子どもの精神的幸福度 日本37位/38国 ユニセフ~ 格差の底辺いる子どもの状況改善を
昨年9月発表されたユニセフ・イノチェンティ レポートカード 16「子どもたちに影響する世界:先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か」。2月に日本語訳が出で、その後、貧困研究の阿部彩さんが解説をしている。
・子どもの精神的幸福度やいじめに遭う確率も、子どもの経済状況に左右されている。
・2つ前のレポートは「格差」。日本は 41 カ国中 32 位。先進諸国の中で、国内での格差が大きい国のひとつ
・「すぐに友達ができる」と答えた子どもの割合は、日本はチリに次いで 2 番目に低く
・家族関連の社会支出の GDP 比 日本は下から 8 番目。子どもが幸福となる土台を作ってきていない
・就学1年前の保育所・幼稚園などの通所率。日本は7番目。
・健康分野 低出生体重児(2500グラム未満)の割合が、下から2番目
・各分野で、上位と下位が混在するパラドックスが存在。低所得層での困難が大きい。格差の底辺いる子どもの状況改善を
【ユニセフ・イノチェンティ レポートカード 16 子どもたちに影響する世界:先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か 【解説】日本の子どもに関する結果 】
【コメント:ユニセフ・イノチェンティ レポートカード 16 について 阿部 彩3/30】
【日本の子供の精神的幸福度は38か国中37位 ユニセフ「レポートカード16」で「子どもたちの幸福度ランキング」を発表
【ユニセフ・イノチェンティ レポートカード 16
子どもたちに影響する世界:先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か 【解説】日本の子どもに関する結果 】
レポートカード 16 は、子どもの幸福度を、多層的・多面的な新しいモデルを使って分析しました(本文 p.6 図 1)。いちばん外側から、全般的な国の状況→子どものための政策→家庭や地域の資源→保護者の職場・学校・地域とのネットワーク→子ども自身の人間関係→子ども自身の行動があり、真ん中の、子どもの幸福度の結果に影響すると考えました。
よい子ども時代とは何でしょうか。レポートカード 16 では、それを、精神的幸福度、身体的健康、スキルの 3つの側面から考え、それぞれ 2つずつの指標で分析しました。精神的幸福度については、ポジティブな面の指標として、生活満足度、ネガティブな指標として自殺率を使いました。身体的健康では、子どもの死亡率、そして、先進国における栄養不良を表す肥満率に注目しました。スキルについては、子どもたちが高い学力をもつだけでは不十分と考え、学力と社会的スキルを同じ比重で分析しました。
◆日本の子どもの幸福度
日本は子どもの幸福度(結果)の総合順位で 20 位でした(38 カ国中)。しかし分野ごとの内訳をみると、両極端な結果が混在する「パラドックス」ともいえる結果です。
身体的健康は 1 位でありながら、精神的幸福度は 37 位という最下位に近い結果となりました。また、スキルは 27位でしたが、その内訳をみると、2つの指標の順位は両極端です。
【子どもの幸福度の結果:日本の分野別順位】
<総合順位は 20 位> ( 分野/指標)
・精神的幸福度 (37 位) 生活満足度が高い 15 歳の割合、15 ~ 19 歳の自殺率
・身体的健康 (1 位) 5 ~ 14 歳の死亡率、5 ~ 19 歳の過体重 / 肥満の割合
・スキル (27 位) 数学・読解力で基礎的習熟度に達している 15 歳の割合、社会的スキルを身につけている 15 歳の割合
【精神的幸福度】
日本は、生活に満足していると答えた子どもの割合が最も低い国の一つでした。生活全般への満足度を 0 から 10 までの数字で表す設問で、6 以上と答えた子どもは、日本では 62% のみでした(本文 p.12 図 4)。6以上ですから、それほど高いレベルではないはずなのですが、62% だったのです。自殺率も平均より高く(本文 p.13図 5)、その結果、精神的幸福度の低いランキングとなりました。
【身体的健康】
日本の子どもの死亡率はとても低く(本文p.14 図 6)、これは、効率的な医療・保健制度を有していること、また、5 ~ 14 歳の子どもの主要な死因が事故であることを考えると、日本が安全面でもすぐれていて事故から子どもを守れていることも示しているでしょう。過体重・肥満については、多くの国でその割合が急増していますが、日本は 2 位に大きく差をつける 1 位で(本文 p.15図 7)、これは食習慣やライフスタイルなどによるものでしょう。他の国々は、日本から学ばなければなりません。
【スキル】
学力の指標である、数学・読解力で基礎的習熟度に達している子どもの割合では、日本はトップ 5 に入ります(本文 p.18 図 10)。一方で、社会的スキルをみると、ここにも両極端な傾向を示す日本のパラドックスが見てとれます。「すぐに友達ができる」と答えた子どもの割合は、日本はチリに次いで 2 番目に低く、30% 以上の子どもが、そうは思っていないという結果だったのです(本文 p.19図 11)。
◆子どもの世界
子どもの幸福度の多層的モデルの円の中で、これまで解説した「結果」のすぐ外側にある「子どもの世界」を見てみます。
【子どもの行動】
日本のデータはないものの、レポートカード 16 では、より多く外で遊ぶ子どもの方がより幸せであるという結果が示されました(本文 p.21 図 12)。外遊びの機会は子どもの幸福度に関係します。日本の都市部にはあまり遊ぶ場所がありませんが、都市計画の中で何を優先するか、子どものあたりまえの活動である遊びをどう位置づけるのか、ということでもあると思います。また、日本にも、国際比較ができるデータをとっていただきたいと思います。
新型コロナウイルス感染症の影響で、子どものインターネット利用時間が伸びたことに注目が集まりました。報告書で取り上げた調査によれば、ネット利用時間の精神的健康への影響は、いじめられることの影響に比べれば 4 分の1 でした。すべての子どもとは言いませんが、多くの子どもにとって、ネット利用時間そのものの影響はあまり大きくなく、その影響は、その他の活動との比較において考えるべきだと研究者たちは考えています(本文 p.23)。
【子どもの人間関係】
全体で 15 歳の子どもの約 23% が、月に数回以上いじめられたと答えました。日本ではその割合が約 17% でした。
いじめは、長期的に子どもたちの人生に影響するという調査結果もあり、すべての人の課題であるべきだと思います。
頻繁に(月に数回以上)いじめを受けている子どもの方が、そうでない子どもより生活満足度が低いという結果が、すべての国について示されました。日本についても、頻繁にいじめられている子どものうち生活満足度が高い子どもの割合は約 50% で、これは、調査対象となった国々の中でほぼ最も低い割合でした(本文 p.25 図 16)。
また、学校への帰属意識が高い子どもの方が、学力も生活満足度も高いという結果も示されました。その差は生活満足度の方により大きく現れ、日本の、学校への帰属意識がより低い子どもたちの中で、生活満足度が高い子どもは約 40% で、調査対象の中で、最も低い割合となりました(本文 p.26 図 17)。
◆子どもを取り巻く世界
「子どもの世界」の外側の「子どもを取り巻く世界」は、保護者の「ネットワーク」と家庭や地域の「資源」に着目します。
「ネットワーク」の指標の一つは、仕事と家庭の両立に苦労している労働者の割合です(本文 p.30)。日本のデータはありませんが、日本は、長時間(平均で週 50 時間以上)
働いている人の割合が最も高い国の一つです。長時間働いている人が多い国は、ワークライフバランスに苦慮している保護者が多い国でもあることがわかっていますので、この点は重要です。私たちがこのレポートでとった多層的アプローチでは、子どもの保護者のネットワークは、保護者の生活の質に影響し、それが子どもの生活の質に影響すると考えます。
「資源」の指標の一つは、家に学校の勉強に役立つ本があるかどうかです。あると答えた子どもは、ないと答えた子どもより学力が高いことが日本を含む各国のデータで示されました(本文 p.32 図 22)。また、地域の資源として、近隣の遊び場を指標にしています。日本のデータはありませんが、地域に十分な遊び場があると答えた子どもの方が、そうでない子どもに比べて、より幸せと感じていることがわかりました(本文 p.33 図 23)。
◆より大きな世界
最後に、多層的モデルの一番外側のふたつの円にあたる「政策」と「状況」について考えます。レポートカード 16 は、子どもの幸福度を支える「政策」と「状況」についても、順位付けを行っています。日本の総合順位は、17 位(41カ国中)でした。
【子どもの幸福度の条件:日本の分野別順位】
<総合順位は 17 位>(本文 p.53)
<政策>
・社会(7 位) 母親・父親に認められる育児休業の週数、子どもの貧困率
・教育(23位) 就学前教育・保育参加率、ニート率
・健康(34位) はしかワクチン(2 回目)接種率。低出生体重児(2,500 グラム未満)の割合
<状況>
・経済(11位) 1 人あたり国民総所得 (GNI、失業率
・社会(29位) 困ったときに頼れる人がいる人の割合、殺人による死亡数(10 万人あたり)
・環境(18位) 大気汚染:PM2.5 の年間濃度中央値(μ /m3)、安全に管理された水を利用している人の割合
日本は、はしかの予防接種率が 2010 年から 2018 年にかけて低下した 14 カ国の一つです(本文 p.42 図 32)。途上国では保健サービスの普及やアクセスの指標である予防接種率ですが、先進国では、予防接種についての人々の理解を示すものととらえられています。豊かな国では、一度達成されたものはずっと続くと考えられがちですが、そうではありません。過去数年ではしかの予防接種率が下がり集団免疫が失われた国々があることを考えると、はしかの予防接種率は象徴的なものです。
また、日本の低出生体重児の割合は 9.4% で、41 カ国中 2番目にその割合が高いという結果でした(本文 p.43 図 33)。
日本の子どもの貧困率は約 18% *で、ちょうど平均くらいでしたが(本文 p.36 図 25)、日本は GDP が高く失業率は低く(本文 p.44 図 34)、とても豊かな国です。それを考えれば、平均よりもっと下げることができるでしょう。
子どもの貧困は、子どもの幸福度の結果に影響するため重要です。子ども時代の貧困が、学力、肥満、うつ状態等に蓄積して現れることが、イギリスの子どもの追跡調査からも示されています(本文 P.38)。
*世帯所得が中央値の 60%に満たない世帯に暮らす子どもの割合。日本の定義とは異なる。日本のデータは東京都立大学阿部彩教授による推計。
社会的状況については、ポジティブな指標である、困った時に頼れる人がいる人の割合と、ネガティブな指標である、殺人による死亡数の 2 つの指標で分析しました。日本は、困った時に頼れる人がいると答えた人の割合が最も低い国の一つでしたが、殺人による死亡は、最も少ない国だったのです(本文 p.48-49 図 38-39)。これも、よい指標と悪い指標が併存する、日本についてのもう一つのパラドックスと言えるかもしれません。
◆日本へのメッセージ
どの国にも言えることですが、まず、子どもや若者へのメンタルヘルスのサービスの提供を真剣に考えなくてはなりません。精神的健康も健康の一部であり、身体的健康と同じくらい重要なことと考えることが大切です。
2 点目に、政府が新型コロナウイルス感染症への対応を考える時、効果や影響を検討すると思いますが、その際、経済面に偏り過ぎず、子どもたちの身体的・精神的健康等への影響も必ず考慮に入れてほしいと思います。
3 つ目は、何かを変える時に人々の意識を変えることから始めなければならないということです。例えばいじめは、昔の考えではたいしたことではなかったのですが、今の考えでは、長期的に人生に影を落とす深刻な問題です。意識が変われば、それが保護者、学校を含め、人々の行動変容につながっていくと思います。
尾木 直樹 (教育評論家・法政大学名誉教授)
今回の報告で注目すべきは、日本の子どもの「精神的幸福度」の低さです。その背景には、教育政策上の問題があると思います。日本では、15 歳で迎える高校受験によって、子どもたちは偏差値という学力指標だけで振り分けられてしまいます。
競争原理に基づく一斉主義により序列化するわけですから、子どもの自己肯定感がガタガタになり、幸福感が育たないのは必然だと思います。
また、頻繁にいじめに遭っている子どもは、明らかに精神的幸福度が低い結果が出ています。子どもの 7 割がいじめの加害経験を、8 割が被害経験を持っているとされる日本は、一刻も早く、最優先課題としていじめ問題に向き合い、構造的にも解決していく道を探る必要があります。
子どもの自殺も日本の大きな問題です。日本では厚生労働省が 2019 年に公表した統計で、10 ~ 14歳の子どもの死因の第 1 位が初めて「自殺」になりました。さらに 15 ~ 24 歳の自殺率は先進国でワースト1です。
今後、新型コロナウイルス感染症の影響が心配されます。たとえば、子どもの貧困率の上昇、外出制限による肥満の増加、休校による不登校の急増、コロナいじめの増加などです。また、性的暴力を含む虐待問題の深刻化を危惧しています。
こうした状況だからこそ、「子どもの権利条約」にも謳われている子どもの「参加する権利」が重要だと思います。パートナーとして子どもを捉え、子どもの声を聞き、あらゆる面で子ども参加が実現すれば、おのずと幸福度は上がっていくと思います。
【コメント:ユニセフ・イノチェンティ レポートカード 16 について 阿部 彩3/30】
東京都立大学 人文社会学部 教授 兼 子ども・若者貧困研究センター長 阿部 彩
今回のレポートカード 16 にて、最も注目を集めるのは、日本の子どもの「精神的幸福度」のランキングの低さでしょう。38 カ国中、ワースト 2 位ということで、とても悲しい結果となりました。これについて、尾木直樹先生は、競争原理による一斉主義や、いじめの問題を指摘なさっており、私も同じ懸念をもっています。しかし、子どもの貧困を長年研究してきた者として、子どもの精神的幸福度や、いじめに遭う確率も、子どもの経済状況に左右されているということを指摘させていただきたいと思います。
確かに、各国の平均を比べる国際比較において、日本の子どもの「生活に満足している」と答えた割合は低い傾向にあります。しかし、日本の中でも、子どもの精神的幸福度には差があります。東京都が 2016 年に行った「子どもの生活実態調査」によると、中学 2 年生において、「楽しみにしていることがたくさんある」「生きていても仕方がないと思う」「何をしても楽しい」など答えた割合は、家庭の経済状況によって格差があることが報告されています。また、いじめに遭う確率も、経済状況と関係していることがわかってきました。
本レポートの二つ前のイノチェンティ・レポートカード14 では、「格差」についてのランキングも示されていますが、日本は 41 カ国中 32 位と、決して誇れる順位ではありませんでした。先進諸国の中で、日本は国内での格差が大きい国のひとつであることを改めて認識し、今回の結果を見ていただきたいと思います。
また、「スキル」の分野にても、日本は 27 位であり、この理由は「スキル」の 2 つの指標のうちの 1 つ、「すぐに友達ができる」という設問に「まったくその通りだ」または「その通りだ」と答えた生徒の割合がワースト 2 位だったからです。もう 1 つの「スキル」指標の数学・読解力は上位 5 位なのですが、総合すると「スキル」が低い国ということになります。ユニセフが、本レポートで、「スキル」として、学力だけでなく、社会的スキルを今回指標として取り入れたことは重要です。人が幸福な人生を歩むためには、学力のみならず、社会的スキルが重要であることが認識されてきたからです。
これは、社交的で、たくさんの友人にいつも囲まれていない子どもが悪いということではありません。人によっては、シャイであったり、一人でいるのが好きな子もいるでしょう。しかし、どのような性格の子どもであっても、周りから偏見の目で見られることがなく、友だちをつくろうと思ったら、すぐできる、という環境があるのか、ないのか、それが問われていると思います。
本レポートでは、子ども幸福度の条件として、「政策」と「社会状況」にも着目しています。この中でも、日本のさまざまな問題が浮き彫りにされています。「政策」の社会分野においては、親のワーク・ライフ・バランスの重要性が指摘され、指標としては、「母親・父親に認められる育児休業の週数合計」が提示されています。日本は上から 5 番目ですが、多くの人がご存じのように父親の育児休業取得率はやっと 6%(平成 30 年度)です 1)。つまり、「認められる」育児休業週数は多くても、実際に「取得」されているものはごく僅かです。また、家族関連の社会支出の GDP 比も日本は下から 8 番目でした。日本は、社会政策分野において子どもが幸福となる土台を作ってきていないのです。
さらに、教育分野として挙げられているものに、就学1年前の保育所・幼稚園などの通所率があります。これは、日本は優等生と思っている方も多いかと思いますが、下から 7 番目でした。健康分野においても、低出生体重児(2500グラム未満)の割合が、下から 2 番目でした。
「社会状況」については、殺人による死亡率が最も低い、失業率が低いなどのよい結果もありますが、「困った時に頼れる人がいる」と答えた成人の割合は、下から 10 番目でした。このように、成績の良い指標と悪い指標が混ざっている日本の状況を「パラドックス」とグロマダ史は呼んでいますが、これは日本において不利の現れ方が他国と違うということではないでしょうか。失業率は低くても、ワーキングプア(低賃金)の問題が深刻であり、殺人率は低くても、自殺率はトップレベルというように 2)。
日本の子どもの幸福度を上げるために、必要なのは、最も幸福度が低い状況に置かれている格差の底辺にいる子どもたちとその家族の状況を改善することです。いじめに遭いやすい貧困世帯の子どもや、ワーク・ライフ・バランスなど考えることもできない非正規労働の保護者、子どもを保育所に預けることもできない家庭。一番底辺の人々の状況を改善し、格差を縮小することで、「すぐに友達ができる」子ども、困った時に頼れる人がいる大人、そして、生活に満足する子ども・大人が増えるのではないでしょうか。
1)厚労省「男性の育児休業の取得状況と取得促進のための取組について」(R1.7.3.)
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/consortium/04/pdf/houkoku-2.pdf
2)人口 10 万人あたり自殺者数、WHO2016 年
【日本の子供の精神的幸福度は38か国中37位 ユニセフ「レポートカード16」で「子どもたちの幸福度ランキング」を発表
教育家庭新聞 2020年9月9日 】
「子どもたちの幸福度ランキング」は、日本の子供は「身体的健康」は高いが、「精神的幸福度」は低いという結果になった。これは公益財団法人日本ユニセフ協会が、日本を含む先進国の子供たちの状況を調査した最新報告書「レポートカード16」から明らかとなった。
■「精神的幸福度」「身体的幸福」「スキル」で幸福度をランキング
9月3日(木)に「レポートカード16」の結果が発表され、日本に関する結果を中心に解説が行われた。「レポートカード16」のテーマは「子どもたちの幸福度」で、このテーマを取り上げたのは2013年の「レポートカード11」以来となる。「精神的幸福度」、「身体的健康」、「スキル」(学力及び社会的スキル)の3つの側面から、各国の子供の幸福度をランキングしていった。
■著しく低い日本の子供の「精神的幸福度」
日本の「子どもたちの幸福度ランキング」は、総合でみると調査対象国38か国中20位となっている。しかし、レポートの執筆者の1人であるアナ・グロマダ氏によると、日本の順位には、かなり特殊な傾向が見られるという。幸福度を調べる3つの側面のうち、「身体的健康」は38か国中1位だが、「精神的幸福度」は38か国中37位という極端な結果となった。
■「生活の満足度」と「若者の自殺率」に見られる日本の問題
「精神的幸福度」の内容を細かく見てみると、「生活の満足度」では「生活に満足している」と回答した子供の割合は非常に低く62%となっている。また、「若者の自殺率」は日本は10万人あたり7.5人となっており「精神的幸福度」を大きく引き下げている。
■日本は子供の健康が保障された国に
「身体的健康」が1位となった要因は、5~14歳の子供の死亡率は1000人あたり0.73人で、医療の発達により乳幼児の死亡率が極めて低くなっている。病気だけでなく戦争や事故で亡くなる子供の割合も低く、子供にとって安全なシステムが整っている国となる。また、過体重または肥満の子供の割合は14.4%で、すべての先進国で肥満が増えている中、この数値は優れた結果と言える。
■学力は高いが社会的スキルは低い日本の子供
「スキル」は38か国中27位だが、その内容を見てみると、「学力」はPISAテストの読解力・数学的分野で基礎的習熟度に達している15歳の生徒の割合は72.9%。ランキングでは38か国中5位で上位となっている。一方、社会的スキルでは「すぐに友達ができる」と答えた15歳の割合は69.1%で38か国中37位となるなど、ここでも両極端に分かれる結果となっている。
■インターネットが子供に与えるマイナス面は低い
新型コロナウイルス感染症に関連して、子供のインターネットの利用時間が増える傾向にある。しかし、調査結果を見ると、インターネットが子供に与える精神的な影響は低いと言える。インターネットの利用時間が子供に与える影響を、いじめが与える影響と比較すると4分の1となる。このことから、ほとんどの子供にとって、インターネット利用時間は、子供の幸福度にマイナスの影響を与えていないことが分かる。
■いじめは長期的に大きな影響を与える
「1か月間に複数のいじめを受けたことがある」という子供は13%。いじめは子供の時だけの問題でなく、生涯にわたって長期的に影響を与えることが多い。また、頻繁にいじめにあっている子供の方が、生活満足度は低い結果になっている。
【ユネスコからの5つの提言】
今回の調査を受けて、ユニセフは次の5つを提言する。
1.所得格差と貧困を減らすための確固たる行動を取る
2.子供のためのメンタルヘルスのサービスに関する深刻な格差を是正する
3.仕事と家庭のバランスを改善するため、子育て支援策を拡充する
4.予防可能な病気から子供を守るための策を強化する
5.新型コロナウイルス感染症関連の政策を改善し、子供の幸福度を支える予算を確保する
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