ジェンダーとケアとハラスメント ~ 日本の労働運動に期待する(メモ)
朝倉むつ子・早稲田大学名誉教授 「経済」2020.10 の備忘録
短い論稿だが、パンチ力がある。
「らしさ」を刷り込み、自ら選択したかのように、支配と搾取のための枠組みを内面化させる「ジェンダー秩序」に対し、どう生活や様々な運動の内部で「解放」する意思的努力がとりくまれるか。 身に迫る提起!
【ジェンダーとケアとハラスメント ~ 日本の労働運動に期待する(メモ)】
◆労働組合は「オトコ社会」
・労働市場の雇用者の男女比率 男54.70%、助成45.30%(2019年労働力調査)
・労働組合 男女比率 男性66.45% 女性33.55%(2019年労働組合基礎調査)
2009年・女性組合員31.2% ~ 10年間ほとんど増えていない
・労働組合の役員の男女比率は、より偏っている 10%前後ではないか。組合活動に参加は、男性より少ない
◆理想と現実の乖離
・労働市場そのものが男性中心だった当時は、正社員の賃上げに取り組む労組活動が頼りにされた
・社会構造が変化⇔非正規4割、女性の雇用者45% = 賃金、処遇の「公平性」に、より関心が集まっている。
→労組が、正社員の賃上げ、労働条件改善にたげこだわるなら、労働運動は、市民の意識から取り残され、じり貧に
・労働組合の役割・・・社会を民主化する運動をリードし、ディーセントワーク実現の中心的存在、が期待される
/ が、運動は停滞、組織率は低下する一方。理想と堅実の乖離が存在
→ 解決のカギ / 労働組合がジェンダーに敏感な体質を身に着けること、と思う
◆女性の「敵対者」から「味方」へ
(1)女性の敵対者から味方へ 女性たちの闘いの歴史(小見出しはメモ者)
・戦後の学会をリードした大河内一男、磯田進 1956年 「女性労働者は組合活動の中で2つの敵対者をもっている。それは雇い主と男性の組合役員だ。」(講座 労働問題と労働法 /婦人労働)
→「婦人の労働運動にとっての第一の関門は、組合自身の内部にひそんでいる」とし、「婦人問題の正しい解決こそが労働組合運動の試金石となる」と指摘し、労組の奮起をうながした。
・「組合が女性の敵」という指摘は、今やさすがに否定される/が、戦後労働運動をけん引した女性リーダー12人の闘い⇔
・70年代春闘 賃上げで労働組合が獲得した原資が男性に優先的に配分 /それに対し、地方の労働組合の女性たちが、決死の覚悟で組合執行委員会に署名を提出 / ようやく男女同率の配分を獲得
・労働組合の専従役員の男女間にも賃金差 /女性が声をあげ、はじめて男性たちも性差別を認識したこと
~貴重な事実が語られている/「組合を女性の味方」にする努力は、女性たちにより粘り強く続けられ労働運動を変えてきた
(2)「女性の味方」になったはずの労働運動=ジェンダーに敏感な体質を獲得したのか(小見出し、メモ者)
・ 「労働運動はジェンダー問題に取り組んでいるのだろうか」の問いに対し・・・聞こえてくる言い訳
「女性組合員から要求がでない」「ジェンダー問題を推進する女性役員が出てこない」「女性には役員のなり手が少ない」の
*が、労組の体質変化の牽引力を、女性たちに期待するのは、虫が良すぎる
→ 労組がジェンダー問題を自分たちの問題として積極的に取り組まない限り、女性が活動に参加するはずがない
→「女性の力を借りよう」という発想ではなく、ジェンダー問題は、男性自身の問題でもある、という認識が重要
・2つの問題を例にとりあげる/労働時間短縮問題、職場における暴力問題
◆「ケアレス・マン」モデルの克服と生活時間
・2018年6月成立「働き方改革関連法」 少子高齢化という構造的問題に、女性・高齢者を総動員して生産性向上を図る狙い /安倍政権 女性にも「輝いてほしい。働いてもらわなくては困る」として行ったのがね長時間労働の是正策
→が、その中心の「時間外労働規制の上限」=過労死ラインという低水準、/ 引き換えに出てきた「高度プロフェッショナル」制度 = 年収1075万円以上の専門労働者を、労働時間規制の対象外にするもの(メモ者 定額働かせ放題制度)、
・だからこそ労組に期待したい。労使協定で上限時間を引き下げるしかない/が、本気度に疑問がある
⇔ なぜなら日本の労働者の多くが、自分や他人のケアに責任を持たない「ケアレス・マンむモデルだから
・日本社会の性別役割分業意識は極めて根強い~家事、育児、介護 =ケア労働はほぼ女性だけが担ってきた
⇔ ケアレス・マンが多数を占める労働組合は、長時間労働がもたらす弊害を甘く見がち
*数年前から「返せ☆生活時間プロジェクト」に取り組んできた
~ 長時間労働による「生活時間」が奪われる弊害の大きさ、に気づいてほしいから
⇔ 「労働」時間以外の「生活」時間 = 自己啓発・余暇、ケア労働、PTA・消防団・地域活動・ボランティアなどの社会活動
→ 「生活時間」は、私的なものだが、公共的性格も強い/社会は生活時間を使った活動なしには成り立たない
・「生活時間の確保=労働時間の短縮」… 労働者の生命と健康のためばかりでなく、地域・社会・家庭での公共的活動のためにも不可欠である
・長時間労働の弊害はさらに大きい ~ 過剰な業務、人手不足の常態化がもたらすもの
→ 家族ケアのため定時退社する人、妊婦・出産する人、障害者、病弱者 が「職場のお荷物」になる
→ 労組が長時間労働を見過ごせば、無意識のうちに職場の「弱者」へのハラスメントに加担する
→ だから、本気で取り組む必要がある/そうなれば、ワークめライフ・バランスに関心が高く、家族ケアに積極的な若者、女性は、労働組合の「本気の」時短活動に参加するだろう
*労働時間短縮問題は、ケアレス・マンを脱皮する「男性自身のジェンダー問題」でもある
◆職場における暴力問題
・全世界で次々と実施された調査 多くの労働者が男女を問わず、いじめ、ハラスメント、暴力の被害に
・ILO創立100周年の2019年総会「暴力とハラスメント撤廃のための大190号条約、206号勧告を採択
暴力・ハラスメントは、人権侵害、平等への脅威、ディーセントワークと相いれない、と宣言
・暴力・ハラスメント撤廃 労使が一丸となり取り組むべき課題
190号条約の適用範囲は広い・・・労働者だけでなく、個人としての使用者、ボランティア、求職者も保護対象
根絶のためには「包摂的で、総合的で、ジェンダーに対応したアプローチ」が必須だとされた
→ 「ジェンダーに対応した」という用語には、総会で「敏感な、とすべき」「包括的アブローチで足りる」などの修正提案があったが、国際社会は、より積極的でプロアクティブな含意の「ジェンダーに対応した」という表現を選び取った
・今、労組が取り組むべき課題として、これほど的確なテーマは他にない
→ 日本 ハラスメントをうけたことがある38%、これを理由に仕事をやめた19%(「連合」 実態調査2019)
・条約は、DVが労働世界に与える影響を軽減する適切な措置にまで言及
→ DVは個別家庭に生じる暴力であるが、だれもが被害者・加害者になる可能性があり、労働世界への影響も極めて大きい
→被害者の業務上の電話、PCが脅しに使われ、被害者が出勤できなくり、ストレス・トラウマに陥り、職場のパフォーマンスに大きな影響を及ぼす。場合によっては職場環境の悪さがDVの増加をもたらすこともある
・だから、ILOは、職場での適切な対応がDV被害を軽減できるという発想にたつ
→ 公的な職場問題と、私的な生活問題は、ここでも決して分離されていない
・DVを含むあらゆる暴力の撤廃をめざして被害者を保護する安全な職場づくりは、じつに魅力的な労働運動のテーマ、真のジェンダー問題 ~ 労組に期待することは大きい
★ケアレス・マン 「不注意な人」ではなく、ケア(人を世話する)ことに責任を持たない(ケアレス)一部の男性労働者をいう。
「家庭責任不在の男性的働き方」との規定を発展させ、「自らの身体ケアの不要な人」意味を含意している
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