SDGsを問う 市場原理か、社会変革か、あらたな闘いの舞台(メモ)
経済2021.07 「SDGsが問うもの」から、3本の論稿のメモ。
「企業・経済の変革とSDGs」 小栗崇資 駒沢大名誉教授
「環境危機とSDGs 大量生産・消費・廃棄社会の転換」 上園昌武・北海学園大教授
「SDGsと開発イデオロギー 途上国の視点から」 太田和宏・神戸大教授
SDGsは、基本的に、新自由主義路線にそった市場原理をグローバルな規模でさらに推し進めながら、貧困・格差・環境破壊・社会排除・不安定秩序の問題に対処しようとするもの。一方、SDGsが、途上国、各地の周辺化された人々の直面する多様な喫緊の課題を含んでいるのは、地道な言説闘争の成果であり、NGO、市民社会が巨大な役割を果たしてきた。
SDGsでは曖昧にされた貧困・格差、環境破壊の原因と責任を明確にさせ、問題解決となる制度の構築(グローバタックスなども)とともに、企業にもグローバル社会の一員として責任を課す「グローバルコンパクト」などの遵守を迫る国際世論、消費・投資動向による誘導など、「世界を変革する」ために、活かしていくことが求められる(よく知らない分野で小栗論文、太田論文は興味深かった)。
その前提には、気候危機対応、フードシステムの転換・・・プラネタリーバウンダリーにとって決定的な10年間という認識が不可欠だが・・・
■ 企業・経済の変革とSDGs 小栗崇資 駒沢大名誉教授
SDGs・・・取り組み如何では、企業と経済の変革を促進することが可能であり、議論を深める必要があり、そのためにはSDGSについての正確な理解の共有が重要/本稿は、経済・経営の観点から、理解、取組方について検討し方向性を考える
Ⅰ.SDGsの経緯と背景
① 国連の戦略転換
・創設以来、先進国と途上国の対立に直面。途上国の開発問題にとりくんできた。特に多国籍企業の規制は重要な課題に
・アナン事務局長による企業、投資家の包摂策/99年ダボス会議「世界市場を、単なる短期的利潤追求の場にするのか、それとも人間の顔を持ったものにするのか」と、企業経営者への協力を呼びかけ
→企業、投資家と一線を隠していた戦略から、取り込む戦略への転換
②MDGs グローバルコンパクト PRI
・00年設定のミレニアム開発目標とグローバルコンパクト
途上国における開発と貧困撲滅をめざすものとして世界が合意/その実現の条件を支えるものが「グローバルコンパクト」・・「コンパクト」(誓約)/人権と労働権の尊重、雇用差別の撤廃、環境への責任、腐敗防止など10の原則の実行を近い、署名入りの書簡を国連事務総長に提出。企業の参加を促す活動
⇔ 目標実現には、企業や資本市場での取り組みが不可欠/SDGsでも重要な要素として引き継がれる
・PRI(国連責任投資原則) 06年
グローバルコンパクトは企業に協力を求めるもの/PRIは、資本主義の本丸・機関投資家に協力を求めるもの
⇔投資の6つの原則/EGS 社会的責任を果たすため、環境、社会、ガバナンスを考慮した投資を求め、署名を通じ参加
③ ビジネスと人権の取組
・グローバルコンパクト、PRI…自発性にもとづくもの。無責任・有害の行動はなくならず、住民・地域社会と多国籍企業の対立は、次第に人権をめぐる問題を中心とするようになる
・この問題にとりくんだのが、国臨事務総長の特別代表・ジョン・ラギー・ハーバード大教授
→ 強制か自発的取組かの対立的な議論/ラギーは法的強制とは異なる規範的枠組みを提示し、企業の自発性を引出す実践的なガイドラインを提示、合意に/11年「ビジネスと人間に関する指導原則」 国連人権理事会で全会一致の推奨を得る
④ 人権デューデリジェンス
・「指導原理」・・・人権を保障する国に義務、人権を尊重する企業の責務など31の原則。人権デューデリジェンスがその核心
・デュー 義務、デリジェンス 努力。 適正な調査・対応を意味する言葉~ビジネスにおける人権尊重へ企業を導いていくための、実践的かつ達成可能なアプローチ
→企業がもたらす人権への有害な影響をリストとし評価・管理、適切に対処する企業行動を求めもの/変革を促す方策に
・「指導原理」を契機に、国際条約への動き/20年、第二次案が提示
→ 多国籍企業の規制をめざす国際条約化への動きは、画期的な段階にはぃつてる
*2015年SDGsの提起/そこにはMDGsから続く、企業と資本市場の変革を促す様々な取り組みが集約されている
Ⅱ SDGsとは何か 特質と問題点
・MDGsが、国連専門家、先進国主導であった反省から、政府、企業、市民などの参加。5つの地域グルーブにより準備
・途上国、先進国問わず、全世界が直面する問題の解決を課題とするものとして検討
→ 国連の全加盟国の賛成による全世界が合意するはじめての目標として決定/歴史的意義を持つ重要な特質
① 世界変革目標としてのSDGs ~ 第一の特徴
・SDGsを提起した「2030アジェンダ」・・・正式名「我々が世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」
→ 単なる変化でなく、構造転換という意味が込められている/2030アジェンダ ⇔「世界変革宣言」
・SDGsの理解にはアジェンダを読まないといけない/「目指すべき世界像」が書かれている(パラグラフ7.8.9)。
「すべての人生が栄える、貧困、飢餓、病気及び 欠乏から自由な世界」「我々は、恐怖と暴力から自由な世界」
「人権、人の尊厳、法の支配、正義、平等及び差別のないことに対して普遍的な尊重がなされる世界」
「持続可能な経済成長 と 働きがいのある人間らしい仕事を享受できる世界」
として示され、そのもとに具体的な世界像が列挙/ 長年の人類の夢が描かれている/宣言の具体化としてSDGs
② 経済・社会・環境を統合した包括的な目標 ~ 第二の特徴
・17の目標と169のターゲットは、(アジェンダ前文)「統合され不可分のものであり、持続可能な開発の3側面、すなわち経済、社会及び環境の三側面を調和させるもの」/それぞれの目標追求は、一体として「目指すべき世界増」に迫っていくべきもの
・包括的な目標は、国家、企業、市民社会すべての構成員の目標であり、「誰一人とりのこさない」の言葉はその象徴
③ SDGsの問題点
・妥協の産物/平和の目標に「核兵器廃絶」はない/エネルギーの目標に原発問題は触れられてないなど
→全加盟国の合意を得るため、結果として不透明であいまいな部分が存在
・日本学術会議 134の提言、その中で「完全雇用と人間らしい労働環境の実現が、規制緩和と自由な経済活動により促進されるという市場主義的発想が入り込んでいる」と批判/ ニューズウイーク SDGsの実現を測定する指標が、富裕国ほど点数が高くなるような開発優先、環境軽視になっていると批判し、見直しの必要を主張
*SDGs・・・目標のみの設定で、どのように取り組むかは各主体の自由にゆだねられており、曖昧な部分を都合よく解釈する余地がある / 不透明な部分を批判し、改善を図らなければならず、見かけだけの取組「SDGsウオッシュ」を批判し、なくしていかなくてはならない
Ⅲ SDGsが企業・経済に求めるもの
① SDGsコンパス
・アジェンダは、SDGsの重要な担い手としての貢献を企業に求めている
~国連GCは、GRI(グローバルレボーディングイニシアチブ)、WBCSD(持続的開発のための世界経済人会議)と共同で、2016年「SDGsコンパス」・・・企業の行動指針を公表。企業に協力を呼びかけ
・SDGsコンパスの目的/ SDGsを経営戦略と整合させ、SDGsへの貢献を測定し管理していくかに関する指針の提供
~SDGsが新たなビジネスチャンスを提供するものとアピール/SDGsを利用することの「多様なメリット」を示している点に特徴があるが、一面だけをとりあげた都合のよい理解を生み出している
② 人間の遵守とステークホルダーのための経営
・コンパス…SDGsの経営戦略化だけでなく/ 法令順守し、優先課題として基本的人権の侵害に対処する責任を認識することを、企業行動の前提として求めている
(メモ者 コンプライアンスについて「法令順守」と訳されるが、「社会の必要に応える」という意味が大きいとの指摘。郷原)
→「企業にとって得になろうとコストになろうと、人権を侵害するような影響やリスクには、何においても対処されるべきである」と述べ、ILO、多国籍業3者宣言、GC、ビジネスと人権に関する指導原則などを指針とすべきとしている
・コンパスの示すステークホルダー・・・ 顧客、従業員。女性、子ども、先住民、移住労働者など不利な立場・疎外されている人々。将来の世代、生態系など自ら見解を明確にでないもの。
Ⅳ EUを中心としたSDGsの取組
① EU人権デューデリジェンス法案
・欧米での法制化の動き/15年、英・現在奴隷法、17年、仏・人権D法、19年、豪・現代奴隷法、蘭・児童労働人権D法
・EU全体での21年度に法制化の動き⇔ 自発性の取組から、一気に強制的な適用への進むことに/法案は「環境のリスクは人権のリスクと密接に結びついている」と、人権とともに環境への責任を義務付けている。企業正義と環境正義
② EGG情報の開示
・14年、非財務報告指令 PRIで提起されたESGに関する情報の報告を企業に要請するもの
⇔ 環境、社会、従業員、人権尊重、腐敗防止の関する情報、取締役会の多様性 /気候変動の取組も追加の検討中
・EUタクソノミー 20年6月制定。気候中立への目標を達成するための情報開示策
⇔数年内に、基準の統一化と義務化へ進むことが予想される
③ ステークホルダー資本主義の提起
・SDGsに呼応し、欧米での重要な動き/ 株主資本主義からの脱却
・19年8月、米経営者団体ビジネス・ラウンド・テーブル声明/株主第一主義を見直し、すべての利害関係者の利益に配慮することを宣言 /新自由主義のもと、格差拡大への批判の高まりを反映
・20年1月、世界経済フォーラム 73年創立のマニュフェストに「公平な課税、反汚職、役員報酬、人権の尊重を含め、現代において重要な問題に言及するステークホルダー資本主義のビジョンを示す」と改定
⇔ コロナ危機のもと経済の在り方の新たな展望を与えるもの
・ステークホルダーのためのガバナンスへの改革/従業員に声を経営に反映させる仕組みの導入
⇔英18年、会社法上のガバナンスコード改訂 ①従業員代表を取締役にする ②従業員諮問会議の設置 ③従業員との対話を担当する執行取締役を置く、のうち1つ以上の実施を義務付け
*EUの取組は積極的かつ広範/ SDGs達成度の上位に北欧な欧州勢が占めている
Ⅴ 日本の取組の問題点
① 日本政府のとりくみ概要 3つの柱、8つの優先課題
② 問題点~ 世界のSDGsの取組と異質なもの
- 基本骨格となる目標から大きく乖離 /貧困・格差・不平等を是正する重要な目標が欠落
21年度APの総論部分で「貧困、格差解消」の目標なく。各論の具体的取り組みでは「貧困・格差解消に資する社会保障制度の措置等」「子供の貧困対策推進」なついて、予算計上のない一般的方針しかない。
- 企業や地方における科学技術イノベーションについての目標に歪曲
企業のビジネス、DX等の目標にすり替えており、変革抜きの「デジタル化」に矮小化/経団連の目標と一体化
地方創生もスーパーシティ、スマートシティ構想など「デジタル化」
政府全体の推進策がないに等しい/各省庁の毎年の施策を、8つの優先課題に振り分けたのみ
⇔例えば、子ども、女性、高齢者の貧困をいつまでにどのような方策でなくしていくかの目標はどこにもない
- 日本政府に求められるSDGs政策
・ 計画的な目標もなく、外務省を窓口にする連絡会議的な組織のままで、実質的に法的な枠組みもない
・「世界を変革する」のがSDGsの目標だが、日本のものは、SDGsウオッシュに堕しかねない
Ⅵ 企業・経済の変革とSDGs
・「世界の変革」をめざすSDGsは、「企業の変革」、「経済の変革」を必要/企業の先進的な取り組みが求められている
・自発性だけでなく、EUのような法的・規範的規制が不可欠
⇔人権D法、ESG情報開示の義務化、ガバナンスの転換が必要
◆おわりに
・SDGs・・・弱点をもつが、その改善を図りつつ、SDGsを「世界変革」の大義として位置づけ、その実現に取り組むことが求められる。/疑義や批判は、SDGsウオッシュにこそ向ける必要がある。特に日本のSDGs
・企業・経済の変革をどのように理論的にとらえ、どのような方策、政策によって進めていくべきかという問題については、SDGsの実現と関連づけの研究が必要
(メモ者 現代の「変革主体」をどうとらえるか、形成するか、の探求は重要)
■ 環境危機とSDGs 大量生産・消費・廃棄社会の転換 上園昌武・北海学園大教授
Ⅰ 大量生産・消費・廃棄の環境破壊
・世界のエコロジカル・フットプリント ・・・70年代以降、バイオキャパシティを超過/2017年。1.73倍
・日本 エコロジカル・フットプリントを世界標準と仮定した場合、3倍を上回る /化石燃料の消費によるカーボンフットプリントが全体の7割を占める~先進国共通の特徴。脱炭素社会の遺構が急がれる理由
・現代の経済システムがもたらす環境危機
① マテリアル問題
金属、プラなど化学製品・・・採掘、採種、工場生産、流通、消費、廃棄の各段階で環境負荷を発生/製品の背後にある負荷
・自動車 1トンの車は、その数十倍の環境負荷は発生/長寿命化、解体・分解の簡素化、リサイクルが求められる
・2050年、海中のプラゴミは、海中に生息する魚の量を上回る予測(WWF) 生物内に取り込まれるマイクロプラスチック
②食糧問題
・原生林、原野を切り開き「緑の革命」で農薬、化学肥料を大量投入し、生産性を高める収奪型農法が拡大
~化学物質、過剰な灌漑により、汚染・物質循環のかく乱、塩類集積で生産性が低下、放棄された土地が拡大/モノカルチャー、プランテーションは、自給自足型のコミュなティを破壊、アグリビジネスの労働者におとしめ貧困を拡大
・フェアトレードの取組の広がりはあるが、一次産品貿易全体では僅か。構造的問題の解消には程遠い
・大量の食品ロス 年13億t(日本 17年612万t) 農水省2020
世界の9人に1人が飢餓/が、全ての食料を公平に分配すると飢餓が解消/ 先進国でもフードバンク、子ども食堂
⇔ 富の再廃部機能の是正が不可欠
③エネルギー問題
・化石燃料消費による気候危機/先進国の大きな責任
~累積排出量/EU・米 47%(our world in data 2021)/90‐17年と1750-90年の累積排出量はほぼ同じ
中国12.7%、ロ6%、日本4%、南米3%、アフリカ3%
・バリ協定 産業革命より1.5度以内。現状1度上昇。排出量2030年1/2、2050年ゼロ。/特に2030年「未来の分岐」
日本 2030年、13年レベルから62%の削減が必要と推計(CAT2021)
日本の計画は、改善された石炭火力発電(7%減ほど)のリプレイス、原発稼働に依存。再エネ抑制路線
⇔G7でも石炭火力廃止に抵抗。また原発関連施設の受け入れに交付金出す方法は欧米ではない。民主主義を棄損
Ⅱ 環境危機の構造的要因
・産業革命まで、自然は無限に存在し、タダで利用できるものと見なされた。規模・有害性も小さく自然の浄化作用で修復
(メモ者 マルクス、エンゲルス 人間と自然との物質代謝の攪乱、自然の復讐)
・急速な経済成長で環境問題が顕在化 ローマクラブ「成長の限界」(72年)/日本 60年代後半 4大公害闘争
・現在の課題 ▼大量生産・・・著しく進歩した工業技術、「緑の革命」による大規模収奪型の農業、グローバルな巨大流通、それを支える膨大なエネルギー供給。▼大量消費・・・消費社会の拡大、広告・マーケッティングによる需要喚起
⇔ 市場経済では、モノは需要より多く生産(メモ者 選択の自由=「売れること」を目指す競争の結果)/売れ残りの発生
▼大量廃棄・・・廃棄処理コストを無視した生産、流通が生み出す構造的必然/その対策として、OECD 拡大生産者責任の提唱、日本でも各種のリサイクル法の制定 ⇔ が、持続可能なシステムにはほど遠い
→ 環境問題など外部不経済を無視・軽視してきた結果、「市場の失敗」
・公害、環境問題の被害者は、社会的弱者(+将来世代)に集中⇔不正義の存在/SDGs達成には環境正義の確立が必須だが、現在の環境政策では扱いが極めて小さい
Ⅲ エネルギー自立地域づくりへの転換
・21年改定の「エネ基本計画」・ 原発、石炭火力固執。また、実用化・環境負荷が懸念される水素、アンモニア産業、CO2回収・再利用など「革新的技術開発」が「成長戦略」の柱に。
・ドイツ、オーストリアなど/ 省エネ推進と再エネ100%の地域づくりを推進 ⇔ 環境対策だけでなく、地域社会の発展、生活の質の向上を包含する社会変革運動/公平な社会を構築とリンク(メモ者 エネルギーデモクラシー)
・オーストリア 中間支援組織による地域づくりが力を発揮/自治体、地域の取組のネックとなっている「知恵や知見」「人材確保・育成」「資金調達」の課題に対し、レベル別の支援プログラムを用意し支援。3つの課題に対し外部の力をかりながらも、住民参加で事業を推進 (エネルギー自立と持続可能な地域づくり 環境先進国オーストリアに学ぶ 2021)
・環境政策の深化
カーボンプライシング(CO2への価値づけ) 環境コストの内部化(メモ 市場メカニズムを通じての制御)
サーキュラーエコノミー、シェアリングエコノミー モノと情報の共有化という点で「コモン」の要素を持つ/ドイツのシュタットベルゲ(自治体公社)、エネルギー協同組合は、エネルギーの「共有化」
・日本/ 「環境モデル都市」「SDGs未来都市」など、成果を収めた自治体への助成金などで支援する「トップランナー方式」であり、取り組みの遅れた自治体は放置にひとしい。「どの自治体、地域もとりのこさない」支援策になっていない
*大事な視点
- エネルギー政策/市町村、地域レベルのミクロ経済の発展を重視/地域経済循環の拡大
- 民主主義社会の追求/民主主義は、基本的人権に根差した社会/ 環境問題における市民の権利を保障するオーフス条約の3つの権利/「情報のアクセス」「意志決定への参加」「司法へのアクセス=裁判を受ける権利」、環境政策の予防原則の徹底化が不可欠
Ⅳ 生活の質の向上と公平な社会への転換
① 省エネ対策の重要性
・それは「我慢を強いる個人努力」ではない。そんなものは持続し、効果も限界がある
・エネルギー効率を改善し、生活の質を向上させるもの
省エネ住宅~水光熱費削減による貧困の緩和、地域産業、雇用の創出などなど
ZEH(ゼロ・エネ・ハウス ゼッチ) 政府 2030年にハウスメーカーの新築住宅の半分をゼッチに
・日本の課題 基準(日本二重窓、ドイツ三重窓)と支援策の強化(メモ者 公営住宅のゼッチ化)
②エネルギー貧困問題
・欧州では、重要な気候変動対策に位置づけ/日本では、政策課題でもなく、実態も把握されてない
・欧州の調査 低所得者、社会的弱者は、断熱性能の低い賃貸住宅に
英 寒い住宅は基本的人権を侵害と見なしている。公営・社会住宅を断熱改修する取り組み
オーストリア 21年、建物の新築・改修時に、化石燃料による暖房の設置の禁止、断熱化を推進
・断熱改修を、地域協働で取れ組めば、地域経済を寄与し、持続可能な地域づくりにつながる/ 日本では、まずエネルギー貧困調査の実施が求められる
おわりに
・脱炭素社会への以降。3つの視点
- 気候危機対策は、都市・地域再生の手段として位置付ける~少子高齢化、人口減、地方衰退という直面する深刻な課題に対し、社会構造改革という理念(持続可能性、生活の質の向上、公平性)にもとづく地域再生としてとりくむ必要
- 安全で豊かな暮らしの実現をもとめるもの
断熱性の強化は、エネルギー貧困をなくし、居住快適性を高めるもの
・中間支援組織を活かし、住民参加で地域の脱炭素社会を構築していく
■SDGsと開発イデオロギー 途上国の視点から 太田和宏・神戸大教授
Ⅰ.SDGsと市場主義
・SDGsはMDGsと対比して2点に於いて大きくことなる
①先進国を含む全世界の課題として提起。イノベーション、生活スタイル、平和と秩序など新課題も入った
その背景は、この間の先進国の苦悩/2000年以降、新自由主義の矛盾の深化/リーマンショック、欧州ソブリン危機、その解決策としての緊急機関救済と緊縮財政などによる貧困と格差の拡大。以前からあった矛盾に追い打ち~世界は経済的困難に、インフラ開発、イノベーション、グリーン経済等で活路を見出そうとしたことが反映
② 市場主義が明確に反映
経済苦境の打開策として、新しい市場の創出と開拓が喫緊の課題と認識されている
インフラ開発・・途上国の物理的インフラだけでなく、バリューチェーン、金融制度ふくめたグローバル経済の新しい展開を支える基盤整備(目標9)、/環境分野では、再生エネ、代替技術開発を目指す一方(目標7)、生態系保全に言及しつつも主眼は「持続可能な利用」「資源を利用し市場に参入」することを促す点(目標14.15)、医療サービスの提供、医療制度の充実をあげている(目標3)が、今や、医薬品医療関連インフラは巨大市場を形成
⇔ 社会的課題に対し、企業活動、市場原理で取り組む姿勢を明確にしている点に大きな特徴
Ⅱ.SDGsをめぐる「言説闘争」
・言説闘争…社会にどんな問題が存在するか、いかに対応するか、を含めで議論を戦わせ、政策判断、実践活動に反映させていくこと。社会の方向性に影響を与えてく ⇔ SDGsは、その言説闘争の結果として採択された
・2つの組織り発足
OWG(2012、環境サミット時に結成、MDGs後の目標制定に関する「公開作業グループ」)
途上国、市民運動の意見を強く反映する傾向、従来の課題、取り組みの狭さに批判的
HLP(2011藩事務総長が設置 「ポスト2015賢人上級委員会」)
先進国の意見をより反映する傾向
・視点の違い OWG 貧困格差など、構造的制度的背景をもって生じた/ HLP 取組の在り方と執行の徹底の問題
・「不平等問題」をめぐる対立 OWGは、新たに「不平等格差問題の項目化」を主張 /HLP 貧困、教育、ジェンダーなど個別領域の具体的項目に実質的に反映されており、独立項目は必要ない、と主張
⇔リーマンショック後の格差・貧困問題めぐる世界世論を反映し、独立項目に。
・次の対立 「不平等の計測基準」 ~最終的に「所得下位層40%の所得の伸び率が国内平均所得伸び率を上回る」
⇔ ジニ係数、所得上位10%と下位40%の富を比較する「パルマ係数」の主張は取り入れられず。最大の焦点の1つ超富裕層への極端な富の集中を不問にする基準に
・既得権益に踏み込まない巧妙な仕組み
①国際的な富の不平等の是正を目標にしながら、基準や是正の方向性を曖昧なものとした/不平等の原因には、なんら触れていない実態とも整合したものに
②目標達成の責任主体が不明確/「全ての主体が協力し行動を」という呼びかけは、耳には優しいが、誰にも規制がかからず、義務が生じない事態を招きうる。(一部だけを取り上げ「行動」をアピールするSDGsウオッシュの足場に)
Ⅲ 貧困と不平等の現状
(1)貧困の実態
・国連2020年報告 貧困線以下の人口 15年 10.0%、19年8.2%。このペースでは30年6.0%。コロナ禍で20年8.8%に
90年代、半分近くが貧困線以下だった現状と比べると確実に削減したように見える。が、事態は複雑
① 地域による差 90年代の成果は主としてアジアで実現、
93年以降貧困から抜け出した12億人のうち9.7億人は中国、インド
サハラ以南アメリカは、貧困率60%から17年40%に下がっただけ。人口増のため実数で3.4億人から4.3億人へ増加
② 貧困基準設定の問題 見える世界が違ってくる
現在、国際機関の貧困基準 1日一人あたり1.9ドル(購買力平価) /2015年1.25ドル、05年1ドル
~この数字は、最貧国15か国の実態を前提にした数字/経済レベル・物価水準の高い国では低すぎで実態を反映しない
⇔よって、国連報告でも 13年時点の1.9ドル貧困者 7.7億人まで減少したが、一方1.9ドル以上10ドル未満の低所得者層40億人と世界の半数以上を占めていることに触れられている
・世界銀行 3.2ドル貧困水準で各国の割合を算出 。1.9ドル貧困層、3.2ドル貧困数の比較では
エチオピア 32.6%、70.5% 2015年
リベリア 44.4%、75.6% 2016年
ジンバブエ 33.9%、61.0% 2017年
~ 貧困基準の設定の仕方で、現状認識を大きく操作することが可能
(2)不平等の実態
・00年 上位10% 世界の富の83.2%、1%が40.2%保有、下位50%の富は1.1%(国連大学世界開発経済研究所報告 )
・19年 100万ドル以上の資産をもつ5190万人(成人の1.0%)が富の43.4%、10万ドル以上100万ドル未満の5.9億人(〃11.4%)が40.5%を保有。上位12.4%で83.9%の富を保有 (投資会社久礼デュ・スイス)
⇔ 20年間でほとんど変化なし。/下位40%の所得成長率のみに焦点を当てても深刻な不平等の改善は期待できない
Ⅳ 開発イデオロギー
・SDGs、国際開発政策の主流・・・貧困、格差、環境などの根本原因に触れず、従来の制度、政策、取組を前提として対処しようとしている/加えて既得権益には手を加えず、ODAなどの資金移転(メモ者 援助国の企業の利益確保の面も)で対応。
・さらに、SDGsは、貧困、医療、環境などの分野に市場を創出し、民間企業にインセンティブを促しながら、問題解決と利益追求を両立させる方向性を制度化。
・SDGs・・・葛藤と妥協がありつつ、国、企業、市民社会、個人が様々な形で意見を表明する機会が保障され、最終的には国連総会で採択。「世界の創意」として決定した形
⇔現在の政治経済構造を追認し、市場原理をもって、さらなるインフラ開発、字術革新、経済成長を目指す「開発イデオロギー」が世界的に定式化されたのがSDGs
・SDGsの背景にある思想、価値を問い直し批判する「脱成長」「脱開発」の主張 /90年代から存在していたが、近代のグローバル化のもと、途上国の現状を観察する研究者から共鳴する主張が広がっている
→ 外部から持ち込まれる経済利益追求型の巨大開発事業、当事者や現地の主体性を軽視した新しい社会制度の導入など、生活基盤の破壊、社会的軋轢など深刻に問題に
⇔ こうした「開発イデオロギー」に対し、地域や住民が主体的に、自らの生活形態、社会の方向性を選択しうる環境をつくること、多様な社会が共存する多元的世界を主張
・この主張は、諸矛盾に直面する途上国では説得的だとしても、先進国を含め世界の合意を得るのは難しいように見える/が、2010年以降、むしろ先進国から同様の論調が次々と・・・
スティグリッツ、センなどノーベル経済学賞者が経済指標にだけとらわれない生活の豊かさの捉え方を提案 2010年/ OECD 生活の質、社会参加の在り方など「より豊かな生活指標」を提示 2011年 /2012年 国連 頼るべき人の存在、生活の滋養度、寛容性の程度など「幸福指数」の報告書
⇔ あくなき経済成長・利潤追求を求める開発イデオロギーに対する疑念・批判/グローバル資本主義の矛盾が発するもの
おわりに SDGsに、どう対していくか
・SDGs 基本的に、新自由主義路線にそった市場原理をグローバルな規模でさらに推し進めながら、貧困・格差・環境破壊・社会排除・不安定秩序の問題に対処しようとするもの
⇔ 問題の原因分析もなく、既得権益に手を加えず、規制の枠組みを持たず、問題解決につながるか疑問符がつく
・が、SDGsは、策定過程で、さまざまな主体による言説闘争があった。それ以前にも、環境、人種、社会開発、食料など各種のサミットで議論をつみかさねてきた/その過程では、NGO、市民社会の積極的な問題提起や市民組織だけで世界フォーラムなどを開催など市民社会の巨大な力が発揮
⇔SDGsが、途上国、各地の周辺化された人々の直面する多様な喫緊の課題を含んでいるのは、地道な言説闘争の成果
⇔対処療法的であってもSDGsに掲げられた喫緊の課題に、積極的に関与することが重要/ 一方、言説闘争の結果であることも忘れず、批判的な視点を持ち続け関与すること。
⇔ 諸課題の根本原因はなにか、責任主体は誰か、目標達成にどんな具体的な措置が必要か/明確にする関与が重要
★問題可決には、経済の中心を担い、問題の原因に関与している企業の関与が必須
⇔そのためには問題の解決につながる制度、仕組みを追求することと、/企業にもグローバル社会の一員として責任を課す「グローバルコンパクト」などの遵守を迫る国際世論を形成していくこと。人々の意向をより反映させる制度の構築していくこと
★SDGsを、確定された政策枠組みと捉えず、さらなる言説闘争の場として位置づけ、むしろSDGsを戦略的に利用しながら問題解決のツールとして利用していくこと
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