東海第2 運転差し止め 深層防護5層 避難計画は実行不可能
日本の原発は「格納容器はこわれない」ことを前提にし「止める、冷やす、閉じ込める」で十分対応できるとしてきたことで、仮に放射性物質が漏れても原発敷地内に留まるとし、人口密集地に近くにも原発を建設してきた。
それが福島事故で根底から崩壊。既存原発が存続できなくなり、原発立地審査指針を放棄せざるをえなくなった。無視してきた深層防護についても採用せざるを得なくなったが、過酷事故がおこった際に住民の安全を守る第5層は、そもそも「格納容器はこわれない」という偽りの前提で原発を建設したため、実行ある避難計画は不可能。規制庁の審査の対象から事実上外した。当初から、ここが最大の弱点であった。
深層防護は、5つのレベルが互いに独立して実効性を保てなくてはならない。4層までが、仮に徹底的した対策をとっていても、5層に穴があれば、なりたたない。
難しい専門的な技術論ではなく、避難計画の実効性は、極めてよくわかる話。よって、この判決の意味するところは大きい。
ちなみに、先の「同性婚」の判決といい、命、個人の尊厳に向き合う時に、ジェンダー平等が果たす役割の大切さを実感させてくれる。
【東海第2 運転差し止め 水戸地裁「防災極めて不十分」 赤旗3/19】
【東海第 2 原発差止訴訟団・弁護団 声明 2021.03.18】
【原子力安全文化は存在しない。あるのは経済エゴのみだ。―柏崎刈羽原発核物質防護措置機能喪失と東海第二原発差し止め勝訴をうけて― 原子力資料情報室 3/18】
【東海第2 運転差し止め 水戸地裁「防災極めて不十分」 赤旗3/19】
日本原子力発電東海第2原発(茨城県東海村)をめぐり、茨城県などの住民ら224人が原電を相手取り運転の差し止めを求めた訴訟で18日、水戸地裁の前田英子裁判長は「人格権侵害の具体的危険がある」と述べ、運転の差し止めを命じる判決を言い渡しました。(関連15面)
主な争点は、耐震設計の目安となる地震の揺れ(基準地震動)の評価や、人口密集地での広域避難計画の策定など。
原告側は基準地震動が過小に評価されていると主張。首都圏唯一の原発で周辺30キロ圏内に全国最多の94万人の人口を抱えることから、避難の困難性などを訴えていました。
判決は、避難計画を実行し得る体制が整えられていると言うには程遠く「防災体制は極めて不十分で安全性に欠け、人格権侵害の具体的危険がある」と指摘。「多数の周辺住民の生命、身体に重大かつ深刻な被害を与えることになりかねない」と断じました。基準地震動の評価は「過誤、欠落があるとは言えない」としました。
判決後の報告集会で河合弘之弁護団長は「『避難できない』という一点で勝利した素晴らしい歴史的判決。原告の結束が今日の判決を勝ち取った」と評価しました。
原告は2012年7月に提訴。同原発は東日本大震災以降、停止中です。原子力規制委員会は18年9月、被災原発として初めて新規制基準にもとづく安全審査への「合格」を、同年11月には最長20年の運転延長を認め、原電は22年12月完了をめどに再稼働に向けた工事を進めています。
◆解説 人口密集地 避難容易でない 3/19
「東海第2発電所の原子炉を運転してはならない」―。判決が言い渡された瞬間、法廷内は安堵(あんど)の雰囲気に包まれました。
提訴から8年半。首都圏唯一の原発に運転の差し止めを命じる画期的な判決が下されました。
水戸地裁の前田英子裁判長は、周辺人口94万人を抱える同原発の立地性を重大視。原発事故に伴う避難の困難性を強調しました。
判決は原子炉を設置する際の5段階の「安全対策」(「深層防護」)に言及。このうち、放射性物質が大量に放出された場合を想定した第5の防護レベルを達成するためには「実現可能な避難計画と、実効し得る体制が整備されていなければならない」と指摘し、「人口密集地帯の原子力災害における避難が容易ではないことは明らか」と断じました。
また判決は、原子炉の運転により発生した事故は「他の科学技術の利用に伴う事故とは質的にも異なる」と指摘。「深層防護」の一つでも失敗すれば事故が進展し「多数の周辺住民の生命、身体に重大かつ深刻な被害を与えることになりかねない」と主張し、「人格権侵害の具体的危険がある」と述べました。(茨城県・高橋誠一郎)
【東海第 2 原発差止訴訟団・弁護団 声明 2021.03.18】
本日、水戸地方裁判所(前田英子裁判長)は、原告らの訴えを容れて、東海第二原発の運転を差し止めるという判決を言い渡しました。
東海第二原発は 2011 年の福島原発事故で被災した原発の一つであり、また運転開始からすでに 40 年以上を経過した老朽原発です。また、周辺自治体の多くが、その安全性に疑問を呈し、また避難計画の立案が困難であることを理由に再稼働には反対する意見を表明しています。
今日の判決は、原発の安全性について判断する枠組みについて、深層防護の第 1 から第 5までのレベルのいずれかが欠落し、不十分なことが具体的危険であるとしました。
そして、第 1 から第 4 までのレベルについては看過しがたい過誤欠落があるとは認められないとしたものの、避難計画などの第 5 の防護レベルについては、原子力災害重点区域である PAZ,UPZ 内の住民が 94 万人にも及ぶにもかかわらず、実現可能な避難計画、これを実行しうる態勢が整えられているにはほど遠い状態であり、この区域内に居住する原告には人格権侵害の具体的な危険があると判断したものです。
このような判断の背景には、裁判所が具体的な事故の危険性があるという判断が前提となっており、看過しがたい過誤欠落とまでは認められませんでしたが、地震、耐震設計、老朽化、経理的な基礎の欠落、火山、津波、火災、重大事故対策などの多くの論点について原告側が展開した論点についての立証も、結果としては活きていると考えます。
福島原発事故から 10 年を経過し、国民の過半数が脱原発を望んでいる状況の下で、また、多くの地域住民の再稼働を止めてほしいという切なる願いにこたえたものであり、画期的な司法判断であるといえます。このような判断を下した勇気ある裁判官の皆さんに、心からの敬意を表します。
原告らは、被告日本原電に対して、この厳正な司法判断に服し、東海第二原発再稼働の無謀な計画を断念し、控訴をしないように強く求めるものです。
《東海第二原発一審争点3/18》
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【原子力安全文化は存在しない。あるのは経済エゴのみだ。―柏崎刈羽原発核物質防護措置機能喪失と東海第二原発差し止め勝訴をうけて― 原子力資料情報室 3/18】
3月16日、原子力規制委員会は、東京電力の柏崎刈羽原発で核物質防護措置機能が一部喪失していたとして核物質防護に関する4段階の評価の中で最も深刻な赤にあたるとの暫定評価を示した。3月18日には、水戸地裁が日本原子力発電(日本原電)の東海第二原発の運転差し止めを命じる判決を下した。
原子力規制委員会の資料によれば、東京電力は柏崎刈羽原発において、2020年3月以降、複数箇所において不正な侵入を検知できない可能性がある状態となっており、不正な侵入を検知できない可能性がある状態が30日を超えている箇所が複数あったとされている。また、2018年1月から2020年3月までの間においても、同原発の核物質防護設備の機能の一部喪失が複数箇所で発生し、復旧に長期間を要していたという。東京電力は2011年の福島第一原発事故は言うまでもなく、2002年に発覚したトラブル隠ぺい事件も引き起こしている(隠ぺいしていたトラブル自体は1986年以降)。東京電力は、安全を守れないどころか、核物質という危険な物質を取り扱う資質すら持ち合わせていないことを、自社の行いから立証してきた。
東電福島第一原発事故後、事実上国有化された東京電力が巨額の支援を行って支えてきたのが日本原電だ。同社は1957年、9電力および電源開発などの出資によって設立された原子力発電専業の卸電力会社だが、同社の東海第二原発は2011年の東日本大震災で被災し、その後10年間運転できないまま今日に至っている。ほかに敦賀原発2号機を有するが、これも2011年以降稼働できていない。つまり、売電によって売り上げを立てるはずの同社は、この10年間ほぼ何らの価値も生み出してこなかった。にもかかわらず、東京電力・関西電力・中部電力・東北電力・北陸電力の5社は同社に対して、電力料金として、年間平均1200億円、2011~2019年の総額で1兆円超を支払っている。こうした費用は当然のように電気料金に加算されている。電力各社は企業としての経済合理性を投げ捨てて同社を支援してきた。
しかし、もはやこれまでである。日本原電は東海第二原発の工事完了予定を2022年12月としているが、周辺自治体から再稼働の了解を得られるかどうかは不明確だ。今回の判決要旨は「避難計画等の第5の防護レベルについては、本件発電所の原子力災害対策重点区域であるPAZおよびUPZ(概ね半径30km)内の住民は94万人余に及ぶところ、原子力災害対策指針が定める防護措置が実現可能な避難計画及びこれが実行しうる体制が整えられているというにはほど遠い状態であり、防災体制は極めて不十分」だと判断しているが、これはまさに正鵠を射た指摘だろう。
また、当室の分析では、東海第二原発の発電コストは2022年再稼働の場合でも15.9円/kWh以上であり、この額は稼働時期が延びれば延びるほど高くなる。どのようにしても、同社の経済性のなさは明らかである。経済性の欠如は、当然同社の原発の安全性にも大きな影響を及ぼす。
東京電力は柏崎刈羽原発の再稼働を前提とした経営再建策を描いてきた。日本原電は東海第二原発の再稼働は同社の存在意義に等しい状況となっている。いずれも周辺住民へのリスクは置き去りに、自社の経済エゴを全面に押し出してきた。
東京電力福島第一原発事故やチェルノブイリ原発事故、スリーマイル島原発事故、世界で3回(数え方によっては5回)引き起こされたシビアアクシデントのいずれもから、その根本的な背景には関係者の原子力に対する恐れの欠如を読み取ることができる。事故や不祥事の度に、繰り返し「原子力安全文化」の強化がうたわれてきた。しかし、そのまさに当事者である東京電力でさえこのありさまである。東海第二原発についても事実上、実効性のある避難計画が策定出来えないにもかかわらず再稼働を求めてきた日本原電、それを後押ししてきた他の大手電力や国にかんしても、もはや、原子力安全文化は存在しないというべきである。このような国・事業者に原子力を取り扱う資格は存在しない。即刻原子力から撤退するべきだ。
以上
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