新しい資本主義 分析も改革も展望もなし 野放図な資本の抑制こそカギ
岸田政権 「新しい資本主義」について、赤旗記事など整理したメモ
1.現代資本主義の問題 ~ 国際機関の早くからの指摘
2.「新しい資本主義実現会議」 ~企業のため、政府には貢献、国民に自己責任を強いる
3「新しい資本主義会議」緊急提言 ~ 分配戦略 その中身
・真の成長とは ・日本の成長の停滞 慢性的 ~低賃金、非正規雇用拡大が原因
・家族農業切り捨て
4 ジェンダー平等に逆行
【 新しい資本主義 分析も改革も展望もなし 野放図な資本の抑制こそカギ】
・資本主義そのものを問題にするかのように、岸田文雄内閣は「新しい資本主義実現会議」を発足。8日に「緊急提言」発表。
→ 現代資本主義の分析もなければ、根本的な改革策もなく、経済社会を国民本位に転換する展望もない
・提言は「1980年代以降、短期の株主価値重視の傾向が強まり、中間層の伸び悩みや格差の拡大、下請企業へのしわ寄せ、自然環境等への悪影響が生じている」と 現代資本主義の問題点を見据えているかのように装っている/しかも「新しい資本主義の構築を目指す動きが進んでおり、わが国がこの動きを先導することを目指す」と荒唐無稽な主張
1 現代資本主義の問題 ~ 国際機関の早くからの指摘
❶リーマン危機を受け、国連総会議長の諮問を受けた国際通貨金融システム改革専門家委員会 009年に発表した報告書
・報告書序文 デスコト議長の厳しい指摘
「危機は、多くの分野における失敗を示している。それは、理論と哲学、制度、政策と実践、・そして少し控えめに言って倫理と説明責任の分野においてである」 「複合的危機は、むしろシステムそのものの失敗である。組織と原理、ゆがめられ欠陥がある制度の仕組みがこれらの多くの失敗の原因である」
「公的部門、民間部門にともにあるこれら多くの誤りの基礎には、過去四半世紀を支配してきた経済哲学があった」とした。それは「時に新自由主義と呼ばれ、あるいは、市場原理主義と呼ばれた」
・報告書が示した 「新自由主義の経済理論の特徴」
(1)経済主体は合理的な行動をするということを前提
(2)政府は、本来的に健全な経済の諸原則を知らず、それゆえに政府の介入は市場での配分をゆがめる
(3)市場は効率的で安定しており、衝撃を吸収する強い能力を持っている。
→ 市場は自ら効率的行動をとるので、自動的に安定し、自らが誤りを正すことができるとし、政府の経済への介入策が掘り崩されてきたということ
・国境を越えた資本の移動が容易になり、資本のために、さまざまな規制や賃金の「底辺への競争」が引き起こされた
→結果、「所得の不安定性を増幅し、所得格差の拡大を生み出した」/格差は、途上国間、先進国と途上国、先進国内も拡大
・さらに労働組合の弱体化をもたらし、不十分な企業統治や経営トップと労働者間の給与の格差を拡大
・各国間の租税競争をもたらし、「政府の資本課税権を弱めた」
❷19年4月には、国連貿易開発会議(UNCTAD)のライト氏とボストン大学のギャラガー氏の 「共通の繁栄のための新しい多国間主義 グローバル・グリーン・ニュー・ディールのためのジュネーブ原則」という報告書
・巨大な多国籍銀行・企業と結託した政府が、「グローバルシステムのルールを書き直し、新自由主義の拡散の手段となった。
その後の金融不安、格差、気候変動の危機を引き起こした」
・WTO、IMF、世界銀行の積極的関与と、多数の貿易・投資協定の取り決めを通じて、「金融と企業が国境を越えて自由に移動できるようにした」と指摘
→ 「金融、デジタル、製薬業界などで企業利益を優先するグローバル化がすすめられた」/成長が回復し、比較的安定した時期でさえ、中産階級は先進国でますます没落し、途上国では、貧困がまん延している。
❸ 7.5億人に「尊厳ある生活」 富裕層拠出で 安保理 脱貧困世界計画 メキシコ大統領提起
メキシコのロペスオブラドール大統領 11/9、の国連本部で開かれた「国際の平和と安全の維持。排除・不平等・紛争」に関する安全保障理事会ハイレベル会合に出席し、約7・5億人の貧困層を支援する新たな脱貧困計画に国連が取り組むよう提起。
~「恐怖や貧困から解放されて生きる権利」は「全ての社会、国家にとって安全保障の基礎でありつづけている」。この権利の行使を阻んでいるのが、多国籍企業の力や、もうけ優先の新自由主義であると述べ、「国連がこん睡状態から目を覚まし、決まりきった行動や形式主義から脱却し、世界に広がる不平等や社会悪を非難し、これとたたかう必要がある」
/ 1日2ドル(約226円)以下で暮らす世界の貧しい人々7億5000万人に「尊厳ある生活をする権利を保障する」ためのメカニズム「世界友愛福祉計画」を設立する考えを示した。
ロペスオブラドール氏 (1)世界の富裕層上位1000人から資産の4%の拠出 (2)世界の主要民間企業1000社から同様の拠出(3)主要20カ国(G20)参加国から国内総生産(GDP)の0・2%の協力金拠出―によって約1兆ドル(約113兆円)の財源ができると説明。
→ 集めた資金は、政府機関やNGOなど仲介組織を通さず、電子マネーや個人カードを通じて受益者に直接渡る方法をとるべきだと主張。食料・健康・労働・社会保障などの権利を将来世代に提供していくことは「諸国家の共同の義務だ」と力説し、困難はあっても国連がこの分野で役割を果たすよう訴えました。
★求められているのは、資本の野放図な動きを抑制し、経済システムを国民本位に転換すること/「提言」にはそれがない。
2.「新しい資本主義実現会議」
企業のため、政府には貢献、国民に自己責任を強いる
「新しい資本主義実現会議」~ 成長率の低さやデジタル対応の遅れ、格差と貧困、ハイテク分野での国際競争の激化などを「構造的課題」とし、そのもとでめざすべき「新しい資本主義の姿」を探るというもの
→ 具体的には科学技術やデジタル化、経済安全保障などをすすめることで成長力の強化と生産性の向上を図り、収益増を分配することで、新たな成長を生み出すとのイメージを描いている
・政府資料 「新しい資本主義」実現のためには政府、企業、国民の役割分担が重要と強調。政府はマクロ経済運営や社会的共通資本の強化、企業は生産性向上などを担当。国民には「スキルアップと挑戦」を求め、競争をあおるもの。
・出席者の提出資料 「投資は『富裕層』の特権ではない」と多くの国民に投資参加を求める記述。「非正規社員に対する技能習得・能力開発の機会を『官』はもっと政策的に後押しすべき」など。
経団連・十倉会長の提出資料 「新しい資本主義」では「成長」が重要としてデジタル化の推進などを掲げ、その際、「社会的共通資本の構築は、市場経済だけでは解決できない。政府の役割が重要に」と主張。
→ 大企業のもうけのために政府に貢献を求め、国民には自己責任を強いるもの/ 特定企業の事業推進のために政府予算にたかり、制度変更を企てる「ぼったくり合理化会議」と呼ぶべき中身
3 「新しい資本主義会議」緊急提言 ~ 分配戦略 その中身は
「新しい資本主義実現会議」が、8日に出した緊急提言。「成長と分配の好循環」を掲げるが、その具体的中身は?
❶要求に遠い賃上げ策 分配戦略の柱としているが・・
・最低賃金の引き上げ~ 「経済状況に応じた引き上げ」「より早期に全国加重平均1000円をめざす」
・賃上げ企業への法人税控除 7割が赤字の中小企業には恩恵なし
・男女の賃金格差の解消 ~ 短時間正社員の導入/短時間のため同一賃金にはならず、差別を温存・固定化する危険
・保育士、介護士 月9000円 公定価格の値上げ・・・利用料に跳ね返る
厚労省の賃金構造基本統計調査に基づく「職種別平均賃金」/20年の全産業平均月35・2万円に対し、看護師は39・4万円、介護職は29・3万円、保育士は30・3万円でした。(役職者除く。時間外勤務などの手当含む)
★全労連の黒澤幸一事務局長 、「岸田政権が、“賃上げが鍵”だといわざるを得ないのは、労働者の賃上げを求める声が反映した結果だ」「しかし、緊急提言案は『事業環境に応じた賃上げ』としており、企業の支払い能力という考えから抜け出していない。賃上げは、労働者の生活が成り立つものにすることこそ目標にしなければならない」。
~ 最低賃金は、「全国一律1500円」。そのための中小企業支援策も従来の枠内ではなく、抜本的な支援策が必要
★結局「分配」は無し
・「経済を成長させた後、分配していく」(岸田首相)。「まず成長がなければ分配はできない」(松野博一官房長官27日)
~「新しい資本主義」や新自由主義の見直し、「分配なくして成長なし」「成長と分配の好循環」をアピール。が中身はなし
・分配そのもののゆがみをどう正すかこそが問題
アベノミクスの9年間で富裕層の資産は6兆円から24兆円の4倍、大企業の内部留保は133兆円も拡大
サラリーマンの平均年収は実質22万円も減り、格差は大きく拡大
・岸田首相 当初打ち出した「金融所得課税の強化」を早々に撤回。消費税減税を否定/26日発売の月刊誌『Hanada』12月号のインタビューでは、「分配だけの野党は論外」、「財源はどうするのか。『富裕層からとってくればいいんだ』というような乱暴な議論しか見られない」など野党を攻撃。バイデンに見習え
◆真の「成長戦略」とは 「成長か分配か」
・重要なのは、誰にとっての「成長」か、誰への「分配」か
現実には、大企業減税と庶民負担増という“逆さの再分配”政策を採る自公政治で、日本は主要国最低水準の低成長に
・成長と分配の関係について、米財務省が興味深い論考
「法人税率が高くなると投資の誘因が減り、法人税率が低くなると投資の誘因が増すという主張がある。しかし(米国で)2017年に法人税率を35%から21%に下げた後、投資や経済成長の増加は起きなかった」 「法人税減税で増えた企業の現金残高のうち5分の1未満しか、設備投資や研究開発に支出されなかった。その代わりに、増えた現金は自社株買いと株主への配当金支払いに向けられた」(「メイド・イン・アメリカ・タックス・プラン」)
・「大企業を優遇すれば経済は成長する」という理屈に基づく政策は、日本でも米国でも失敗
~1%の株主に分配を集中させて経済全体を低迷させる亡国の戦略か。99%の国民の生活を向上させて経済全体を成長させる救国の戦略か―。真の対立軸はここにある。
≪ 日本の成長の停滞 慢性的 ~低賃金、非正規雇用拡大が原因≫
・OECD 2013年から22年の実質GDP成長率(見込み)
アメリカ24%、イギリス14%、ドイツ13%、フランス10%、中国74%、世界平均30% 日本5%、主要国では最低水準。
・内閣府 13~19年度の日本の実質GDP3・6%増
輸出が20・7%増、GDPの5割強を占める個人消費はマイナス2・0%/賃金減少、円安による輸出代金の見かけの増額
賃金の減少に伴う個人消費の低迷が、経済回復の足かせ。
・OECD 過去20年間で日本の名目平均年間賃金 5%減。主要国で唯一マイナス/12~15年は―10%、最大の下げ幅
一方、アメリカ78%、カナダ66%、イギリス65%、ドイツ52%、フランス49%、イタリア32%それぞれ増)
→ 日本の低迷の原因/規制緩和に伴う非正規雇用労働者の拡大、社会保障改悪など雇用・所得環境の悪化
❷家族農業を切り捨て
・「成長産業化の推進」、「家族農業や中山間地農業などが持つ多面的機能の維持」を掲げているが、
→ 中身は家族農業の切り捨てなど輸出やスマート化など安倍・菅政権の政策を丸ごと継承したもの
・「スマート農業産地の形成」などを提起 ~ 対象はごく一部の農家
・コロナ禍による米価暴落にはいっさい触れず。
・「基幹的農業従事者」が減少、個人経営体の基幹的農業従事者にうち、65歳以上が占める割合は69・6%
→ が、「提言」には社会の基盤である食料生産の担い手の確保やそのための所得補償、価格保障には触れてない。
・主要国で最低水準(カロリーベース37・17%)に低下した食料自給率~ 「自給率」という言葉すらない。
★農民連の吉川利明事務局長 「安倍・菅農政が推進してきたスマート農業・輸出産業化を踏襲するもので、自給率低下や米価暴落の問題を無視したもの」
~米価危機を打開し、家族農業を中心とした農政へ転換こそ求められる
4 ジェンダー平等に逆行
・提言 、「男女間の賃金格差」や非正規雇用に女性が多く、女性がコロナ危機で「厳しい環境にある」と指摘 /一方で、女性が非正規雇用を選択するのは「家事・育児・介護と両立しやすい(19・7%)からで、「フルタイムの職業への労働移動は困難なケースが少なくない」と「分析」
→対策として、企業に「短時間正社員制度」「勤務時間分割・シフト制」を広げることを求め、/ 非正規雇用の女性に「ワード」の操作などの「簡単なトレーニング」を行い、「時間的制約の少ない事務職などに円滑に労働移動することを支援する」
→ 転勤や長時間労働に応じるかどうかで基本給や昇給昇格などに差をつける「間接差別」を助長し、賃金格差を広げ、女性の困難な状況を深刻化させるもの。
→ 女性の選択幅を狭め、自公政権と財界が狙う「成長」産業に労働力を流し込む仕組みをもたらしかねない
・男女間の賃金格差や非正規に女性が多い原因つくった財界・自公政権
→ 長時間労働前提の働かせ方で、出産、育児をする女性を正規雇用から“排除”/女性を“雇用の調整弁”として「補助業務」を押し付け、低賃金の非正規雇用を拡大してきたから。
・提言は、 コロナ危機に乗じて、女性が非正規雇用や低賃金の労働を選ばざるを得ない性差別の構造を固定化・強化し、「仕事は男」「家庭のケアは女性」というジェンダー規範を強める、ジェンダー平等に逆行する政策そのもの
★やるべきは、長時間労働の規制、家庭のケアと働くことが両立できる環境の整備
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