「スマート自治体構想」と公務労働 (メモ)
黒田兼一・明治大学名誉教授の論稿(経済2020/03)のメモ
最近やたらと耳にする「自治体戦略2040」「スマート自治体」構想・・・・人口減少に対処するために、AI、ロボテックスを利用し、「自治体職員を半分にする」という大リストラ方針。その意味と影響を検討した論稿
まとめのところでは・・・
“そもそも日本の公務員数は、先進国で最低水準/時間外労働も民間企業に劣らず多い/ 「2040構想」で、「従来の半分の職員」でできるようにAI等の導入すべき、サービス情報のプラットホーム化すへぎ、との方針は、自治の破壊であり、憲法13条、25条の実質的蹂躙に道をひらくもの
AI等の導入は、多忙化の解消、住民サービスの質的向上に使われるべきであり、人減らしに使わないルールづくりが必要。”
【「スマート自治体構想」と公務労働 (メモ) 】
黒田兼一・明治大学名誉教授 経済2020/03
◆はじめに
・公務の世界で進む雇用破壊 非正規労働者の増加、民間企業に丸投げする「包括委託制度」、指定管理、PFIなど
・総務省 会計年度任用職員導入「マニュアル」・・・「現に存在する職を漫然と存続させるのではなく」「民間委託の推進」
・業務のリストラにとどまらない「公共サービス産業化」政策が大かがりに推進
そのもとで・・・
*「自治体戦略2040」「スマート自治体」構想(18年4月と7月)・・・・大リストラ戦略/人口減少に対処するために、AI、ロボテックスを利用し、「自治体職員を半分にする」という過激な方針 / その意味と影響を検討
Ⅰ 「自治体戦略2040構想」と Society5.0
- 自治体戦略2040
・2017年10月、研究会立ち上げ、18年4月第一次報告、7月第二次報告という急ピッチ
・人口の急激な減少と高齢化がピークに達する2040年頃の自治体の「あるべき姿」を想定し、対応策を打ち出しもの
- 自治体をサービスプロバイダーから、公共私が協力しあう場を設定する「プラットホーム・ビルダー」への転換
・直接、サービスを提供することから、住民サービス情報の授受の「場」「土台」への変容
(メモ者 「新しい公共」など、自治体は財政と計画だけをとりあつかい、直接なサービスはボランティアを含む多様な事業体が提供する、という財界が一貫してすすめる自治体構造改革路線の柱の1つ。
具体例として、介護保険。民間事業者によるサービス提供・細かな点数制度による市場化、軽度や市場化になじまない部分をボランティア、シルバー人材センターなどの活用。ごく限られた部分だけ生活保護で保障)
・サッチャー時代「公共サービスを提供する当局から、公共サービスを管理する当局への」と瓜二つ
- 自治体職員は「関係者を巻き込み、まとめるプロジェクトマネージャーになる必要がある」と提言
・人口減、高齢化で、自治体職員が減少、くらしを維持する力が低下することへの「対応策」
~ 自治体は、住民の合意形成をコーディネイトするだけの役割とする地方自治体無用論(白藤)
- 「スマート自治体」への転換
・「情報システムとICT関連のAI、RPAなどの新技術によって、行政サービスを効果的・効率的に提供できる自治体」で、「従来の半分の職員」で機能させる、というもの /その背景に、財界のすすめるSciety5.0
(2)経団連の成長戦略とSciety5.0
・「スマート自治体」は、経団連の「成長戦略」の一環/公共サービスの産業化
→ 情報化を「新たな基幹産業」、超スマート社会と法的整備、対GDP1%予算確保など/16年、Sciety5.0に初言及
・Sciety5.0とは 狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く「新たな社会」=「超スマート社会」
~必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細かに対応できる社会/ その実現のために「科学技術イノベーションを通して、生産性向上を目指していく」(第五期科学技術基本計画)
→ 官民データ活用促進基本法の成立(17年5月)をうけ、国・自治体が保有する個人情報を含むデータをオープン化し産業界、事業者での活用を推進すると提言
*Sciety5.0 政府と財界による「成長戦略」/その自治体版が「自治体戦略2040」と「スマート自治体」
Ⅱ.AI は労働を奪うか
・RPA(ロボテック・プロセス・オートメーション) 職員が手作業でやっていた(定型)事務処理を、パソコン内で自動処理するシステム / あくまで事務作業の一部を自動化するソフトウェアロボット。
・問題 … 「人間の仕事を奪うかもしれない」という漠然とした不安
~ AIの「機械学習」機能 与えられたデータ処理を繰り返し重ねることで、一定のパターンを認識する技術=「学習機能」/また、そのパターンを重視すべきかを、AIに検討させる技術 = 「深層学習」に到達
→ 語られる不安内容 / ここまでくると、AIは人間の手を借りずに自分で成長し、やがて人間を能力を超える日が来るのではないか( これを技術的特異点=シンギュラリティ と呼ぶ)、が
*数学者・新井紀子氏による否定 「AIがコンピュータ上で実現されるソフトウェアである限り、人間の知的活動のすべてが数式で表現できなければ、AIが人間にとって代わることはない」、「私たちの脳が、意識無意識を問わず認識していることをすべて計算可能な数式に置き換えること」は不可能であるから、「シンギュラリティが到達することはない」
*稲葉振一郎 「長期的に見れば、心配すべきは失業ではなく、生産性向上の分配が十分に労働者に還元されるか、人工知能を所有する資本家との格差か大きくなることではないか」
⇒ が、「2040構想」では・・・「AIが人を超える(2045年頃)、AIが人間の代わりに、知的労働をする時代」という安易な資料を引用してうり、真っ当な議論と言えない。危機をあおっているもの
・人間労働と機械の歴史 ~ 人間の仕事を機械が担い、その仕事が消滅し、新たな仕事が生れてきた
⇒ 英オックスフォード大研究チーム・・ AIでなくなる職業 事務系仕事、熟練労働もマニュアル化(数値化) /一方で、代替できにくい仕事 教育と医療、作家・研究者、聖職者など、数値化しにくい仕事
→人と人の関係、感情が介在する仕事 /この当否は別にして、技術的側面だけでなく、社会関係の側面の考察が必要
★AIは、労働時間の短縮、質の高い仕事のために
以上から言えること
- AIは、情報処理技術。何かかしかできるものではなく、自動車、家電、工場や医療、ウェブサービスの一部に組み込み、情報処理を制御するソフトウエアである。
- AI自体が「判断」しているのではない。データを分析し整理しているだけ。/分類して整理する基準は、人が設定
「なにが良いか、何が必要か、何が大切か」の「判断基準」の作成は人間
- AIは、高度な道具・・・人と人との関係、感情を介する仕事は代行できないが、膨大な時間をかけていた事務作業を瞬時にこなす作用がある。
→ 人と人との関係、感情を介する仕事にまつわる事務作業の負荷の軽減、労働時間の短縮、質の高い仕事の可能性が広がる
*複雑にからむ「生きづらさ」の背景をさぐり、生きる希望と意欲を醸成していくことを支援する福祉分野などコミュニケーション労働が軸となる公務にとって、AIを道具として、どう使うか、の議論が不可欠
Ⅲ 「スマート自治体」構想と自治体職員
(1)「スマート自治体」構想
・「第二次報告」の直後、総務省に「スマート自治体研究会」が発足、19年5月に「報告書」
・研究会の目的 ~自治体業務の標準化とAI・RPA活用のための課題整理
~ 原則「パーケージソフトに対するカスタマイズは行わない」/ いまのシステムや業務の修正=「改築方式」ではなく、全面的・抜本的に見直す「引っ越し方式」が必要。「過去と断絶する覚悟を持って臨む」
・実施方向 3つの原則
- 「行政手続きを紙から電子へ」 窓口にくる負担、行政手続きの負担の削減
- 行政アプリを自前調達からサービス利用式へ」 自治体毎のカスタマイズから、全国アプリの利用
- 自治体もベンダも、守りから攻めへの転換 システムの構築・保守・点検からAI等の活用に積極的に投資
・7つの領域の「方策」 業務プログラムの標準化、システムの標準化、ICT活用普及と促進、電子化など標準化、データ項目など標準化、セキュリティ、人材面の方策
・「取組開始」例 国と自治体のマイナーポータルの積極活用が最優先課題、「自治体のカスタマイス要求の拒否を」と提言
⇒ どこを見ても地方自治体が果たすべき役割や公務員とは何かについての考慮の欠落
★住民の基本的人権を守る窓口業務
~「報告書」の問題点
- 電子申請は万能 ?
「窓口に繰る負担はなくなる」⇔ 窓口は単なる証明書の「自動販売機」ではない
→ 野洲市 窓口で、市民の抱える問題を「発見」し、必要な行政支援に繋いでいく /本来の役割!
- 7つの「方策」は、「スマート自治体」推進の「方策」であり、内容的議論が必要
・「標準化」 ・・・ 市民や職員の意見を踏まえて十分な協議と理解が必要。が/「方策」は、「システムの標準化してから、業務プロセスを合わせる方が効果的」と、機械に、人と業務を合わせるという転倒した提言になっている。
- システム構築で「カスタマイズしないことを原則」・・・独自性を犠牲にする
→ 2つの危惧
Ⓐ住民の生活と暮らしに直結する基礎的自治体の独自性を薄める/ 一方、システムで処理できない住民サイドの要望に丁寧に応えていくためには職員への負担が増加する/多様性を処理できるAIの特性を生かさせない
Ⓑ地方自治体の業務が営利目的の企業に丸ごと握られてしまうこと。サービス全体の外部化される危険
*AIにすると、「半分にできる」という前に、「半分にすべきか」「スマート自治体は必要なのか」~地方自治の本旨から再考する必要がある
(2) AI・RPAの現状と公務労働 川崎市・さいたま市の事例
・実際の使われ方
AI 「音声認識による議事録作成」34.9%、「チャットボットによる応答」50.9%
RPA そのほとんどが集計書類作成、申請書類作成などの自動作成
~ ほとんどが、担当職員の仕事の補助手段
ⓐ 川崎市/三菱総研 「AIを活用した子育て支援サービス」
・あらかじめ登録した内容で返答する「チァットボッ」トで、「機械学習」「深層学習」の機能は組み込んでない
→その理由/「高度な学習機能を備えているほどブラックボックス化してしまう懸念がある」
・担当職員からのヒアリング
❶「代替も念頭になかったわけではないが、補完と位置付けた」
「業務量の多い職員の仕事のツールとして使えば、サービス向上、業務改善に寄与する」
❷「ノウハウの蓄積、市民とのかかわりの重視」
目的を「ベテラン職員のノウハウを蓄積すること」「分野を横断する情報提供して、業務を関連づけること」「問い合わせ内容を蓄積し、新たな知見を得ること」と、技能と蓄積、市民との係りを重視するなど、人とのかかわりの重視
聞き取り 「AIで完結するのはリスクがある。最終的には陳到部署につながる仕組みがよい」「標準化は、一方で自由度が失われことのデメリットもおおはい」
Ⓑ さいたま市/富士通、九州大 「保育施設入所マッチングの実証実験」
・6000人の希望児、保護者希望、兄弟姉妹の同じ園入所など踏まえ、300施設に振り分ける作業
~ これまで20-30人が3日間、1050時間かけていた作業が、数秒で算出。保護者の希望との一致率も93%
担当者 「与えられた条件下では完璧に近い結果」
・担当職員の心身の負担軽減効果は大きい。が、入所通知が1週間早くなる程度で、「保護者への説明などは職員がしなければならない」と、マッチングであっても職員のかかわりを指摘/ 人間の補助業務
→ 示唆的な視点 「マッチング業務に携わる職員は、子どもの名前を見ただけでその家族の状況がわかるようになっている」 ⇔ 自治業務の特徴である「全体性」 (メモ者 被災地で、住民の顔を知る職員がいることの力)
★市民とのつながり、質を高めるツールとして
①AI等は、自治体職員の仕事を奪うものでも、パートナーでもなく、ツールである。業務改善の可能性を持つ
⇔ 保育マッチング 担当者「AIで完結すれば、作業を通して培ってきた地域・保育・子育てをめぐる知識やノウハウ、市民とのつながりを失うことになりかねない」/ 市民との「繋がり」「対話」の質があがるツールとしてAIの活用が求められる
→ そのためには、AI等のカスタマイズが求められる。/また、AIで「仕事がブラックボックス化しないようにすべきだ」(川崎市担当者)は本質的な指摘
◆おわりに 新しい時代の「全体の奉仕者」、業務の質を高め、労働条件の改善へ
・「スマート自治体」構想を考える前提・・・「住民一人ひとり」への奉仕者と働くことが構想の基本
・「2040構想」・・・ 国の「成長戦略」に寄与できるよう自治体を変質されること・・・ 一部(企業)への奉仕者への変質
*AI・RPA導入について、留意点・チェックポイント
①AIは、自治体職員に代わって公務労働を担えるわけではない。補助手段として、どのような仕事に、どのような形で使うことが、住民サービスの向上になるかを問うべき
→ ICT企業まかせでなく、現場で゛議論すべき。/その視点は、ツールとしてのAIが、職員と住民との「対話」を強くするような使われ方がどうか、が問われる ⇔ AIで完結するリスク、ブラックボックス化の視点
②AIが行っている業務の質の点検
・そもそもAIは、デジタル化された情報を分類し、整理し、予め「学習」している「解答集」から、最適解を見つけ出して、応答しているだけ。「解答集」なしには、動かない
→ どのような「解答集」をつくるかが重要 / 「効率性重視」か「住民の福祉重視」か、「全体の奉仕者」か「一部の奉仕者」か、の基準の判断はAIはできない。システム設計者やIcT企業でもない。この判断は、自治体の現場職員(それに関する関係者・団体も含む)の議論にもとづくものである必要。
3.政府・総務省、「スマート自治体報告書」の「カスタマイズしない」方針は大いに批判されるべき
住民の要望は多様、そもそも多様な課題に応えるのがAIではなかったか。カスタマイズ回避は「第4次産業革命」に逆行
★公共公務分野の雇用破壊が異常に急速に進展 /公務員には、労働契約法が適用されず、雇用継続のない非正規化がさらに浸透する気配が濃厚
→ そもそも日本の公務員数は、先進国で最低水準/時間外労働も民間企業に劣らず多い/ 「2040構想」で、「従来の半分の職員」でできるようにAI等の導入すべき、サービス情報のプラットホーム化すへぎ、との方針は、自治の破壊であり、憲法13条、25条の実質的蹂躙に道をひらくもの
→AI等の導入は、多忙化の解消、住民サービスの質的向上に使われるべきであり、人減らしに使わないルールづくりが必要。
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