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世界的水枯渇 遠くない将来、「アメリカの農産物輸出禁止」を想像する

 世界的な人口爆発とそれに伴う穀物生産量の増加により、世界の地下水採取地域の42~79%で水界生態系を維持できなくなると、いう研究論文がネイチャーに発表された。ワシントンにある世界資源研究所は17カ国18億人(地球人口の1/4)が、今後数年のうちに深刻に水不足に直面する報告。インドでは6億人が深刻な水不足に直面している。

現在の穀物生産を支えているのは地下の帯水層が急速に減少。世界最大の農業輸出国・アメリカを支えるオガララ帯水層は、「25年で空っぽ」(レスター・ブラウン氏)と言われている。その危機が目前に迫ってくると、自国民を犠牲にして輸出を続けるだろうか・・・ すでに水不足が、輸出の足かせになる事態に・・

 まず自給率アップ。そして脱牛肉から、ビーガン、昆虫食への文化の変革が真剣な政治課題になっている。

安全保障上の問題もあるが、本格的な産業革命から、たかだか200年で、生態系をかく乱、未来の世代の犠牲でなりたつ現状(それは貧富の巨大な格差をつくる構造が推進力となっている)を、どう変えるかが問われている。グレタさんの訴えは、根本的な問いを突き付けている。

 【地下水くみ上げ、河川系に破滅的影響の恐れ 研究 時事10/4

【インドの深刻な水不足、5年以内に解決できなければ数億人が生命の危機に 2019/8/18

18億人に迫る水不足リスク、インドでは暴動 企業活動に支障も  ブルームバーグ 2019/8/13

【人類は「グローバルな水問題」に対処できるのか レスター・ブラウン 20190620日】

【乳製品輸出需要急増でも水価格高騰で縮小に向かうオーストラリア酪農 10/6

【地下水くみ上げ、河川系に破滅的影響の恐れ 研究 時事10/4

 【パリAFP=時事】地下水の過剰採取が、2050年までに世界の流域の50%にあたる河川、湖、湿地帯に「重大な影響」を及ぼすと警告する研究論文が2日、英科学誌ネイチャーで発表された。

 食糧生産に欠かせない地下水は地中の土や砂、岩の隙間に存在し、地球上で最も大規模に利用できる淡水源となっている。現在、20億人以上が、飲料水やかんがい用水を地下水に依存している。だが、地下水の資源量は、世界的な人口爆発とそれに伴う穀物生産量の増加を受け、すでに圧迫されている。

 国際共同研究チームは、既存の地下水が世界各地の河川、湖、湿地に流れ込む速度を調査し、流出と呼ばれるこのプロセスに農業用水のくみ上げがどのような影響を及ぼしているか調べた。この結果、世界の流域の約20%で、既に地下水採取量が流出量を上回っていることが明らかになった。
 また、気候変動モデルを用いて今後どのくらい流出量が減少するかを予測したところ、2050年までに世界の地下水採取地域の42~79%で水界生態系を維持できなくなることも判明した。

 論文主筆者である独フライブルク大学のインゲ・デグラーフ氏(環境水文システム)によると、これは破滅的な影響をもたらす可能性があるという。

 デグラーフ氏はAFPの取材に、「流れに水がなければ魚や植物が死ぬのは明らかだ」と話し、かんがい栽培されている作物の約半数が地下水に依存しており、大きな損失となると指摘した。

 論文によると、メキシコやガンジス川、インダス川の流域など作物生産を地下水に大きく依存している地域は、過剰採取により既に河川流量の減少が発生しているという。

 地下水需要の増加に伴いアフリカや南欧も、今後数十年以内に水界生態学的限界に達すると研究チームは予測している。

 英国の研究者らは今年、地下水の補充には長い年月を要するため、未来の世代は「環境の時限爆弾」に直面するとの研究結果を発表していた。【翻訳編集AFPBBNews】
〔AFP=時事〕(2019/10/04-11:43

 

【インドの深刻な水不足、5年以内に解決できなければ数億人が生命の危機に 2019/8/18

 ◆インド全土で深刻な水不足

ニューデリー(CNN) 総人口世界第2位のインドの水不足が深刻だ。

インド各地でおよそ1億人が、全国的な水危機の最前線に立たされている。インド国営のシンクタンク、インド行政委員会の2018年の報告書によると、インドの計21の主要都市の地下水が来年枯渇する見込みだという。

待望のモンスーンの雨が、予定より数週間遅れてやっと一部の場所で降ったばかりだが、この夏は熱波により100人以上が死亡している。

インドで供給される水の4割を占める地下水が年々減りつつある。他の水源も枯渇しつつあり、インド政府の中央水委員会(CWC)は今年6月、インド国内の貯水池の約3分の2で基準水位を下回っていると発表した。

◆21の主要都市の地下水が来年枯渇する見込みだ

ナレンドラ・モディ首相は最近、水資源管理を監督する「ジャル・シャクティ省」を創設し、さらに選挙公約として掲げた、2024年までに地方の全世帯にパイプで水を供給する計画を改めて表明した。

しかし、多くの人々はそれだけでは不十分と考えている。国連の人権に関する報告書によると、世界は壊滅的な干ばつ、飢餓、熱波に直面した際、富裕層しか基本的資源を購入できない、いわゆる「気候アパルトヘイト」の状態に急速に近づきつつあるという。

インドの一部の場所では、すでに災害が発生している。インド第6の都市チェンナイでは、水源である4つの貯水池がほぼ枯渇している。

同市では、政府の給水車から容器に水を入れるため、毎日数十万人の住民が列を作る。また病院や学校といった重要なサービスも運営に支障をきたしている。人々は毎日同じ汚れた水で皿を洗い、2~3本のボトルに入ったきれいな水は料理用に取っておく。

◆飲み水を求めて列を作る人々/R. Parthibhan/AP

今後水危機が拡大すれば、将来、インドのより多くの場所でこのような光景を目にすることになるだろう。インド行政委員会の報告書によると、すでに全国で6億人の人々が深刻な水不足に見舞われており、毎年20万人が飲料水不足あるいは安全ではない水を飲んで死亡しているという

また水が枯渇すると、国は、食料不足、猛暑の間の脆弱(ぜいじゃく)性、公衆衛生の悪化に起因する疾病、水をめぐる地域間紛争など、水に関連する諸問題に直面する恐れもある。

◆危機的状況の主要都市

インドの人口は、水の供給量を上回る勢いで増加している。

国連によると、インドは向こう10年以内に総人口で中国を抜き、世界で最も人口の多い国となり、さらに2050年までに都市居住者は4億1600万人増加するという。

インドでは長年、インフラ計画がほとんどないまま都市化が急速に進んだ結果、大半の都市は人口増のストレスに対処する態勢が整っていない。

国連の報告書によると、2030年までに水の需要は供給量の2倍に達し、数億人が生命の危機にさらされるという。

都市の湖や入り江は、侵食や環境の悪化により失われ、都市には大抵、使用可能な雨水を貯めておく場所がない。また雨水貯留システム、水の再利用・再生利用、廃水処理といった水を保全するためのインフラも限られている。

ベンガルール(バンガロール)やハイデラバードなどの都市では、水道水が枯渇して蛇口から水が出ないため、住民らは政府の緊急給水車に頼らざるを得ない。給水車による給水を取り仕切る「タンカー・マフィア」まで出現し、現場で誰がいくらで水を入手するか仕切っている。

チェンナイ・キルポーク地区のあるアパートは、毎日約1万5000ルピー(約2万2000円)を支払って容量2万4000リットルのタンク3基に給水している。しかし、このような高価な水は、低所得の家庭には手が届かない。

非営利組織ウォーターエイド・インドの最高経営責任者(CEO)、VKマドハヴァン氏は「水不足が及ぼす影響は人によって異なる」とし、さらに「(深刻な水不足でも)高価な水を買うだけの経済的余裕があれば対処可能だ」と付け加えた。

一方、民間の給水車や雨水を利用するシステムなどを利用できない低所得層は地下水にほとんど依存しており、水不足で最も打撃を受けることになる。

◆インドの水の未来

インドの各都市は危機に向かって一直線に突き進んでいるが、貯水が枯渇し、水道水の供給が止まるいわゆる「デイ・ゼロ」の到来はあるのか。

マドハヴァン氏は「恐らくそれはない」と言う。インド政府のジャル・シャクティ省創設は希望の光だが、「希望だけでは生き残れない」とマドハヴァン氏は付け加えた。

たとえデイ・ゼロは到来しなくても、インド各地で数百万人の生活の質が大幅に低下し、国の発展が停滞する可能性が高い。

人々の生活が困窮すれば、モディ首相が選挙公約として掲げた遠大な野望とは裏腹に、インドの発展は危機に瀕する。

清潔な飲み水が枯渇すれば、人々は安全でない水に頼らざるを得ない、とマドハヴァン氏は言う。そうなれば病気が蔓延(まんえん)し、死者の増加や乳児死亡率の上昇を招く。

また地方では多くの幼い少女らが学校に通えなくなる恐れがある、とマドハヴァン氏は指摘する。インドでは伝統的に水くみは少女らの仕事で、水不足になれば、数少ない給水所に行くために、今よりもはるかに長い距離を歩かなくてはならなくなる。

 そして、さらに危機が深刻化すれば、すでに人口過密で資源不足に陥っている都市に大量の人口が流入する恐れがある。

また、より多くの人々が少ない資源をめぐって争い、食料や水の価格が高騰すれば、貧富の格差がさらに拡大しかねない。

さらに国連の人権に関する報告書は、国民が自暴自棄になると、公民権、民主主義、法の支配も脅かされるとし、「社会が混乱すれば、人権が踏みにじられる恐れもある」と警告する

 インドが変わるまでに残された期間は5年、と専門家らは指摘する。インドは、回避不能の危機の被害を食い止めたいなら今こそ行動する必要がある。

 

18億人に迫る水不足リスク、インドでは暴動 企業活動に支障も  ブルームバーグ 2019/8/13

 17カ国に住む18億人近い人々に水の危機が迫っているようだ。つまり全世界で総人口の4分の1が今後数年のうちに深刻な水不足に見舞われる可能性がある。

 米ワシントンにある世界資源研究所(WRI)のアキダクト・ウオーター・リスク・アトラスが6日発表した分析によれば、17カ国のうち12カ国が中東・北アフリカだ。アジアではインドとパキスタン、中央アジアではトルクメニスタン、欧州はサンマリノ、アフリカ南部ではボツワナが脅かされている。

 水を巡るリスクのランキングで最も厳しいとされる1位となったのは、海水淡水化システムに水道水を大きく依存するカタールだ。

WRI調査による水不足リスク懸念17カ国において12カ国が中東・北アフリカに集中している(出展:World Resources Institute's Aqueduct Water Risk Atlas https://www.wri.org/

 インドでは南部にある人口710万人の都市、チェンナイが今年、熱波とモンスーンの遅れに見舞われた。幾つかの淡水湖が干上がり、抗議活動や暴動を招いた。企業活動も中断し、従業員に自宅で勤務するよう求めたテクノロジー企業もあった。

 WRIによると、水に関する極めて高いストレスを抱えた国は平年、入手可能な地表水・地下水の最大80%を使っており、小規模な雨不足でも深刻な影響をもたらしかねない。17カ国中13位のインドでは、残りの16カ国を合わせた全人口の3倍以上の人々が暮らしている。(ブルームバーグ)

 

【人類は「グローバルな水問題」に対処できるのか レスター・ブラウン 20190620日】

出典:岩波書店「世界」no.921  2019年6月号

訳・解説 枝廣淳子(大学院大学至善館教授)/Lester R. Brown

 ちょうどいま、本の仕上げにかかっている。タイトルは、『カウントダウン~水不足に陥りつつある世界』。
 水をめぐる状況にどう対処できるかは、この近代文明が直面する最大のチャレンジだ。本書は私がこれまでに書いてきた本の中でも、もっとも重要なものだ。世界がまだわかっていない状況を伝えるものだからだ。
 驚くべき状況だ。これまで局所的な水不足はあったが、全体としては水は足りていた。しかし今は、まったくこれまでとは異なる状況に陥りつつあるのだ。

■世界各地で進む砂漠化

 突然、中国が2億4,000万人を中国西部から東部へと移動させた。中国では砂漠が毎年、東へと広がっている。そのため、日本の人口の二倍もの人々が住む場所を移さざるを得なくなったのだ。「水移民」が大量に発生しているのだ。しかし、これはまだ始まりにすぎない。今後、状況は大きく悪化するだろう。

 イランでは、国土の70%が水不足で干上がってしまい、そのほぼすべてが耕作放棄地となっている。イランの国民は内陸部を中心とする残りの30%の地域に住まざるを得なくなっている。そして、40万人のイラン人が米国カリフォルニア州に移住している。移民として新しい国へやってくる人々は、以前住んでいたところと似たところに住もうとするが、米国ではカリフォルニアが母国に近いというわけだ。問題は、カリフォルニアの地下水位が下がりつつあることだ。カリフォルニア州の人口は、今ではカナダ一国よりも多い。カナダの人口は3,700万人なのに対して、カリフォルニア州には4,000万人が住んでいる。水へのプレッシャーが増大している。 

 21世紀は、水不足によって世界の形が変わっていく世紀になるだろう。それはすでに始まっている。中国やイランだけではない。エジプトでは、人口は増加の一途だが、同国が頼るナイル川の水量は減り続けている。ナイル川の上流に位置するエチオピアの人口は今やエジプトを上回るようになっており、スーダンの人口も増えつづけているからだ。エジプトの首都カイロは4,000年前から存在していた。ナイル川の水があったからだ。それなのに突如として、水が激減してしまった。その結果、エジプトでは自国民の食べる穀物が生産できなくなっており、輸入に頼るようになっている。

 スーダン北部は、水がなくなって人が住めなくなり、うち捨てられている。人々は南部に移動している。アフリカ西部の沿岸国モーリタニアも同じ状況だ。1億8,200万人の人口を抱えているナイジェリアでも、北部にある砂漠が南へと広がりつつあるが、止めることができない。

 世界の各地で砂漠化が進んでいる。そのペースは前例のないものだ。砂漠が広がっていくのに、止めることができていない。最も劇的な例は、冒頭に述べた中国だ。また、パキスタンに関しては、世界銀行と国連の両方が「パキスタンは国としてサバイバルできるかどうかわからない」と文書に記している。この国の人口は2億人を超えているというのに。

 カリフォルニア州もその一例だが、世界の各地で「ドミノ効果」が生じるようになるだろう。パキスタンのある地域で人々がその土地を捨てて出て行かなくてはならなくなれば、他の地域の水にかかるプレッシャーが大きくなる、という具合に。これほど深刻な状況なのに、世界に何が起こりつつあるかを理解している政治家はひとりもいない。

 残念なことに、砂漠化をとどめることに関しては、世界には手本となるような例がまったくない。どこも悪化の一途であり、趨勢を逆転させられた例が一つもないのだ。

 中国では毎年4,000平方マイル(約1万400平方キロ)の農地を失っている。植林をして農地を取り戻そうと懸命の努力をしてきているが、あまりにも砂漠化の力が強く、農地を失い続けている。中国北部にあるゴビ砂漠は年に2マイル(約3.2キロ)ずつ東へと、つまり、北京に向かって、広がりつつある。だれもそれをとどめることができずにいる。

 かつては、砂漠化の進行を止めることができる、と考えていた。いや、そう考えたいと思っていた。しかし、あまりにも圧倒的なすさまじい勢いに、有効な手が打てない状況なのだ。中国ですら砂漠化が止められないとしたら、他の国には到底無理だろう。

 こうして、地球の砂漠化が年々進んでいる。農地だったところが砂漠に飲まれてしまった土地の面積を足し合わせると、かなりの面積になってしまう。恐ろしい状況だ。

■枯渇しつつある世界の帯水層

 砂漠化の原因は、世界各地で地下水の過剰な汲み上げや川からの過剰な取水が行われていることだ。取水量は増加の一途なのだ。3億人ほどが住んでいるインドの北東部では、雨水などの地表の水が地下に浸透して地下水となる涵養(かんよう)量の15倍もの地下水を取水している。

 現在書いている本では、枯渇しつつある世界の帯水層7つを取り上げ、地下水の再補給ペースに比べて、どのくらいの速度で水を汲み上げているかを示す表を掲載している。米国のミシシッピ川からロッキー山脈にかけて広がるオガララ帯水層では、12倍だ。アラブ・中東は7倍ほどだ。アラブ諸国の穀物生産量は、この15年の間に32%も減少している。水が減っているせいだ。水がなければ穀物を育てることはできないのだ。

 自分が育ち、農業を行っていた米国東部のニュージャージー州でも、この数年間に地下水位が数フィート下がってしまった。沿岸部にある同州南部では、地下水位が低下したため、塩水が入り込むようになっている。ますます農地が損なわれてしまいかねない。

 この状況を続けていくことはできない。米国のオガララ帯水層は非常に大きな帯水層だが、おそらく今後25年ほどの間に空っぽになってしまうだろう。失ってしまう水の量は非常に大きい。


 世界各地の低下していく一方の地下水位を安定化させるためには、取水量の大きな削減が必要だが、政治的にそれが可能なのかわからない。それだからこそ、この水問題は非常に重要な問題なのだ。

 この本を書き始めてから、水を巡る状況がどれほど厳しいものになりつつあるかがわかってきた。世界は非常に難しい状況に直面しつつあるのだが、私たちにはまだそれがわかっていないのだ。

 水問題には、それぞれの地域で生じる「ローカルな問題」だという特徴がある。それぞれの地域で取り組むことはできる。だがこれまで、世界全体の状況はきちんと把握されてこなかった。農業に関してはFAO(国際連合食糧農業機関)があり、人口に関しては国連人口基金があり、健康に関してはWHO(世界保健機関)がある。しかし、水に関しては、それらに匹敵するものがない。世界中から水に関する情報とデータを集め、分析し、世の中に伝え、各国の政策に影響を与える組織がどこにもないのだ。

 「国連水機関」の創設を。これが本書の提言の一つだ。水問題とは「グローバルな問題」なのだ。多くの国が協力し、政治的に動かさなくてはならない問題なのだ。

■水問題と連動する食料問題

 これまでは、「世界の人口を安定化させなければならない」と言ってきた。現在世界の人口は毎年8,100万人ずつ増えている。しかし、人口の安定化だけではもはや足りない。なぜなら、現在の人口ですら、その取水量は限界を超えているからだ。必要なことは、世界人口を安定化させるだけではなく、「減らしていかなくてはならない」ということなのだ。これまでとは全く異なる事態である。途方もなく大きな難題だ。世界の人口増加を止めるだけでなく、人口を減らす必要があるというのはショッキングな話だ。中国はかつて人口調整の必要性に直面して、一人っ子政策をとったが、今や世界全体が人口を減らす必要性に直面しているのだ。

 さらに、近年新しい要因が出てきている。1950年代からずっと、米国は「世界の穀倉地帯」という役割を果たしてきた。毎年4億トンほどの穀物を生産し、世界の100カ国ほどに穀物を輸出しているのだ。しかし、このように穀物を輸出することで米国内の帯水層が枯渇しつつあるということがわかったら、どうなるだろうか? 輸出を続けていけば、どこかの段階で、米国民のための食料さえ作れなくなってしまうだろう。

 本書を書いている途中で、ほんの数週間前、この新しい側面に気がつき、私は身震いをした。そうなったときに米国はどうするだろうか?

 そのまま世界に穀物を提供する国として、自国の帯水層を枯渇させつづけるだろうか? おそらくそうではないだろう。そうなったら、米国からの穀物輸入に頼っている多くの国が――日本も含めて――大変な事態に陥るだろう。正確な計算をしたわけではないが、ざっと見たところ、米国の地下水位の低下を止めようと思うなら、穀物輸出量をゼロにしなくてはならないほど、過剰な取水に頼って農業を行っているのだ。

 私が1950年代に米国農務省で仕事を始めた頃、当時の目標はつねに「輸出を増やせ」だった。そうして、米国は世界中に穀物を供給する国となった。しかし、それを続けることはもはやできない。このまま国内の帯水層の枯渇が進んで、自国民の食料すら確保できないような状況に陥ってはならないからだ。ぞっとするような状況だ。しかし、変えていくのは簡単なことではないだろう。なぜなら、必要な変化は途方もなく大規模なものだからだ。

 世界の穀物生産量は、2017年をピークに、今後は減少していく可能性が高いと考えている。中国で2億4,000万人が移動したと述べたが、広大な農地を放棄したということだ。この人々はかつては自分たちの食べ物は自給できていたのだ。ところが突如として、この小さからぬ部分が消えてしまった。中国の穀物生産量は8%ほど減少したと推計している。イランも同じだ。水がなくなったため、農村から人がいなくなった地域がたくさんある。米国のミシシッピ川西側も同じ問題を抱えている。本当に深刻な問題なのだ。

 この趨勢を反転させられるようなものは見えていない。しかも、そのことについて多くの人々はまだよくわかっていない。グローバルなレベルで水問題を見ていないからだ。世界的には、「水問題」とはほとんどの場合、飲み水の水質の問題だった。しかし、ここへきて「どうやったら十分な水を得ることができるか?」という問題が急浮上してきたのだ。

 水の危機的状況はすでに目の前で刻々と進行している。世界の形が変わるほどの大きな問題なのだ。水に関する国際機関を創設し、各国政府、それぞれの地域、農業従事者、企業などの組織、そして一般家庭の一人ひとりが、一刻も早く状況を理解し、取り組みを進めなくてはならない。

【解説】

 水に恵まれた国・日本では、水問題への切迫感はそれほど強くない。しかし、世界には、「湯水のように使う」といえば、金銀や宝石のように扱うという意味になりそうな国や地域が多い。近年の温暖化によって、干ばつや山火事が広がっており、水不足の問題は世界各地で加速度的に深刻になりつつある。

 SDGs(国連の持続可能な開発目標)では17の目標を設定しているが、目標6「すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する」が真正面から水問題を取り上げているほか、目標13「気候変動」、目標15「陸上生態系、森林、砂漠化、生物多様性」も水と密接につながっている。また、目標2「飢餓、持続可能な農業」も水が基盤であり、そこから目標1「貧困」や目標3「健康」にも影響を及ぼす。目標7「エネルギー」、目標8「経済成長」、目標11「都市とまち」も水なしには考えられない。

 レスター・ブラウンは、このように各方面にとって重要な水が、地域レベルで不足しているだけでなく、全部足し合わせたときに地球規模で足りなくなっているという恐ろしい状況を伝えようとしている。そのようにグローバルな全体像を見て、全体として取り組む動きが足りない、と。食糧や温暖化に対して国連機関が設けられているように、「国連水機関」が必要だ、というレスターの訴えに真摯に耳を傾けるべきではないだろうか。

 また、想像を絶する数のシリア難民がEU諸国に殺到した事態は記憶に新しいが、これもシリアでの干ばつが引き起こした水不足が遠因の一つだと考えられており、水問題は世界全体の安全保障をも揺るがす問題ともなりうる。そして、「世界の穀倉地帯」である米国での深刻な水不足によって、米国から食糧を輸入できなくなるという可能性があるとの警鐘は、海外に食糧の多くを依存している日本に向けて鳴らされていることを忘れてはならない。(枝廣淳子)

 

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