国会審議なしの中東派遣決定 文民統制の破壊、自衛隊員の命を政治的シグナルの道具に
ペルシャ湾の緊張の高まりに対し、アメリカが呼びかけた有志連合に呼応しての派遣。友好国イランに一定の配慮しながらも、結局はアメリカむきのシグナルに自衛隊員を道具として使ったもの。緊張を高め、不測の事態を招きかねない愚かな決定だ。
しかも「調査・研究」の名目で、国会審議にも掛けず、閣議決定。こんなことを許すと、どこでも勝手に派遣できるようになる。文民統制の破壊である。
柳沢協二さんが言うように、緊張の背景には、アメリカの核合意からの一方的離脱と経済制裁、それへのイランの反発がある。これを正す努力をせずに「自衛隊に丸投げすれば、かえって状況を悪化させることを認識すべきだ」と指摘。
【日本が自衛隊を中東海域へ派遣することに断固反対し、派遣を閣議決定したことに強く抗議する声明 自由法曹団 12/27】
【日本が自衛隊を中東海域へ派遣することに断固反対し、派遣を閣議決定したことに強く抗議する声明 自由法曹団 12/27】
1 安倍内閣は、12月27日、自衛官260名、護衛艦1隻を新規に中東地域に派遣し、すでに海賊対処行動に従事している哨戒機1機を中東海域へ転用する旨の閣議決定を行った。自由法曹団は、同閣議決定に抗議するとともに、自衛隊の派遣中止を要求する。
2 政府は、原油輸入の9割を中東地域に依存するわが国にとって、中東での航行安全確保がエネルギーの安定的供給に不可欠であり、その取り組みとして自衛隊を派遣するのだと説明する。
しかし、派遣される自衛隊は世界有数の軍事組織であるうえ、護衛艦(駆逐艦)及び数百名単位の自衛隊員を派遣することは、エネルギーの安定的供給という自国の権益を、自衛隊という軍事力によって確保しようとするものであり、憲法9条が固く禁ずる「海外派兵」そのものであって許されない。かつて日本は、「満蒙はわが国の生命線」だとして中国大陸へ侵出、戦争の悲劇を招いた。中東において同じ轍を踏んではならない。
政府は、今回の派遣が「情報収集活動」だとするが、攻撃を受けたときの武器の使用はもちろん(自衛隊法95条)、日本の船舶が襲われれば海上警備行動(自衛隊法82条)の発動が想定されており、その場合、有事の際の武器使用や武力行使、戦闘行動に至ることにもなりかねず、「情報収集活動」にとどまらない危険性が高い。3 中東情勢の緊迫を招いた原因の一つは、トランプ米政権の「核合意」からの一方的に離脱とイランに対する経済制裁にある。また、今回の自衛隊派遣が、アメリカによる有志連合の呼びかけに端を発する以上、自衛隊が有志連合へは参加せずとも、その派遣は日本がアメリカの中東政策に追随し、アメリカとともに中東地域の軍事的緊張を高めることとなり、イランをはじめとする中東諸国との関係を著しく悪化させるおそれがある。
4 自衛隊の中東派遣には、日米同盟のもとで、いつでもどこでも自衛隊を海外派遣できるようにするねらいがある。とりわけ、今回は、ジプチにおける自衛隊基地の活用が前提とされており、海外における自衛隊の活動がいっそう拡大・強化されることになる。
しかも、集団的自衛権行使を緩和した戦争法の下において、海外に自衛隊が派遣されれば、集団的自衛権の名のもとに、自衛隊が米艦防護等の任務を負わされ、日米一体の軍事活動を展開する危険性もある。5 政府は、「調査・研究」(防衛省設置法4条1項18号)の規定に地理的制約や方法、期間の定めのないことを奇貨として、これを中東海域への自衛隊派遣の根拠にしている。しかし、同規定による派遣の正当化は、自衛隊の中東海域への派遣というきわめて重要な判断を、国会の関与なく閣議決定のみで実行できることを意味するとともに、今回は、あえて年末の国会閉会中の時期に閣議決定をしており、国民の批判をかわす狙いがあったことは明らかであり、国権の最高機関たる国会を無視し、国民主権をないがしろにするものといわざるをえない。
6 自衛隊の中東海域への派遣は、中東地域の緊張をいっそう高めるばかりか、日本がアメリカの誤った中東政策に賛同し、アメリカの戦争に巻き込まれるリスクを高めるものである。
日本はこれまでイランと良好な関係を築いてきており、憲法9条の理念に基づき、日本の中東における信頼を活かしながら対話と外交による平和的解決を目指すべきである。また、アメリカに対しては毅然と中東の軍事的緊張を高める行為を止めて「核合意」へ復帰するよう求めるべきである。
自由法曹団は、憲法を踏みにじる自衛隊の中東海域の自衛隊の派遣に断固反対し、閣議決定に強く抗議し、自衛隊派遣の中止を要求する。2019年12月27日
自由法曹団
団 長 吉 田 健 一
【自衛隊の中東派遣 国会の統制欠く危うさ 東京新聞・社説12/28】
政府が中東地域への自衛隊派遣を閣議決定した。調査・研究が名目だが、国会の議決を経ない運用は、文民統制の観点から危ういと言わざるを得ない。
自衛隊の中東派遣は、日本関係船舶の航行の安全確保のため、防衛省設置法四条の「調査・研究」に基づいて実施される。
活動領域はオマーン湾やアラビア海北部、アデン湾の三海域。海上自衛隊の護衛艦一隻を派遣し、アフリカ・ソマリア沖で海賊対処活動に当たるP3C哨戒機二機とともに、海域の状況について継続的に情報収集する。派遣期間は一年で、延長する場合は改めて閣議決定する、という。
◆米追随、イランにも配慮
自衛隊派遣のきっかけは、トランプ米大統領が、ペルシャ湾やホルムズ海峡などを監視する有志連合の結成を提唱し、各国に参加を求めたことだ。米軍の負担軽減とともに、核問題で対立するイランの孤立化を図る狙いだった。
しかし、イランと友好関係を築く日本にとって、米国主導の有志連合への参加は、イランとの関係を損ないかねない。
そこでひねり出したのが、有志連合への参加は見送るものの、日本が独自で自衛隊を派遣し、米軍などと連携して情報共有を図るという今回の派遣方法だった。
急きょ来日したイランのロウハニ大統領に派遣方針を説明し、閣議決定日も当初の予定から遅らせる念の入れようだ。自衛隊の活動範囲からイラン沖のホルムズ海峡を外すこともイランへの刺激を避ける意図なのだろう。
米国とイランのはざまでひねり出した苦肉の策ではあるが、トランプ米政権に追随し、派遣ありきの決定であることは否めない。
そもそも、必要性や法的根拠が乏しい自衛隊の中東派遣である。
◆船舶防護の必要性なく
中東地域で緊張が高まっていることは事実だ。日本はこの地域に原油輸入量の九割近くを依存しており、船舶航行の安全確保が欠かせないことも理解する。
とはいえ、日本関係船舶の防護が直ちに必要な切迫した状況でないことは政府自身も認めている。
そうした中、たとえ情報収集目的だとしても、実力組織である自衛隊を海外に派遣する差し迫った必要性があるのだろうか。
戦争や武力の行使はもちろん、武力による威嚇も認めていない憲法九条の下では、自衛隊の海外派遣には慎重の上にも慎重を期すべきではないのか。
調査・研究に基づく派遣は拡大解釈できる危うさを秘める。米中枢同時テロが発生した二〇〇一年当時の小泉純一郎内閣は、法律に定めのない米空母の護衛を、この規定を根拠に行った。
今回の中東派遣でも、現地の情勢変化に応じて活動が拡大することがないと断言できるのか。
日本人の人命や財産に関わる関係船舶が攻撃されるなど不測の事態が発生し、自衛隊による措置が必要な場合には、海上警備行動を新たに発令して対応するという。
この場合、自衛隊は武器を使用することができるが、本格的な戦闘状態に発展することが絶対にないと言い切れるのだろうか。
最大の問題は、国権の最高機関であり、国民の代表で構成される国会の審議を経ていないことだ。国会による文民統制(シビリアンコントロール)の欠如である。
自衛隊の海外派遣は国家として極めて重い決断であり、そのたびに国会で審議や議決を経てきた。
国連平和維持活動(PKO)協力法や、インド洋で米軍などに給油活動するテロ対策特別措置法、イラクでの人道支援や多国籍軍支援を行うイラク復興支援特措法、アデン湾で外国籍を含む船舶を警護する海賊対処法である。
自衛隊の活動を国会による文民統制下に置くのは、軍部の独走を許し、泥沼の戦争に突入したかつての苦い経験に基づく。
日本への武力攻撃に反撃する防衛出動も原則、事前の国会承認が必要だ。自衛隊を国会の統制下に置く意味はそれだけ重い。
今回の中東派遣では、閣議決定時と活動の延長、終了時に国会に報告するとしているが、承認を必要としているわけではない。
◆緊張緩和に外交資産を
国会の関与を必要としない調査・研究での派遣には、国会での説明や審議、議決を避け、政府の判断だけで自衛隊を海外に派遣する狙いがあるのだろうが、国会で説明や審議を尽くした上で可否を判断すべきではなかったか。
閣議決定にはさらなる外交努力を行うことも明記した。米イラン両国との良好な関係は日本の外交資産だ。軍事に頼ることなく緊張を緩和し、秩序が維持できる環境づくりにこそ、外交資産を投入すべきだ。それが平和国家、日本の果たすべき役割でもある。
【<柳沢協二さんのウオッチ安全保障> 政治的奇手、現場に負荷 東京12/28】
海上自衛隊の中東派遣が決定された。根拠は「調査・研究」だが、自衛隊法に則して言えば、海上警備行動または防衛出動のための情報収集をすることになる。実任務に関係のない調査・研究はあり得ないからだ。
問題は、タンカーにとって脅威となる相手が海賊ではなく、イランに関係する武装集団であることだ。海賊なら国連海洋法条約によって日本の警察権で追い払うことができる。だが、相手が国家であれば、自衛権行使以外の武器使用は憲法と国際法に抵触する恐れがある。一方、防衛出動による自衛権行使はイランとの戦争だから、選択の余地はない。
今回の派遣は対イラン有志連合を主導する米国と、日本が敵対したくないイランの双方に配慮した政治的シグナルとしても分かりにくい。緊張が高まる中での軍事的対応は、相手を刺激して対立が激化する安全保障のジレンマを招きやすい。それを避けようとすれば、軍事的意味がない行動を取らなければならない。それが調査・研究という奇手の真意だ。こうした政治的シグナルの道具にされる現場のストレスは大きい。
日本が何もしないわけにはいかないことは理解できるが、自衛隊が行けばタンカーが安全になるわけではない。ペルシャ湾の緊張の背景にはイランとサウジアラビアの対立に加え、核合意を一方的に離脱してイランに圧力をかける米国への反発がある。これを戦争で解決できないとすれば、外交で和解を目指す以外に方法はない。米・イラン双方と良好な関係を持つ日本に求められるのは、そのための仲介だ。その努力をせずに自衛隊に丸投げすれば、かえって状況を悪化させることを認識すべきだ。 (寄稿)
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