地域の実情無視した病院再編・統合圧力 厚労省の病院名公表への地方団体などの声明
9月26日、厚労省は、公立・公的医療機関等について再編統合等の再検討を求めるとして、全国424の具体的な病院名を公表したことについて、地方団体、医療関係の団体の声明
町村長会は「これら医療機関は、それぞれの地域における基幹的な医療機関としての使命と役割を担っており、とりわけ、離島・山間部をはじめ民間医療機関の立地が困難な過疎地等の条件不利地域においては、住民が住み慣れた地域に安心して暮らし続けるために不可欠な存在」「全国各地で頻発する災害時には、地域住民の命を守る砦となるもの」と指摘し、全国一律の基準により機械的に分類したデータをもとに病院名まで公表したやり方に、「極めて危険」「医療現場を混乱させる恐れ」と批判。最後は、「我々町村長は、『住民の健康と命を守る』という使命と責任をもって、地域医療を守っていく覚悟である。」と結んでいる。
前回も都道府県ごとのベット数を出し、事実上の撤回、訂正通知を出したことに学んでいない。
だいたい「地方創生」「国土強靭化」とか言いながら、あまりにも矛盾している。
【 地域医療確保に関する国と地方の協議の場の設置について 地方3団体9/27】
【 地域医療構想の進め方に関する意見 全国町村長会9/27 】
【病床削減へ厚労省圧力 再編・統合求め病院名公表 ―地域の実情踏まえた議論必要― 保険医協会10/15】
【談話 地域の実情や現場を無視した病院再編・統合に強く抗議する 医労連9/27】
【住民のいのちと健康を脅かし、住民自治を無視する公立・公的病院の「再編・統合」の押し付けに断固抗議する(談話)自治労連 】
【 地域医療確保に関する国と地方の協議の場の設置について 】
令和元年9月26日、厚生労働省は、公立・公的医療機関等について再編統合等の再検討を求めるとして、全国424の具体的な病院名を公表した。
地域の個別事情を踏まえず、全国一律の基準による分析のみで病院名を公表したことは、国民の命と健康を守る最後の砦である自治体病院が機械的に再編統合されることにつながりかねず、極めて遺憾であると言わざるをえない。
もとより、少子高齢化が進展する中で、持続可能な医療を提供する体制をつくるため、地方としてもしっかり取り組んでいく所存である。
今後、地域医療構想等の取組の推進に当たっては、地域の実情を十分踏まえたものとなるよう、新たに設置される「地域医療確保に関する国と地方の協議の場」等を通じて、意見を申し上げていきたい。
令和元年9月27日
全国知事会会長 飯泉 嘉門
全国市長会会長 立谷 秀清
全国町村会会長 荒木 泰臣
【 地域医療構想の進め方に関する意見 令和元年9月27日 全国町村会長 荒木泰臣】
9月26日に、「地域医療構想に関するワーキンググループ」において、「再検証要請対象医療機関」が示された。このワーキンググループには、町村の代表が参加しておらず、十分な事前の情報提供が行われることなく、唐突に厚生労働省から発表されたものである。
そして、このリストの公表は、公立・公的医療機関のみを対象にしたものであるが、これら医療機関は、それぞれの地域における基幹的な医療機関としての使命と役割を担っており、とりわけ、離島・山間部をはじめ民間医療機関の立地が困難な過疎地等の条件不利地域においては、住民が住み慣れた地域に安心して暮らし続けるために不可欠な存在であり、近年、全国各地で頻発する災害時には、地域住民の命を守る砦となるものである。
また、個々の公立・公的医療機関については、地域の置かれた状況や立地の経緯等について様々な背景をもっていることから、これを全国一律の基準により機械的に分類したデータをもとに拙速な議論を行うことは、関係住民に過度の不安を与えかねず極めて危険であり、また医療現場を混乱させる恐れもある。
もとより、将来の地域医療のあり方については、「地域医療構想調整会議」において、関係者間で丁寧な協議検討を行いながら進められるべきものであり、絶対に、国が強制的に再編・統合を押し付けるべきものであってはならない。
このように極めて難しい課題を含んだ内容であることから、本日、高市総務大臣から国と地方の代表による協議の場を設ける意向の発言があったので、その中での丁寧な議論をお願いし、地域の実情等について意見を申し上げてまいりたい。
我々町村長は、「住民の健康と命を守る」という使命と責任をもって、地域医療を守っていく覚悟である。
【病床削減へ厚労省圧力 再編・統合求め病院名公表 ―地域の実情踏まえた議論必要― 保険医協会10/15】
厚労省は9月26日、再編統合を求める424の公立・公的病院等の名称を公表した。病床削減ありきの病院名公表や、地域の実状を無視した選定手法などに異論が噴出している。病院の縮小・廃止は、医療過疎、地域の荒廃を進める。地域の実状を踏まえた議論が求められる。
◆「住民不安招く」「全国一律の基準不適切」
医療費の抑制に向けて、地域医療構想では、2025年に全国で病床を135万床(2013年)から119万床に減らす計画である。ほとんどの公立病院等で将来の病床計画を策定済みだが、政府は「現状維持が多い」などとして、計画の再検討を求めている。
厚労省は、急性期機能を持つ1,455の公立病院等を対象に、がん、心疾患、救急、へき地など9領域16項目の診療実績について、人口規模が近い地域ごとに分けて、各病院を相対評価した。全ての実績で下位3分の1に該当、又は自動車で20分以内に、自院と似た実績を持つ病院がある場合について、再編・統合の検討が必要とした。遅くとも20年9月末までに「原則、現在の計画を変更する前提」で再検討し結論を得る。見直し例として、急性期病床等の削減・転換、夜間救急の中止、周産期医療を他病院に移管などが示されている。
病院名公表に対し、自治体からは、地域の実状を踏まえていないなど批判・異論が相次いでいる。27日、全国知事会は、「地域の命と健康を守る最後の砦である自治体病院が機械的に再編統合されるという住民の不安を招きかねず、地域の個別事情を無視するもので、公平な視点とは言い難い」との声明を発表した。10月4日の国と地方の協議の場では、知事会・市長会・町村会の委員連名で「地域により公立病院等が果たす役割は異なり、全国一律の基準で分析したデータだけで再編統合を推進することは適切ではない」との意見を提出した。◆地理、疾病の特性なども考慮されない
診療実績は、各症例の総数に基づいており、規模が小さい病院ほど下位に判定されやすくなる。下位に該当した病院は、200床以下が7割強を占める。公表病院が最多の北海道や東北地方は、広域行政の上、積雪寒冷や交通事情が悪いことなどから、小規模病院が点在する事情がある。医療従事者が不足する中、特に地方では、医療ニーズがあっても医師等が確保できず、患者を受け入れられない実状もある。
都市部でも、周辺に高度医療を担う大学病院などが複数あれば、診療実績が低いと判定されやすい。軽度な手術や術後の回復期などを担う地域の医療連携上の役割や、地域のかかりつけ医が利用できる開放型病床の役割などは考慮されていない。
実績指標も、がん・心臓・脳疾患領域が中心であり、神経疾患・整形外科やリハビリを主体とする専門病院、難病患者、障害者の医療を多く担う病院なども再編・統合対象に選定されるなど、個々の病院の特性も考慮されていない。
自動車で20分以内であれば近隣に病院があるとされるが、高齢者や障害者はじめ住民の生活環境を踏まえないものである。
地域の実状を踏まえない機械的な分析には問題が多く、病院名公表は住民や医療現場にいたずらに不安と混乱をもたらしている。◆「強制するものではない」 変更なしもあり得る
病院名を公表した26日の審議会では、再検討対象の病院について日本医師会の委員からの「調整会議の議論の中で、結果として何も変わらないことも十分あるか」との質問に対し、厚労省担当者は「議論の上、現時点で変わらないことも十分にありうる。行政として強制するものではない」とし、その旨を都道府県等にも説明していくとした。
翌27日も、厚労省は、「必ずしも医療機関そのものの統廃合を決めるものではない」「病院が担うべき役割や、それに必要な病床削減などの方向性を機械的に決めるものではない」との見解を公表した。関連通知の発出に先立ち、異例の対応である。さらに、同日、加藤厚労大臣も、再検討対象の病院について「(再編・統合など)機械的な対応はしない」と強調し、「個々の地域の特性に応じた議論が必要」との認識を示している。
地域での病院の縮小・再編は、医療過疎の深刻化、さらには地域の存廃にも関わる。患者・住民、医療現場はじめ、地域の実状を踏まえた医療提供体制の充実に向けた議論が求められる。以上
【談話 地域の実情や現場を無視した病院再編・統合に強く抗議する 医労連9/27】
日本医療労働組合連合会 書記長森田進
厚生労働省は9月26日、再編・統合の必要性があるとして424の公立・公的病院等の名称の公表を強行した。対象は1455の公立・公的病院等で、2017年度の報告データを基に、「診療実績が少ない」「他の医療機関と競合している」といった分析を行い、病床数の削減・変更や診療体制の見直しを求めている。
しかし今回の厚労省の分析は、「地域医療構想」による病床削減計画の策定が思うようにすすまない中で、ベッド削減先にありきの分析としか見受けらない。まず初めに指摘しなければならない点は、度重なる患者負担増などにより、医療を受けたくても受けられない受診抑制の実態が広がっている点を考慮せず、現状の診療実績を根拠としている点である。また、現場から病院までの救急搬送に要する平均時間を12分と説明しながら、その時間よりも長い20分を「近接する医療機関」の定義としていることも妥当性・相当性を欠いている。そして地域の医療や介護を取り巻く実情、医師不足などによる診療実績への影響などもまったく考慮されていない、いわゆる「机上の空論」である。公立・公的病院では、民間病院が受け入れづらい不採算部門の診療科や、地域の医療体制を踏まえたうえで特化した診療科の設置など、特殊性を持った診療を請け負っている施設も多いが、そのような特性を個別に判定することもなく、病床稼働率や手術件数、救急車の受入数などの数値だけを持って分類するのは、現場の実情も考慮しない機械的な分析である。また、直近の単年度の診療実績のみを取り上げた、ピンポイントデータを基に作成された分析であり、医師確保状況によって診療実績は大きな影響を受けるのに、経年的な変化は考慮されていない、極めて乱暴な分析である。そもそも現時点の診療実績に基づいたデータによって病床数を削減するとしたら、いったん再編・統合となれば、その後病床数を増やすことは、施設的なハード面からも困難となり、すべての地域において今後の人口増加や医療需要の変化には対応できなくなることは明らかである。地方自治体関係者が、過疎化を食い止め、人口減少に歯止めをかけ、人口増加に転じさせるための努力を続けているときに、冷や水を浴びせることになる。「医師の働き方改革の方向性も加味して」検証・対策ともしているが、結局のところ、絶対的な医師不足の現状を固定化させ、医師数に合わせたベッド削減をすすめるものに他ならない。
地域の実情も、人手不足の中で必死に地域医療を支えている医療現場の声もまともに聞かず、一方的な分析に基づく要請は撤回すべきであり、「強制」ではないと言うならば、公立・公的病院の地域医療を守る観点を尊重することを強く求める。いま政府が行うべきことは、国民のいのちと健康を危険にさらす一方的な病床削減ではなく、医師・看護師・介護職員をはじめとした医療・介護の担い手を増やし、国民誰もが、いつでも、どこでも、安心して十分な医療や介護が受けられるような体制を、国と自治体の責任で充実させることである。毎年過去最高額を更新する軍事費予算や、不要・不急の大型開発予算の見直し、大企業や資産家への適切な課税などで、国民が安心して暮らし続けるための予算は確保できるはずである。日本医労連は、国民と共に医療・介護要求を掲げ、引き続き地域医療を守る運動に全力を挙げる決意である。
以上
【住民のいのちと健康を脅かし、住民自治を無視する公立・公的病院の「再編・統合」の押し付けに断固抗議する(談話)自治労連 】
2019年9月30日 書記長 前田博史
厚生労働省が「医療体制の見直しを求める」として9月26日に行った公立・公的病院の診療実績の分析の公表に対し、住民のいのちと健康を守り、安心して住み続けられる地域をめざして運動をすすめる自治労連として、断固抗議する。
厚労省は、自治体が運営する公立病院と日本赤十字など公的機関が運営する公的病院の4分の1超にあたる全国424の病院をリストアップし、「再編統合について特に議論が必要」とする分析結果とともに対象となる病院名の公表を行った。
厚労省によるこの分析結果は、「公立・公的病院の再編」を都道府県ごとにまとめた「地域医療構想」について、全国1652の公立・公的病院のうち1455病院に、がんや救急医療など9項目の診療実績を分析し、手術件数などが一定水準未満の病院のほか、乗用車で20分圏内に同程度の実績の病院が複数ある場合も要請対象としている。これは都道府県別では、全体の29.1%に当たり、新潟(53.7%)、北海道(48.6%)、宮城(47.5%)、山口(46.7%)、岡山(43.3%)の順で高くなっているとしている。また、年内にも対象施設に再編・統合の検討を要請し2020年9月末までに対応を決めるよう求めている。
しかし、再編のあり方については、厚労省には公的病院運営の決定権がない。そのため「統廃合」に限定せず、病床数の削減、診療科や病院機能の集約化など地域の実情に見合った形となるように区域ごとの議論に委ねるとしている。
今回公表された公立・公的病院は、住民が安心して地域で住み続けるために必要な医療機関であり、必要な病床である。それにも関わらず、「地域医療構想」の進捗のみを目途に、病床削減や周産期医療の移行、夜間緊急受け入れの中止、(高度)急性期医療からの転換、病院の統合等を強引にすすめれば、地域での医療を必要とする住民(患者)は行き場を失い、「安全で質の高い医療を受ける権利」が侵害されることは明らかである。
公立・公的病院が果たす役割は地域によって異なり、医療現場は、人手不足の中でも必死に地域医療を支えている。
住民や医療現場の声も聞かず深刻な医師・医療労働者不足解消の具体策を何ら講じないまま、「地域医療構想」をてこに、偽りの「医師偏在対策」「医療労働者の働き方改革」を同時に推進しようと圧力をかけ、住民合意を得ることのないまま一方的に押し付けることは、断じて容認できない。
自治労連は、「地域医療と公立・公的病院の充実を求める『いのちと地域を守る大運動』」を展開し、住民生活を守るうえで欠かせない周産期医療や救急医療、へき地医療など政策医療を担い、住民のいのちと健康を守る運動を住民との共同を広げて継承・発展させてきた。そのなかで、多発する災害時の医療提供体制の維持はもとより、地域住民が等しく医療を受ける権利が行使できる地域医療体制の中心、すなわち住民自治機能としての自治体病院の役割を果たしてきた。
自治労連は、住民のいのちと健康を守る立場で共同を広げ、職場と地域から、住民が安心してくらし続けられる地域医療と介護・福祉を守る「いのちの砦」としての自治体病院の役割の発揮に向けた運動を全力ですすめていく決意を表明する。
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