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2020 春闘提言 働くルールの確立、最賃引き上げなどで国民生活改善を 労働総研1/20

2020 春闘提言 働くルールの確立、最賃引き上げなどで国民生活改善を 労働総研1/20

 ⬥ 政府・与党は、株価上昇、企業収益拡大、有効求人倍率上昇などをアベノミクスの成果と誇っているが、これは一部の数字を誇張したものである。

⬥ 安倍政権下で企業関連指標は改善しているが、経常利益の増加に比べて売上高の伸びは鈍い。日本を代表する大企業で、業績黒字の下でも大規模なリストラを強行しているところが少なくない。有効求人倍率の上昇も、求職者数の減少によるところが大きく、求人数の多い業種では低賃金、長時間労働など労働条件が悪いために離職率が高く、これが求人倍率を高める要因ともなっている。

⬥ 賃金や消費関連指標を見ると、安倍政権は国民生活の改善には失敗していると言わざるを得ない。日本を安定的な成長軌道に乗せるためには、大幅賃上げや最低賃金引き上げ、労働時間の短縮が不可欠である。

⬥ 大企業優遇のアベノミクスの下で、地方経済が疲弊している。地方経済を活性化するためには、地方経済を担っている中小企業の役割が重要であり、最低賃金や地場賃金引き上げが必要である。最賃引き上げのため、社会保険料負担軽減などの中小企業支援策の拡充が不可欠である。

⬥ 安倍政権下で悪化した勤労者の生活水準を安倍内閣発足前に戻すために必要な賃上げ額を試算したところ、2万6千円という数字が得られた。

⬥ 安倍内閣が進める「働き方改革」では、長時間労働の温存、不安定雇用の拡大、賃金低下圧力などが強まることが懸念される。本提言では、2020 春闘の課題として、「働くルールの確立」(法令遵守)、「非正規雇用の正規化」、「最低賃金の1,500 円以上への引き上げ」、「賃金要求2万5千円の実現」などを提案している。これに要する財源は 60.1 兆円であるが、それは 2018 年度内部留保額 692.4兆円の 8.7%に過ぎない。「働くルールの確立」に限れば、必要原資は 13.7 兆円で、17 年度から 18 年度の内部留保積み増し分の 55%ほどで実現できる。労働条件の維持・向上、国民生活改善のために内部留保を活用することは待ったなしの課題であり、それは日本経済の安定的な成長にも資するものである。

1 国民生活を改善しなかったアベノミクス

 

政府や与党は、株価の上昇や企業収益の拡大、有効求人倍率の上昇をアベノミクスの成果として誇っているが、国民生活の改善という面からすれば、大きな成果として誇れるようなものではなく、一面的な数字を誇張して表したものである。

 

(1)企業関連指標は改善

 

安倍政権下で企業関連指標は改善している。第1表により、安倍政権下の経済実績を検証してみると、企業関連指標と国民生活関連指標の落差が大きいことに気がつく。

株価は確かに 2012 年の 9,238 円台から2万円台に値上がりしたし、企業の経常利益も大きく増大している。しかし株価の上昇は、マイナス金利や預金の超低金利化のもとで、投資先を失った資金が流れ込んで生じたことであり、いわば政策的にもたらされたものである。

企業収益の拡大も、売上高の増大によって営業利益が拡大したというよりも、円高や人件費削減によって作り出されたものである。企業売上高を見ると、2012 年度と比較して 2018年度は 11.72%増加したに過ぎないのに、経常利益は 73.17%も増加している。企業は売上高が停滞しているもとで、賃金などコストを削減することで、利益を創出しているという面がある。それは、リストラによる人員削減が、18 年、19 年と連続して行われていることからも言える。

大企業のリストラは、業績が黒字でも選択と集中に基づく事業再編や経営戦略の観点から、毎年のように行われている。2018 年には富士通で 2,850 人、NECで 2,170 人、東芝で 1,460 人、大正製薬の 948 人など、大企業で大幅な人員削減が行われている。2019 年にも、ジャパンディスプレーで 1,200 人、パイオニアが 700 人など大規模なリストラが続いている。

こうした人員削減に基づき、企業は売上高が伸びなくても、利益を上げる体制を整えているのである。

有効求人倍率も 0.80 から 1.62 に増大し、マクロ的な数字では人手不足状態にあるが、その理由の一つは生産年齢人口の減少に伴い、分母の求職者自体が減少するとともに、高齢化の進展により、医療と福祉分野で分子の求人が増加していることによる。求職者数は、2013 年の 292.2 万人から年々減少し、2019 10 月には 170.5 万人と、この間に 120 万人余り減少している。これに対して、求人は医療・福祉や卸売・小売、飲食店などの分野を中心に、2013 年の 212.1 万人から 273 万人へと増加している。この医療・福祉や卸売・小売、飲食店での求人増は、低賃金、長時間労働など労働条件が悪いことから、離職率が高くなり、恒常的に求人しなければならない状態が続いているからである。したがって有効求人倍率の増加の背景には、低労働条件業種での「人手不足」の影響が大きい。売上高増大→利益増大という経済の好循環により企業の求人意欲が拡大し、「人手不足」になっているわけではないのである。

 

(2)国民生活は改善していない

 

アベノミクス最大の問題は、輸出や海外直接投資の効果で企業収益は増大しているにもかかわらず、国民の大多数は「景気回復」の実感が乏しいと感じているところにある。2019年9月の日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」(個人調査)によれば、景況感D.I.(「良くなった(良くなる)-悪くなった(悪くなる)」)は、1年前と比べて、「良くなった」との回答が減少し「悪くなった」との回答が増加し、悪化している。同様に、2019 年に行われたマスコミ各社の世論調査でも、「景気回復の実感がない」という回答が 7080%以上を占めている。

こうした「景気回復」の実感のなさは、賃金が「人手不足」と言われている中で停滞していることによる。実際に、2015 年を 100 とする「毎月勤労統計調査」の実質賃金指数(現金給与総額)は 100.8 と横ばいであり、定期給与(「きまって支給する給与」)も 2012 年の26.16 万円から 26.46 万円へとわずか 3,000 円、率にして 1.15%しか増加していない。

また、2018 年の可処分所得は 40.1 万円と増加しているが、それは大和総研の分析によれば、女性がパートや正社員として新たに働きに出た少数の世帯(全体の 10%ほど)によって全体が引き上げられたことによる。それ以外の「妻が正社員」「妻がパート」「妻が専業主婦」の世帯では可処分所得は減少している(「家計の実質可処分所得の推計(20112018 年)」)

その結果、消費支出は 2012 年の 27.7 万円から 27.6 万円となっているのである。

このように、賃金や消費関連指標の推移を見ると、安倍政権下で企業収益は向上したが、国民生活の改善には失敗している、ということができる。

 

(3)経済を成長させる力を失った日本経済とその打開の途

 

安倍政権は、名目GDPが 507 兆円から 548 兆円へ約 40 兆円増加したことで経済が大きく成長したと誇っている。

しかし、主要国の中では低い経済成長率にとどまっている。IMFによる実質GDP成長率の推移を見ると、日本は 2.0%(13 年)、0.3%(14 年)、1.1%(15 年)、1.0%(16 年)、1.5%(17 年)であり、13 年を除くと、先進国のなかでも低い伸びにとどまっている(第1図)。

経済を成長させる要因は個人消費と設備投資であるが、企業の設備投資は増加しているものの、増加率は低下傾向にあり、2016 年度はマイナスになった。2018 年度も前年より低下している。(第2図)。企業は、リストラなどで収益を上げながら、賃上げもせず、かといって設備投資を積極的にするわけでもなく、内部留保を 285 兆円から 368 兆円へと積み上げるだけになっている(資本金 10 億円以上の大企業)。賃上げもしないので、消費も伸びず、消費が伸びないので、設備投資も行わず、設備投資を行わないので、消費財、資本財とも需要が伸びないという悪循環に陥っているのである。日本経済は、成長する力が失われた状態なのである。

日本を安定的な成長軌道に乗せるためには、大幅賃上げと労働時間短縮と休日増など労働条件の向上で安定的に消費と投資を拡大させる必要がある。大幅賃上げの実現と労働時間の短縮などによって消費支出が増大すれば、設備投資も拡大するので、経済活動は活発になり、安定的な経済成長が実現できるだろう。

 

2 地方経済を疲弊させたアベノミクス

 

(1)疲弊する地方経済

安倍政権は、地方創生をうたっているものの、地方経済は人口減と高齢化により、地域の持続可能性に疑問符が投げかけられるなど、疲弊している。

地方経済を深刻なものにしている主な要因として、人口の流出と三大都市圏(東京圏、名古屋圏、大阪圏)への集中がある。2013 年の三大都市圏への流入人口は 138.1 万人だったが、16 年には 169.3 万人に拡大している。

こうした地方から大都市圏への流入の背景には、地方経済の疲弊がある。働き場となる事業所数は、全国的に減少傾向にあるが、とくに地方では事業所数の減少が大きい。「経済センサス」でみると、2001 年に対して 14 年の減少割合が 10%以上の県は 25 県にのぼり、そのうち青森、秋田、島根、高知の各県は 15%以上減少している。人口減少の著しい地域は山間部の過疎地域が多いが、茨城県日立市や大阪府門真市のような大企業の城下町でも人口流出が著しい。日立市は、日立製作所発祥の地で市内には多くの工場が立地していたが、日立化成や日立電線などグループ会社のリストラで人口は 1985 年のピーク時よりも 2018年には約2万人減少している。門真市も、パナソニックのリストラや工場閉鎖の影響で、1992 年のピーク時比で2万人以上減少している。工場閉鎖やリストラは、地域の下請け事業所の廃業を加速し、地域人口の減少は地域商店街を衰退させ、いずれも地域の雇用先である事業所を減少させることになった。

こうした地方経済の衰退は、定期給与の動向からも指摘できる。2018 年の定期給与は地方圏のほとんどで全国平均を下回っている。2018 年の全国平均を 100 とした場合、沖縄 80.6、鹿児島 82.1、青森 83.1、長﨑 83.7 など、東北地方や南九州で格差は大きい。また、13 年比での全国平均との格差が拡大している県も多い(第3図)。例えば、青森、岩手、宮城、山形、福島などの東北地方や高知、香川、岡山などの各県で格差が拡大している。

これらの県での賃金動向は最低賃金に依拠することが大きいが、地域最賃の上げ幅が全国の加重平均より低いことにより、格差が拡大したものと思われる。したがって、地方での賃金格差を縮小するためにも、全国一律の最低賃金制の実現は必須である。

(2)中小企業への支援の必要性

地方経済を活性化するためには、地方経済を担っている地域の中小企業の役割は重要である。地方の経済や雇用を支えているのは、圧倒的に中小企業だからである。地方圏の従業者数 1,868 万人のうち、中小企業が 85.2%、1,592 万人を雇用している(日本政策金融公庫「地域の雇用と産業を支える中小企業の実像」2015 年)。 

しかし地方の中小企業は、農林水産業の衰退、地域人口の減少による売上高の減少、親企業の海外展開や事業構造の変化に伴う受注金額の減少、後継者難などにより廃業が増加し、地方経済衰退の一因になっている。

したがって中小企業、とくに地方圏の中小企業への支援は重要性を増している。とくに地域における最低賃金の引き上げは、地域の労働者のためだけでなく、地域の平均賃金の引き上げは、地域の消費を活発にすることを通じて、中小企業や地場業者の売り上げを増大させることになり、地域経済を活発にするのである。

ただし、地方の中小企業が最低賃金を 1,000 円まで引き上げるためには、生産性向上などの自助努力に頼るだけでは困難である。中小企業の売上総利益に占める社会保険料負担の割合は、2000 年代初頭と比べても1%以上高く、2017 年で 13.3%に達しており、大企業の9.5%よりも4%近く高くなっている。社会保険料負担の軽減などの政策で最低賃金引き上げの条件を整えるべきである。

 

(3)地域と住民に自助努力を求める安倍政権=地方創生の本質

安倍政権は、地方創生を掲げ、「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」を策定し、それぞれの地域でも同様の地方版総合戦略の策定を努力義務とした。

政府の「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」の中身は、「各地域がそれぞれの特長を活かした自律的で持続的な社会を創生する」としている。ここでの「自律的で持続的な社会」ということの内容は、生産性向上やイノベーションを通じて企業の競争力を強化し、地域の稼ぐ力を強めるというものである。しかも「自律的」と言いながら、具体的な数値目標を決め、アウトカム(成果)を求め、重要業績成果指標(KPI)を決めることを推奨するなど、政府が方向性や戦略の策定方法を定め、それに従わせるというものになっている。

地域経済を支える中小企業については、集中と選択の方針で、成長力の高い企業を選定し、集中的に支援するというものである。すなわち、「第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、地域の中堅・中小企業の中から、潜在的な成長力の高い企業として選定する地域未来牽引企業及び地域経済牽引事業の促進による地域の成長発展の基盤強化に関する法律に基づく承認地域経済牽引事業者を中心として、それらが海外需要を獲得し、あるいは、地域資源を活用して付加価値を創出できるよう、中小企業支援施策、生産性向上、商品・サービスの高付加価値化や海外展開を支援する施策等により、重点的に支援する」としている。

現在、地方で事業活動をしている企業のなかには、独自技術やサービス、ビジネスモデルを有している企業も多くあるが、他方では下請け単価の切り下げや支払い遅延、買いたたきなどで十分な利益を創出できず、設備投資もままならない企業も多い。政府方針では、そうした企業は成長力が高くないとして支援の対象にならない可能性が強い。「成長力の高くない」企業は、市場経済の競争の中で淘汰されても仕方がないというのが、政府方針なのである。

結局、安倍政権の地方創生における産業政策は、「稼ぐ力」のある特定の企業や地方を支援するというもので、それ以外は市場経済で勝ち抜けるように地域と住民に自助努力を求めるというものである。政府の地方創生政策では、大量の失業が発生し、社会の負担が増えることになりかねない。

失業は、生産性が低いものの生産活動を行っていた労働者を社会保障の対象者に変えるものだからである。地方での失業者の増大は労働条件を悪化させ、賃金も低下させる危険性がある。

2020 春闘では、地方の雇用確保のためにも、中小企業や業者と共同し、安倍政権の選択と集中の地方政策に反対する運動を展開する必要がある。

 

3 安心できる国民生活のために賃上げ、最賃引き上げ、社会保障の充実が必要

 

(1)安倍政権発足前の生活水準に戻すには2万6千円余の賃上げが必要

厚生労働省「毎月勤労統計」によると、2018 年の「月間現金給与総額」は、従業員5人以上の事業所で 32 3,553 円(従来の公表値)である。「月間現金給与総額」は、1997 年の37 1,670 円をピークに下降が続き、2019 年(当研究所推計)は 32 376 円で、1997 年を 5 1,294 円、13.4%も下回っている。安倍政権発足後の7年間では、名目賃金は 2.0%上昇したものの、消費増税および社会保障等の改悪によって、勤労者の生活水準は悪化している。

アベノミクスの下、輸出大企業を中心に企業収益が拡大する一方で、国民生活とそれを支える実質賃金は低下した。安倍政権が登場した 2012 年以降、最近に至るまでの消費税・社会保障等負担増、物価上昇など生活への負担増と、これを補って、安倍政権発足前の生活水準を回復するために必要な賃上げ額を示したのが第2表である。

第2表 安倍内閣発足前に戻すために必要な賃上げ額 % 円

A 消費税社会保障等の影響による可処分所得の減少 (201219 年)(名目) 4.00 14,117

B 消費税を除く物価上昇(201219 年) 4.18 13,130

C 新たな消費税増税(2019 10 月より、2%) 0.72 2,318

D 2020 年度消費者物価上昇見通し 1.00 2,757

E 名目賃金の上昇 (201219 年) 1.99 6,250

賃上げ必要額 (A+B+C+D-E 8.10 26,072

資料:大和総研「消費税増税等の家計への影響試算」(2017 10 月版)、日本銀行「経済・物価情勢の展望」

2019 10 月、総務省「家計調査」 総務省「消費者物価指数」、厚生労働省「毎月勤労統計調査」。

 

その内訳は、8%への消費増税と社会保障等の改悪による負担増分1万 4,117 円、消費税を除く物価上昇分1万 3,130 円、2019 10 月からの消費増税に伴う物価上昇分 2,318 円、2020 年の物価上昇見通し分 2,757 円であり、合計3万 2,322 円となる。他方、2012 年から2019 年まで名目賃金額は 6,250 円上昇しており、安倍政権発足前の生活水準を回復するために必要な賃上げ額は2万 6,072 円となる。これは、2019 年の「現金給与支給総額」(推計)32 376 円の 8.14%に相当する。なお、「現金給与支給総額」は、ボーナス(年間 2.59

月分)を含む年間給与の 12 カ月平均である。

 

(2)労働者本位の「働き方改革」

2018 年6月に強行採決され、2019 年4月から順次施行された「働き方改革関連法」には、高収入の専門職を労働時間規制の対象から外す「高度プロフェッショナル制度」が含まれる。

また、2018 12 月に強行採決された「出入国管理法(入管法)」(外国人労働者の受け入れ拡大)改正法が 2019 年4月から施行され、アジア等からの低賃金労働者の流入が増加することが見込まれる。このように、安倍政権が進める「働き方改革」によって、長時間労働と不安定雇用および賃金低下の圧力が一層強まることが懸念される。

 

労働総研が提起するのは、非正規雇用の正規化、「働くルールの確立」など、真に労働者のための「働き方改革」である。

 

  • 同一労働同一賃金

第1のポイントは、「同一労働同一賃金を実現して正規と非正規の格差を埋め、若者が将来に明るい希望が持てるようにする」ことである。全国各地の最低生計費調査の結果からも明らかなように、そのためにまず行うべきは、最低賃金の時給 1,500 円以上への引き上げである。

 

  • 非正規雇用の正規化

非正規雇用労働者の正規化については、正規雇用化を希望している人を全員正規雇用にしたうえで、身分保障を徹底しなければならない。厚生労働省によれば、非正規雇用労働者は男性 669 万人、女性 1,451 万人、あわせて 2,120 万人にのぼっており、そのうち、正社員を望む者の割合は男性 36.9%、女性 27.4%となっているから、正規化の必要人数は、男女合わせて 644.5 万人と推定される。

次に、正社員と同じ賃金を保障する必要があるが、現在、正社員と非正規社員との間に、男性 155.5 万円、女性 142.5 万円の格差があり、これを解消するためには年間 9.5 兆円の原資が必要になる。

 

  • ワーク・ライフ・バランスの改善

第2のポイントは、ワーク・ライフ・バランスの改善である。長時間労働を是正すれば、女性や高齢者が仕事に就きやすくなる。そのためにまず行うべきは、「サービス残業(不払い労働)の根絶」と、「年休の完全取得」および「週休2日制の完全実施」である。不払い労働(サービス残業)の根絶いわゆる「サービス残業」は賃金不払い労働であり、明白な違法行為である。当研究所の推計では、従業者5人以上の事業所平均で、年間1人あたり 153.9 時間の「サービス残業」が行われている。これを根絶すれば、その穴埋めのために全体で 288.4 万人の新規雇用が必

になり、新規雇用者の賃金支払いのために 8.51 兆円の原資が必要になる。

 

年次有給休暇の完全取得

2019 年の厚労省「就労条件総合調査」では日本の労働者1人あたり年次有給休暇付与日数は 18.0 日と前年より 0.2 日減少し、フランスやドイツの 30 日、イギリスの4労働週などEU諸国と比べて低水準にある。2019 年4月より施行された「働き方改革関連法」で5日の最低取得日数が法定されたが、取得日数は 9.4 日、取得率は 52.4%にとどまっている。

年休の完全取得が常識となっているEU諸国では、企業の生産計画のなかに、年休完全取得を前提にした要員計画が組み込まれている。年休は労働基準法にもとづく労働者の権利であり、その実現のため、要員計画の見直しと、必要な雇用を増やすことが不可欠である。

 

週休2日制の完全実施

週休2日制は日本でも普及しつつあるが、「週休1日制または週休1日半制」をとっている企業がまだ 10.2%もある。(上記「就労条件総合調査」)

「サービス残業(不払い労働)の根絶」と「年次有給休暇の完全取得」および「週休2日制の完全実施」をあわせた「働くルールの確立」によって、それを穴埋めするための新規雇用だけで、それぞれ 288.4 万人、159.7 万人、15.3 万人、合計 463.4 万人が必要である。それに間接雇用増(人員増→賃金増→消費需要増→生産増→雇用増)を含めると 544.8 万人になる。そのために必要な原資は 13.7 兆円であり、2018 年度の内部留保額の 2.0%で足りるばかりか、1年間で積み増しされた内部留保額よりも少ない額で十分に賄えるものである。

 

(3)国民生活改善のために内部留保活用を

2018 年度の内部留保は、前年より 25.1 兆円増えて 692.4 兆円に達した(第3表)。従業員1人あたり 1,608 万円であり、2万 5,000 円の賃上げに必要な原資はその 3.0%である。

1997 年のピークに戻すために5万 1,294 円の賃上げを行ったとしても 4.9%で足りる。全労連・国民春闘共闘委員会が 2020 春闘要求として掲げている2万 5,000 円の賃上げは、ボーナスを 2.69 カ月として1人年間 36.5 万円・合計 3.1 兆円であるから、資本金 1,000 万円未満の企業でも内部留保の 17.5%で実施できる。

 

2018 年度は前年度より内部留保が 25.1 兆円増加しているが、既に前年には売上高の43.5%に達しており、それ以上増やす必要はあったとは考えられない。むしろ過剰な利益の増加分は、労働者、株主、関連企業や社会に還元すべきである。

2018 年度の内部留保の増額分を、前年度と同じ比率で株主と役員に追加配分し、残りを従業員給与引き上げに向けるとしたら、どれだけの賃上げが可能だろうか。この場合の原資はその年の営業活動から生じた内部留保(「利益準備金」、「積立金」および「繰り越し利益剰余金」の合計=狭義の内部留保)に限定すべきであるから、16.7 兆円とする。このうち、役員手当は昨年度とほとんど変わらず、配当支払い額は 2.9 兆円増加しているから、還元できる内部留保の増額分は 13.8 兆円と捉えられる。

役員給与および株主に配分されるべき分はともに 0.8 兆円であり、賃上げの財源は 12.2兆円になる。ただし、賃上げに回すことによって、納税済みである内部留保が納税前の経費に変わるから、財源は 16.1 兆円に増える。それを「法人企業統計」の従業員 4,307 万人で割った1人あたり賃上げ可能額は年間 37.4 万円、1 カ月2万 5,631 円である。

 

4 賃上げ、労働条件の改善によって経済活性化が展望できる

 

賃金の引き上げ、労働時間の短縮、非正規雇用の正規化など、労働・雇用条件の改善は短期的には企業の労務コストを上昇させるが、やがて家計消費需要の拡大を通じて国内生産の拡大が誘発され、中長期的には企業経営にプラスとなる。また、GDP(国内総生産≒付加価値)や雇用、税収の増加につながり、国全体の経済を活性化させる。

当研究所では、労働条件改善が日本経済に及ぼす影響について、産業連関分析を用いて推計した(第4表)。働くルールの確立、非正規雇用の正規化、最低賃金の時給 1,500 円への引き上げと、2020 春闘要求2万 5,000 円の実現によって、GDPが 34.3 兆円増加すると予測された。これは 2018 年度GDP548.4 兆円の 6.3%に相当する。つまり、安倍内閣7年間平均の名目成長率 1.7%が4倍近くに加速されることになる。それに要する原資は 60.1 兆円であり、2018 年度内部留保 692.4 兆円の 8.7%に過ぎない。

さらに、賃金を春闘要求の2万 5,000 円ではなく、1997 年のピークに戻る5万 1,294 円引き上げたとしても、GDPは 16.5 兆円増加するものと推計されるが、必要な原資は 33.6兆円であり、2018 年度内部留保の 4.9%でしかない。

今日の巨額に及ぶ内部留保の源泉の大きな部分が、相次ぐ労働法制の改悪による非正規雇用の拡大、職場における必要な人員確保の回避、賃金抑制など人件費削減によるものであることを考えれば、第4表に挙げたような労働条件改善を実現することは、決して法外な要求ではない。それどころか、その経済波及効果を考えれば、春闘で労働者が掲げる要求を実現することが日本経済の健全な発展にとっても重要なことであることを改めて強調したい。

 

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