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財界の春闘方針~「経労委報告」を読む 21.02 (メモ) 

 労働総研事務局長 藤田実さん による経団連が春闘の財界側指針となる「経営労働政策特別委員会報告」を読むからのメモ(赤旗 2021021920232426 連載)

 連載の最後には「21春闘の課題」として“正規労働者と非正規労働者の本格的な格差是正、1500円を視野に入れた全国一律の最低賃金制度の確立、社会保障の拡充による生活保障の確立、人権と生活を保障する外国人労働者政策への転換 などの課題への取り組みこそポストコロナ時代の労働運動となる、と結んでいるが、これらの課題に、財界がどう臨もうとしているか、対決点がどこにあるか、よくわかる内容となっている。

「経労委報告」を読む 21.02 (メモ) 

■国民の苦難を顧みず

・コロナ禍で出された『経労委報告』・・・第一印象は、国民の苦難に寄り添わない報告

 ・第1章「『ウィズコロナ』時代における人事労務改革の重要性」~ テレワークの普及による「場所と時間に捉(とら)われない働き方」に伴う経営側から見た問題点や地域と中小企業の活性化などの問題を取り上げている

・第2章「労働法制の改正動向と諸課題への対応」~改正高齢者雇用安定法や副業、フリーランス問題、最低賃金制度における経営側の主張を展開

・第3章「2021年春季労使・協議における経営側の基本スタンス」~春闘に対する主張を展開

 *コロナ禍で苦しんでいる中小企業や非正規労働者の実態を取り上げ、企業や政府に対応を促す内容はほとんどない

 ◆労働者収入激減

・コロナ禍で飲食業や宿泊業、観光業、娯楽業、運輸業などサービス業を中心に多くの業種で営業自粛を強いられ、労働者は大幅な収入減により生活困難に陥っている

・「労働力調査」~20年の就業者数6676万人、前年比で48万人減、完全失業率2.8% 前年比0・4%増

~特に非正規労働者 男性665万人、26万人減に対し、女性1425万人、50万人減、女性は男性と比べて約2倍の減少

 *コロナ禍で営業自粛や時短で売り上げが減少した企業で雇い止めが相次いだり、シフト減で辞めざるをえなくなり、それが非正規雇用の女性に集中/20年 女性就業者のうち非正規労働者54・3%となっていることの反映

 ◆女性が生活苦に

・女性の非正規労働者の収入が大きく減少~ NHKとJILPT(労働政策研究・研修機構)の共同調査(20年11月)/収入3割以上減少した割合 男性15・6%、女性非正規労働者26・1%、シングルマザー24・6%。

→ 約4分の1の女性非正規労働者の収入が大幅に減少し、生活困難に陥っている

 ・しかも非正規労働者という理由で、休業補償を受けられない女性労働者が多く存在 ~ 野村総研の調査/シフト削減などで仕事が激減しても休業手当を受けていないパート・アルバイトが女性だけで約90万人と推計 

→ 大幅な収入減に直面した労働者は、食費を切り詰めて生活を維持しているのが実態

 *コロナ禍で特に女性非正規労働者が苦境 ⇔『経労委報告』、全く言及がない/少なくとも労働者の苦しみに対して企業はどのように対応すべきか、明らかにする必要がある/今年の『経労委報告』は、経済団体としての社会的責任を果たしてない

  

■コロナ乗じ賃金抑制

・『経労委報告』/労働者に対してエンゲージメント=「働き手にとって組織目標の達成と自らの成長の方向性が一致し、…組織や仕事に主体的に貢献する意欲や姿勢」により労働生産性の飛躍的向上を求める一方、賃金等の引き上げには後ろ向き

 ・「今次労使交渉に臨む基本姿勢」/「自社の事業活動へのコロナ禍の影響に関する情報を正しく共有し、当面の業績見通しなどについてもできる限り認識を合わせた上で、…自社の実情に適した賃金決定を行う」

~ つまり、コロナ禍の影響と今後の企業業績を認識すれば大幅な賃金引き上げ要求などは論外だということ

 ◆好業績企業まで

・業績の良い企業/定期昇給などを実施した上で、実情に合わせてベア(賃上げ)を行うことも選択肢~賃上を容認

・が、コロナ禍で業績が落ちている企業が多数 ~業績の良い企業でも「ベアなど論外」という雰囲気が形成されかねない

~トヨタ 21年3月期の営業利益2兆円、純利益は1兆9000億円という好業績の見通し/が、トヨタ労組は要求段階でベアの有無を明らかにしてない。/他の組合も追随すれば、社会全体でベアによって生活改善を図るという春闘の意義が失われる。

⇔ 業績の良い企業まで含めて「ベア自粛」すると、経済が反転する契機が失われ、長期低迷に陥りかねない

/業績不振に苦しんでいる企業は多数存在。特別の政府支援が必要

 ◆内部留保還元を

・『経労委報告』~ため込んだ現預金/運転資金、海外企業のM&Aなどに活用しているとしているが・・・

→労働総研/不要不急の内部留保 290兆円。財界は、危機の時のためと溜込でいると主張してきた・・今こそ取り崩すとき

 ・ベア配分に当たっては、「職務等級・資格別や階層別の配分、業績・成果等による査定配分など、個々人の仕事・役割・貢献度等に応じて重点化を図る」ことを求めている⇔ ベアも個々の業績・成果の評価に応じて格差を設けて配分

→春闘でベア獲得しても、配分は自分の業績次第になる/労働者は目標を超えた成果をあげて自分の評価を高めることが求められる/ エンゲージメントを高める=自分の成長が企業の成長でもあるという意識をもち、企業成長に向けて邁進(まいしん)することが求められる

 *財界が求める社員像/意識レベルでも企業との同一性を求めるもの ~ 『経労委報告』が掲げるダイバーシティー(多様性)とは、表面的・外面的なものである

 

■惨事便乗型の「改革」

・苦境にある国民生活を無視するだけではなく、コロナ禍を利用して賃金制度、働き方を変えようという「惨事便乗型」

・特にコロナ禍によるテレワークの普及・定着をにらんで、「柔軟な働き方」の推進を掲げ、労働法制の規制緩和を求めている

~テレワークにおけるフレックスタイム制、「事業場外みなし労働時間制」の導入・拡大、厚労省ガイドラインにおける時間外・休日・深夜労働の原則禁止の見直し、裁量労働制の対象拡大、「ジョブ型雇用」の導入、副業・兼業の推進などを提言

 ◆時間管理を緩和

・テレワークにおける労働時間管理のあり方を検討すべきである、と主張

~現行法制  テレワークでも労働基準法の労働時間管理原則が適用/19年4月施行の改正労働安全衛生法では、「事業者は、高度プロフェッショナル制度適用者を除く全労働者について、その労働時間の状況を、客観的な方法等によって把握しなければならない」と規定

→ 財界は「柔軟な働き方」による労働生産性向上を妨げていると考えている

 ・在宅勤務の場合、私生活時間と労働時間をどう区別するか、どのように労働時間を正確に把握するかが問題になる

→が、労働時間管理が難しいからと言って、『経労委報告』の主張=労働時間管理を「柔軟」にする、労働時間管理を行わない、という規制緩和をすれば、長時間労働が野放しに

 ・厚労省の委託調査(2020年11月)/時間外、深夜・休日労働に関して、在宅勤務の方が多いという回答は少ない(企業調査)、一方、労働者調査では時間外労働を「働いた時間よりも実際には短く報告することが多い」と回答

→連合の調査 / 時間外・休日労働を行った労働者38・1%、時間外休日労働を申告しなかったことがある労働者65・1%。その結果、通常の勤務よりも長時間労働になることがあった労働者51・5%

 *家庭内では、労働時間が私生活に容易に食い込みやすいため。

 ◆自律的働き方を

・テレワーク/目標設定が過大な場合・・・長時間労働になり易い、評価を恐れて正確な時間を申告しないケースが多くある。

・労働時間管理の規制緩和、管理なしが導入されれば ⇔ 家庭内で長時間労働、私生活圧迫される場合が出てくる。

~真に自律的な働き方にするためには、私生活を圧迫しないように、在宅勤務中の「つながらない権利」の確立が必要

→ EUでもコロナ禍でリモートワークが拡大し、時間外でのメール対応が増加/そこで、「勤務時間外や休日などに、仕事上のメッセージや電話への対応を拒否する権利」の確立を求める動きが出ている

*リモートワークを推進するならば、日本でも「つながらない権利」の確立が必要

  

■「解雇自由な世界」狙う

・「ジョブ型雇用」・・・労働者はジョブ(職務)で採用され、仕事をするというもので、欧米では一般的な働き方

~労働法学者の濱口桂一郎氏が約10年前に使用した言葉。だが、限定正社員制度などを除けば、普及していない。

・昨年の『経労委報告』~「メンバーシップ型」と欧米流の「ジョブ型」の組み合わせの検討を提起/20年3月、日立製作所で実際に「ジョブ型雇用」の導入が発表された。

*コロナ禍でテレワークが普及・定着 ⇔ 生産性を向上させるためには、職務を明確にする「ジョブ型雇用」の導入が必要/との議論が財界などでされるようになってきている。

 ◆日本的ジョブ型

・今年の『報告』/自社に適した雇用システムのイメージ図を示し、「ジョブ型雇用」を導入する際の論点を5項目から提起

⇔職務調査・分析、適用範囲、処遇制度、採用・人材育成、キャリアパスの5つ/どう導入すべきか、注意すべき点など記載

・経団連  欧米の「ジョブ型」ではなく「日本的なジョブ型」を想定

~例えば、「ジョブ型雇用」でも、「顕在化した『個人の力』による成果や業績を適切に反映する仕組みが必要である」として、「目標の達成度」「業務の成果」「仕事や役割の重要度・難易度」などの評価基準を示している

 → 本来の「ジョブ型雇用」/ 知識や経験、資格などから判断して担当する職務能力のある労働者を配置するのが基本なので、職務能力の発揮度を評価するというのはありえない話

 ・新卒採用でも適用するとしている/が、欧米のように長期のインターンシップを経験して職務能力を高めて採用に至るのとは違い、一部を除いて日本の大学教育やインターンシップでは具体的な職務能力を身につけることを目指しては、いない

~ 新卒者の職務能力を判定できるのか疑問

 ◆曖昧に定義して

『経労委報告』が目指す「ジョブ型雇用」・・・本来の「ジョブ型」ではなく、日本的に変容されたもの、すなわち職務能力を曖昧に定義しておいて、能力の発揮度を評価するもの

・財界が「ジョブ型雇用」を導入するねらい ⇔ 解雇規制を緩和して、「解雇自由な世界」をつくり出すこと

~日本の「ジョブ型雇用」/職務能力を厳格に判断しないで採用・配置する可能性が強い⇔ 職務能力がないと判断すれば、解雇できることになる

 ・事業構造の転換による工場の閉鎖などで職務自体がなくなれば、配置転換の努力などをすることなく解雇できるようになる。/『経労委報告』にも「ジョブ型雇用社員が担う仕事・職務や役割・ポストが不要となった際に雇用継続に対する不安が生ずる」

 *「ジョブ型雇用」導入で、企業の判断で解雇しやすくなる/労働者には「解雇自由な世界」が待っていることを注意すべき

  

■労働社会の問題解決を

・今年の『経労委報告』~副題に「ウィズコロナ時代を乗り越え」、第1章のタイトル「『ウィズコロナ』時代における人事労務改革の重要性~『ポストコロナ』を見据えて」と、コロナ禍を意識

・が、国民の苦難にふれることはなく、財界が従来から掲げてきた労務政策がポストコロナ時代にも適用されるかのように列挙

⇔総資本の立場から春闘対策に臨む方針を提起するという『経労委報告』の性格から限定していると見なすこともできるが

コロナ禍があぶり出した資本主義経済や日本の労働社会の脆弱性に対する問題意識がなく、経済団体としての存在意義が問われている

 ◆規制緩和の誤り

・パンデミック /生産活動の中断、ロックダウンによる経済が急激に縮小 ⇔生産コストを削減するためのサプライチェーンをグローバル化した影響 /先進国で多くの感染者・死亡者⇔各国とも新自由主義的政策で医療・社会保障を削減したから

 ・日本  女性非正規労働者の生活困難 ⇔ 95年の「新時代の日本的経営」以来、企業が必要な時に必要な労働力を確保する目的のために、労働法制の規制緩和、雇用保障の少ない非正規労働を女性に押しつけてきたから

 ・ポストコロナを見据えるなら ⇔  希望する労働者には正規雇用への道を保証するとともに、非正規雇用労働者であっても雇用と生活が安定できるような労務政策を提起すべき 

・以前から問題点が指摘されている外国人技能実習生  解雇されたり、賃金が未払いになったりしても、入国制限で帰国できず、貯金も使い果たし生活困難に陥ったという事例が多発

→が、『経労委報告』~「わが国経済社会の支え手として…重要性は高まっている」としながらも、労基法違反が相次ぐ技能実習制度の改善や悪質な仲介業者(監理団体)の排除など、「奴隷的」とも称されている技能実習生の労働者としての権利保障について、何も論じてない /それどころか外国人材の入国制限の緩を求めるなど、日本企業の都合しか考えていない。

 ◆21春闘の課題に

・減少し続けてきた賃金を取り戻すたたかいの展開だけでなく / コロナ禍があぶり出した労働社会の問題点を解決するたたかいが必要に

 正規労働者と非正規労働者の本格的な格差是正、1500円を視野に入れた全国一律の最低賃金制度の確立、社会保障の拡充による生活保障の確立、人権と生活を保障する外国人労働者政策への転換と

⇔ これらの課題への取り組みこそポストコロナ時代の労働運動となる

 

・普通に8時間働けば健康で文化的な生活ができる社会を確立する一歩とすべく、組織労働者だけでなく、国民全体が共感するたたかいをつくり出すことが求められている

 

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