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学校再開と子どものストレス~子どもらしさを回復する権利、少人数学級と教員の同僚性の確保を

 コロナ禍は、「今だけ、金だけ、自分だけ」の新自由主義のゆがみを見事に浮かび上がらせた。教育も最大のテーマの1つ。

明日を担う子供たちが幸せを実感し、希望を持てる社会をどうつくるか、子どもの権利が問われている。そうした記事も多い。

【<この人に聞きたいQ&A>休校のストレス、いかに回復? 埼玉大・高橋准教授  東京6/26

【「3密」防止の分散登校 教員「子ども一人一人に目が届く」 従来の教育観見直す契機に 神戸新聞6/14

【休校明けの子にどう向き合う? 精神科医大野裕氏に聞く 朝日6/7

【学校再開、まずは「ストレス軽減」を 教員のメンタルも注意  サンケイビス6/1

【学校再開で子どもはストレス 家庭で十分な休養を、授業は詰め込まなくていい 教育評論家 親野智可等 PEX6/8 】

同時に、同僚性を破壊され、成果主義・自己責任を追及される教育現場の見直しも喫緊の課題。

【多忙で孤立「壊れる教員たち」の過酷すぎる現実 東洋経済オンライン6/28

 以前、メモした田中孝彦先生の備忘録。

【子ども理解 臨床教育学の試み 備忘録 2010/4

ハーマンの「心的外傷と回復」にもふれながら、「教育困難の本格的打開には―― 子ども理解を深めることを軸に、教師同士の支えあう関係を創り、父母・保護者や他領域の発達援助専門職との共同関係を広げる、そうした教師たちの模索・努力を支えていく以外にない」と説く。

【<この人に聞きたいQ&A>休校のストレス、いかに回復? 埼玉大・高橋准教授  東京6/26

  県内各地で学校が再開して三週間となった。授業や部活も始まり、通常の学校生活に戻りつつあるが、新型コロナウイルスの感染拡大による三カ月に及んだ休校の影響で、ストレスを抱えている子どももいるという。教育行政や学校現場に詳しい埼玉大教育学部の高橋哲准教授(教育法学)に、どんな対応が必要か聞いた。(寺本康弘)

  長い休校の影響は。

  友達に会えなかったことは大きなストレスだった。子どもは、子ども同士の関係の中で育っていく。家から出るなと言われて遊びを奪われ、子どもらしく過ごせなかった影響も大きい。

  また、一日の中で給食が唯一、栄養バランスの整った食事を取る機会だという子どもにとっては満足な食事ができない期間だった。日中も親と顔を合わせているために虐待を受けた子どももいる。いずれもコロナ禍の前からの問題だが、休校の長期化で、より深刻になった面がある。

  学校に求められる対応は。

  スムーズに学校再開を進めるには、まず、子どもが子どもらしくいられる時間を回復することが一番大事だ。ストレスへの対応が求められ、先生がいかに一人一人にかけられる時間を増やせるかが重要になる。

  例えば、分散登校が先生たちに好評というニュースがあった。一度にみる児童生徒の数が少ないため、いつもより一人一人と向き合えて、声を掛けやすい。子どもにとっても楽しかったという。

  教師は負担が増えそうだ。

  多忙化が加速している。学校再開後、分散登校中は、同じ内容の授業を二度行ったり、慣れないオンライン授業をやったりした。さらに感染症対策。子どもたちの登校前と下校後に先生たちが消毒や清掃もしている。先生たちはぎりぎりのところで教育活動を継続している。

  加えて、県が実施する学力テスト「県学力・学習状況調査」は、余計なプレッシャーを先生たちにかけ、大きな問題だと考える。現場は実施に向けて準備や対策をしなければならず、貴重な授業日数の浪費につながる。何より、教育が子どもに合わせるのではなく、教える側の都合優先になってしまう。

  負担を減らすには。

  考えてほしいのは、なぜ分散登校にしなければならなかったか。人にも施設にも余裕がないからだ。

  文部科学省は、三密を避けるために一〜二メートル机の間隔を空けるよう通知したが、余裕を確保するためクラスを二つに分けられるほど空き教室はなく、担当する先生も不足している。これまでの教育政策では、学校の統廃合を進めて大規模化し、国際的にみて多すぎる一クラスの定員も減らさなかった。コストカットを優先させてきたことが、今回のような事態を生んでいる。

  子どもを大切にする学校環境は、感染症にも強い学校になる。教育予算や教職員を増やし、できる限り少人数の集団にして先生が子どもたち一人一人に向き合う時間を持てる環境をつくる。子ども同士や、子どもと先生たちの関係性を回復することが重要だ。

 <たかはし・さとし> 1978年、さいたま市生まれ。2008年に東北大で博士号(教育学)を取得し、11年から現職。著書に「現代米国の教員団体と教育労働法制改革」(風間書房)など。

  

【「3密」防止の分散登校 教員「子ども一人一人に目が届く」 従来の教育観見直す契機に 神戸新聞6/14

  新型コロナウイルスの感染拡大による休校が1日に明け、兵庫県内などの大半の学校が「3密」防止策で分散登校を続けている。1学級を半分などに分けて授業を行ういわば期間限定の少人数学級。学校が完全再開するまでのやむを得ない移行措置だが、実践する教員らは「子どもたち一人一人の顔が見える」と歓迎する。15日から通常授業に戻す学校も多い中、専門家は「今こそ少人数学級の教育的効果や、学習指導要領にとらわれない子どもとの向き合い方を考えるべきだ」と指摘する。(広畑千春)

 ■もめ事少ない

  全国各地で登校日や分散登校が始まった5月末、会員制交流サイト(SNS)で「これが教育だと思った。幸せな気分」という教員の投稿が話題を集めた。

  呼応した関東地方の公立小教諭は「30人学級なので15人ずつ。圧倒的に子ども一人一人に目が届き、関わることができた。子どもたちも一人一人発言したり、考えたりする機会や時間が今までよりも増えた」。

 兵庫県内の公立小教諭も「休校中、課題を出したが、かなり差が生じているのを痛感した。少人数ならフォローしやすい。学級活動のスケール感には欠けるものの、学習面ではこれぐらいの人数の方が学力が上がり、子ども同士のもめ事も少ない」と同調した。

 ■学級運営に労力

  そんな思いが湧くのはなぜなのか。

  公立小中学校は、1学級40人(小学1年は35人)までと規定されている。兵庫県は、2008年度から35人学級を小学4年生まで拡大。5、6年生にも中学、高校のような教科担任制を導入している。

  それでも、ある小学校教諭は「公平でいるつもりでも、勉強が苦手な子や発言力がある子に注意が偏りがち」と本音を口にする。「子ども同士で小さなトラブルがあっても見切り発車しないと、次、その次の時間まで影響し、授業が進まない」といい、「いつの間にか仕方ないと思うようになった」とうつむく。

  特に大半の授業を担任が見る小学校では「学級運営が労力の8割を占める」と話す教員も。クラスが荒れれば保護者に「頼りない」と見なされるため「特に1学期は“勝負”の時期。自分でも理不尽だな、と感じる指導をせざるを得なかったことも」と打ち明ける。

  また、一つの学級が破綻すれば学年全体にまで影響するため、教員同士の指導も力が入りがちに。時に後輩を厳しく叱ることもあるが「これもパワハラかも…と思うと、結局個人で頑張るしかない」とこぼす。

 ■向き合える環境を

 神戸市などで15日から、通常授業が再開される。社会的距離を保ちながら遅れた授業をどう挽回するか。長い休校中に広がった格差をどう埋めるのか。教師たちは頭を悩ませる。

  京都精華大学の住友剛教授(教育学)は「教科書や学習指導要領の内容を学年末までに終え、テストで学力測定-という従来の学習観や教育観にとらわれるから、それを一気に解決できるかのような『9月入学』などのファンタジーが生まれる」とし、「脱すべきはそうした価値観。まずは子どもが『やりたい』と思う気持ちに教員が精いっぱい向き合える環境を整えるべきだ」と強調した。

  

【休校明けの子にどう向き合う? 精神科医大野裕氏に聞く 朝日6/7

聞き手・山根久美子

  新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために休校していた学校が、各地で再開しています。喜ぶ子がいる一方、不安を抱えている子や、長期間の休校で生活リズムが崩れたり、ストレスをため込んだりしている子もいます。大人はどう向き合えば良いのでしょう。認知行動療法の第一人者で、精神科医の大野裕さん(70)に聞きました。

   ◇

 楽しみにしていた行事が中止になった。友だちと顔を近づけて笑ったりしゃべったりできない。元々不登校気味で、また学校に行くのがつらい――。

  長い休校が明け、子どもたちからそんな悩みが寄せられていると聞きます。しんどいですよね。突然家に閉じこもる生活が始まり、突然新しいスタイルの生活が始まったんですから。

  まず大人は、子どもと話す機会を増やしてください。子どもが困ったことや不安なことを、いつでも話し合える雰囲気を家庭の中で作ってあげることが大切です。どこにも居場所がないと感じた子どもが、ふと身を置ける居場所を学校に作ることも良いですね。

  子どもと話して不安やストレスに気がついたら、次は一度立ち止まりましょう。「まだ頑張れる」とストレスに気づかないふりをしたり、させたりするのは良くありません。

  そして、子どもがどうしたいのか考えを聞きましょう。大人が「こうあってほしい」と思う気持ちはひとまず置いて。何のために学校に行くのか。将来の夢、目標を考えるのも良いですね。そこまで整理できたら、今できることから行動していく。認知行動療法の考え方です。

  子どもが泣きながら大量の宿題に取り組んだ、学校再開後は進度の速い授業で疲弊している、という話も聞きました。

 保護者には、子どもが学校は楽しいと思えるような寄り添い方をしてあげてほしい。子どもによっては、オンラインの学びなど学校とは違う手段を考える必要があるかもしれません。

  ダブルスタンダードでいいんです。宿題なら「ここまで頑張ったから、この先は仕方ないね」と、ほどほどにやるのがポイント。全部できなくても仕方ない。お母さんが代わりに先生に叱られてあげるから、というくらいの姿勢がいい。

  学校の先生と話し合うことも必要です。国は熱中症対策のため、2メートル以上の距離があれば屋外でマスクを外すよう呼びかけました。このように少しずつ情報が増えていきます。学校と保護者はこういった情報を共有して、子どもが何かをすることに対する規制を少しずつやわらげられるよう話し合えると良いですね。

  正直なところ、私自身は数カ月程度の学習の遅れは長い目で見ればそこまで大きな影響はないように思います。実は私、高校時代に落第して高校1年を2回やっています。それから3浪して大学生になりました。学生運動が激しく、1年近く授業もなかった。それでも大人になれました。

  親から「勉強しろ」と言われるうちは、反発して勉強しませんでしたね。大人の皆さんもそうでしょう? 思春期の子どもは、大人から支配されていると感じやすい。子どもが自分でやろうという気持ちを大人がどう支え、刺激していくかが大事です。

  気をつけなければいけないのは、保護者も一人でストレスを抱え込まないことです。長い休校に続く学校の再開は、親にとっても大きなストレス。ストレスがある状態で何か問題が発生して一人で悩むと、心の中でどんどん問題が大きくなり、冷静な判断ができません。家族、友だち、いろんな人と話をしてください。

  今まで出来ていたことが突然できなくなる。普通だと思っていたことが、簡単に覆って普通でなくなってしまう。コロナ禍で多くの方がそう感じたのではないでしょうか。

  学校が始まって子どもが不安を感じるのは、自然なことです。不安の気持ちは自分を守るために必要で、悩みや不安はこの先の希望でもあります。子どもが自分にとって大事なものを見失わず育っていけるよう、保護者がサポートできると良いですね。(聞き手・山根久美子)

プロフィール

 おおの・ゆたか 1950年、愛媛県生まれ。国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター顧問、認知行動療法研修開発センター理事長。朝日新聞社と開発中の、スマートフォンでAIを活用したストレスケアアプリ「こころコンディショナー」を監修。著書に「こころが晴れるノート」など。

 

 【学校再開、まずは「ストレス軽減」を 教員のメンタルも注意  サンケイビス6/1

  長期の休校から学校生活に戻る子供たちには大きなストレスがかかり、精神面への特別な配慮が必要だ。不登校やいじめについて研究する公益社団法人「子どもの発達科学研究所」(大阪市)は教育関係者に対し、「学習に戻る準備期間として、まずはストレスの軽減を第一の目的にして」と訴えている。(藤井沙織)

 「たとえ表面上、元気に見えたとしても、全ての子どもが影響を受けている可能性があります」

  教育関係者が配慮すべき事柄として、同研究所が5月中旬にまとめた「学校再開へのメッセージ」では、こう説明する。

  先生や友達に会えなくなるなど日常が失われたことは、子供にとって大きなストレスだ。同研究所の主席研究員、和久田学さんは「子供は気持ちをうまく表現できず、ストレス解消法も知らない。ニコニコしていても、抑鬱状態にある可能性がある」。特に、コロナ禍で家庭が経済的に逼迫(ひっぱく)▽保護者が医療従事者▽家族や親族らが感染した-などの場合は、より影響を受けていると指摘する。

  学校の再開によって自然に回復する子供もいるが、「抑鬱状態を引きずると、いじめや暴力行為、不登校などに発展するリスクが高まる」と和久田さん。いじめを防ぐためには、子供たちにストレスを友達に向けてはいけないことや、イライラしたら先生に相談するよう伝えることが有効という。また、子供たちは不安から大人の言動に敏感になっているとして、教員が機嫌よく安定した態度で接することも大切とした。

  一方、教員にとっても、3カ月に及ぶ休校は経験のない事態だった。休校中は家庭学習の課題を作り、再開後の授業計画を練るなど手探りの対応が続いた。今後は授業に加えて感染症対策もあり、負担は大きい。

  教員のメンタルケアに詳しい奈良大の太田仁教授(社会心理学)は「経験したことのない事態に遭遇すれば、誰もが緊張し、ストレスを感じる」として、教員のメンタルにも気を配る必要があると指摘。ストレス解消には、子供たちや気の合う同僚との積極的なコミュニケーションや、自分だけの時間を1日45分間は持つことが有効だという。

 太田教授は、悩みが解決しなければスクールカウンセラーに相談することを推奨する。「よく『このレベルの悩みで相談していいのか』と悩む教員がいるが、相談しようかなと考えた時点で相談していいレベル。迷わずに利用して」と呼びかけている。

 

 

【学校再開で子どもはストレス 家庭で十分な休養を、授業は詰め込まなくていい 教育評論家 親野智可等 PEX6/8 】

 多くの自治体で学校が再開されました。新型コロナウイルス感染症対策のため、前例のない形で新しい学年を迎えたわけで、保護者と先生たちにはいろいろと気を付けてほしいことがあります。

 ◆話を聞くときは共感的に

  まず、保護者に気を付けてほしいのは「家庭ではリラックスさせてあげてほしい」ということです。ただでさえ、新学年は新しい友達、新しい先生、新しい教室など新しいことばかりで、子どもたちは楽しい半面、ストレスもたまります。おまけに6月に入って暑さも増してきました。

 加えて、家庭での自粛生活が続いたことで、生活リズムが乱れている子や体力が低下している子が多いことが予想されます。ですから、家庭では子どもたちを十分リラックスさせて、休ませてあげてほしいと思います。家庭でも追いまくられていると、次の日に元気に登校することはできません。

  子どもの話を聞くときは、共感的に聞くように心掛けてください。特に、愚痴や悩みには十分な共感が必要です。共感してもらえるだけでストレスが軽減されます。もし、アドバイスや励ましをするにしても、十分共感してからにしてください。

  次に、先生たちに心掛けてほしいのは、子どもたちが「学校って楽しい」「授業・勉強が楽しい」「先生が大好き」と思えるようにしてあげることです。これが最優先です。もちろん、勉強の遅れは気になると思いますが、それを取り戻そうとギュウギュウ詰めにしないでください。

  教科書の内容を全部やる必要はありませんので、思い切った精選をしてください。筆者は長年教壇に立ってきましたが、その経験で言えば、教科書には省ける部分もありますし、軽い扱いでよい部分もたくさんあります。精選すれば、「夏休みの大幅短縮」「土曜日授業」「授業7時間目まで」などしなくても大丈夫です。

  これ以上、子どもを苦しめないでほしいと思います。子どもは勉強するロボットではありません。子どもには、遊んだり、休んだり、ボーッとしたりする時間が絶対に必要です。

  保護者や先生が勉強の遅れを取り戻そうと無理すると、その反動が必ず出ます。子どもたちは既に今でさえ、ストレスをため込んでいるのに、これ以上負荷をかけると深刻な弊害が出てきます。心身症やうつ病になる子、いじめで発散しようとする子なども出てくるでしょう。

 繰り返しますが、子どもはロボットではありませんので、大人の一方的な考えで遅れを取り戻そうと無理をさせても、絶対にうまくいきません。

 ◆子どもの人間関係にも気を配ること

  次に、保護者と先生の双方に気を付けてほしいのが子どもたちの人間関係です。新しいクラスが始まってしばらくは、最初の様子見の時期であり、子どもたちの人間関係も流動的です。

  しかし、それが過ぎると人間関係がだんだん固定化してきます。それによって、カーストが発生し始め、トラブルやいじめも出てきます。これが子どもたちにとっての最大の悩みですので、保護者も先生もその点については常に十分な配慮をしていく必要があります。

  子どもたち一人一人をよく観察して、いち早くその予兆をキャッチするように努めることが大事です。また、日頃から共感的な対応を心掛けて、子どもたちが相談しやすい関係を築いておきましょう。次のような、子どもたちが気楽に相談できる窓口を紹介することも必要です。

 【チャイルドライン】

18歳までの子どもを対象とした相談窓口です。電話やチャットで相談できます。

 24時間子供SOSダイヤル】

いじめ問題やその他の子どものSOS全般について、子どもや保護者が電話を通じて相談できます。

 BONDプロジェクト】

10代、20代の生きづらさを抱える女性を対象に、女性による支援を行っている団体です。電話のほか、LINEやメールを通じて相談できます。

  これらの相談窓口を紹介するプリントを作成して配ったり、目につくところに恒久的に掲示したりするとよいと思います。

  この時期は、もろもろの問題が混在しながら表れてくることが危惧されます。例年なら「5月病」ですが、今年は「6月病」という形で表れると思われますので、保護者も先生も十分気を付けてあげてほしいと思います。

 

 

 

 【多忙で孤立「壊れる教員たち」の過酷すぎる現実 東洋経済オンライン6/28

教育現場で「教員の孤立」が進んでいるという。授業準備や書類作成、生徒・保護者との対応、休日をつぶしての部活顧問。業務量がただでさえ多いうえ、相談できる上司や同僚が職場内におらず、メンタルをやられてしまうケースが少なくない。

実際、文部科学省の調査によると、上司に仕事の相談ができる教員は35%にとどまっていた。「みんな忙しくて相談なんてできない。これ以上続けたら、自分が潰れてしまう」。そんな声があふれる現場を追った。

 ■つねに孤独 ウソをついて教員を辞めた

  北関東にある小さな飲食店で田中まさるさん(仮名)に会った。20代。5月の水曜日、夜7時。昼間は真夏のように暑かったのに、外は激しい夕立になっている。

  「つらくて、教員を1年で辞めました。僕、この町にいないことになっているんです。『東北の実家に戻らなければならなくなった』とウソついて、職を辞めたんです。だから実名や写真は勘弁してください」

  田中さんはなぜ辞めたのか。

  「生徒指導で悩みがあっても誰にも相談ができないんです。担当している部活動では、言うことをきかない子もいて。昔みたく、ヤンキーってほどではないんですけど、周りと違う行動をし、かき乱す子が何人かいるんです。

  『いい加減にしなさい』と生徒を自分のもとに引き寄せたことがあるんですが、『死ね死ね。わー、胸ぐらをつかまれた最悪』と言われ……。そうした子のために何ができるのか、悩んでいました。でも、同僚教員には、『誰しも直面していることだから。キツかったけど、俺らも乗り越えてきたから、君も乗り越えて』という雰囲気が根付いていました」

  関東の大学を卒業し、出身地での教員を目指した。正規採用の試験は落ちてしまい、臨時採用の形で公立中学校の教員になった。

 「40人ほどの教員がいました。自分は3年生のクラスで副担任。運動部の副顧問。先生になって2日後です。あれっ、と思った。研修もなく、すぐ現場に出されました。新人ですよ?  『わからなかったら聞いて』と言われたのですが、聞けないんですよ。

  職員室ではみんな黙々と仕事をしていて、雑談のような会話はいっさい聞こえない。生徒は自分の言うことをなかなか聞いてくれないし、授業の内容はきちんと理解できているのか、と。保護者との対応も、これで大丈夫なのかと不安でした」

  教員の仕事は「つねに1人で孤独だった」と田中さんは振り返る。当然、日々の仕事も忙しかった。

  「部活の朝練があるので、朝6時には学校にいました。授業の準備などで夜は10時くらいまで。あと、先輩より先に帰れなかったんですよ。それが暗黙のルールとして根付いていました」

  土曜と日曜はいつも部活に費やした。

  「大会や練習試合で隣県へ行くときは大変でした。朝5時に顧問を車で迎えに行き、練習試合が終わると先生同士の懇親会。深夜2時に顧問を家まで送り、また朝5時に迎えに行く。週末はずっとそんな感じでした。先輩方は『これは当たり前。誰しもが通ること』と言っていて、相談なんてできなかったです」

 ■「50連勤」も。残業代はでない

  1971年に制定された「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)」により、教員には時間外勤務の手当は出ない。月額給与の4%加算が、それに代わるものとして支給されている。

  田中さんの月額給与は手取りで約23万円だった。それに対し、1カ月の労働時間はほとんど400時間を超えていたという。「飲食店でバイトしていたほうがもっとお金をもらえたと思う」と田中さんは話す。食べることでストレスを発散しようとしたせいか、1年で体重が18キロも増加した。

  「実際はそんなこと、ほとんどなかったんですが、仕事の悩みを相談できたとしても、毎日が忙しいから、仕事が終わった後。そんな時間から何かを相談するなら、家で寝たかった。

  6月と11月がとくにつらかった。6月は中学3年の引退試合で忙しかった。中3の副担だったので、11月は卒業後の進路指導で忙しくて。50連勤くらいしたかな。自分が何を考えているのかわからないくらい、精神的に追い込まれていました。毎日仕事だから友だちとも会えない。食べることしか、楽しみがなかったです」

  メンタルに関する面談はなかったのだろうか。

  「新年度に1年間の教育達成目標を書いて、それに沿って学期始めと学期末に『目標をどれくらい達成しているのか』の確認をする面談があっただけでした。精神状況に関する面談はなかったです」

  12月に入ると、校長から翌年も臨時教員を続けるかどうかの意向確認があった。限界だった田中さんは「東北の実家に戻らなければならなくなった」とウソをつき、継続しないと申し出たという。

  「教員をこれ以上続けると、自分が壊れてしまう、と。校長は『あ、そうなの』と淡白でした。やりがいは感じていたのに、一方では、いつも『もう辞めなきゃ』と思うほど追い込まれていました。

  3月に辞める前、生徒や保護者から『先生、ありがとう』と言われたときは『もう1年、頑張ればよかったかな』とも思ったんですが……。遅くまで仕事が続いていたとき、校長や教頭が『早く帰れ』などと職員室全体に強く言ってくれれば、変わっていたかもしれない。でも、この業界は上のことは絶対だから」

 田中さんのような事例は特殊ではない。「若手が上司に相談できない教育現場」という実態は、文科省の調査でも浮き彫りになる。

  2013年に公表された「教職員のメンタルヘルスに関する調査結果」(全国の小中高200校を無作為抽出、回答数約5000)によると、管理職以外の「教諭」が、不安や悩みを含む「ストレス」の相談を上司に「よくしている」割合は4.7%。「ときどき」を含めても35%しかいない。

 上司に相談できるか否かは、問題を具体的に解決できるかどうかが重要なポイントでもある。それなのに、これらの年代は自ら抱え込むか、同僚に相談するかなどの対応しかできなかった。その同僚相手に自らの相談をするかどうかについても、「よくしている」は16.2%しかない。上司にも同僚にも相談しない、できないという荒涼とした風景が見えるようだ。

  精神疾患で休職する教員の数も高止まりしている。

  文科省の「公立学校教職員の人事行政状況調査」(2018年度)によると、精神疾患を原因とする教員の休職者は、2007年度以降5000人前後で推移しており、2018年度は5212人を数えた。平成元年だった1989年度の1037人に比べると、今の水準はおよそ5倍。教員の採用抑制が続く中、高止まり傾向は顕著だ。

  教員の自殺も同じ状況にある。厚生労働省が集計・公表をしている調査によると、自殺した教員数は2018年では93人に上った。「勤務問題」が最大の原因であり、次に「健康問題」と続く。「健康問題」でもうつ病が主な要因を占めた。自殺者全体の傾向で言えば、2013年から100人前後を行き来している。

 ■子どもをめぐる状況は複雑化しているのに…

  こうした実態や各調査を踏まえ、東京都教職員互助会・三楽病院の真金薫子医師(精神神経科部長)は次のように訴える。

  「教員の数を早急に増やすべきです。1990年代後半に『学級崩壊』が注目され、教育現場の実態が問われましたが、今のほうが現場は複雑で大変だと考えています。ここに訪ねてくるのは、40代が最も多い。その次に20代と50代。ベテランもストレスを抱えている一方、20代がここ最近、増えてきています。2000年代から教員の大量採用を行っており、母数が増えてきているからか、と。内容を順番付けすると、生徒指導について、職場での人間関係、授業での教え方と保護者対応でしょうか。

  子どもをめぐる状況は複雑化しているのに、ほかの先生と問題を共有できていないと感じます。本来は『チーム学校』として問題解決に取り組まないといけないのに、個人プレーになっている。背景にあるのは、先生一人ひとり、仕事量が多いという現実です」

  「ベテラン教員の意識改革が必要」と訴える専門家もいる。関西外国語大学外国語学部の新井肇教授もその1人。教員のメンタルヘルスについて研究を続けている。

  「教員の仕事は『個業』と呼ばれています。1人ですべてやるという意識が、教育界に根付いているからです。もともと仕事量が多いうえ、ICT教育やプログラミング学習など、新しくやるべきことが次々と出てくる。保護者は教員を学習サービスの提供者としてどころか、子どもの面倒をみる何でも屋、あたかも学校を託児所のように、捉えている。

  そうした事柄に対応ができなければ、『力不足だった』という自己責任論で片付けられてしまう。チームプレーで一つひとつ乗り越えていこうといった意識をまずベテランが持たなければならない」

  およそ30年間、新井教授は埼玉県の公立高校で教壇に立っていた。その間に、長期派遣教員として、大学院で生徒指導の研究にも取り組んだ。今も、危機介入や研究協力で学校現場に入ることが多いが、そうした経験から言っても、教職の世界では、教員はつねに孤独な状況に立たされており、困ったときに「助けて」と言える職場環境もない。

  新井教授には、教員になった教え子を自死で亡くした経験もある。

 ■どれだけ残業しても給料が変わらない現実がある

  「うつ病から職場復帰して間もなくの出来事でした。そのことが私の研究の出発点になっています。教員のストレスには、人を相手にすることの難しさ、多忙や賃金のあり方、職場の人間関係などが複合的に絡んでいます。職場での孤立には、給特法の影響も大きい。どれだけ残業しても給料が変わらない現実があると、自分の仕事だけに集中し、他人のことには構わないという風潮が生まれてしまう」

  「人手不足については、教員を増やすことが先決です。そのうえで、学校が何もかも背負い込むのではなく、部活動など、可能なところは外部へ委託することも必要でしょう。教員を孤立させず、チームで動けるようにするには、『仕事量を減らすことこそが仕事の質を高める』という教員の意識改革と、それを保障するための人材確保という構造的な改革が不可欠です」

 

 <取材:フロントラインプレス(Frontline Press)

 

 

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