日本経済の実相~ 各省「白書」より(メモ)
2021年の各種白書が政府機関等から相次いで発表。コロナ禍に襲われた日本と世界の経済の実相を検証した連載のメモ
①プライチェーン 人権感覚 遅れる日本
②中国依存 米中対立の中 高まる
③中小企業 大手と格差 拡大鮮明
④経済安全保障 米中対立の渦の中に
・沈む日本の研究力 「選択と集中」の果てに 予算大幅削減し“トップ”だけ優遇
① プライチェーン 人権感覚 遅れる日本 8/4
コロナ禍・・・グローバル・サプライチェーンの外的ショックに対するもろさはあぶりだした
⇔ 多国籍企業の巨大利益の源泉/だが、本社すら全容を把握しきれない供給過程の複雑さを生み出し、その中に潜むリスクを認識できなくなっている。
・「通商白書」~ サプライチェーンを「商品の企画・開発から、原材料や部品などの調達、生産、在庫管理、配送、販売、消費までのプロセス全体を指し、商品が最終消費者に届くまでの『供給の連鎖』である」と定義
・サプライチェーンが影響を受け得る代表的なリスク 「通商白書」
〇自然災害やパンデミックに代表される環境的リスク
〇テロや政治的な不安などの地政学的リスク
〇経済危機や原料の価格変動といった経済的リスク
〇サイバー攻撃やシステム障害などの技術的リスク
⇔ 2020年の調査/感染症の世界的拡大、関税や貿易制限の不確実性、重要な原材料や部品の不足などが「重大なリスク」「中程度のリスク」と評価
◆高まる問題意識
・コロナ禍 人や物の交流が制限 ~サプライチェーンにおける商品調達などの遅延や途絶が起こり世界経済は急速に減速
~企業側のコロナ禍への対応策/事業体制の強化、生産拠点や調達先の多元化や他企業などとの体制の強化を検討
・「通商白書」~ 「サプライチェーンの垂直的・水平的な関係の強化を通じたサプライチェーンの強靱化策がますます選択されていることがうかがえる」と指摘
・近年、サプライチェーン上の人権侵害に対する問題意識の高まり/ 強制労働、児童労働など
・国連人権理事会 2011年「ビジネスと人権に関する指導原則」を採択 ~ 企業が人権を尊重する責任として、自らの活動を通じて人権に負の影響を発生させた場合、助長することを回避し、対処することを求めている。/さらに、その影響を助長していない場合であっても、取引関係によって企業の事業、製品またはサービスと直接的につながっている人権への負の影響を防止または軽減するように努めることを求めてる。
◆欧州では義務化
・ 欧州諸国を中心に国内法で企業に一定の義務を課す動きが加速
・オランダの取組 (日本貿易振興機構(ジェトロ)の「世界貿易投資報告」より)
19年10月、児童労働の撤廃に向けた「児童労働注意義務法」を公布。22年1月1日に施行予定
同法は企業に対し、児童労働を防止するために適切なサプライチェーン上のデュー・ディリジェンス(相手企業の厳正調査)を行ったことを示す表明文を、施行後6カ月以内に提出することを義務づけ
日本企業を含め、オランダ市場向けに製品やサービスを提供・販売するすべての企業が対象
・経団連の調査 (ジェトロの報告書より)
会員企業の国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」への取り組み状況
「取り組みを進めている」36%にとどまる /日本企業の人権に対する意識は欧米に比べ見劣り
★日本の大企業の人権感覚の遅れは、今後、世界でビジネスを進めるうえでの障害になる
(メモ者 RE100など環境の取組でも同様の流れ)
② 中国依存 米中対立の中 高まる 8/5
・コロナ禍で、世界経済は深刻な打撃 /一方、米中関係は深刻さを増し通商、技術、経済安全保障、人的交流など広範な分野で多岐にわたる対立を引き起こしている
⇔ 世界経済情勢に不透明感が増す中、中国経済への依存の高まり
・2020年 世界貿易(財貿易、名目輸出金額ベース) 前年比7・0%減、17兆2182億ドルに落ち込み/貿易数量(輸出ベース)も前年比5・0%減。⇔ 金額・数量ともに大幅な落ち込み。
・日本貿易振興機構(ジェトロ)の「世界貿易投資報告」 ~「数量がマイナスに転じるのは、リーマン・ショック後の金融危機の落ち込みを被った2009年以来はじめてとなる」と指摘
◆中国 輸出が4%増に
・報告書/ 多くの国・地域で貿易額が前年割れの中・・・
中国 輸出4・0%増となったことに注目/世界輸出全体に占める中国のシェアは15・1%へと上昇
~ 「輸出入上位国・地域は、前年同様、中国が輸出で世界1位、輸入で2位、米国が輸出で2位、輸入で1位となった」
・日本 20年の主要国・地域向けの輸出がほぼ縮小。中国向けは前年比4・9%増
~ ジェトロの報告書 、「2年ぶりに最大の輸出相手国に返り咲いた」と指摘
・日本企業の海外現地法人の中国における売り上げ
新型コロナが直撃した20年第1四半期(21・5%減)を底に、第2四半期にはいち早く増加(2・6%増)に転じ、その後3期連続で伸び率を拡大。米国、欧州などは、「中国の伸びに比べ、力強さを欠いている」と指摘
・ 海外直接投資の投資収益率
国・地域別に見ると、中国の収益率は14・9%。アジア全体10・6%、北米6・1%、欧州5・1%などを大きく上回っている
★報告書 「日本の輸出における中国への依存度もますます高まるなか、海外直接投資にかかる収益源としても、中国の存在感の大きさが浮き彫りとなった」と強調
◆「デジタル経済」
・2021年版「情報通信白書」
・「中国は、近年、『デジタル経済』における存在感を高めて」と注目
~ 「グローバル市場における中国の台頭は、通商関係にとどまらず、技術、経済安全保障、人的交流など、多岐にわたる米国との対立を引き起こしている」/一方で、米国を最終需要地とするコンピューター・電子機器分野の付加価値の21%は中国で生産されたものであると指摘し、「中国の存在感は世界的に高まっている」と強調
・コロナ禍でサプライチェーンの寸断が拡大
⇔ 欧州や日本など米中以外を最終需要地とする財の生産にもサプライチェーンの見直しの影響が雇用にど及ぶ可能性
~「所得格差や貧困の拡大による社会の分断も懸念されている」と指摘
・「白書」 日本の情報通信産業については、悲観的な見方
~ 「わが国からGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)やBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)のような企業はいまだに現れておらず、わが国のICT(情報通信技術)産業はグローバル市場においてその存在感を失いつつある」
③中小企業 大手と格差 拡大鮮明 8/7
・「ものづくり白書」
・コロナ禍が製造業に影響を与えた要因として、「『営業・受注』といった需要面の影響が最も大きい一方、生産活動、調達、『物流・配送』などの供給側にも影響し、サプライチェーン(供給網)の正常な稼働にも支障をきたした」ことを指摘。
⇔ とりわけ、トヨタ自動車などの部品の在庫を持たない「かんばん方式」に大打撃を与えた。
・製造業の調達活動が影響を受けた要因として「代替調達の効かない部材の存在」との回答がもっとも多い
⇔ その対策/「在庫調整」最多で51・7%、「代替調達先の確保」の31・7%を大きく上回る
◆弱者の苦難が大
「中小企業白書」
・売上高、経常利益とも中小企業が大企業より大幅に悪化。
・コロナ禍をはさんで、前年同期との売上高の増減を業種別に集計/『生活関連サービス業、娯楽業』71・8%減、『宿泊業、飲食サービス業』48・3%減。「特に大きな影響があった」と指摘。
・企業間取引~ 感染症流行前後で製造業で7割以上、サービス業、その他で5割以上の企業が「受注量が減少した」
⇔ この結果を、競合他社と比較した総合的な優位性の有無別に集計すると、「優位性を有している企業の方が、感染症流行前後で受注量が減少したとする割合が低い傾向にある」と分析。
・受注単価~ 感染症流行前後で「変化なし」と回答した企業が8割以上。1割程度の企業で受注単価が減少。
・取引関係~ 8割以上の企業が「変化なし」。 1割程度の企業が「自社の立場が弱まった」と回答。
・競合他社と比較した総合的な優位性の有無別に集計
~「自社の立場が弱まった」とする回答が「大きく優れている」企業で10・2%、「大きく劣っている」とする企業で25・2%
- コロナ禍は中小企業により大きな打撃を与えるだけでなく、格差を拡大
◆ルール整備必要
・中小企業・小規模事業者の「新たな多様性をもたらす主体」としてフリーランスに焦点
・内閣府の「フリーランス実態調査」をもとにフリーランスという働き方を選択した理由として「自分の仕事のスタイルで働きたいため」(57・8%)、「働く時間や場所を自由にするため」(39・7%)などが上位を占めたことを示して「仕事に関する自分自身の裁量を大きくすることが、フリーランスとして働くモチベーションの一要因になっている」と分析
・「フリーランスという働き方の満足度」~「仕事上の人間関係」「就業環境(働く時間や場所など)」「プライベートとの両立」などの点で「非常に満足」「満足」と答えた人が計8割超。
一方、「収入」については「非常に不満」「不満」との回答が計6割超。
・「中小企業白書」は「安心して働ける環境を整備するためのルール整備が進められている」としているが働く人たちの権利を守る有効なルール整備が求められます。
④ 経済安全保障 米中対立の渦の中に 8/21
・「通商白書」~「各国における経済安全保障の強化」に注目し、「米中の技術覇権をめぐる争いなどを背景とし、米中を始めとして、経済安全保障に関する取り組みが強化されており、新型コロナウイルス感染症の拡大によりサプライチェーンのぜい弱性が顕在化したこととも相まって、そうした傾向に拍車がかかっている」
・米国 中国の軍民融合戦略への懸念が高まり~ 外国政府の影響下にある投資家による重要インフラなどに関する投資で、企業経営に影響を与え得るものに対して事前申告が義務付け
・日本政府 軍事にも転用可能な半導体・デジタル産業の強化に力点~ 「先端技術の開発・育成・管理をはじめとして、有志国による連携の具体的な動きが広がりを見せてきている。わが国においても、有志国連携を通じてサプライチェーンの強靭化を図っていく」
◆兵器転用の技術
・4月の日米首脳会談~ 「重要技術を育成・保護」、半導体を含む機微なサプライチェーンに関する連携強化を打ち出す
機微技術 ~ 民生品であっても大量破壊兵器などに転用できる技術
・6月「骨太の方針」~ 「経済安全保障にかかわる戦略的な方向性として、基本的価値やルールに基づく国際秩序の下で、同志国との協力の拡大・深化を図りつつ」進めると強調。「安全保障の観点から非公開化を行うための所要の措置を講ずるべく検討」する ~ 先端技術分野で機密事項が大手を振るう危険が高まっている。
・「通商白書」~ 「わが国の経済安全保障を確保するためには、重要技術や物資にかかわるわが国の優位性と脆弱性を把握」することが重要と日本の産業界の弱みを直視
⇔そのうえで、「海外における生産拠点の集中度の高い重要物資等の生産拠点多元化支援による調達先の集中度低減や海外企業との戦略的提携の拡大、有志国との『信頼』を軸としたグローバルサプライチェーンの構築が重要である」
* 「経済安全保障」・・・安全保障と経済の問題が密接に関わる文脈で使用される概念。必ずしも明確な定義はない
・日本貿易振興機構(ジェトロ) 2021年版「世界貿易投資報告」
「経済安全保障に関する諸政策を俯瞰(ふかん)」した場合、「産業競争力の強化」と「国家の基幹的機能の強靭化」の目的が挙げられるとし、「前者は対外的な優位性を確保するため『攻め』の政策であるのに対し、後者は対内的な脆弱性を克服するためのいわば『守り』の政策であるといえる」と位置付
◆「輸出管理制度」
・輸出管理制度・・・武器や軍事転用可能な高度な貨物・技術などが、国際的な平和や安全を脅かす恐れのある国家やテロリストなどの手にわたることを防ぐための制度
→ 日本では安全保障貿易管理制度と呼ばれ、外国為替及び外国貿易法の下で運用
・米中対立の激化/両国の輸出管理制度が強化
⇔ 両国から輸出を行う日系企業だけでなく、米国製や中国製のモノや技術を日本などから再輸出する企業も「対策が求められる可能性がある」(ジェトロ報告)
・日本企業が米国の輸出管理制度を順守した結果、中国側から制裁などを受ける可能性も
~日本が経済安全保障を掲げ、対応策を強化すればするほど米中対立の渦の中にますます巻き込まれることになる
★メモ者 「日米安保」という政治軸と、最大の貿易相手が中国であるという経済軸のねじれ
【沈む日本の研究力 「選択と集中」の果てに 予算大幅削減し“トップ”だけ優遇 8/22】
・日本の研究力低下・・・「選択と集中」の名で大学予算を大幅削減し、研究資金を一握りのトップ大学に傾斜配分してきた自公政権の「大学改革」のゆがみが出ています。
・文部科学省の科学技術・学術政策研究所 2021年版「科学技術指標」(8/10)
自然科学系の学術論文のうち注目度が高い上位10%の論文数 日本はインドに抜かれ前年の9位から10位に後退。20年前の4位から順位を下げ続けている
・中国が米国を抜いてトップとなるなど、新興国の台頭も。が、日本には米欧とは異なる傾向
・20年前のトップ10%論文数の上位 米国、英国、ドイツ、日本
米国 トップ10%論文占有率 20年間で半減、が、論文総数は4割、トップ10%論文数も2割増え
英国、ドイツも論文数は大幅に増えている。
・日本の論文総数 5%の微増 /トップ10%論文数13%減
文科省 2021年版「科学技術・イノベーション白書」も「国際的な地位の低下が続いている」
⇔原因として、若手研究者の雇用の不安定化や大学教員の研究時間減少、大学の研究費の低下を指摘
・2000年を1とした18年の大学の研究開発費は米国2・5、英国2・3、ドイツ2・2、日本0・9
→ 自公政権による国立大学運営費交付金の削減 04年度以降1470億円超も削減
さらに、「地域のニーズに応える大学」「分野ごとの研究拠点」「世界トップ大学」に分けたり、大学ごとの“実績”を評価して交付金を傾斜配分する仕組みを導入 ・・(事務作業の増加・研究時間の圧迫、と目先の成果にとらわれた「研究」へ)。
・傾斜配分額 21年度には交付金全体の1割以上、1200億円
傾斜配分額は毎年変動するため安定雇用には使えない / 傾斜配分の評価項目となっている若手研究者比率を上げるため、短期契約で若手研究者を大量に雇う大学も
★逆行の菅政権
・菅政権 6月の「経済財政運営と改革の基本方針」で大学予算の「選択と集中」をさらに強める方向
・科学技術・学術政策研究所 20年報告~ 日本と比べ英国とドイツでは上位層に続く大学の層が厚く、日本全体の研究力向上にとっても上位層に続く層を支援する施策が必要だとする調査結果を発表
・国立大学協会 216月の提言~ 傾斜配分や国立大学の3類型は各大学の多様な特色を損なっていると批判。運営費交付金の増額とともに3類型と傾斜配分の廃止を求めている
国立大学法人運営費交付金についての日本共産党の考え (1)交付金と施設整備費補助金の増額。国立大学の3類型と交付金の傾斜配分の廃止(2)各大学の標準的な経費をもとに交付金を積算し、雇用の不安定化に歯止めをかける(3)財政力の弱い大学に交付金を厚く配分するなど大学間格差を是正する仕組みにする。
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