「そして絆」~ 「自己責任」論を極めて正確に把握している菅発言
菅首相は16日夜の就任会見で「安倍政権が進めてきた取り組みをしっかり継承する」と強調するとともに、「私が目指す社会像、それは、自助・共助・公助、そして絆であります。まずは自分でやってみる。そして家族、地域でお互い に助け合う。その上で政府がセーフティーネットでお守りをする。」と発言した。
安倍政治の継続はごめんである。二度の消費税増税や医療・介護などの負担増、そして異次元の金融緩和の名で、日銀による国債の大量購入、あろうことか株式まで大量に購入するという禁じ手により、円安・株高を作り出し、一部の大企業。超富裕層は潤ったが、実質賃金、可処分所得は低下した。憲法違反の安保法のうえ、敵基地攻撃能力まで言い出した。教育を市場化・国民統治国民の(非主権化、批判精神のそぎ落とし)の道具とした。公文書の改ざん・隠蔽など、法治国家の土台を破壊した。
そのうえで「自助・共助・公助、そして絆」について考察したい。「共助」と「絆」・・共助が二度出てくる、という意見がある。が、それは、自己責任論を極めて正確に表現したもの、と受けてとめている。
「自助、共助、公助」が大きく浸透したのは阪神・淡路大震災の教訓うけてのこと。
家屋の倒壊、火災から助かった人の7割が自分をふくめた家族の力、2割がご近所の力、1割が救急隊など公的な力、そこから大規模災害から命を守る行動では、自助、共助が大事だとの指摘。きわめて限定された場面での話。
しかし、防災のためのインフラ整備、家屋など耐震化の促進、避難所の整備、被災後の生活再建のためには公的役割が極めて大きいことはいうまでもない。
災家屋の再建に税金が投入されるようになったのも阪神・淡路大震災の教訓の1つ。しっかりした公的支援があってこそ、前向きに生きていく力が個人にも地域にもうまれてくる、という関係。
大規模災害発生時の命を守る行動として強調された言葉が、社会保障分野に使われ出したのが問題。
しかし、そもそも社会保障分野では、別の文脈で、公助を最重要の基盤としながらも、地域の力、「互助」をどう生かすかという問題提起が80年代になされてきた。
1986年、全国社会福祉協議会・社会福祉基本構想懇談会の「提言 社会福祉改革の基本構想」では、「新しい公共の立場に立つ社 会福祉」 という項目の中で,公私関係の2分法 に加 えて 「住民の共助活動を支えるという,新 しい社会連帯の形成」を唱え,「公私機能分担に代わる公助 ・互助 ・自助 の関係ついて,新しい体系を確立する必要がある」と問題提起されている。だから、順序も「公助」が最初。
ここでの「互助」も,「官民共同の組織とか,企業活動に結びつく一種の 第三セクターなど」 と並んで 「住民の共助活動」を含むものと幅広い。
ところが、この言葉が、小泉政権下で、社会保障政策を、「自己責任」論を前面におしだしたものに決定的に変質させるために使われた。
06年5月、内閣官房長官の私的懇談会である社会保障の在り方に関する懇談会の報告 「今後の社会保障の在り方について」
を出している。その敵の官房長官が安倍晋三。ちなみに社会保障制度の窓口である自治体を管轄する総務大臣は竹中、副大臣は菅という布陣)
報告は、「社会保障の基本的考え方」として「我が国の福祉社会は,自助,共助,公助の適切な組み合わせによって形づくられるべきもの」と述べ、それを説明 して 「1)自 ら働いて自らの生活を支 え,自らの健康は自ら維持するという『自助」 を基本として、 2 ) これを生活のリスクを相互に分散する 『共助』が補完 し, 3 )その上で,自助や共助 では対応できない困窮などの状況に対し,所得や生 活水準 ・家庭状況などの受給要件を定めた上で必要な生活保障を行う公的扶助や社会福祉などを 『公 助』 として位置づける」となっている。
そして「その 『共助』のシステム と しては ,国民の参加意識や権利意識 を確保する観点からは,負担の見返りとしての受給権を保障する仕組みとして,国民に分かりやすい社会保険方式を基本とすべ きである」と、「共助」とは「社会保険制度」のことであり、行政側が国民健康保険は相互扶助の制度と説明するは「足場」となっている。
「公助」の範囲は、「困窮などの状況」に対する救貧的な「公的扶助や会福祉など」に限定するという徹底した「自己責任」論に基づく内容となっています。この定義は 2006年版 『厚生労働白書』 に早速採用 され、今に引き継がれている。
だから菅首相が、「プラス絆」としてご近所、地域の力を加えたのは、実によく「自助、共助、公助」の内容を正確に把握しているかの証明。
なお、社会保険を共助と矮小化することは、国の責任を後退させる危険な思想。社会保険は連帯を基礎としながらも、強制加入の社会的制度として国によって公的に制度化 されたものであり、よって保険財政に公費投入がなされる根拠になっており、自助 ・共助 ・公助という分類をするならは、明らかに公助に分類されるものである。
(批判視点のおおもとは里見・大阪市大名誉教授の論稿によっている)
これらの主張は、
憲法第25条の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。 2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」との規定とあいいれないものである。
コロナ危機は、「自己責任」を代名詞にする新自由主義の矛盾と破綻を炙り出した。その事態をうけても、このスローガンを唱え続ける菅氏の冷徹ぶりに、ゾッとする。
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