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トリチウムの健康被害   北海道がんセンター名誉院長

北海道がんセンター 名誉院長 西 尾 正 道さんの「泊原発の廃炉をめざす札幌北区の会ハイロ通信From北区第6号 2021 1 15」に掲載避けた論稿。

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 「世界各地の原発や核処理施設の周辺地域では事故を起こさなくても、稼働させるだけで周辺住民の子供たちを中心に健康被害が報告されていますが、その原因の一つはトリチウムだと考えられる。」とそのメカニズムを解明、トリチウム安全神話を批判している。

安全でないという指摘がある以上、すくなくとも「予防原則」にそった対応が必要だ。なお、国連海洋法条約は、締約国には海洋環境を保護し保全する一般的な義務(第192条)、海洋環境の汚染を防止するために「利用することができる実行可能な最善の手段を用い、かつ自国の能力に応じ」て、必要な措置をとること(第1941項)がもとめられている。

一番安くて、東電の負担がすくない、という理由は、国際的に通用しない。

【トリチウムの健康被害   北海道がんセンター 名誉院長 西尾正道】

  東京電力福島第一原発にたまり続ける放射性物質トリチウムを含む処理水を国と東電は海洋放出しようとしている。

  処理水を貯蔵しているタンク内にはトリチウム以外に、基準値以上のヨウ素129(半減期1570万年)やストロンチウム90(半減期29年)など幾つかの核種も残留していることも判明している。各種の処分方法別の費用は34億円~3976億円と大きな幅があるが、結論としては最も安い費用で済む海洋放出(費用34億円)を行おうとしている。この方針は東電会長ばかりではなく、 原子力規制委員会の更田豊志委員長も「希釈して海洋放出が現実的な唯一の選択肢」と記者会見で述べ、寄生委員会化している。

トリチウムを含む処理水のタンク容量は上限137万トンとされているが、現在すでに約112万トンの汚染水があり、また1日に150トンの汚染水が増え続けている。東電は多核種除去設備(ALPS)で汚染水を浄化しているが、トリチウムは除去できない。

  今後は原発近隣の帰還困難地域の土地を買い貯蔵タンクを増やすしかないのであるが、最も安く済む海洋放出を行おうとしているのである。また廃炉が決定した福島第2原発には、広大な敷地があり、大型貯蔵タンクを造設し長期間地上管理すればよいのであり、その間にトリチウムの分離技術の開発と人体影響を動物実験による再検証も行うべきである。

  原子力ムラの人達は、「トリチウムは自然界にも存在し、全国の原発で40年以上排出されているが、健康への影響は確認されていない」と安全性を強調し、また「トリチウムはエネルギーが低く人体影響はない」と安全神話を振りまいています。しかし、世界各地の原発や核処理施設の周辺地域では事故を起こさなくても、稼働させるだけで周辺住民の子供たちを中心に健康被害が報告されていますが、その原因の一つはトリチウムだと考えられる。

 トリチウム【tritium】(記号:T)とは、原子核が陽子1個と中性子2個で質量数が3の水素が三重水素(3H)であり、天然にも宇宙線と大気の反応によりごく微量に存在し、雨水その他の天然水中にも入っていたが、戦後の核実験や原発稼働によって自然界のトリチウム量は急増し、1950年に自然界にあったトリチウムの千倍以上のトリチウムが排出されているのです。

  このトリチウムは水素の同位体で、化学的性質は普通の水素と同一ですが、β崩壊して弱いエネルギーのβ線を出してヘリウム3(3He)に変わります。β線の最大エネルギーは18・6keV 平均エネルギーは5・7keVで物理学的半減期は12・3年です。体内での飛程は約0・01m m (10μ)ほどです。

  このため原子力政策を推進する人達はエネルギーが低いので心配ないとその深刻さを隠蔽し、海に垂れ流しています。人間の体内では、水素と酸素は5・7eVで結合し水になっています。

  トリチウムの化学的性質は水素原子と変わりなく、体内動態は水素であり、どこでも通常の水素と置き換わります。成人の体重の約60%を占めているのは通常の水(H2)は( HHO)ですが、トリチウムを体内に取り込んだ場合はトリチウム水(HTO)の形で体内に存在します。経口摂取したトリチウム水は尿や汗として体外に排出されるので、生物学的半減期が約10日前後であるとされています。また気体としてトリチウム水蒸気を含む空気を呼吸することによって肺に取り込まれた場合は、そのほとんどは血液中に入り細胞に移行し、体液中にもほぼ均等に分布します。

  問題なのは、トリチウムは水素と同じ化学的性質を持つため体内では主要な化合物である蛋白質、糖、脂肪などの有機物にも結合し、化学構造式の中に水素として組み込まれ、有機結合型トリチウム(OBT:Organically Bound Tritium)となり、トリチウム水とは異なった挙動をとります。この場合は一般に排泄が遅く、結合したものによってトリチウム水よりも20~50倍も長くなります。

  有機結合型トリチウム(OBT)の体内蓄積のパターンの1つは、原子力施設から出るトリチウム水の水蒸気によって汚染された土地で育った野菜や穀物ばかりでなく生物濃縮した魚介類などの食物を摂取することであり、もう一つはトリチウム水の飲食や吸入などによって、人体が必要とする有機分子の中にトリチウムを新陳代謝して摂り込みます。

資料1に生態系の中でのトリチウムの循環と食物連鎖の過程での生物濃縮の図を示します。

  未来のエネルギーとしての核融合が注目され、盛んに研究が行われていた1970~1980年代には、トリチウムが染色体異常を起こすことや、母乳を通して子どもに残留することが動物実験で報告されています。動物実験の結果ではトリチウムの被ばくにあった動物の子孫の卵巣に腫瘍が発生する確率が5倍増加し、さらに精巣萎縮や卵巣の縮みなどの生殖器の異常が観察されています。また現在の規制値以下の低濃度でも染色体異常が観察されています

  トリチウムは、自由水型のみならずガス状トリチウムもその一部が環境中で組織結合型トリチウムに変換されます。トリチウムは水素として細胞の核に取り込まれることがわかっています。核の中にあるDNA(デオキシリボ核酸)は四つの塩基(アデニン、シトシン、グアニン、チミン)が二重螺旋構造を形成し遺伝情報を含んでいますが、この四つの塩基は水素結合力でつながっています。 核酸塩基はプリンやピリミジンと呼ばれる窒素を含む複素環であり、塩基性となり水素を受け取る性質を持っています。水素として振る舞うトリチウムが化学構造式に取り込まれ、そこでβ線を出すため、遺伝情報を持つ最も基本的なDNAに放射線が当たり、またトリチウムがヘリウム3に元素変換することにより4つの塩基をつないでいる水素結合力は破綻します。そして塩基の本来の化学構造式も変化します。ヒトの細胞は6~25ミクロン)で通常は約10μmの大きさで、その内部にある重要な小器官は1μm以下の有機化合物で構成されています。

  放射線の影響は基本的には被曝した部位に現れます。エネルギーが低くても水素として細胞内の核に取り込まれ、そこで放射線を出して全エネルギーを放出するわけですから影響が無いことはないのです。有機結合型トリチウムは結合する相手により体内の残留期間も異なります。

  資料2に人体影響のポイントをまとめて示しますが、トリチウムは他の放射性核種と違って、放射線を出すだけではなく化学構造式も変えてしまうのです。DNAを構成している塩基の分子構造が変化すれば細胞が損傷されます。資料2ではDNAの二重螺旋構造を形成している4つの塩基の一つであるアデニンの例を示します。β崩壊後はアデニンの分子構造も破壊され、遺伝情報に影響を与えるのです。

  こうした二重・三重の負担をDNAのレベルで与えるのですからいくらエネルギーが低くても安全な訳はないのです。またDNAを構成している塩基の化学構造式まで変えるということは広い意味で人間の遺伝子組換えを行っているとも言えるのです 。

  内部被曝による人体影響はマンハッタン計画以来、軍事機密とされ隠蔽され続けており、トリチウムもそのひとつなのです。トリチウムがほとんど無害とされ、極端な過小評価をされてきたのは、ICRP(国際放射線防護委員会)の線量係数の設定によります。

 内部被曝を計算する「実効線量換算係数」は、放射性物質1Bqが人体全体に与える影響度の単位(Sv)に換算する「係数」のことですが、Bqという測定可能な物理量を、「人体全体に与える影響度」などという「仮想量」に換算するという話自体が詐欺的な疑似科学です。10μm周囲にしか被ばくさせないトリチウムの影響を全身化換算すること自体ができないのですが、ICRPは放射線核種とその化合物及び摂取の仕方(経口摂取か吸入摂取か)に分けて事細かに全く実証性のない恣意的な換算係数を定めて全身化換算しています。

 それによれば、トリチウムの崩壊電離エネルギーが極めて微弱であることを理由に、トリチウム水を経口摂取した場合、トリチウム1Bqあたりの人体全体に対する影響度は、10万分の1.8μSv(HTO:1Bq =1.8×10 -5 μSv)だとしていますが、これは全く実証性のない換算係数です。

 目薬は眼に滴下するから2~3滴でも効果も副作用がありますが、目薬2~3滴を経口投与して、実効線量(Sv)に換算して内部被曝の線量は2~3滴なので影響はないと言っているようなものなのです。

  原発稼働による健康被害の報告は多くの報告が出されています。最も有名な報告はドイツとカナダからの報告です。

 ドイツでは1992年と1998年の2度行われたKiKK調査が有名です。この調査はドイツの原子力発電所周辺のがんと白血病の増加に関する調査です。その結果は、原子力施設周辺5㎞以内の 5歳以下の子供には明らかに影響があり、白血病の相対危険度が5㎞以遠に比べて2.19、ほかの固形がん発病の相対危険度は1.61と報告され、原発からの距離が遠くなると発病率は下がったという結果です。

  カナダ・ピッカリング重水原子炉周辺都市では小児白血病や新生児死亡率が増加し、またダウン症候群が80%も増加していました。

 日本国内でも報告があり、全国一トリチウムの放出量が多い玄海原発での調査・研究により、森永徹氏は、玄海原発の稼働後に玄海町と唐津市での白血病の有意な増加を報告しています。

 北海道の泊原発周辺でも稼働後に、がん死亡率の増加が観察されています。泊村と隣町の岩内町のがん死亡率は泊原発が稼働する前は道内180市町村の中で22番目と72番目でしたが、原発稼働後は道内で1位が泊村、2位が岩内町になり、3位が寿都町となっています。

  最後にトリチウムの排出規制基準値は、水の形態の場合は60 Bqcm 3であり、水以外の化合物の場合は40Bq cm3、有機物の形態では30 Bqcm 3です。水中放出の濃度規制値は1 cm 3当たり60 Bq1リットルに直すと6万Bq/Lです。それ以下に薄めれば海洋放出できるわけです。

 なおセシウム137の規制値は90Bq/Lです。このトリチウムの規制値も全く根拠はなく、日本で最初に稼働した福島の沸騰水型原子炉では年間約20兆Bqのトリチウムを排出していたので、1割増の年間約22兆Bqのリチウムの海洋放出をOKとしたものであり、人体影響とは関係がない規制値なのです

資料3にトリチウムの規制値を示すが、日本は世界一緩い基準です。原発事故が起こらなくて、稼働により放出しているトリチウムが健康被害 に繋がっているのです。トリチウムは原発から近いほど濃度が高く、それに食物連鎖で次々、生物濃縮します。処理コストが安いからと言ってトリチウムを海洋放出することは、人類に対する緩慢な殺人行為なのです。

 

資料3 各国のトリチウム飲料水基準

日本 (基準なし) 60000(㏃/L

フィンランド     30000

WHO        10000

スイス        10000

ロシア        7700

米国          740

EU           100

カナダ          20

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