菅政権の「デジタル化」推進・考 ~ ①土台としてのアベノミクスの罪
「安倍政治の継承」を掲げて誕生した菅政権が早くもゆきづまりを見せているが、同時に。コロナ禍で破たんが明確になった「新自由主義」がコロナを口実にした「デジタル化」で新たな復権をはかろうとしている。そして、経済の実態と乖離した異常な株高、巨大な格差のさらなる拡大が進行---
そこでまず、菅政権が「継承」した政策の土台となっている安倍政治の経済政策について、昨年9月頃の論稿など改めて整理。
山田博文群馬大学名誉教授、工藤昌宏 東京工科大名誉教授などの「赤旗」での論稿(2020/9)、19年度法人統計などからのメモと、関連記事。
【アベノミクス 異次元緩和の罪 山田博文群馬大学名誉教授】
◆日銀を政権の金庫番に
・辞任を表明した安倍首相 アベノミクスに言及できないほどの混乱に
→この結末は自明のもの/科学的検証や学説の無視、データ改ざと、国家権力と資本の論理を優先した結果
・日本銀行の本来の目的~ インフレ・物価高とたたかい物価を安定させること
→ アベノミクスはその逆/ 2%のインフレ、物価高を目標に、異次元金融緩和政策を実施
・物価高~国民生活は苦しくなる/が、商品の売り手の企業は物価高を利用し利益を増やせる・・・中央銀行がマネーを散布すれば物価が上がるという誤った「貨幣数量説」の政策、その破綻が事実で証明された。
◆株バブル誘発
・中央銀行がマネー(マネタリーベース)を散布できるのは民間金融機関まで。
→そのマネーが実体経済を活性化させるマネー(マネーストック)として役立つかどうかは企業や家計の行動によって決まる
・日銀が供給した過大なマネー= 実体経済のためでなく、①国債や株式バブルの誘発 ②国債の購入、日銀当座預金の積み増しとなって日銀に還流 ③民間金融機関は日銀から安定的に0・1%の利子(基礎残高への付利として年間約2080億円)を受け取っている。④ 民間金融機関は、国債を額面以上の高値で日銀に買つてもらい利益確保 12兆円
・日銀を政権の金庫番に悪用した安倍政権の「大罪」
→ 異次元金融緩和政策の特徴は、日銀が政府の発行する国債を大量に買い取る仕組みで実施。
→ この仕組みは、戦時下で国債発行の「新機軸」として実施済みのもの/ 政府発行の軍事国債を日銀が直接引き受け、日銀のマネーで軍事予算が調達される仕組み/1932~47年度まで、日銀の直接引き受けで国債が無制限に増発
・悪用の結果/ 終戦直後の国債発行残高は当時の経済規模のほぼ2倍。預金封鎖や新円への切り替えが断行。
→ 国民の資産が奪われ、ほぼ300倍のハイパーインフレーションが発生/国民は着物や家財を売る“たけのこ生活”に
◆国民生活直撃
・安倍政権下の国債発行残高は、経済規模の2倍に。すでに終戦直後と同水準。
・戦後の財政法は国債の日銀引き受けを禁止しているが、民間金融機関を間にいれることで「脱法的」強行。
→ 年間100兆円前後も買い取るので、安倍政権はほぼ無制限に国債を増発できた/民間金融機関は、当座預金の基礎残高への付利で「濡れ手で粟」
・累増した政府債務の重圧~消費税率を2倍、社会保障削減など、戦後最高の国民負担率(44・6%)に
■株・為替で大企業支援
・「2年で2%の物価目標」をめざす異次元の金融緩和政策~目標は何年たっても達成
・達成したのは2倍の株高と大幅な円安~大企業にとって願ってもないプレゼント/むしろ、これがアベノミクスの本丸
→第2次安倍晋三政権発足の施政方針演説(第183回国会)「世界で一番企業が活躍しやすい国をめざす
・株高になったのは、 ①金融緩和と低金利政策 ②日銀自身が株(株価指数連動型投資信託=株式ETF)を買って、官製株式バブルを誘導したから
→先進国の中央銀行で株を買っているのは日銀だけ/ 中央銀行が株を買って資本金を供給すると、その会社は絶対倒産しない。会社の株は実体と離れ高値で安定し、マネーゲームに。
→ 本業で損失が出ても、株価が値上がりしているので、保有株の一部を売れば、黒字決算に/あまりにも非常識な禁じ手
・会社として独立できず、中央銀行に支援された「官製日本資本主義」。資本主義のルールも守りないほど矛盾を深めている。
◆保有株非公開
・アメリカの中央銀行(FRB) 社債ETFなどを買い始めたのはコロナ恐慌対策の一環。20年5月から
→ しかも、FRBが直接買うのでなく、FRBが設立した第三者機関(特別目的事業体)を通じて。
→ FRBは買った社債などを保有せず資金を供給するだけ、社債市場のリスクに直撃されないような仕組み
→ 買った社債の銘柄・買入額・手数料など、全て公開
・日銀は、自身で株を買い、保有しているのに、肝心の情報はすべて非公開
・社債 満期になると自動的に償還される/ が、株式は売却しない限り、保有しつづける高リスク金融商品
・日銀が買った株の総額は、約34兆円
→ 日経平均株価 2万130円以下に下落すると、日銀に損失が発生し、「円」の信用が毀損(きそん)
◆物価高が襲う
・大幅円安 ~ 日本の大企業に多くの利益(為替差益)を提供
・安倍政権発足以来、28円ほど円安に/円安1円で、トヨタは400億円ほど利益が発生、この間1兆1200億円ほどの利益
→ 円安で増大した利益/賃上げに回されず内部留保や海外投資に。本経済のために役立っていない
・国民生活 円安は輸入品の価格を高くしも暮らしの悪化に 食料品、医療品、材料、燃料代など
(メモ者 円安になっても輸出数量は増えていない。多国籍企業は為替リスクにそなえ生産地を分散させている。が、ドルでの売れ上げが変化しなくても、円に交換知る際に、より多くの円を手に入れる/ 理論的には、この利益は海外で発生していないので、日本内部での移転でしかありえない。国民からの所得移転)
■解決は応能負担のみ
・権力基盤と大資本の利益優先の安倍政権/将来の税収を先取り消費し、政府債務を積み上げた「借金大魔王」
→ 2013~20年度 新たに発行した国債 352・2兆円 累積した政府債務(国債および借入金残高) 1355・8兆円
◆また国民負担 経済協力開発機構(OECD) 各国の政府債務残高の経済規模比率を公表
・20年 日本2・5倍、ギリシャ2・3倍、イタリア1・9倍、ポルトガル1・6倍、スペイン1・5倍、OECD平均 1・3倍
~ 日本 OECD諸国の中でトップ、財政危機に陥ったギリシャなどのユーロ圏諸国よりも高い
・「政府債務大国」の安倍政権 財政再建を理由に・・・・消費税率2倍、社会保障関係費削減/法人税引下げ軍事費大幅増
→ ダブルスタンダード/はっきりしているのは、政府債務の負担を国民に押しつけ、企業負担を軽減したこと
◆内部留保使う
・日本の政府債務全体の残高 国民一人当たりに換算すると1000万円超え。とても返済できる金額ではない。
・健康で文化的な生活(憲法第25条)は、日本国民の権利、国の義務 /返済に追いまくられるようでは不可能
★心配無用 莫大な政府債務の背後には、莫大な民間資産が積み上がっている
→ 資産の一部を政府債務の返済に回しても経営や生活に支障をきたさず、負担する能力のある富裕な所に負担(応能負担原則)してもらうこと/憲法の各条項も、税金は各自の能力に応じて平等に負担されるべき=負担公平原則が貫かれている
・債務返済の財源 とても潤沢
(1)賃金削減・法人減税などでため込んだ大企業の内部留保金488兆円
(2)世界最大の日本の対外純資産365兆円
(3)純金融資産1億円以上を保有する富裕層の純金融資産300兆円などへの特別課税の実施
(4)大企業特別減税や金持ち減税をやめ、タックスヘイブン(租税回避地)へ逃避している資産の捕捉と課税、所得税、相続税の最高税率の70%台への復活、各国と連携した新たな金融取引税やデジタル課税の導入など―の検討
・経済規模の2倍を超える膨大な政府債務の返済は、応能負担を回避しては解決できない
→ 何としても避けたいのは/消費税率の際限ない引き上げ、社会保障関係費に大鉈、終戦直後のようなハイパーインフレと預金封鎖 / もっぱら国民の負担で、政府債務を返済すること
【アベノミクスとは何だったのか 工藤昌宏 東京工科大名誉教授 2020年9月
◆国民を犠牲、大企業優遇 3本の矢放つ
08年のリーマン・ショックによって国内総生産(GDP)の実質成長率は08年度マイナス3・4%、09年度はマイナス2・2%
11年の東日本大震災に見舞われました。そういう中、12年12月に安倍内閣が誕生し、アベノミクスが示されました。
・14年4月に消費税率を5%から8%に。実質成長率はマイナス0・4%
◆誤った認識で
アベノミクスの根底に独特な経済認識・・・日本経済の停滞の原因は、企業収益の伸び悩みにあるというもの
→企業収益が伸びないために設備投資、雇用、消費が伸びず、経済も停滞している
→ 徹底した企業収益増大策がとられることに ~ 「世界で一番企業が活動しやすい国を作る」というスローガン
・国民負担の増大とは対照的に、13年度以降、国と地方を合わせた企業の法人実効税率も37%台→29%台
・企業収益が伸びないのは、物価が低迷しているからだとして、物価のつり上げを図る。さらに、物価が停滞しているのは、世の中にお金が流れていないからだとして、日銀と政府から世の中に大量にお金を流し込む政策がとられました。
その結果、賃金も消費も伸びず経済は停滞し続けています。結局、アベノミクスは、企業収益が上がらないことを停滞の原因とする誤った経済認識、お金を流せば景気が良くなるという誤った経済シナリオ、金融政策を過信し、それに依存するという誤った経済政策を中身としたために、日本経済を一層の停滞に追い込んでしまったということです。
◆国民生活軽視
・経済が停滞している中で、増税強行 ~ 背景に、国民生活軽視、金融政策への過信
・増税による経済失速を起点に、アベノミクスは迷走 ~ 株価下落に直面し、14年6月「新成長戦略」を発表
→ 法人税減税、公的年金資金の株式投資によって株価をつり上げようというもの
・16年2月にはマイナス金利政策が導入
→ 世の中にお金が流れ込んでいないために、金融機関が日銀に預けるお金にマイナスの利子を課して金融機関のお金を世の中に誘導しようというもの / 銀行間の貸し出し競争が激しくなり、貸出金利の低下から銀行経営の悪化、9月には修正を余儀なくされる。
・14年11月、16年6月の2度にわたり消費税率引き上げが延期。景気が一向に回復していないためです。
◆GDP底上げ
・16年8月、事業規模28兆1000億円の「未来への投資を実現する経済対策」が閣議決定
→ 狙いは、財政支出によってGDP成長率の底上げ/ 16年には研究開発費をGDPに組み入れたほか、毎年、補正予算を駆使してGDPの一層の引き上げを図る。
・18年には、実質賃金の測定サンプルに賃金の高い大企業を多く組み入れ、実質賃金の大幅な上昇を演出
・経済実態を良く見せるために、GDPばかりでなく、賃金、物価、株価、外為相場まで操作対象になつた。
長期金利は十分に低下しているのに設備投資は伸び悩み、賃金も物価も低迷。GDPも500兆円台前半で推移
・最後の頼みの綱は、株価だけ。が、日銀による低金利政策、日銀や年金資金などによる株式購入にも限界
⇔ アベノミクスはなすすべなく、身動きの取れない状態に陥ってしまった。
内閣府は20年7月30日、12年12月から続いた景気回復は実は18年10月を景気の「山」として終わっていたと認めた。
【大企業内部留保 経常利益減っても10兆円増 12年連続最高更新 賃上げに回さず 19年度法人統計 20/10】
◆した2019年度の法人企業統計/財務省 10月30日発表
・大企業(資本金10億円以上、金融・保険業を含む)の内部留保は459兆円、前年度 プラス10兆円
→ 内部留保が最高額を更新するのは比較可能な08年度以降、12年連続
・経常利益 ~ 消費税率10%、コロナ禍の影響を受けて、前年度を8兆円下回る50兆円
・安倍政権が発足した12年度と比較
→ 経常利益1・4倍、内部留保1・38倍、配当金1・64倍
→ 労働者の賃金 1・05倍、機械・工場など有形固定資産 1・1倍 と低迷
⇒ 大企業優遇のアベノミクスで増えた利益が、賃金にも設備投資にも回らず、配当金と内部留保に回ったということ
【経済読み解き 「経済の金融化」 格差をさらに拡大する 9/5】
・「経済の金融化」~ 金融が実体経済と乖離し、商品生産など生活を成り立たせるための経済の本来のあり方で利益を上げるよりも、証券などの金融商品の売り買いによって利益を上げることが主役になったような経済のあり方
→その内容/「企業価値」の最大化、金融商品の氾濫などさまざま。/が、株価などの金融商品の価格の乱高下によって、産業が振り回され、資金調達に乱調をきたしたり、株価を上げるためにリストラをするなど、実体経済に悪影響を与えている。
◆実体とかい離
・実体経済と株価は大きく乖離~ コロナ禍で、世界経済は大きく低下
アメリカ 4~6月期のGDP、年率換算で32・9%のマイナス、日本も27・8%のマイナス
が、株価はアメリカで過去最高。日本でも、コロナウイルス流行前の水準/世界の株価時価総額は、過去最高
→実体経済では解雇や倒産 /株式などの金融資産は大幅増加
・「経済の金融化」が進む背景~ 重化学工業などの多額の設備投資を必要とする産業が衰退 ⇒大銀行の主な融資先が縮小 ⇒ ダブついた資金が土地や証券、ローン、新興国への投資など、リスクの高い、不確かな投資に向かったことから
◆大企業・富裕層への大減税 ~ 資金がダブつく要因にも
・日本 大企業の法人税(国税) 86年43・3% → 現在は23・2%。
個人所得課税の最高税率(所得税と住民税の計)各86年88%→現在55%
⇔ 一方、株式などからの所得を他の所得とは別に計算/大幅に安くする証券優遇税制が存在
株式からの所得への課税 2001年に一定の条件で非課税、03年~08年10%。現在、20%ほど
・会社自体が切り売り、転売の対象商品に
ライブドア事件などで有名になったのが、株式交換などによる企業買収の手法/政府の規制緩和が後押ししたもの
→ 企業を高く売るために株価などの「企業価値」を上げることが目標となっていく
(長期的な商品・技術開発、人材育成を削り、リストラなどで目先の利益の追求する「経営方針」への変質)
・「企業価値」の中心となる株価の高値を、政府が支援・推進
日銀・・・上場投資信託(ETF)を16年8月から年間6兆円、20年3月から年間12兆円を目安に大量に購入
(→ 株価が下がると日銀の買が入るので、それを見越して「空売り」で利益を確保させるモラルハザードの蔓延)
→ 富裕層の金融資産は、ますます大きくなっている
- 労働者の状態は
・株価を上げる(利益確保)ため→ 労働者の賃金は「コスト」として削減の対象に
実質賃金指数(月平均) 15年を100として、12年104・5、20年1~6月93・4に低下
→ 労働者の貧困 、金融商品の富んでいく富裕層との格差拡大
・が、実体経済の土台なし、「金融化」の弊害 /(生産と消費の矛盾の拡大、格差拡大による社会的コストの増加)
→ 大企業、富裕層への応分な課税と、実体経済をまともに発展させる労働者の賃上げが不可欠
【アベノミクスの「負の遺産」、低生産性と非正規依存の労働市場 ダイヤモンド9/3】
安倍晋三首相が退陣を表明したが、アベノミクスの期間に日本経済は停滞したため、日本の国際的地位が顕著に低下した。
企業の利益は増加し、株価が上昇したが、非正規就業者を増やして人件費の伸びを抑制したため、実質賃金は下落した。
その結果、「放置された低生産性と、不安定化した労働市場」という負の遺産がもたらされた。
- 日本経済の国際的な地位低下が 物語るアベノミクスの“幻想”
アベノミクスとは何だったのかを考えるにあたって、一番簡単なのは、アベノミクスが始まった2012年と19年を比較する。
第1に見られる変化は、世界経済における日本の地位が顕著に低下し続けたこと。
12年 中国のGDP(国内総生産) 日本の1.4倍 19年、中国のGDPは日本の2.9倍。つまり、乖離が2倍以上に拡大。
12年のアメリカのGDPは、日本の2.6倍。が19年には、アメリカのGDPは日本の4.0倍。アメリカとの乖離も拡大した。
アベノミクスの期間に、日本経済が停滞する半面で他国が成長したから、
・国際経営開発研究所(IMD)の世界競争力ランキング
12年、日本は27位。20年版では、日本は過去最低の34位にまで低下。
デジタル技術では、日本は62位。対象は63の国・地域だから、最後から2番目
- 実質賃金は4.4%下落 増えたのは非正規雇用
・毎月勤労統計調査 2012年の実質賃金指数104.5。19年99.9。7年間で4.4%の下落だ
・安倍内閣は、春闘に介入。14年以降、毎年2%を超える賃上げが実現。
→ なぜ日本全体の賃金上昇につながらなかったのか?
その理由 ・・・春闘が対象とするのは、法人企業統計が対象とする全企業の従業員総数の6.9%にすぎない
「春闘賃上げ率」で集計される対象は、資本金10億円以上かつ従業員1000人以上の労働組合がある企業。
・賃金の伸びを抑えた基本的要因は、非正規雇用者を増やしたことだ。
- 企業利益が増えたのは、 人件費の伸びを抑えたから
・アベノミクスの成果? 企業利益が増加、株価上昇。
・企業利益増加は事実 /が、生産性が高まったためでも、新しいビジネスモデルが開発されたからでもない。
→ 売上高が若干増加する中で、原価の増加率がそれを下回ったため。中でも、人件費の増加率が低かったから
★法人企業統計で、企業の売上高等、2019年10~12月期を12年10~12月期との比較(金融機関を除く全産業、全規模)。
売上高 8.4%増。 年率では1.2% あまり高い伸び率ではない。
営業利益 39.9%という非常に高い伸び率
・「売上原価」と「販売費及び一般管理費」の合計を「総原価」と呼ぶことにすね(売上高から総原価を引いたものが営業利益)。
営業利益が高い伸びを示したのは、総原価の増加率が7.3%と、売上高増加率より若干低かったから
営業利益の売上高に対する比率は4.3%→ 売上高増加率と総原価増加率が少しでも違えば、営業利益は大きく変動する
仮にすべての費目が売上高と同率で増加したとすると、営業利益の増加率も8.4%でしかなかった。
総原価の中でも 人件費の増加率4.9%(7.3%より下) /低賃金で働く非正規就業者が増えたから
・労働力統計 13年1月~20年1月 雇用者 約504万人増、うち64%、322万人は、非正規雇用者(図表2参照)
★結局 、「企業の売上高 8.4%増加しただけ。が、非正規雇用者を増やすことによって人件費の伸びを4.9%に抑制。、営業利益が約40%増加」 ということ。
なお、売り上げ増は、12年10月以降、円安が進行したことによる。円安は安倍政権の発足以前から生じている。こうなったのは、ユーロ危機の収束で、リスクオフ(円に投資)の流れが終わったから。
- 増えた非正規就業者の 3分の1がコロナ禍で失職
・生産性を上げるのでなく、非正規の低賃金労働に頼る構造は、労働市場の不安定化をもたらす。
→事実、コロナ禍の今年1月から6月の間 非正規雇用者 105万人減少(正規はむしろ増)。
→ アベノミクスの期間に増えた非正規就業者322万人のほぼ3分の1に相当する人々が、この半年間で職を失った。
失業率がさほど高まらないのは、その人たちが求職活動をせず、「非労働力人口」になったからだ。
・1月から6月の間 、完全失業者 30万人増、非労働力人口 62万人増と。この和は、ほぼ非正規雇用者の減少数と同じ
結局 アベノミクスとは、生産性を向上させることなく、非正規の低賃金労働に依存して企業利益を増やし、株価を上げたこと
負の遺産として、低生産性が放置され、労働市場が不安定化した。
- 企業は利益の使い道がなく、 現金・預金が激増
株価の上昇 企業利益の増加のほか、GPIFの株式購入と日本銀行のETF購入が支えた。
ETFを購入している中央銀行は、日銀だけ。日銀のETF購入について、OECDの2019年4月の「対日経済審査報告書」は、「市場の規律を損ないつつある」と批判している。
企業利益の増加は、利益剰余金を増加させた(これは、しばしば「内部留保」といわれるのだが、正確な表現ではない)。
利益剰余金は、12年には250兆円だったが、18年には450兆円を超えた。
しかし、使い道がないので、企業は現金・預金の保有を増やした。残高は12年の150兆円から200兆円程度に増加。
顕著な「金余り」現象。貸し出しが増えるはずはない。金融緩和政策が機能しなかった基本的な理由は、ここ。
- 異次元金融緩和はすでに“終了” 残された巨額政府債務
アベノミクスで中心、日銀による異次元金融緩和政策だが、日銀当座預金を増やしただけで、空回りした。
消費者物価指数の対前年上昇率を2%以上にすることが目標とされた。この目標を2年で実現するとしたのだが、いまに至るまで達成されていない。
もっとも、これはもともと無意味な目標だった。なぜなら、日本の消費者物価の動向は、為替レートと原油価格でほぼ決まるからだ。金融政策で物価を動かすことはできない。
上記目標を達成するため、市中から国債を買い上げる量的緩和策が取られた。しかし、日銀当座預金が積み上がるだけの結果となり、マネー(銀行預金)は増えなかった。上で見たような企業の金余り現象の中で貸し出し需要がないのは、当然のことだ。つまり、量的緩和策は空回りしたわけだ。
日銀は、国債を年80兆円程度買い上げるとしていたが、購入額は2017年頃をピークに減少し、19年末には12兆~15兆円程度にまで縮小している。つまり、異次元金融緩和の量的緩和政策は、すでにひっそりと終了しているのだ。
ただし、これまで買い上げた膨大な額の国債は残っている。これを将来どう処理すればよいのだろうか? これがアベノミクスの第2の負の遺産だ。
なお、財政再建目標は、何度か延期された後、新型コロナウイルス対策の財政支出激増の中で、雲散霧消してしまった。
破綻した財政が、アベノミクスの第3の負の遺産だ。
(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 野口悠紀雄)
【検証アベノミクス 物価と税負担だけが上昇し、みんな貧乏に 女性自身9/22】
「アベノミクスは買いだ」
世界にそう喧伝していた安倍晋三首相。だが、8月28日の辞任会見で「アベノミクス」という言葉は最後まで使わなかったーー。『アベノミクスの終焉』の著書がある同志社大学商学部の服部茂幸教授が話す。
「アベノミクスが中途半端で終わったことを表しています。アベノミクスは、日本銀行が国債をたくさん買い入れることにより、市中に大量の通貨が供給され、金利は下がり、企業活動が活発化。物価の上昇とともに賃金も増え、消費も拡大すると謳っていました。その景気回復へのシナリオはすべて頓挫したのです」
7年8カ月も続いた第2次安倍政権の根幹政策だったアベノミクス。その実態を検証しよう。
■物価上がるも賃金下がり
『ツーカとゼーキン 知りたくなかった日本の未来』の著者である弁護士の明石順平さん。
「確かに、物価は上昇しました。消費者物価指数は’12年から’19年までに7.2%、食料品に限っては約11%も急上昇。ところが、物価が上がっても名目上の賃金はほとんど変わっていません」
賃金が上がっても、それ以上の勢いで物価が上がっていれば、買えるものは少なくなり、実質的に賃金が減っているのと変わらない。
’12年から、物価の影響を考慮した実質賃金指数は5度にわたり下落している。アベノミクスで“給料”は上がる(図解:ウソ1)どころか、下がったのだ。安倍首相は“雇用の改善によって賃金の低い新規雇用者が増えて、平均を押し下げた”と主張してきたが……。
「だったら名目賃金も下がるはずですが、こちらは下がっていない。明らかな嘘です。仮にそれが本当なら、新規労働者が増え続ける限り、実質賃金が下がるということになりかねない」(明石さん)
さらに、これらの数字すらかさ上げされた可能性がある。’18年から調査対象の「常用労働者」の定義が変えられていたのだ。
「『常用労働者』から賃金の低い日雇労働者を除外した。結果、平均賃金は高くなりました。そんなことまでして、アベノミクスの失敗をごまかそうとしたんです。本来、賃金が上がり、続いて自然に物価が上がるというのが正しい経済成長。物価上昇を目標としているアベノミクスは最初から誤っているのです」(明石さん)
給与が下がった一方で、負担は増えた。今年3月、財務省は、税や社会保険料などの負担が所得に占める割合である「国民負担率」が過去最高となる44.6%になる見通しだと発表。それにともない手取りである可処分所得が減り続けている。アベノミクスで生活が豊かになる(図解:ウソ2)ことを期待した多くの国民を裏切ってきたのだ。2
前出の服部さんが語る。
「アベノミクス失敗の原因をコロナ禍に求める人がいますが、’18年10月には景気が後退局面に入っていたことが今年7月になって明らかになりました。成長率も1%程度と低く、効果がなかったんです。国民はアベノミクスという幻想から目を覚ますべきです」
しかし、自民党総裁選への出馬会見(9月2日)で菅義偉官房長官は「アベノミクスをしっかりと引き継いで、前に進めていきたい」と語った。悪夢は“スガノミクス”として引き継がれていくのか。
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