世界1位 デンマークの電子政府」 カギは政府・社会への信頼感
デジタル化が進まない要因は、技術より、政府・行政、社会への信頼という記事。
2020 年版の総務省の「情報通信白書」では、サービスアプリケーションの利用にあたって、パーソナルデータを提供することへの不安が、「とても不安」「やや不安」を合わせると8割。米国、ドイツ、中国と比べても一番高い。
菅政権が法治主義を蹂躙する強権政治を続ける限り、「デジタル庁」をつくっても、関連産業に税金を流すだけで、社会的な信頼性・有益性をそなえたシステムが構築できるとは思えない。
【世界ランク1位「デンマークの電子政府」と日本政府の重大すぎる違い高い技術だけでは電子化は進まない PRESIDENT
鈴木 賢志明治大学国際日本学部教授・学部長 2020/11/05 】
【世界ランク1位「デンマークの電子政府」と日本政府の重大すぎる違い高い技術だけでは電子化は進まない PRESIDENT
鈴木 賢志明治大学国際日本学部教授・学部長 2020/11/05 】
ワンクリックで離婚が成立するなど、デンマークの電子政府が注目を集めている。北欧の政策に詳しい明治大学教授の鈴木賢志さんは、「電子政府を加速させるポイントは高い技術力とは限らない」と指摘する。デンマークにあって日本に欠けているとても重大なこととは――。
◆素朴で田舎っぽいイメージの国がなぜ
「ブルートゥース(Bluetooth)」をご存じですか? スマホにコードレスのイヤホンをつないだり、コンピュータにコードレスのマウスをつないだりする時にお世話になっている、あれです。それでは、なぜ「ブルートゥース」と言うのかご存じですか? 実はこの言葉は、1000年以上前のデンマークの王、ハーラル1世に由来しています。彼には神経が死んで青くなった歯があったようで、そのことから「ブルートゥース=青歯王」と呼ばれていました。彼は分裂状態にあったスカンジナビア半島を平和のうちに統合したことで知られており、アメリカのインテルとスウェーデンのエリクソン、フィンランドのノキアでバラバラだった無線規格を統一するプロジェクトを彼の偉業になぞらえたというわけです。
そんな偉大な王の子孫である現代のデンマーク人たちは、今やそのIT分野で世界に名をはせています。国際連合が2年に1度実施している「電子政府調査(e-Government survey)」において2018年、2020年と連続で、世界で最も電子政府が発達している国に選ばれました(図表1)。
けれども、正直なところデンマークに対して「高度なIT技術」のイメージを持っている日本人は、それほど多くはないでしょう。実際、デンマークから日本への主な輸入品は、豚肉、乳製品、医薬品であり、電化製品などはむしろ日本からデンマークに輸出しています。私が持っているデンマークの印象も、機械的というよりは、自然・農村といった、素朴で田舎っぽい感じです。
◆高度な技術よりも重要なポイント
デンマークの例から私たちが学べることは、電子政府を進めるに当たっては、必ずしもその国に高度な技術を開発する力が求められるわけではない、ということです。その代わりにデンマークが持っているのは、国民の個人データを扱う政府への信頼感、そして他人のデータを盗んで悪用しないであろうという社会への信頼感です。
このことは、1位のデンマークのみならず、4位フィンランド、6位スウェーデンといった北欧諸国がランキングの上位に名前を連ねていることと無関係ではありません。
図表2は、ISSP(国際社会調査プログラム)の2017年調査において「あなたは、他人と接するときには、相手の人を信頼してよいと思いますか。それとも、用心したほうがよいと思いますか。」という質問に対して、「いつでも、信頼してよい」「たいてい、信頼してよい」と答えた人の割合ですが、ここでも北欧諸国が上位を占めているのは、決して無関係ではないと思います。またこのことは、北欧諸国における高福祉高負担のシステムにも通ずるところがあります。強権的な政治が行われているわけではないのに税率が高いのは、政府が税金を公正に使うという信頼に基づいていると考えられるからです。
◆国民の政府への信頼がなければ第一段階止まり
さて現在、菅政権は平井卓也デジタル改革相や河野太郎行政改革・規制改革相を中心として、精力的に政府の電子化に取り組んでいます。とかく前例主義に陥りがちな行政組織を変えていくには相当なエネルギーが必要とは思いますが、曲がりなりにも大臣が指揮命令権を持っているわけですから、行政組織の電子化は、今後それなりに進んでいくものと予想されます。
けれども行政組織の電子化は、政府の電子化の第1段階に過ぎません。政府の電子化を行政サービスの利便性につなげるためには、やはり行政サービスの利用者である国民が、政府そして社会をどれだけ信頼できるかというのが、やがて大きな課題となります。
デンマークにおける政府の電子化の事例で、私がとりわけ重要だと思うのは、その利用を国民に義務付けているところです。具体的に言うと、デンマークでは全ての市民に対して電子署名システム「NemID」の使用を義務付けています。また15歳以上の全てのデンマーク市民に対して、障がいなど特別な免除要件に当てはまらない限り、政府との連絡ツールとなるデジタルポストの利用を義務付けています。この結果、2018年においては国民の91.1%がこのデジタルポストを使用し、1億4000万通のメールが送受信されています。
デンマーク政府によれば、電子政府化によって行政手続きの時間は約30%短縮し、年間3億ユーロ(約370億円)の経費が削減されたとのこと、これを人口が約20倍の日本に当てはめれば、約7000億円の経費削減ということになります。
「いや、そうはいっても日本にはそもそも機械が苦手なお年寄りが多いから……」という声も聞こえてきますが、日本ほどではないにせよ、実はデンマークも65歳以上の高齢者の割合が世界で11番目に高い国です。それでもこの仕組みが機能していることの背景には、「政府が社会のためにやりましょうというのだから、私も頑張って馴染むようにしよう」という、信頼に基づいた社会への貢献意識があるのではないかな、と思います。
私は、日本にも善意や信頼があふれていると思っています。よく「日本では、財布やスマホを失くしてもちゃんと戻ってくる」という話を聞きますし、そのことを誇りに思う日本人は多いのではないでしょうか。ところが、それでも他人を信頼できると考えている日本人は多くありません。悪人や犯罪はゼロではありませんが、それはデンマークとて同じことです。何事にも用心することは大切ですが、私たちは、私たち自身の社会にもっと自信を持ち、社会を信頼することによって得られるメリットを積極的に追求するべきではないでしょうか。これがデンマークの「すごい電子化」に日本が学ぶことのできる教訓であると、私は思います。
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