資本論 人間と自然の物質代謝~環境、農業(メモ)
経済 2021年5月号より
【人間と自然の物質代謝 岩佐茂・一橋大名誉教授】
【地球の限界と環境問題 多羅尾光徳・東京農工大准教授 】
【マルクス「資本論」と農業問題研究 田代洋一・横浜国立大学名誉教授 】
3つの論稿のメモ。
「自然的物質代謝」と「社会的物質代謝」、「人と社会と自然の関係」「プラネタリーバウンダリーと人間の活動」「資本主義と合理的農業」などなど・・興味深い論稿。
地元紙での先日「マルクス 若者魅了 環境保全論と捉えなおす」と大型の記事が掲載された
【人間と自然の物質代謝 岩佐茂・一橋大名誉教授】
- コロナ・パンデミックが投げかける課題
・地球規模の現象の深刻さ---、マルクス、「資本論」の理論へ高まる注目
・70年以降の新興ウイルス由来の感染症(17種/3年に1つの新種 ) 人獣共通感性症が7割以上
⇔熱帯雨林の乱開発/世界の森林の40%。最大のアマゾンは50年で2割減/野生動物と人との接触の増加が背景
・マルクス、エンゲルス 二度のコレラ流行~住居の密集、不衛生な環境が疫病拡大と告発(マンチェスターには、街の公衆衛生改善の貢献者としてエンゲルス、マルクスの壁画がある) /英のインド植民地化がコレラをもたらしたと指摘
~現在、米黒人住居地、ブラジルスラム街、インドで感染率が高い
◆労働者の「搾取」と自然の「収奪」
・資本主義の新自由主義的政策による地球の自然・生態系の破壊
~「経済成長」、経済効率のあくなき追求、競争・成果主義、自己責任 ⇔コロナ禍に対応できないことが明白に
→ 新型コロナに打ち勝ち、生活を守るのに必要なこと、共同性と相互扶助の精神(その体現として福祉国家、税の応能負担)
・資本の論理=利潤第一主義~ 労働者の「搾取」と自然の「収奪」/英語では共に「Explotation」
「収奪」=自然環境・生態系の破壊/ 温暖化~自然から収奪したものを加工。そのエネルギーに化石燃料を使う(廃棄・焼却の過程でも発生)ことで、CO2濃度の上昇/産業革命前から40%増加。およそ1度上昇
~ 資本主義が「気候危機」を乗り越えることができるか、多くの人が問い始めている
2.「人間と自然の物質代謝」で何を論じたか
◆食べ、飲み、不要物を排泄する「物質代謝」
・ドイツ・イデオロギー「衣食住、その他若干のこと」を満たすことが、人間の歴史が成立する「第一の前提」~人々の「物質的な生活過程」の重視/ 資本論 「人間と自然との物質代謝、つまり人間の生活」
・「人間と自然の物質代謝」~外的自然を生体内に摂取・同化し、不要物を排泄(異化)すること/他の生物も同様
→ が、人間は「人間的形態」で行う。生産的労働(メモ者 社会的行為)を媒介して生活を営む/人間の生活は文化・スポーツまで含め多種多様だが、その前提=人間の生存に「人間と自然の物質代謝」は不可欠
・現代的な用法=「物質代謝」は、生体内部の物質代謝を意味する
→ が、マルクス・・・労働による生産、その流通、消費を媒介にした人間と外的自然の関係のあいだでの物質代謝を捉えた/が当然、生体内での代謝が媒介され、現代用法と繋がっている
◆「正常な物質代謝」が健康な生活の基礎に
・人間生活の基礎に「人間と自然の物質代謝」と捉えることの重要性
・「正常な物質代謝」の攪乱~ 有害物質、気候危機、公害(メモ者 抗生物質の多様~常在菌の攪乱 )
3.「資本論」にみる「物質代謝」論
◆2つの物質代謝--人間の「生活」と労働の「素材変換」
・「労働は、使用価値の形成者として、有用労働としては、人間の、あらゆる社会的形態から独立した、人間の一存在条件であり、人間と自然の物質代謝を、つまりは人間の生活を媒介する永遠の自然法則性である」(資本論「商品」論)
・「労働は、まず第一に、人間と自然との一過程、すなわち人間と自然とのその物質代謝を彼自身の行為によって媒介し、規制し、管理する一過程である」(資本論「労働過程」論)
~ 微妙に異なる2つの用法、 人間の生活とみなすか、労働過程での素材の変換とみなすか/議論がある
→筆者/生活の基礎として捉えることが基本視点である。同時にドイツ語では素材変革の意味もあり、広義の意味で使用
◆「自然的物質代謝」と「社会的物質代謝」
・資本論 「人間と自然の物質代謝」のほか、「自然的物質代謝」と「社会的物質代謝」の概念も出で来る
・「社会的物質代謝」=「交換過程が、市商品を、それらが非使用価値である人の手から、それが使用価値である人の手に移行される限りにおいて、それは社会的素材変換である」~(メモ者 商品交換社会、社会的分業の展開)
・「自然的物質代謝」 1つは「鉄は錆び、木材は腐る」という化学的変化という当時の一般的使われ方/もう1つは、有機的自然における物質代謝~ 消費の廃棄物は「一部分は人間の自然的物質代謝から生じる排泄物のことであり、一部分は消費対象が消費されたあとに残留してとる形態のことである」と語っており、「人間と自然の物質代謝」に繋がっている。
◆環境問題~ せめぎ合う「生活の論理」と「資本の論理」
・資本論「人間と大地の物質代謝」の「攪乱」が、自然の生態系・人間の健康を破壊~その視点で環境問題に接近
・環境問題~人間の認識が有限であることからも発生~ローマ時代、ワインの酸化防止・甘味料として鉛を添加。中毒が拡散
~もっと大きな要因=利潤第一の資本の論理/労働者の搾取、自然の大規模な収奪
→ 環境、健康を保護する規制がない限り、正常に物質代謝を攪乱 利潤率 m/C+V ~ C、Vを小さくする衝動
・「生活の論理」~人々の生活、環境を保護しようとする考え方、価値観/「安全で快適な生活環境のなかでよく生きるために、自ら生活を他者とともに大切にし、他者の生活を自らの生活と同じように尊重しながら、労働生活も含めて、生活を享受する価値的態度や考え方」と定義
→ 社会的問題は、常に、生活の論理と資本の論理がせめぎ合っている
◆打開の道 農業と工業の「より高い総合」
・資本の論理による工業化=疎外された工業化 ⇔ 未来社会には「もう1つの工業化」でなくてはならない。
・資本論 物質代謝の攪乱に対し、「工業と農業の新しいより高い総合、結合」を展望 ~ 資本主義は、農業と工業の対立的に形成された姿態を基礎とするが、新しいより高い総合、結合の物質的前提をつくりだす
・プラスチックを、植物を原料にした生分解プラスチックに置き換える
~京大農学部山田研究室 微生物が作り出す酵素により有機化合物をつくる「酵素生産」を提唱/常温・常圧で「環境調和的」な生産が可能。市場規模で数十兆円の推計も
・エネルギー 脱化石・脱原発→ 自然エネルギー、水素エネルギー(自然エネを水素して貯蓄)
(メモ者 植物由来の「肉」 牛肉1キロに穀物20キロ、収奪的な農業・畜産の転換)
4.コロナ・パンでミック時代の学び
◆協同性の精神、人間的交流をつくる創造力
①自己責任、成果主義という新住主義の考え方から、人間の尊厳と社会を守るために、協同性と相互扶助の精神によるシステムへの転換
②グローバル化の在り方~人間が協同的存在であり、交流することの大切さを浮き彫りに/新たな節度ある交流の在り方
③人間と外的自然の調和のとれた在り方~ 人間も自然的存在であり、食生活、健康・心身のケアなどがかかわる「内なる自然」と、微生物も含めた他の生命が存在する「外なる自然」との調和・共生関係の構築
~ それらを考え、学びながら、行動・生きていくことが、求められる。
→マルクスの思想/生活の視点から、人間と自然との正常な物質代謝、人間と自然の関係の制御という考えが貫かれている
【 地球の限界と環境問題 多羅尾光徳・東京農工大准教授 】
はじめに
・環境問題が人類社会の持続性にかかわる世界的規模の問題と認識されるようになったのは20世紀の終わりごろ
~商品の大量生産・消費・廃棄に伴う、資源の大量消費、環境破壊・汚染をもたらし/従来の環境条件を前提に構築された食料生産体系、生活様式が大きな影響をうけ、経済、社会のあり方に甚大な影響が出ることが懸念されている
⇔これら環境問題は、地球の回復力を上回ろうとしている巨大な経済活動で引き起こされている/ 環境問題は、自然科学だけでは対応できない、経済学の力が不可欠
1.人を支える2つの環境
・「環境」とはなにか~ 本来の意味「取り巻くもの」/取り巻かれる主体が存在しての成立の言葉⇔環境問題の主体は人
→ 人を取り巻く環境が人の生存を脅かすまでに悪化することが「環境問題」
・自然環境の変化が人の生存を脅かすだけでは「環境問題」と呼ばない /地震、台風など自然災害
→人の活動にもたらした温暖化による巨大台風の頻発、津波による原発事故・放射性物質の大量放出は、環境問題
・「環境問題」は、社会や経済を介した人と自然の関係の間に生じるもの
・人は自然と直接向きあうのではなく、必ず社会を介して働きかける/そして自然の変化は社会を介して人に影響を及ばす
→ 人を取り巻く2つの環境/1つは社会=人は社会という環境に支えられ生きる。社会に働き掛けて社会に影響を与える
/さらに自然というもう一つの環境が、人と社会を支える
・健全に社会なしには人は生存できず、健全な自然なしに健全な社会は持続できない。人は社会と一体、人と社会は自然と一体。人は、社会、自然という2つの環境から自由な存在ではない
2. 人と社会と自然の関係
・温暖化・・・ 所得の高い国の人々の化石燃料を多く消費によるもの/その影響は、世界の食料供給に甚大な影響
→が、所得の高い国は、外国から購入、資材などに投資し増産、で影響緩和。所得の低い国はもろに影響/さらに所得の高い国でも所得再配分機能の充実した国と、そうでない日本では影響が異なる /
・資源の消費量、廃棄物量も国ごとに大きく異なる/これらの違いは、社会のあり方の違いによる
→ 環境問題は社会のあり方の問題/ 社会のあり方は経済の在り方=生産関係・生産様式に規定される
・所得の高い国=「先進国」は、発達した資本主義国~資本とは、価値を自己増殖させる運動体/ 資本は制約を受けなければ、大量生産、(メモ者 +浪費的生産 )と消費を通じ、無限の自己増殖を追求
→ 巨大になりすぎた資本の活動が、地球環境に影響を与え、人々の生存の持続性を脅かすまでになった/ 資本主義という経済の仕組みが根本から問われている
3.都市を支える生態系
・地球人口 80億人のほぼ半数が都市で生活
・都市の内部で食料、水はほとんど自給できない/食料・繊維は農耕地で生産、水は雨を森林がうけとめ、河川、地下水として供給、木材・鉱物は自然の生態系から、都市に持ち込まれる
・廃棄物も都市内部では処理しきれない/排水は河川、海の微生物が浄化、CO2・排ガスは、植物が吸収する、ゴミは山や海に埋め立てられるか、燃やされCO2となり自然の生態系が引き受ける。それでも処理しきれず環境中に蓄積される(例えば、プラスチック)
・都市は、農耕地と自然の生態系が存在しないと持続できない/これらを支える物質循環のバランスが崩れたのが「環境問題」
~地球の陸地面積の0.2%でしかない都市を支えるため、陸地面積の10数%が農耕地に。
・都市の活動が拡大=都市が消費し排出する物質が増える ⇔ それを供給し受け止める農耕地や自然の生態系が縮小(熱帯雨林の伐採、砂漠化・表土流出など)したり、汚染され機能を低下させる
→ その結果、都市自体の存続が危ぶまれている/ 環境問題が地球的規模の問題と認識されるようになった背景
4.自然の回復力とその限界
・自然の回復力の源 太陽の光エネルギー / 光エネルギーを使い、植物が、水、CO2、ミネラルから有機物をつくる。有機物のほとんどは微生物が餌として消費し、水、CO2、ミネラルに分解。/地球上で物質が循環する
~ この植物と微生物の巨大な物質循環のやり取りの中から、人と資源を取り出し、廃棄物を組み込んで、人が再び使えるか形にしてもらっている
・陸地に存在する生物量(炭素量、t) ~ 人の物質循環は取るにたらなかった
植物4500憶t(96%)、微生物210億t (4%)が圧倒的、
動物 5億t弱にすぎない (野生動物[ほとんどが無脊椎動物]4.2憶t、家畜1億t、人0.6憶t)
~取るに足らなかった人の活動が、物質循環を攪乱、社会の持続性を脅かしている
・プラネタリー・バウンダリー(PBs) ~自然の回復力の範囲でしか活動できない
PBs 自然の回復力の限界 「ボールとカップの図」
・(A) 安定した状態/ボールがカップの底にある ~何かの衝撃があっても勝手に底に戻る⇔自然の回復力
・(B) 回復力を超える衝撃を受けた場合、(C) カップの底が持ち上がる(回復力の低下)し
・(D)別のカップに移行した場合⇔回復力の限界を超えた場合 「レジームシフト」
→ 新たな安定状況はどのような姿なのか予想できない、安定状況のない混沌として世界かもしれない
→現在の環境が激変/それを前提にした社会のあり方は大混乱に陥り、特に社会的弱者は生存の危機にさらされる
5.人の活動とプラネタリー・バウンダリー
・PBs 様々な指標で評価~気候変動、淡水利用、窒素とリンの循環、海洋の酸性度、化学物質汚染、大気エアロゾルの負荷、オゾン層破壊、生物多様性の損失、土地利用の変化など
~すでにPBsを超えたと考えられる指標もある/ただしPBsには現在の科学的知見の制約から不確実が伴うことを認めても
→現在のような大量生産・消費・廃棄の経済活動はもはやありえない。同時に、世界にまん延する貧困を法としてまで経済活動を抑制することはできないだろう
★人々を貧困から解放し、かつPBsの範囲内で社会を持続的に維持する「新しい課題」が突きつけられている
⇔ SDGsが提起された背景/将来世代を含め、全ての人々が人間らしく生きられる公正な社会、すなわち持続可能な社会/SDGsは、地球の有限性、PBsを強く意識している
・一番内側の円「社会的な基礎」~憲法25条でいう生活のために必要欠くべからざる環境への負荷
・外側の円 PBs
・重要な提起 「公正」 ~世界の人々が米国、日本のように生活すればPBsは軽く超える
⇔ 先進国には、環境の負荷を率先して減らす責任がある
(メモ者 地理的、世代的な不公正の存在=環境不正義 ⇔ 歴史的責任を加えた「フェアシェア」の観点=「環境正義」)
6.生態系の管理と経済効率の考え方
①SDGsの理念と、私的利潤の拡大を本質とする資本主義は、相いれないのではないか
⇔それでも資本主義のもとでSDGsの達成をもとめるなら、社会のあり方を、経済の仕組みを変えることが必要
②ながいたたかい、公害の経験から、資本の活動を規制する仕組みを考案してきた。その強化と活用
「汚染者負担の原則」「拡大生産者責任」「環境アセスメント」など
③ 自然の回復力を維持、強化する活動への正当な評価が必要
都市は、農耕地、自然の生態系の恩恵をうけて存在している。都市は、食料や資源に対価を払っているが、/これらの生態系が供給するのは、食料、資源だけではない
⇔例、 水田 洪水の防止、気化熱による温度上昇の緩和など「多面的機能」/森林 大気汚染物質の吸収、土壌の浸食防止、水の浄化など
・多面的機能は、適切な管理のもとで発揮される/が、その活動に見合う単価を受け取っていない
~多面的機能を貨幣の価値に換算するのが難しいことが理由の1つ/が、ただ乗りを続けてよいわけがない
*日本学術会議 2001年答申「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能について」
農耕地 洪水防止3.5兆円、河川流況安定1.5兆円、土壌侵食防止3千億円、土砂崩壊防止4800億円 /5.8兆円
森林 CO2吸収1.24兆円、表面侵食防止28.26兆円、表層崩壊防止8.44兆円、洪水緩和6.47兆円、水質源貯留8.74兆円、水質浄化14.64兆円 /67兆7900億円
~ 日本の農林業の国内総生産 5兆円(19年度)を優に超える/多面的機能の管理に対する適切な支払いをする仕組みの充実が必要 / そうなれば、経済効率の考え方も変わってくる。
→ 多面的機能を加えれば、農業の経済効率は高まる。/工業の場合、環境の修復機能はコストに入れれば低くなる
★「経済効率を追い求めてきた結果、環境問題が深刻化した」のではなく、経済効率の計算方法が不適切なのである
◆おわりに
・様々な仕組みのキーワード~ 「予防」「公正な負担」「経済の意思決定への参加」
⇔PBsは不確実性が伴うので予防原則が求められる。「公正な負担」「経済の意思決定への参加」は、資本の活動を社会的・民主的に規制する足がかりとなる /さらに資本を公共財として、社会的・民主的に管理する仕組みが求められる~その社会をどう呼ぶのかは、筆者にはわからないが、公正で持続可能な社会である、と言える
・そこに資する経済学の発展が求められている。
【マルクス「資本論」と農業問題研究 田代洋一・横浜国立大学名誉教授 】
1.「資本論」の1つの読み方
・「資本論」は「近代社会の経済的運動法則を暴露すること」を目的としてもの。「近代社会」のキー産業は工業だが、「資本論」には、農業・土地所有への言及が多い ⇔ 資本主義のメカニズム、歴史性の把握には、その関係理解が欠かせないから
・資本主義生産様式の「典型的な場所はイギリスであり、理論的展開の主要な例証として役立つ理由、と説明
~ 長い注などで、同時代の論争にコミットし、当時の最先端の持論書でもある
・実証的な研究方法を重んじつつ、叙述方法は、概念観の内的関連を追及する弁証法に基づく点で独自/ 個々の文章の理解も重要だが、弁証法としては編と編、章と章の論理的な関連を追うことが大切
・・どの歴史時代にも貫いている人類の永遠の生存条件が、市場社会・資本主義的経済では、商品・貨幣・資本という「物」の姿をとる。その姿(姿態)が一時のものに過ぎないことを明らかにしたのが「資本論」
~ その一時の姿を脱ぎ棄てるには、人々が資本主義の内部矛盾を意識し、変革主体として鍛えられていく必要がある。
2.人間と自然の物質代謝と合理的農業
(1)人間と自然の物質代謝と合理的農業
・資本論は、労働過程の叙述から始まる・・・「労働過程」とは「人間と自然とのあいだの一過程すなわち人間と自然とその物質代謝を彼自身の行為によって媒介し、規制し、管理する一過程」、「どのような特定の社会的形態にもかかわりなく考察されなければならない」「人間生活の永遠の自然的条件」
・「植物と動物の自然の物質代謝」に、人間がわりこむことで「人間と自然の物質代謝」が始まる
⇔ 農耕、畜産という人類最初の労働
・労働過程は、人間労働、労働対象、労働手段からなる/ 大地は、工業一般(化学工場のぞく)では、労働過程の内部に入り込まず、労働者が立つ場所を提供する積載力としての「一般的労働手段」/農業では、「大地そのものが生産用具として作用する」⇔ 農業は、労働-労働手段(機械など)-労働手段(大地)-労働対象(作物)の4つからなる理論系
・しかも「大地は、正しく取り扱えば、絶えず改良される」/この強みを活かし「自覚的合理的」に扱い、「地力の搾取や乱費」をせず「人間と自然の物質代謝」を促進する在り方を、マルクスは「合理的農業」と呼んだ
(2)合理的農業と資本主義
・資本主義的生産は、特殊な農業諸生産物の栽培が市場価格の諸変動に依存すること…全神経は目の前の直接の金儲けを目当てにしている…こうしたことは、連綿とつながる幾世代もの人間の固定した生活諸条件全体を賄うべき農業とは矛盾する
⇔具体的には、「人間により食料および衣料の形態で消費された土地成分の土地への回帰を、したがって持続的な土地豊度の永久的自然的条件を攪乱する」/こうして、私的土地所有や資本主義的農業は「社会的な、声明の自然諸法則に規定された物質代謝の連関の中に取り返しのつかない裂け目を生じさせる諸条件を生み出すのであり、その結果、地力が浪費され、この浪費は商業を通じて自国の国境を越えて遠くの出に広められるのである」
⇔ 「合理的農業は資本主義制度とは相いれない」/「合理的農業」は、資本の本質を知る1つの基準
3.資本の剰余価値生産と合理的農業
(1)イギリスにおける農業資本主義化
・イギリスを「典型」とした資本論は、資本家、大土地所有者、賃労働者の三大階級の分化を前提とする
⇔14C末 農奴制消滅し、「人口の大多数が自由な自営農民」になっていたが、イギリス市民革命の特殊性から生き残って貴族的な大土地所有者が、農民の自作地、共有地を囲い込み、排除したことで、「1750年後にはヨ―マンリーは消滅」させ、その多くは賃労働者化した/「いわゆる本源的蓄積」を通じ、三大階級への分化がなされた
・農業でも、資本家が賃労働者を雇い、大土地所有者から土地を借りて資本主義的な農業経営をおこなった
~19世紀 大規模経営は、農業経営の17%、全経営面積の78%、契約労働者は農業授業人口の74%
・現在 多国籍アグリビジネスが、契約栽培等を通じ、農民層を事実上の賃労働者化、農業生産を支配している場合が多い
(2)絶対的剰余価値の生産と農業労働者
・労働力の再生産に必要な時間を超えての労働時間の延長から生産/その基礎は賃金の低さ
~ そもそも一国の賃金水準・・・「自由な労働者の階級がとのような条件のもとで、それゆえにどのような慣習や生活要求をもって形成されたか、に依存」(資本論)
・「イングランドのいろいろな農業地域の平均賃金は、それらの地域が農奴制の状態から脱したときの事情のよしあしに応じて、今日でもなお多少の違いがある」(「賃金、価格、利潤」)~農奴制脱出期の歴史的状況が規定される、とくに農業労働者
⇔農業労働者の悲惨な実態/「つねに片足を受給貧民的赤貧の泥沼に突っ込んでいる」
・都市と農民との対立による物質代謝の攪乱は「都市労働者の肉体的健康と農村労働者の精神生活を同時に破壊」
⇔ そのため、農業労働者の労働組合の結成を「1つの歴史的出来事」と高く評価
・労働時間の延長が、剰余価値の源泉なので、機械化を通じ、子ども、女性を労働力として、すさまじい労働時間の延長に
(3)相対的剰余労働の生産と合理的農業
・労働者階級が衰退すれば資本主義はもたない ⇔ 工場立法による労働時間の制限
→ 資本の搾取欲は、相対的剰余価値の生産に向かう/労働生産性を高め、賃金コストを引き下げることで生産/マルクスはこれを、マニュファクチャーから機械制大工業へと理論的追及
・実は端的に賃金コスト引き下げに貢献するのは食料を生産する農業/剰余価値の増産をめざし、必死に農業の生産力を拡大 (現代の「輸入自由化」推進も )
⇔イギリス 19世紀半ばに農業革命。地力再生産を内包した輪作式農業を確立/さらに穀物法廃止、安価な穀物の輸入に依存しつつ、「大規模な排水、畜舎飼いおよび株の人工栽培の新方式、機械式施肥装置、粘土地の新処理、鉱物性肥料の使用増、蒸気機関およびあらゆる種類の作業機などの使用、より集約的な耕作一般」の導入を推進
・が、こうした労働力の社会的生産力の発展、利潤追求の衝動を通じてなされることで
⇔ 「労働者から略奪する進歩」「土地から略奪する技術における進歩」になり、合理的農業を妨げる
4.土地所有と合理的農業
(1)資本と土地所有の併存――差額地代
・大土地所有者による剰余価値の分け前としての地代が、合理的農業との矛盾を高める/第三部第6篇「超過利潤の地代への転化 ~ 差額地代、絶対地代の2つ
・土地の豊度差(単位当たりの収量差)があり、優等地は限定されるので、国民的需要を満たすために、最劣等地を耕す資本にも平均利潤が保障される必要 ⇔ 優等地には、収量差に応じ、平均利潤を超える超過利潤が発生(差額地代Ⅰ)
・借地農業資本家が、同じ土地に、追加設備投資(肥料の増投など)し、収量が増大。それが転化したのが「差額地代Ⅱ」~が、借地期間の長短、資本投資の残存価値の帰結をめぐり、土地所有者と農業資本家の間でトラブルが発生しやすい
⇔ 差額地代Ⅱ/資本にとっての利潤総量の増加と地代総量の増加が両立/資本家階級、地主階級がウィンウィンの関係をもちつつ、労働者階級を搾取することを明らかにした
(2)資本と土地所有の対立--絶対地代
・資本家と地主の対立/ 「差額地代」のメカニズムでは、最劣等地、最劣等投資には、超過利潤、地代は発生しない
→ 地主は、農業への資本投資を制限し、農産物の価格を吊り上げることで、超過利潤を発生させ、地代に転化しようとする
・工業資本にとって、「絶対地代」に転化する超過利潤が農業で生産された剰余価値の範囲内であれば、ぎりぎり妥協可能
~ 豊度差にかかわりなく、全土地に支払われるのが「絶対地代」
*その論理は、利潤、平均利潤、生産価格などを踏まえないと分かりにくいが/「差額地代」に転化する超過利潤は、土地所有に関わりなく資本の論理で発生/ 「絶対地代」に転化する超過利潤は、土地所有の独占力抜きに発生しない
→ 絶対地代は、土地所有が、資本の平均利潤そのものに食い込み、資本をより多くの剰余価値の生産に駆り立て、功利的農業を阻害
*超過利潤の地代への転化のメインテーマは ①資本と土地所有という二大階級の妥協と対立 ②土地所有が独占力を発揮する競争メカニズムを扱うとは、「資本」の論としての「資本論」を超える土地所有論の領域に持ち越されること
5.資本主義と農民・小土地所有
マルクスの問題意識 ~農民の「人格的自立」や「農業の発展」は、自由な土地所有の成立を必須の「通過点」とするのか/そもそも、それを経なくても、コミューン的自治や土地の共有にもとづく共同体での「民主主義的自治」によって獲得できるか
~国際的な革命運動から突きつけられたこの難問に、ロシア共同体などの研究に精力的に取り組んだ
6.農民層分解と集落営農
(1)戦後日本の農業問題研究・・・農地改革後の自作農の分解過程の把握から開始/ それは労農同盟論と強く結びつき
~「共産党宣言」 小農民的土地所有は「工業の発達がすでにそれを廃止したし、またいまなお廃止しつつある」と、農民層分解の急速な進展を前提に、かれらが革命的になるとすれば「プロレタリアートの中に落ち込むことがせまっていることをさとった場合」/エンゲルス「フランスとドイツにおける農民問題」(1894)でも同様 小農は「未来のプロレタリアである」とし、「農民のままでわれわれの味方に獲得できる農民の数」を増やすことを、革命の性リュクとした/農民層分解→労農同盟→革命
・農地改革後の日本 1961年農業基本法は、高度経済成長が農業労働力の流出を通じて農民層分解が促進するとしたが(メモ者 規模拡大よる集中)/経済の巨大な格差構造は解消せず。農民層の脱農は容易でなく、兼業・高齢滞留が顕著に
・が、農政は、農業内部で、圃場整備を基盤として機械化による生産性格差をプッシュ要因として分解を進めようとした/他方、60年代、政府米価は労働者の賃金アップに連動して引上げられ、労農の利害が一致
・70、80年代 コメ過剰が構造化、米価安の中、賃金と米価の連動性は崩れ、一方、輸入自由化圧力の高まり
⇔農家の兼業深化、高齢化の進展。それによる作業委託・農地賃貸の傾向の強まり、一定の上層農の形成
→が、上層農だけで地域の農業は支えられない/地域では、個別的な「生産力の担い手」よりも、面的な「農業生産の担い手」への期待がたかまった(メモ者 水、農道など共同管理、地域の担い手としての役割など)
/労働組合主流から、農産物価格引き下げ、輸入自由化を要求する声の強まり~労働者の大半が農家子弟でなくなってきた
・一方、新鮮・安全な農作物を求める産直遠藤の高まり/農業支える国民運動の動き、農村社会の持続性、環境を守る動きに
・現状 2020年農業センサス/15年との比較
農業経営体▲21.9%、経営耕地面積▲5.3%、個別経営の基幹的農業従業員数▲22.5%(20年平均年齢69.4歳)
/農業経営体数で増加するのは10ha以上の層。30ha以上は3割以上の増/農産物販売金額別では3千万円以上のみ増(76.4%増)、法人経営体も3.1万に ~ 「農業衰退の中の農民層分解」
・トップ層の実態はどうか~ 水田作経営体 50ha以上、2018年
経営面積89.7ha、担い手(専従者換算)7.83人、総収入1億2269万円、うち農業7183万円、農業の経営利益▲3149万円
農業所得3712万円~国の直接支払い(共済、補助金)3982万円に支えられている
~担い手の約半分の雇用者の時給1347円の「搾取」の上、専従構成員(雇用主)一人当たりの農業所得900万円も補助金でささえられており、「資本家」とはいえない実態~ 助成金単価に振り回される経営
(2)協業としての集落営農
・農業問題研究・・・ 地域の農業、国民の食料を、誰が、誰と連携して、どう守っていくのか、という課題に迫る必要
⇔ 政府 担い手に農地の8割(現状57%)~が、これ以上の集積は、中山間地をはじめ地域農業を崩壊させるのではないか。大規模法人経営の性格をどう見るか、国の直接支払い政策をどう位置付けるか、食料・農業・農村基本法(99年)は、自然循環型農業を提起しているが、誰が担うのか、が問われている
・注目される「集落営農」・・・水田農業集落を基盤に、複数農業者が協業して農業経営に取り組むもの
⇔ 土地利用型農業は「規模の経済」が働くが、「個別経営の拡大」と「協業」の2つの道がある /「資本論」 協業を生産力発展の土台においている ⇔ 集落営農も協業の組織化の1つ
・農業集落は、田んぼ一枚一枚は私的所有だが、水利・農道等は地域資源として共同管理/「村の土地は村が守る」規範
⇔ マルクスはゲルマン共同体を「個人的土地所有者そのものの相互間の連関」「現実の集会」として存在する(草稿集)
→日本の水田集落は、水利施設など物的基礎を持って「相互の連関」「集会」として存続し、外部の危機にも対抗してきた
・現在、西日本で「集落営農」、東日本では少数担い手農家が組織と、形は違うが協業の組織という点は同じ。また、集落営農が法人化し、雇用を取り入れ、雇用者の中から経営トップを確保など、企業形態とかわらなくなっている例も
⇔ が、地域・集落を基盤としている以上、「むらの土地はむらで守る」の精神を引き継がれ、地域資源管理により有効性を発揮していく可能性はある
・集落営農は、水田農業に適している。野菜、果実は家族経営が主体/が、共同販売、直販組織化など様々な共同の追及
*マルクスは、合理的農業はそもそも市場メカニズムや資本主義になじまない/、としているが、そのただなかにいる我々は、有機農業に限らず「人間と自然との物質代謝」に即した「合理的農業」の多様な在り方、食料・地域・環境の持続性を追求することを通じて、市場メカニズム、資本主義経済そのものの限界を明らかにする必要がある。
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