自治体の公共事業予算 年度内に使えなかった1兆9000億円~深刻な職員不足
自治体の職員、特に技術系職員の不足が深刻だ。防災や災害復旧を進める上で隘路となっている。そのレポート。
額をこなすために大型工事の一括発注とかになり、地元密着の生活環境を改善する工事などは、後回しになりやすい弊害もうんでいる。
小泉政権の「三位一体改革」で、地方から6.4兆円の財源を削減した、その後も厳しい運営が続いている。昨今は総額確保と、現状維持。社会保障費など国の制度にもとづく歳出は増加、さらに消費者行政、自殺防止・生活困窮者支援、虐待防止、防災、産業進行など行政需要は拡大しているのに「総額維持」。なので、自治体は職員の削減で耐え忍んできた。其の削減が、技術、経験など専門性の継承もふくめて公的役割を発揮する上で限界にきている。
教育現場も同じ、体制を増やさず、課題だけ増やすので、そのブラックぶりから、もはや若者が教職を敬遠してきている。また、介護、保育、看護、建設など「人手不足」・・・低処遇・重労働のところほど「人手不足」となっており、本当に「人」がいないのではない。安倍政権で、公的サービスが崩壊している。
【“使えなかった”約1兆9000億円 そのワケは? 自治体・公共事業予算 NHK12/23】
お金をもらったのに、使い切れない…。家庭の話ならば、なんとも羨ましい話と思いますが、お役所の話となれば、意味は全く違ってきます。「使いたいのに使えない」。そんな自治体の担当者たちの悩ましい声を聞きながら、取材を進めてみた「予算」のお話です。(ネットワーク報道部記者 郡義之、社会部記者 都築孝明、熊本放送局記者 高橋遼平)
◆“ぼやき”から始まった取材
「使いたいのに使えない…」 取材のきっかけは、ある自治体の担当者のぼやきでした。せっかく確保した「公共事業の予算」が年度内に使い切れないというのです。そこでいくつかの県の担当者などに聞いてみると、特定の地域だけでなく、全国各地で同様の声が。
記者が長年、行政取材をしていて、よく聞くぼやきは「予算が確保できずに困ってる」でした。それだけに意外な感じがしました。いったい、全国の自治体で何が起きているのか?
調べてみることにしました。◆『繰越額・不用額』約1兆9000億円超
その手がかりを求めてまず注目したのが、国が毎年、公表している「決算書」。
国が関係するそれぞれの事業でどれほどお金が使われたのか、その名のとおり「決算」がまとめられています。
まずは、取材時点で最新だった平成29年度分を分析してみることにしました。平成29年度国土交通省所管歳出決算報告書より
それによると、平成29年度の国土交通省分の「一般公共事業費」(予算)は、7兆5256億3590万5053円。
このうち実際に使われたのは(支出)、5兆5973億1345万737円でした。
残りの1兆9283億2245万円がどうなったのかを調べてみると…。
「翌年度繰越額」と「不用額」となっていました。その多くが地方への補助金・交付金です。
国の財政法上では、「予算」は、その年度内に使うことになっていて、翌年度までは「繰り越す」ことができます。翌年度に繰り越されたものが「翌年度繰越額」です。それでも使い切れなかったものなどは国庫に戻さなければならず、それは「不用額」として計上されます。
つまり、何らかの事情で、翌年度に繰り越されたり、期限内に使われなかったりしたというお金が約1兆9283億円余りにも上っているのです。
ちなみに「翌年度繰越額」は1兆8761億735万1476円。使われずに国庫に戻された「不用額」も522億円余りにのぼっています。
この大災害時代に、実に、一般公共事業費の約4分の1が年度内に使われていませんでした。
しかもこの「繰越額」と「不用額」の総額は、平成29年度までの5年間(※平成25年度と比較)で1.4倍と増加していました。
新規、維持管理ともに公共事業の必要性は高まっているはずなのに、なんだか、謎は深まるばかりです。※『繰越額・不用額』割合 都道府県ランキング
そこで今度は、都道府県別に「繰越額」と「不用額」の総額の割合を算出してみることにしました。
算出できたのは、平成29年度の一般公共事業費のうち、金額が最も多く、国から都道府県別のデータの提供を受けることができた「社会資本総合整備事業」。一般公共事業費のおよそ40%を占めています。すると、その割合が最も高かったのが熊本県の52.7%。
次いで、愛媛県の39.2%、栃木県の36.9%、徳島県の36.5%、京都府の36.4%、宮城県の35.9%などと続きました。
その割合が30%を超えていたのは47都道府県のうち、実に25の府と県。全体の半数以上にのぼっていました。
正直ここまでとは、記者の想像を超えていました…。
◆予算消化できないのは“あの理由”
そこで、今度は直接、自治体の担当者に聞いてみることにしました。最初に話を聞いたのは、「繰越額・不用額」の割合が52%超と、全国トップの熊本県。
「災害復旧を優先せざるを得なかったんです」
こう話すのは熊本県の土木部門の担当者。
熊本県では3年前の大地震で今も復旧・復興事業が続いていて、平成29年度は災害復旧費として2728億円が計上されていました。さらに、これとは別に、公共事業費2677億円がついていました。
改めて、その理由を担当者に聞いてみるとー。「大きな要因の1つは『職員不足』特に技術職員が足りないのです」
入札の準備やその後のスケジュール管理などを行う、土木部門の技術職員の数は、地震前とほぼ変わらないのに仕事量はほぼ2倍。災害復旧を優先させると、とても公共事業までは手がまわらないというのです。さらにもう1つの要因としてあげたのが建設業者の減少や担い手不足。災害で仕事量が激増し、公務員も建設業者も足りなくなってしまっていたのです。
「繰越額・不用額」が多かった上位10の府と県にその理由を聞いてみたところ、熊本県と同様に「災害対応を優先した」と答えたところが半数以上に上りました。
これらの県などでも災害に伴う復旧・復興事業を優先すると、それとは別の公共事業にまで手が回らなくなっているというのです。「繰越額・不用額」の増加には大規模災害が大きく影響していることがうかがえます。
◆“公務員が足りない”
しかし、近年、大規模災害が起きていないところでも、「繰越額・不用額」が大きくなっているのはどういうことなんだろう?
そこで「繰越額・不用額」の割合が35.4%と、全国で7番目に高かった富山県に話を聞いてみました。
「大きな要因に職員不足の影響もあるかと思います」
なんと、ここでも「職員不足」。しかし、被災地を抱える県と比べると、それほど業務量が増えているとは思えませんが、いったいどうして?
富山県では、県職員の数を減らしていて、土木職員も減少傾向にあります。平成29年度までの10年間では土木職員は161人、率にして18%減らしています。
一方で、「国土強靭化」など国が公共事業の予算を増やしているため、富山県でも土木費の予算は平成27年度の767億円余りから増加していて、平成29年度は905億円余りと、約138億円余、率にして18%増えています。
県土木部によると、職員を削減する一方で公共事業は増えているため、慢性的に職員が足りない状態だというのです。
さらに、富山県でも建設業者の減少と担い手不足が深刻化しているといいます。
その結果、県発注の工事では、入札不調の割合が、平成27年度に2%だったのが、平成29年度3.8%、平成30年度は5.7%に増えていました。◆人は減り 仕事は増える…
そのほかの県に話を聞いてみても、「職員不足」を理由にあげるところはありました。
たしかに、総務省がまとめるデータでも、全国の地方自治体の職員数は、ピークだった平成6年と平成29年を比べると、約54万人、率にして16%減っていました。※総務省 地方公共団体定員管理調査結果より
その主な理由を調べてみると、地方財政の悪化を受けて、全国で自治体の職員数の削減が進められていました。
ちなみに公共事業に欠かせない土木系の職員に限ると、全国の職員の減少を上回る割合で減っていて、平成6年と平成29年を比べると、5万3000人余り、28%減っています。
一方で全国の公共事業の費用は当初予算だけでみても、平成24年度以降、5年連続で増えています。
つまり国の方針で、自治体職員は減り、公共事業(仕事)は増えるという状況が地方では起きていたのです。
このため多くの県では仕事量に対し、技術職員がギリギリ、もしくは不足しているというのです。
◆もはや“自転車操業状態”
そこで、私たちは、取材中にずっと感じていた疑問をぶつけてみました。
「技術職員を増やすことはできないんですか?」
すると、各地の自治体の担当者たちからは次のような回答がー。「限られた予算の中で簡単には人を増やせない」「いつまた公共事業費が減らされるか分からない中で職員を増やせない」「募集はしているがなかなか人が集まらない」
予想はしていましたが、やはり職員を増やすのは簡単ではないようです…。
ある自治体の担当者はこんな苦しい胸の内を明かしてくれました。
「前年度の事業をこなすのが精いっぱい。とにかく『不用』を出すわけにはいかないので、まずは前年度分をこなし、今年度分は翌年度に回し、翌年度の分はまたその次の年度にというまさに『自転車操業状態』。不測の事態が起これば一気に「不用額」が増えるおそれがある」
こうした状況を国はどう思っているのか?国土交通省会計課の担当者は、次のように話しています。
「『繰越額』が多いのはここのところの災害などを受けて年度末に補正予算を組むため、年度内の契約が難しいからだ。事業を取りやめたものは少ないので、事業自体は行えていると考えている」
◆『繰り越し』ありきは“異常”
こうした状況を専門家はどうみるのでしょう?
財務省OBでみずほ総研主任エコノミストの酒井才介さんは次のように指摘しています。
「そもそも予算は、その年度で消化する『単年度主義』ですが、予算を有効に使うためには、ある程度の繰り越しは必要。ただ、自治体で予算の3割を超える金額が「繰越・不用」となるのは異常な事態で、多額の繰り越しを前提に予算を組むべきではない」
そのうえで、こう話しています。
「災害が多く発生している中で、公共事業は欠かす事は出来ません。ただ、従来のような『景気対策』の意味合いで予算付けをしているのであれば、これだけ未使用額があるのは問題です。人手不足の中で、景気対策の意味合いでの公共事業を進めるのは限界がきていると思う」
◆深刻化する“人手不足”
「このままでは生活や防災に欠かせない必要な事業ができなくなるおそれがある」
取材中、こう漏らしたある職員のことばが忘れられません。仕事量が増えすぎて、心や体をこわす職員もでてきているといいます。
日本の多くの業界が抱える「人手不足」の問題が、公共事業の現場では官民ともに深刻化していました。
各業界が抱える「人手不足」の問題に本気で取り組まないと、手遅れになりかねないと、今回の取材で改めて感じさせられました。
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