の人的資本獲得に困難が生じ、獲得チャンスが低下することが分かる。筆者が学習支援会に参加したとき、ある中学 3 年生は小学校時から授業についていけず、tea をテア、does をドエスと読んだ。別の中学生は、cat をシーと読む(冒頭の c のみ読めたため)。ある高校生は、数学が好きだが、文章問題で漢字が読めないため、解くことができないと話した。こうした生徒たちはけっして不真面目なわけではなく、むしろ熱心に勉強に取りくんでいる。別の中学 1 年生に将来の進路をきくと、「うちは母子家庭で余裕がないから、高校に行ってもよいけど、行かないで働いてもよい」し、大学は「はやく働きたいから、行きたくない」と話した。
(3)文化資本への影響
学習習慣や生活習慣は、子供にとって重要な文化資本となる。では、保護者の貧困は、子供の文化資本にどう影響しているのか。
学校の授業以外で勉強しない子供は、その他層 2.6%とほぼいないが、準貧困層で 5.8%、貧困層で 12.3%へと 4.7 倍に急増する。
生活習慣はどうか。朝食を毎日食べるのは、その他層で 86.5%であり、これが準貧困層で 80.5%、貧困層で 71.2%となり 0.82 倍へ減っていく。毎日ほぼ同じ時間に寝ているのは、その他層の 36.5%と準貧困層の33.6%で差が少ないが、貧困層で 25.6%と 0.70 倍に下がる。
このように、準貧困層、貧困層ほど学習習慣が身についていない子供がいるし、食事や就寝といった生活習慣が整っていない子供がいた。つまり、子供の文化資本の獲得チャンスが、保護者の貧困によって限られていた。
参与観察した学習支援会の卒業生で、現在成人している人にインタビューしたところ、「小学生のころピアノを習いたい、またあるテーマパークにいきたいと親に頼んだところ、お金がないからと言われてあきらめた」と話す。別の成人は、小学生時に電気が止められ、夜間をローソクだけで過ごさざるをえず、それも 20 時に消灯されたため、家で勉強したくてもできなかったそうだ。学習支援会スタッフによると、困窮家庭では家に子供の勉強スペースをとれず、そのため家で勉強したくてもできないケースが多いという。参加した中学生、高校生に海外旅行についてきくと、ほとんどが経験していなかった。
(4)社会関係資本への影響
調査では、学校の部活動への参加や、相談できる人について質問した。これらは子供にとっての社会関係資本となる。
「地域のスポーツクラブや文化クラブ、学校の部活動」に参加していない子供は、その他層で 12.4%、準貧困層で 13.7%と大差ないが、貧困層では 23.8%へと 1.9 倍に増加した。参加しない理由として「費用がかかるから」としたのは、その他層で 5.0%なのが、準貧困層 9.4%、貧困層 19.2%へと 3.8 倍に急増する。
困っていることや悩みごとがあるとき、相談できると思う人を列挙してもらったところ、「だれにも相談できない、相談したくない」がその他層で 7.0%、準貧困層 10.6%、貧困層で 12.8%へと 1.8 倍に増えた。このように、準貧困層、貧困層ほど部活動や相談相手が限られていて、子供が社会関係資本を獲得しにくくなっていた。
幸いなことに、学習支援会で話した生徒たちのほとんどが、野球部、バスケ部、華道部などなんらかの部活動に参加していた。ただし、ある中学生は、ひとり親で、祖父母が亡くなっており、親戚付き合いがまったくないと話した。こうしたケースでは、保護者が社会的に孤立している可能性がある。
(5)ウェルビーイングへの影響
最後に、生活満足度によって、子供のウェルビーイングへの影響を確認しよう。0 まったく満足していないから 10 十分に満足しているまでの生活満足度で、中間の 5 より上の「6~10」で満足している人は、その他層で 76.1%なのが、準貧困層で 68.3%、貧困層で 63.4%へと 0.83 倍に減少した。
このように、準貧困層、貧困層ほど生活満足度が下がり、ウェルビーイングが低下した。このことは、ただし、けっして当たり前のことではない。保護者が豊かでもそうでなくても、子供が自由にウェルビーイングを形成していておかしくはない。にもかかわらず、保護者の貧困が子供のウェルビーイングを押しさげていた。
以上、保護者の貧困が子供の資本獲得を通して、子供の貧困へと連鎖するリスク(可能性)が、調査データから明確に示唆された。なお、こうした人的資本からウェルビーイングまでの結果は、「ふたり親世帯」と「ひとり親世帯」との比較でも成立する。
ひとり親世帯の子供は、おおむね貧困層と同じような状況であった。したがって、ひとり親であることは、子供の資本獲得チャンスを低下させることが広く確認された。
4 どのような支援が必要か:この調査からのメッセージ
(1)子供の貧困対策へのメッセージ
これらの知見を、どのように子供の貧困対策に活かせるだろうか。メッセージとして、以下のようにまとめることができよう。
・メッセージ 1.保護者の経済状況や婚姻状況によって、子供は学習・生活・心理面など広い範囲で深刻な影響を受ける。特に、もっとも収入水準の低い貧困層やひとり親世帯が、親子ともに多くの困難に直面している。たとえば、貧困層はその他層と比べると、成績の低い子供が 2.0 倍、授業で分からないことのある子供が 3.3 倍、学校以外で勉強しない子供が 4.7 倍多いが、大学進学希望者は 0.4 倍、生活に満足している子供は 0.8 倍に減った。
・メッセージ 2.保護者が経済的に困窮していたりひとり親であると、子供が人的資本(成績など)、文化資本(生活習慣など)、社会関係資本(相談相手など)を獲得するチャンスが低下する。その結果、子供も大人になったときに、十分な地位達成ができず、貧困に陥る可能性が高まる。このように、貧困の連鎖のリスクがエビデンスによって裏付けられた。
・メッセージ 3.こうした影響や連鎖リスクは、貧困層だけでなく、中低位の収入水準である「準貧困層」にも無視できないほど現れる。
・メッセージ 4.新型コロナウイルス感染症の影響を受け、こうした世帯での生活状況がさらに厳しくなっている可能性がある(ここでは紹介できなかったが、詳しくはこの報告書の分析結果を参照)。
(2)求められる支援
では、どのような支援が求められているのか。
まず、メッセージ 1 と 2 から、保護者の経済状況や婚姻状況が、子供の現在の状況を悪化させるだけでなく、将来の貧困への連鎖リスクまで高めた。そのため、求められる支援
❶ 困窮世帯やひとり親世帯など、親(広くは保護者)に課題がある場合、学習・生活・心理面など多様な範囲で子供への支援が必要である。とりわけ貧困の連鎖を媒介する人的資本(成績など)、文化資本(生活習慣など)、社会関係資本(相談相手など)について、獲得チャンスが低下しないようにする。
より根本的な解決のためには、川上である保護者の経済状況を改善することが、求められるはずである。そのため、求められる支援
❷ 困窮世帯やひとり親世帯にたいして、(パソコンなど労働スキルや社会常識の修得、仕事とのマッチングなど)保護者への就労支援が不可欠である。場合によっては保護者がさらなる教育を身につけられるよう、保護者への教育支援も求められているかもしれない。
ひとり親の就労支援事業に参与観察したとき、ある 40 代女性は「ずっとシングルマザーが周囲にいなかった、この事業でようやく同じ境遇の人たちに会えて、悩みを打ちあけられた」と話した。この事業の参加者は、多くの場合「自分なんて価値がない」と考え、自信を失っている。こうした心理面へのケアも、同時に必要なのだろう。
(メモ者 阿部彩「子どもの貧困」によれば、日本のシングルマザーの就業率は極めて高い。働いて貧困から抜け出せる西欧との違いがある。現金給付の貧弱さの改善、正規・定時での雇用がカギとなる)
さて、メッセージ 3 によれば、子供への深刻な影響や連鎖リスクは、これまで支援の主な対象であった貧困層だけでなく、それより少し経済的困窮度が低い準貧困層にも現れる。その度合いは、貧困層とその他層の平均程度か、むしろ貧困層に近かった。そのため、求められる支援
❸.貧困層だけでなく、準貧困層もターゲットにした、グラデーションのある支援が必要である。たとえば、収入が生活保護の基準は上回るが、地域の収入の中央値には達しない場合でも、制度のはざまとならないよう、なんらかの経済的な支援をすることが考えられよう。
子供の貧困はけっして許さない――こうした強い信念を持って政策を策定していくことが、大人も子供も幸せで、ほんとうに豊かな社会を実現するために今求められているはずである。
(3)今後の課題
この調査を出発点として、全国の各自治体が同様の調査を実施することが期待される。人びとの生活は、地域の産業構造、文化、考え方などに影響を受けないわけにはいかないからである。実施にあたっては、この調査のようにランダムサンプリングで対象者を選ぶことが原則となる(そうでないと正確な現状把握ができない)。
この報告書では、今回調査を振りかえって改善点を洗いだし、具体的な改善案を提示している(3.調査の改善に関する検討事項を参照)。ぜひ活用してほしい。
この調査票情報は、統計法に基づき、学術研究者等が研究分析に用いること(オンサイト利用)が可能となっており、(子供の貧困のレバレッジを回帰分析によって比較検討するなど)より詳細なデータ分析が可能となろう。ただし、社会の状況は刻一刻と変化する。特に新型コロナウイルス感染症によって、弱者への影響がより深刻化している可能性もある。そのため、継続的に子供の貧困に関する調査が全国的に実施されるように努めるべきであろう。
なお、この報告書はあくまで調査データに基づいて、子供の貧困の実態を客観的に解明することが目的とされている。ここでの知見が、困窮世帯やひとり親世帯への偏見、差別を助長することにならないよう、十分に注意したい。(メモ者 リスク要因が高まるということであって、誰もがそうなるということではない)
子供の貧困をなくすために、当事者に寄りそって、エビデンスに基づき、骨太でありながらも繊細な政策支援をする――この調査がそのためにフルに活用されることを心より願う。
【 3.調査の改善に関する検討事項 】
https://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/chousa/r03/pdf/s3.pdf
◆主な修正趣旨と概要 (本文には各項目に詳しい例示がされている。)
〇基本情報の取得
・家族構成に関する質問の追加 【保護者票 新規】
・単身赴任者の有無に関する質問の追加 【保護者票 新規】
・保護者の年齢に関する質問の追加 【保護者票 新規】
〇子供と同様の調査項目の追加
・保護者のウェルビーイングに関する質問の追加 【保護者票 新規】
〇回答者から、より正確な 情報を得るための修正
・学歴や進学希望等に関する質問の修正 【保護者票問7,14、中学生票問7】
・「収入」と「所得」の語句の整理 【保護者票問 18】
・公共料金の支払いに関する選択肢の追加 【保護者票問 21】
・逆境体験に関する質問の精緻化 【中学生票問 17】
・支援制度・居場所に関する質問における具体例の追記 【中学生票問 18】
◆調査実施方法の検討
機微な情報に配慮した運用 本調査には、逆境体験など繊細な質問を含んでおり、子供が回答の際にトラウマ体験をフラッシュバック する可能性も想定される。本調査において使用した共通調査項目には、辛い状況にある子供が助けを求め るための相談先として、チャイルドラインの電話番号を掲載したところであるが、各地方公共団体において実施する場合は、地域の子供が相談できる窓口のリスト(対面・電話・SNS等を含む)の一覧を添付するなど の方策を検討すべきである。
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