平成合併の地域で人口減加速 ~「自治体2040」の前に徹底検証を
合併した自治体で、人口減が加速、広域化しすぎ防災や行政サービスが低下。そのために市町村の声におされ政府は、交付税算定の合併特例が終了するのにあわせて、削減分の約7割を手当する措置を取らざるを得なかった。しかし、地方での働く場を減少させ、地方の人口減、東京一極集中を加速させた。
安倍政権の「地方創生」は、農林漁業のいっそうの商業化による小規模経営の淘汰、そしてICT、AIを活用し、複数の市町村で構成する「圏域」を行政主体する「自治体2040」構想など打ち出しているが、地方破壊でしかない。
平成の大合併を徹底検証し、どこに住んでも、生きていける条件を整えることに舵を切ることが必要。それが地球との共存を求められるこれからの自治体、社会のあり方につながる。
平成の大合併と同時にとなえられた道州制。いまや自民党の公約からなくなっている。都道府県を前提にした参院選の合区解消を求める予選が「改憲」に使えると判断したからだろう。なんの見識もない。
【平成の大合併しなかった自治体 元気 隣接旧町村と比較 日弁連調査 農業新聞2019/11/22】
【平成合併の地域で人口減加速 存続選択の町村に比べ 中日2019/11/7】
【自治体の将来 平成の大合併の検証を 朝日 社説 2019/11/12】
地元紙も社説
【平成の大合併しなかった自治体 元気 隣接旧町村と比較 日弁連調査 農業新聞2019/11/22】
日本弁護士連合会(日弁連)は11月、人口4000人未満の「平成の大合併」で合併しなかった自治体と合併した自治体を比較し、人口減少率が低いなど非合併自治体が“元気”であるとの調査結果を公表した。高齢化率の進捗(しんちょく)も抑えられ、財政の健全化も進んでいた。日弁連は「非合併の小規模自治体では公務員数が激減せず、農業など産業面でも個性を生かした地域づくりを展開している」と分析する。
◆高齢化抑え財政健全に日弁連の弁護士らは、地方自治制度などを研究し昨年春から20人の弁護士らが「空き家、地域再生プロジェクトチーム」を結成して農山村を調査。「合併しなければ小さな自治体は立ち行かなくなる」として進められてきた、平成の大合併の効果や弊害などを検証した。
調査では、2000年時点で4000人未満の小規模な町村と、産業構造が似ていて隣接する合併旧町村の組み合わせを47組作り、原則05年から15年にかけた人口変化や高齢化の進捗(しんちょく)などを比較した。例えば、北海道新篠津村、岡山県西粟倉村、高知県大川村と、合併した近隣自治体を比べた。
その結果、非合併町村は合併旧町村に比べ、人口減少率は47組中43組、高齢化の進捗率は47組中41組で低かった。また、47の非合併町村の財政指標を調査。05年度に合計518億円だった積立金は15年度に2倍近い1010億円に増え、実質収支比率も41町村で上昇するなど、財政の健全化が図られていた。
日弁連は、非合併町村では役場機能が保たれ、公務員数が大きく減っていないことが背景にあると指摘。「非合併自治体は地域住民と役場職員の顔が見える関係が築かれ、地域の個性が発揮しやすい」と分析している。
◆住民と行政が連携日弁連は全国各地の現場調査もした。合併しなかった長野県生坂村の農業公社代表、岩間陽子さん(68)は「合併しなかったことで住民の声が予算に反映させやすい面はあった」と指摘。「住民と行政が“協働のむらづくり”をしてきて、村ぐるみで(農水省の)多面的機能支払交付事業で共同作業をし、集落営農も活発になっている」と話す。不安はあるが、合併しないという選択で地域住民に自主性が芽生えたと感じているという。
一方、合併した町の元助役で現自治会会長(73)は「当時は国から地方交付税を減らすと言われて、危機感が強かった。今になってみると合併してよかったと言う町民はいない。ただ、他の地域との比較で一喜一憂するのではなく、自分たちの地域づくりを頑張るしかない」と話す。
◆地域の個性 尊重を「空き家、地域再生プロジェクトチーム」リーダーの小島延夫弁護士の話
今回の調査は比較により小規模自治体同士に優劣を付けることが目的ではない。ただ、調査結果からは、合併しなかった自治体で、当初予想されたような地域の衰退は見られないことが浮き彫りになった。
総務省は昨年、複数市町村で構成する「圏域」を新たな行政とする構想を発表しているが、そうした構想を打ち出す前に、平成の大合併の検証が求められる。
地域の枠組みを考えるとき、地域の文化や歴史、農業などの産業といった個性を尊重した上で検討しなければならない。「合併しなければ生き残れない」といった強引に危機感をあおる手法は、地域の誇りを奪うものだ。
【平成合併の地域で人口減加速 存続選択の町村に比べ 中日2019/11/7】1999年から2010年までの「平成の大合併」で合併した人口がおおむね4000人未満の旧町村の地域は、合併に加わらず存続を選択した近隣の小規模町村に比べ、人口減が加速傾向にあるとの調査結果を日弁連が6日公表した。調査した47組の9割で、旧町村の方が人口減少率が高かった。役場がなくなった影響で公務員減少や商店廃業、事業所閉鎖などが起き、地域が衰退したのが主な要因としている。
総務省研究会は昨年7月、複数市町村で構成する「圏域」を新たな行政主体として法制化する構想を発表。大合併に似ているため日弁連は同10月、実現すれば小規模市町村が衰退すると批判する意見書をまとめており、具体的データを示すことで世論を喚起する狙いがある。
総務省幹部は、旧町村の住民の声が行政に届きにくくなるなど合併の弊害を認める一方で「行政の効率化や専門職員の充実などメリットもあった」と強調した。
日弁連は、合併した旧町村と存続した町村を組み合わせ、原則として05年から15年の国勢調査人口の減少率を比較した。双方とも00年時点の人口が4000人未満か約4000人で、距離が近く産業構造などが似通っているのが条件。これを満たした47組のうち9割に当たる43組で、合併旧町村の方が減少率が高かった。
例えば、05年9月に奈良県五條市に編入合併した旧大塔村の人口減少率は57・5%で、隣接する野迫川村の39・6%を上回った。
大合併当時、小規模町村には「合併しなければ、財政が立ちゆかなくなる」との危機感が強かった。しかし調査によると合併しなかった47町村の貯金に当たる「積立金」は、05年度の計518億円から15年度に計1010億円に増えた。財政健全化へ公共事業費などを節減したためという。
日弁連は、大合併による住民サービスの低下といった弊害は、基本的人権に関わる問題として調査していた。結果は東京都内で開いたシンポジウムで公表した。◆活性化へ圏域で協働を
<政策研究大学院大の横道清孝副学長(地方自治論)の話> 市町村合併で行政規模の拡大や広域的なまちづくりが進めば、周辺部が廃れて中心部だけが活気づくとの懸念は当初からあった。ただ、大事なのはこれからどうするかだ。人口減少と少子高齢化が進行し、市町村の財政も厳しさを増している。10年、20年後を見据えると、合併まで至らなくても、行政サービスの維持や地域活性化のためには、一定程度まとまった圏域で協働することを考えるべき時期に入っている。
◆合併後の分割、柔軟に
<自治体問題研究所の池上洋通研究員の話> 合併した旧町村の地域で人口が減少しているのは、安定的な雇用の場だった行政機関などがなくなり、若年層にとって将来設計が難しくなっているのが最大の要因だ。最初から予想されていたことで今後は合併市町村の分割などをもっと柔軟にできるような仕組みを検討してほしい。複数の市町村で構成する「圏域」を新たな行政主体として法制化する構想も合併と似た問題をはらんでおり、今回の調査結果をよく検証して見直すべきだ。
<平成の大合併> 自治体の基盤強化を狙い、国が推し進めた。市町村数は1999年3月の3232から2010年3月末に1727へ減少。平均人口は3万7000人から6万9000人に増え、平均面積も拡大した。総務省研究会が示した「圏域」構想は、複数市町村で医療や福祉などに取り組む内容。小規模自治体は将来、単独で行政サービスを維持するのが困難になるとの危機感が背景。国の「地方制度調査会」が採否を議論しており、全国町村会などは「事実上の合併」と強く反対している。
【自治体の将来 平成の大合併の検証を 朝日 社説 2019/11/12】市町村の数をほぼ半減させた「平成の大合併」が一段落してから、来年で10年になる。
大合併は政府が主導した。
アメ(合併すれば得られる有利な特例債)とムチ(将来の財政不安の指摘)で、自治体に行財政の効率化を迫った。
だから政府には合併の功罪を検証する責任があるはずだ。こう考える契機が二つあった。ひとつは、首相の諮問機関の地方制度調査会が先月、合併特例法の延長を求めたことだ。
地制調はいま、高齢者が最多になる2040年ころを見据えた自治体像を検討している。働き手が減り、従来の市町村単位では対応が難しくなる。そんな見立てで、合併を選択肢に残した。ならば、合併の有効性を客観的に示す必要がある。二つめは、日本弁護士連合会が今月に公表した報告だ。
隣りあう4千人未満の同規模の自治体を調べたところ、合併した旧町村の方が、合併しなかった町村より、人口が減り、高齢化も進んでいた。
岡山県西粟倉村と旧東粟倉村(美作市)など、全国の47組のうち約9割で同じ傾向だった。
調査は、合併後の衰退に共通する理由として「役場機能の縮小」を挙げた。地元商店も業者も「最大の顧客」を失ったことが響いたという。
一般に合併は行財政の基盤強化や住民サービスの充実が評価される。半面、日弁連が示した人口減や伝統文化の喪失など、周辺部の疲弊も指摘される。実態はどうなのか。福祉や教育、産業や観光振興、議会、財政指数など幅広く、政府自身の手で検証すべきだ。
その結果に基づいて自治体の将来像を探れば、地方制度づくりに説得力が増す。
実は地制調でも、複数の委員が合併の検証を求めた。だが、政府の対応は各県の合併報告書を引用した程度だった。
地制調では今後、複数の自治体が連携する「圏域」の論議を本格化させる。来夏の最終答申は「圏域」が主役になる。
これに対し、すでに小規模自治体に懸念が広がっている。大合併と同様に、将来不安をあおり、効率優先の制度で周辺部が切り捨てられないか、と。
そもそも、自治体の将来像は政府の姿とともに構想すべきだ。その際には地方分権が欠かせない。この視点に乏しい地制調への不信感も各地にある。
政府は2年前、「移住・定住政策の好事例集」で18自治体を紹介した。うち12カ所が合併していない。この事実が、行政の努力、住民の知恵や工夫の重要性を如実に物語る。地制調には、こんな自治の現場に即した論議を期待する。
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