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「税逃れ」への対抗 ~ 21世紀の「課税権力のグルーバル化」(メモ)

・経済のグローバル化とデジタル化が進み、資本主義の構造が変化/その一つが、多国籍企業と富裕層の税逃れの激化と税制の不平等化。それに対する国際的な新たな取り組み--「ネットワーク型課税権力」を構築する動きが進んでいる。

・「課税新時代」とのタイトルで、京都大学の諸富徹教授に「聞く」(202102252627)からのメモ

 ★もろとみ・とおる 1968年生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。現在、京都大学大学院経済学研究科教授。専門は財政学・環境経済学。著書に『グローバル・タックス』『環境税の理論と実際』など。

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【画期的な解決策浮上】

■経済のグローバル化とデジタル化が世界の税制に与えた影響 ・・・・「応能負担」の原則の崩壊

 20世紀の合意事項・・・「税負担は負担能力のある人と企業がより多く担う」という「応能負担」の原則

・1980年代以降のグローバル化とデジタル化によって、「応能負担」の原則に基づく税制が崩壊

~ 世界がコンピューターでつながってクリック一つで右から左へ資産を移すことが可能になり、国境を越えた資本移動が劇的に増え、租税回避地を使った税逃れが容易になったから

 

◆租税競争に突入

 ・富裕層の所得が海外に流出することを恐れた政府→ 所得税の最高税率を次々に引き下げ、所得税をフラット化

・企業の所得や活動が海外に流出することを恐れる政府→ 法人税率を引き下げる「租税競争」に突入

 ★国境を越えて移動しやすいものと移動しにくいもの ~ 課税対象による格差、所得再配分機能の喪失

・移動しやすい金融所得、企業活動・・・ それらにかかる税率は引き下げ

・移動しにくいのは労働所得、消費活動・・それらにかかる社会保険料や消費税(付加価値税)率は引き上げ

 ~金持ちは税金から逃れる手段を持ち、普通の人には逃れる術がないということ/ 結果、税逃れの激化を伴ってグローバル化とデジタル化が進めば進むほど、税制の負担構造は逆進的で不平等になった

→ 高所得者から低所得者へと税負担が転嫁され、所得再分配機能が失われていった。

 

★税制の不平等化 = 貧困と格差の拡大に

・税制や社会保障制度は本来、高所得者から低所得者へ所得を再分配する機能を持つ

→ が、貧困と格差は、再分配前の所得と再分配後の所得の両方の要因によって拡大

  世界では1980年代以降、株主資本主義と呼ばれる株主ファーストの企業経営様式が広がり、株主への配当要求が強化

 ・従来の日本企業  配当を抑制し、研究開発と設備への投資をしっかりしてから労働者に回すやり方

2000年以降、一気に配当ファーストの株主資本主義に変質

→ 賃金をカットして配当を増やし、(メモ者 設備や人材への投資を抑制し)企業買収を恐れて内部留保も増やす行動に

 

★{労働者の賃金カットと非正規化で再分配前の所得が低下し、中間層が没落} + {税制と社会保障による所得再分配機能が弱まり} / 合わせ技で貧困と格差が広がった

 

◆国際協調し課税

 ・問題の所在~ 企業が多国籍化し国境を越えて活動しているのに対し、国家は国境を越えられないので企業に課税権力が及ばない/両者のギャップに問題がある

~ グローバル化によって国家が資本をコントロールする機能を喪失したともいえる /各国は一国単位で対応する努力も行ってきたが、それだけでは限界

 ・この問題に対する解法は「課税権力のグローバル化」しかない~ グローバル化した資本の動きに合わせて、課税権力も国境を越えてグローバル化するということ

 ⇔ 世界政府のような国際機関の創出は当面難しい /各国政府の課税権力に依拠しながら、国際協調のネットワークによってグローバルな課税権を構成していくことになる

 OECDを中心に議論されている国際課税ルールの見直しは、まさにそういうもの/根本的な解決に近づく、画期的な変化が起きている。

 

【税逃れから利益得る人々】

◆多国籍企業の税逃れ=無形資産が大きな役割

 ・建物や機械設備などの有形資産に対し、特許や商標権などの無形資産は物理的形状を持たない/移動コストがゼロで租税回避地への移転が容易

・2000年代以降にデジタル化が加速/ビジネスの中核に無形資産が据えられるように変化。無形資産の価値が増大し、それを利用した節税効果も大きくなった。

~ 租税回避地の子会社に無形資産を保有させ、そこに所得を集中させて海外での法人税負担をほとんどゼロにすることが、多国籍企業の常とう手段に/多国籍企業の税逃れが膨らんできた要因

 

・この税逃れで、税引後利益を大幅引き上げ ⇔ 配当の増額、株価の上昇を通じて株主の資産増

→ 企業経営陣の使命=株主価値の最大化 / 税逃れを極限まで推し進めることは、株主に忠実な経営陣の当然の行動だというのが彼らの見解

→ そこには公平課税の実践を引き受ける納税倫理もなければ、「納税を通じて国家を支える」という自負もない

 

・税逃れの手段を持たない国内企業は、多国籍企業との競争において不利に/多国籍企業による独占・寡占化傾向に拍車がかかり、公正な市場競争は絵に描いた餅になる

  

◆「ビッグフォー」

 ・利益を得るのは、多国籍企業とその株主だけではない/大きな力を持っているのは「租税回避産業」といわれる世界4大会計事務所=デロイト、アーンスト&ヤング、KPMG、プライスウォーターハウスクーパースの4社、「ビッグフォー」

→「ビックフォー」/世界各国に専門家を置いて複雑な税制の全体を調べあげている。全世界に25万人の従業員がいるといわれている/膨大なコスト。が、それを上回る利益が上がるということ

 ・彼らの仕事/ 多国籍企業に対して各国での税金の納め方についての助言とともに、世界全体での税負担額を最小化するための提案 

→ 首尾よく税逃れに成功すれば、対価として多国籍企業から高額報酬を得られる

 

・租税回避産業の視点 = 税制をめぐる国際協調をできる限り低い状態にとどめておくことが有利

→ 国際協調が進展し、税逃れの余地がなくなることは、ビジネスチャンスを失う「悪夢」

→そのため、市民社会が提案する合算課税(ユニタリータックス)のような根本的な改革提案を攻撃 = 「非現実的で実行不可能だ」といい続けてきた

 *が、合算課税は、OECDが提案する国際課税の新ルール案に、部分的に取り入れられた!

 

◆OECD 合算課税を提案

 画期的な変化 ⇔ OECDも長らく現状を固定化する役割を担い、合算課税の採用を強く拒絶

⇔ が、デジタル化が進み、無形資産を活用した多国籍企業の税逃れが深刻の度を増し / 従来の国際税制の手直し程度では問題の解決にならないことは明白になってきた

 ・「合算課税とは」・・・各国ごとにばらばらに多国籍企業の子会社の利益を確定するのではなく、まずは多国籍企業グループの利益をすべて合算して全体利益を把握するという方式 / その全体利益を一定の基準に沿って公平に切り分け、各国に配分していく

→ 租税回避地への利益移転は無効になる/無形資産価値の評価に伴う恣意的な利益配分も避けることができる

 *現在OECDは、多国籍企業の利益の一部(残余利益)に対して合算課税を導入することを提案 ~ これは合算課税が実行不可能ではないことを示すもの

 

【 課税権力のグローバル化 】 

◆目の前で進行

・合算課税・・・多国籍企業グループが全世界であげた利益を合算し、単一の全体利益を把握する方式

⇔ 実行のためには、企業の所得の定義を世界共通のものにする必要 /各国ごとに企業の利益と費用を足し合わせるためには、企業活動に関する国別の情報を集約が必要

この段階で、各国の課税権力は国境を越えて強力に結びつき、ネットワーク化され、協力し合う関係になっていく

 *企業が国境を越える経済活動を活発化させ、税逃れを激化させてきたのに対抗して、国家の側も国際課税ルールの共通化という形で国際協調を進め、税逃れを封じ込めようとしているという構図

⇔ 国家こそが課税主権の唯一かつ排他的な主体であるという、19世紀以来の国家観からの脱却をも意味する/私たちは、「課税権力のグローバル化」が目の前で進行しつつあるのを目撃している。

 ・ただし、国民国家を超える世界政府のような課税主権を生み出すのとは違い、現行の国家単位の課税主権は維持

⇔ 把握された多国籍企業の全体利益は、ケーキにナイフを入れるように切り分けられ、各国に配分

⇔ その後は、従来と同じように各国ごとの徴収機関が課税

国家の課税主権を前提にして国際協調体制を深化させることで創出される21世紀型の新しい課税権力= 「ネットワーク型課税権力」

 

◆世界共通の最低法人税率の提言

 OECD 世界共通の最低法人税率を導入するという提案 ⇔  これも画期的

⇔ 各国の法人税率を引き下げる「底辺への競争」を食い止める方法は最低法人税率の導入しかない/それが日の目を見る段階に。少なくともOECDが提案するところまでたどり着いた

 

◆市民が怒りの声 「課税権力のグローバル化」が進む背景

 ・変化は2010年代半ばぐらいから ~  それまで、OECDは「合算課税なんて非現実的だ」と主張

・が、無形資産によって増幅された多国籍企業の税逃れの実態が暴かれ、これを放置していたらひどくなるばかりだと、欧州諸国が突き上げ ~ 遠因は2008年のリーマン・ショックと、それに続いた欧州債務危機

 低信用層向け高金利型(サブプライム)住宅ローンで火遊びをした金融機関は、公的資金で救済 /が、一般市民は不況と緊縮財政で塗炭の苦しみ ⇔ 「なんだ、これは」と市民が怒りの声をあげた

→ 消費者や労働者の負担をこれ以上増やせない情勢の中で、税逃れしている多国籍企業からとろうという各国政府の問題意識の高まり/ 金融部門に負担を求める金融取引税のアイデアが出てきたのもそういう脈絡

 パナマ文書 ・・・租税回避地の実態が全世界に知れ渡り、租税回避地の側が改革の動きに抵抗しきれなくなってきた事情

 

◆変わる税制議論 ~ 消費税に頼らない別の道がある

 ・日本では求められる運動~税制をめぐる世界の議論は変化 /日本では、「社会保障を望むなら消費税率を上げるしかない」といわれてき。/が、そうではない道があることを国民に知らせる運動が必要

 企業活動のグローバル化に対抗する「課税権力のグローバル化」はもう始まっている

⇔ OECD 今年半ばまでに合算課税と最低法人税率導入の最終合意に達することをめざしている/企業側の抵抗があり、紆余曲折はあるが、それらを実行できる基盤が整いつつある

★国際的な潮流を踏まえて、税制をめぐる議論の構図を変えていかなければならない

 

【経済アングル】 

 ★税逃れ対策への追い風  2021/3/2

 ・20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に出席したイエレン米財務長官~ 2月26日、税逃れ対策を骨抜きにするトランプ前政権の提案の撤回を表明

 ・OECDが中心となって策定作業を進める国際課税の新ルール案⇔ 、(1)多国籍企業の利益の一部に合算課税(ユニタリータックス)方式を適用する (2)世界共通の最低法人税率を導入するという2本柱

・合算課税~ 国際課税方式を根本から改める内容で、市民社会が強く導入を求めてきたもの/各国がばらばらに多国籍企業の子会社の利益を確定する現行方式に対し、多国籍企業グループが全世界であげた利益を合算して全体利益を把握した上で、一定の基準に基づいて各国に配分するのが合算課税方式

~こうすれば、軽課税国の子会社に利益を移して課税を逃れる多国籍企業の行動を無効化できる

 ・が、トランプ前政権  2019年12月 突如、合算課税が適用されるかどうかを企業の選択に委ねる、骨抜きにする提案

⇔ EU諸国をはじめ、多くの国が米国の提案に懸念を表明/ その提案をバイデン政権が撤回するのなら、今年7月のG20会合で2本柱の新ルール案に合意できると、各国閣僚から期待の声が相次いでる

 

★国際競争力論への反撃 2021/3/5

  国際税制の歴史に新たな一ページが刻まれつつある、合算課税導入の動きについての諸富教授の感想

 「ここまでくるかと思いましたね。議論の経緯やOECD(経済協力開発機構)の従来のスタンスを知っていると、中でクーデターでも起きたのかなと思うぐらいの急激な変化でした

~ 合算課税方式の導入を強く主張してきた市民社会。それを拒絶する立場だったOECD。多国籍企業の税逃れの実態が次々に暴かれ、怒りの世論が沸き起こる中、部分的導入の方針へ急転換。

  不公正な税逃れ競争、破滅的な法人税率引き下げ競争の克服に向けて、世界は大きな一歩を踏み出そうとしている。/企業減税・庶民増税の根拠とされてきた国際競争力論への、強力な反撃 !

 

  

   

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