強まる世界の減農薬のうねり ~ 逆行する日本農政。地球視点で転換を
消費者運動がつくりだした世界的な減農薬のうねり。一方、安全性をどん後退させていく日本。他に輸出できない食料品が日本をターゲットに集まってくる構図に。
政府が進める輸出戦略、2030年に5兆円にすると息巻いているが、1兆円に迫った実績のうち、形のある1次産品は、1000万前後で、他はなにかわからない、また材料が外国産というあげぞこ。
気候危機・生物多様性・水枯渇、感染症を誘発する乱開発・・・そんなもとで、自国農業の保護、しかも有機へと流れへと進んでいる。未来に対する責任ある農政がもとめられる・・・
【強まる世界の減農薬のうねり-日本はどう対応するか 鈴木宣弘 東京大学教授 JA新聞10/29】
以前のブログから・・・。まずは、この惨状・・・
【食料と農業を崩壊させる一方、危険な食品を輸入 安倍政権 2019/12】
【グリホサート 「発がん性」の指摘で、世界は規制へ。日本は逆走、 大幅緩和2019/09】
【農産物輸出 1位は「その他のその他」、大半は輸入原材料を利用したものや化学合成品2019/04】
世界的な水不足、米穀倉地帯を支えるオガララ帯水層もあと数十年・・・というなか食品の1/3を廃棄。ここにも社会の荒れ方ふくめた抜本改善が必要
【1日3リットルの水を飲み、300リットルの水を使い、3000リットルの水を食べる日本人 橋本敦司 10/16】
未来をひらく、方向性では・・・
【強まる世界の減農薬のうねり-日本はどう対応するか 鈴木宣弘 東京大学教授 JA新聞10/29】
10月22日に放映されたNHK「クローズアップ現代+」は世界の農薬規制や有機農業、日本の取組みに関する情報を提供してくれた。これを基に、日本の食と農のあり方について考えてみたい。
◆世界で強まる農薬規制
グローバル種子・農薬企業に対する除草剤の裁判で、(1)早い段階から、その薬剤の発がん性の可能性を企業が認識していたこと、(2)研究者にそれを打ち消すような研究を依頼していたこと、(3)規制機関内部と密接に連携して安全だとの結論を誘導しようとしていたこと、などが窺える企業の内部文書(メールのやり取りなど)が証拠として提出された。企業側は意図的な切り取りだと反論している。
この除草剤については、国際がん研究機関を除けば、欧州食品安全機構、米国環境保護庁といった多くの規制機関が、発がん性は認められない、としている。しかし、裁判からもわかるように、規制機関に対する消費者の信頼は揺らいでいて、特に、EUでは市民運動が高まり、それに対応して消費者の懸念があれば農薬などの規制を強化する傾向が強まっている(注1)。
タイなど、EU向け輸出に力を入れている国々は、EUの動向に呼応して規制強化を進めており、それが世界的に広がってきている。これがアクセルを踏もうとしている日本農産物の輸出拡大の大きな壁になりつつある。
◆世界的な食の安全への関心の高まり
農水省の調査結果の表をお茶について示したが、ピンクの欄は日本よりも農薬の残留基準が厳しいことを意味し、表が全体にピンク色に近づいていることがわかる。
しかも、日本では、輸出向けだけに基準クリアのための対応をする傾向があるが、世界的には、国内消費者も含めて、国全体の基準として決めているということであるから、単に輸出対応という理由だけでなく、全体的に食の安全への意識が高まっていることも推察される。
日本の基準が緩いと、海外からの日本への輸入は入りやすくなる。例えば、除草剤は国内では小麦にかける人はいないが、米国では、小麦、大豆、とうもろこしに直接かける。それが残留基準の緩い日本に大量に入ってきて、小麦粉、食パン、しょうゆなどから検出されている。畜産物の成長ホルモン投与も日本では認可されていないが、輸入はザル状態なので、米国からの輸入には含まれている。国産牛肉(天然に持っているホルモン)の600倍も検出された事例もある。
農薬自体についても、EUで禁止された農薬を日本に販売攻勢をかけるといったことも起きている(印鑰智哉氏、猪瀬聖氏)。
(図・略)
強まる世界の減農薬のうねり-日本はどう対応するか―表令和元年度輸出環境整備推進委託事業 報告書
◆遺伝子操作の表示の問題
遺伝子操作への表示問題もある。日本ではゲノム編集の表示義務がないので、遺伝子操作の有無が追跡できないため、国内の有機認証にも支障をきたすし、ゲノム編集の表示義務を課しているEUなどへの輸出ができなくなる可能性がある(印鑰智哉氏)。現在、遺伝子組み換えについては、大豆油、しょうゆなどは、国内向けは遺伝子組み換え表示がないが、EU向けには「遺伝子組み換え」と表示して輸出している。
◆世界における有機農業の急速な拡大
世界的な有機農産物市場の拡大も急速だ。有機栽培はコロナ禍での免疫力強化の観点からも一層注目され、欧州委員会は、この5月に「欧州グリーンディール」として2030年までの10年間に「農薬の50%削減」、「化学肥料の20%削減」と「有機栽培面積の25%への拡大」などを明記した。
EUへの有機農産物の輸出の第1位は中国となっている。しかも、輸出向けだけ有機栽培を増やす国家戦略なのかと思いきや、最新のデータ(印鑰智哉氏提供)によると、中国はすでに世界3位の有機農産物の生産国になっている。これが世界で起きている現実である。
◆国内市場の見直し
我が国でも「有機で輸出振興を」という取組みも一つの方向性だ。しかし、世界の潮流から日本の消費者、生産者、政府が学ぶべきは、まず、世界水準に極端に水を開けられたままの国内市場だ。
除草が楽にできる有機農法などの技術を開発・確立し、一生懸命に普及に努めている人々がいる(民間稲作研究所など)。国の支援が流れを加速できる。
学校給食を有機にという取組みも多くの人々の尽力で全国に芽が広がりつつある(注2)。公共支援の拡充が起爆剤になる。
◆世界潮流をつくったのは消費者
そして、EU政府を動かし、世界潮流をつくったのは消費者だ。最終決定権は消費者にあることを日本の消費者も今一度自覚したい。世界潮流から消費者も学び、政府に何を働きかけ、生産者とどう連携して支え合うか、行動を強めてほしい。それに応えた公共支援が相俟って、安全・安心な日本の食市場が成熟すれば、その延長線上に輸出の機会も広がる。
輸出だけ有機・減農薬の発想でなく、世界の食市場の実態を知ることから足元を見直すことが不可欠な道筋である。そもそも、国内需要の6割以上を輸入に取られてしまって、輸出だけ叫んでみても意味がない。海外の潮流を国内にも取り込んで、国内需要と輸出とを含めた総合的な需要創出戦略が必要である。今回のNHK番組は、日本の生産者、消費者、企業、協同組合、政府が、日本の食と農のあり方について、議論を深める契機となったと思う。
(注1) これは消費者の懸念に対応する形でEUへの輸入を抑制する効果もある。貿易自由化の進展で農産物の関税が下がった分、ルールを強化して「非関税障壁」を高める戦略にもなっている。
米国は、豚肉、鶏肉、鶏卵、柿、さくらんぼ、ぶとう、桃、かぼちゃ、トマト、ピーマン、キャベツ、葱、にんじんなど、数多くの日本の農産物を、虫がいるとか、病気になっているとか言って、検疫で止めている実態がある。みな、実にしたたかである。
ま た、各国は輸出を国家戦略として強化している。米国は日本でも肉や果物の販売促進をやっているが、経費の半分は政府が出している。韓国は輸出向けの「フィモリ」という国家統一ブランドで販売している。諸外国は、実質的な輸出補助金もたくさん使って、戦略的に海外での需要創出を支援していることも認識しなくてはならない。
(注2) 有機給食に関連する参照データ
安井孝『地産地消と学校給食――有機農業と食育のまちづくり』コモンズ、2010年3月。
川田龍平「オーガニック給食こそ日本の食を守る一手」毎日新聞、2020年3月10日。
安田節子『食べものが劣化する日本?命をつむぐ種子と安全な食を次世代へー』食べもの通信社、2019年9月。
吉田太郎『コロナ後の食と農~腸活・菜園・有機給食』築地書館、2020年10月。
「子どもたちの給食を有機食材にする全国集会(山田正彦、堤未果、鮫田晋、稲葉光國、澤登早苗の各氏が講演)」八芳園、2020年9月25日。
https://www.jacom.or.jp/nousei/news/2020/09/200929-46734.php
資料: https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/e_r1_zigyou/attach/pdf/e_r1_zigyou-29.pdf
【1日3リットルの水を飲み、300リットルの水を使い、3000リットルの水を食べる日本人 10/16】
橋本敦司 水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
◆カレーライス1つで風呂桶3杯超の水を食べる
10月は「世界食料デー」月間、10月16日は「世界食料デー」だ。毎日食べているご飯のもとである米、パンの原料となる小麦を育てるときに必要なのが水。食べものはいわば「見えない水」のかたまりだ。
たとえば、食パン1斤を作るには、その小麦粉300グラムを使う。小麦粉300グラムを作るには、630リットルの水が必要となる。肉の場合は、もっと大量の水が必要だ。鶏や豚や牛は水を飲むし、さらに、水を使って育てた穀物を餌にしているからだ。家畜が育つまでに使った水を計算すると、豚肉100グラム当たり590リットル、牛肉100グラム当たり2060リットルになる。
冒頭のイラストを見て欲しい。ある人が、朝食にホットドッグ、昼食にカレーライス、夕食にステーキを食べたとしよう。その主な食材をつくるのにかかる水を仮想水計算機(バーチャルウォーター量自動計算)で計算すると以下のようになる。
(メモ者 もとのサイトには、わかりやすいイラストがあります)
合計すると、5575リットルの水を「食べた」ことになる。
この場合、牛肉を食べたことが「食べた水」の量を増やしているが、平均すると、私たちは1日に3000リットルの水を食べている。
私たちは1日3リットルの水を飲み、風呂、トイレ、炊事などの生活用水として300リットルの水を使い、3000リットルの水を食べている。
◆世界的な水不足で食糧危機に
食べ物を作るには、たくさんの水が必要で、実際、地球にある利用可能な淡水のうち、70%が農業に使われている。
日本は世界最大の農作物純輸入国だ。日本の食料自給率(カロリーベース)は40%前後である。輸入している食品を作るのに必要な水を計算してみると、年間627億トンになる。これは、日本人が1日1人当たり1.4トンの水を輸入していることになる。日本には国際河川(2か国以上を流れる河川)がないから上流・下流の水紛争がないと言われるが、食料という目で見ると、私たちの食卓には太くて長い国際河川が流れていることになる。
一方で、日本の主な輸入相手国では、水不足になっている。
シンクタンクの経済平和研究所(IEP)が環境問題についてまとめた報告書によると、人口の急増や食料・水不足、自然災害などにより、2050年までに世界で10億人以上が避難民になるとみられている。
世界の人口は2050年までに100億人近くに増える見通し。これに伴い、資源を巡る争いが激化し、紛争が起きる結果、サハラ以南のアフリカ、中央アジア、中東で2050年までに最大12億人が移住を迫られる可能性があるという。
食料生産を妨げる理由には3つある。1つ目が水不足、2つ目が土壌侵食、3つ目が気候変動だ。
1つ目だが、全世界で使われる淡水のうち3分の1は農業用水だ。水の需要は年々増加傾向にあり、過剰なくみ上げによる地下水の枯渇や灌漑用水の不足によって、穀物生産にも深刻な影響が出ている。穀物の大生産地であるアメリカ、中国、インドでは地下水を際限なくくみ上げて生産を行ってきた。そのために地下水位の低下、枯渇という問題が起きている。
2つ目が、森林破壊にともなう土壌侵食。焼き畑農業、農地への転用、木材伐採などで、森林なかでも熱帯林は、毎年相当な面積が消えている。こうして森林の保水力が弱まると洪水が発生しやすくなり、土壌が流出するので、作物生産ができなくなる。
3つ目が、気候変動だ。気温が上がり作物の生産に適さなくなる。気候変動は水の循環も変える。気温が上がれば循環のスピードが早くなり、水の偏在(多いところと少ないところに偏りがあること)に拍車をかける。すなわち穀物不足の1番目の理由である水不足、2番目の理由である洪水による土壌侵食が起きやすくなる。
◆1人当たり1日2.3トンの水を食べ残す
私達の食生活は海外からの畜産物、農作物に頼っており、結果的に、海外の水資源を利用している。こうしたことから自国の水を使い、食料自給率を上げるべきという声は多い。実際、日本では、2025年度までに、食料自給率(カロリーベース)を45%に上げることを目標としている。
新型コロナの流行にともない、食糧輸出国は、国内の食料安全保障を優先に輸出を規制しはじめた。今後は前述した水不足、食料不足によってそうした傾向は強まっていくだろう。
そこで日本の農業を強くしていく。その際、生産性と効率性を重視した大規模化中心の政策ではなく、中小農家や条件不利地域農家の経営を支援する必要がある。
その際、水が必要になる。日本は水が豊かと考えられがちだが、雨の降る時期が限定的であったり、国土が急峻であるため、水が貯めにくい。温暖化の影響で、今年の冬は雪不足であり、田んぼに水が張れない地域が出ると考えられている。また、農業生産につかわれる農薬や肥料は水を汚す。廃棄物を処理するにも大量の水が必要だ。
だから水を保全しながら活用する、汚さないように使うことは大切だ。
もう1つ大切なことは、日本は食料を世界中から買い集めている一方で、世界一の残飯大国でもある。捨てられる食べ物は、供給量の3分の1にのぼる。日本の食品廃棄物の発生量は、年間2842万トン。仮に、捨てられたものがご飯だとすると、それを生産するのに使われる水の量は、年間1051億5400万トンになる(肉であればもっと多くなる)。1人当たり1日2.3トンの水を捨てているのと同じだ。
食べ切れる分だけ買い、食べ切れる分だけ作り、食べきれば無駄にはならない。
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