コロナ禍 教育・保育・療育施設等の閉鎖が子どもの心身を脅かしている 小児学会
小児学会日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会が20日発表した「小児の新型コロナウイルス感染症に関する医学的知見の現状。
「 COVID-19 患者の中で小児が占める割合は少なく、その殆どは家族内感染である。」「現時点では、学校や保育所におけるクラスターはないか、あるとしても極めて稀と考えられる。」「小児では成人と比べて軽症で、死亡例も殆どない。」などと分析。
「 教育・保育・療育・医療福祉施設等の閉鎖が子どもの心身を脅かしており、小児に関しては COVID-19 関連健康被害の方が問題と思われる。」としている。
専門家会議の尾身氏も、小池議員の質問に、一斉休校は「エビデンスがない」と断言したが、子どもの教育権・発達権を、簡単に奪い去った一斉休校の検証が必要と感じている。
【小児の新型コロナウイルス感染症に関する医学的知見の現状 2020/5/20 小児学会】
http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20200520corona_igakutekikenchi.pdf
【図表】 図. 子どもの COVID-19 関連被害 子どもは多くの場合、親から感染しているが、幸い殆どの症例は軽症である。しかし、COVID-19 流行に伴う社会 の変化の中で様々な被害を被っている。
【小児の新型コロナウイルス感染症に関する医学的知見の現状 2020/5/20】
小児学会日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会
これまでに報告された小児(0-18 歳)の COVID-19 の報告例(2020 年 5 月 18 日現在)から、小児の新型コロナウイルス感染症に関する医学的知見の現状をまとめました。
⚫ COVID-19 患者の中で小児が占める割合は少なく、その殆どは家族内感染である。
⚫ 現時点では、学校や保育所におけるクラスターはないか、あるとしても極めて稀と考えられる。
⚫ 小児では成人と比べて軽症で、死亡例も殆どない。
⚫ 乳児では発熱のみのこともある。10 代では凍瘡様皮膚病変が足先に出来ることがある。他の病原体との混合感染も少なくない。
⚫ SARS-CoV-2 は鼻咽頭よりも便中に長期間そして大量に排泄される。
⚫ リンパ球減少、プロカルシトニン高値、D-dimer 高値、CK-MB 高値に要注意。
⚫ 胸部 CT では、成人と同様に磨りガラス様陰影や胸膜下病変がよく認められるが、consolidation with surrounding halo sign が小児の特徴の可能性がある。
⚫ 殆どの小児 COVID-19 症例は経過観察または対症療法で十分とされている。
⚫ 急性呼吸不全症例ではコンサルタントや転送のタイミングを逃さないように注意する。
⚫ COVID-19 罹患妊娠・分娩において母子ともに予後は悪くなく、垂直感染は稀。しかし、新生児の感染は重篤化する可能性もある。
⚫ 海外のシステマティック・レビューでは、学校や保育施設の閉鎖は流行阻止効果に乏しく、逆に医療従事者が仕事を休まざるを得なくなるために COVID-19 死亡率を高める可能性が推定されている。
⚫ 教育・保育・療育・医療福祉施設等の閉鎖が子どもの心身を脅かしており、小児に関しては COVID-19 関連健康被害の方が問題と思われる。
疫学
◆COVID-19 患者の中で小児が占める割合は少なく、その殆どは家族内感染
・ 小児の感染者は全体の中で占める割合は少なく、中国では 19 歳未満の患者は全体の 2.4% [1]、米国では 18 歳未満の患者は全体の 1.7% [2]、韓国では 10 歳未満が全体の 1.0%、10~19 歳では 5.2%と報告されている [3]。
日本国内でも 5 月 3 日 18 時の時点で 10 歳未満の患者総数は 246 人(1.6%)、10~19 歳では 352 人(2.3%)と少ない [4]。
・ 小児の感染例の殆どは家族内に感染者がおり、家族内感染が疑われる。中国における家族内感染の調査では、家族内感染が 16.3%に認められたが、成人 17.1%に比べ小児は 4%と少なかった [5]。ただ別の中国からの報告では、濃厚接触した場合の感染リスクは、10 歳未満の小児(7.4%)でも全体の感染リスク(6.6 %)とほぼ同等だった [6]。従って、少なくとも家族内にあっては、小児への感染が決して起こりにくい訳ではなさそうである。小児患者から周囲への感染のリスクがあまり高くないことを推測させる報告(次項目)はあるが、そのエビデンスはない。
◆学校や保育園におけるクラスターはないか、あるとしても稀
・ オーストラリアからの報告では 15 の学校で 18 人の患者(9 人は生徒、9 人は学校職員)が 863 人(生徒 735人、職員 128 人)と濃厚接触があったにもかかわらず、感染が確認されたのは生徒 2 人だけだった [7]。ヨーロッパでも 9 歳の患者が 3 つの学校やスキー学校で有症状のまま 112 名に接触したにもかかわらず、誰にもうつしていなかった事例がある [8]。日本においても学校や保育所でのクラスターの事例は報告されていない。香川県の保育所での集団発生では、感染者は職員 11 人、園児 2 人であった
(香川県発表資料
https://www.pref.kagawa.lg.jp/content/dir1/dir1_6/dir1_6_2/wt5q49200131182439.shtml#outbreak )。
富山県の小学校では教師と生徒 5 人の感染が確認された
(富山市発表資料
https://www.city.toyama.toyama.jp/data/open/cnt/3/21718/1/R2.4.22shingatakorona.pdf?20200517 083601)。
・ このように現時点(2020 年 5 月 7 日)までの知見からは、インフルエンザの場合とは異なり、COVID-19 が学校や集団保育の現場でクラスターを起こして拡がっていく可能性は低いと推定される。
臨床
◆小児 COVID-19 症例は無症状〜軽症が多く、死亡例は少ない
・ 小児 COVID-19 に関する中国・シンガポールからの 18 論文のシステマチィック・レビューで 1,065 症例(うち0~9 歳は 444 例)を検討した結果、臨床症状は発熱、乾性咳嗽、全身倦怠感、嘔吐、下痢などで、発症後 1~2週間以内に改善することが多い [9]。0~9 歳で集中治療を要した症例は 1 歳児の 1 例のみで、死亡例はなかった。
米国の報告でも 18 歳未満では成人と比べて入院例が少なく(それぞれ 5.7%と 20%)、ICU 入室の割合も低かった(それぞれ 0.58%と 2.0%) [2]。
・ 米国からは小児の中でも 1 歳未満児と基礎疾患を有する児は入院する頻度が高いと報告された [2]。中国で年齢群を3歳未満、3~6歳、6~14 歳に分けて比べると3歳未満では比較的症状が重く、3~6 歳が最も軽かった [10]。また世界 25 か国における小児がん患者の調査で 9 例が COVID-19 に罹患していたが、8 例は無症状か軽症、もう 1 例の詳細は不明だった [11]。従って、3 歳未満(特に乳児)では重症化に注意が必要だが、どのような基礎疾患が重症化に繋がるのかは、まだよく分かっていない。
◆小児 COVID-19 の臨床的特徴
・ 乳児では、呼吸器症状を全く認めず、発熱のみのことがある [12]。また、神経学的徴候(体軸性筋緊張低下、傾眠、呻き声など)を見せることがあるが、髄液所見は正常で髄液から SARS-CoV-2 は検出されていない [13]。
・ 10 代の患者では、しもやけ(凍瘡)様の皮膚病変が足先(時に手足)に生じることがヨーロッパから報告されている [14]。
・ 他の呼吸器病原体(マイコプラズマ、インフルエンザ、RS ウイルスなど)との混合感染が稀ならず認められるのも、小児 COVID-19 の特徴かもしれない [10, 15]。
・ 欧米からは、毒素性ショック症候群または(不全型)川崎病を疑わせるような多臓器系炎症性症候群が、小児COVID-19 に関連して発症するという報告が出ており注目されている [16, 17]。現時点では、国内で COVID-19流行に伴って川崎病の発症が増えたり、川崎病症例で SARS-CoV-2 が検出されたりした報告はない。
検査
◆SARS-CoV-2 は鼻咽頭よりも便中に長期間そして大量に排泄される
・ 小児 COVID-19 患者 10 例において、経時的に鼻咽頭および便中の SARS-CoV-2 の排泄をリアルタイム PCR で追って行ったところ、鼻咽頭からウイルスが検出されなくなった後も 8 例では長期にわたってウイルスが検出されており、経過を通じて便中のウイルス量の方が多い傾向にあった [18]。便中のウイルスに感染性があるかどうかはまだ証明されていないが、SARS の場合に便からの感染拡大が見られたことからも COVID-19 に関しても糞口感染にも注意が必要となる。また検査検体として、便も有用であるかも知れない。
◆リンパ球減少、プロカルシトニン高値、D-dimer 高値、CK-MB 高値に要注意
・ 小児 COVID-19 症例において肺炎合併例と非合併例とを比較すると、前者で有意にリンパ球減少、プロカルシトニン高値、D-dimer 高値、CK-MB 高値が認められている [19]。成人でも指摘されていることであるが、小児でも要注意と考えるべきである。
◆小児 COVID-19 の胸部 CT 所見の特徴
・ 成人 COVID-19 肺炎例では両側性多巣性の磨りガラス様陰影(ground-glass opacities, GGO)や末梢性または胸膜下に分布する硬化像(consolidation)がよく認められている。その他、血管影増強や逆転暈状徴候(reversed halo sign)もよく認められるが、病変が中枢側に分布していたり、肺外病変(胸水、リンパ節腫大など)を認めたりすることは殆どない [20]。
・ 小児 COVID-19 肺炎の胸部画像所見をまとめた報告は少ない。小児患者 20 例の胸部 CT 所見として、GGO(60%)、肺病変(両側性 50%、片側性 30%)や胸膜下病変(100%)がよく認められた。暈状徴候に囲まれた硬化像(consolidation with surrounding halo sign)が 50%に認められ、小児 COVID-19 肺炎の特徴の可能性がある[15]。今後の症例の集積と解析を待つ必要がある。
治療
◆殆どの小児 COVID-19 症例は経過観察または対症療法で十分
・ 小児の COVID-19 は殆どの場合、成人と比べて軽症であることから、経過観察または対症療法で十分である。
・ 抗ウイルス療法に関しては、どの薬剤であっても有効性や安全性のデータが不十分で、特に小児では使用経験が少ない。北米 18 施設の小児感染症を専門とする医師・薬剤師による治療ガイダンスがエキスパート・オピニオンという形でまとめられている [21]。 酸素投与(元々酸素投与を受けていた場合は投与量の増大)や、それ以上の呼吸管理が必要となるか、多臓器不全か敗血症に陥ったか、急激に臨床経過が増悪した場合に、リスク・ベネフィットのバランスを勘案して個別に抗ウイルス療法の是非を考えるように提唱している。しかし、他の疾患における抗ウイルス薬(例えば、抗インフルエンザ薬や抗ヘルペスウイルス薬)は、発症早期でないと効果は期待できないことが多く、COVID-19 の場合もいずれの抗ウイルス薬であっても、重症化する前でないと有効性は確認できない可能性がある。また、使用する場合は臨床研究の一環として実施することも提唱されている。現時点では、レムデシビルを第一選択、それが使えない場合はヒドロキシクロロキンを推奨している。日本国内にあっては、ファビピラビルやシクレソニドの臨床研究も成人患者を対象に行われているが、やはり小児 COVID-19 への使用経験は殆どない。シクレソニドは小児科領域で喘息治療薬として使われてきたこともあり、安全性への懸念は小さい。
◆急性呼吸不全症例ではコンサルタントや転送のタイミングを逃さない
・ 人工呼吸管理が必要となる症例は、小児の場合割合としては小さいと思われるが、流行のピークに達すると絶対数は増えてくると予想される。日本集中治療学会などによる「COVID-19 急性呼吸不全への人工呼吸と ECMO:基本的注意事項」[22] には、日本小児科学会も参画してまとめている。「日本 COVID-19 対策 ECMOnet」が専門電話番号で 24 時間対応しているが、小児特有の問題については「小児専門回線」でコンサルトすることが出来る。
・ フェイスマスク酸素投与 5L/分で酸素飽和度が 90-93%以上を安定して維持できない場合など、気管挿管・人工呼吸の適用を検討する段階でコンサルトする。Mask/nasal CPAP や NHFO はエアロゾル飛散のため感染リスクがあり、COVID-19 確定例では実施しない。COVID-19 呼吸不全の悪化速度が極めて速いことがあるため、酸素投与下でも呼吸状態が悪化し、陽圧補助の必要性が考慮される場合は、早めに ECMO バックアップ施設に転送することが望ましい。
新生児
◆COVID-19 罹患妊娠・分娩において母子ともに予後は悪くなく、垂直感染は稀
・ COVID-19 罹患妊婦と出生児について 33 の論文がレビューされている [23]。385 人の妊婦の殆どが軽症で、重症例は 3.6%、非常に重篤だったのは 0.8%だった。252 人が分娩(帝王切開 69.4%、経腟分娩 30.6%)に至り、出生した 256 人の新生児のうち PCR 陽性が 4 名(いずれも帝王切開出生)いたが、全て軽症で退院できた。
PCR 陽性の新生児は母親由来のウイルスによる偽陽性の可能性もあるが、早期発症の垂直感染は除外できていない [24]。母児が退院後に家庭内で感染対策を講じながらも、遅発的に児が PCR 陽性となる事例も報告されている[25]。以上より、COVID-19 妊婦は非妊娠成人と概ね変わらない症状と重症度であり、出生する児の予後は悪くないと推定された。しかし、新生児期に早発型あるいは遅発型の垂直感染は稀に見られるかも知れないため、分娩時や家族内での感染対策に留意する必要がある。
・ 授乳を介する垂直感染を完全に防ぐ手段として人工栄養がある。一方、母乳の検査も 26 例について行われたが、SARS-CoV-2 PCR は全て陰性だった [23]。有益性を優先して母乳を児に与える場合は、母親による適切な感染対策と防護具の実施下での清潔な直接授乳あるいは搾乳手技を指導あるいは支援する体制下で行う[26]。
◆新生児感染は重症化の恐れがあるか?
・ 新生児期に感染した場合の臨床像や予後はまだよく分かっていないが、日齢 27 の COVID-19 児は軽症ではあったものの、母親と比べて非常に高いレベルのウイルスが排泄され、しかも鼻咽頭や唾液や便だけではなく血漿や尿からも検出されていて、新生児では SARS-CoV-2 感染が全身に拡がる可能性を示している [27]。また生後 3週の COVID-19 症例も報告されているが、重症肺炎や敗血症のために PICU で人工呼吸やその他の集中管理を受けている [28]。症例数が少ないため明らかではないが、新生児の場合には、重症化のリスクを想定しておく必要はある。
COVID-19 流行期の子どもの心身の健康
◆学校や保育施設の閉鎖は流行阻止効果に乏しい
・ COVID-19 は、同じパンデミックを起こす呼吸器感染であるインフルエンザとは異なる部分があることが分かって来ている。その一つが前項にあるように、妊婦がそれ程重症化しないこと、もう一つは小児の感染例が少なく重症化も稀であることである。さらに学校や保育現場で小児が感染源となったクラスターの報告が、国内外を通じて殆ど見られていないことは特筆すべきである。COVID-19 流行に学校閉鎖がどの程度有効であるのか、数理モデリングで検討した研究やそれらをシステマティック・レビューした考察が報告されている。学校閉鎖を行う事は、その他の social distancing と比べて効果は少なく、COVID-19 死亡者の減少は 2~3%に留まる。一方、医療従事者も子どもの世話のために仕事を休まざるを得なくなる事から、医療資源の損失による COVID-19 死亡数が増加し、結果として学校閉鎖は COVID-19 死亡者をむしろ増加させると推定されている [29-31]。
◆教育・保育・療育・医療福祉施設等の閉鎖が子どもの心身を脅かしている
・ 学校閉鎖は、単に子ども達の教育の機会を奪うだけではなく、屋外活動や社会的交流が減少することとも相まって、子どもを抑うつ傾向に陥らせている [32]。
・ 療育施設は否応なしに密な環境でのケアが求められ、一旦 COVID-19 が持ち込まれたら、施設内に蔓延してしまいやすい。世界的にも療育施設が閉鎖され、行き場がなくなった医療的ケア児への対応の必要性が訴えられている [33]。
・ 就業や外出の制限のために親子とも自宅に引き籠るようになって、ストレスが高まることから家庭内暴力や子ども虐待のリスクが増す事が危惧されているのに、それに対応する福祉施設職員が通常通り就業できていない状況が拍車をかけている。
・ ただでさえ「子ども貧困」の問題がクローズアップされていた中、親の失業や収入減のために状況はさらに悪化している上、福祉活動も滞り「子ども食堂」などのボランティア活動も止まってしまっている。
・ 乳幼児健診も進まず、こどもの心身の健康上の問題を早期に発見し介入することが出来ず、大きな健康被害や QOLの低下に繋がることも危惧されている。
・ 予防接種の機会を逃す子どもが増えている事も大きな問題である。世界的にも 1 億 2 千万人近い子ども達が麻疹ワクチンを接種し損ねることが危惧されていて、これらのワクチンで予防可能な疾患(vaccine preventable diseases)による被害は甚大となる [34]。
・ このように、こと子どもに関する限り、COVID-19 が直接もたらす影響よりも COVID-19 関連健康被害の方が遥かに大きくなることが予想される(図)。
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