憲法危機から浮かび上がる、日本のジェンダー不平等(メモ)
「ジェンダー平等と安倍政権 憲法危機から浮かび上がる、日本のジェンダー不平等
岡野八代 同志社大学教授 前衛2020.01」の備忘録。
ジェンダーは「社会的・文化的に形成された性別」と説明されるが、それではジェンダー秩序・規範など、その権力性・政治性が見えてこない、と指摘し、「民主主義を鍛えるために私達は、日本ではほとんど関心が払われなかったジェンダーに真剣に向き合う必要がある、と主張したい」と論を展開している。
以下、メモ。末尾に28大会での「ジェンダー平等」の関連部分も引用
【ジェンダー平等と安倍政権 憲法危機から浮かび上がる、日本のジェンダー不平等】
◆はじめに
・安倍政権の七年間で、驚くほど政治は劣化。不安定雇用、貧困の拡大/が、多くの国民は怒りの声を上げるどころか――「桜」疑惑の真っ最中――現政権の支持率は40%をくだらない
・この事態について、様々な要因をあげ批判することができよう。
が、本論では、民主主義を鍛えるために私達は、日本ではほとんど関心が払われなかったジェンダーに真剣に向き合う必要がある、と主張したい
→ ジェンダーをめぐる議論を明らかにすることで、「ひとはなぜ、自分を苦しめるようなものであれ、権力に服従するのか」という問いに迫っていきたい。
1.ジェンダーとはなにか ――政治的、あまりに政治的
・「ジェンダーとは、社会的・文化的性差」と、概念がようやく浸透し始めた。
例えば政府の用語集—“「社会的・文化的に形成された性別」のことです。人間には生まれついての生物学的性別(セックス/sex)があります。一方、社会通念や慣習の中には、社会によって作り上げられた「男性像」、「女性像」があり、このような男性、女性の別を「社会的・文化的に形成された性別」(ジェンダー/gender)といいます。「社会的・文化的に形成された性別」は、それ自体に良い、悪いの価値を含むものではなく、国際的にも使われています。”
★が、フェミニズム論…セックスとジェンダーの二元論は批判され久しい。こうした固定的なジェンダー理解は、むしろ差別や抑圧を助長することが懸念される
⇔ なにより、この定義には、ジェンダーに働く権力性、政治性がいっさい見えてこない
(1) .フェミニズム運動史から振り返るジェンダー概念
(大きな広がりをもったフェミニズム論の中で代表するものではなく筆者が研究で掴んできたジェンダー論)
・現代のフェミニズム論 …あからさまに法的に書き込まれた差別が、徐々に解消され、女性も政治的権利を行使するようになって以降に直面する問題と闘っている
→なぜ、法的平等が確立されたのに、女性は社会全体で見ると政治参加が遅れており、経済的にも圧倒的に弱者であり、させに暴力の、とりわけ性暴力の被害に遭う危険性が高いのか・・が問われてきた。
・一般的には、だからこそジェンダー化されている、いまだに「女らしさ」「男らしさ」に囚われてるのだ、と説明されている。→ が、この説明は誤っている
★なせ女性はいまだに、人々の思い込みにすぎないような「女らしさ」から解放されていないのか…これを問うた第二波フェミニズムの答え ⇔ 「個人的なことは政治的だ」という周知のスローガンが端的に表現
・合衆国におけるフェミニズム運動/60年代黒人公民権運動など、その他の解放運動とともに始まる
・「名前のない問題」/全米女性機構NOW初代会長 ベティ・フリーダン 「女性らしさの神話」1963
“一方で男性が月にいく時代に、白人中流階級の女性たちは、主婦となることが当前しされ、自分たちでも受け入れながら、他方で、家事と育児に追われる毎日に、わたしの人生はこのまま終わるのだろうかと、自分に問うことさえ怯えている。葛藤があった”
・よりラディカルな女性たちは「女性にとっての根源的な抑圧とはなにか」を問い始めた
女性の性をめぐる活動((生殖、家事、育児)や活動の場(家庭内)が、これまで個人的なこと、あるいはよきアメリカ文化といった名の下で、公的な議論の対象にすらなってこなかったことに、異議を申し立て始めた
→ 彼女たちは、資本主義の抑圧を語る男性たちとは異なる抑圧を、家父長制のなかにみた。
→ 女性の抑圧は、女性たちの生き方・未来像だけでなく、その欲望やアイデンティティさえ作り上げてしまうほど、深く女性性に根付いてしまっている、と考えた。
・自分自身さえ、家父長制のイデオロギーによって育て上げられているとずるならば、どこに解放の道があるか
→ 編み出した方法= 「コンシャスネス・レイジング」(意識覚醒)/#Metooにつながる
・「コンシャスネス・レイジング」(意識覚醒) 信頼できる仲間たちと互いに、自らの不安や不満を語り合い、「個人的な問題や特定の男性との付き合い方の問題だと考えてきたことが、実は多くの他の女性たちにも共通する問題、つまり、それは社会構造上生まれてきた問題なのではないか」と、女性たち自身が気づくための方法
・「個人的なことは政治的だ」の真髄… これまでの政治の捉え方を変革し、文化や社会、そして個人のアイデンティティや心理とみなされてきたことにも、権力が作用していることを暴いた点
(メモ者 史的唯物論 土台と上部構造、私有財産制の発生と家父長制)
・個人が自由に選択している、主体的に行動していると思いなしている、この主体のあり方こそが、実は政治的・権力的に構成されていることを暴いた
(メモ者 マルクス 「人間的本質は、 その現実性においては、社会的諸関係のアンサンブル(総体)である。」 階級支配とイデオロギー )
- 現代におけるジェンダー
・「個人的なことは、政治的だ」… 半世紀前に女性たちがその運動と経験のなかから生み出した、1つの革命といってよいぼとの大きな転換を、わたしたちに迫った
・3つの革命的な異議
①「政治」とは、参政権を象徴される国会を初めとした議会への参加だけを意味するのではなく/法制度を通じて、雇用や教育、社会保障や経済状況にも大きな影響を与えるものとして捉え返された。
→ 制度を通じた「政治」は、わたしたちのジェンダー規範、すなわち、男女それぞれに相応しいとされる生き方・考え方・態度にも影響を与えている
② 政治がもつ影響力の広さと深さ――意識への浸透――を考える時、あたかも物理的力や制裁力を伴った強制と理解されてきた「権力」も、見直されることになる
→ 一方的に抑圧するものから、むしろ、「自由」な主体を生み出す力として捉え返された
・ ミッシェル・フーコー「生権力」= 衛生管理や規律を教え込む教育や訓練、そして処罰を伴う刑罰等を通じて、自らを律することのできる主体 = 自ら法に従うことによって(強制する必要のない)主体を産出する装置全体を権力として捉え返された。
・個人の自由な選択と思われた恋愛結婚さえ、実際には、ジェンダー規範に従うことによる従属化であることを含意する、「主体化=従属化」という知見を産んだ
③新しい政治概念、権力論は、政治権力こそが、女性は家庭こそふさわしい、女性の活動の場は家庭であるという意識と、そのジェンダー規範にそった社会構造を作り上げてきたことを暴くと同時に、私達の意識と諸制度を貫く「公私二元論」がどのように作用しているのかへと注意をむけた
→ 家族は私的なもの、公権力を介入しないもの、と思われる一方で、家族は家族法などによって、その構成員や権利義務関係を厳格に規制されている「制度」に他ならない。
・私達が個人的、私的と観念している事象が政治的に構造化されている諸制度に他ならないことを見えなくしてしまっているものこそが、ジェンダー規範であり、その規範に従うことで保たれているものが、ジェンダー秩序
・現代のフェミニズム運動は、公私二元論、ジェンダー秩序を揺るがせい、転覆させることで、より自由な、誰も予めその可能性を閉じられてしまうような生き方を強制されない、より平等な社会を構想しようと格闘
2.憲法9条と24条に対する敵意を結ぶもの-個人主義を否定する国家主義者たち
・ジェンダー規範・秩序の視点が、現状の政治システムを包括的に、かつより深く批判的に捉えることが可能
→ 政治権力がいかに家族、そしてそこで多くは育まれる「男らしさ」「女らしさ」を利用しながら、国家に必要な市民を生み出そうとしているか、をより深く、私達の意識にまで目を配りながら、日本で生じている憲法破壊を考察する
・「自民党草案」発表以来、憲法は国家権力を制限するものという立憲主義の考え方そのものを覆そうとしている点で、これまでの自民党政治と一線を画している。
→ 現行24条「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として尊重される。家族は互いに助け合わなければならない」= 国民を縛る憲法への逆転、( メモ者「家庭教育支援法」策定の動きも)/9条改憲と同時進行
例)草案に影響あたえた百地章のインタビュー
「(現憲法の家族より個人の方が重い)考え方を徹底すると家族の崩壊につながるというひともいます。…祖先以来の家族、歴史、伝統を大切にするというのが、日本人の倫理、道徳観を支えにもなっていると思います。戦前の家族制度には、マイナス面もあったけど、相互扶助や家族同士の助け合いなどいいとろもあったんですよ。いまの憲法には伝統的、大切が家族はどこにもない」
→ 人間としての同等の権利を否定されていた女性にとって、家族制度こそが、その隷従の根源であった。/誰にとって「いいところがあった」のか、彼らのいう「大切な家族」=個人の尊厳に至上の価値を見る憲法が崩壊させるかもしれない「家族」とはなにか/そして何故、9条が国家を弱体化すると考える者たちは、24条を「家族同士の助け合い」の障害となると考えるのか。
⇔ この問いに答えるため、社会学者チャールズ・ティリーの戦争と国家をめぐる議論を概観する
(1) ゆすり屋と近代国民国家
・ティリーの著「強制、資本、ヨーロッパ諸国」で、近代国家の創設、機能について考察
・氏が注目したのは16世紀以降(メモ者 大航海時代、資本主義への移行期) 世界の列強のほとんどを占めていた欧州諸国が絶えず戦争を遂行してきた事実。/ さらに遡り10世紀以降を振り返り「この千年にわたって、戦争はヨーロッパ諸国の支配的活動であり続けた」
→ 戦争遂行によって中央集権的な国家が発展し、その国家が戦争に乗り出すとことで、国内的な統制を強め、税金を徴収し、福祉サービスを整え、国民のさらなる忠誠心を高めてきた、という
⇔が、冷静に見れば、国家の支配者は「ゆすり屋」に似ている。とし、いかに有力な土地の領主が、他の領主に抜け駆けて、人々を掌握し、近代国家を設立するのか・・・説明
・政府を擁護する人たち…「国家はより安定的に、しかも安価に、国内、そして外国の教委から国民を保護している」と主張 = 国家の正当性は、その安全保障にある。
⇔ 国家安全保障にかかる負担――徴兵と徴税。に文句を言うものは「非国民」「転覆者」に過ぎない
・「保護」に2つの意味… ①人々の安寧の維持 ②「ゆすり・たかり」/ 国家が進める戦争において、保護は②の意味で有効性を発揮
→ゆすり屋とは、自分で脅威を作り出し、その脅威を減じてやるから、お金を出せ、というもの/ その政府は「守ってやるぞ、詐欺」を組織している。また政府による抑圧・徴税が、市民生活の最も大きな現実の脅威となる = 政府は、本質的に「たかり屋」と同じことをおこなっている。
・戦争遂行…その手段/兵士となる男性、武器、食料、宿泊所、移動手段、それらを購入するお金の挑発強化。そして挑発のための能力強化= 税の徴収機関、警察、裁判所、財務、経理、官僚組織を支えるための教育機関の整備も求められる。
→この構造が、潜在的な競争相手、敵対者を監視/ さらに、あらゆる財の生産と再配分を国家が掌握すると同時に、戦争は、国民の再生産への介入も正当化する
○百地 いいところもあった「家」制度の現実
長男に絶大なる権限、女性は言うまでもなく、長男以外の者たちも差別/中国との全面戦争…国家総動員法の制定、国民徴用令に続き、41年「産めよ増やせよ」の早婚多産の奨励する人口政策を閣議決定
~「人口政策確立要項」 1家族平均5児、婚姻年齢を3年早める、扶養家族が多い者には負担軽減、独身者には負担加重の税制、前提として「不健康な思想の排除」として20才を超えた女性の就労抑制、公的機関による結婚相手の紹介など・・多くの方策
・ティリー “戦争こそが、税を含めた様々な徴収、国民の動員、思想統制、報道統制、生産と配分組織の整備、そして人口統制を通じて、近代国家、強力な中央集権制を確立させ、発展させた”“その手法はまるでゆすり屋であるが、立法行為をも掌握した国家は、その行為を神聖なものとして装飾する絶大な力を持つがゆえに、安全保障=戦争体制の維持を、国家あるいは政治家にとって、とりわけ重大な課題のように見せかけることができる”
(2)女性は保護されてきたのか?
ティリー“政府は、通常、外部との戦争という脅威をシミュレートし、刺激し、ときにでっちあげたりさえする”
予見していたかのような事例
・2014年5月15日 集団的自衛権容認の総理記者会見
安倍「いかなる事態にあっても国民の命と平和な暮らしを守り抜いていく。…人々の幸せを願って作られた日本国憲法がこうしたときに国民の命を守る責任を放棄せよといっているとは私にはどうしても思えません」
⇔ として、何度も「現実」を直視すべき、と訴えた
・その「現実」の例…紛争中の朝鮮半島から米国の輸送艦にのって、日本人の「女、子ども、高齢者」が逃げてくる、という荒唐無稽な作り話
→米軍が日本国民を救済することはあり得ない(メモ者 順番がある、日本人は4等国民)、国家間紛争の際は軍隊に近づくことが最も危険なのは常識、(メモ者 戦争状態になるまで、国外脱出を勧告しない政府の無能)
→なにより、あたかも軍隊によって守られるのが、社会的弱者を象徴した「女・子ども」/これらは、しっかりと批判されておくべき
・こうした「女・子ども」の取り上げ方は、いかに戦争する国家が、国家がそれに値すると認めた者しか救おうとせず―― 実際には軍隊は女性、子どもを守るどころか、抑圧・搾取するばかりでなく、ときに危害を与えることは、歴史が実証している――、真に救済を必要とする実態を隠蔽するかを示している
・ティリー 保護は両義的…保護するものであろうとするものは、保護される者を恣意的に特定し、しかも彼女たちをもっとも抑圧する――弱者に留めておく—という逆説を引きおこす
○「保護と被保護」についてフェミニストの論議 ~婚姻制度をめぐり
・保護してやると名乗り出る権力者(近代国家)、保護される者(領土内の武装権を剥奪された市民)の圧倒的な力の差のもと、権力者たちの喧伝する「脅威」を前に、市民にはほとんど選択肢は残されていない
→ 正確な情報は国家機密として入手できず、脅威を否定すれば非国民と非難される。
・婚姻と家族…女性の社会的な地位の低さのため「彼女たちの選択肢が――構造的暴力を再生産するシステムの下では――厳しく制限されているという大きな理由から、女性たちは、保護の1つの形として婚姻を選ぶ」
・婚姻制度の下で、女性たちは(必ずではないが)、経済的、社会的に、ある程度の保護を享受
→が、国家と同様、婚姻制度もまた「ゆすり屋のように」、男女間の上下関係と、そこから女性を守るとされている「構造的暴力」を支えている。
・個々の女性たちの「保護」という名の下で、婚姻制度が実際に社会全体にもたらす代償と危険が、隠されてしまう。
*婚姻制度による保護は、どのように作用しているか/スバイク・ピーターソン 保護の力学 4つの特徴
①婚姻による「保護」を選択するのは、個人的には合理的な選択であると同時に、女性の多くを依存状態に留めるという意味では、非合理的。構造的な不平等、不正義という現状を維持し、長期的に見れば、その社会の継続可能性は危機に晒される(女性の貧困、税制・社会保障制度のほころびを見よ)
②個々の女性は、保護する者とユニットとなることで周辺化される。
保護される者(妻)たちが結集すれば見いだされるかもしれない集合的な利益が、夫婦間では夫の利益が優先されるために曖昧化される
→ 婚姻によって得られる利益に固執するために、保護される者は、社会全体のジェンダー秩序、男女の非対称性を再生産する(夫婦同姓が強制される中、夫の姓を選ぶ圧倒的多数を見よ)
③保護される者は、保護する者に同一化し、自ら決定し、危険を判断する立場にないため、妻たちの連帯が困難となる。/彼女たちは、公私二元論システムをしっかり支える婚姻制度の中て、妻として自らの利害を訴える公の場をもたない(選挙の際の、候補者の妻の役割を見よ)。
④保護する者と保護される者がユニットとして非対称的に、構造的暴力を伴いつつ一旦制度化されてしまうと、その制度に乗ろうとしない者たちは、危険視されるか、破壊的な者とみなされるようになる(非婚女性に対する侮蔑を見よ)
★個々の婚姻カップルを超えて、婚姻制度における保護するもの/される者というユニットの制度化= ジェンダーによって社会を秩序化する働きをする。/夫役割、妻役割は、「男性的な自律(自由、統制、英雄的)と、女性的な依存(受身的、脆弱、愛されると同時に見下される女性)を「構築」する社会的効果を持つ
◆おわりに
・近代国家を成立させた戦争と、その近代国家を根幹で支える保護する者/される者という非対称な関係に気づくとき、婚姻制度が、いかに、私達のアイデンティティに作用する形で、その非対称的な関係、ジェンダー秩序を根付かせるための制度であるかに気づかざるを得ない。
⇔戦争と婚姻制度の連関を理解すれば、憲法9条否定と24条否定…彼らのめざす国造りの障害となる
★現代のジェンダー論に明らかにしたもの・・・・人間存在は、社会的な構成物であり、/また、文法に従うことでしか自由な文章が描けないに、秩序に従うことでしか、自由な行為に取り組みことができない。
→ 主体となるには、ある法秩序に従わざるを得ず、その内部で、ほんの少しずつ、これまでになかった取り組みによって、法秩序を揺るがせながら、改変していくしかない。
・したがって、現在の日本の政治状況のように、政治的課題を極度に狭く捉え、社会で様々に取り組まれている抵抗運動が、秩序を乱す運動として強いバッシングにあう構造ができあがっていると、/秩序に従いつつ、それを揺るがすことで、自由を広げていくことに困難が生まれる
~ 夫婦別姓裁判の不当判決にみられるように、個が誕生し、育成される家族という現場に、支配するもの/従うもの、という関係性を色濃く残す日本社会は、秩序を乱すことへの忌避感が、人々の意識に刻印され続けていてもおかしくない。
・憲法、立憲主義を否定する安倍改憲に対しては、ジェンダー平等=ジェンダー秩序や規範を、より個人の自由を尊重するものへと変革していくこと、憲法13条、24条の規定=個人の尊厳が最大限尊重する法制度へ変革を求めていかなくてはならない
・ジェンダー平等を求めること…一人ひとりの自由感、平等感を見直し、さらに国家の存在意義から見直していくこと
→近代国家の成立に戦争の存在を突き止めたティリー…戦争を放棄した日本に民主主義の未来を見ていたように、9条、24条の意義を再確認することは、わたしたちに民主主義の未来を描かせてくれる
ティリー「国民国家の計り知れないほどの力を、戦争から切り離し、正義と、個人の安全、そして民主主義の創造に振り向けば」新しい世界が開かれる)
◆ジェンダー平等について 28回党大会
【綱領 3章「21世紀の世界」(9)】
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik19/2020-01-19/2020011907_01_0.html
先住民などへの差別をなくし、その尊厳を保障する国際規範が発展している。ジェンダー平等を求める国際的潮流が大きく発展し、経済的・社会的差別をなくすこととともに、女性にたいするあらゆる形態の暴力を撤廃することが国際社会の課題となっている。」
【8中総 綱領一部改定案 提案報告】
https://www.jcp.or.jp/web_jcp/2019/11/post-88.html
〇国際的な人権保障の新たな発展、ジェンダー平等を求める国際的潮流
一部改定案では、続いて、国際的な人権保障について次のようにのべています。
「二〇世紀中頃につくられた国際的な人権保障の基準を土台に、女性、子ども、障害者、少数者、移住労働者、その他の弱い立場にある人びとへの差別をなくし、その尊厳を保障する国際規範が発展している。ジェンダー平等を求める国際的潮流が大きく発展し、経済的・社会的差別をなくすこととともに、女性にたいするあらゆる形態の暴力を撤廃することが、国際社会の課題となっている」
〈「世界の構造変化」と、人権保障の豊かな発展〉
ここで一部改定案がのべている「弱い立場にある人びとへの差別をなくし、その尊厳を保障する国際規範」とは、一九七九年の女性差別撤廃条約、八九年の子どもの権利条約、九〇年の移住労働者権利条約、九二年の「少数者の権利宣言」、二〇〇六年の障害者権利条約、〇七年の「先住民の権利宣言」など、二〇世紀末から二一世紀にかけて実現した一連の国際条約・宣言のことであります。
これらの人権保障の豊かな発展をかちとった力は、全世界の草の根からの運動にありますが、植民地支配の崩壊という「世界の構造変化」は、国際的な人権保障の発展にも大きな積極的影響をおよぼしました。途上国が国際社会の不可欠の構成員としての地位を占めるようになるもとで、途上国の人権問題――貧困、差別、暴力などの問題に光があたるようになり、そのことが先進国も含めた世界全体の新しい人権保障の発展を促す――こうしたダイナミックな過程が進んでいます。
〈ジェンダー平等を求める国際的潮流の発展について〉
ジェンダー平等を求める国際的潮流の発展も、こうした「世界の構造変化」のなかに位置づけることができます。
国連の発足当初における女性問題の取り組みは、先進国の要求を反映して、政治、教育、職業、家族関係などにおける女性差別の廃止――「平等」を目標にしていました。植民地体制が崩壊して途上国が国連の構成員になるもとで、「貧困からの解放=開発なくして女性の地位向上はない」――「開発」という主張が広がりました。先進国と途上国のこれらの要求は統合され、豊かなものとなっていきました。
こうしたもと、一九七九年に女性差別撤廃条約が成立します。「世界の女性の憲法」と呼ばれるこの画期的条約の具体化と実践は、世界の草の根のたたかいを背景に発展していきます。差別には「直接差別」だけでなく、一見中立のように見えるが女性に不利に働く「間接差別」や、より弱い立場の女性などに対する「複合差別」があることが共通の認識になり、その是正の措置をとることが求められるようになっていきました。女性に対する暴力が、実質的な男女の平等を阻んでいる大きな原因であるとの認識が広がり、一九九三年の国連総会で「女性に対する暴力撤廃宣言」が全会一致で採択されました。
ジェンダー(社会的・文化的性差)平等という概念は、こうした人権の豊かで多面的な発展のなかから生まれたものであります。国連では、一九九五年、北京で開かれた第四回世界女性会議の行動綱領で、「ジェンダー平等」「ジェンダーの視点」などを掲げたことが大きな契機となり、二〇〇〇年に開催された国連ミレニアム総会で確認された「ミレニアム開発目標」の一つにジェンダー平等と女性の地位向上の促進が掲げられました。二〇一五年、「ミレニアム開発目標」の後継として採択された「持続可能な開発目標」でも、ジェンダー平等は目標の一つに掲げられ、すべての目標に「ジェンダーの視点」がすえられました。
世界でも日本でも、「#MeToo(ミー・トゥー)」、「#WithYou(ウィズ・ユー)」などを合言葉に、性暴力をなくし、性の多様性を認め合い、性的指向と性自認を理由とする差別をなくし、誰もが尊厳を持って生きることができる社会を求める運動が広がっていることは、人類の歴史的進歩を象徴する希望ある出来事であります。
こうして二一世紀は、国際的人権保障という点でも、豊かな発展が開花する時代となっています。すべての個人が尊厳を持って生きることのできる日本と世界をつくるために、力をつくそうではありませんか。
【ジェンダー平等について――全党討論をふまえて 1/14】
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik19/2020-01-15/2020011501_02_0.html
いま一つは、ジェンダー平等についてであります。
一部改定案は、21世紀の新しい希望ある動きの一つとして、国際的な人権保障の新たな発展、ジェンダー平等を求める国際的潮流の発展を明記しました。さらに、日本の民主的改革の課題として、「ジェンダー平等社会をつくる」「性的指向と性自認を理由とする差別をなくす」と明記しました。この提案には、全体として強い歓迎の声が寄せられています。
全党討論をふまえて、いくつかの点をのべておきたいと思います。
- ジェンダーとは何か、男女平等と違うのか
全党討論のなかで、「そもそもジェンダーとは何か。男女平等と違うのか」という質問が寄せられています。
ジェンダーとは、社会が構成員に対して押し付ける「女らしさ、男らしさ」、「女性はこうあるべき、男性はこうあるべき」などの行動規範や役割分担などを指し、一般には「社会的・文化的につくられた性差」と定義されていますが、それは決して自然にできたものではなく、人々の意識だけの問題でもありません。時々の支配階級が、人民を支配・抑圧するために、政治的につくり、歴史的に押し付けてきたものにほかなりません。
たとえば職場で、「女は妊娠・出産があるから正規で雇われないのは仕方ない」、「男は会社につくし、妻子を養って一人前」といった規範を押し付けることで、女性も男性も過酷な搾取のもとに縛り付けてきたのがジェンダー差別であります。ジェンダー平等社会を求めるたたかいは、ジェンダーを利用して差別や分断を持ち込み、人民を支配・抑圧する政治を変えるたたかいであることをまず強調したいと思います。(拍手)
「男女平等」は引き続き達成すべき重要な課題ですが、法律や制度のうえで一見「男女平等」となったように見える社会においても、女性の社会的地位は低いままであり、根深い差別が残っています。多くの女性が非正規で働き、政治参加が遅れ、自由を阻害され、暴力にさらされ、その力を発揮することができていません。その大本にあるのがジェンダー差別であります。
ジェンダー平等社会をめざすとは、あらゆる分野で真の「男女平等」を求めるとともに、さらにすすんで、「男性も、女性も、多様な性をもつ人々も、差別なく、平等に、尊厳をもち、自らの力を存分に発揮できるようになる社会をめざす」ということであると、考えるものです。
2015年、国連で採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)は、2030年までに達成すべき17の目標を掲げましたが、その5番目の目標に「ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と少女のエンパワーメントを図る」ことを掲げるとともに、すべての目標に「ジェンダーの視点」をすえることが強調され、「ジェンダー平等」はあらゆる問題を前向きに解決するうえで欠かせない課題と位置づけられました。
ジェンダー、ジェンダー平等という概念は、私たちの視野を広げ、より幅広い方々とともに、性による差別や分断のない社会、誰もが尊厳をもって自分らしく生きることのできる社会をめざす運動の力になるものであり、そういう認識にたって、今回、綱領一部改定案に盛り込むことにいたしました。(拍手)
- 日本の著しい遅れの原因はどこにあるのか
この問題で、日本は著しい遅れにあります。世界経済フォーラムが公表したグローバル・ジェンダー・ギャップ指数で、2019年、日本は、153カ国中121位となり、これまでで最低となりました。その原因はどこにあるか。
一つは、財界・大企業が、口では「男女平等」を言いながら、実際の行動では、利益最優先の立場からジェンダー差別を利用していることであります。女性には「安上がりの労働力」と「家族的責任」を押し付け、男性には「企業戦士たれ」と「長時間労働・単身赴任」を押し付けています。日本経団連の会長と18人の副会長は全員が男性です。19人の全員が男性とは、異常な光景ではないでしょうか。ILO(国際労働機関)総会でハラスメント禁止条約が圧倒的多数で採択されても日本経団連は棄権をしました。日本は「ルールなき資本主義」の国といわれますが、その最悪のあらわれの一つがジェンダー差別の押し付けにあることを、厳しく指摘しなくてはなりません。(拍手)
いま一つは、戦前の男尊女卑、個人の国家への従属を当然視する勢力が、戦後政治の中枢を占め、とりわけ安倍政権で逆行が著しくなっていることであります。日本の歴史で女性差別の構造が国家体制として強固に押し付けられたのは明治期でした。絶対主義的天皇制国家を底辺で支える「家制度」に女性差別ががっちりと組み込まれました。明治期につくられた差別の構造は、戦後も引き継がれ、さらに、戦前の日本への回帰をめざす安倍政権のもとで、男尊女卑の言動が横行し、日本軍「慰安婦」問題で歴史の真実が否定されるなど、権力者がジェンダー差別をふりまいていることは許すわけにはいきません。(拍手)
ジェンダー平等の上に利潤追求を置いて恥じるところのない財界・大企業の無分別と節度のなさ、明治時代の男尊女卑の価値観をいまだに押し付ける政治――この二つのジェンダー差別のゆがみをただすたたかいにとりくもうではありませんか。(拍手)
- 日本共産党としてどういう姿勢でのぞむか――学び、自己改革する努力を
日本共産党としてこの問題にどういう姿勢でとりくむか。このことが、全党討論で活発に議論されていることは重要であります。
まず何よりも強調したいのは、党が、ジェンダー平等を求める多様な運動――性暴力根絶をめざすフラワーデモ、就活セクハラやブラック校則を変えるたたかい、性的マイノリティーへの差別をなくし尊厳を求める運動などに、「ともにある」(=#WithYou)の姿勢で参加し、立ち上がっている人々の声を耳を澄ませてよく聞き、切実な要求実現のためにともに力をつくすことであります。ジェンダー平等を妨げている政治を変えるたたかいにともにとりくむことであります。
同時に、戦前・戦後、女性解放のためにたたかってきた党の先駆的歴史に誇りをもちつつ、学び、自己改革する努力が必要であります。私たち自身も、ジェンダーに基づく差別意識や偏見に無関係ではありません。私たち一人ひとりが、無意識に内面化している人権意識のゆがみと向き合い、世界の到達、さまざまな運動の到達に学び、勇気をふりしぼって声をあげている人々に学び、自己改革のための努力を行おうではありませんか。
党自身がジェンダー平等を実践してこそ、ジェンダー平等社会の実現に貢献することができます。そのためにお互いに努力することを、心から訴えたいと思います。
【討論の結語1/18 ジェンダー平等――先駆性に確信をもちつつ、学び、自己改革する努力を】
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik19/2020-01-20/2020012007_01_0.html
中央委員会報告では、綱領一部改定案で新たに明記したジェンダー平等について、全党討論、党外の方からの意見も踏まえて、さらに踏み込んで党の立場をのべました。討論では、この問題についても、たいへんに活発な議論が行われました。この大会は、人類の進歩にとってきわめて重要なこの問題を、正面から真剣に議論した初めての大会となったという点でも歴史的大会になったと思います(拍手)。この問題についても、一部改定案と、中央委員会報告の立場は、積極的に評価していただけたと思います。
党外の方々からも評価の声が寄せられています。同志社大学教授でジェンダー研究に情熱をもって取り組んでこられた岡野八代さんが、大会報告を聞いていただいて、ツイッターにその動画の一部を添付して、こういう投稿をされました。
「志位さん、勉強してる(笑い)。ここ数年、どんどん進化してる、共産党」
ちょっと照れくさいんですが(笑い)。さらに、つぎのメッセージを寄せてくれました。読み上げて紹介します。
「ジェンダーを見つめることは、自らの来し方を奥深くまで探り、問い直すことだと考えています。今回共産党が、ジェンダー問題に取り組むことを党の方針の中心に掲げられたことは、日本社会に巣食う性差別や不平等を変革するとともに、大きく自己改革にも取り組まれるのだと理解しました。まるで新しい政党が誕生したかのような感動を覚えました(どよめき)。共に、一人ひとりがより暮らしやすい社会を目指して頑張りましょう」
たいへんにうれしい評価であります。
討論のなかで、参議院選挙を候補者としてたたかった2人の女性の同志のこの問題での発言は、印象深いものでした。一人の同志は、自身の身近で起こった性暴力に反対する「#MeToo」の声が原動力となって、ハラスメントや性暴力根絶のための「ハラスメント撲滅プロジェクト」に取り組んだ経験を語り、「綱領一部改定案にジェンダー平等がもりこまれたことを大きな感動を持って受け止めました」とのべました。
もう一人の同志は、幼少期から、また職場で、「女のくせに」と言われ続けてきたことを語り、「ジェンダー問題は、私自身のこれまでの生き方・経験と無関係ではなく、私自身が苦しめられてきたということに気づきました。ジェンダー平等を求めるたたかいは、まさに自己改革であり、自己解放そのものです」と語りました。
私は、参議院選挙で、お二人とご一緒に訴える機会がありましたが、お二人が、街頭演説のなかで、それぞれの自らの経験、つらい思いと重ねて、政治を変えようという訴えを行ったことを、胸が熱くなる思いで聞いたことを思い出します。
この問題では、報告でものべたように、戦前・戦後のわが党の女性差別撤廃のためのたたかいの先駆性に確信をもちつつ、学び、自己改革する努力が大切であります。
トランスジェンダーであることをカミングアウト――自ら明らかにし、地方議員として奮闘している同志の発言は、胸を打つものでした。この同志は、40年前にゲイと思われる青年に偏見をもった対応をしたことを反省を込めて語った80代の党員の話とともに、レズビアンの党員から、「支部会議で否定されるような発言があり、説明されても理解してもらえない」と涙声で訴えられたという話を語り、次のようにのべました。
「今回、綱領一部改定案で、『性的指向と性自認を理由とする差別をなくす』としっかりと示されたからには、これまで、日本共産党は、個人の尊厳や、また、人権を守るために、綱領をよりどころにして不屈のたたかいを続けてきたわけですから、こうした残念な事例についても、必ず克服できると信じております」
全党の同志のみなさん。お互いに学び、自己改革を行い、この同志の信頼に、全党がこたえようではありませんか。
この点にかかわって、全党討論のなかで出された一つの意見にこたえておきたいと思います。それは、1970年代、「赤旗」に掲載された論文などで、同性愛を性的退廃の一形態だと否定的にのべたことについて、きちんと間違いと認めてほしいというものです。これは当時の党の認識が反映したものにほかならないものだと思います。これらは間違いであったことを、この大会の意思として明確に表明しておきたいと思います。
ジェンダー平等社会をつくることは、女性や多様な性をもつ人々がその力を発揮できる社会をつくるだけではありません。男性もふくめて、すべての人間が自分らしくその力を存分に発揮できる社会をつくる大きな意義をもつものであります。
そして、わが党自身が、ジェンダー平等を自ら実践してこそ、ジェンダー平等社会をつくるための貢献をしていくことができる――このことをお互いに胸に刻んで力をつくそうではありませんか。
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