日本郵政の迷走は「民営化」という構造改悪の結果
稲村公望氏(元日本郵政公社常務理事)は、郵政民営化をめぐって市民グループの学習会にも来てもらったことがある。今回の問題を「かんぽ不正に矮小化するな」と民営化そのものについて言及している。
【稲村公望氏 日本郵政の迷走は民営化という構造改悪の結果 日刊ゲンダイ 10/21】
ただし、稲村氏は「残念ながら論陣を張ってくれる議員は見当たらない」と嘆いているが、日本共産党は追及しつづけている。「巨額損失」は本質問題なのでアップしておく。
【稲村公望氏 日本郵政の迷走は民営化という構造改悪の結果 日刊ゲンダイ 10/21】
日本郵政グループが迷走している。かんぽ生命で、虚偽の説明による不正販売が大規模に行われ、同問題を追及したNHKに対して日本郵政が圧力をかけていたことも明らかになった。不祥事は郵政民営化がもたらした当然の帰結――。郵政行政の中枢にいた元官僚で元日本郵政公社常務理事の稲村公望氏が、顔を真っ赤にして「民営化見直し」を訴えた。
◇ ◇ ◇
■簡保と郵貯はセーフティーネットだった
――かんぽ生命の不正のニュースを聞いて、どう受け止めましたか。
やっぱりなと思いました。起こるべくして起こったなと。
――と言いますと。
メディアでは、過大なノルマや、国の信用を背景にした悪質手口といった現象面だけが報じられています。根っこにあるのは、郵政民営化という「構造改悪」が招いた結果だと思っています。
――2005年に小泉政権が郵政民営化法を成立させ、07年に「日本郵政グループ」が発足しました。
「官から民へ」との大合唱の下、郵便、簡易保険、郵便貯金が民営化されました。簡保と郵貯が保有する世界最大規模の国民資産を有効に使うという大義が掲げられていましたが、実際には、上場を通じて外資に郵政株を買わせることで資産を外国に投機的に持ち出し、利益を海外移転させることがもくろみだった。国民の資産を返還してからならば、どうしようと勝手ですが、公の財産を自分のモノにする私物化だったのです。
――そんな、よこしまな思惑から進められた事業が行き詰まっている。
郵貯は、民営化で銀行法の下に置かれましたが、無理筋です。銀行は査定能力があり、金を貸して、身ぐるみ剥がしても取り返すが、郵便局にはそんな力はない。そもそも金貸し銀行ではないのです。暗黙の政府保証の下、1000万円を限度にささやかに貯める。一種のセーフティーネットなんです。
――郵貯の預入限度額は1300万円に引き上げられて、今年4月からは2600万円へさらに引き上げられました。
バカなことをすると思いました。今は超低金利時代。どこの金融機関も運用に頭を抱えている。預金をありがたがっていない。そんなタイミングで限度額を増やしてどうするのか。
―――簡保はどうですか。
簡保を生命保険法の下に置いたのも間違いでした。大手生命保険会社とは成り立ちや哲学が全く違います。簡保はささやかな学資(教育費)や入院費、葬式の費用を賄うための保険です。入るのに診察は要らない。保険金は、葬式の現場に現金で持って行くのが原則。遺族から「お父さんこんなに貯めてたの」と感激され、現金を持参した郵便局員も感謝されました。
大地震の時には、借用証書は取るものの、面通しだけで、通帳やハンコがなくても現金を渡した。民営化後の東日本大震災では、緊急時の対処法すらまともに伝達されていませんでした。
――民営化で、銀行や生保と同列になった。
社会政策としての郵貯や簡保であれば、シャカリキに運用益を追求することも、郵便局員がノルマに追われて奔走することもなかったのです。能力もないのに無理やり普通の民間金融機関や生保と同じにしたため、大きなひずみが生まれた。その結果が、今回の大規模な不正ではないか。金融庁など当局の指導を受けた小手先の改善で改まるレベルの話ではない。
■かんぽ不正問題を矮小化するな
――経営陣をどう見ていますか。
二線級、三線級の「経営者」が来ている。カネ勘定ができて、エライさんにくっ付いただけの連中だ。日本をどうしようとか、地方をどうしようとか考えていないから、現場に足を運ぼうとしない。働く人をコストとしてしか考えず、非正規労働者を増やしてコストカットばかりやっている。
―――問題人事もあった。
2013年に、東芝元社長の西室泰三氏(故人)が日本郵政社長に抜擢された人事です。西室氏は東芝でウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニーの買収により巨額損失を出し、東芝を経営危機に陥らせた張本人です。日本郵政の社長に就任すると、将来展望のない株式上場を強行しました。15年には豪州の物流会社トール社を大盤振る舞いして買収したのに、2年も経たないうちに、4000億円を超える巨額の損失を計上することになった。
■株価低迷で外資の買収が容易に
――もともとは国民の財産です。金融当局や司法は動かないのですか。
巨万の国富が外国に流出したのは間違いないのですが、当局も司法も調査や捜査に重い腰を上げようとしません。政権に忖度しているのでしょう。
―――今回の不正もあり、郵政関連の株価は低迷続きです。
日本郵政公社時代にはトヨタ自動車に匹敵する利益を出していた優良国営企業は、西室社長の下、損益赤字の劣悪企業になってしまったのです。実は、それが狙いという面もある。
――どういうことですか。
西室社長は日本郵政とゆうちょ銀行、かんぽ生命の3社を急いで上場させました。資産のない郵便はなぜか上場されていません。どうでもいいのです。ゆうちょとかんぽの持つ莫大な資産を外資と共謀して強奪することが目的であったとすれば、株価は安い方がいいのです。外資が買収しやすくなりますからね。経営を改善させず、株価を低迷させる方が好都合なのです。
――背筋がゾッとしますね。日本郵政の迷走の原点は郵政民営化であることが見えてきましたが、世界の状況はどうですか。
世界で民営化に成功した郵政事業はありません。ドイツではいったん民営化されましたが、政府が外国勢力と通じた総裁を外為法で逮捕し、失脚させました。その後、郵便局の激減に歯止めをかけるため、政府の法的介入が続いています。
ニュージーランドでは、郵政民営化により貯金部門が外資に売られ利便性が損なわれた。そこで、キウイバンクという官業の貯蓄機関が創設されています。民営化信仰が強いオランダは大混乱が続いている。米国は国営で、民営化の声すら上がっていません。
――世界では失敗が続き、見直されている郵政民営化について、日本では見直し議論すら起こっていません。
郵政民営化から10年以上経ちました。今回の不正をはじめ、弊害も出てきています。郵政を民営化してよかったのかを検証し、立ち止まって見直す時期に来ています。ところが、郵政民営化についての国民の関心は高いのですが、マスコミでは議論されることもない。郵政の労働組合も郵便局長会も体制順応になり、声を上げなくなった。組合委員長を監査役に、局長会の会長を取締役にして、経営者側に取り込んだからです。
――郵政民営化は政治案件でした。しかし今や、郵政民営化自体の是非を問う動きは、与野党ともに見られません。
かつて、自民党には郵政民営化反対論者がたくさんいました。平沼赳夫、亀井静香は引退した。反対論者だった議員も何も言わなくなった。今の政権中枢にいるのは、郵政民営化を進めた共犯者ですから、波風立てることもないと考えているのでしょう。野党に期待したいが、残念ながら論陣を張ってくれる議員は見当たらない。それでも政治の責任なのだから、政治で修復する以外にありません。政治が議論して応急手当てでもする必要がある。
――臨時国会が開催されています。かんぽの不正やNHKへの圧力問題は国会でも扱われる。
問題を矮小化しないでほしい。コンプライアンスの欠如や経営者の責任といったレベルの話ではない。郵政民営化によって引き起こされた構造的な問題であるという認識で、郵政民営化自体についての議論をしてほしい。
――国民的議論が必要ですね。
今年は日本郵政を創業した前島密の没後100年の節目の年です。外国の拝金勢力の手先となったカラス天狗もどきの経営者に引導を渡し、平成の大失政を挽回すべく、3事業一体の国民主体の日本郵政を復活させてこそ、新たな令和の日本の国富を取り戻せると思っています。
【193-参-総務委員会-12号 平成29年05月11日 山下よしき 巨額損失計上】
○山下芳生君 日本共産党の山下芳生です。
四月二十五日、日本郵政は、六千二百億円を投じて買収したオーストラリアの物流企業トール社の業績不振によって、二〇一七年度三月期決算において約四千億円に上る巨額損失を計上すると発表いたしました。日本郵政の責任は重大だと言わなければなりません。
そこで、日本郵政の長門社長に伺いたいと思います。買収後僅か二年で業績不振になって巨額の損失を出した。これは余りにも見通しが甘かったのではないでしょうか。
○参考人(長門正貢君) お答え申し上げます。
二〇一七年三月期のトール社の営業利益でございますけれども、買収前と比べまして八割ダウン、二割まで悪化いたしました。
豪州国内物流事業の業績悪化の要因の一つとしては、資源価格の下落等による豪州経済の減速が挙げられます。豪州経済、都市部と鉱山地区の二極化が進んでおり、都市部の成長はプラスでございますけれども、都市部以外の鉱山地区は直近ではマイナス成長が続いております。トール社は、都市部のほか、鉱山地区を中心とした資源関連セクターに属する顧客及びそれらにサービスや部品等を供給している顧客に対して輸送サービス等を提供することによって収益を得ておりますが、その中でも鉱山地区の景気減速の影響を大きく受けているところでございます。
資源価格の推移を見ますと、二〇一四年頃から下落トレンドが始まっておりましたけれども、資源価格の下落がここまで深刻なものとなり、結果としてその後の豪州経済の小包や貨物の物流がここまで減少することまで見通すことはできませんでした。今から振り返ると当初の分析が甘く、結果として大きな損失を招くことになったことに対して重く、大変重く受け止めてございます。
今回の処理はトール社に関わる負の遺産を一掃するという大きな意味もあるものと認識しており、損益好転に向けた転機となるよう、あわせて、株主、関係者の皆様からの信頼回復を果たせるよう、業績回復に努めてまいる所存でございます。
○山下芳生君 先ほどから、結果として見通しが甘かったと、そういうふうに聞こえるんですが、私それは違うと思うんですよ。トール社が業績悪化する懸念は日本郵政が買収を発表したときから既に指摘されておりました。
当時、二〇一五年二月十八日、日本郵政の西室社長が買収を発表した会見でも記者の方からトール社の経営を心配する声が出されておりました。具体的にはこういう声です。折からの資源価格の市況悪化でトール社の資源関係の物流事業が弱含んでいる、オーストラリアの本業でのてこ入れが必要なのではないかなどなどであります。
それに対して西室当時社長はこう答えております。いろいろやっている中で、資源物流は一つの大きなトール社のメリットと言ってきたが、ここのところ資源価格の低下で打撃を受けているのは明らかに御指摘のとおりですと。要するに、単に資源価格が低下しているということだけではなくて、それによって資源物流が打撃を受けているのは明らかだということをもう認識していたと。それに続けて、西室社長はこう述べております。これについて私ども、どういう対策をやっているのかという話も含めて突っ込んで聞いた、現経営陣がそこで損が出るようなことはやらないようきちんと手は打っていますと確認もしておりますと、こう当時記者会見で述べているんですね。
要するに、資源物流が打撃を受けていることを認識していた、その対策をトール社に突っ込んで聞いた、そうしたらトール社は損が出ないようきちんと手を打っていると言っているということを確認した、ところが二年でこんなことになっちゃった、巨額の損失を計上しなければならなくなったということですから、私、これは当時、日本郵政がそういうことを懸念しながら突っ込んで聞いて大丈夫だというふうに判断したというわけですが、言葉は悪いですけど、日本郵政の目は節穴だったのかと言わざるを得ないんですが、この点の自覚、おありですか。
○参考人(長門正貢君) 当時でございますけれども、トールの時価総額が四千百億ぐらいございまして、仮に買収するとなりますと、いわゆるプレミアムを乗っけないと買えないと。プレミアム、通常のMアンドA業界で三割五分から六割ぐらいでございます。今回はたまたま五割弱でプレミアムを乗っけて六千二百億円という価格が決定いたしました。私ども、一人でこの判断をもちろんしたわけではございません。いろいろプロのコンサルタントを雇いまして、フィナンシャルアドバイザーも雇って、みんなで検討をして決断をした次第でございます。
確かに、その当時、原油価格が落ちている等々、エネルギー価格の方につきましては下落傾向一部見えましたけれども、一体どこまで落ちてどのぐらい続くのかというところについては必ずしもコンセンサスはなかったというふうに理解してございます。アドバイザーの方々についても、特にこれは相当危険であるというようなアドバイスは実は一件もいただいておりません。結果論として、非常に長く続き大きく落ちてしまったので、大変に甘かったと言われれば、今となってはそうだなと思っております。
トールの売上げの中で資源そのものに直に関わる部分というのは二割弱でございます。あとは、それに関わるいろんな物流が多くありまして、豪州全体の貢献度が売上げベース七割ぐらいになっておりますけれども、資源価格が落ちてどの程度物流業界全体にインパクトがあるのかということについて読み誤ったというふうに感じております。当初の分析は甘かったと言われればまさにそのとおりで、大変大きい経営責任があると感じてございます。
○山下芳生君 私は、結果としてとは言えないですね。ちゃんとそのことを見通すべきだったと言わざるを得ないと思います。
それから、単にトール社だけではなくて、専門家、研究者からも、国際物流市場は既に当時で、DHL、UPS、フェデックスなどのドイツやアメリカの企業によって分割されておって、今更日本郵政の出る幕はないという指摘もされておりました。そのことも指摘しておきたいと思います。
次に、長門社長にもう一点聞きます。買収費用の六千二百億円の原資は何なのかと。私はこれは国民の財産ではないかと思いますが、原資、説明してください。
○参考人(長門正貢君) お答え申し上げます。
トール社の買収に要した資金六千二百億円でございますけれども、これは日本郵便の手元キャッシュを使用して行ったものでございます。
○山下芳生君 私の聞いた説明とちょっと違うんですね。
二〇一五年十二月の株式上場に向けて日本郵政グループの中で資本再分配をやった、資本増強を行ったわけですね。日本郵政が一〇〇%保有するゆうちょ銀行の株式の自社買いをやったと、そこで得た一兆三千億円のうち六千億円を日本郵便の資本増強に充てたと、そこからこの六千二百億円が充てられたということは否めませんという私は日本郵政から説明聞いております。それ、否定するんですか。
○参考人(長門正貢君) 六千億円でございますけれども、十四年九月に増資をいたしまして日本郵便に六千億入ってまいりましたけれども、この資金は、日本郵便の経営基盤を強化するとともに、郵便・物流ネットワーク再編あるいは次世代郵便情報システムの開発等の成長のための投資を実施するために日本郵政株式会社を引受先として行ったものでございまして、トール社の買収を前提としたものではございません。
○山下芳生君 前提としたものではなくても、お金に色は付いていませんから、それ自身が買収にも充てられたというのは日本郵政から私説明聞いたんですよ、執行役の方から。それで、いずれにしても、このゆうちょ銀行の自社株買いによって日本郵政が得た資金も増資という形で今度の買収には回されていると。つまりは、公社時代の三事業によってつくられた国民の財産によって買収を行われたということになるわけですね。
長門社長、トール社の買収原資は国民が築き上げてきた財産だった、元々日本郵便だって国民の財産ですから。国民の財産が買収の原資だったという認識、ありますか。
○参考人(長門正貢君) 日本郵政、民営化がナショナルプロジェクトでございまして、国家のプロジェクトでございました。このままとどまっているわけにはいかず、成長していかなければいけないと。純資産十五兆円強ございまして、これをいかに有効に使って成長をしていって、株主の方々、市場、国民のお客様にお返しをするのかということで、効率的な投資方法を考えてございます。
その中の一つとして、日本郵便の方でほかの資金需要がございましたので増資をして六千億手にしたわけですけれども、たまたまそのときに、今から思えばちょっと金額が高かったかもしれません、ちょっとというか、金額が高かったかもしれませんけれども、これが将来の成長につながる一石であると経営判断をして実行した次第でございます。
結果的に日本郵政は今度減損になりまして、大変に申し訳ないと思っておりますけれども、成長のために有効に使おうと思った経営判断であったと認識してございます。
○山下芳生君 買収発表当時、西室社長は、国家の基本的に私どもがお預かりした財産を毀損しない、それを元に成長していける、そういう基盤をつくるのが私どもの一番大事な部分というふうにおっしゃっていました。甘い見通しによって国民からお預かりした財産を毀損した、これ、私は一般の株式会社のMアンドAの失敗とはこれは重みが違うと思います。株主の自己責任だというわけにはいかない、国民の財産が基盤だという重みがあるわけですね。
長門社長、もう一度、日本郵政の責任は極めて重大だと思いますが、その自覚、問いたいと思います。
○参考人(長門正貢君) 私どもまだ上場して、一昨年十一月四日上場いたしまして、まだ二割弱しかマーケットに株が出ておりません。お国が八割以上持っている会社でございますので、その点十分に留意して今後も経営戦略を練っていきたいと思っております。
今般の減損でございますけれども、大変申し訳ないと思っておりますけれども、十八年間、これからのれんの償却期間、毎年二百億円強の償却をしていく方がいいのか、今一気に減損させていただいて、日本郵便の体を少し軽くさせていただいて、時間を買わせていただいて、これからの十八年間でこの四千億をむしろ返すと、その方がトータルな経済性が良くなるというような可能性もあると思っております。今、この機会をいただいて、十八年間の時間をいただいたと考えております。是非とも、本来やるべき経営戦略をきちっとやって、そのコストをお返ししたいというふうに考えてございます。
○山下芳生君 今の後半は、四千億円の穴を空けてしまったけれども穴をどう埋めるかという決意であって、穴を空けたこと自体の私は責任が重大だと言わなければなりません。
今回の巨額損失計上によって、郵政で働く労働者にも負担が押し付けられるのではないかとの不安が職場で広がっております。利用者からお叱りを受けるとか、JPエクスプレスが破綻したときのようにまたボーナスがカットされるのではないかなどの声を聞きました。
今回の巨額損失の責任はひとえに経営陣にあります。決して労働者にしわ寄せしてはならないと考えますが、社長の認識、いかがでしょうか。
○参考人(長門正貢君) そのように考えております。
今回の狙いは、日本のみならず、これから将来の成長を、グローバルな成長を取り込むというために一石、石を打ったというのがトール買収の目的でございました。その方向感については引き続き重要な方向感であると思っておりますし、引き続きトールを使って海外展開を進めてまいりたいと思っておりますが、最初の価格が高かったためにこのような減損になった次第です。ここについて、これはしかし、いっときで終わる措置でございまして、今後引きずるものはございません。それから、キャッシュフローが今回出ていくわけでもございません。利益剰余金、資本勘定も非常に厚くまだございます。
したがいまして、委員おっしゃったとおり、経営、そこのジャッジメントをしたという経営責任が経営層にあるのであって、従業員の方にはないと思っておりますので、従業員の方に対してそういうような種類の負担を求めるということはしないつもりでございます。
○山下芳生君 次に、今回の巨額損失計上と郵政民営化の関係について問いたいと思います。
長門社長、そもそもなぜ日本郵便会社が国際物流事業に乗り出す必要があったんでしょうか。
○参考人(長門正貢君) 日本郵便、御案内のとおり、郵便がどんどんどんどん、僅か二%程度ではありますけれども、毎年落ちていくと、インターネット等々の商界もあってですね。で、日本全体の経済も、御案内のとおり人口も落ちていくということでございますので、日本だけにとどまっていたのではあしたはない、あしたはないというか、厳しいあしたになってしまうのではないかというふうに考えまして、これから海外の成長も取り込まなければ、むしろユニバーサルサービス等の我々に課された国内での義務すらきちんとできないこともあり得ると、業務の多角化、収益の多様化、そういうものも図って成長しなければいけないと思っておりまして、海外展開を考えた次第でございます。この方向感については間違っていないと思っております。
一つの例でございますけれども、海外の物流業界、いろいろございますけれども、一つ成功していると思われているものにドイツ・ポスト、ございます。彼ら、二〇〇〇年から十年掛けて百以上のMアンドAを二・五兆円掛けてやりました。その中にたまたま、委員おっしゃいましたDHLが入っていたこともあって、現状は少なくとも最もバランスのいい物流業界として業界ではリスペクトされてございます。
私ども、言葉で言うほど簡単だとは思っておりませんけれども、日本は日本できっちりとやってまいりますけれども、海外の成長についても取り込むチャンスをフォローしていきたい、チャレンジしていきたいと思っております。
○山下芳生君 私、本業を忘れちゃ駄目だと思うんですよ。郵便のユニバーサルサービス、これを国民にあまねく提供するというのが日本郵便の一番の事業なんですね。別に国際的に物流に手を出してくれと国民は思っていないんですよ、それは。
そこで、もう時間がなくなってきたので。西室社長も買収発表当時、こういうやり取りしているんですね。記者さんから、ユニバーサルサービスを続けていくためにもこういう新しい試みで収益を出していく必要があるということですか、ええ、そう思うと。
これはちょっと先ほど長門社長がおっしゃったこととかぶるんですけれども、ユニバーサルサービスを維持していくためにも新たな試みで収益を上げる必要があるということなんですが、要するに、いろんなことをやらなければならないと、多角経営しなければならないということだと思うんですけど、しかし私、多角経営と言うんだったら、公社以前の郵便、貯金、保険、この三事業一体経営こそ最も合理的な多角経営だったのではないかと、こう思うわけですね。一円の税金の投入もなく、三事業のユニバーサルサービスを提供しておりました。職員の給与もその中から賄っておりました。黒字経営をしておりました。さらに、その上、郵政公社時代には合わせて九千億円もの国庫納付金まで納めていたわけです。
私は、ユニークですけれども世界で最も優れたビジネスモデルだと、改正郵政民営化法のときに自見当時郵政大臣に申し上げたことがありますが、その三事業一体経営をあえてばらばらにしたために日本郵便が独自に郵便のユニバーサル事業を維持しなければならなくなった、長門社長、ここに日本郵便が全く未経験の国際物流事業など新たな試みで収益を出す必要が生じた根本要因があるのではないかと思いますが、この点、いかがでしょうか。
○参考人(長門正貢君) 企業、組織でございますので、ユニバーサルサービスはきちんとやらなければいけない、そういう義務があります。大事な大事な仕事でございますので、もちろんきちんとやらせていただきますけれども、あらゆる組織は、現状に安寧するのではなくて、機会があれば成長の機会をフォローしていく、チャレンジしていくというのは当然だと思います。
国内だけでとどまっていて明るいあしたが保証されるのであれば、もちろんそれはそれでいいんですけれども、それも矛盾しない範囲で海外の機会を取り込むチャンスがあるのであれば果敢に目指すべきと思っております。一般論で言っても、日本だけにいればいいんだという形には経営層の意思決定としてはならないと考えてございます。
○山下芳生君 これ、郵政公社時代までは国際物流に手を出すことはできませんでした。そういうことになっておりました、できないようにですね。それが、この郵政民営化によって国際物流に手を出すことができるようになった。また、出さなければユニバーサルサービスが維持できないという要因もあったでしょう。
高市大臣に伺いますが、日本郵政、日本郵便が国際物流に乗り出す際の二〇一五年度の事業計画は、これ、総務大臣が認可しております。先ほど郵政行政部長は、事業計画認可は個々の事業を取り出して認可するものではないと。私は驚きましたよ。だったら何のための認可なんだと、認可はするけど責任は持たないのかというふうに感じたんですが、もうこれ時間ないので問いません。
私が総務大臣に聞きたいのは、三事業一体だった郵政事業をあえてばらばらにした、背景には、もう言うまでもなく、日米金融資本が三百兆円に上るゆうちょ、かんぽの国民資産を明け渡せと迫ってきたということが背景にあるわけですが、この三事業一体をばらばらにしたために日本郵便が、これはユニバーサルサービスの義務付けは新しい民営化法でも日本郵便、日本郵政に義務付けられているわけですね。しかし、ゆうちょ、かんぽは切り離された。したがって、ユニバーサルサービスを維持するための選択肢がぐっと狭められた。そこに私は、国際物流にあえて、経験もないのにリスクを冒して、しかも危ないんじゃないかという指摘もあるのに乗り出していかざるを得なかった根本原因があると、こう考えるべきだと思いますが、総務大臣、いかがですか。
○国務大臣(高市早苗君) 郵政民営化法におきましては、郵政民営化は、経営の自主性、創造性及び効率性を高めるとともに公正かつ自由な競争を促進し、多様で良質なサービスの提供を通じた国民の利便の向上を図るということを基本理念としております。ですから、こうした理念を踏まえて、今回のトール社の買収と減損損失処理の判断についても日本郵政グループが適切に経営判断されたものだと思っております。ユニバーサルサービスの提供につきましても、現時点で日本郵政及び日本郵便からユニバーサルサービスの提供に影響はないと聞いております。
私は、これ、郵政民営化が原因で例えば今回のトール社の減損処理という事態に至ったとは思っておりません。今回、長門社長の思い切った決断によりまして減損処理されたことによって、やはり当初の目的、トール社を買収するということを判断された当初の目的をしっかりと達成していただきたいと、徹底的な経営改革をして、また収益につなげていただきたいなと、こう希望いたしております。
○山下芳生君 そういう認識でいいのかと率直に思いました。
長門社長、先ほど、負のレガシーを打ち切り、攻めの経営のスタートラインに立つんだと、会見でもこう述べておられますが、率直に言いまして、そんな保証どこにあるんだろうと。
西室社長が買収発表当時の会見で、私ども日本郵便というのは、配送については長年の経験からノウハウがあるが、サードパーティーロジスティクス、要するに物流や運送の業務請負ですね、この分野については日本市場においても知識も経験も少ないというのが現状です。ましていわんや、グローバル市場におけるサードパーティーロジスティクス、国際物流業務についてはほとんど経験もないんだと。だから、今回、トール社を買収してそのノウハウを学ぶんだと言って買収したんですよ。
ところが、学ぶどころか、逆にこんな、二年で巨額損失を出すようになっちゃった、尻拭いしなければならなくなっちゃったわけですよ。それを、攻めの経営に転換するんだ、これから収益上げていくんだと言ったって、国際物流のノウハウはないんですから、日本郵政には。これ、どうやって乗り出すんですか。全く保証ないじゃないですか。
○参考人(長門正貢君) 何回も申し上げておりますんですが、最初の計算が大変甘かったということについては本当に深く重く受け止めてございますけれども、私ども、成長を目指すときに、例えばですけれども、車産業の車を買うとか電機産業の子会社を買うとかいうのではなくて、郵便事業、物流事業をやっておりますので、これに近いところを当然ながら目指したつもりでございます。全く関係ない産業のところに初めて行ったというような未経験なところではございません。ある自分たちのテリトリーに似たところで、たまたまぴったり自分のノウハウと一致しないからといって、経験がないからやらないと言っていたのでは新しい経営はできないと感じております。近いところで、しかもチャンスがあると思ったのであれば、是非チャレンジする可能性は経営として考えたいと思ってございます。
何回も申し上げますけれども、当初の価格の読みが非常に甘かったことについては大変重く受け止めてございます。
○山下芳生君 もう時間も参りましたので締めますけれども、二万四千の郵便局のネットワークを最も生かせる多角経営は私は貯金と保険だと思いますよ、郵便局のネットワークを生かしてね。それをばらばらにして、ユニバーサルサービスに今からチャレンジするんだ、世界に乗り出すんだといったって、失敗しているわけですからね。それよりも三事業一体でしっかりユニバーサルサービスを提供できる基盤を維持する方が大事だと、そのことを改めて見直すべきだということを申し上げて、またやりましょう。
終わります。
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