調査鯨類法律…そもそも、IWC脱退しての捕鯨は国際法違反」の指摘
参議院本会議で、鯨類の持続的確保に関する法律(議員立法)が可決、これから衆議院に送付される。商業捕鯨が31年ぶりに再開したことから、諸外国から南氷洋での捕獲を伴う調査捕鯨を引き続き行う方針であると誤解されないよう「捕鯨が科学的知見、条約等に基づき行われることを明記」したとのこと。
が、国際的な水産資源管理に詳しい真田康弘・早稲田大学准教授は「国連海洋法条約65条で鯨類に関し『保存、管理のため適当な国際機関を通じて活動しなければならない』と規定されており、故に国際法違反だとの批判を受けるだろうと元水産庁の小松正之さんも指摘されています」とツイートしている。
小松正之・東京財団政策研究所上席研究員の指摘とは「IWCから脱退した日本は『国際機関を通さず捕鯨している』と批判されるだろう。この論法で日本を国際裁判にかける国が現れ、国連海洋法だけでなく一時豪が提起したように生物多様性条約などに反するとして、国内の鯨類捕獲を違法扱いされうる」
この根本問題を抜きにして、どうなんだろうか。
【国際捕鯨取締条約脱退と日本の進路(下) 東京財団政策研究所 小松正之 上席研究員 2019/1/19】
◆脱退と日本の進路
菅内閣官房長官は2018年12月26日、ICRWからの日本の脱退を表明した。今回の決定は単にIWCからの脱退ではなく国際捕鯨取締条約(ICRW)からの脱退であり、日本に権利と利益を及ぼしてきた条約上の根拠をすべて失うことになるため、デメリットが大きいと見える。IWCが1982年に採択し、いまだに放置したままの商業捕鯨モラトリアムからは一見逃れられることになるが、ICRW条約第8条に基づく南極海調査捕鯨だけでなく北西太平洋調査捕鯨の2つの実施の根拠を失うことになる。国連海洋法条約の違反の危険も生まれる。
ICRWから脱退せずに、南氷洋と北西太平洋の調査捕鯨を続けて、科学面での水産資源管理への有用情報の提供・獲得と海洋生態系研究への国際的貢献を果たしつつ、自国の200カイリ内の商業捕鯨を再開し、その正当性を国際社会にアピールする手立ては存在する。しかし、200カイリ内捕鯨の具体的な内容と大局的捕鯨政策の展望を、脱退表明後も日本は説明していない。
◆国連海洋法条約の責務
国連海洋法条約第65条で、明確に鯨類について「保存、管理及び研究のために適当な国際機関を通じて活動する」との規定があり、ICRWとIWCから脱退した日本は「国際機関を通さず捕鯨している」と批判されるだろう。この論法で日本を国際裁判にかける国が現れ、国連海洋法だけでなく一時豪が提起したように生物多様性条約などに反するとして、国内の鯨類捕獲を違法扱いされうる。
ICRWの条約の枠外で捕鯨を始めると、一種のIUU(違法、無規制と無報告)状態であると批判する国かNGOが必ず現れる。国際的な漁業管理枠組を軽んじる国と見なされ、太平洋の公海域でサンマ、サバやマイワシを漁獲する中国、韓国、台湾とEUに対しても漁業規制強化を申し入れる際の発言力と説得力も弱まる恐れがある。
◆条約第8条の科学調査の根拠を失う
また、日本は、ICRW条約8条の権利として認められている南氷洋と北西太平洋での調査捕鯨の実施の条約上の根拠と権利も失うことになる。南極条約の1990年に採択された「科学・平和利用活動を定めた議定書」に関しては、ICRWと南極生物資源保存条約の加盟国は議定書の適用除外となる。ICRWから脱退するとこの適用除外の権利が行使できなくなり、事実上捕鯨活動ができない可能性が高い。これまで南氷洋で集めてきた調査捕鯨のデータを広く公表・活用しないうちに、南氷洋での調査捕鯨も停止することは国際社会と日本にとってももったいないことである。
また、鯨肉の貿易を規定する「絶滅の恐れのある野生動植物種の国際取引に関するワシントン条約」の決議とIWC決議も双方の加盟国間の貿易を奨励しており、我が国の外国為替及び外国貿易管理法に基づく貿易管理令の第2号承認も、この双方の決議を尊重している。すなわち日本が非加盟国になれば、この決議を満たしていないので、鯨肉の輸入に関して、非難される可能性がある。
◆加盟国としての200カイリ内捕鯨が国際法上も強固
そもそも、ICRWから脱退するリスクを冒すなら、ICRWの加盟国としてとどまり、自国排他的経済水域(EEZ)内と隣接する海域での商業捕鯨は再開する選択肢をとれと言いたい。もちろん次のステップとして資源が豊富で改訂管理方式を適用すると最小2000頭程度の捕獲枠が設定される南氷洋での持続的な捕鯨をめざすことも選択肢とするべきであろう。
商業捕鯨モラトリアムは本来、1990年までに見直すとの約束で採択されており、それを反捕鯨国が反故にしている。日本は「IWCは商業捕鯨モラトリアム解除の約束を果たしておらず無効」との論陣を張り、この点を争点として独自に捕鯨を再開することは可能だ。そもそも日本がICRWを脱退する大きな理由は、官房長官談話にあるようにIWCがこれを廃止しないことにある。ICRWの全体に不満なのではない。この点が政府決定では混同していると見える。
ICRWを抜けずにIWC委員会にとどまり科学的根拠に基づく持続的捕鯨を行えば、むしろ論点を「商業捕鯨モラトリアムの不当性」1点に絞れる。条約を脱退して、条約全体や国連海洋法並びに生物多様性条約違反との口実とその他の攻め口を反捕鯨国に与えない。また、国連海洋法裁判所(ITLOS)などの国際裁判に持ち込まれても、この点に絞れば、29年間も商業捕鯨モラトリアムの解除を反故にしている反捕鯨国に対して、勝訴した2000年ミナミマグロ裁判と敗訴した2014年ICJの教訓を生かし、用意周到な準備を怠らなければ日本の勝ち目は高い。
◆世界が高く評価しよう調査捕鯨
日本が調査捕鯨について丁寧、几帳面かつ計画目的と内容を尊重しつつ計画を実施し、調査の結果とその評価を国際社会に説明していけば、我が国の行っている調査捕鯨と捕鯨活動への理解を得られると考えられる。
人類の動物の家畜化と畜肉生産による餌生物、用水と排泄物並びに飼育場に伴う陸海洋生態系と環境悪化が次第に顕著になり、世界の各地でサンゴ礁の崩壊や漁業・養殖業への悪影響をもたらしている。鯨類による資源の悪化しているサケ、スルメイカとサンマなどの魚介類資源の食害などが世界中で問題視され、ますます、鯨類を含む総合生態系調査が必要である。
また、人口増による食料危機などで世界情勢が変わるだろう。米国や豪の反捕鯨国でも知識層や心ある人々などが鯨類の科学的な管理にすでに関心を示し、その理性ある利用と保護に賛成する日も遠くないと思う。
また、地球温暖化と海洋酸性化の進行で南氷洋のオキアミの生体・生態と代謝も変化している。今後南氷洋の包括的・総合的な解明がますます必要だ。広く人類のための南氷洋を含む大規模な調査、生態系全体の分析が必要だと発信すべきである。
加えて公共工事など陸上の人間活動は、河川の直行化、埋め立てによる自然環境の喪失と下水に含まれる環境ホルモンと微小プラスチックの問題など近年の水産資源減少と海洋生態系の悪化に確実に関係している。鯨類を含む海の生態系がどのように変わっているか、その原因として、漁業のみならず陸上の活動がどこまで効いているのか…幅広くデータを集めて分析評価する必要がある。
批判と対立を嫌いICRWから去るのではなく、世界と日本、陸と海洋生態系全体を考え、情報発信し、水産資源の回復や海洋生態系の将来展望に役立ち貢献する。それが海洋国家としての日本の責任ではないかと強く考える。
【訴訟リスクの商業捕鯨 法的課題の対策急務 産経2019.6.16】
7月から再開される日本の商業捕鯨に注目が集まる中、政府が内部文書で国際裁判に訴えられるリスクに言及している状況が明らかになった。国際司法裁判所(ICJ)でオーストラリア側と争った南極海調査捕鯨訴訟では、事前予想を覆して敗訴した経緯があるだけに、伝統の捕鯨を守るために、法的課題への十分な対応策が求められそうだ。
国際捕鯨委員会(IWC)の脱退を決めた日本政府は、IWCの下部組織である科学委員会には引き続きオブザーバーとして参加し、鯨類の資源管理に協力することを約束している。
しかし、「海の憲法」とされる国連海洋法条約によれば、IWCに代わる「適当な国際機関」を通じての捕鯨が義務づけられており、日本は自ら主導して新たな国際機関の創設に努力しなければならない。
今回、入手した政府の内部文書では、新たな国際機関の創設には「時間が必要」と指摘。さらにこの国際機関には「北西太平洋諸国の参加が得られるか不透明」とも明記されている。
北西太平洋諸国とは、捕鯨国のロシアや韓国などを指し、日本政府はこれらの国々の加盟協力を得るのは難しいと判断しているとみられる。日本だけで国際機関をつくるわけにもいかず、政府がこの法的課題を解消することが困難であることを事実上認めている。
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