地球 : 細菌の惑星、ウイルスの惑星・・・ほんの一部としての人類。「共存」とは?
人類が細菌やウイルスの存在を確認したのはほんの100年程度前の話。
その後、ごく最近まで、「病気をおこす悪者」として駆逐の対象とされてきた。
そして、抗生物質、ワクチンの開発で、多くの命が救われるようになり、人類は新たな幸福を手に入れた。
が、細菌、ウイルスの研究はさらにすすんだ。また、人間の遺伝子の解析も劇的に進歩した。
すると、そこには別の景色が見えてきた。
・・・山本太郎教授の「感染症と文明」につづく「抗生物質と人間――マイクロバイオームの危機」を読んでの感想・メモ。
■ミジンコよりすくない人の遺伝子量
ゲノム解析は衝撃をあたえた。人間の遺伝子の配列数は2万数千ほど。ミジンコよりも少ない。それで、この複雑系をどう制御しているのか。
人間の体には100兆の細菌が存在する。細菌は「悪さ」だけでなく、人間が生きていくうえでかけがえのない役割をはたしているのではないか。体全体の遺伝数でいえば、人のDNAは1%、圧倒的に細菌のDNA。
あるべき腸内細菌(定在菌)が「ない」ことでおこる病気も発見されてきた。
ウイルスもそう。生物ゲノムには、驚くほどたくさんのウイルス(およびその関連因子)が存在し、それらが生物、人類が生きていくうえで重大な貢献をしてきたことが明らかになってきている。
また、「内在化レトロウイルス」といって、過去に体内にとりこまれ、人間の体の機能の一部として働いているウイルスの存在もあきらかになった。
たとえば、受精卵という父親の遺伝子を含んだ物質を、母親のリンパ球が異物として攻撃せず、しかも酸素や栄養を胎児に送り届けられる仕組みは、大きな謎であったか。そこにある種のウイルスが介在していることが21世紀になって発見された。
■人DNAと細菌による「超生命体」
地球上の存在する量・種類においても、細菌・ウィルスの存在は、圧倒的なのである。誕生の歴史においても圧倒的に先輩なのである。
生物の進化とは、そうしたウイルス、細菌を内在化や共存の相手としてとりこみ、あらたな生命として変化してきたと言える。人間の体そのものが、ウイルス、細菌の共存として存在している。
その中で、人は、未知とのウイルスの遭遇による感染症や細菌がもたらす病気に対し、病気を治す、その一点から解明し、対策を発展させた。それで多くの人が幸福を手に入れた。
が、これは、何十億年とかけて築いてきた自然のバランス、共存関係に、介入する行為である。そうであるならば、その介入は最小限にとどめなければならない、ということが最近になりわかりはじめた。
■細菌に対する抗生物質の使用
・耐性菌を生み出し、さらに抑え込みが困難になっている
・人の生命にとって不可欠な定在菌の在り方に攪乱をもたらしているおそれ
肥満、アレルギー、自閉症など、抗生物質の「多様」による新たな問題について研究がある
それを踏まえ、家畜の肥育を促進するため抗生物質の投与についてEUは禁止(米日は規制なし)
→ 長期的に、どのような影響をあたえるのか。その研究ははじまったばかりである。
■ワクチンとADE
コロナウイルスなどRNA型は変異が早いその結果、。ワクチンの中和作用が不完全となり、感染症が悪化する抗体依存性感染増強が生れることが知られてきた。その結果、サーズ、HIV、エボラ出血熱、デング熱など、長年かけてもワクチンが開発できない。
人類は、小さな悲劇(感染症の部分的な広がり)を繰り返しながら、免疫を獲得し、大きな悲劇(免疫をもたない世代への感染)を防ぎ、現在は、人為的に予防接種をしてコントロールしている。
人類は、1980年5月8日、天然痘の根絶を宣言した、それは偉大な成果である。一方、もし地球上のどこかで、そのウイルスやその亜種が密かに存在していたら・・・まったく免疫をもたない世代が遭遇したら・・・という大きな危機と隣り合わせの環境を作り出したと言える。
■帝王切開の増加
もともと母親が死亡したもとで子どもを助ける、また母親を犠牲にして子を助ける術として、古くからあったそうな。出産が死と背中合わせ、となっている産褥熱が、外部の「粒子」からもたらさせ、消毒によって防止できる、ということが明らかになり、帝王切開は、母親も子どもの救える術として確立した。
が、現代では、「痛みをともなわない」「体形が早く戻る」など、病的な原因でなく、帝王切開の選択が大きく増加した、
その意味とは・・・胎児は、母親の産道を抜けて生まれてくるときに、母親の羊水を飲み、母親のもつ常在菌を受けつぐ、働きがあるとのこと。
この常在菌は、何万年にもわたって、人と細菌との出会いの中で、人にとって必要な菌が選択された財産である。帝王切開では、その引継ぎがない。これがどう影響するのか・・・いくつかの研究結果はあるが、途上である。
■ウイルス、細菌との共存
山本氏は、あとがきで、最初の新型インフルエンザの関する著作と、「感染症と文明」「抗生物質と人間」で、「共存」概念が深化したことを率直にのべている。
最初の著作では、とう抑えこむのか、という観点から、新たな問題意識をもった。そのうえで、人類は感染症と歴史をたどり、小さな悲劇と大きな悲劇というステージを示し、感染症の根絶はありえないのではないか、「共存するしかないのではないか」と書いた。が、「抗生物質と人間」では、そもそも人間は、人のDNAと100兆に及ぶ細菌との共存関係、ネットワークとして存在している、という出発点からの考察に前進している。
地球を1つの「超生命体」ととらえる視点は、細菌、ウイルスと共存する人間にもあてはまる。病気をなおす、死から生還するという、その幸せのために、治療として自然に介入している。が、細菌やウイルスの働き、地球の共存構造がほとんどは人類は知らない。だから介入は最小限にとどめるべきではないか、と主張する。
科学者として、地球の乗組員の1人としての誠実さがとどいてくる。
なお、地球を「細菌の惑星」「ウイルスの惑星」とは、ゴリラ研究の第一人者でもある山極・京大総長の言葉、
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