介護の社会化と家族~ 「ケアラ―支援」の現在地(メモ)
昨年、埼玉県のケアラ―支援条例が策定され、ヤングケアラ―の実態調査をうけ、にわかに「ケアラ―支援」がクローズアップされた。過去、「介護の社会化」を標榜した介護保険は改悪が続き、介護者支援の要求が「家族介護」の強化に回収されるというジレンマを抱えてきたとのこと。
ヤングケアラ―支援は、介護サービスの柔軟な活用という、そうした壁を突き崩す意味合いをもっており、介護者の構成が、介護保険制定時と大きく変容してきた中、ケアを社会全体でどうとらえるのか、コロナ危機を通じてあらためて考える必要がある。前衛の論稿のメモ(斎藤教授のものは政策部分のみ)
【介護の担い手の変容と「ケアラ―支援」の現在地】
津止正敏・立命館大学 前衛21.09
【子ども・若者ケアラ―支援の具体化に向けて】
斎藤真緒・立命館大教授 前衛21.09
【介護の担い手の変容と「ケアラ―支援」の現在地】
■はじめに
・埼玉県ケアラ―支援条例20年2月、神戸市「こども・若者ケアラ―相談窓口」(6名)21年6月/厚労省・文科省がヤングケアラ―支援の共同PTを発足、骨太にも反映
・介護の担い手の変容、政策動向を踏まえ、介護の社会化の内実を構想する
Ⅰ.介護/介護者の変容
(1)介護者の半数以上が「嫁」だった時代
・1968年 居宅ねたきり老人実態調査 70歳以上20万人~介護者 嫁49%、配偶者25.6 %、娘14.3% 9割以上女性
/ 2000年以降、介護保険制度、「介護の社会化」
(2)「新しい介護実態」の登場
- 介護者属性の劇的な変容
・男性 100万人超。同居の主たる介護者の3人に1人(厚労省「国民生活基礎調査」19年)
/総務省「就業構造調査」17年、社会生活基本調査16年 介護者総数及び占有者 37.0%、39.7%~同居、別居、主たる介護者かどうかは区別していない
・女性が「主たる介護者から、「配偶者介護」「実子介護」への移行/夫婦間では1/3が夫、実子ではほぼ半分が息子
・01-19年 国民生活基礎調査 主たる介護者
同居の減少 71.1% → 54.4%
別居の多様化 家族など7.5%→13.6%/事業所9.3%→12.1%/不詳 9.6%→19.6%
高齢化 介護・介護者も共に60歳以上54.4→74.2% 75歳以上18.7%→33.1%
介護者 65歳以上48.6%、75歳24.1%/男性介護者ではさらに顕著
*従来の介護者像/若くて体力があり、介護に専念できる時間があり、自らも役割を当然視している人=専業主婦など
→ 現在、「想定外」の介護者の出現/ 夫、息子等男性介護者とその抱える課題は、シンボリックな存在に
- 介護サービスの一般化
・68年全国調査 特養 全国で5400床(63年老人福祉法制定までは、身寄りのない貧困層の対象にした生活保護法の「養老院」のみ)、20万人の寝たきり老人のうち、19万2千人は家族だけの介護
・介護保険法以降の劇的変化
ヘルパー50万人、介護関連事業所職員300万人超/デイサービス5万数千カ所/施設 特養57万床など100万床
→ 課題は多く残しながらも、介護ケアはユニバーサルな制度として社会的合意を得ている
- 「ながら」という介護の形
・介護に専念し得る家族の消滅。
・実家に通い「ながら」親を介護 ~ 核家族化
・子育てし「ながら」親の介護 ダブるケア ~ 晩婚化
・就学・就活し「ながら」親や祖父母の介護 「ヤングケアラ―」
・自ら通院・通所し「ながら」配偶者、親、子どもを介護 老々介護
・働き「ながら」、配偶者、親の介護する中高年 「働く介護者」
*困難性とともに、仕事と介護の両立、介護漬けにならずにすむという「新しい介護生活」の可能性を開く圧力に
(3) 介護問題の経済化 ~「働く介護」が主流になった
・仕事と介護の両立問題の社会化 ~ 背景に、介護実態の劇的な変容
・2015年、政府「介護離職ゼロ」~政策成果は別にし、経済労働分野で活発な議論に/経団連「仕事と介護の両立支援の一層の充実にむけて--企業における『トモケア』のススメ!」(18年)公表
→ 介護問題が、一挙に経済的課題として回収されることに
・仕事と介護の直面する働く人 346万3千人(17年就業構造基本調査)
~うち、151万5千人が男性 194.8万人 女性 /1年間、家族介護による離職9.9万人
・有業者の介護者の状況
働いている人の5.2%/働いている男性の4.1%、女性の6.7%/働いている50歳代の10.4%
・介護者視点からデータを編成すると驚愕の実態
介護者の55.2%が働いている/男性介護者の65.3%、女性介護者の49.3%が働いている/60歳未満では、男性介護者の85.1%、女性介護者の65.6%が働いている。50歳代の男性介護者の87.5%が働いている
→ 介護離職の主体が、男性・正規労働者も巻き込み拡張化~介護が経済問題化
Ⅱ 「ケアラー支援」の政策的根拠
(1)同居家族がいる場合の「生活援助サービス」の利用制限
・06年の制度改正による厳格化で、支援はがしが問題化/ 厚労省が「機械的適用をしないよう」再三通知が、原則は残存
→ なぜ「制限」か? / 「若くて体力があり、介護に専念できる女性」という介護者モデル ⇔ 過去のもの
・厚労省、文科省 ヤングケアラ―への「家事支援」という方向性 ⇔ 大きな政策的転換
→ ヤングだけでなく、すべての「ながら」ケアラ―に必要不可欠な支援制度として通底/その認識を政府に迫るものに
(2)「高齢者虐待防止法」におれる「養護者支援」
・虐待加害者となった養護者すなわち家族介護者への支援
・圧倒的多数の養護者は、「よき介護者」という人的資源としてのみ期待され位置付けられているだけ
Ⅲ 「介護の社会化」と家族介護
・ 「介護の社会化」を標榜した介護保険~が、利用抑制・縮減ベクトル
→ 「家族介護支援」の主張が、家族の介護責任・役割強化(公的責任の交代)に回収されるジレンマに
・ILO156号「家庭的責任を有する男女労働者の機会及び待遇の均等に関する条約」(家族的責任条約)
→ケアを引き受けながら就労することに対し、差別を受けることなく家族的責任と職業上の責任の両立をはかるため、各種の保護、便宜を提供することを各国政府にもとめたもの/ 日本95年批准
~ ケアを家族の義務という以上に「ケアする権利」とも言うべき保護される生活行為として規範化/家族のケアを排除した 「ケアレスマンモデル」ではなく、ケアを抱合する働き方、暮らし方を当然視する家族像
・ケアラ― /従来の家族介護者(福祉の含み資産、ケアを担うことを当然視された存在)から、支援の対象として、その人権が擁護され、社会政策の表舞台に引き上げられた存在 ~ 例 埼玉県ケアラ―支援条例
・課題~具体的な支援策。投入し得る社会資源の在り様
【子ども・若者ケアラ―支援の具体化に向けて】
斎藤真緒・立命館大教授
〇埼玉県の実態調査 全高校生対象 ケアラー4.1%
・開始時期 中学 34.9%、小学校 20.1% 高校 19.5%/小学1-3年12.1%、小学前7.5%
・影響 「孤独感じる」19.3%、
ケア時間 4時間超「勉強時間がとれない」「友人と遊べない」「ストレス」「睡眠不足」「体がだるい」の割合が高い
・話せる人がいない25.4%。/家族のことで話せない、との回答も高い
・望むサホート相談先16.0%、信頼でき見守ってくれる大人14.5%、勉強のサポート13.2%、被介護者の状況説明12.5%
〇厚労省全国調査 20.12 中学2年5.7%、高校2年4.1%
半数が「影響がない」、平均7時間以上のケアが1割
・定時高校 8.5%/通信制高校11.0% 入学理由 家族の世話、介護と両立しやすい18.4% ケア頻度・時間とも高い
〇お手伝いとの違い 勉学・部活と両立可能か、「やらなくてもよい」という選択肢がどの程度保障されているか
1.国・地方自治体での支援の動向
・厚労省文科省PTの支援策
学校・福祉・地域における早期発見・把握/ ピアサポートの充実、SSWの重点配置、福祉サービスの柔軟な適用 /社会的認知度の向上
・「子供・若者育成支援推進大綱」(21年4月)~ 基本方針の1つ「困難を有する子供・若者やその家族の支援」の中に、ヤングケアラ―支援を明記
・神戸市 21年6月、子ども・若者ケアラ―に特化した相談窓口設置/ 社会福祉士、精神保健福祉士など専門職6人配置
→ 18歳による制度の断絶の克服を意識した取り組み
*現在の対策~すでに発生し、「過度に」なっている子ども・他もの円の負担軽減。事後的対策
~イギリス ケアが発生した当初から、家族全体への支援を視野に入れたアプローチ/予防的かつ継続的対応
2. 当事者を真ん中に据えた取り組み
・第三回世界ヤングケアラ―カンファレンス/21年5月、20か国の当事者、政策立案者、研究者の参加。100以上の報告
~今回のテーマ 「ヤングケアラ―を発見し、支援し、声を聴くこと」
→前回のテーマ「ヤングケアラ―の権利」/ケア責任を担っていない子ども・若者と同等の権利があることを主眼 が、権利実現のためには、大人が一方的に支援の在り方を考えるのではなく、まず当事者の声をきちんと聴く必要がある
・家族のことを第三者に相談することに、高いハードル/ 一方的な「苦労している子ども」という報道の在り方
→ 「そんなに苦労してない」とう程度によるケアラ―内部の分断、憐みの対象として見られたくないという思いから本音を封印する例など
・ケアにつきもの ~ 最も身近な関係性において、自分が変えられることと変えられないことを理路整然と冷静に切り分けることの困難性、家族故の不安と葛藤、ケアについての前向きと後ろ向きの気持ちの揺れ 困難が続くと感情をマヒさせることでしかケアに向き合えない状態などなど
→ 声をきちんと聴かれる権利であり、「ただ気持ちを聞いてほしい」ことが切実な願い
→「私たち抜きに私たちのことを決めないで」という考えは、あらゆる施策の具体化の基本
3. ケアラ―支援条例のひろがり
・最も懸念される点/ 国、自治体のヤングケアラ―支援が、年齢によるケアラ―の分断を発生させる危険性
→ 大人はケアを担うべき存在として、現在多くの家族が直面している負担が隠蔽されることがあってはならない
・すべてのケアラ―が支援されるべき存在との社会的認知の拡大が重要/ 「ケアラ―支援条例」への注目
埼玉県の条例 基本的理念 「ケアラ―支援は、全てのケアラ―が個人として尊重され、健康で文化的な生活を営むことができるように行わなければならない」(3条1項)とし、3項で「ヤングケアラ―支援」も明記
・ ケアラ―を個人として尊重される ⇒ ケアが社会構造の中で、どのように配置されているか、という視点が極めて重要
⇔ 家族による「自助」を基本とした体制/ 生活領域、特に経済活動・政治活動から意図的にケアを排除する仕組みにある ~ 職場、議会など社会の表舞台(公的領域)は、効率性、合理性、競争といった価値観が重視され、ケアレスな状態まま
・ケアレス社会を問い直す /ケアを第三者に押しつけることができる特権的な地位にある者だけが、政治、経済の中心にい続ける社会の在り様
・ケアラ―支援 /負担軽減だけが前景化しがち
⇔ が、みな脆弱であるという人間のリアリティ、命・生活に直結するケアという活動はどんな人にも本来無関係ではいられない/ 「ケアの政治」に求められる視点=ケアを社会全体で育み尊重する文化の醸成であり自助の強化とは相いれない
★ケアフルな社会~ ケアを通じての成長
イギリス ヤングケアラ―アクションデー(21.3.16) 「マイ・ヤングケアラ―・スキル」カードの取組
~自分たちの存在だけでなく、ケアを通じて成長についても知ってもらう活動/「人の話を聞く力」「忍耐力」「問題解決能力」「自分で決める力」「自分の感情をしっかり把握している」「自信をもって大人と話せる」など、ケアを通じて獲得した様々なスキルをアピール~ ケアを通じた人間的成長も社会の中で正当に評価する取り組み
→ あらゆる人の命と生活を早朝する、ケアフルで持続的な社会
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