迫る財政金融破綻と資本の強蓄積 アベノミクスの到達点(メモ)
山田博文・群馬大学名誉教授の論考(経済201911)のメモ
アベノミクス、とりわけ異次元金融緩和について13~18年の実態にもとづき、金融証券市場を舞台にした内外の金融機関・投資家・大企業の野蛮な資本の強蓄積をはかった現代日本資本主義の問題点を解明したもの。
最後に打開の方向として、党の提言を紹介した。
【迫る財政金融破綻と資本の強蓄積 アベノミクスの到達点】
◆はじめに
・各国と比較した場合、日本で無視できないのは異次元の財政金融問題
・政府債務がGDPの2倍を超えた「財政赤字大国」、国債の買入れ機関化した日銀の保有する国債は発行残高の5割超え/ 政府と日銀に積み上がった累積国債のリスクは、財政金融破綻が迫っていることを示すもの
→ 原因は、「世界で一番企業が活躍しやすい国」をめざしたアベノミクスと異次元の金融緩和であり、金融証券市場を舞台にした内外の金融機関・投資家・大企業の野蛮な資本の強蓄積。
・本稿の目的 、この強蓄積を検討し、現代日本資本主義の特徴と問題点の解明
Ⅰ 日本銀行を従属させた政権
安倍政権の特徴 日銀の独立性を剥奪し、政権の道具にする体制を確立したこと
(1)「2%の物価上昇」と異次元の金融緩和策
・政権発足1ヶ月後、政府・財務省・日銀の共同声明~ デフレ脱却へ政府と日銀の政策連携
→ 通貨マフィアの財務省OB黒田東彦が日銀総裁に就任/「異次元の金融緩和政策」を邁進
・「2%の物価上昇」…達成されることなく6回延長/が、この目標を掲げ続けることで、各国のように非伝統的金融政策からの「出口戦略」を示すことなく、異次元の金融緩和が断行されてきた
→本来の目的 「2%の物価上昇」そのものより、
①異次元の金融緩和の継続、過大なインフレマネーを供給し、株式、国債の官製バブルと大幅な円安誘導で、大資本に巨額の利益を実現すること
②長期金利をゼロ近傍に貼り付け、企業の金利負担、政府の国債利払い費を軽減し、財政破綻を先送りすること(メモ者 それにより、積極的財政出動を可能に。公共事業費、防衛費の増大)
(2)世界で一番企業が活躍しやすい国
・アベノミクスの6年間で、この大目標は達成された
→内外の企業・金融機関 株式、為替などの金融証券市場を主舞台にし、決算のたびに戦後最高の利益を実現
経常利益48.4兆円から83.5兆円と35兆円増大
内部留保332.6兆円から449.1兆円と116.5兆円増大
・民間金融機関に供給されたマネタリーベース 138兆円から518兆円と、3.7倍
→ この自由に使えるジャブジャブのマネーを、各種の金融証券市場で運用
・マネタリーベースの多くは企業、家計への貸付にはまわらず、日銀の当座預金につみ上がり
→リスクフリーで日銀から0.1%の利子を受け取ってきた
政策金利が適用される当座預金残高208.5兆円(19年6月時点)から、年2085億円の利子配当/マイナス金利適用分で日銀に支払う利子230億円も差し引いても、1855億円の巨額の利益
Ⅱ 株高と円安で資本の強蓄積を主導
・アベノミクスの6年間の「実績」…グローバル化、情報化、金融化した現代日本経済において、効率的に最大限の利益を追求する資本主義の野蛮の本質を開花。バブル崩壊後、実態経済の長期にわたる低成長下にかかわらず、資本の強蓄積を実現。その対極として国民生活を悪化させ、貧困と格差を拡大(メモ者 政府の長期債務のいっそうの拡大)
(1) 2倍の株価と倍増した株式試算
・まず注目される点/株価・株式時価総額が2倍となり、大幅な円安が進行
→「世界で一番企業が活躍しやすい国」にする条件の1つが、株高と円安
→この2つの「偉業」達成に貢献したのが「2%の物価上昇」に邁進した異次元の金融緩和政策
・大量に供給されたマネーが、対外的に「円」の通貨価値を下落させ円安をもたらし、また株式始業に流入(メモ者海外の投資家にとって割安感と、また輸出大企業の利益増が確実視されて買いが殺到)し、人為的に株式需要を高め「株式官製バブル」を発生
日経平均 2012年12月 1万395円 → 19年7月2万1522円 と2倍以上に
株式時価総額 300兆円→ 612兆円 に倍増
GDP 498兆円→ 534兆円 1.07倍の横ばい
株主配当金 13.9兆円 → 23.3兆円 9.4兆円増
富裕層の金融資産 188兆円 → 299兆円 111兆円増
※富が、株式を大量保有する金融機関・大企業・海外投資家と一部の富裕層に集中/格差の深刻な拡大
(2)円安差益で増大した大企業の利益
・2012年度 1ドル79円79銭 → 18年度 110円42銭 30円63銭の大幅な円安に
・輸出企業の受け取る代金…ほとんどがドル 輸出で受け取った100億ドルを、円に転換すると・・・
1ドル80円なら8000億円 → 110円なら1兆1000億円 3000億円の為替差益
→戦後最高の利益 に大きく貢献
・自動車各社 1円の円安で トヨタ400億円、日産110億円、スバル100億円
30.63倍 トヨタ1兆2252億円、日産3369億円、スバル3063億円
・企業の経常利益 48兆円から83兆円 35兆円増
内需が低迷しているもとで大幅な利益増…リストラ、法人減税に加え、大幅な円安による為替差益
・一方で、対日貿易赤字国のアメリカなどから「円安誘導」との批判に直面
そのたびに、黒田総裁…国際金融市場を担当する財務省財務官の経歴を持ち、海外の通貨当局に多数の知合いを持つ…が、国際会議で「デフレ脱却のためであり、円安誘導ではない」のメッセージを送る役割を担ってきた。
・対外資産をドル建て保有する世界最大の「対外純資産大国」日本にとって莫大の為替差益をもたらした
296兆円 から 341兆円 と45兆円増大
・なかでも異次元金融緩和がもたらしたマネーが、海外の金融商品への投資の増大
「対外直接投資資産残高」 6年で91兆円増大、「対外証券投資資産残高」145兆円増大
→ 海外投資から受けとる配当金、利子、分配金も増大し巨額に。円安で発生する為替差益と相まって、大企業・金融機関、一部の富裕層に莫大の利益をもたらした。
Ⅲ 増大する国民負担と生活の貧困化
(1) 国民生活を直撃した円安
・食料自給率(カロリーベース) 過去最低の37% → 63%は、円安で価格が高騰/国民生活の貧困化
(メモ者 輸入にたよっている原材料、燃料の高騰 国内需要に基盤を置く中小零細業は、仕入れ値高騰、消費の低迷のダブルパンチに見舞われた → 廃業の増加)
(2)国民負担率を押し上げた政権
・国民負担率( 国民の所得に対する税負担額と社会保障負担額の割合)
2012年度39.7% → 2018年度42.8% 3.1%増加 /社会保険負担増、消費増税
・法人実効税率 37% → 29.74% 7.6%引下げ
・18年度一般会計の税収 消費税17.5兆円 18% /法人税12.11兆円 12.5%に
→ 国民負担の消費税の増収が、法人税の減収を補う関係の成立
(メモ者 89年消費税導入の目的 「直間比率の是正」。社会保障、財政再建などは後付の「ごまかし」)
・実質賃金の平均年収の低下、一方、税・社会保険の負担増 となる政権運営
→ 実質家計消費支出 363万円 → 338万円 25万円減少
・家計消費(民間最終消費支出)…国民経済(国内総支出)の最大の部分 「経済の主役」 /日本 約6割
→ 家計諸費が落ち込んで、景気が良くなるはずがない。消費不況の深刻化。負のスパイラメに
・異次元金融緩和 長期金利低下 0.795% → マイナス0.005% 0.8%も引下げた
大企業への貸出優遇金利の長期プライムレート 1.2% → 1.0%へ
が、住宅ローン金利 2.473%で高止まり
Ⅳ 日本銀行とGPIFの株価対策
・「株価連動政権」と揶揄される安倍政権。株高吊り上げに多様な仕組みと巨額の公的資金を動員し買い支えた
→ 株価対策で動員された公的マネー 19年7月時点64.3兆円。株式時価総額の10.5%を占める
(1) 激増した日銀のETF購入額
・株価指数連動型上場投資信託(ETF)の購入額を激増、年6兆円に/19年7月末 約27兆円の株式買い支え
(メモ者 もともと中央銀行の株式購入など世界でも例がない。それも毎年巨額に購入する異常さ)
・日銀の株購入のパターン 一定の下落幅になると、午後に1回703億円での購入。1ヶ月10回程度
→ 18年 海外投資家5.7兆円売り越し。日銀6.5兆円購入。15年 海外3.3兆円売り越し 日銀3.1兆円購入
(メモ者 日銀の購入パターンにあわせ、空売りで儲ける海外の機関投資家の存在が指摘されている)
・27兆円の株式保有… 平均株価が1.8万円を割り込むと日銀に損失が発生
(2) 倍増したGPIFの株式運用
・世界最大の年金資産 160兆円を保有するGPIF 安倍政権下で新たに23兆円が株式市場に投入
・国内株式市場の運用枠と額 11%±6% 14.5兆円 → 25%±9% 37.7兆円と 2倍以上に拡大
・実態経済はほぼ横ばいなのに株式だけが2倍に高騰。日銀と公的年金マネーによる買い支え
株価が下落すれば、老後の年金積立金が、市場の露となって消える危険な選択
・さらに為替変動リスクも加わる米国債、外国株への運用も倍増( 株式42兆円、債権29兆円)
年金積立金の44.4%が為替リスクにさらされている。
・GPIFは、安倍政権下で危険な一線を超えてしまった。
Ⅴ 日銀の国債大量購入と財政ファイナンス
・異次元金融緩和政策の仕組み… 日銀が民間金融機関の保有する国債を年間100兆円前後買入れ、その買入れ代金がマネタリーベースとなって民間金曜機関に供給され、歴史上例を見ない超金融緩和状況を現出する仕組み→ がこれが稼働すると、日銀も政府も、異次元のリスクを抱え込んでしまった。
(1) 日銀の国債買入れで活発化する国債ビジネス
・国債市場に大量の日銀マネーが流入…国債売買市場を1京円という天文学的規模に膨張
→内外の国債投資家 日本の国債ビジネスで、莫大な利益を拡大
3大メガバンクなど大手銀行の売買益は、最高益となった13年3月期決算 7,562億円
・日銀の国債買入れ。額面より高く購入 / 民間金融機関は 政府から安く落札。しかも確実に高く売れる
・18年度末 日銀保有の国債簿価469.9兆円 → 額面459.0兆円。 差額10.9兆円は、日銀の損失
→ 国債は額面価格で償還されるので、それを超えた分は償還されない
異次元金融緩和の国債ビジネス 日銀が損失を抱えて、民間大手金融機関に利益を提供するもの
※増大する日銀の損失は、日銀信用を毀損(メモ者 確か、日銀の自己資本は約8兆円)し、「円」暴落・物価高・金融破綻のリスクが高まった。
(2) 低金利国債の増発と財政ファイナンス
・日銀の国債購入額 一般会計の新発債発行額を大幅に上回ってきた。政府は、日銀信用に依存することで、国債を増発できた。19年3月、日銀保有額470兆円。普通国債残高874兆円の53.7%、
日銀OB「日銀から政府への所得移転」が行われた、と指摘する。
・一般会計の資金調達が、日銀信用に依存する財政ファイナンスが行われ、予算規模も100兆円を超過し膨張
・政府債務残高も、GDPの二倍超の1103兆円にまで膨張。
→ 日本国債の格付け スロバキア、アイルランドと同格のA+まで低下/19年度の一般会計国債費23.5兆円(利払い費8.8兆円、償還費14.6兆円)、歳出額の23.2%を占める
・国債残高が874兆円あるのに、利払い費がわずか8.8兆円なのは、異次元金融緩和により、国債利率が0.91%という異常な低金利に押し下げられているからる
→この政策が撤廃されると、例えば30年物長期国債 現在の市場金利0.81%は、2.1%へ、2.6倍に (ゴールドマン・サックスの推計)
→ この推計どおりなら、国債利払い費 22.8兆円に増大。仮に償還費は14.6兆円のままとしても、
国債費は、37.4兆円に跳ね上がる。歳出の4割近くが借金の支払い
→「財政赤字大国」日本の財政は破綻する。
◆では、どう打開するか。応能負担による税の空洞化解消、家計・内需をあたためる経済改革による実態経済の改善・税収増、米軍工学兵器の爆買中止などムダ削減が基本 日本共産党の提言から
【消費税減税・廃止を求める、新たなたたかいをよびかけます 2019年10月1日 日本共産党】
https://www.jcp.or.jp/web_policy/2019/10/post-819.html
【金融 破たんした「異次元の金融緩和」をやめ、国民の暮らし、中小企業を支える金融政策に転換します 2019年6月 参院選政策】
https://www.jcp.or.jp/web_policy/2019/06/2019-bunya25.html
現在の政策のもととなっている総合的な提言
【消費税大増税ストップ! 社会保障充実、財政危機打開の提言 2012年2月7日 日本共産党】
https://www.jcp.or.jp/web_policy/2012/02/post-141.html
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