オリンピックのために難民の収容はいらない オリパラ精神に逆光
不勉強であまり理解できてなかった入管の収容所での非人道的扱いの問題が、よくわかった。
難民認定申請(日本は極めて厳しく。国際機関から改善を指摘されている)したが認定されていない者を治安対策で長期に拘束し、精神的肉体的苦痛にさらし、「自主的」な帰国を迫るというやり方をとっている。
異質なものを排除するという、そうした政治的文化的背景をも感じる。
論考は最後に「日本政府は難民チームの来日を歓迎するのでしょう。しかし、UNHCRの認定した難民を強制送還し、未だにその非を認めず、難民認定申請者を虐げ続ける日本政府の態度は、明らかなダブル・スタンダードです。オリンピック・パラリンピックを愛する世界の皆さん、オリンピック・パラリンピックの理念が東京で汚されることがないよう、日本政府に働きかけて下さい」と結んでいる。
【オリンピックのために難民の収容はいらない 大橋毅さん(弁護士)11/4】
オリンピック憲章は、人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会を奨励することを目指し、スポーツを人類の調和の取れた発展に役立てることを求めています。リオ五輪に続き、東京五輪2020にも、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が認定した難民で構成される難民チームが参加し、IOCは世界中の難民に希望を示そうとしています。
ところが、日本の東京都港区、茨城県牛久市、大阪府、長崎県大村市にある、入管の収容所には、今、何百人もの難民認定申請者が拘束されています。政府が掲げる「東京オリンピック・パラリンピックの年までに安全・安心な社会の実現を図る政策」の一環として、法務省は、在留資格がなく、難民認定申請したが認定されていない者を、「濫用的に難民申請を行う者」とみなして※1、命の危険があるほどの健康状態でない限り解放(仮放免)しないことに決め、社会からの隔離を続けているのです※2。この数年、被収容者の収容される期間が急激に長期化しています。
日本政府は難民申請のうち1%も難民認定をしておらず、UNHCRが難民と認定した人でも強制送還するような厳しい不認定判断をしています※3。だから99%以上の難民認定申請者は、無期限に収容されているか、収容される危険にさらされています。収容所では、すでに2年間、3年間を超えて拘禁され、それでも解放される予定がないたくさんの人々が、精神的苦痛を受け続けています※4。自傷行為者、自殺者、病気になっても十分な治療を受けられずに死んだ人もいます。
難民認定申請者については、審査中は送還執行してはならないという入管法61条の2の6第3項の規定があります。審査の結果によって退去強制の決定が撤回されることがあり得るのだから、当然の規定と思われます。しかし法務省は、無期限の収容による精神的苦痛と、自主的な帰国との選択を迫ることで、送還の対象でない人々に帰国を強いています。これは脱法行為です。
収容所で、ハンガーストライキが行われています。2019年6月、長崎県にある収容所で、被収容者がハンガーストライキの末に餓死した事件がありました。送還方法について国籍国と入管の合意ができておらず、送還執行ができないまま収容が3年7ヶ月を超えていました。法務省は、窃盗前科があったから、日本の安全・安心のため解放しなかった対応に問題はないと説明しています※5。しかし窃盗前科によって終身刑、あるいは死刑を受けたようなもので、比例原則に反しますし、そもそも入管収容は保安処分ではありません。入管の収容については勾留裁判のような司法の関与がなく、入管職員の発する令書によって行われるので、目的の逸脱が容易に起きるのです。また、餓死の前の7日間、本人の体調や判断能力を医師が診ておらず、いつから瀕死の状態になったか把握していないというのですから、人命軽視が明白です。この数年の収容の顕著な長期化と人間の尊厳の軽視に、多くの人権団体が批判の声明を発しています※6。
2019年8月からは、ハンガーストライキをする者に対して、収容所側が「ハンストを止めれば解放する」と持ちかけて、食事を摂った者については一旦解放するものの、たったの2週間で収容を再開する酷い扱いを始めました※7。
さらに法務省は、難民認定申請者を送還執行してはならないという入管法61条の2の6第3項の規定に例外を設け、法務省が難民と認定しないことに納得しない者を強制送還できるように法改正しようと目論んで、検討に入っています※8。
法務省による長期無期限かつ司法の関与しない収容と、政府から独立した難民審査機関の欠如は、たびたび国際人権条約機関から懸念表明と勧告を受けています。自由権規約委員会は、日本の入管の収容所における収容について、日本の第6回定期報告に関する最終見解(2014年8月20日)のパラグラフ19.で「収容が、最短の適切な期間であり、行政収容の既存の代替手段が十分に検討された場合にのみ行われることを確保し、また移住者が収容の合法性を決定し得る裁判所に訴訟手続を取れるよう確保するための措置を執ること」と勧告しています。
拷問禁止委員会は、第1回定期報告書審査の最終見解(2007年8月7日)で日本政府に対し、「難民申請却下後から送還までの庇護希望者の無期限拘束、特に無期限及び長期の収容ケースの報告」を問題とし、「人々、特に弱い立場である者が送還を待つ間の収容期間に上限を設置すべきこと」を勧告しています。また2018年8月30日に人種差別撤廃委員会が日本政府に対して示した総括所見に、「入管収容の最長期限を設けることを勧告し、ならびに難民申請者の収容が最後の手段としてのみ、かつ可能な限り最短の期間で用いられることを保証すること、および収容の代替措置を優先するための努力がなされるべき」36.としています※9。長期収容の問題の解消は、国際人権条約機関が勧告する、収容期限の法定や、収容の合法性の司法的チェック、さらには難民認定手続の適正化(政府から独立した審査機関の設置など)によるべきで、難民認定申請者の送還は誤った方向です。欧州では当然に行われていることばかりです※10。
このような非人道的な扱いは、オリンピック・パラリンピック難民チームが象徴する、難民への世界の人々の共感を、辱め、踏みにじっています。オリンピック・パラリンピックが、このようなことを求めているはずがありません。
きっと、日本政府は難民チームの来日を歓迎するのでしょう。しかし、UNHCRの認定した難民を強制送還し、未だにその非を認めず、難民認定申請者を虐げ続ける日本政府の態度は、明らかなダブル・スタンダードです。
オリンピック・パラリンピックを愛する世界の皆さん、オリンピック・パラリンピックの理念が東京で汚されることがないよう、日本政府に働きかけて下さい※11。
PDF<拡大>※1 平成30年4月26日警察庁・法務省・厚生労働省「不法就労等外国人対策の推進(改訂)」
※2 平成30年2月28日法務省入国管理局長「被退去強制令書発付者に対する仮放免措置に係る適切な運用と動静監視強化の更なる徹底について(通達)」(法務省管警第43号)
※3 特定非営利活動法人難民支援協会(JAR)HP「難民支援協会と、日本の難民の10年 第4回 クルド難民強制送還事件」参照。難民認定率の先進諸国間の比較は、全国難民弁護団連絡会議(JLNR)HPの統計ページ参照。
※4 福島瑞穂議員HP「外国人収容施設における収容の長期化について」「外国人収容施設における収容の長期化について(2019年6月末現在)」
※5 法務省HP「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」
※6 8団体声明「人道危機にある入管収容の現場から人間の尊厳の確保を求める声明」
※7 日弁連会長声明「 入国管理センターにおける被収容者の死亡事件及び再収容に関する会長声明」
※8 法務省HP第7次出入国管理政策懇談会活動状況「収容・送還専門部会の設置について」
※9 日弁連HPの「国際人権・国際交流のための活動」の「国際人権ライブラリー」の「国際人権文書(条約及び基準・規則等)」の、各人権条約の「報告書審査」参照。
※10 「英国視察報告書」(2013年12月 「イングランドの入管収容施設及び制度の現状と課題」研究会(日弁連法務研究財団)
※11 RDTO.org
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