9月入学よりも、いま本当に必要な取り組みを 教育学会・提言 2020/5/22
日本教育学会 「9月入学・始業制」問題検討特別委員会による提言。その全体の骨子は
・現時点での9月入学への移行は、十分な効果が見込めないだけでなく、かえって問題を深刻化させる。しかも多額の財政負担・家計負担(6~7兆円)が必要。
・本提言では、緊急的な指導・ケア体制を急いで整備するともに、さまざまな種類の教職員を増員して学校に配置し、持続的に手厚い指導・ケア体制の学校を作ることを提案(当面1兆 3,000億円、次年度から毎年 1 兆円)
・本提言の提案は、政府からも家計からも多額の支出が必要な9月入学の導入よりも、もっと効率的で効果的な財政支出で、実効的・持続的な学力保障を進めることができる
となっている。
【提言 9月入学よりも、いま本当に必要な取り組みを 2020/5/22 概要版】
◆全体の骨子
・現時点での9月入学への移行は、十分な効果が見込めないだけでなく、かえって問題を深刻化させる。しかも多額の財政負担・家計負担(6~7兆円)が必要。
・本提言では、緊急的な指導・ケア体制を急いで整備するともに、さまざまな種類の教職員を増員して学校に配置し、持続的に手厚い指導・ケア体制の学校を作ることを提案(当面1兆 3,000億円、次年度から毎年 1 兆円)
・本提言の提案は、政府からも家計からも多額の支出が必要な9月入学の導入よりも、もっと効率的で効果的な財政支出で、実効的・持続的な学力保障を進めることができる
◆はじめに
・新型コロナウイルス感染症の拡大による休校の長期化、外出自粛により、子どもたちや保護者の不安は増大し、孤立やストレスなどの問題も起きている
・学習の遅れや学力格差拡大への懸念などへの不安や心配は高まっている
・困難な生活状況に置かれた子どもや、「退学を検討」している学生も増えている
・学校も慣れない事態に対処しようと頑張っているが、厳しい状況が続いている
・こうした中で、9月入学・始業は困難の解決に寄与するのか? もしも9月入学を実施しない場合には、何をするべきなのか? ⇒第Ⅰ部・第Ⅱ部
第Ⅰ部 9月入学・始業実施の場合必要な措置と生じる諸問題
1.9月入学の過去の議論で示されたメリット・デメリット
・9月入学のメリットとして「国際化」が語られてきたが、その効果はごく限定的である
・切り替え作業の混乱と人員・財政の大きなコストがデメリットとして指摘されてきた
・移行方式によっては、義務教育開始年齢が上がってしまう
2.切り替えに伴う移行方式
2.1 過去に検討された移行方式
2.2 現在検討されている移行方式
・過去の検討では4つの移行方式があるが、共通する問題と、それぞれ固有の問題がある
・過去の検討はいずれの方式でも新旧の学年が併存する仕組みが前提になっていた
・今回の議論は在学者も9月始業に切り替える方式なので、これまでの議論にはなかった問題点や課題がたくさん生じてくることになる
3.実施に伴って必要とされる措置と予想される諸問題
3.1 学校教育をめぐって
3.2 幼児教育およびそれと義務教育への接続
3.3 義務教育
3.4 高校
3.5 特別支援教育
3.6 入学試験
3.7 大学や専門学校など
・保育所等では年長児の保育が5カ月延長される一方、大量の待機児童が生まれるとともに、すでにあるクラスが分断され、子ども同士の関係や親同士の関係の分断が懸念される
・小学校以降は児童生徒数が急増する年度が生まれ、発達差への配慮やカリキュラム・行事・大会等の見直しが必要になる
・早く卒業して働き始める必要がある生徒・学生にとっては、放棄所得を含めて大変な負担が生まれ、中退者の増加も懸念される
・障がいを持つ子どもや家族など社会的弱者への対応が後回しにされてしまいかねない
・大学などの多くは3月卒業のままになる可能性もあり、制度的混乱が生まれかねない
・私立大学・専門学校で空白期の減収のため、経営危機あるいは大量の中退者が生まれる
4.家庭・家計や学校外活動など
・待機児童の増加やクラス分断は、子どもや親の生活に大きな影響を与える
・教育費が増加するともに、就職が遅れることでの損失が子ども 1 人 100 万円以上になる
・今年9月までの期間の学びや活動の位置づけが問題になる
5.社会との接続
5.1 就職・採用など
5.2 会計年度と学校会計とのズレ
・4月に新規学卒一括採用を行ってきた企業・公共団体等は、人事管理上の年度の運営に見直しが必要になる
・当面は4月採用と9月採用の二重状態が生まれる可能性もある
・児童生徒数が急増する年度の子どもたちは、進学・就職で競争が厳しくなり、受験浪人・就職浪人が大量に生まれる可能性もある
・年間2度の予算編成が必要になり、学校等での事務量が激増する
6.必要な人員と財政
・小学校1年生の 1.4 倍化に対応するための措置 1 兆 8,160 億円以上
・小学校入学前の措置 336 億円以上
・学校会計事務職員の配置 毎年 90 億年
・私立学校等の逸失学費の補填 1 兆 6,300 億円~2 兆 5,700 億円
・家計にとっては、子ども一人当たり5カ月分の所得が失われる
・家庭の教育費負担も増える 小・中・高だけで 2 兆 5,000 億円
・総額で 6.5 兆~7兆円のコストがかかる
第Ⅱ部 いま本当に必要な取り組みに向けて
1.実効的に危機に対応しつつ実効的・持続的な学力保障を――はじめに
・もしも9月入学への移行は、現時点での状況への方策として十分な効果が見込めないだけでなく、かえって問題を深刻化させるとすると、われわれは何をすべきか?
・政府からも家計からも多額の支出が必要な9月入学の導入よりも、もっと効率的で効果的な財政支出で、実効的・持続的な学力保障を進めることができる(以下の提案)
2.今、急いでやるべきこと/できること
・ICT 利用環境の整備拡充による対面授業とオンライン学習の併用体制の構築
・低所得世帯への支援拡充
・安心と学習をサポートする学習支援員、スクールカウンセラー、ボランティア等の配置
3.「学びの遅れ」の心配に応える
・学習指導要領を柔軟に運用し教科等を横断的に精選することで、「学びの保障」を実現
・今年度の最終学年の児童生徒への特別な配慮
・進学先での「学習の遅れ」に配慮した指導計画の作成、大学等でのリメディアル教育
・少人数の学習集団に授業を再編成/特定の子どもたちを集めた補習授業、課題学習、丁寧な個別指導などを実施できる体制で、学習の遅れを取り戻す
4.「学力の格差拡大」の心配に応える
・「下に手厚い学力保障」の仕組みを急いで作る
・複数担任制のできる限りの導入・拡充
・教員・学習指導員等を増員して、学習補充教室や個別指導の手厚いサポート
5.子どもたちへのケアの必要に応える
・子どもたちが学校でたくさんの大人との関係を築くことができるような学校づくり
・再開後しばらくは、一人ひとりの子どもの状況に気を配る体制を
・休校中の経験や感じたことの共有から始める
・増員された多様な教職員・スタッフにより、子どもたちのストレスや悩みを丁寧にケアする体制が構築できる
6.再開後の学校の大変さを支える体制づくり
・免許制度の弾力化と教員定数の大幅増
・大勢の学習指導員の配置
・各種の業務を担当する職員の増員
・多様な人材を確保し、学力保障・ケアのための持続的な体制を構築
7.大学や専門学校等の教育に求めたいこと
・オンライン化整備のための機関・学生への支援拡充
・実習の扱いの見直しと特例的な資格要件の緩和
・困っている学生への経済的支援
8.入試・就職の不安に応える
・入試は救済的な措置を:試験内容の調整、試験時期の調整、選抜方法による調整を組みあわせて対応
・就職にも十分な配慮を:採用選考の後ろ倒し・複数回選考等の配慮を
・中・高生の就職・採用は選考開始時期を遅らせたり地域差に配慮
9.必要となる人員と予算
・教職員、学習支援員等の増員 約1兆円
・小学校3人、中学校3人、高校2人の教職員増(合計約 10 万人)
・ICT 支援員、学習指導員を小中学校に4人、高校に2人配置(合計約 13 万人)
・スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーの増員
・すでに決定された「学校再開に向けた支援」と「学校休業中における子供たちの『学びの保障』」の合計額約 2,600 億円に、本提言で提案する追加的な教職員・スタッフの人件費を加えても、累計は当初は約 1 兆 3,000 億円、その後は毎年1兆円で効果的・持続的な「学びの保障」が可能
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