自衛隊の中東派遣 米国への忖度で、無用の危険を招くだけ
米国がイラン敵視政策から核合意を一方的に離脱し経済制裁を加えたことが危機の出発点(イランを敵視するイスラエル、それを支持する米国内勢力へのメッセージ、という米国内問題が本質)であり、その米政権の意向を忖度して、自衛隊を派遣するのは、無用な危険をまねき、イランなど中東諸国の信頼を傷つけるだけである。そもそも派遣する法的根拠もない。
やるべきは、同盟国として、米政権に核合意に戻るよう説得することである。
【問われる憲法との整合性=隊員の安全確保に課題-自衛隊の中東派遣 時事10/20】
【自衛隊の中東派兵 米国への忖度で緊張高めるな 赤旗・主張 10/20】
【問われる憲法との整合性=隊員の安全確保に課題-自衛隊の中東派遣 時事10/20】
政府は緊張が高まる中東地域への自衛隊派遣について、具体策の本格検討に着手した。防衛省設置法に基づく「調査・研究」を法的根拠とし、護衛艦や哨戒機による警戒監視活動を想定する。しかし、軍事衝突に巻き込まれた場合の憲法との整合性や派遣隊員の武器使用権限など、課題は山積している。
調査・研究活動は情報収集が目的で、日本船舶の防護は任務に含まない。国会承認を必要とせず、速やかな派遣が可能だ。防衛省は18日の国家安全保障会議(NSC)の指示を受け、統合幕僚監部内に検討チームを設置。想定される事態ごとの対処方針や必要な装備、法的整合性などのシミュレーションを始めた。
政府は当初、自衛隊の中東派遣には慎重だったが、米国から「自国の船は自国で守るべきだ」と迫られ、苦肉の策として考案されたのが調査・研究活動だった。
警戒監視に際しイランなど周辺国を刺激しない狙いがあるが、武器使用権限は自衛隊法95条に基づき、正当防衛や緊急避難に限られる。
一方、政府が検討する活動区域には、イラン保守強硬派の革命防衛隊や、イエメン反政府武装組織フーシ派らが存在する。ミサイルや無人機で重武装した「国または国に準ずる組織」との戦闘に巻き込まれれば、憲法が禁止する交戦状態に陥る恐れが大きい。
防衛省は事態がエスカレートした場合、活動根拠を自衛隊法に基づく「海上警備行動」に切り替えることを想定している。ただ、海上での人命・財産保護や治安維持を目的としているため、武器使用の権限は警察権の範囲に限定される。海上警備行動の命令には閣議決定が必要だが、切迫した状況で手続きを踏む時間的余裕が実際にあるのかも不透明だ。
このため、自衛隊関係者からは「今の状態では派遣する隊員の安全確保への不安は拭えない」と懸念の声が上がる。
菅義偉官房長官は派遣時期について「明確にいつ頃とは決定していない」と述べており、政府はあらゆる事態を想定して万全の準備を進める方針。しかし、隊員に万が一、犠牲者が出た場合、政権を揺るがす事態に発展するリスクをはらむ。
【自衛隊の中東派兵 米国への忖度で緊張高めるな 赤旗・主張 10/20】
安倍晋三首相が、中東海域への自衛隊派兵の検討を関係閣僚に指示しました。中東情勢の安定と日本に関係する船舶の安全確保のためとしています。しかし、菅義偉官房長官も「直ちにわが国に関係する船舶の防護を実施する状況にはない」と述べるように、自衛隊派兵の明確な根拠を示すことができません。イランへの軍事的圧力を強め、日本などの同盟国や友好国に役割分担を求めるトランプ米政権への忖度(そんたく)であることは明らかです。安倍政権が口にする「中東地域の平和と安定」にも逆行し、軍事緊張を一層高める自衛隊派兵はやめるべきです。
◆戦火に巻き込まれる恐れ
菅氏は記者会見で、自衛隊が活動する地理的範囲として、イランとオマーンの間にある「オマーン湾」、「アラビア海北部」、イエメンとジブチの間の「バベルマンデブ海峡東側」を挙げました。日本の伝統的な友好国とされるイランへの「配慮」で、ホルムズ海峡は避けたとも報じられています。
しかし、河野太郎防衛相は会見で、オマーン湾にホルムズ海峡も入るのかとの記者の質問に、「そうしたことを含め検討していきたい」「検討の結果次第ではいろいろある」とし、否定しませんでした。
派兵部隊については、海上自衛隊の新たな艦船を派遣するか、アフリカ東部のジブチを拠点に「海賊対処」活動を行っている海自の護衛艦やP3C哨戒機の活用を検討するとしています。
トランプ米政権は、敵対するイランへの軍事的包囲網を築くため、有志連合構想・「海洋安全保障イニシアチブ」を打ち出し、日本をはじめ各国に参加を求めてきました。しかし、参加を表明した国は現在、英国やサウジアラビアなど5カ国程度にとどまります。
菅氏は会見で「米国が提案する海洋安全保障イニシアチブには参加せず、日本独自の取り組みを適切に行っていく」とし、自衛隊独自の活動であることを強調しました。一方で、「米国とは緊密に連携していく」と繰り返しました。有志連合への参加とどう違うのか、説明はありませんでした。
自衛隊の活動目的については「情報収集体制の強化」とし、法的根拠としては防衛省設置法が定める「所掌事務の遂行に必要な調査・研究」を挙げています。しかし、これは防衛省がつかさどる事務についての規定であり、自衛隊の海外派兵の根拠には到底なり得ません。国会の承認も必要としない上、勝手な拡大解釈で派兵を強行することは許されません。
トランプ米大統領は今年6月、イランへの爆撃を承認し、攻撃10分前に中止したことを明らかにしています。米国が軍事攻撃に踏み切れば、自衛隊が戦火に巻き込まれる恐れもあります。
◆憲法9条に基づく努力を
イランをめぐる今日の問題は、同国が核兵器の開発・保有を目指さないことと引き換えに経済制裁を解除するとした「核合意」からトランプ米政権が一方的に離脱しことから始まりました。自ら危機をつくり出しておきながら、軍事的対応に乗り出すことに何の道理もありません。
今、日本が果たすべきは自衛隊の派兵ではなく、トランプ政権に核合意への復帰を促し、憲法9条に基づいて対話による外交的解決に力を尽くすことです。
【自衛隊の中東派遣 無用の危険を招くだけだ 琉球新報・社説10/20】
米国とイランが鋭く対立する中、安倍晋三首相は中東への自衛隊派遣を検討するよう関係閣僚に指示した。軍事的側面が強い自衛隊の艦船派遣に踏み切れば、対話による緊張緩和に力を入れてきた日本政府の外交方針を大きく転換させることになる。
日本関連タンカーへの攻撃が頻発しているわけでもなく、自衛隊を派遣する必要性がない。中東情勢の安定化に寄与するどころか友好関係にあるイラクを刺激し、自衛隊が不測の事態に巻き込まれるリスクを高めるだけだ。
日本にとって、中東との関係は原油調達などエネルギー安全保障に関わる死活的な問題だ。中東各国との間に築いてきたパイプを犠牲にすべきではない。自衛隊の派遣は無用の危険を招くだけであり、見合わせるべきだ。
中東情勢を巡っては、米国がイラン包囲網として、イラン沖のホルムズ海峡の安全確保を目指す有志連合への参加を日本などに要請している。一方のイランも9月の外相会談で「ホルムズ平和追求構想」を日本側に説明し、支持に期待を表明した。同盟国の米国、伝統的な友好国のイランとの間で板挟みとなってきた安倍首相が窮余の策で繰り出したのが、米国主導の有志連合には加わらず、独自に艦船を派遣する対応だ。自衛隊の活動はアラビア半島南部での情報収集とし、ホルムズ海峡に近づかないことでイランから敵対視される事態を避けるという。
しかし、中東情勢は米イランの対立に加え、サウジアラビアの石油施設攻撃、トルコのシリア北部侵攻など急速に悪化する。米国にすり寄る日本政府のその場しのぎの理屈が通用するとは思えない。
そもそも、専守防衛の自衛隊を中東に派遣する法的根拠に無理がある。
菅義偉官房長官が説明した防衛省設置法の「調査・研究」を根拠とした派遣は、国会の承認を必要としない。憲法との整合性が問われる重大な判断を国会の審議なしに行うことなど、文民統制の観点からもあってはならない。
自衛隊の海外活動は1991年に海上自衛隊をペルシャ湾に派遣したのを皮切りに、テロ対策や復興支援などの名目で特別措置法を制定してインド洋やイラクなどに派遣してきた。2016年に集団的自衛権の行使を認めた安全保障関連法を施行し、他国軍の後方支援を目的とした海外派遣も随時可能にした。
「調査・研究」の名目でひとたび派遣に踏み切れば、米国のさらなる要求に従って日本の軍事的な関与が拡大していくことが懸念される。米国とイランの対立が戦闘に発展すれば、自衛隊も巻き込まれていく。政府は自衛隊員を戦地へ近づけ、危険にさらすのか。隊員の安全という観点からも許されない。
政権の意向で際限なく広がる自衛隊の海外活動に歯止めをかける議論が必要だ。
【海自中東派遣へ 必要性、根拠に乏しい 東京・社説10/22】
政府が中東情勢の悪化を踏まえ、自衛隊派遣の検討に入った。米国主導の有志連合ではなく、独自の活動だというが、派遣の必要性や根拠に乏しい。調査・研究という「便法」を乱用すべきでない。
米国とイランとの対立により、中東情勢が緊迫の度を高めていることは否めない。原油輸入の八割以上をこの地域に依存する日本にとって、中東の緊張緩和と情勢安定化は死活問題ではある。
とはいえ、日本関連のタンカーへの攻撃が頻発しているわけではなく、自衛隊艦船による警護を必要とする状況でもない。自衛隊を派遣する切迫した必要性がどこにあるのだろうか。
安倍晋三首相の指示を受け、菅義偉官房長官は記者会見で現在、ソマリア沖アデン湾で海賊対処活動をしている海上自衛隊の護衛艦や哨戒機の活用に加え、護衛艦の派遣も別途検討すると表明した。
トランプ米政権が参加を求める有志連合とは一線を画す日本独自の活動として、護衛艦などを年内にも派遣する見通しだ。
自衛隊を中東派遣することで米政権の顔を立てる一方、活動範囲からホルムズ海峡やペルシャ湾を除外し、友好国であるイランへの刺激を避ける苦肉の策ではある。
実力部隊である自衛隊の海外派遣は「国家意思」の表明だ。対話による緊張緩和を探ってきた日本外交の方針転換と受け取られるかもしれない。周辺国を刺激し、派遣部隊が偶発的な衝突に巻き込まれる危険性はないのか。
自衛隊による有事の活動や海外への派遣は、国権の最高機関であり、国民の代表である国会の承認を原則必要とする。国民の意思によって自衛隊を運用する「文民統制」である。
しかし、今回の中東派遣は、国会の承認を必要としない防衛省設置法の「調査・研究」が根拠だという。自衛隊の海外派遣という重大事を国会の判断を経ないで決定する「便法」でもある。
そもそもほかに根拠となる法律が見つからないから、「調査・研究」目的で派遣するのだろう。便法を乱用し、海外派遣を拡大することは許されない。
政府は自衛隊派遣の検討に当たり、「中東の緊張緩和と情勢の安定化に向けたさらなる外交努力」の方針も確認している。
中東各国と築いてきた信頼関係を生かすことこそ、平和国家としての道だ。良好な関係を犠牲にしてまで、自衛隊派遣をはやるようなことがあってはならない。
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